最速で終わらせる男、禪院直哉   作:げこくじょー

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 ご感想・ここ好き等ありがとうございます。

 投稿するのが遅れてすみません。どのキャラとの話を書くか決めかねていました。

 また、今回から文章の初めに段落をつけるようにしました。これまでの話については後ほど修正します。


色んな意味で可愛がられる男

 

「あら、直哉じゃない」

 

 任務が終わり、高専に帰ると、向かいから歩いてくる二人の女性がいた。

 

 片や巫女服を着た長い黒髪の女性。片や黒いスーツを着た銀髪ポニーテールの女性。

 

 そのどちらにも見覚えがある。

 

「歌姫さんと冥冥さんやないですか。お久しぶりです」

 

 庵歌姫。冥冥。

 

 原作では準レギュラーの様なポジションであり、話の要所で絡んでくる人物だ。特に後者は渋谷事変までは前線で活躍しており、特級呪霊も祓っている。

 

 どちらも俺が知る限りでは敵対したことも内通していた事実もない。前者は生徒思いで、いざという時は命懸けで生徒を守る良くも悪くも人情派。後者は金を払えばなんでもするというグレーゾーンでありながら、呪詛師認定されていない。味方とは言い切れないが、敵にはならないというビジネスパートナーに持ってこいの相手。

 

 なにより、両者共に原作で五条悟に協力していたという点で信頼できる。

 

「久しぶり。任務終わりかい?」

 

「はい。お二人の方はこれから?」

 

「そう。冥冥さんと一緒にね」

 

「ほな相手は、準一級から一級ちゅーことですよね。余計な心配かもしれませんけど、気ぃつけてくださいね」

 

 そう言うと、歌姫さんは俺の隣まで近づいてくると、肩に手を回して、俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。

 

「御三家出身なのに、あのクソ生意気グラサンに比べて、あんたは本ッ当に良い子よねっ!」

 

「褒めて、もらえるん、は、嬉しいんですけど」

 

 子ども扱いをされているような、優しく乱暴な撫で方。褒められるのは嬉しいが、こういう褒められ方はちょっと恥ずかしい。なんか犬っぽいというか。

 

 かと言って振り払うわけにもいかないし、うーん。

 

「歌姫。禪院くんが困っているよ。そこまでにしておいた方がいいんじゃないかい」

 

 冥冥さんに言われて、歌姫さんは撫でるのをやめて、俺から離れる。

 

「ごめんごめん。あの馬鹿に会った後だとあんたがあまりにも可愛くて、つい」

 

「あの馬鹿……ああ、悟くんと会ったんです?」

 

 聞くと、露骨に不機嫌そうな表情になり、大きなため息を吐く。

 

「偶々ね。どうせ話したっていいことないし、そのまま無視してやろうかと思ってたら『任務気をつけなよ、間違っても冥さんの足引っ張らないように』とか言ってくんのよっ!? 上から目線も大概ムカつくけど、敬語使えってなんべん言わせる気じゃ、ゴルァ!」

 

 徐々に早口になっていき、最後には怒りが頂点に達した歌姫さんの慟哭が人気のない高専内に響き渡る。

 

 まぁ、歌姫さんのストレスの根源が悟くん(たまに傑くんも)なのは原作で知っているし、こっちでも悟くんと会うたびにこんな感じにぶち切れるので、この怒りの咆哮にもすっかり慣れてしまっていた。

 

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはよく言ったもので。俺も最初は男子かつ、同じ御三家の人間ということで、誤解されて敵意剥き出しで見られていた。

 

 とはいえ、そんな誤解も最初のうちだけ。普通に先輩として接していたら、あっさり気を許してくれた。なんなら悟くんの反動がこっちに来ているのか、硝子ちゃんに次いでめちゃくちゃ甘い。一緒に任務に行った時とか昼飯奢ってくれたし。

 

 悪い気はしないが……やはり精神年齢的には年下の相手に猫可愛がりされるのは、ちょっと複雑な気分だ。

 

「そういえば、一級に昇級したそうだね。おめでとう」

 

「それもこれも推薦してくれた冥冥さんたちのお蔭です」

 

「謙遜することはない。私たちはキミが一級呪術師クラスの実力を持っていると判断して推薦しただけに過ぎないからね」

 

「後は未来への先行投資っちゅーとこですか?」

 

「五条もそうだが、禪院とパイプを作っておいて損はないからね。なにかあれば、私に依頼するといい。金さえ払ってくれれば、大体のオーダーには応えるよ」

 

「そん時は頼りにさせてもらいます」

 

 金さえ払えばなんでもする、というのは聞こえは悪いが、裏を返せば揺るぎない価値観を持っているということ。依頼する側として、これほど信頼できるものはないだろう。

 

「さて、そろそろ時間だ。行こうか、歌姫」

 

「はい。呼び止めて悪かったわね、直哉。また今度、硝子も連れて昇格祝いにご飯食べに行きましょ」

 

「そうですね。また今度」

 

 悟くんはともかく、傑くんも誘わないあたり、やっぱり仲は良くないらしい。まぁ、傑くんが善人なのは間違いないが、言い方がね。本人に悪気はないんだろうが、そのせいで若干損している様な気がする。

 

「あ、そういえば。歌姫さん、さっき悟くんと()うたって言うてはりましたよね。暇そうでした?」

 

「さあ? でも、忙しそうにしてなかったと思うけど、五条に何か用事?」

 

「いや、大したことやないんです。ただ、暇やったら、ちょっと付き()うてもらおう思て」

 

 

 

 

 

 

 

 

「また? 私も暇じゃないんだけど」

 

「いやー、僕も暇人っちゅーわけやないんやけど……」

 

「任務は無傷で終わらせておいて、その後わざわざ五条にボコられて、私のところに来る様なやつが暇人じゃないって?」

 

「えーと、別にボコられるつもりがあるわけとちゃうんやで? ただ、悟くんが手加減下手くそやから毎度こんなことになっとるだけで」

 

「そもそも、手加減抜きって言い出したの、禪院でしょ。自業自得じゃん」

 

「それはそうやけど……あー、わかったわかったって。今、硝子ちゃんが吸ってるやつ、一カートン買うから。この腕なんとかして」

 

「はぁ……腕、出して」

 

 袖を捲って、今もズキズキと痛む腕を硝子ちゃんに差し出す。

 

 硝子ちゃんは俺の腕に触れるとーー徐に掴んだだだだだだっ!?

 

「ちょいちょいちょいちょいっ! 硝子ちゃん! 痛い! めちゃくちゃ痛いねんけど! なにすんの!?」

 

「触診」

 

「毎度思うけど、そんな患部悪化させる様な触診ある? 子どもやったら失神しとるで」

 

「私はまだ免許取ってないし、そこまで詳しいわけでもないの。大体、反転術式で治療できるって言っても今の私じゃ、酷い怪我は治せないんだから。軽いか重いかの確認は必要でしょ」

 

「触診でそのライン超えそうやったんやけど……で、どうやった? いけそう?」

 

「腫れ方的に折れてるかと思ったけど、多分折れてはいない。せいぜい、罅が入ってるぐらいだから、私でも余裕そう」

 

「ほな、頼むわ」

 

「待った。腕以外も怪我してるんじゃないの」

 

「そやね」

 

 それはもうボコボコにされたから、全身めちゃくちゃ痛い。その中でも一番痛かったのが、さっき見せた腕というだけで、同じ様な痛さは至る箇所にある。

 

「だったら、そこも調べさせて。一番酷いの基準で反転術式回すから」

 

「それはええんやけど、また触診受けなあかん?」

 

「我慢しなよ。五条に殴られるよりは痛くないでしょ」

 

「それもそうやね」

 

 大して変わらないが、悟くんに殴られた時の方が痛い。それに硝子ちゃんにお願いする手前、あまりぐずると、治療してくれなくなりそうだ。

 

 しかたない。俺も男だ。禪院家にいた時も怪我をしてなかった時の方が少なかった。痛いものは痛いが慣れてる。潔く我慢しよう。

 

 そうして触診という名の拷問じみた確認作業が始まる。

 

 あれだな。やっぱり痛いのがわかっているのに、そこを触られて『痛い?』って訊かれるの辛いな。向こうも真剣だから怒りようがないし、ひたすら我慢して答えるしかない。

 

「一通り調べてみたけど、私でなんとかなりそう。ただ、臓器とか神経系はわからないから、反転術式で治した後も違和感があるようなら言って。続けるから」

 

「了解。ほな、お願い」

 

 硝子ちゃんがこちらに向けて手をかざすと、全身が温かな光に包まれる。それと同時に痛みが和らいでいく。

 

 反転術式。

 

 (マイナス)のエネルギーである呪力同士を掛け合わせ、(プラス)のエネルギーに変換。肉体の治療を行うことができる。

 

 ただし、これを行うには極めて繊細な呪力操作の才能が要求される。それを他人の治療、ないし攻撃に利用するにはさらに高度な才能が求められ、あの完成後の五条悟でさえも自分以外には使えなかった。

 

 そして、その五条悟が反転術式を使えるようになったのも、伏黒甚爾に殺されかけたことがキッカケ。それまでは使えなかった。

 

 なにを持ち得ないのだ、とさえ言われたあの五条悟が死の淵に立ってようやく出来る様になった高等技術。あわよくば俺も、と思っているものの、今のところ成功した試しはない。

 

「はい、お終い。どう?」

 

「んー……いけそうやね」

 

 立ち上がり、硝子ちゃんから少し距離を取って身体を動かしてみる。手を開いたり閉じたりしたり、手足をぷらぷらとさせてみたり、肩を回したりしてみるが、痛みは全くない。俺の知覚できる範囲では全快している。

 

「ごめん、硝子ちゃん。面倒かけて」

 

「そう思うんなら、ちょっとは反省しなよ。さっきも言ったけど、私は暇じゃないんだから」

 

「それはうん。前向きに検討させてもらうっていうか、善処させてもらうっていうか……あ、報酬の煙草はまた今度持ってくるから、僕はこれでーー」

 

「待った」

 

 そそくさと退散しようとしたところを呼び止められる。

 

 硝子ちゃんはポケットから煙草の箱を取り出すとそこから一本取り出して、口に咥え、火をつける。

 

 深呼吸でもするかのように大きく吸って、脱力しながら煙を吐くと、咥えていた煙草を右手の人差し指と中指で挟んでとり、椅子に座ったまま、俺に問うてくる。

 

「禪院さ。なんで毎回五条にボコられるのわかってるのに、本気で試合やろうとか言うわけ? M?」

 

「Mちゃうけど……ほら、手っ取り早く強うなろう思ったら、自分より強い相手と(たたこ)うた方がええやん?」

 

「それで五条? 人選どうにかなんなかったの?」

 

「しゃあないやん。先輩方とはなかなか都合合わへんし、先生方引っ張り出すわけにもいかへん。迷惑かかるし。その点、悟くんは僕より強うて先輩方より都合つきやすい。後、変な気ぃ遣わんでええし」

 

 それになんだかんだ言っても、悟くんはこっちが本気だったら、ちゃんと本気で相手をしてくれる。任務よりズタボロになるものの、こっちもそれを承知の上でやっている。

 

 結果として硝子ちゃんに負担をかけてしまっているのが申し訳ないが、そこは貢物(主に煙草)を献上することで手打ちにしてもらっている。

 

「今でも十分強いじゃん。そんなになりたいの? 特級」

 

「なりたい思てなれるもんとちゃうけど、僕はなりたいと思うとるで」

 

 いつぞや口にした目標。

 

 それは『特級呪術師』になること。

 

 特級呪術師になると言っても、そもそも特級は普通の等級とは異なる枠組みにあるもの。

 

 強さのみで決まるのではなく、術式も含めて、その呪術師が呪術界の勢力図へどれほど影響を与えるのかで決まる……とされている。ゆえに特級とは味方からも異端視されている存在であるとも言え、上層部からは呪霊以上に危険視される。

 

 文字通りの規格外。現時点では九十九由基一人しかいないものの、その中にはいずれ悟くんと傑くんが行く。

 

 五条悟に比肩する呪術師になる。

 

 そう啖呵を切った以上、俺も目指すべきは特級呪術師だ。肩書きに固執する気はないが、目に見えて並んだと思わせられるのは、やはり同じ肩書きを持つことだろう。

 

 なんなら悟くんや傑くんより先に特級呪術師になってやろうとも考えている。それぐらいの気概がないと置いていかれる。

 

「それって、毎回五条にボコられてまで、すぐにならないと駄目なわけ? それとも御三家のしきたりかなんか?」

 

「? そんなことはあらへんけど……どしたん、急に」

 

 必要以上に相手のプライバシーに踏み込もうとしない硝子ちゃんにしては踏み込んだ質問だ。それに言葉が刺々しい。さっきの文句とは別の、叱られているような感覚に近い。

 

「夏油が言ってたよ。禪院は自分を追い込みすぎてる。生き急いでるって」

 

「……硝子ちゃんにもそう見える?」

 

「見えるよ。だから聞いてんの」

 

「そんなつもりはないんやけど……まぁ、見えとるって言うとるんやから、そうなんやろうなぁ」

 

「他人の決めた生き方に口をつっこむつもりないけど、次会う時は死体になってるなんて勘弁してよ」

 

 自分の命を軽視したことは一度もない。死なないために強くなろうとしているのだから、その逆とすら言える。

 

 特級を目指しているのも、無茶な鍛え方をしているのも、フラグを折っているのも、行き着く先は自分が生きるため。

 

 もちろん、これまでの行い全てがそうだったとは言わないが、それでも自分の『生』を度外視したことはなかった。

 

 それが結果として、傑くんや硝子ちゃんには『生き急いでいる』ように見えたのだろう。俺の修行に文句を言いながらも付き合ってくれている悟くんも、言わないだけでずっとそう思っていたのかもしれない。

 

 笑えない話だ。これから先起こる事をなんとかしようってやつが、不安の種になるなんて。俺のせいで原作よりも酷い結果になりでもしたらマジで洒落にならない。

 

「……そやね。気ぃつけるわ。心配かけて、ごめん」

 

「二人はともかく、私は別に禪院の心配してるわけじゃないよ。煙草(これ)が不味くなるのは嫌ってだけ」

 

「こういう時くらい普通に心配してくれてもええのに」

 

「してもしょうがないでしょ。呪術師なんてやってたら」

 

「ははっ、そらそうやね」

 

 硝子ちゃんのドライな発言に思わず笑ってしまうが、これはこれで呪術師としては正しい考え方だ。いつ死ぬかもわからない環境に身を置く人間を心配しても、キリがない。気疲れして、精神を擦り減らしていくだけだ。

 

 気にしてもしょうがないから気にしない。

 

 これぐらい割り切れる性格の方が呪術師には向いている。少なくとも、一人で擦り切れることはないんだから。

 

 とはいえ、かれこれ十年。

 

 多少反面教師にしていたとはいえ、呪術師の家庭で過ごしてきてなお、このメンタルなわけだ。

 

 今更矯正するのは難しいと思うが、硝子ちゃんの考え方は見習っていきたい。

 

 内心感心していると、不意に硝子ちゃんが煙草の箱をこっちに突き出してくる。

 

「……吸う?」

 

「いや、僕未成年やし……まぁ、それ言うたら硝子ちゃんも同じなんやけど……」

 

 俺の視線を、硝子ちゃんは煙草を欲しがっていると解釈したらしい。取りやすいように一本だけ飛び出た状態で差し出された箱をそっと押し返す。

 

「買いに行ってる時点で同じようなもんでしょ。禪院って、変なところで真面目だよね」

 

「僕はいつも真面目やで」

 

「はいはい。真面目真面目」

 

 適当な返事をしながら、硝子ちゃんは煙草を消して、さっき俺に差し出した煙草を箱から取り出す。

 

「言いたいことは全部言ったけど、禪院はまだなんかある?」

 

「いや、なんもないよ」

 

「じゃあ、解散ってことで」

 

「了解。色々ありがと、硝子ちゃん」

 

 そう言って今度こそ、俺は硝子ちゃんの部屋から退散していく。

 

 怪我の治療はともかく、カウンセリングまでさせてしまった。

 

 これは煙草以外にもお礼は必要だな、なんて考えながら、俺は自分の部屋へと帰った。




 硝子は過去と現在まで話し方とかが結構変わってるので、落とし込むのに苦労しました。もしかしたら違うと思われる方もいると思いますがご容赦ください。

 また、今回女性キャラとのやり取りだけでしたので、念のため補足を記載させていただきます。本編とはあまり関わらない設定かもしれませんが、勘違いされるな方もいるかもしれませんので念のためです。
 補足事項:女性陣から見た直哉への評価
・歌姫
 乙骨に対する評価と同じようなモノ。大体五条が原因。五条に会った後で直哉に会うと反動でめちゃくちゃ可愛がる。部活動の先輩後輩みたいなもの。
・冥冥
 禪院家の次期当主なのでコネ作り。それ以上それ以下でもない。人間性は特に気にしていない。
・硝子
 五条、夏油よりはマトモ。それはそれとしてやっぱりイカれているという認識。同期で年下ということもあり、直哉相手にはたまに年長者っぽい振る舞いをする。

 以上、三人からの評価はこんな感じです。恋愛感情等についてはありません。呪術廻戦ですし、恋愛をお求めの方はいませんよね(多分)

後、二、三話で原作過去編突入くらいの予定です。あんまり長くてもしかたありませんが、ある程度交流も書いておかないと、後の展開が突拍子もないものになるので。
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