テテテーテテイオー   作:haguruma03

5 / 6
テテテーテテイオー

1、

 

真っ白な天井が見える

 

いや…本当に天井なんてあるのだろうか?

壁も床も天井も真っ白であるがゆえに、そこに天井が存在するのか怪しく見えてくる。

どこまでも白さしか映らない光景を見ながらボクはボンヤリと白い部屋の床で寝転んでいた。

 

 

やっぱりというか予想通り、勝負が始まるとこの部屋に戻ってきてしまった。

だが予想通りだとはいえ残念であることは変わりない。

 

これは夢だ。

夢であるのなら、ボクが会話した3人の僕たちはボクの脳が作り出した妄想の産物である。

 

でも、ボクは彼女たちがボクの妄想の産物だなんて一ミリも思えなかった。

 

そういえば、パパやママにウマ娘には時折、こういった不思議な体験をすることがあると聞いたことがある。

 

あの時は話半分に聞いてたけど、どうやら本当にあったらしい。

びっくりだね

 

 

そんなことを思い出しながらボクは体を起こした。

 

すでに最初にあった3つの扉は存在しない。

だけど3つの扉があった壁と反対側の壁に新たな扉が出現していた。

 

 

なんとなくわかる。

あれは出口だ。

 

ボクはぐいっと伸びをして、ゆっくりと出口の扉に近づいた。

 

あの3つの扉と同じ形の扉。

これを開けるとこの夢は終わり、現実がやってくる。

すぐにでも開けて、ママやパパ達を安心させないといけない…のは分かるのだけど……

 

絶対ママとパパ怒ってるよねぇ…

 

それを考えるとちょっと気分が重くなる。

 

心配性のママとパパだ。

ボクが起きたあと、泣いて喜ぶけど、ひと段落したら絶対に叱るのは目に見えている。

 

今回の件は、だいたい思い出したから分かるけれど、ママもパパも怒髪天なのは当然だ。

普段あまり怒らないパパが怒ると怖いし、今回のママは現役時代のプレッシャーをボクにぶつけながら怒ってくるだろう。

 

それが当然で、結局のところ自業自得なのは理解しているけど、気が重くなって扉を開ける動きが鈍くなるのは許してほしい…

 

はぁ…

なんて軽いため息をつきながらボクはドアノブに手をかけて……

 

「…ありゃ?」

 

そこで1つのことに気がついた

 

この出口の扉はあの3つの扉と同じ形の扉だ。

だけどこの扉のプレートには、3つの扉と違って文字が書かれていなかった。

つまり白紙のプレートであったのだ。

 

まだ、何も書かれていない真っ白なプレート。

 

つまりこの扉は、まだ『専属』も『湿度』も『スピカ』も、何者も書かれていない扉ということだ。

 

やっぱり、ボクの未来はまだまだ定まっていないらしい。

それは怖くもあるが、嬉しくもある。

ボクはまだ夢を駆けれるのだ。

 

「う〜む......?あ、そうだ!」

 

 

ボクはいい事を思いついた

 

それは最初きた時は失敗した行動。

だけれど、今のボクはあの時と違って完全に意識は覚醒して記憶を思い出している。

だから、今度は失敗しない。

トウカイテイオー様は二度失敗しないのだ!

ふふんとボクは胸をはり、おもむろに指をパチンと鳴らした。

 

すると、白紙のプレートに文字が浮かび上がる。

 

「これでよし!!」

 

 

浮かび上がった文字は

『専属』でも『湿度』でも『スピカ』でもない一つの名前

 

『トウカイテイオー』

 

ボクがこれからどうなるかはわからない。

でも、何があろうとも、何があっても大丈夫だ

今のボクは言うなれば初期状態、『プロトタイプ』だ。

『プロトタイプ』であるがゆえに、今から何者にでもなれる。

 

『専属』の僕はボクに共にかける人の大事さと無敵の三冠バの勇姿を見せてくれた。

『湿度』の僕はボクに共にいる人の大事さと夢が終わっても歩いていける姿を見せてくれた。

『スピカ』の僕はどこまでも諦めない姿勢とボク達の夢の原点を思い出させてくれた。

 

なら、ボクはどうする?

『専属』のように『湿度』のように『スピカ』のようになる?

 

…それは違う。

ボクはボクだ。

僕とボクは同じ夢を共有するボクだけど、ボクじゃない。

あの3人がそれぞれ違ったように、ボクもボクだけの道を走って、夢へと突き進む。

 

そして…あのボク達に負けない『トウカイテイオー』になってやるんだ!!!

 

 

ボクはそんな、新しい夢を抱えて扉を開け放った。

 

 

 

 

2,

 

「ある所に一人のウマ娘がいた

その少女は物心つき始めた小さな頃、テレビに映された一人のウマ娘を見たことで彼女の運命は決まった。

 

『レジェンドウマ娘の歴史』という名の番組で映された過去のレース。

そのレースの勝利を勝ち取った一人のレジェンドウマ娘の走りは、少女の心を虜にした。

力強く圧倒的な強さ、全てを魅了するような走りをする、自分と少し様子が似たそのウマ娘のことが知りたくて少女は熱心にその番組を見たが、まだ幼い少女には漢字の使われた番組テロップを読むことも、難しい話をする解説者の言葉もイマイチ理解することもできなかった。

だから彼女はリビングで書類仕事をしていた母に聞いた

「ママ!!!このキラキラしていて、とってもキレイなおんなのこだれ!?」

問われた母親は目をパチクリし、テレビを見て誰のことを言っているのか確認すると、恥ずかしそうに娘に告げた

「この子は『皇帝』で『生徒会長』だよ」

その時の母親は、キラキラとした瞳を向ける娘が照れ臭かったのかもしれない。だから少し外した説明をしたのだろう。

その結果、彼女にとってそのレジェンドウマ娘、『コウテイ』=『カイチョー』となった

まぁ、すぐに父親が、『皇帝』について熱く盛大に語り、過去の学園の行事や私生活を余すことなく撮影したビデオを持ってきたことで少女は『カイチョー』の正体を知り、母親は茹で蛸のように真っ赤になったわけだが。

 

そんなわけで少女は憧れの先も夢も『カイチョー』になり、努力した。

引退したとはいえ母親を導いたトレーナーであった父に指導してもらい、優秀なウマ娘であった母からも様々なことを教わった。

少女は走るのが好きだった。休日は母の勤めるトレセン学園によく遊びに行き、誰も練習場にいない時間、トレセン学園の職員である母にお願いして一緒に練習場を走ったりした。

誕生日にもらった、シューズやトレセン学園のジャージは未だに少女の宝物だ。

 

そんな少女の姿は多くの現役トレーナーの目に留まり、入学前から少女は多くのトレーナーたちにスカウトされていた。

 

少女には才能があった、環境も良かった、努力を続けられる強い心もあった。

だが運がなかった。

不運は起こるもので、トレセン学園入学数日前に少女は事故にあってしまったのだ。

事故後病院で告げられた重度の骨折。それは少女の心にヒビを入れるには十分であった。

 

だがそれで折れるほど少女は弱くない。

なんとかトレセン学園の入学式に出席した。

 

でも彼女の心は常に上の空だった。

現生徒会長の祝辞の言葉を聞いても、思い出すのはビデオでみた『カイチョー』の姿。

 

そして未来のライバルとなる同級生たちは皆、全快状態の少女と良い勝負ができそうなほど鍛えられており、そして目標を目指して瞳を煌めかせているウマ娘ばかりであった。

 

少女は気がつけば式は終わり寮に来ており、同室となった子とおしゃべりをしてその日は床に就いた。

 

だが少女は眠れなかった。

未来のことが、このまま夢を叶えることができるのかが不安で眠ることができなかった。今の自分で同級生たちに勝てるか不安であった。

だからなのか、寮からこっそり彼女は外出し、夜の学園をランニングし始めた。

 

少女は、この不安を走って吹き飛ばしたかった。

だから彼女は走った、なれない道を、灯りのない夜道を、骨折した足を引きずってランニングしたのだ。

 

そんな条件が整い、それに不運が加わるとどうなるか。

あとは言わずもがな。

 

数十分後少女は噴水の前で倒れていた。

彼女が足の痛みを感じながら最後に見たのは。三女神の像。

助けて…と最後に少女はつぶやき、ゆっくりと目を閉じた。

 

だが次に彼女が目を開けた時、彼女は不思議な夢の中にいたのだ。

そうその夢こそ、無敵のトウカイテイオーの始まりである!!!!!」

 

 

「テイオーちゃん、テイオーちゃん、マヤその喋り方、テイオーちゃんに全くあっていないと思うよ」

 

「うぇ…」

 

「有名な人の自伝を語るみたいにしゃべるのはいいけれど、それを語るテイオーちゃんにまだそんな威厳を感じないから微妙かな〜ってマヤは思うな〜」

 

「ぇ〜…」

 

怒涛のように繰り出されたマヤノの意見にボクはうなだれてしまう。

 

ボクが病院に運び込まれてから数ヶ月、雲ひとつない晴天の日、いつものように病室でリハビリメニューをこなしていると、マヤノがお見舞いに来てくれた。

一旦リハビリを休憩してマヤノとおしゃべりをしていると、マヤノがボクについて知りたいと言って来てくれたので話をして見たら、格好良さげに語ったボクの語り口にどうやらマヤノはご不満のようだった。

 

だとしてもさ、微妙ってそこまで言わなくてもいいじゃないか…

ボクは無敵のテイオー様(予定)だぞぉ…

 

そんな考えを胸中に抱きながら、ウジウジしていると、マヤノがまた口を開いた。

 

「テイオーちゃんに威厳がまだない事は置いておいて」

 

「おいておかないでよ」

 

「それよりも、その不思議な夢って?」

 

マヤノがボクの言葉を無視しながらワクワクした表情をボクに向けてくる。

あそこまでボクが自信満々に語った『夢』のことが気になるのだろう。

 

ボクはそんなマヤノに対してニヤリと笑った。

 

「それはもう、すっごい夢なんだ」

 

 

あの夢を見てから数ヶ月。ボクはまだデビューできていなかった。

多分今年は無理だと思う。デビューは来年だ。

本当なら、ボクの体の「本格化」が始まった今デビューするのがベストだったんだけど、今年はリハビリで精一杯だ。

 

ボクの足は日常生活に支障が出なくなるぐらいまで回復して来た。だけれど、レースに出られるまでは全然回復していない。それにレースに出られるまで回復したとしても、前のようなスタイルで、速さで走る事は不可能だろうってお医者さんが言っていた。

それはボクだけじゃなくて、ママやパパ、それにトレセン学園の多くのトレーナーや生徒が知っている。

入学式の日に救急車で運ばれるというインパクトのある事をしたわけだからそれは当然だし、噂もされる。

よく生徒からは哀れみの視線を向けられたりするし、それに入学する前、ボクが事故に遭う前までスカウトに来ていたトレーナーたちが一切来なくなった。

 

周りの人がよく言っている。おそらく来年デビューしたとしても、無敗や三冠どころか一勝も難しいだろうって。

 

そんなのボクが一番わかってる。

でもだからって諦めるつもりは一切ない。

 

レースの厳しさや、過酷さ、残酷さを知っているママやパパから、無敵の三冠バ、『皇帝』のような戦績になれる可能性は限りなく低い事を泣きそうな目で告げてきた事は今でも覚えている。

 

確かにそうかもしれない、でもそう告げられた時、ボクはママたちに宣言した。

 

「ボクは諦めないよ」

「たとえこの怪我が長引いても、無敗になれなくても、三冠バになれなくても、なかなか勝てなくても、ぜ~ったいに諦めない」

「ボクは諦めず走り続ける。そしたらそんなボクを見て、誰かが僕に夢を見てくれるかもしれない」

「ボクはそんな誰かに夢を見せられるウマ娘になるのが夢なんだ。だって…」

 

「それがボクにとっての『皇帝』だから。」

 

その宣言を聞いた時、ママたちは驚いた顔をした

そりゃあそうだ、ボクはずっと無敵の三冠バになるとしか言ってなかったからね。

突然そんな事を言ったらびっくりするに違いない。

 

まぁ結局最後、ママ達は前と同じ、ボクの夢を応援してくれた。

ありがとうと何回言っても足りないぐらい感謝してる。

 

「ねぇねぇ、テイオーちゃん。すごい夢じゃわからないからもっと詳しく教えてよー!」

 

マヤノが頬を膨らませてむくれている。

ボクはそんな可愛らしいマヤノを見てクスリと笑った

 

 

「あー!!またテイオーちゃん大人っぽい表情してるー!」

 

「…え!?本当!?ボクそんなに大人っぽい!?」

 

「…またちびっ子テイオーちゃんに戻っちゃった」

 

「なんだとぉ!誰がちびっ子テイオーだ!」

 

ボクはそう言ってマヤノとじゃれ合う。

 

すると病室の扉がガラリと開いた。

扉を開けて入ってきたのは二人、

ボクのママと………ボクのトレーナー。

 

「ねー!!聞いてよテイオーちゃんのママとトレーナーちゃん!」

 

そう言ってマヤノが二人に駆け寄って行く。

 

 

そう、トレーナー。ボクの担当トレーナーだ。

あの日、三女神の像の前で倒れていたボクを最初に見つけて病院まで運んでくれた人。

入院した後もよくボクのお見舞いにきてくれて、話し相手になってくれるだけじゃなくて、リハビリメニューも作ってくれた人だ。

そして、そんな入院状態のボクをスカウトしてくれた変人でもある。

 

まだトレーナーになったばかりの新人なのに、自分で言うのもあれだけど、よくこんな育成ウルトラハードの今のボクをスカウトしたものだと思うし、変な人だなとよく思っている。

でも、ボクの夢を信じ応援して共に歩んでくれるこの人をボクは信用していた。

 

…この気持ちがあの夢で見た、僕達が抱いていた気持ちなのかもしれない。

 

そんなボクのトレーナーはボクの傍に座った。

ちなみにママはマヤノを叱っている。どうやらマヤノは学校をサボってここにきたようだ。

よくそんな状態で、トレセン学園で働いているママに駆け寄れたねマヤノ……

 

そんなマヤノにボクが呆れた視線を向けていると、トレーナーがボクに話しかけてきた。

なになに…ほぅほぅ、トレーナーもマヤノと一緒でボクが見た夢を聞いてみたいんだ。

 

そこまで言うならしょうがない!

このテイオー様が語ってしんぜよう!!

 

ボクはふふんと自慢げに胸を張る。

 

そんなボクを見て、お説教から逃げ出したマヤノが興味津々に戻ってきて、それを追ってママも近寄ってくる。

 

 

思い出すのは夢で出てきた3人の僕

あの3人には信念があった。

『トウカイテイオー』を遂行する強い心の柱があった。

だからあんなに強くなれたんだ。

 

あの3人は、ボクの憧れで、目標で、

 

そして越えるべき壁なのだ。

 

 

さて、どこから話そうか

 

あの3人のトウカイテイオーの話を…

 

 

 

 

 

<完…?>

 

 

 

 

 

 

 




*蛇足

「…え?」

「ん?どうしたのママ?まだ話し始めたばかりだけど」

「いや、何でもないんだテイオー」

「え〜、本当?」

「本当だよ。ささ、続きを教えてくれないかい?」

「ん〜……あ、マヤわかっちゃった!!テイオーちゃんのママも同じ夢を見たことあるでしょ!」

「えぇ!本当!?」

「あ、いや、その…」

「ボク聞きたい!一体どんな扉があったの!?」

「マヤも聞きた〜い!」

「あ〜…それは…」

「……」

「……」

「…………『ションボリ』『駄洒落』『アイススケート』」

「…え?」

「『ションボリ』『駄洒落』『アイススケート』だよ…テイオー……」

「……」

「……」

「……」

「……えっと、なにそれ?」


この世には理解できないハジけた事柄が存在する。
それがボクの今日の教訓だった。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。