スライムですが、なにか?   作:転生したい人A

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R1 悪夢と怪物

 エルロー大迷宮の上層、発行する鉱物の僅かな光源しかない洞窟をランタンや松明を持った集団が進んでいた。

 

「ブイリムス、ちょっと休まんかぁ」

「さっき休憩したばかりではありませんか」

 

 迷宮の異変に対処するために帝国から派遣された儂らを率いるブイリムスに提案するが、却下される。

 

「もう1時間前じゃ」

「たった1時間前です」

「あいたたたぁ。昨日痛めた右足がぁ」

 

 儂の言葉にブイリムスは呆れた顔でため息をついて返してくる。

 

「昨日は左足を痛めたと言っておられましたが?」

「え!?」

「行きますよ」

 

 前を向いて進み始めたブイリムスに説得を続ける。

 

「そんな急がなくてもいいだろうに、やっぱあれか?早く帰って生まれたばかりの我が子の顔がみたいんか?」

「そういうわけでは」

「あ、それにあれか、かみさんにも会いたいか?」

「ロナント様!?」

 

 儂の言葉に周りの兵士や案内人は声を潜めて笑っている。

 兵士達の前で身内の話をされたからか、我慢が出来ずに怒鳴ってくる。

 

「そう怒るでないわい」

「もう少し緊張感をお持ちください!我々に命じられたのはただの探索ではありません!」

 

 ブイリムスは鋭い目つきで語気を強めて続ける。

 

「最近、このエルロー大迷宮内の多くの魔物がその生息域を離れ、出入り口に押し寄せてきているため大陸の危険度が増している。原因はおそらく、いくつかの冒険者のパーティの報告にある蜘蛛の魔物と謎の不定形の怪物。その危険度はAもしくは最悪のSランク」

 

 事前にブイリムスから聞いた説明を思い返す。

 

 一目見ただけで全滅を覚悟しなければならないほどの脅威を感じたという幼体と大して変わらぬ大きさの蜘蛛の魔物と液状の金属のような体をした不定形の怪物。

 二匹は敵対するでもなく一緒に行動するところを目撃されているが、常に一緒というわけではないようで別行動する時も多いようだ。

 不定形の怪物は目撃情報が少なく、その異様な見た目以外の情報がない。

 それに対して蜘蛛の魔物は奇妙な噂が流れていた。

 エルロー大迷宮には人を助ける蜘蛛の魔物がいる。

 

 もし、その噂が本当ならその蜘蛛の魔物は相当に賢いと言えよう。

 不定形の怪物との関係は分からんが、儂ならどんな魔物が相手でも問題ないじゃろう。

 

「わかっとる、わかっとる。それを討伐しろと言うんじゃろ。儂がいれば安泰よ。大船に乗ったつもりで構えておれ」

「ロナント様」

「だから、ちょっとは休まんか?」

「だめです」

 

 また、即答で却下されブイリムスは案内人と先に進んでいく。

 

「ケチじゃのう」

 

 

 

 しばらく、歩いて目撃情報があったという場所にたどり着いた。

 

「その目撃情報があったのはここで間違いないのか?」

「そのはずです」

 

 目撃情報があったという場所には何も見当たらなかった。

 

「巣を他に移したようですね」

「この近くに中層へと続く道があります。そちらに移動したのでは?」

「中層?だが、蜘蛛の魔物なら火には弱いはず、その線は薄いのでは?」

 

 案内人の言葉にブイリムスが返していると、兵士の一人が悲鳴を上げて不自然な格好で固まる。

 

「どうした?」

「わ、わかりません。進もうとしたら、か、体が!?」

「何!?」

「待て!」

 

 ブイリムスが兵士の様子を見るために近づこうとするのを肩を掴んで止める。

 

「光を当ててよーく見よ」

 

 儂の言葉に従い、兵士の方に光を当ててよく見る。

 非常に見えにくいが、糸が張り巡らされており、兵士はそれに引っかかっていた。

 

「糸?」

「当たりを引いたのかもしれんの」

 

 ブイリムスが剣を持って蜘蛛の糸を斬ろうとするが、剣は蜘蛛の糸に絡まるだけで斬ることが出来なかった。

 

「斬れぬか。よし、焼き斬るぞ」

「え!?」

「ちと熱いが動くなよ」

「あ、は、はい」

「ちょっと、ま!?」

 

 ブイリムスが何か言おうとするのを無視して蜘蛛の糸を燃やす。

 しかし、蜘蛛の糸は燃えなかった。

 

「ん?なかなか燃えんな。よし、火力を上げるぞ!?」

 

 火の魔法の火力を上げると、火力を上げすぎ通路の奥まで火炎で埋め尽くす。

 火炎で糸が焼き斬れると、洞窟の奥から良く通る金属同士をぶつけたような音が鳴り響いた。

 その音は洞窟内を反響していく。

 

「あちゃあ、強くし過ぎたわ」

「もー、勘弁してくださいよ」

「やってしまったの」

「ええ、先ほどの音を家主が聞いたら戻ってくるでしょうね」

「確かにの。しかし、あの金属音はいったい・・・・・・」

「分かりません。巣の中を確認してみないことには何とも」

「そうじゃの」

 

 儂らは戦闘態勢を整えて巣の中の探索を開始する。

 探索を開始してすぐに、先ほどの金属音の正体が見つかった。

 

「これは?本当に魔物か?」

 

 大きい金属の板に小さな金属の板を三枚括り付けたものが、蜘蛛の糸に何個も結び付けられていた。

 その金属板は異常に綺麗に加工されており、魔物が加工したものとはとても思えない代物だった。

 隣にいたブイリムスが懐から鑑定石を取り出した。

 

「ほう。鑑定石か」

「ええ、ロナント様も鑑定を?」

「そうじゃ、レベルは8じゃな」

 

『神珍鉄:魔力伝導性に極めて優れ、強度は極めて高いが高密度の魔力を流すことで形を自在に変えられる金属。生成できる者が少なく入手は困難を極める』

 

 なんじゃ、これは!?

 このような金属をこれほど大量に・・・・・・

 異常じゃ、これほどの金属を糸に何かが引っかかったことを知らせる鈴代わりに使うなど。

 兵士達に金属板を回収するように命令を出して、周囲の警戒を強める。

 仮に、これほどの金属で作られた武器や防具で武装した魔物が現れれば兵士達の攻撃は一切通じないじゃろう。

 儂の魔法も威力の弱いものは全て効かんと考えた方が良さそうじゃな。

 

 兵士達が集めた金属板を空納にしまった時、家主が転移して帰って来た。

 

「ブイリムス・・・・・・家主のおかえりじゃ」

 

 儂の言葉に全員がそいつに視線を向ける。

 全体的に白い印象で背中にはまるで髑髏のような黒い模様がある蜘蛛の魔物。

 

「ありえぬ・・・・・・なんだ、これは?」

「ロナント様?」

「あの魔物、あの自然体でとんでもない量のスキルを常時多重発動させておる。ありえぬ!?」

 

 魔物は何か言いたげに鳴きながら逃げ道を塞ぐように地面に降りて来る。

 鑑定。

 

 ゾア・エレ・・・・・・

 この凄まじいまでのステータス、膨大な量のスキル。

 な、なんと!?魔導の極み!?

 

「ロナント様!?しっかりしてください!?」

 

 素晴らしい・・・・・・なんと、素晴らしい!

 な!?

 

「鑑定の妨害じゃと!?」

「ロナント様!?」

「ああ、間違いない!?迷宮の異変はこのお方、この力に逃げ出したのだ!?」

 

 蜘蛛の魔物に近づいた兵士達が次々に倒れていく。

 

「おお、何が、何やら、儂の及びもつかぬ叡智、力が!?ええい!?放せ!?もっとあの力を間近で!?」

「ロナント様!?」

 

 ブイリムスに殴られ正気に戻った時にはかなりの数の兵士がやられておった。

 

「すまん、もう大丈夫じゃ」

「撤退しようにも、通路を塞がれていては!?」

「黙って横を通してくれるはずもなかろうな。であれば、大規模転移で逃れるしかない」

「分かりました。ロナント様をお守しろ!?」

 

 ブイリムスの指示で兵士達が儂の周りを囲む。

 ブイリムス達が魔法構築の時間を稼ぐために前に出る。

 

『■■■■■、■■■■■■■■■!』

 

 なんじゃ!?念話?

 女性のような怒鳴り声のような声で蜘蛛の魔物が誰かに念話で話しかけている!?

 

『■■■■■?■■■■■、■■■■■?』

 

 先ほどとは違うとても綺麗な女性の声の念話が蜘蛛の魔物に返ってくる。

 まさか!?一緒に目撃されたという不定形の怪物を呼んでいるのか?

 

『■■■■■■■■■■■!』

『■■■■。■■■■■■』

 

 怒鳴るような女性の声に対して恐ろしく冷静な女性の声が返ってくる。

 そしてその念話の直後、背後に異様な気配を纏った何かが現れる。

 

「ブイリムス、どうやらもう一匹も来たようじゃ」

「くっ!?挟まれたか!?」

 

 大規模転移魔法を構築しながら視線を背後に向ける。

 情報とは違い、金属というよりは水に近い見た目の球体状の魔物。

 こやつがあのお方と念話で話していた魔物か。

 

『鑑定が妨害されました』

 

 こやつも鑑定を妨害しおった!?

 まずいの、大規模転移魔法の構築が間に合うか・・・・・・

 球体状だった魔物はしばらく様子を見た後に、動き始めた。

 情報にあった通りに球体状から形を歪め、複数に枝分かれし数本の鞭のようなものを作り出した。

 次の瞬間には鞭のようなものを振り回し、兵士を一人ずつ吹き飛ばしていく。

 吹き飛ばされた兵士は凄まじい速度で壁に激突し、皆原型をとどめていない。

 

「くっ!?何という力!?」

 

 ブイリムスが召喚獣を背後に現れた魔物に向かわせるが、鞭の射程に入った瞬間に一撃で吹き飛ばさる。

 鞭を振り回している体は動こうとはせず、鞭を振り回して近くにいる兵士達皆殺しにしていく。

 ブイリムスの召喚獣が鞭の射程外から魔法を放てば、闇魔法で召喚獣事吹き飛ばしてくる。

 

 あれほどの威力の魔法が使えるのに、なぜ、魔法で攻撃しない?

 こやつは何を考えておる?

 

 不定形の怪物は振り回していた鞭を急に止めた。

 

 なんじゃ?こやつは何がしたいんじゃ?

 

 儂の疑問など気にしたことかと、不定形の怪物は全ての鞭を二つに割いて鞭の数を倍にしおった。

 それだけでは終わらず、鞭を覆うように金属が生成されていく。

 

 あれは!?あの金属はこやつが作り出した物か!?

 

 金属を生み出した者の正体が分かったのは良かったが、不定形の怪物は神珍鉄で覆われた鞭を兵士達に振り下ろした。

 先ほどまでとは違い、兵士達は吹き飛ばさることなくその場に倒れていく。

 恐ろしく鋭利な刃物で切断されたように綺麗な断面が出来た兵士達が地面に次々と倒れていく。

 

 あの金属に常時魔力を流し続け、鞭の動きに合わせて形を変えているのか!?

 何という魔力量じゃ!?

 

 兵士に金属を纏わせた鞭を振り下ろす不定形の怪物の姿はどこか嬉しそうで、顔など無いはずなのに口角を吊り上げた不気味な笑みが見えた気がした。

 やっとの思いで構築し発動させた大規模転移で帰って来たのは、片腕を失った儂と儂を庇って大怪我をしたブイリムスのみ。

 

 唯一の成果は膨大な魔力を流すことでしか形を変えることの出来ん神珍鉄のみ。

 武器や防具に加工できればと鍛冶屋に渡してみたが、誰一人として加工することが出来んかった。

 しかし、神珍鉄の加工は魔力鍛錬には丁度いいものじゃった。

 思い描いた形に変えれるようになったころには魔力量と魔力操作の技術が格段に上がっとった。

 そして神珍鉄で作った杖は全魔法の威力を格段に上げるものになった。

 

 その後、あの方々は迷宮の悪夢、迷宮の怪物と呼ばれ恐れられるようになった。


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