思っていたよりも面白くてはまってまーす。キャラは白髪の総髪に赤目キャラです‼︎総髪キャラってカッコ良いですよね。
場所は変わり女子更衣室。
訓練後、更衣室で着替えている女子達は男子達と同様に和気藹々と訓練について話していた。
「葉隠の試合が一番凄かったよね」
「だよねぇ‼︎八雲が圧倒的だったし、葉隠も動き良かったよね‼︎」
耳郎の呟きに芦戸が同意する。
女子達の間でも嵐・葉隠ペアの試合は一番だったという認識があった。
他の女子達も口々に声を上げる。
「ケロ。確かに同い年であんなにも戦える人がいるとは思わなかったわ」
「うん、私らの試合の後だったから余計に凄かったわ」
蛙吹、麗日も同じような感想を呟く。特に麗日に至っては自分達の試合が八百万や嵐に酷評されたこともあって、その差を酷く痛感していた。そんな中、八百万が耳郎に尋ねる。
「そういえば、耳郎さんは入試の時、八雲さんと一緒に戦ったと聞きましたわ」
「そうだよ。まぁ一緒に戦ったのは障子とB組の拳藤って人もだけどね」
「そうだったのですね。でしたら、八雲さんはやはり今日の訓練の時と同じレベルの動きをされていたのですか?」
八百万の質問に耳郎は頷く。
「うん、八雲が中心になって動いてたよ。もう圧倒的過ぎてさ、間近で見てたウチらはずっと驚いてたよ」
「八雲君本当強いもんね‼︎私もその気持ちはよくわかるよ‼︎間近で見たたけど、八雲君もうプロのヒーローみたいに強かったもん」
嵐の指揮に従い共に戦った耳郎や、先程彼とペアを組んで戦った葉隠はその強さを目の前で見ており、強く実感していた。
その時、葉隠が何かを思い出したかのようにハッとすると、腕をブンブンと振り回しながら全員に話す。
「あっそーそー聞いてよ‼︎八雲君に助けられた時とか、何度か飛膜触ったんだけどね。すっごい触り心地がよかったのっ‼︎」
「飛膜ってあのヒラヒラした白いのだよね?そんなに良かったの?」
「うんっ‼︎さらっさらの布触ってるみたいだったよ‼︎最高級の布の生地ってああいうのをいうのかな?」
『へ〜〜〜』
感触を思い出しながら絶賛する葉隠に、好奇心が刺激されたのか全員がそんな声を上げた。
「それめっちゃ気になるね‼︎後で頼んだら触らせてくれるかな?」
「多分大丈夫だと思うよ。八雲君優しいし‼︎」
後で嵐に頼んで触らせてもらおう。女子連中の間でそんな話が決まった中、芦戸がニマニマと笑みを浮かべながら、葉隠に尋ねた。
「そういえば葉隠、八雲に抱き抱えられてたし、まるでヒロインみたいだったね!」
「ふぇ⁉︎」
葉隠は思わずそんなうわずった声を上げて、手にして着ようとしていた上着を落としてしまう。
「あーあれね。お姫様を守る騎士ってあんな感じなんかなぁ?」
「ケロ。葉隠ちゃんはヒロインじゃなくてヒーローの卵よ?」
「それはその通りですが、あの構図的に私もそう思いましたわ」
「も——照れるからやめてよー‼︎」
続く麗日、蛙吹、八百万の言葉に葉隠は少し下がりながら手をワタワタとさせる。透明であるため顔は見えないが、きっと見えれば真っ赤な林檎のような表情が見れたことだろうと思うほどに、照れていたのは明らかだった。
「でもさ、実際どんな感じだった?細マッチョイケメンの八雲に抱きかかえられて悪い気はしなかったでしょ?」
「……………う、うん、それはまぁ、体がっしりしてたし……危ない時も守ってくれて、カッコよかったし……ドキドキはしたけど……って、何言わせるの芦戸ちゃん‼︎」
「わ——葉隠が怒ったー!」
思わぬところまで言わされた葉隠は芦戸をポカポカと叩いた。芦戸はわーきゃー言いながら戯れる。麗日や蛙吹は面白そうにその光景を見ていたものの、耳郎だけは何故か拗ねたような顔を浮かべていたのだ。
「…………」
どうしてか分からないが、葉隠が嵐の強さに惹かれドキドキとしている様子に…………何故か、ムカッとしたのだ。
(………ん?なんだろう、コレ)
耳郎は自身のうちから湧き上がった謎のモヤモヤに一人首を傾げる。葉隠が照れる様子を見て湧き上がったものだが、いかんせん、その気持ちの正体が彼女には分からなかったのだ。
そして、分からず首を傾げる彼女の目に、何か考え込む八百万に気づく。耳郎はこのモヤモヤを振り払うためにも彼女に声をかける。
「八百万、どうしたの?」
「いえ、八雲さんは複数の敵との戦闘にも慣れていたように見えたのですが、一体どこでそういう経験をしたのか気になりまして」
「……あー、確かに戦い慣れてたもんね。でも、それなら八雲の師匠のヒーローが教えたんじゃないの?」
「ですが、師匠さんが教えたとしてもあくまで対処法だけのはずです。実践ではないと思います。ああいった動きは実際に複数を同時に相手取らないとああ言った動きはできないはずですわ」
「………そう言われれば、確かに」
八百万の指摘に耳郎は納得する。確かに彼女のいう通り、嵐は複数との戦闘に慣れていた。まるで、何度も経験していたかのような感じだったのだ。
師匠に指導されたといえばそこまでだが、その指導以外にも嵐はなんらかの経験を積んでいると、耳郎は八百万に指摘されて気づく。
「とにかく、八雲さんがクラスで1番の実力者なのは間違い無いでしょうし、その強さの秘密ももしかしたら今後知れるかも知れませんわね」
「……うん、確かにそうだね」
そう言う八百万の言葉に耳郎はそう短く返すものの、表情は少し暗いものになっていた。
(………多分、八雲は実際に敵との戦闘を経験しているんだ……)
これは耳郎個人の予想だが、嵐は過去に敵に襲われたか、あるいは、実際に戦ったことがあるんじゃないかと思っている。
クラスの誰よりもヒーローの現実を、そして敵の恐怖を知っているのは、そういった過去の経験ー彼自身の個性にまつわる何かがあったからなんじゃないかと。
そして、彼の過去は、きっと自分が思う以上に辛く厳しいものだと言うことも、自分なりに理解していた。
だから、彼女は密かに思った。
いつか、一人で抱え込む彼の力になってあげたいと。
▼△▼△▼△
着替え終わり女子達が教室へと戻ると、先に戻っていたのか男子達がおり、それぞれ何かを話していた。
「お、女子も戻ってきたな」
切島が女子達が戻ってきた事を確認し、そう呟く。芦戸は切島に話しかけると早速尋ねる。
「ねーねー八雲いる?」
「八雲なら自分の席んとこいるぜ」
「ありがと‼︎」
切島が指を指すと、一番奥の席には確かに嵐があり、障子や尾白、瀬呂と何かを話している。そして、芦戸は彼の姿を確認すると、彼に近寄っていく。他の女子達も付いてきて、嵐に近づくと彼に話しかけた。
「ねーねー八雲ちょっといい?」
「いいけど、なんだ?」
「突然なんだけどさ、八雲の飛膜触らせてよ‼︎」
「……はぁ?」
芦戸の突然の頼みに嵐は片方の眉を吊り上げながら、そんな声を上げる。突然過ぎて訳がわからなかったからだ。他の男子達も訳がわからず首を傾げている。
嵐は額に手を当てながら困ったような表情を浮かべると、恐る恐ると尋ねる。
「悪りぃ。ほんと突然過ぎるんだが、とりあえず、どういうことか説明してくんねぇか?」
「実はねぇ……」
そうして芦戸は更衣室で話した事をそのまま彼に伝えた。
「———というわけで、八雲の飛膜の感触が気になったので触らせてください!」
「……別に減るもんじゃねぇし腕だけなら構わねぇぞ。ただ、背中とかはまた今度にしてくれ」
嵐は芦戸達の頼みに断る理由もないので、上着を脱いで袖をまくりながらそう了承した。
「わ〜い、ありがと‼︎話が早くて助かるよ!」
芦戸は両手を万歳させて嵐に礼を言うと、嵐の変身を待つ。そして、数秒の後に肘から先だけを変化させた嵐は飛膜の生える両腕を女子達に「ほら」と言いながら突き出す。
女子達は早速嵐の飛膜に手を伸ばし、指先で触れたりニギニギと掴んだりして、その感触を堪能する。
彼の飛膜の感触は、葉隠が言った通り最高品質の布を思わせる質感であり、いつまでも触っていたいと思わせるような心地よい感触だった。
「お〜〜、何この触り心地!凄い気持ちいいー」
「さらっさらやんっ‼︎こんな布団に包まれて寝たいわぁ〜」
「お、おぉ、これはすごいね」
「ケロッ、とっても触り心地がいいわ。こんなにいいのは初めてよ」
「こんなに触り心地のいいものは私も初めてですわ。我が家で使ってる布団なんて目じゃありませんわね」
「でしょー!」
「…………なんというか、気に入ってもらえて、何よりだ」
女子達は総じて嵐の飛膜が大好評であり、その持ち主である嵐は自身の飛膜をずっと触り続けている事に照れや困惑が混じった複雑な表情を浮かべる。
女子に群がられ自分の飛膜、つまりは自分の体の一部を触られている嵐の様子を少し離れた席で見ていた峰田は再び血涙を上げながら殺気に満ちた慟哭を上げながら発狂した。
「やっぱイケメンなんか死んじまえぇぇぇぇっ‼︎」
「峰田落ち着けぇっ‼︎気持ちはわかるがステイステイっ‼︎‼︎」
「逆にお前が殺されちまうぞっ‼︎」
今にも飛びかからんとする峰田を瀬呂と砂藤が左右から押さえながら必死に宥める。
男子高校生の心情としては、峰田に大いに同意なのだが、あの嵐相手に襲い掛かったら返り討ちにされる未来しか見えなかったからだ。
その様子には女子達も手を止めて振り返ってしまい、怪訝な表情を浮かべる。
「…………峰田の奴なんであんな荒れてんの?」
「………触れないでやってくれ。男のデリケートな話だから」
耳郎の問いかけに嵐はなんとも言えない表情でそう言う。嵐も一人の男子高校生であるので、悲しいことに彼の気持ちは少しわかってしまうのだ。
それからしばらく女子達の飛膜触りの時間は続き、堪能し尽くしたのか満足そうにやっと彼から離れた。
「ふーっ、いい触り心地だった。じゃあ、八雲、今度は背中の飛膜とか触らせてねー」
「お、おう」
芦戸の言葉に彼女の背後で峰田が瀬呂のテープで簀巻きにされながらも血走った目でこちらを睨み続けているのを見た嵐は、顔を引き攣らせながら目を逸らすと、芦戸に短く返した。
そして、ちょうどひと段落ついたのを見計らってか、切島が先に男子達の間で話していた事を女子達にも提案する。
「なぁなぁ、さっき皆で話したたんだけどよ、この後訓練の反省会しねぇか?」
「いいねー‼︎私もやるやるー‼︎」
切島の提案に芦戸がまず食いつき、他の者達もこぞって賛成する中、嵐は葉隠の元に近づいた。
「葉隠」
「ん?どうしたの?八雲君」
自分を見上げる葉隠に嵐は若干気まずそうにしながらも、話を切り出す。
「……そのだな、さっきはその、色々と悪かった」
「へ?なんのこと?」
本当に分からない葉隠は、そうコテンと首だけでなく体ごと傾ける動作をした。その様子に気にしてないんだなと思いつつも、ちゃんと謝っておこうと思っていた嵐は、彼女に合わせて屈むと彼女の肩上に顔を近づけながら小声で素直に白状した。
「………試合の時さ、庇う為とはいえ体のあちこち触っちゃってただろ?下心はなかったんだが、それでも気分を悪くさせたかもしれねぇから、謝っておきたかったんだ」
「ふぇ⁉︎あ、そ、そのこと⁉︎う、ううん!私全然気にしてないよ‼︎」
葉隠は手をワタワタとさせながら、上ずった声で口早にそう言う。彼女は彼女で、嵐が自分の体のあちこちを触れていたのには気づいていた。だが、戦闘の最中であったし、嵐自身も気にしてないと言うより訓練に集中していたからこそ気づいていないと思い、気にしないようにしていたのだ。
なのに、嵐がそれをはっきりと覚えており、謝罪してきたのだ。思わぬ不意打ちに葉隠は顔に熱がこもっていくのを感じた。
「て、ていうか、八雲君気付いてないと思ってたよ」
「終わった後に、思い出しちまってな。……本当、すまん」
「う、ううん!全然大丈夫だよ‼︎八雲君が下心あってやったわけじゃないのはわかってるし‼︎」
軽く頭を下げて謝罪する嵐に葉隠が多少慌てながら答える。彼女としては嵐が下心で触ったわけではないことはわかっているし、彼のことは信頼している為怒る気は皆無だったのだ。
だが、それでも嵐は何か詫びしないと気が済まなかった。
「そうなんだが、触ったのは事実だし、なんかお詫びさせてくれないか?でないと、俺の気が済まない」
「んー、お詫びと言っても、私は本当気にしてないんだけどなー」
顎に手を当てて考える仕草をしてしばらく悩むと葉隠は一つ思いついた。
「あっ、じゃあこの後ご飯奢ってよ!それでチャラにしてあげる!」
「お前がいいんならそれでいいが………サ◯ゼでいいか?」
「意外なチョイスだね⁉︎八雲君の口からファミレスの名前出るとは思わなかったよ‼︎」
予想外のチョイスに葉隠が声を上げるが、偶然その会話を聞いていた芦戸と切島が目敏く介入してくる。
「えー?なになに、二人でご飯行こうとしてんの?」
「つか、サ◯ゼって、俺も行きてぇ‼︎」
「私も私もーそこで反省会も兼ねちゃおうよ‼︎」
「いいなそれ‼︎」
葉隠個人に奢る為にだったのだが、どうしてか芦戸や切島も行きたいと騒いだせいで他の者達も盛り上がっていたのだ。
だが、そこに飯田が手をビシッと揃えながら、待ったをかけた。
「君達待ちたまえ‼︎帰りに寄り道するなんて駄目だろう‼︎ご家族も心配するぞ‼︎」
「固ぇこと言うなって。反省会兼ねたダチとの親睦会だぜ?親も許してくれるって!」
「ム、親睦会か。確かに、それなら納得だが……」
真面目がそのまま服を着たような飯田の指摘に切島がそう返すと、飯田はブツブツと言いながらも納得した。
真面目の権化飯田。割とチョロい。
しかし、飯田が丸め込まれた一方で麗日は難色を示す。
「さ、サ◯ゼ⁉︎…‥行きたいんやけど、あんまり、お財布が……」
麗日は自分の財布の中身を見ながら、そう悲しそうに呟く。
彼女は関西から上京して一人暮らしなのだ。一人暮らしゆえに生活費を気にしなければいけないため、行きづらそうだったのだ。
それを聞いて、嵐は小さく微笑むと笑いながら言った。
「ああ、金のことは気にしなくていいぞ?提案したのは俺だし、反省会もやるんなら、俺が全部持つよ」
「マジ⁉︎それなら、嬉しいんやけど……でも……」
「そこまでしなくてはいいだろう。葉隠はともかく、俺達は自分の分をちゃんと出すぞ」
「そうだよ。ウチら全員分ってなると相当お金かかるし、流石に全員奢られると申し訳ないよ」
「ああ……流石に、八雲君一人に全て払わせるのは……」
麗日に続き、障子、耳郎、飯田が申し訳なさそうに言う。確かに十数人分の食事代は高校生の懐的には相当な負担になるのは確かだ。
だが、嵐は平然と答える。
「別に全員分払えるんだが……まぁお前らが気にすんならドリンクバー代だけ払え。それでいいだろ?」
「………あぁ、まぁお前がいいならいいけどよ。なら、借りってことでいいか?奢られっぱなしは漢らしくねぇからな」
「お前らが納得すんならそれで構わねぇよ。じゃあ、全員参加ってことでいいか?」
「それでいいけど。…なぁ爆豪、お前はどうする?」
「…………」
切島が爆豪に声をかけるも、彼は暗い表情のまま無言で鞄を持って他の者達の制止も聞かずに教室を出てしまった。
「おいっ!……って、あぁ、帰っちまったよ。……試合のこともあったし、まぁいいか。じゃあ、轟はどうすんだ?」
「悪いな、用事がある」
「おうそうか‼︎じゃあ、また明日な‼︎」
「……ああ」
そう短く答えて轟も帰ってしまった。しかし、他のクラスメイト達は教室に残っているので、この場にいる全員は参加することが決まった。
「んで、爆豪と轟は不参加と。じゃあ、あとは緑谷が戻ってくるのを待つか」
「そうだな」
残るは保健室に運ばれた緑谷だけだ。
彼を待っている間、各々が談笑して時間を潰す中、葉隠が笑いながら嵐に話しかける。
「でも、八雲君も律儀だよねー。わざわざ謝りにこなくていいのに」
「あのなぁ、不可抗力とはいえ触っちまったんだから、謝んねぇといけねぇだろ」
「うんうん、それを素で言える八雲君は紳士だよ。中学でも女子にモテたでしょ?結構告白されたんじゃない?」
「………お前が思うほど大したもんじゃねぇよ」
「またまたぁ。八雲君が大したことなかったら、殆どの男子が大したことなくなっちゃうよ?」
「いやいや、それは流石に言いすぎだろ?」
「そんなことないって‼︎」
ペアで戦ったのもあって距離が縮んだ二人は楽しそうに会話を弾ませていた。
「…………」
その様子を見ていた障子は隣から不機嫌なオーラを感じてか、ちらりと隣に立つ耳郎へと視線を向ける。
耳郎は明らかにムスッとしていて黒いオーラを漂わせながら、耳のプラグを耳でくるくる回していた。
「………耳郎、顔が怖いぞ」
「………別に」
障子の指摘に耳郎は耳のプラグを指でくるくると回しながらプイッと顔を背ける。
しかし、明らかに不機嫌なのは確かだ。その理由はいくつか思いつくが、藪蛇だと思い障子は触れずに僅かに冷や汗を流しつつもそっと目を背ける。しかし、そんな事を知らない二人は会話を更に弾ませていき、やがて葉隠が彼に礼を言った。
「あ、そうそう八雲君訓練ではありがとうね!」
「ん?サポートした事か?それなら別に礼を言わなくても「ううん!そうだけど、そうじゃないの!」…?じゃあ、何のことだ?」
訓練でサポートしたことに関してのお礼ならばさっきも言われたので、気にすることはないと言おうとしたものの、続く否定の言葉に嵐は本当に何のことか分からずに首を傾げる。
そんな彼に、葉隠はニッコリと笑いながら言う。
「八雲君は透明人間の私が活躍できるようにあの作戦を組み立ててくれたんでしょ?八雲君なら、障子君の奇襲の時点で3人纏めて倒すこともできたはずなのに、態々私が活躍できるように作戦を考えてくれたから、ありがとうって言いたかったんだ‼︎」
「…………なんだ、気付いてたのか」
葉隠の言葉に嵐は少し面食らったかのように驚くと、次いで小さく笑った。
実は今回の訓練での作戦は、葉隠が活躍の場を作れるように組み立てた作戦でもあるのだ。彼女の言う通り、嵐一人で3人を纏めて相手だったことも可能であり、態々葉隠を使わずとも勝てる試合だった。だが、嵐はそうはせずに葉隠を活躍させる為にあんなまどろっこしい作戦を使ったのだ。
その事実に気づいた葉隠は、本当に嬉しくて嵐に感謝しているのだ。
「私の個性は地味だからさ、隠密に向いてるっていえば聞こえはいいんだけど、自分からアピールしないと認識してもらえないんだよね。だから、八雲君のおかげで私の力がアピールできたのが嬉しかったの‼︎」
心底嬉しそうに言う彼女に嵐は相好を崩すと彼女の頭上に手を伸ばして彼女の頭に手を置くと優しく撫でるとニッと笑みを浮かべる。
「個性は使い方次第で化ける。それはお前の個性もそうだ。地味な訳があるかよ。お前の個性は十分凄ぇ。それに、訓練では確かにお前が活躍できるように作戦を組んだが、所詮は組み立てたにすぎねぇ。実際に作戦が成功したのは、お前の努力あってこそだ。
今回の勝利は俺だけじゃねぇ、お前の活躍もあって初めて勝ち取れたもんなんだ。
だから、俺に感謝しなくていいし、胸を張って誇ればいい。お前は今回の訓練でヒーローになれる素質を見せたんだから」
「………………」
笑ってそう言った嵐に葉隠は唖然として何も答えることができず———
———ポタッと彼女の胸元に何かが落ちた。
そして、制服に広がる染みから嵐は瞬時にそれが涙だと理解した。いきなり女子を泣かせた事に嵐は思わず狼狽える。
「わ、悪りぃ‼︎傷つけるつもりは、なかったっ‼︎その、これは……」
嵐が狼狽える一方で葉隠自身も泣き出したことに理解が追いついておらず、慌てながら言葉を紡ぐ。
「えっ?あ、こ、これは違うのっ‼︎ご、こめんね八雲君‼︎急に泣いちゃったりして……で、でも、なんかそのすごく嬉しくて‼︎……そ、その、あ、ありがとうね‼︎」
「ちょっ、葉隠、大丈夫?」
「大丈夫か?」
これには流石に不機嫌そうにしていた耳郎も驚いて慌てて彼女に近づく。障子も心配そうに駆け寄ってくる。その二人に、葉隠は涙を袖で拭いながら大丈夫だと答えた。
「だ、大丈夫だよ二人とも‼︎これは、ただ嬉しくて出ただけだから‼︎」
「それならいいけど……本当に大丈夫?」
「うん、心配してくれてありがとう、耳郎ちゃん。八雲君も今の言葉ありがとうね‼︎今まであんなこと言われなかったから、ちょっと驚いちゃった‼︎」
「……そうか」
ニコッと擬音が浮かびそうな嬉しいような、安心させるようなそんな声音で葉隠は嵐に答える。その様子に嵐は本当に大丈夫なんだと理解して自然と笑顔が浮かんだ。
そんな時だ。教室の扉が開かれ外からボロボロのコスチュームのままで更には右腕をギプスで固定している緑谷が入ってきた。
「おお‼︎緑谷来た‼︎おつかれ‼︎」
最初に気づいた切島を筆頭に何人かが彼の元へと集まっていった。そうして急に囲まれて慌てる中、ペアだった麗日も彼に気付き近づいていった。
そして一言二言話した緑谷はすぐに教室を飛び出していった。聞こえた会話から察するに爆豪の後を追ったのだろう。それを見ていた嵐は目の色を変えると動いた。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「うん、分かった」
耳郎にそう言って教室を出ると、廊下を走る緑谷の背中を捉え、彼には気づかれないようにしながら小走りで彼の後を追った。
▼△▼△▼△
緑谷を追って、階段を降りて玄関に出た嵐は、正門に続く通路で緑谷と爆豪の姿を見つけると、下駄箱の影に隠れて二人の会話に密かに耳を傾ける。
「———僕の個性は、人から授かった“個性”なんだ」
「……?」
「……っ⁉︎」
そんな言葉が嵐の耳には確かに聞こえた。
爆豪は緑谷の言葉に彼を睨んだまま、何を言ってんだこいつはと言わんばかりの表情を浮かべる。
だが、その一方で、嵐は彼の言葉に密かに大きく目を見開いていた。そんな彼の変化など分かるわけもなく、緑谷はとにかく必死に言葉を紡ぐ。
「誰かからは絶対言えない!言わない……でも、コミックみたいな話だけど、本当で……!」
「…………⁉︎」
「おまけにまだ楽に扱えもしなくて………全然モノに出来てない状態の“借り物”で……!だから……使わず君に勝とうとした!けど結局勝てなくて、それに頼った!僕はまだまだで……‼︎だから———」
爆豪と目を合わせず視線を下へ俯かせたまま、必死に言葉を紡いでいく緑谷に爆豪は青筋を浮かべ、歯を食いしばりながら怒りに震え始める。
そして、怒りのままに叫ぼうとした瞬間、緑谷がバッと顔を上げて試合の時にも見た強い意志の光が秘められた瞳を爆豪へと向けて、はっきりと言った。
「いつかちゃんと自分のモノにして、“僕の力”で君を超えるよ」
「……?……⁉︎」
爆豪は緑谷が言ったことを心底理解できないというふうに唖然と口を開けながら目が点になり、体の震えがピタリと止まった。
緑谷は緑谷で、彼には個性のことで騙してたんじゃないと伝えにきたはずなのに、どうしてこんなことを言ったのだろうかと今更ながらにハッとしていた。
「………」
「……ッ⁉︎」
少しの沈黙のうち、ふらりと身体を動かして緑谷へと振り向いた爆豪に、緑谷はまた暴言を吐かれるんじゃないかと身体をビクッとさせるも、彼の口から出たのは暴言ではなかった。
「何だそりゃ…?借りモノ…?訳わかんねぇ事言って……これ以上コケにしてどうするつもりだ……なあ⁉︎」
暴言の代わりに出てきたのは、荒っぽい怒りの言葉だ。
「だからなんだ⁉︎今日…‥俺は、てめぇに負けた‼︎そんだけだろが‼︎そんだけぇ……っ‼︎」
爆豪は怒りや屈辱、さまざまな感情で肩と声を震わせながら荒い口調で話を続ける。
「氷の奴見てっ‼︎敵わねぇんじゃって思っちまった……‼︎クッソォ‼︎ポニーテールの奴の言うことにも納得しちまった……‼︎」
思い出すのは自分が無様な試合をした後に試合をした者の姿。推薦入学を果たした二人の生徒の姿だ。
負けはしたものの轟のビルを丸ごと凍結させれるほどの圧倒的な氷結の力や、八百万の容赦ないが的を射ている厳しい講評の言葉に、爆豪のプライドが打ちのめされたのだ。
そして、極め付けが………
「白髪野郎の……八雲の野郎には……どんだけ足掻いても、何も出来ねぇんじゃねぇかって思っちまったし、あいつの言葉にも納得してビビっちまってた‼︎雄英に入ってから散々思い知らされちまったっ‼︎」
嵐の圧倒的なまでの戦いに、静かな怒りが込められた言葉に、爆豪の肥大化しすぎたプライドが根本からへし折られたのだ。
入学初日から今日のたった二日間で、爆豪は自分よりも格上と認めざるを得ない存在を3人も目の当たりにし、自分の弱さを散々思い知らされた。
「クソが‼︎クッソ‼︎クソクソクソクソォッ‼︎‼︎なぁ‼︎テメェもだ……‼︎デク‼︎」
爆豪は行き場のない怒りをぶつけるかのように左手を何度も振り下ろすような仕草をしながら、顔を上げた。
………彼の瞳には涙が浮かんでいた。
完膚なきまでに打ちのめされた爆豪は泣いて声を振るわせながらも、何とか言葉を紡ぎながら宣言する。
「こっからだ‼︎俺は…‼︎こっから…‼︎いいか⁉︎俺はここで、
泣きながらも力強く宣言した爆豪は緑谷から完全に背を向けると、涙を乱暴に拭いながら言う。
「俺に勝つなんて、二度とねぇからな‼︎クソが‼︎‼︎」
そうして再び帰路を進める爆豪とそれを見ながら、緊張が解けて脱力しかけている緑谷だったが、彼のそばを一人の男が声を張り上げながら走り抜ける。
「いた———‼︎爆・豪・少年‼︎」
走り抜けたのはコスチューム姿のオールマイトだ。彼は緑谷との試合以降、明らかに意気消沈していた爆豪に、教師としてしっかりカウンセリングせねばと思い探し回っていて今ようやく彼を見つけたのだ。
オールマイトは彼の両肩を掴むと荒くなった息を整えると、爆豪に慰めの言葉をかける。
「言っとくけど…!自尊心ってのは大事なもんだ‼︎君は間違いなく、プロになれる能力を持っている‼︎君はまだまだこれから……「放してくれよ、オールマイト、歩けねぇ」……ん?」
慰めの言葉をかけて彼を立ち直らせようと教師の責務を果たさんとしていたオールマイトだったが、予想外の爆豪の反応に首を傾げる。
爆豪は涙を拭いながらも、オールマイトへと振り向いて、強い意志が宿った瞳でオールマイトを見返すとはっきりと言った。
「言われなくても‼︎俺はあんたをも超えるヒーローになる!」
(あれ———⁉︎立ち直ってるぅ———⁉︎)
オールマイトのイメージ的には自分が慰めて立ち直らせるつもりだったのに、どう言うわけか、彼は既に立ち直っており、自分の事を呆気なく振り払ったのだ。
(…………教師って、難しい……)
そのまま立ち去る爆豪の背中を見送りながら、オールマイトは何とも言えない様子でそう思っていた。
そして、緑谷へと振り向くと、二人が何を話していたのかを聞くために彼へと近づいていく。ことの一部始終を陰から見聞きしていた嵐は完全に彼らから背を向けて、教室へと戻るために歩き出した。
嵐は歩きながら、口の端を小さく吊り上げておもしろそうに笑った。
「爆豪の奴……ああ言った手前、少し心配だったが、何だよ、自分一人でも立ち直れてんじゃねぇか。折れりゃあ脆いと思ってたのにな、よく持ち直したもんだ」
嵐は爆豪は肥大化しすぎた自尊心のせいで一度折れれば、立ち直るのに時間がかかると思っていたが、よもやその日のうちにあそこまで持ち直せているとは、いい意味での予想外だったのだ。
「……これから、あいつは、確実に強くなるな」
挫折を経験し、立ち上がったものは強くなる事を嵐は知っている。言動はともかく、挫折を経験するというのは、大きな意味があり、それを糧にすれば大きな成長へと繋がるからだ。
爆豪もそうであり、これから彼は大きく成長することだろう。
「……ハハッ、あいつのこれからが楽しみだな」
嵐は彼が再起したことに感心し、これからに期待しながらも、その次には困ったような表情を浮かべた。
「………しっかし、とんでもねぇこと聞いちまったな」
嵐は心底困ったように呟く。
緑谷の個性に関する疑問。その全てが、思わぬ形で大方解決してしまったからだ。
(……つまり………緑谷の個性の練度が低すぎるのは、授けられたばかりで、まだ
まさしく個性が発現したての子供と同じと言うわけだ。ならば、緑谷の現状も納得いくし、爆豪の話も頷ける。
体がボロボロになるのは個性がまだ使い慣れていないからであり、同時に彼が無個性だったのもおそらく事実であり、最近にあの超パワーの個性を授かったのだろう。
だから、あそこまで練度が低いのだ。
(………だが………誰から授かったんだ?)
個性の練度が低い理由は解決したが、当然次はそんな疑問が浮かび上がった。
『授かった』というのなら、確実に『授けた』人物がいるはず。その人物が誰か考えようとした時、一人の人物が浮かび上がる。
「………まさか………オールマイト、なのか?」
緑谷とオールマイトの個性は似ている。
昨日見た時点でそうは思っていた。超パワーというシンプルだが強力な個性。オールマイトはその個性で多くの敵を倒してきた。
そして、緑谷もまた超パワーという個性で、使い慣れておらず使う度に体を壊していた。
改めて思い返せば二人の個性は似てると言うよりかは、練度の差があるだけで全く同じだったのだ。
そして、今日の訓練でもオールマイトが緑谷に何かしらの特別な想いを抱いているのは確定している。それが、師匠と弟子という関係からきたのだとしたら、オールマイトがあの時試合を止めなかった理由にも辿り着ける。
つまり、オールマイトはあの時、緑谷の成長に繋がる必要なことだからと、試合を止めなかったのだ。
「……はぁ、そういうことか」
彼に対して抱いていた全ての疑問が全て連鎖するように解けてしまった嵐は頭に手を当ててため息をついた。
(こりゃ、黙っとくべき奴だよなぁ)
こんな話、おいそれと話していい物ではない。
もしも世間に知られて仕舞えば、力を奪おうとする輩が溢れかえることは明らかだからだ。
社会の混乱を防ぐためにも、ひいては緑谷自身の身を守るためにもこれは秘密にしておかなければいけない物だった。
その危険性を十二分に分かっている嵐は、秘匿しておく事を密かに誓うとともに、暗い表情を浮かべた。
(………しかし、『授ける』個性か。俺のといい、本当に個性は多種多様だな)
個性の種類はまさしく千差万別であり、自分のような厄災の具現もあれば、緑谷やオールマイトのような物まであることに嵐は改めて世界は広いなと思った。
———その時、脳裏にある記憶が不意によぎった。
『出て行け。お前のような怪物が、◼️◼️を名乗るな』
『お願いだから、私達の前に二度と姿を見せないで。貴方のせいであの子は死んだのよ』
『可哀想よのう。お主のせいで、あの子の未来が奪われたのじゃからな』
脳裏に響く、暗く冷たい拒絶の声。
自身が人間ではなく、怪物だと認識した過去の事件の後のこと。大切で、大好きで、憧れだった人達に——自分の存在を否定された哀しき記憶。
その時の彼らの声が、どういうわけか今脳裏に響いたのだ。
「………ヅゥっ」
嵐はズキリと頭に走った一瞬の痛みに顔を顰め頭を押さえると、体を蹌踉めかせて壁に肩からもたれかかった。
「クソが……何だって今更……こんな事を思い出すんだよ……」
頭を押さえながら彼は忌々しくそう吐き捨てる。
しかし、彼の表情はその言葉に反して苦々しいものであり、悲しみを押し殺すかのような、そんな悲痛なものであった。
嵐にとって思い出すたびに、胸が締め付けられ罪悪感と悲しみで埋め尽くされるような過去の記憶だ。どうして今思い出したかはわからない。だが、思い出したせいで、嵐の表情は自然と暗くなり、呼吸が早くなる。
しばらく嵐は深呼吸を繰り返し、落ち着かせると、スッと背筋を伸ばし前に踏み出しながら決然とした表情を浮かべ静かに呟く。
「………あぁ、分かってるさ。分かってるよ、俺が怪物ってことくらい。だが、紅葉姉の想いを無駄にしない為に、俺はヒーローにならなくちゃいけねぇんだ。———それが、俺にできる唯一の償いなんだから」
まるで、自分に言い聞かせるかのように、あるいは強く刻み込むかのように一人静かに呟きながら、嵐は夕日が射す廊下をゆっくりと歩いていった。
アマツの飛膜ってマジで触り心地が素晴らしいと思うんですよね。個人的に。神の衣とも称されるくらいだし。
嵐に褒められて照れた上に嬉し泣きする葉隠に、ソレを見てやきもきする耳郎。
さぁヒロイン争奪戦はどうなる!?誰が嵐のヒロインになるんだぁ⁉︎
そして最後嵐の過去が少しだけ明らかになりましたね。彼の過去は追々明かしていくつもりです。
嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?
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小野大輔
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諏訪部順一
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細谷佳正