別れと出会いと希望の話。一人になってしまった彼女が、それでもハンターを続けようとする理由の話。

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歩んだ道の先に

 目的のものを見つけるのに、そう時間はかからなかった。

 ヒドゥンブレイズ。迅竜ナルガクルガの素材を利用して作られる大剣。

 

 しばらく放置されていたのだろう、とても汚れている。随分酷使されたようで、刃こぼれも酷い。

 しかし、土に汚れてなおその刃は日の光を浴び気高く煌めいていた。

 

「よい……しょ、っと」

 

 私には少し重いそれを持ち上げて、紐で背中に括りつける。

 探していたものはこれで最後。モンスターに見つかる前に、帰らないと。

 

 この大剣の持ち主はすぐそこに()()

 でも、彼――あるいは彼女と一緒に帰ることはできない。さっき見つけたその身体は、もう男女の区別も付かないくらいに損傷していた。

 

 

 

「お疲れさまです、こちら報酬になります」

 

 集会所に戻って、受付嬢と事務的にやり取りをする。

 クエストの内容は、名目こそ『行方不明になったハンターの安否確認』だけれども、実際のところは『遺品の回収』だ。クエスト中に行方不明になったハンターが生きて帰ってくることなんて、九割九分ない。

 

「装飾品の類はギルドからご遺族にお届けしますが、武器は引き取れないとのことです。――こちらで処分いたしましょうか?」

 

「……いいえ、私の方で」

 

 幾度となく繰り返した受け答え。

 こんなクエストを好き好んで受けるハンターはほとんどいない。採集と比べても劣るほどの報酬しかなくて、大抵気分の悪いものを見る羽目になって、感謝されることも滅多にないから。

 

 そんな依頼ばかり選んで受ける変わり者の私は、受付嬢の彼女とはもう顔見知りと言ってもいいくらいには何度もこうして言葉を交わしているけれど、彼女の素っ気ない態度はいつも変わらない。

 正直、少しありがたいと思っている。その方が、私も感情的にならずに済むから。

 

「……また、お待ちしています」

 

 受付嬢の言葉に会釈を返して、私は踵を返した。

 帰って、背中のこの子(ヒドゥンブレイズ)にも場所を作ってあげよう。

 

 

 

 自宅の扉を開けると、ずらりと並んだたくさんの武器が出迎えてくれる。どれも、主と共にたくさんの狩りを行ってきた歴戦の武器たち――なんだろう。きっと。

 私は多くの地域で用いられている武器なら一通り『とりあえず戦える』程度には扱えるけれど、たぶんどれもまともに振ることすらできない。全部、()()()()ではないからだ。

 

 ハンターの武器は、職人がその人その人に合わせて一本ずつ丁寧に作る。だから、今は亡きハンターたちのために作られたその武器たちは、ほとんどが重すぎたり大きすぎたりして私には合わない。

 ならばどうしてコレクションのような真似をしているのかというと……言葉にするのは、少し難しい。強いて言えば、『彼らが生きた証をどこかに留めておきたい』とか、そういうことになるのかな。

 うん、きっとそうだ。

 

 今は一人で活動している私にも、かつては仲間と言える人がいた。何人もいた。

 でも、彼らは一人また一人と、何の痕跡も残さず、生死もわからないままに、この世界から消えるようにしていなくなってしまった。

 

 たまに、あの人たちは私が見ていた夢幻なのではないかと思ってしまうことがある。

 だから……というのも変な話だけど、そういう風に何も残さずこの世界から去ってしまう人を一人でも減らしたい。きっとそういう理由なんだと思う。

 

 

 

「大剣用のスタンド、ストックは――え、と……あった」

 

 持ち帰ったヒドゥンブレイズを飾るために、戸棚の奥からスタンドを取り出した。

 四苦八苦しながらもなんとかその大剣をスタンドに収めて、ふう、と一息。

 

 顔を上げると、すぐそこにあったある武器に目が行った。

 ――王双刃ハタタカミ。雷狼竜ジンオウガの素材でできた双剣。

 家にある武器のうち、職人さんに自分用として作ってもらったもの以外で唯一手にぴったりと馴染むもの。

 

 そういえば、昔“仲間”のうち一人に双剣の扱いを教えてもらったことがあった。その人は一生懸命教えてくれたけれど、私は全然上手に出来なかったんだっけ。

 気が付けば私は、吸い寄せられるようにその双剣を手に取っていた。一歩下がって、彼の動きを思い出しながら両手の刃を軽く振ってみる。

 やっぱり、笑っちゃうくらいに下手だった。

 

 旅に、出ようか。ふとそう思う。

 この街にはしばらく暮らしていたし、大切な思い出がたくさんあって、けれど同じくらいに悲しいこともたくさんあって。

 一歩踏み出して何か新しいことがしてみたい。無性に、そんな気持ちだった。

 

 

 

 思い立ってからの行動は早かった。

 大して多くもない荷物をかばんいっぱいに詰め込んで、旅装を整えて、腰には一対の双剣と小さな剥ぎ取りナイフだけを差して。

 私は今、初めて立つ地で、狩人の集う場所に足を踏み入れようとしている。

 そんな私の背に、誰かが声を掛けた。

 

「お姉さん双剣使い? おれハンターになったばっかりなんだ、良かったら教えてよ!」

 

 振り返ると、そこにいたのはまだあどけなさの残る顔をした少年。

 

「……私?」

 

 まだお姉さんと呼ばれるような歳だったかな。いや、そんなことはどうでも良くて。

 

「うん!」

 

 期待にその瞳を輝かせる少年に、私はなんて言葉を返そうか迷ってしまった。

 ハンターなんてやめなよ、って言おうか、そんな考えが頭をよぎって。

 けれど結局、私は。

 

「ごめんね、私も双剣はほとんど使ったことないんだ。一緒に練習する?」

 

 ハンターは危険な仕事だ。弱っちい私が今まで無事でいられたのは、慎重で少し運が良かったから、ただそれだけなんだと思う。

 

 

 けれどここにある胸の高鳴り、新しい世界への期待は、とてもとても眩しく輝いていて。

 いつかは失ってしまうものだとしても。この小さな出会いが、互いの人生を彩るささやかな幸せになるのなら、それでいいのかもしれない。

 

 

 




こちらは企画#モンハン愛をカタチに2021参加作品です。
同じ内容のものをTwitterにて画像で公開しています。

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