最速で終わらせる男、禪院直哉   作:げこくじょー

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評価・感想・ここ好き等いただき、誠にありがとうございます。

先週は投稿して二日くらい日間ランキングに入っていてびっくりしました。やはり愛されキャラですね、直哉は。


フラグをへし折ろうとする男

「……直哉。アレはどう見る?」

 

「どう見るって……グロいとしか言えへんな」

 

「造形の話じゃないよ……」

 

とある病院内にある旧病棟の廊下。

 

T字型の通路の角から顔だけ出して、相手の姿を確認して、俺は思わず顔を顰める。

 

異様に長い腕と足。全身を血で染め、顔を覆うほどの長い髪の毛を伸ばした女のようなそれは、時折金切り声を上げながら、廊下を四つん這いに歩いている。

 

それだけでも十分気持ち悪いが、俺がグロいと言ったのは、歩くのに使っている手とは別に、背中から生えた四本の腕が引き摺っている肉塊の方。

 

ぐちゃぐちゃになり、もはや原型など留めていない肉の塊は耐性のない人間が見れば、その場で吐いている。

 

ちなみに引き摺られているのは傑くんが様子見でけしかけた三級呪霊。今回の任務は準二級相当の呪霊の討伐なのでボコられて当然なのだが。

 

「あれって別にしぶといタイプの呪霊とちゃうよな?」

 

「ああ。だが、あの状態でまだ祓われていない」

 

「ちゅーことは術式やな。十中八九」

 

等級よりも上の呪霊と出くわす。こういうことはたまにあり、呪術師の死因の一つとなっている。

 

等級が違う呪霊と出くわす理由として、『窓』が確認した時は術式を使用した痕跡が見られなかったパターン。後から別の呪霊が発生したパターン。任務を受けて現地に行くまでの間、もしくは戦闘中に呪霊が成長するパターン。

 

今回は一つ目か、三つ目のどちらか。事前の情報では術式使用の痕跡はなかったし、背中からは二本しか腕が生えていなかったはずだ。

 

「私で『祓える』か?」

 

「キツいな。最低でも準一級以上は確定、向こうの術式の種もわからんし。ここは僕が行くんが妥当やろ。なんかあった時はーー」

 

「即時撤退。安全が確保でき次第、救援要請だろ。わかっているさ」

 

「OK。んじゃ、ちょっと相手してくるわ。傑くんは一応他に呪霊がおらんか警戒しといて」

 

「わかった」

 

俺は通路の角から躍り出ると、そのまま術式を使用して、一気に懐に飛び込むと、呪霊の足の部分に触れる。

 

呪霊はフィルムのようなものに変化する。そこへ間髪入れずに拳を叩き込むと、呪霊はそのまま吹っ飛び、壁へ激突し、その場で崩れ落ちる。

 

効いている。ただ、今の一撃では祓えていない。事実、呪霊は消滅せずに倒れ込んでいるだけだ。

 

「猿芝居はええねん。さっさと本気で来いや」

 

こちらの言葉に呪霊がびくん、と跳ねる。すると先ほどまで引き摺っていた呪霊が、腕の中に吸い込まれていく。

 

その直後、呪霊の背中からさらに二本。腕が生えてきた。呪力も微弱ではあるが上がっている。

 

「なるほど。そういう術式(やつ)な」

 

蓄積されていくのか、一時的な強化か、いずれにせよ、これはさっさと祓っておかないと面倒なタイプだ。

 

呪霊は俺を認識すると、先ほどのように金切り声を上げながら、こちらに向かって突進してくる。

 

深夜の病院。全身血塗れの長い黒髪の女が奇声を上げながら四つん這いで突っ込んでくる。シチュエーション的にはトラウマものだ。

 

背中の腕が俺に向けて伸びてくる。捕まったら最後残った腕でタコ殴り。呪力で肉体を強化しても無事では済まないだろう。

 

「まぁ、捕まらんのやけど」

 

伸びてきた腕を掻い潜り、呪霊の眼前に迫ると顔を思い切り蹴り上げる。

 

「まだまだ」

 

宙に浮いた呪霊の足を掴んで引き寄せ、胴体に数発ほど拳を叩き込み、最後に床に叩きつける。

 

呪霊はぴくぴくと痙攣しているが、消滅する気配はない。

 

「思いの外、しぶといんやね。僕もそっちの方が都合ええからありがたいんやけど……傑くん。もう出てきてもええで」

 

そう言うと、低級呪霊で周囲を警戒しながら、傑くんはこちらに駆け足で来る。

 

「これ、取り込めそう?」

 

「……ああ。これだけ弱っていれば、取り込めると思うよ」

 

傑くんが呪霊に手を向けると、呪霊はその形を変え、手に吸い込まれるように集まっていき、手のひらサイズの球となった。

 

それを傑くんは口に入れ一息で飲み込む。

 

「これで任務達成。お疲れさん」

 

「…………ふぅ。ああ、お疲れさま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いね。私の任務に付き合わせてしまって」

 

「気にせんでええで。同級生やけど、呪術師としては僕の方が先輩や。ナンボでも頼って」

 

「私としては年下を囮にしているようで心苦しいんだけどね」

 

「そこは割り切っていこうや。傑くんの場合、等級もせやけど術式が術式やから、誰かと組むんはおかしなことやないで」

 

入学して半年。

 

呪霊発生のピークも過ぎた頃、俺は傑くんと一緒に任務を受けていることが多い。

 

最初の出会いもあるだろうが、理由としては主に二つ。

 

一つは傑くんが単独任務可能な等級でないこと。

 

当然と言えば当然のことで、傑くんは一般家庭出身の人間であり、呪霊操術(レアな術式)持ちでも、四級からのスタートだった。

 

まぁ、この辺については近々解決する予定だ。この夏でかなりの任務をこなしたことで、二級への昇級任務も決まっているからだ。たった半年で二級まで昇級。今のペースと原作のことを考えても、来年の春には最低でも準一級にはなっているはずだ。流石は未来の特級と言ったところだろう。

 

もう一つは、呪霊操術は取り込むために弱らせる必要があること。

 

呪霊操術の強みとも言える手数。それを増やすためにはまず呪霊を取り込む必要がある。

 

その主な条件は取り込むまで弱らせるか、術師との階級換算で自分よりも二つ以上の下の呪霊であること。

 

そうなると、必然的に取り込む呪霊は術者が倒せる範囲内に限られる上、相手次第では手持ちの呪霊が相手にならず、術者本人が倒さなければならない状態に陥る。

 

同等の相手ならなんとかなるかもしれないが、仮に格上と当たった場合、取り込むのも祓うのも厳しい。他の術式なら相性次第でなんとかなるが、今の傑くんの手持ちに術式持ちの呪霊はいない。必然的に肉弾戦を強いられる。

 

そして今の傑くん本人の実力では、その差は埋められない。これも当然というか、去年まではただの一般人。術式はおろか、呪力もろくに使った事がなかった人間だ。本人曰く、有事の時に必要(・・・・・・・)とのことで鍛えていたらしいが、それも一般人の域を出ない。

 

呪具があれば、多少の力の差はなんとかなるが、借りるためには色々手続きが必要。

 

ついでに言えば、原作で言及されていたように、呪具頼りになって呪力操作が疎かになってもいけない。

 

その辺を手っ取り早く解決するために、俺が同行している状態だ。これでも一級内定済みの準一級術師だからね。

 

後は、同級生だからとかその辺の配慮。

 

とはいえ、おんぶに抱っこではなんの意味もない。あくまで面倒な相手の時だけ。基本的には監督役のようなものだ。

 

今回は相手が事前に知らされていた等級より上の呪霊ーー術式持ち(準一級相当)だったため、介入したわけだ。

 

「良い術式とは言われているけど、正直あまり実感は湧かないね。結局のところ、私では雑魚狩りが関の山だろう」

 

「今のところはな。傑くんの術式が真価を発揮するんは、今回みたいな術式持ちの呪霊ーー準一級以上の呪霊が手札に入ってきてからや。そしたら、自分の術式がどんだけ凄いかすぐわかるわ。それこそ僕のなんか比べ物にならんで」

 

そう。手札さえ揃えば呪霊操術の基本戦術である『準一級以上の呪霊でゴリ押し』ができる。一部の化け物クラスには通じない手だが、大抵の相手はそれで封殺できる。

 

「そうかい? 私としてはキミの方が凄いと思うけどね。投射呪法……だったかな。あれだけの速度で動きながら、相手の動きも制限できる。殆どの相手はサンドバッグと同じだろう?」

 

「ケースバイケースってとこやな。弾幕張ってくるようなタイプとか罠張ってくるタイプの術式相手やと迂闊に加速できんし、範囲攻撃できる相手やと諸共吹き飛ばされる。おまけ悟くんみたいに触れん相手からしたら小蝿が飛んでるのと変わらん」

 

強いことには強いが相手と状況を選ぶ。

 

どの術式にも言えるが、投射呪法はそれがより顕著だと思う。

 

俺はその辺りが当面の課題と言える。特に後々闘う可能性が高い伏黒甚爾に至っては投射呪法の最高速度すら見切られる可能性が高い。なにかしら、殴る蹴る以外の方法でダメージを与える術を身につけておかないと。

 

理想的なのは領域展開だが……そう簡単に出来たら苦労はない。

 

「まぁ、この話はこれぐらいにしとこうか。俺も傑くんも今日の任務はこれで終いやし、なんか甘いもんでも食べに行こか。傑くんも口直し(・・・)したいやろ? それとも食欲湧かん?」

 

そう聞くと、傑くんは苦笑する。

 

「いや、正直この夏でだいぶ慣れてきたんだ。重たいものじゃなければなんでもいけるよ」

 

「それやったら良かった。ちょうど行きたいところがあってん。そこ行こうや」

 

「ははっ。てっきり、気を遣ってくれているのかと思ったけど、直哉がそこに行きたかっただけじゃないのかい?」

 

「あ、バレた? やっぱ、ああいう店って一人やったら入りづらいやん」

 

呪霊操術で呪霊を取り込む時のあの球。

 

あれが吐瀉物を処理したような雑巾の味がするーー通称ゲロ雑巾であることは傑から聞いている。というか、最初に組んで任務に行った時に俺から聞いた。

 

闇堕ちそのものの決定打でなかったにしても、あれが夏油傑の精神を削っていたのは確かだし、それを本人が誰にも話していなかったのも、裏目に出ていた。

 

そう考えると、聞かないわけにはいかなかった。

 

なんとか美味くなる方法はないかと話した時もあったが、『そもそも吐瀉物になにを混ぜても不味くなる事はあっても、美味くなることはない』という当然の結論に至った。

 

なので、こうして二人で任務が終わった後は、買い食いするなり、外食するなりにして口直しをして終わるようにしている。

 

「……初めて会った時もそう思ったが」

 

「?」

 

「なんというか、キミは普通だな、直哉」

 

「ごめん。言うてることがようわからんのやけど」

 

唐突にそんなことを言われて、はてと首をかしげる。おかしいとか、変わってるとかは禪院家(向こう)で言われ慣れているが、『普通』なんて言われたのは直哉になってから初めての経験だ。

 

「つい半年前まで非呪術師だった私が言うのもなんだが、直哉。キミは『呪術師』らしくない。どちらかと言うと、『非呪術師』に近い感性を持っていると思ってね」

 

「でも、僕、御三家の人間やで?」

 

「その同じ御三家出身の悟が『変人』なんて言っていたんだ。御三家の間でも『禪院の次期当主は変わり者』だと噂になっているともね」

 

反面教師として成長してきたつもりだったが、それでも十年弱も過ごしてきた。どこかに必ず『呪術師』としての常識、固定観念が出来てしまっていると思っていた。

 

「腑に落ちたよ。『呪術師』の間に『非呪術師』のような人間が混じっていれば、異端に見えるだろう。だから私や硝子のようにそうでなかった人間が親近感を覚える」

 

「褒めてくれとるって事でええんよな?」

 

「少なくとも、私はそのつもりだよ。私たちが守るべき相手が『非呪術師』である以上、彼らの気持ちを理解し、寄り添えるのは『呪術師』として、必要な能力だと思っている……悟は『そんなこと考えても意味ないし、無駄に疲れるだけだろ』なんて言っていたけれどね」

 

「あー、うん。悟くんはそう言うやろね」

 

弱い奴のことなんて考えてたらキリがない。悟くんが以前そう言っていたことを思い出す。

 

『呪術師』、『非呪術師』を問わず、悟くんからすれば、弱者ばかりだ。下を見ればキリがないし、『自分より弱い者を全部守らなければ』なんて考えていたら、生きるのに疲れる。

 

悟くんが弱者を気にしないというスタンスでいるのは疲れない生き方とも取れる。ある意味、『呪術師』としては正しい在り方だ

 

……本人がそこまで深く考えているかは知らないが。

 

「僕やって、あんま大層なこと考えとるわけとちゃうで? 僕は守りたいもんを守っとるだけやし、呪霊を祓うんも、呪詛師をしばくんも、なーんも関係あらへん人らを食いもんにするんが気に食わんからや」

 

呪術師は性格に難がある奴が多いとは言うが、それ以上に呪詛師は性格が悪い。当たり前だ。一般人が持たない力で一般人をボコボコにするのを生業、もしくは生き甲斐にしているような連中だ。

 

呪霊は言わずもがな。善悪の区別もなければ、『呪術師』か『非呪術師』かは関係ない。殺したいから殺す。たったそれだけ。

 

そんな奴らが真っ当に生きている人たちを、人並みの幸福を得ている人たちを害している。それが気に入らないし、胸糞が悪い。だから俺は両方ぶちのめす。

 

もしも、相対した呪詛師が、吉野順平のように復讐心から『非呪術師』に報復を行う人間であったなら、多分俺はその行為を肯定するだろう。

 

「それで良いんだよ、直哉。キミはそのままでいてくれ。弱者生存。正しき社会を守っていく(維持する)には、正しく呪術()を使い、弱きを助け、強きを挫く。これから先もーー」

 

「ストップ! ちょいストップや傑くん。そういう激重感情向けるんやめてえや! 友だちからそんな目ぇ向けられとったら、やり(づろ)うて敵わんわ!」

 

「すまない。そういうつもりではなくて……つまるところ、私はキミの呪術師としての在り方を尊敬していると言いたかっただけなんだ。別にああしろ、こうしろと言いたかったわけじゃない」

 

「それやったらええけど……さっきみたいなんはやめとき。拗らせた時の反動が洒落にならんで」

 

「ははっ、そうならないように気をつけるよ」

 

冗談を聞き流すかのように傑くんは笑うが、後の事を知っているからこそ、全然笑えない。

 

こればかりは生来のものだろうが、良くも悪くも極端すぎる。考え方というか、生き方にあまりにも余裕がない。

 

闇堕ちはなんとしてでも回避させたいが……これは一朝一夕でどうにかなるものじゃなさそうだ、そう改めて実感させられた。

 




オリジナル呪霊のイメージはサイコブレイクの『ラウラ』です。
作者は造形的にああいうのが死ぬほど苦手なので、ビビりながら参考にしました。

それと執筆中個人的に思ったのは『夏油って入学してから一級呪術師になるの早過ぎでは!?』です。
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