天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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今回は二対三の戦闘訓練の続きです。タイトルの通り、嵐が暴れまくって無双します‼︎




10話 大嵐無双

 

 

ビルを丸ごと氷漬けにした広域凍結攻撃。

それは、嵐を襲い彼の腹部から下を完全に氷漬けにした。胴体にも霜が張り付いており、彼をその場に縫い付けている。

葉隠は嵐が抱きかかえており、凍結には巻き込まれてはいなかった。そして、凍らされた嵐はと言うと———割と余裕であり、少し驚いた表情を浮かべており、軽く息をついた。

 

「ふーっ、葉隠大丈夫か?」

「あ、うん、私は大丈夫だけどっ、や、八雲君、氷がお腹までっ!」

 

抱き上げられてる為、嵐を見下ろす葉隠は彼の様子に気付き慌てた声をあげる。自分を庇ったせいで彼が凍結の影響を受けたのだから、仕方ないことだ。だが、そんな彼女に嵐は優しく言う。

 

「大丈夫だ。熱は苦手だが、冷気には耐性があるからな。なんてことはない」

 

嵐に氷系統の攻撃はあまり効かない。個性のおかげか、彼は冷気などの寒さには滅法強く、氷漬けにされても大した影響は出ないのだ。

吹雪吹き荒れる真冬の高山の山頂に半袖でいても風邪すらひかないほどだ。ちなみに、それを見利に話したらドン引かれたりする。

 

「だから、そんな慌てんな。むしろ、これはお前が喰らってた方がやばかった。ほぼ裸なんだ、皮膚が張り付いて、無理に動くと剥がれてたろうな」

 

嵐はそう優しく言いながら、氷漬けになった下半身を強引に動かして氷の拘束を脱する。

バキバキと音を立てながら、嵐の下半身を覆う氷が容易く砕かれ、張り付いた氷も体を解したり、拳で殴ったり、足を曲げ伸びすることで無理やり砕いていき、完全に氷を砕いた後、鱗一枚剥がれるどころか、傷ひとつついていない平然とした姿を、優しく下ろした彼女に見せる。

 

「ほら、何ともねぇだろ?」

「う、うん。頑丈なんだね……」

「そういうこった。しっかし、やっぱりやりやがったなぁ、轟のやつ」

 

嵐は体を解すと凍りついた壁面を見て、予想通りだと笑みを浮かべながら、葉隠に拳を突き出す。

 

「予想通りだな。俺らも動くぞ、葉隠」

「うん!絶対勝とうね‼︎」

 

嵐と葉隠はお互いの拳を相手に向けてコツンと鳴らして勝利の為に動いた。

 

 

同時刻、轟達も動いていた。

建物の中に入った障子が触腕に耳を複製して索敵する。

 

「障子、索敵はどうだ?」

「………ダメだな。氷を砕く音が聞こえるから、恐らくは風で防いだのだろう。それに、もう一つ軽い足音も聞こえるから、葉隠はそもそも氷漬けになっていなかったんだろう」

「あの速度に反応するのか……」

 

八雲があの一瞬で迫った氷に対応したことを障子から聞かされ、尾白が驚愕する中、轟はわずかに驚きながらも進み出した。

 

「……そうか、分かった。なら行くぞ」

「「ああ」」

 

そうして3人は核の争奪を目指すべく、上階へと足を進める。

先頭から轟、障子、尾白の順で歩いていく。

 

そして、一階、二階と探索をして嵐や葉隠がいない事を確認しながら注意深く移動していたが、三階にたどり着き四つのうち三つの部屋の探索を終えた時、複製した二つの耳で索敵を行っていた障子が違和感を感じ足を止める。

 

「ーむ」

「どうした?障子」

「上階からずっと足音が聞こえていたが、突然足音が止んだ。しかも二つともだ」

「俺達を待ち構えているんじゃないのか?」

「それもあるが、八雲は空を飛べる。ということは、葉隠を残して自分一人でこっちに奇襲を仕掛ける可能性だってー」

 

ある、障子がそう言いかけた時だ。

 

 

 

キィィイァァァァァ—————————ァァッッ‼︎‼︎

 

 

「「ッッ⁉︎⁉︎」」

 

 

 

突然建物全体を揺るがすほどの獣の如き鋭く甲高い咆哮が轟いたのだ。それは、ビリビリと空気を震わせるほどの強大なものであり、轟達は反射的に耳を塞がなければいけないほどだった。

ただし、それだけじゃない。索敵しながら進んでいた障子の耳にはそれと共に大きな痛手を与えた。

 

「ぐぅぁぁっっ⁉︎」

 

障子が苦悶の声を上げながら、膝をつく。その額には冷や汗が伝っており、彼が轟や尾白達よりも大きな痛手を負った事を意味している。

膝をつく障子に尾白がすぐさま駆け寄った。

 

「障子っ‼︎大丈夫かっ⁉︎」

「す、すまん…耳がやられたっ!」

「なっ」

 

マスクでも分かるほどに目元を苦痛に歪ませている彼は、2対の触腕に複製した四つの耳全てから血を流していた。

全て鼓膜が破られていたのだ。耳を劈くどころか、破壊しかねないほどの大咆哮は確かに索敵要員である障子の耳を潰した。

彼の触腕から複製されたものは通常よりも強化されている。腕なら腕力を、耳なら聴力をと、感覚が強化されるのだが、それが仇となった。

ただでさえ、耳を塞がなければいけないほどの爆音を、複製された耳でモロに聞いてしまい、鼓膜を全て破られてしまった。

 

「大声を上げただけで、この威力か……」

「反則すぎだろ」

 

聞いた限り、今のは高周波とかのサポートアイテムの攻撃じゃない。ただただ大声を上げただけのはず。だが、それだけで人の鼓膜を破ったのだから、その破壊力に尾白や轟は絶句した。

だが、この場にいる誰よりも嵐の強さを知っている障子が痛みに呻きながらも声を張り上げる。

 

「ぼさっとするな‼︎来るぞっ‼︎‼︎八雲がこのタイミングを逃すはずがない‼︎‼︎」

「流石、分かってるじゃねぇか」

「「ッッ⁉︎⁉︎」」

 

障子の警告の直後に上から聞こえた、敵の声に轟と尾白が思わず勢いよく声の方向に振り向いた。見れば、嵐がいつのまにか自分達の頭上で風を纏って滞空していたのだ。

嵐は彼らを見下ろしながら、静かに告げる。

 

「戦闘において、索敵要員は真っ先に狙うべきだからな」

「尾白‼︎障子を抱えて奥に「遅ぇ‼︎」っ‼︎」

 

轟が尾白に障子を抱えさせて奥へと逃そうと壁伝いに氷を放ち、横から氷柱で嵐を襲おうとする。だが、嵐はその氷柱を容易く回避してほぼ一瞬で自分達との距離を詰めてきた。

嵐は滞空したまま腰から双扇を抜き素早く開くと、風を腕ごと纏わせて薙ぎ払うように勢いよく振るう。

 

「《狂飆(きょうひょう)雲薙ぎ(くもなぎ)》ッッ‼︎‼︎」

「ぐっ⁉︎」

「うぁっ‼︎」

 

放たれた凄まじい烈風が二人を容易く吹き飛ばし、それぞれ背後の壁へと叩きつける。

数メートルを軽く飛ばされた彼らは、壁が窪むほどの威力で叩きつけられてしまい、肺の中の空気を全て吐き出しながら、ズルズルと床に崩れ落ちた。

 

「ぐっ、がはっ…」

「ゴホッ、ゴホッ……」

 

衝撃が強かったのか、彼らはしばらく咳き込んだままその場から動けない。

二人を叩きつけた嵐は、追撃はかけずにもう一人、風で吹き飛ばさなかった障子へと視線を向けて、眉を顰めた。

 

「……あ?」

 

しかし、確かに少し前まで嵐の足元で膝をついていたはずの障子の姿はそこになかった。その代わりに、嵐の視界に影がかかる。

振り向けば、障子がそこにはおり全ての触腕に拳を複製させて右の三つの拳を振りかぶる姿があった。

 

「おおおぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎」

「……………」

 

迫る巨体と三つの拳を前に、嵐はゆらりとした動作で扇を振るって右の扇面で一番低い位置にある拳に当てて他の腕ごとかち上げる。

 

「なっ…⁉︎」

 

右腕を大きく上げられ目を見開く障子に、嵐は畳んだ左の扇に風を圧縮させて、大槌の形を作ると、彼のガラ空きの脇腹に叩きつけた。

 

「《凶槌(きょうつい)風爆衝(ふうばくしょう)》」

「ゴッ、ホッ⁉︎」

 

圧縮された風の大槌が障子の脇腹に触れた瞬間、圧縮された風が勢いよく拡散され、障子を吹き飛ばした。

障子の巨体は真横に砲弾のように飛んで、壁を突き破りながら奥の部屋へと姿を消す。

障子を捕らえるべく他の二人を無視して、嵐は奥の部屋へ行こうとするが、その時にはすでに二人は回復しており、嵐へと襲い掛かっていた。

 

「まだだっ‼︎」

「舐めんなっ」

 

強靭な尻尾で床を叩きつけて跳躍した尾白が上から嵐の頭めがけて尻尾を振るい、それに合わせるように轟がその場から氷結を放ち、地面を素早く伝って嵐の下半身を凍らせようと試みる。

だが………

 

「《天嵐羽衣(てんらんはごろも)》」

 

嵐の周囲を羽衣の如く包むかのように暴風が吹き荒れ、二つの攻撃を容易く掻き消した。

 

「ぐっ」

「……っ⁉︎」

 

尾白の尻尾は軽く弾かれ、轟の氷は簡単に砕け散る。

尾白は再び距離を取らざるを得なくなり、轟も氷の遠距離攻撃ができなくなった。全て、嵐が纏う暴風の羽衣に阻まれてしまったのだ。

嵐は渦巻く風の中心で、二人に一瞬視線を送ると、すぐに視線を外しながら呟く。

 

「先に障子を潰させてもらう。お前らは後だ」

 

そう言って、嵐は瞬時に姿を消した。

 

「ま、待てっ‼︎」

 

尾白が慌てて追いかけ、奥の部屋へと踏み込んだものの、奥の部屋には嵐や障子がいるはずなのに誰もいなかった。

 

「な、そんなっ、確かにこっちに……」

 

尾白は愕然としながら、部屋の周囲を見渡す。だが、部屋には数本の柱と砕けた壁と散らばる破片があるのみで、嵐はおろか、障子すらもいなかった。

だが、そこで気づく。柱の影になっている床部分。その一部が切り抜かれており、下への穴が空いていたことに。

 

「あれって…」

 

穴に気づき尾白が近づこうとした時、轟も部屋に入ってきた。

 

「尾白、障子は?」

「多分、下に連れて行かれたと思う。ごめん、全然足止めできなかったよ」

「いや、俺の方こそ悪い。八雲の動きに対応できなかった」

 

轟も尾白も先の失態をお互いに謝った。

先程の一連の戦闘、始まりが嵐の大咆哮という予想外の奇襲から始まり、その後はほぼ一方的にやられてしまっていた。頼みの攻撃も嵐が纏う風のせいで届きもしなかった。

 

(くそっ‥‥認識が甘かったな。……あいつが初めから強いことぐらいはわかりきっていたはずだろ……)

 

轟は己の考えの甘さを恥じた。

彼が強いということは、入試の話や個性把握テストを見た時には既に分かっていたことだ。

だというのに、3人がかりでも何も出来なかった。氷も彼に届きすらしなかったのだ。

 

(正直、侮っていた所もあったが………こっからは気を引き締めていかねぇと、何も出来ねぇまま負けちまう)

 

轟は改めて気を引き締め、尾白に提案する。

 

「とにかく、障子を助けに行くぞ。人質に取られると厄介だ」

「うん。じゃあ、ここから急いで降りよう」

 

尾白も同意して、床穴を通って下へ行こうとしたその時、オールマイトのアナウンスが無慈悲に響いた。

 

『敵チーム障子少年を確保だ‼︎ヒーローチームは後二人になったぞ‼︎‼︎』

 

助けに行こうとした障子が既に敵の手に落ちてしまったことを知らせるアナウンスに、尾白が苦い表情を浮かべた。

 

「……くそっ、間に合わなかったっ…」

 

苦々しくうめき拳を握りしめる尾白をよそに、轟は少し思案する。

 

(尾白の言う通りなら、下に八雲がいるはず。つぅことは……)

 

今嵐は下の階におり障子を拘束しているはず。そして、この階より下には核がないのは確認済みだ。だったら、核が4、5階のどちらかにあるのは確実だし、姿を見せなかった葉隠はその部屋で潜んでいるのだろう。

 

「尾白、作戦変更だ。こっから最短で核を獲りにいくぞ」

「理由は?」

「八雲が下にいるからだ。あいつが下にいるうちに上に行く。透明な奴が潜んでいようが核ごと氷漬けにすれば関係ねぇからな」

「なるほど。でも、確かに八雲がいないのなら最短で行くのがベストか」

 

最短で核を獲りに行く。一見すれば無謀な特攻だが、索敵要員の障子がいない今、それが最も勝率の高い作戦であることは、尾白にも分かっており、彼も同意する。

 

「急ぐぞ‼︎」

「ああ‼︎」

 

二人は部屋を出て階段へと駆け出していった。

だが、彼らは気づいていなかった。部屋の天井の隅の部分も床と同様に切り抜かれている部分があったことに。

 

 

———そして、自分達が向かう先に嵐が既に待ち構えているとは知らずに。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

轟達が上の階へ向かった直後、その二つ上の階5()()()嵐達はいた。

彼らの前には確保証明のテープを巻かれ、拘束されている障子の姿がある。

意識が朦朧としているのか、目が虚なまま体をぴくりとも動かしていなかった。そんな彼を、嵐は柱を背にゆっくりと座らせた。

 

「まず、障子は確保完了っと」

「すごいね八雲君‼︎本当に障子君捕まえてきちゃったよ‼︎」

 

奇襲を仕掛け、見事な索敵要員である障子を確保して帰還した嵐に、葉隠は嬉しそうに感心の声を上げた。

嵐が髭での感知で障子達の動きを常に補足しており、3階に来た時点で障子の索敵を逆手に取って大咆哮をあげて、爆音で耳を潰し索敵機能を麻痺させる。

その間に、移動した嵐が轟達3人に奇襲を仕掛け、索敵要員である障子を確保して、床穴ではなく、部屋の天井を切り抜いた穴を通って上階にいる葉隠と合流したのだ。

 

そもそも、嵐は下の階に降りてなどいない。初めから、天井の穴を通っており、床穴はそれを誤魔化すためのフェイク。

床穴に視線を向けさせることで、天井の穴の存在を悟らせないようにしていたのだ。

そして、未だ意識が朦朧としている障子を拘束して今に至る。

 

「最初の奇襲作戦は成功。次の作戦は葉隠にも動いてもらおうぞ」

「うん任せて‼︎核守ってるだけだと、私の出番なさそうだしね‼︎‼︎ただでさえ透明なのに‼︎」

「見せ場を作りたいのはわかるが、そっちに気を取られすぎんなよ?実戦想定してやってんだから」

「もちろんそこは気をつけてるよ‼︎」

 

嵐の忠告に葉隠は手袋でサムズアップする。

確かにこのままだと嵐一人で終わってしまう可能性も十二分にあるので、ただでさえ透明な彼女はとにかく見せ場を作ろうと奮起していたが、実戦を想定してやっている以上は、そちらに気をとられるのもいけないことだ。

当然、葉隠はそれを分かっている為、嵐の忠告に素直に従った。

そうして、拳を握り締め息巻く彼女の様子を、嵐が微笑ましく見守る中、髭が彼らの動きを感知してほくそ笑んだ。

 

「予想通りあいつらこっちに来てるな。やっぱ最短で核を獲りに来る気か」

「八雲君の予想通りだね。じゃあ、このまま予定通りに5階で纏めて迎え撃つ?」

「ああ。お前の特性を活かすことを考えたら各個撃破よりかは、二人同時に相手したほうがいいからな」

 

葉隠の隠密性能は単独戦闘より複数戦闘の方が活きる。相手側に見えない敵を捕捉する術がなければ、どこにいるのか、いつ攻撃してくるかのタイミングがわからずに否が応にも神経をすり減らさなくてはいけないからだ。

 

「葉隠、こっからは頼んだぞ。俺一人でも終わらせれるが、お前がいた方がより確実に終わらせれるからな」

「アイアイサー‼︎‼︎」

 

嵐にそう敬礼すると手袋とブーツを脱ぐ。今から彼女は嵐の指示があるまで、隠密行動に徹するのだ。嵐も人質の場所を移動させる為、障子の巨体を持ち上げて肩に乗せて抱える。

 

「OK‼︎準備完了だよ‼︎」

「よし、行くか」

 

二人は轟と尾白を迎え撃つべく部屋を後にした。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

嵐、葉隠がいないことを確認しながら、4階の探索を素早く終え、5階へ到達する轟達。

4階にも嵐と葉隠がおらず、核もなかった為、警戒しつつ進みながら、部屋を調べていった。

 

「……こっちの部屋もねぇ、か」

 

三つ目の部屋のドアを開けて顔だけを覗かせながら核がないことを確認した轟は、顔を引っ込めると後ろで警戒をしている尾白に小声で伝えた。

 

「ここもなかった」

「これで、後二つ。どっちかに置いてあるのか」

「ああ、固まっていくぞ」

 

5階に核があり、葉隠がいるのはほぼ確実。

さらには、彼女は透明である以上どこに潜んでいてもおかしくないからだ。

だからせめて、音量を抑え周りの異音を拾いやすいようにしたのだ。

そして、警戒しつつも素早く隣の北側の部屋を目指し、隣の部屋のドアを開いて中を覗き目を見開いた。

 

 

「よぉ、大分遅かったじゃねぇか」

 

 

部屋の最奥に鎮座するのは、最優先目標である核だ。だが、その前に番人が如く、いないはずの嵐が部屋の中心あたりにある柱に背を預けていたのだ。

 

「なっ、どうしてもう八雲がここにっ⁉︎」

「外から回り込んでたか……」

 

下にいると思っていた嵐が5階にいることに尾白は驚くが、轟は外から入ってきたのかと推測して恨めしそうに呟くが、嵐がそれを否定した。

 

「いや?俺は元から上にいたさ。ま、その辺の話はあとの講評にでもするか。さて、かかってこいよヒーロー共。背後にお探しの核があるんだぜ?当然、来るよなぁ?」

 

双扇『黒風白雨』を構え、あからさまな挑発をする嵐を前に、轟は徐に口を開く。

 

「透明な奴はいねぇのか?」

「さぁな。ここにいて隠密に徹してるかもしれねぇし、もしかしたら別の場所で待ち構えていたが、こちらに戻ってきてる途中かもしれねぇ。いや、もしかしたら、もう既にいてお前らの近くにいるかも知れねぇな。ま、何にせよ、捕捉する術がねぇ二人にわかるはずねぇよ」

 

それは反論のしようがない事実だ。

二人に索敵能力はなく、どこかに隠れ潜んでいる葉隠を探すことは不可能。核の設置場所ぐらいは嵐に遭遇する前に見つけておきたかったが、肝心の核が嵐の背後にあるのだから仕方ない。

どのみちやるしかない。尾白と轟がほぼ同時に思った瞬間、尾白が前に飛び出し、轟が右半身から冷気を放ち右腕を振るって、氷結を放つ。

どうやら、尾白が前に出てそれを轟が援護すると言う形なのだろう。

 

「はぁぁっ‼︎」

 

尾白が飛び上がり、嵐めがけて尻尾を振り下ろす。対する嵐も長い尻尾をしならせて尻尾の攻撃を迎え撃った。

ガンと鈍い音を響かせて尻尾同士が激突し、鍔迫り合いならぬ尻尾迫り合いになる。しかしだ、この迫り合いは嵐が有利であることを他ならぬ尾白が理解してしまっていた。

 

(びくともしないだって⁉︎)

 

尾白は尻尾から伝わる感覚に驚愕する。

尾白の尻尾は入試の仮想敵を壊せるぐらい強靭だ。鉄の塊を叩き割れる筋肉の塊なのだが、嵐の尻尾はそれ以上の強度と膂力を兼ね備えており、全力の一撃だというのにまるで、巨大な鉄壁を殴ったのではと錯覚するほどに微塵も揺らがなかったのだ。

 

「鍛えてるんだろうが、まだまだ弱ぇなっ‼︎‼︎」

「うわっ‼︎」

 

嵐が尻尾を力ませて振るえば尾白の尻尾は容易く押し負けて、空中へと弾き飛ばされる。空中で無防備になった尾白に嵐は追撃をかけようとしていたが、迫る氷が壁のように展開され尾白を守る盾となった。

だが、嵐は止まらずに不敵な笑みを浮かべる。

 

「ハッ、この程度で止められると思ってんのか?」

 

嵐は右扇を振るって暴風を放ち、2mほどの氷壁を嘲笑うかのように容易く根こそぎ吹き飛ばす。氷を砕いた暴風が冷気と氷片を孕み、轟達へと吹き付ける。

あまりの風の強さに轟達は腕を上げて耐えらざるをえなかった。

 

「…滅茶苦茶にも程があんだろっ‼︎」

「ぐぅっ、立てないっ‼︎」

 

轟は吹き付ける風の強さに思わず悪態をつき、体勢を立て直しかけていた尾白もその場で膝をついて耐えるほかなく、恨めしそうに呟いた。

 

「今度こ、がッッ⁉︎」

「尾白っ⁉︎」

 

そして、風が収まり動けるようになった尾白は次こそ必ず当てると息巻いて嵐に接近しようとしたが、突然、何かに殴られたかのように顔がガクンっと揺れ横によろめいた。

一瞬何が何だか分からなかったが、すぐにその衝撃の正体に尾白は気づいた。

 

「……くそっ、葉隠さんかっ‼︎」

「正解っ‼︎まずは一発目ヒットだよっ‼︎」

 

今の打撃の主は勿論葉隠だ。透明人間の特性を活かして、不可視の打撃を彼女は見舞ったのだ。一撃で離れたのか、尾白が周囲を尻尾で薙ぎ払っても掠りもしなかった。

手袋もブーツも脱いでいる為、今彼女がどこにいるかは感知できる嵐以外には補足できていない。一体どこにいるのかと尾白が周囲を見渡そうとした時、轟が叫んだ。

 

「尾白跳べっ‼︎」

「っ、ああっ‼︎」

 

尾白は轟の言葉に迷わず従い、尻尾を床に強く打ち付けて跳び上がる。そのタイミングに合わせて轟が尾白がいた場所を薙ぎ払うように扇状に氷結を放った。どこにいるか分からない葉隠を氷漬けにするつもりなのだ。

 

「えっ⁉︎やばっ」

 

葉隠もその意図は察したのか、切羽詰まった声を上げる。轟の射程範囲内にいた彼女は慌てて逃げようとするも、それよりも氷結が彼女を飲み込む方が早い。そして、葉隠を氷漬けにしようとした直後、間に嵐が割り込んだ。

 

「やらせねぇぞ」

 

嵐は葉隠の腰に尻尾を巻き付けて持ち上げると、《天嵐羽衣》を葉隠も守るように展開して、轟の広域凍結を防ぐ。

嵐には葉隠の場所は髭や並外れた五感のお陰で常に把握できている為、彼女の危機にもこうして素早く反応できるのだ。

それに、葉隠は嵐が考えたこの作戦において最も重要な役割を担っている。だからこそ、ここでみすみす行動不能にさせるわけにはいかないのだ。

 

「八雲君ありがとうっ‼︎」

「気をつけろよ。一瞬でも気を抜くと凍らされるぞ」

「うんっ‼︎」

 

葉隠に素早く忠告した嵐はすぐに動く。

右扇を畳み口に咥えると帯に差してあった『龍刀・催花雨』を鞘ごと抜き放つと尾白へと肉薄し、刀に風を纏わせて大上段から振り下ろす。

凄まじい速度で振り下ろされた風纏う一刀を、尾白が尻尾を掲げその下で腕をクロスさせた二重の防御でなんとか受け止めた。

 

「ぐぅっ‼︎」

「……へぇ」

 

自分の一撃を受け止めたことに嵐が面白そうな声を上げる一方で、尾白は尻尾全体に伝わる猛烈な痛みと痺れに苦悶の声を上げる。

だが、あの嵐の一撃を何とか受け止めれたことに、内心安堵もしていた。だが、その安堵は直後に驚愕へと変わる。

 

「えいっ‼︎」

「はっ…⁉︎」

 

嵐の攻撃に耐え踏ん張っていた右足を横から密かに迫った葉隠が掬い上げるように蹴ったことで体勢が崩されてしまったのだ。

右足が掬われ蹌踉めいた一瞬を嵐が見逃すはずもなく、尻尾で素早く巻き付けると、後方から嵐を呑み込まんと氷結を放とうとした轟めがけ投げ飛ばした。

 

「チッ!」

 

轟は氷を砕きながらこちらへと飛ばされる尾白を巻き込まないように、氷結を中断せざるを得ず、尾白を受け止めようとするが、受け止めきれずに壁に身体を打ちつけた。

 

「ぐっ!」

「ぐぁっ‼︎」

 

強かに打ちつけた衝撃が肺の中の空気を無理やり出して、二人の口からは苦悶の声が漏れる。

 

「ご、ごめんっ、轟」

「…いや、大丈夫だ」

 

詫びる尾白に轟がそう返しながら立ち上がり、嵐を見据える。尾白もまた立ち上がると、拳を構えた。

二人ともまだ戦闘続行の意志があり、一矢報いるという気迫が伝わってくる。だが、彼らの内心は動揺や焦りに満ちていた。

 

(くそっ、八雲の風のせいで透明な奴の足音が聞き取れねぇっ。靴も手袋もねぇからいつどこから来るか全く予測がつかねぇし、八雲がそれを捕捉してフォローできる分、尚タチが悪い)

(強引に氷漬けにしようにも八雲が割り込んで氷を砕くせいで、葉隠さんが自由に動き回れているっ。葉隠さんが自由なせいで、常に周囲に気を配んなくちゃいけないから、気が散るっ‼︎ただでさえ、八雲が化物染みた強さなのにっ‼︎)

 

轟と尾白は内心でそう恨み言を吐く。

 

八雲嵐という存在が、厄介すぎた。

 

圧倒的な膂力と馬鹿げた強度、異常な速度に並外れた風の力。その個性だけでも恐ろしいというのに、機転の良さと、卓越した武術。それらが上手く噛み合わさり脅威的な強さになり、明らかに相当な場数を踏んだと思われる戦闘。

それが、3対2という数的不利な状況を容易く覆したのだ。

 

そして、葉隠も厄介だった。

 

大した障害にならない?

 

否、否、否。そんな訳がなかった。確かに彼女単体では二人にとっては脅威にはならない。だが、嵐と組んで戦う彼女は、立派な脅威になっている。

嵐が纏う暴風のせいで足音を探ることは叶わず、嵐が縦横無尽に動き回っていることで、彼女の動きに注視できず、いつどこから来るか分からない攻撃に常に備え続けなければいけない。

嵐が葉隠の特性を十全に活かしていることで、透明人間である葉隠の存在が、二人を精神的に追い詰めていたのだ。

 

冷や汗を流しながら、身構える二人に嵐は不敵な笑みを浮かべると告げる。

 

「何だ、来ねぇのか?なら、こっちから行くぞ‼︎」

「行っくよ——‼︎」

 

嵐に続き葉隠も元気よく声を上げながら、二人に襲い掛かった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

嵐が二人を正面から相手取り蹂躙し、その隙をついて葉隠が己の特性を活かした隠密からの一撃離脱で二人を翻弄していくという見事なチームワークに、モニターを見ていたクラスメイト達は驚愕を通り越して絶句していた。

 

「いやいや、あれまじで?」

「八雲君、反則的すぎひん?」

「ああ、強いってのはわかってたが、ここまでとはな……」

 

瀬呂、麗日、飯田が唖然としながらそう呟く。

その言葉は、他のクラスメイト達の気持ちを代弁したものだ。

初めは轟がビルを丸ごと凍らせたことに轟の圧勝だと疑わなかったが、大咆哮からの奇襲に始まり、それからのほぼ一方的な戦いは、轟への驚愕を容易く塗り替え、本当に八雲は同年代なのかと思ってしまうほどだった。

 

勝てる気がしないというのはまさにこういうことだろう。

 

「やべぇ‼︎八雲のやつやばすぎんだろ⁉︎」

「八雲が超才能マンな件について」

 

切島は目まぐるしく切り替わる戦闘に興奮を隠さずにそう叫び、上鳴はとんでもないものを見たと言わんばかりに呟く。

 

「………圧倒的、すぎますわ」

 

轟と同じ推薦入学者である八百万は、嵐の戦いぶりに目を奪われ、呆気に取られている。

そして、先程激怒された爆豪はというと、

 

「………っ」

 

目を見開いて明らかに動揺していたのだ。

瞳には怯えの他にも恐れなどが混ざっており、嵐の圧倒的なまでの強さに完全に飲まれていたのだ。

八百万も爆豪も他のクラスメイトよりも既に頭一つ抜きんでた実力があるのは確かだ。だが、嵐は更にその遥か上に君臨しており、彼があまりにも遠い存在に思えてしまっていた。

生徒達が嵐の戦いに各々様々な思いを抱く中、オールマイトはいつもの笑顔を浮かべながらも、その内では大きな衝撃を受けていた。

 

(あれが、八雲少年の実力か………ヒーローに鍛えられているのは知っていたし、入試のビデオも見ていたから、彼が強いのはわかっていた。……だが、ここまでのものだったとはっ)

 

嵐の実力はオールマイトの予想以上だった。

2年、3年、いや、そこらのプロなど軽く凌駕するほどの実力であり、No. 1ヒーローにすらトップ10に並んでもおかしくないと思わせるほどの圧倒的な実力。

 

(どの系統にも属さない突然変異型の個性。個性届けには目を通していたが、やはり実際に目にすると違うものだね)

 

オールマイトは他の教師同様に入学時に提出された嵐の個性届けに目を通してあり、彼の個性は把握している。

彼の個性は特殊中の特殊、父方、母方のどちらの個性の系統にも属さない、いわば突然変異型(ミューテーション)の個性だ。

 

(個性『嵐龍』。どの生物体系にも分類できない、この世に存在しない未知の生物。あれが、その力の一端かっ)

 

『嵐龍』。

 

それこそが、嵐の個性の名前である。 

 

そして、他ならぬ嵐の人生を狂わせた力。

嵐自身が忌み嫌いながらも、使いこなそうとしている『厄災』の力だ。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

嵐・葉隠VS轟・尾白の戦いは三分経った今まも続いていた。もっとも、終始嵐達のペースであり轟達はほぼ一方的な蹂躙を受けていたが。

しかも、嵐が密かに誘導でもしたのか場所がいつのまにか変わっており、核がある部屋の向かいの部屋に移動させられていたのだ。

 

「おらおらどうしたぁ‼︎動きが鈍くなってるぞっ‼︎‼︎」

「くっそっ!」

 

どういうわけかいつのまにか瞳や胸部が橙色に輝いている嵐は昂りを隠さずに笑いながら追い詰めており、轟は迫る嵐に歯噛みする。

苦し紛れに氷結を放って氷柱で嵐を止めんとするものの、それらは彼が纏う暴風によって悉く砕かれていく。

先程からずっとこれだ。

嵐は轟の氷を全く意に解さずになんてこともないかのように容易く砕いていくのだ。

そして、轟へと迫り右扇を振り上げる嵐の背後には尾白が回り込んでおり、後頭部に尻尾の一撃を叩き込もうとする。

だが、それも嵐が後ろを見ないまま尻尾を動かして、尻尾で掴んでいた刀で呆気なく受け止めてしまう。そして、次の瞬間には暴風で吹き飛ばされているのだ。

顔を見ても明らかに余裕であり、彼が明らかな加減をしていることが見てとれた。

 

(どうやったら止まんだよっ⁉︎このバケモンはっ‼︎)

(後ろに目でもついてるのかっ⁉︎)

 

二人掛かりで傷ひとつつけるどころか、こちらが追い詰められているという事実に、二人は内心で焦り動揺していた。

制限時間も迫ってきてる以上、なんとかしてどちらかが核へと向かいたいところだったが、嵐が決して二人を逃さない。片方がそんな素振りを見せれば、一瞬で動き退路を潰しにくるし、葉隠がどこにいるかわからなく、いつ不意打ちでやらるかも分からない。

よって、二人は嵐をなんとかして撃破、あるいは一瞬でも拘束することに全力を注いでいるのだが、逆にこちらが追い詰められていた。

やがて、二人を蹂躙する嵐がついに、勝負を決めに動く。

 

「さて、時間も時間だ。そろそろ終わらせるぞっ‼︎」

「ッッ‼︎」

 

嵐が暴風を纏ってまず尾白へと一瞬で肉薄する。3mはあったはずの距離を一瞬で詰めてきたことに尾白は、驚愕して一瞬身を強ばらせた。

 

「速っ——」

 

瞬きの間に自分の目の前に迫った嵐に、尾白の反応は間に合わずガラ空きの腹部に鞭のようにしなる尻尾が叩きつけられた。

 

「ぐっ、ゴホッ……⁉︎」

 

体が完全に浮かんでしまうほどの衝撃が身体を突き抜け、肺の中の空気が全て吐き出され、呼吸ができなくなり、天井に激突する程かち上げられた後床に崩れ落ちた。

嵐は床に倒れ痛みに悶える尾白を一瞥すると、葉隠に向けて声を張り上げる。

 

「葉隠っ‼︎尾白拘束っ‼︎」

「任せてっ‼︎‼︎」

 

素早く腰のポーチから取り出したテープを葉隠の方に投げながら、嵐は轟へと視線を向ける。

轟は千載一遇の好機と捉えたのか、氷に乗り氷を後ろへと生成し続けることで自分の体を押し出す滑走を行なって核に真っ直ぐ向かっていたところだった。

 

(尾白には悪ぃが、今のうちに核をっ‼︎)

 

尾白を倒し捕縛しようと一瞬の間ができた今だからこそ生まれた絶好のチャンス。これを逃せばもうチャンスは訪れない。

そう分かっているからこそ、轟は尾白の救出を諦めて即座に核の奪取を目指したのだ。

 

「はっ」

 

圧倒的不利な状況でも最後まで諦めない彼の執念に、嵐は小さく笑い瞬時に暴風を纏わせると、一言呟き解き放つ。

 

「風よ」

 

刹那、暴風が解き放たれ嵐の身体を加速させる。空間を駆け抜ける白い矢と化して、核まで後5mのところまで迫った轟を追い越して目の前に立ちはだかった。

 

「今のは良かったぜ。もう少し速けりゃ届いたかもな」

(なんで、もう、そこにいるんだよっ⁉︎)

 

あまりの速さに轟は目を剥きながらも慌ててブレーキをかけて後ろに飛びのこうとする。だが、それよりも早く嵐が胸ぐらを掴む。

そして、胸ぐらを掴み後方へと投げようとした瞬間、轟はそこに偶然にも勝機を見出した。

 

「ぐっ!」

 

轟は苦し紛れに右手を胸ぐらを掴む手へと伸ばす。

彼の個性は『半冷半燃』。右半身から冷気を放ち凍らせ、左半身から炎熱を放つ、左右で氷炎を操ると言う二つの個性が合わさった個性の持ち主だ。

彼は今この瞬間、嵐の腕に右手で触れることで彼を氷漬けにしようと試みているのだ。

 

ビルを丸ごと氷漬けにしたり、広範囲への氷結など単純な大規模攻撃ばかりしかしていないが、彼は触れた対象を一瞬で凍らせることも可能だ。今まで見せてはいない小細工だ。

知らない嵐は無防備に受け止めるだろう。そこに付け入る隙はある。

そしてその不意打ちの小細工は———成功した。

 

「ッッ‼︎⁉︎」

「八雲君っ⁉︎」

 

轟の右手が確かに嵐の右腕を掴み、そこを起点に瞬く間に氷結が広がり始めたのだ。

一気に広がる氷に嵐は驚いたように目を見開き、遠くで見ていた葉隠も悲鳴じみた声を上げる。そして、モニタールームで試合を見ている者達も起死回生の一撃にどよめく。

 

(このまま一気に全身を凍らせるッッ‼︎‼︎)

 

轟は更に冷気を放ち、嵐を氷像へと変えようとする。既に、氷は肉体の半分を覆い隠しており嵐の動きを止めている。

このまま嵐を凍らして動きを完全に止めて、自分はその隙に核へと触れる。それで、自分達の勝利は決まる。

 

(これで終わりだッッ‼︎)

 

嵐の肉体の8割近くが氷に覆われ、轟が勝利を確信し嵐の拘束から逃れようと後ろに下がろうとした瞬間だった。

 

「———と、思ったか?」

「は……?」

 

そんな呟きが聞こえた直後、パキンと割れる音が響き下がろうとした体が前にグンと戻された。

轟は目の前で起きた事象に思わず呆けた声を上げる。

黒い鱗に覆われた右手が胸ぐらを掴んでいた。青白い氷に覆われているはずなのに、どう言うわけか、氷はその手には覆われていなくて、確かに動いて自分を捕らえていたのだ。

 

一体何が?どうしてこいつの手は動いている?

訳が分からず、一瞬混乱する轟の目の前で答えが姿を現す。

バキン、バキバキ、バキンと瞬く間に全身の氷に亀裂が入り粉々に砕け散り、中から無傷の嵐の肉体が姿を現したのだ。

 

答えは至極単純。ただ強引に動いて内側から氷を砕いた。それだけの話だったのだ。

 

「マジ、かよっ」

 

それを理解した瞬間、轟は自然とそう呟いていた。完全に自由を取り戻した嵐は轟の胸ぐらを掴んだまま呟く。

 

「テメェがこういう小細工をできることぐらい初めから予想してたさ。何せ、テメェは推薦入学者だ。そこらの奴よりも個性をうまく使えて当然で、その力を警戒しないはずがねぇだろ。大規模攻撃しかできねぇ奴が、推薦で雄英(ここ)に入れるわけがねぇもんな」

 

少し考えりゃわかることだ。そう付け加えると、嵐は左腕を構えて扇に風を纏わせながら、はっきりと告げる。

 

 

「熱を使わなかった。その時点でテメェの負けだ」

「ガッハァッッ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 

轟の腹部に暴風の刺突が突き刺さり爆ぜる。

未曾有の衝撃が体を突き抜けて、自分の体を後方へと勢い良く飛ばした。

吹き飛び地面を何度も転がった轟は、全身が痛み視界がだんだんと歪んできて、もう意識を失うと察した。

 

(くそっ……強すぎんだろ……けど……次は負けねぇぐらい………強く……)

 

轟は嵐へのリベンジを密かに誓って、そのまま意識を手放した。

 

「っし……これで拘束して勝利、と」

 

嵐は力なく横たわる轟へ近づくと左腕にテープを巻き付けて、確保の証明を行う。

その瞬間、オールマイトのアナウンスが響き渡った。

 

 

『尾白少年、轟少年、共に拘束だ‼︎よって、敵チームWIIIIIIIIIIIN‼︎‼︎』

 

 

自分達の勝利を知らせるアナウンスが響く。

それを聞いた嵐は小さく息をつきながら、身体を人間へと戻し、鱗を肌へと戻して、角や尻尾も引っ込めた。瞳や胸部の輝きも収まる。

 

 

———戦闘訓練第二試合。IチームVS Bチーム。結果は嵐・葉隠ペアのIチームが勝利を納めた。

 

 





戦闘シーンってどうしても細かく書いちゃうから、長くなってしまうんですよね。
今回も時間的には15分程度だったんですけど、事細かく書いてたから10,000文字超えました。

嵐の咆哮はモンハンでお馴染みのバインドボイスであり、普通の人間でも耳を塞がなくちゃいけないのに、感覚が強化されてる障子なら鼓膜破れてもおかしくはないと思いました。


嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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