スライムですが、なにか? 作:転生したい人A
現在、私の隣で白ちゃんが苦戦している。
私が手を貸そうとしても自力で何とかすると、諦めずに頑張っている。
「ふ、ぐぅ!」
「お嬢ちゃん、そんな無理して食べなくてもいいんだよ?お腹いっぱいなら残したっていいからさ」
「白ちゃん、食べ物は残さない主義ですから」
「そうは言ってもねぇ。小一時間もそうやって粘ったって、食べれないものは食べれないって」
「そうだよ、白ちゃん。残りは私が食べてあげるから、もうやめておきなって」
私とおばちゃんの言葉に白ちゃんは目の前の美味しそうな料理をじっと見つめる。
この宿の料理は質より量を優先しているが、味もいい感じで普通に美味しい。
しかし、飽食のスキルがなくなったせいで、白ちゃんの食べれる量がかなり少なくなった。
そのため、白ちゃんは出された料理を食べきれずに苦しんでいる。
「うっ!」
「ほら、これ以上無理したら吐いちゃうよ」
食べ過ぎで吐きそうな白ちゃんの背中を優しく撫でる。
「うぅ」
「ちょ!?お嬢ちゃん泣かないでおくれよ!ほら、大丈夫だから、ね?」
食べきれないことが相当悔しいようで、ついに泣き出してしまった。
そして食べることを諦めたようで、私の方に皿を寄せる。
すでに冷めている料理をパクパクと食べる。
うぅ、隣の白ちゃんからの視線が・・・・・・
スキルほどではないが、前世で大食いと言われるような量を食べれる私に白ちゃんが羨ましそうな視線を向けて来る。
涙目で羨ましそうに見て来る白ちゃんの視線に耐えながら、料理を平らげる。
そしてお皿をおばちゃんに渡して白ちゃんとサエルと一緒に食堂を出る。
正直に言えば、全然満腹というわけではない。
次の食事の時間まで空腹をしのげる程度には食べたので問題はない。
問題があるとすれば、白ちゃんの前でこれ以上大量に食べたら本気で泣かれる可能性があることだ。
腹五分目なんて言えない、絶対に。
その日の夕方、アリエルさんが難しい顔をしながら帰って来た。
ソフィアも殺気立っているから、何かあったみたいね。
「よくない知らせが二つ」
部屋にメンバーが全員集合したところで、アリエルさんが口を開いた。
普段飄々としているアリエルさんが難しい顔をしているし、かなり面倒なことになってそうだな。
「まず一つ目。どうも何日間かこの街に足止めくらいそうな感じ」
アリエルさんの話によれば、これから向かう予定だった魔の山脈に行く街道でオーガが出るらしい。
そのオーガが冒険者を何人も返り討ちにしているため、街道が閉鎖されているらしく。
なので、閉鎖が解除されるまではこの街に滞在するそうだ。
そして問題はもう一つの方のよう。
なんでもエルフに襲われたらしい。
おかげで数日の間警戒して過ごさないといけなくなった。
まあ、どうせ何もして来ないだろうけどねぇ。
その日の夜、全員が寝静まった時間。
私が一人で部屋の窓から月を見ていると、手元にスマホが現れた。
「もしもし、お久しぶりですねぇ」
『はい、お久しぶりです』
予想通りの人物の声に私は少し口角をあげて問いかける。
「どうしたんですか?何も用事はないでしょう?」
『青織さんが未だに何の行動も起こさないので、催促の電話です』
「そんなこと言われてもねぇ。力を取り戻せてないしねぇ」
見えているか分からないけど、肩を竦めながら返す。
『よく言いますね。その気になればすぐに力を取り戻せたんじゃないですか?』
「私のこと買い被り過ぎじゃない。そんなすぐに取り戻せるなら、こんなに苦労してないわよ」
『あなたがいつ苦労したって言うんですか?苦労してるのは、白織さんの方であなたは一度も苦労してないじゃないですか。むしろ、弱体化した現状を楽しんでいますよね』
「あら、バレてる」
適当なことを言っていると、簡単にバレたようだ。
まあ、仕方ないねぇ。
「流石、姫色ね。いえ、今はDって呼んだ方がいいのかな?」
『呼びやすい方でいいですよ』
「じゃあ、Dって呼ぶことにするわ。姫色って呼んでると後々面倒なことになりそうだし」
『それより、話を逸らさないでもらえますか?』
「逸らす気はないわよ。たまたま逸れただけ」
そもそもDを相手に話を逸らせるとは思ってない。
逸らしたら逸らしたで、かなり面倒なことになりそうだしねぇ。
『それでいつになったら私を楽しませてくれるんですか?』
「何言ってるの?今も楽しんで見てるんでしょ」
Dのことだから、弱体化した白ちゃんが苦労してるのを見て楽しんでいるのだろう。
そして、そんな白ちゃんを慰めてる私のことも見て楽しんでいるはずだ。
『確かに楽しんでいますが、二年も続けば飽きるというものです』
「なら、もう少し我慢して待ってたらいいんじゃない?私達以外にも面白いことやってくれる転生者が居るかもしれないわよ」
『私はあなたに期待してるんですよ。私の期待を裏切るんですか?』
「先に裏切ったのはあなたでしょ、D」
Dの問いを鼻で笑い、肩を竦めて平坦な声で返す。
やられたことをやり返して居るだけ、私は悪くないですよ。
口角を吊り上げて笑う私に、Dは相変わらず感情の感じられない平坦な声で返してくる。
『それを言われると困りますね。しかし、偶然とは言え、あなたの願いを叶えてあげたのですから、あのことは水に流して私を楽しませてくれても良いじゃありませんか』
「嫌に決まってるでしょ。けど、願いを叶えて貰った恩もありますから、その時が来たら楽しませてあげますよ」
『その時っていつですか?』
「私の気が向いた時ですよ」
『仕方ありません。その時が来るのを待っています』
「意外と素直なのねぇ」
面白そうならなんでもするDが何もして来ないなんて意外だ。
いや、どんなことをしても無駄だって分かってるから何も言わないのかな。
『ええ、私にあなたを従わせる手段はありませんから、嫌だと言われたら諦めるしかないのです』
「まあ、それはお互い様ですがねぇ」
『そうですね』
Dが私を従わせられないように、私もDをどうにもできない。
『あなたが楽しませてくれるまで、私は白織さんで楽しむことにします』
「はあ、あんまり白ちゃんを虐めないでねぇ」
『分かっています。それでは、また電話しますね』
「そう、またね」
私の返事を聞いてスマホが手から消える。
スマホが消えた後、スマホを持っていた手を少し見つめる。
はあ、私も早く寝よ。