天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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13話 委員長決め

 

 

初めての戦闘訓練の翌日。

高校生活が始まり3日目。嵐は雄英高校の正門前で大勢に囲まれていた。

囲んでいるのはスーツ姿や私服姿など格好こそ様々なだが、みんなマイクやカメラを、ボイスレコーダーを構えているのは共通していた。

彼らは、いわゆるマスコミという人種だ。金になるネタに貪欲な彼らが登校中だった嵐を取り囲んでいたのだ。

 

「オールマイトの授業はどんな感じですか?」

「教師オールマイトについてどう思っていますか?」

「あの『平和の象徴』が教壇に立っている様子を聞かせて‼︎」 

 

全員が一貫してオールマイトについてのインタビューをしており、それについての返答を求めているようだった。

一斉にマイクやボイスレコーダーを突き出し、カメラを向けてくる彼らに、嵐は心底うんざりしていた。

 

(ウゼェなぁ。これだから、マスゴミは嫌いなんだよ)

 

嵐はマスコミが嫌いだ。今のように校門前を堂々と塞ぎ、生徒や教師達の通行を邪魔しておきながら平然としており、欲しいネタの為に他者への迷惑も厭わないような常識の無さに彼は常日頃から呆れているのだ。

 

「一言もらったら帰るからさ‼︎お願い‼︎」

 

嵐の一番近くにいた女性リポーターが鬼気迫る様子でマイクを突き出して詰め寄ってくる。

他よりも大柄な体型である為、人の流れにもみくちゃにされる訳ではないものの、四方八方からマスコミが押し寄せるせいで満足に動けない。

 

(………強引に突破するか)

 

いい加減に苛立ってきたので、強引に彼女らを押し退けて校門をくぐろうとした時、嵐の耳がクラスメイトの声を拾った。

 

「ちょっ、通れないって!」

「ケロ……どうしようかしら……」

 

耳郎と蛙吹の声だ。そちらに首だけ向ければ、周りを囲むマスゴミ共との身長差のせいか二人の頭頂部しか見えなかったものの、間違いなく彼女らが囲まれて戸惑っていることが分かった。

 

「チッ………ゴミ共が……」

 

明らかに困っているのに一向に引こうとしないマスゴミの態度に嵐は不快感を隠さずに舌打ちをして小さくつぶやく。

 

「えっ?何言って……聞こえないから、もういっ「答える気ないんで、そこどいて下さい」…ひっ」

 

発言をせがむ女性リポーターに嵐は怒りや呆れを隠さない冷たい視線を向けて、微かな怒気を含んだ言葉と共に強制的に黙らせると、そのままズンズンとマスコミの人海を押し退けていく。そして、次々と押し退けていきながら、二人の元へ近寄ると、上から声をかける。

 

「二人とも大丈夫か?」

「ご、ごめん、助かったよ」

「助かったわ。八雲ちゃん」

 

二人は乱れた髪を直しながら、礼を言う。一先ずは無事であることに嵐は一瞬微笑むと、すぐに一転して貼り付けたような作り笑いを浮かべると自分と少し距離をとっているマスコミ達へと振り向き、淡々と言った。

 

「校門前を塞いで、更には平然と人に迷惑かけて、常識ないんですか?アンタらは。

あぁ、すみませんね、アンタらみたいな人種は金になるネタ見つけりゃ、ハイエナのように群がって他人の迷惑なんて知ったこっちゃねぇ奴らでした。今も生徒の通学の邪魔してても無視してたぐらいですし、常識なんてあるわけがないか」

「「「「…………」」」」

 

容赦なく紡がれていく言葉に、マスコミ達は思わず絶句とする。一学生がここまで言うことはなかったからだ。

唖然とする中、嵐は尚も続けた。

 

「どうせアポも取ってないんでしょ?アポ取ってない上に校門前に陣取ってるなんて、迷惑でしかない。

いくら張り込んだところで、アポ取ってなきゃ時間の無駄なんで、とっとと引き上げて他所で仕事に励んでください。………ほら、さっさと行くぞ。こんなんに邪魔されてHRに遅れると、先生に怒られるからな」

 

つまらなそうに鼻を鳴らして彼らから完全に視線を外すと、ポカンとしている二人へとそう告げて、ずかずかと人混みをかき分けて進んでいく。

 

「あ、ちょ、ちょっと待って!」

「ケロケロ…」

 

二人は嵐が通った後に空いた道を通って慌てて彼について行き、マスコミの人海から抜け出した。マスコミ達は嵐の容赦ない言葉の重みに打ちのめされてしまい、沈黙していた。

そして、肩を落として沈むマスコミを尻目に耳郎が少し心配そうに隣を歩く彼を見上げながら尋ねる。

 

「いいの?あんなこと言って、もしかしたら有る事無い事書かれるかもよ?」

「別にそんなのどうでもいい。俺は事実しか言ってないしな」

「でも、喧嘩腰で行くのは感心しないわ。プロになればああいったインタビューもあるかもしれないから、柔らかい対応も覚えておくべきよ」

 

耳郎にはそう答えたが、続く蛙吹の鋭い指摘に、嵐は少し考えこむそぶりを見せながら返す。

 

「……まぁそれもそうだが、その時はその時だろ。相手がしっかり礼儀守ってくれんなら、インタビューにもしっかり答えるさ。だが、誰かが危なくて助けに行こうとした時、あんなのがいたら迷惑だろ?」

「確かに八雲ちゃんの言い分も納得よ。救助を妨害されたら流石の私も怒るわね。けど、そう言う時以外はやんわり断る方が印象はいいわ。それに、八雲ちゃんは確か子供達が安心して笑える未来を作れるヒーローになりたかったのよね?」

「ああ、そうだが、それが?」

 

自分が目指すヒーローの形のことを言われるも、それをどうして今言うのかわからない嵐は首を傾げる。そんな彼に、蛙吹はズバリと言った。

 

「なら、余計に柔らかい対応を心掛けておいた方がいいわ。子供達も笑ってるヒーローの方が嬉しいと思うから」

「ぐっ……それを言われると、何も言い返せねぇ」

 

彼女の鋭い言葉に嵐はぐぅの音もでない。確かに子供達の未来を思うならば、怖い顔よりも笑顔の方が安心させることができれるだろう。

 

「あー、確かに。八雲怒ってる時って顔怖いとこあるからね。そこは子供達の前では気をつけた方がいいよね」

「……………OK、善処する。これからは気をつける」

 

続く耳郎の言葉に嵐は遂に参ったかのように手をひらひらさせながら、そう答えた。その様子を見て蛙吹は微笑む。

 

「ケロケロ、私思ったことは何でも言っちゃうの。だから、気を悪くさせたらごめんなさいね」

「いや、そう言うのは大切だ。サンキューな、蛙吹」

「どう致しましてよ。ところで、八雲ちゃん、私のことは梅雨ちゃんと呼んで。お友達にはそう呼んで欲しいの」

「まぁ、別に構わねぇぞ。梅雨ちゃん」

「ありがと。なら、急ぎましょう。このままじゃ本当にHRに遅れちゃうわ」

「うわ、やばもうこんな時間!」

 

そう言って3人は少し急いで校舎内へと入っていった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

そうして朝のHRが始まり相澤が入ってくる。彼は書類の束を教壇に置くと開口一番に昨日の戦闘訓練のことについて言及し始めた。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらったよ」

 

彼はそう言うと、爆豪へと視線を向けると昨日の戦闘訓練での彼の行動を咎める。

 

「爆豪、お前もうガキみてえな真似するな。せっかく能力はあるんだから。それに初日にも言ったろ。これから人に注目されるようになると。今回ばかりはお前の行動は目に余った。以後は気をつけるように」

「………分かってる」

 

爆豪は彼の言葉に伏し目がちになりながらも、確かに反省していることを見せつつそう返した。相澤は爆豪に説教すると、次にその後ろの席の緑谷へと視線を向けて、今度は彼を咎める。

 

「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か。“個性”の制御…いつまでも『出来ないから仕方ない』じゃ通さねぇぞ。それに、お前も爆豪同様危険行為をしていたな。だからお前も気をつけろよ。

言っとくが、俺は同じことを言うのが嫌いだ。個性の制御さえクリアすれば、後はやれることが多い。焦れよ?緑谷」

「っはい‼︎」

 

ある意味激励とも言える言葉に、顔を俯かせて沈んだ表情を見せていた緑谷は、やる気に満ちた声で元気よく返事する。

そうして、戦闘訓練の言及が終わり、次の話へと移る。

 

「さて、HRの本題だ。………急で悪いが今日は君らに……」

((((何だ…⁉︎また臨時テスト…⁉︎))))

 

相澤の凄みが増したことで生徒達の間に緊張が走る。もしかして、また臨時テストをやらされるのではないかと身構えたのだ。

そうして相澤は遂に言った。

 

 

「学級委員長を決めてもらう」

『学校っぽいの来た———‼︎‼︎』

 

 

予想がいい意味で裏切られた事、かつ学校らしいイベントが来たことで歓喜の声を上げる生徒達。初日の入学式をお預けされた上、除籍宣告がかかった個性把握テストをやらされていたのだ。やっと、学校らしいことができるとクラスメイト達は嬉しかったのだろう。

そして、その歓喜のままクラスメイト達はこぞって手を上げた。

 

「委員長‼︎やりたいですソレ俺‼︎」

「ウチもやりたいス」

「オイラのマニフェストは女子全員ひざうえ30cm‼︎」

「ボクの為にあるヤツ⭐︎」

「リーダー‼︎やるやるー‼︎」

「俺にやらせろー‼︎」

 

誰もが我こそはと言わんばかりに手を上げている。

学級委員長。普通の高校ならば成績優秀者がやるか、雑務をこなさないといけない理由で押し付けることが多い面倒な役割だ。

だが、ことヒーロー科では違う。

多を纏め集団を導くというトップヒーローに必須なスキルを鍛えられる役割である為にこぞってやりたがっているのだ。

 

しかし、席の列から一人離れた最後席に座る嵐は、こぞって主張し合うクラスメイト達の様子を、手は上げずに頬杖をつきながら呑気に眺めていた。

 

(皆率先して手を挙げてるなー)

 

嵐は中学では生徒会長をしており、クラスだけでなく学校のまとめ役として奔走していた。

当時はその役割を見事に全うしており、学級委員長も適正があるかないかで言えばあるのだが、嵐自身は学級委員長をやろうという気は湧かなかった。

それは、中学での生徒会長はなし崩しにやっていた部分が大きくて、周りが後押ししてあれよこれよと気づけば生徒会長になっていたものであり、彼自身は人の上に立って多くを導くような人間にはなれないと思っているからだ。

過去に取り返しのつかないことをして、一人の家族の未来を奪った自分に、どうしてこのヒーロー科A組を導く資格があるのだろうか、と。

嵐がそう考える傍ら、誰も譲ろうとはせずに我こそはと手を上げて主張し合っており、いくら経っても埒があかない、そう思った時一人が声を上げた。

 

「静粛にしたまえ‼︎‼︎」

 

声を上げたのは飯田だ。

 

「多を牽引する責任重大な仕事だぞ…‼︎『やりたい者』がやれるモノではないだろう‼︎周囲からの信頼あってこそ務まる聖務‼︎民主主義に則り真のリーダーを皆で決めると言うのなら……これは投票で決めるべき議案‼︎‼︎」

 

真剣な表情を浮かべていった彼の言葉は確かに正しい。やりたいからやるような人間には信頼なんてあるわけがないし、ついて行こうとも思わないだろう。誰もがなりたかったのにならなかったことに密かに不満を抱いて爆発するかもしれない。

そういった危険もあるので投票にて信頼が厚いものが担う。確かにソレは道理だ。道理、なのだが………

 

「聳え立ってんじゃねーか‼︎何故発案した‼︎‼︎」

 

上鳴の指摘通り、間もまた他のクラスメイト達同様、手を上げていたのだ。しかも、指先を揃えた綺麗な挙手を。

 

(挙がってなきゃいい事言ったのになぁー)

 

建前と本音が一致してない彼の不器用さに、嵐は苦笑を浮かべる。

 

「日も浅いのに、信頼もクソもないわ。飯田ちゃん」

「そんなん皆自分に入れらぁ‼︎」

 

そんな彼に蛙吹が当然の指摘をして切島も続いた。だが、これに飯田も反論する。

 

「だからこそここで複数票を獲った者こそ、真に相応しい人間ということにならないか⁉︎どうでしょうか先生‼︎」

「時間内に決めりゃ何でもいいよ」

 

本当にめんどくさそうに相澤は適当に許可するとそのまま寝袋に入って寝てしまった。

これ以上時間を無駄にするわけにもいかないので、そのまま投票開始になった。

 

(………飯田だな)

 

皆が少し悩む中、嵐は速攻で飯田の名前を投票用紙に記入した。

ソレから数分後、全員がかき終わり投票結果が公開されたのだが………

 

「えぇ〜………マジかよ………」

 

最後列でそんな唖然とする嵐の声が小さく響く。何故なら、投票結果は嵐の予想から大きく外れていたからだ。

肝心の結果はというと、

 

 

八雲嵐  14 峰田実  1

八百万百 2 青山優雅 1

緑谷出久 1 飯田天哉 1

爆豪勝己 1

 

 

こうなった。

まさかの嵐が過半数票を獲得していたのだ。

次点で八百万が二票でその他は一票ずつという圧倒的大差をつけての結果に終わっていた。

 

「し、白髪野郎が14票⁉︎なんでだぁ‼︎‼︎」

 

爆豪はこの投票結果に納得がいかないのか、思わず椅子から立ち上がって愕然としながら荒れていた。ちなみに、彼の1票は自薦なので、信頼は欠片もないことになる。

 

「まー、オメェに入れるよか数億倍マシだろうよ」

「爆豪と峰田のストッパーになってくれるし、八雲一択でしょ」

「ああ、八雲はリーダーシップがあるからな。あいつこそ委員長に相応しい」

「八雲君女子の味方だし、爆豪君とは段違いに信頼できるからね‼︎」

「んだとゴラァァァ‼︎‼︎」

 

爆豪にそう言う瀬呂、呆れ目で見る耳郎、当然と言うふうに頷く障子、はっきりと言う葉隠に爆豪は一気に沸点を迎えてブチ切れて叫んでいた。

嵐は、嵐が思う以上にこのクラスで彼自身気づかないうちに信頼を得ていたのだ。

 

「1票…⁉︎誰が俺に入れてくれたんだ⁉︎すまないっ‼︎誰かは知らないが、期待に応えられなかった‼︎」

「他に入れてたのね……」

「お前もやりたがってたのに……何がしたかったんだ?飯田……」

 

自分は別の人に投票しているのに、誰かが1票を入れてくれたことに愕然としながら、謝罪をする飯田に、八百万と砂藤は何がしたかったのかと呆れる。

 

「じゃあ委員長は八雲。副委員長は八百万だ」

「うーん、八雲さんがいる以上不利なのは分かっていましたが、やはり悔しいですわね」

「………俺はやるつもりなかったんだがなぁ。どうしてこうなったんだか……」

 

教壇に当選した嵐と八百万を並ばせてそういう相澤の傍で、八百万は悔しそうにしており、一方の嵐はどうしてこうなったのかと困ったようにぼやく。

八百万はそんな彼に尊敬の眼差しを向けながら言った。

 

「そんなこと……八雲さんは生徒会長経験もありますし、皆様からも信頼されているんですよ。ですから、これは納得のいく結果ですわ」

「…………けどなぁ」

 

彼女の言葉に何とも言えない表情を浮かべながらクラスメイトを見渡す。爆豪と峰田が恨みがましそうにこちらを睨むのを除き、殆どが信頼と期待を嵐に向けていた。

それらに観念したのか、嵐は小さくため息をつくと、肩を竦めて小さく苦笑を浮かべる。

 

「ま、しゃあねぇか、こうも任された以上はやるしかねぇな。じゃあ、俺が学級委員長ってことでよろしく頼む」

 

こうして嵐が委員長に、八百万が副委員長に就任した。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

そして時は過ぎ、昼休み。

嵐は耳郎、障子と共に食堂で昼食をとっていた。ちなみに、途中で合流した拳藤と取陰も一緒だ。

 

「へー、じゃあそっちは八雲が委員長になったんだ。でも、そりゃそうか。むしろ、八雲がならなきゃおかしいよな」

 

拳藤はカレーをスプーンで掬って食べながら、A組の人選に納得して呟いた。だが、それに嵐が眉を吊り上げて反論する。

 

「はぁ?俺以外にも適任はいるはずだろう」

「いや、それはどうだろうね。全く関わりのないB組の私らから見ても八雲って人当たりいいし頼りになる印象あるから」

「ブチギレる爆豪とかセクハラする峰田も八雲なら止めれるからね。それに、判断も的確だし頼りになるんだよね」

「そうだな。俺は既に八雲のことを信頼している。お前なら誰よりもクラスを引っ張っていけると思った。だから、お前に投票したんだ」

「……そういうもんかぁ?」

 

反論に対して次々と返される言葉に、嵐は親子丼を食べながら困惑したように首を傾げ呟いた。

 

「そういうもん。あんたは単純な強さでもA組最強だし、何より人を動かす力もある。実際に入試の時は私達はあんたに心動かされて戦ったわけなんだし」

「そうそう、お前には人を惹きつける魅力があるよ。でなきゃ、私なんてあの時ただ逃げるだけの腰抜けになってた。八雲のおかげで戦おうと思ったし、そのおかげで合格もできたからね」

「…………」

 

更に続く耳郎と拳藤の言葉に、嵐はついに完全に何も言えなくなり照れくさそうにだんまりとする。それを耳郎達は生暖かい視線で優しく見守っていたが、その視線に耐えきれなかった嵐は強引に話題を変える。

 

「そ、そういえば、B組は誰が委員長になったんだ?」

「ん?ああ、こっちは一佳だよ」

「拳藤か。なんか納得だな」

「うん、姉御みたいな感じするもんね」

「確かにな」

 

A組の3人が拳藤が委員長に納得してそう言うが、今度は拳藤が照れた。

 

「や、やめてよ。私だって切奈達の推薦があってやることになっただけなんだから。そう言われると恥ずかしい」

「えー、でも、一佳がならなかったらアイツがなってたかもよー?ソレは流石に嫌でしょ」

「あぁ、うん、まぁアイツがなってたら、女子はともかく男子は多分食われるからね。ソレは流石に勘弁」

「アイツ?」

 

拳藤と取陰の会話に出てきた存在に嵐は思わずそう尋ねた。察するに嫌な奴なのだろう、現に二人は苦い表情を浮かべながら応えた。

 

「実は、B組(ウチ)には問題児というか、ひねくれた奴がいてさ。物間って言うんだけど、凄い腹黒かつ嫌味ったらしい奴なんだよ」

「そのくせ妙なカリスマあってさ、一佳を推薦してなかったらアイツが委員長になってたかもしれなかったんだよね。そうなると、男子は全員そいつに呑まれかねない」

「えぇ、面倒くさ。何そいつ……」

「聞くからに厄介そうだな……」

「そう、本当に面倒なんだよ」

 

聞くだけでも厄介そうな生徒の存在に耳郎と障子は思わずそう呻き、拳藤も思わずため息をつくほどだ。

 

「つまり、爆豪の陰湿版みたいなもんか」

「………あぁ、なんか簡単に想像できたわ」

「………それは本当に面倒だ」

 

嵐が個人的に抱いた印象でA組の二人は心底面倒臭そうだと思った。確かにあの爆豪が陰湿な男になれば、ソレはソレで面倒臭いからだ。

そして、A組にも面倒臭いのがいることに気づき、興味深そうに拳藤は尋ねる。

 

「なに?そっちにもそういうのいるの?」

「………まぁ、二人ぐらいな。片方は暴言ばっかり言う不良で、もう一人はセクハラ下種葡萄」

「うわぁ、そっちの方が大変じゃん。しかもソレまとめんのが八雲なんだろ?」

「………やめろ。言うな」

 

額に手を当ててげんなりとする嵐。あの二人の対応をこれからしないと考えれば、確かにうんざりするだろう。

そんな彼の様子に拳藤は笑いながら謝罪した。

 

「ごめんごめんって、でも……物間には気をつけなよ。間違いなくお前が嫌いなタイプの人間だろうしな」

「話聞くだけでも、もう関わりたくないからな」

「だろうね」

 

嵐の心底面倒そうな顔に、拳藤はそう頷く。まだ数日の付き合いだが、彼の性格を考えれば物間とは確実に相性が悪いと分かりきっていたからだ。

その時、耳郎がふと気になっていたことを嵐に尋ねた。

 

「そういえば、八雲は誰に投票したの?元々やるつもりなかったって言ってたよね?」

「そういえばそうだったな」

 

耳郎の質問に障子も便乗する。嵐は緑茶を一口啜るとその質問に答えた。

 

「俺は飯田に入れたぞ」

「ソレはどうしてだ?」

「単純にアイツが向いてると思ったからな。全員が我こそはと名乗り上げる中、アイツはいち早く全員を纏めて投票という形に持っていった。皆を纏めて状況を変えたからこそ、アイツがふさわしいと思ったんだよ」

 

嵐の説明に全員が納得したり、感心したりと様々な反応を見せた。

 

「やっぱ八雲って色々考えてるんだなぁ」

「というか、あの短時間でそこまで考えていたか……」

「そこまで頭が回るなら、八雲が委員長やって正解じゃない?」

「………何でそうなる」

 

そうして平穏な時間を過ごす嵐達だったが、ソレは不意に校舎内に響いたけたたましい警報音によって破られる。

頭に響くような嫌な音に食堂にいた全員が動きを止める。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

「セキュリティ3だとっ⁉︎正気かっ⁉︎」

 

警報音が鳴り響くと同時に聞こえてきたアナウンスに嵐はあからさまに目を見開きながら、思わずそう叫ぶ。その直後、食堂はパニックに襲われる。

生徒達が動揺して狼狽える中、拳藤が何か知っているらしい嵐に咄嗟に尋ねる。

 

「八雲‼︎セキュリティ3が何かわかんのか⁉︎」

「校舎内に誰か侵入してきたってことだ‼︎だが、こんな白昼堂々と侵入するなんて正気じゃねぇっ‼︎」

「侵入者⁉︎嘘でしょ⁉︎」

 

姉から話を聞いていて存在は知っていた嵐が手短にそう答える。それを聞いた耳郎達は明らかに動揺して他の生徒達と同じように出入り口に駆け込もうとするが、ソレを嵐が止める。

 

「お前らこっちに寄れ‼︎巻き込まれるぞ‼︎」

「えっ、うっ、うんっ‼︎」

「分かった‼︎」

 

出入り口になだれ込む生徒達の流れに巻き込まれぬよう嵐が耳郎、拳藤の手を引きながら柱の影に素早く移動して二人を庇う。障子も取陰の手を引きながら、嵐達についてきた。

視線の奥で出入り口に殺到してパニックになっている生徒達を見ながら嵐は周囲を警戒しつつ思考を巡らせる。

 

(侵入者なのは確か。だが、プロヒーローが集まるこの雄英にこんなあからさまに侵入するか?だとしたら、敵ではない。……じゃあ、一体、誰が………っ)

 

そこまで考えた時、嵐は窓の外にいる存在に気づき、嵐は瞳に怒りの色を乗せる。

 

「朝の時といい……本当に目障りだなっ。マスゴミ共が」

 

毒づく嵐の視線の先にはマスコミの大群がおり、校舎入口の方に殺到していた様子があったのだ。

 

「や、八雲何かわかったの?」

 

どこかを見ながら視線を鋭くする嵐に、拳藤が慌てながら尋ねる。嵐は拳藤達に視線を向けると、向こうを見るように促しながら口を開く。

 

「外を見てみろ。原因はマスコミ達だ。あいつらが侵入してきやがった」

「マスコミって、嘘っ、朝の⁉︎どうやって…⁉︎」

「知らねぇ。ただ傍迷惑なことには違いねぇな」

「どうするつもりだ?八雲」

 

周囲を見渡しながら障子がそう尋ねる。出入り口の方を見れば津波のように生徒達が殺到しているせいで渋滞しており、前に進もうにも進めないが、後ろからずっと押され続けており、下手をすれば怪我人が出てもおかしくない事態になっていたのだ。

そして、この現状をどうすべきかと必死に考えている拳藤達に嵐は上を見ながら、応えた。

 

「俺に考えがある。だから障子、3人を巻き込まれないように庇っておけ」

「?ああ、分かった」

 

嵐は障子にそう応えると、四人から少し距離をとると、軽く屈むと風を纏って一気に飛び上がる。

そして、天井スレスレまで飛び上がり生徒達が見渡せる位置で浮遊すると、大きく息を吸い大声を発した。

 

 

 

「全員落ち着けぇっ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

嵐の声が食堂全体に響き渡り、空間をビリビリと震わせる。窓ガラスが震えるほどの大声が、パニック状態に陥っていた生徒達の動きを無理やり止めさせて、嵐の方へと視線を向けさせた。

殆どの視線が自分の方へ向いたことを確認した嵐は、窓の方を指差しながら言う。

 

「全員安心しろ。外にいんのは金とネタに目がねぇマスコミどもだ。パニックになる必要はねぇ。それに、俺らは高校生だ。なら、ちっとは年相応の行動をしろって話だ。

警報が鳴ったからって慌てて出口に駆け込もうとすんな。まず、落ち着いて周囲の状況を確認しろ」

 

嵐の言葉に生徒達が揃って窓の外へと視線を向けて、彼の言った通りに侵入者がマスコミだとわかると、生徒達の顔から一気に恐怖が消えて、安堵の表情へと変わっていき、次第に解散していった。

生徒達が落ち着いて各々自分達が座っていた席へと戻る中、嵐は耳郎達がいる柱の場所へと戻ると、ふわりと着地する。

 

「お疲れ、ナイス演説だったよ」

「別に大したことしてねぇ。慌てる奴らに正確な情報を教えただけだ」

「それでも、大勢を落ち着かせる統率力を見せたんだからいいじゃん。やっぱ八雲が委員長で正解だよ」

「…………」

 

改めて嵐を称賛する耳郎に照れ臭いような表情を浮かべながら、ふいっと視線を背け口早に言う。

 

「とっとと席戻るぞ。せっかくの昼飯が冷めちまう」

「はいはい、早く戻ろっか」

 

そうして、他の3人と一緒に席へと戻り昼食を再開させた。

その後、人の波に巻き込まれた飯田、緑谷、麗日などの食堂で昼食を取っていたA組面子に囲まれ彼らからも多大な賞賛と感謝をされた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「……これは………」

 

 

昼休みが終わり、五限後の休み時間に入った時、嵐は険しい表情を浮かべて一人校門前に立っていた。

嵐の視線の先には、雄英の正門や壁を含めた全てが要塞の門扉を思わせるような巨大なセキュリティゲートが迫り上がっているせいで見えない。

これは通称『雄英バリアー』と呼ばれ、学生証や通行許可IDを身に付けていないものが門を潜れば、校内の至る所にあるセンサーが感知して、普段は地下に格納されているこのセキュリティゲートが迫り上がるシステムになっている。

 

ゲート自体が相当強固に作られており、『あのオールマイトが殴っても大丈夫なほど頑丈』という触れ込みまであるそうだ。

それほど頑丈であれば並大抵の侵入は許さないだろう。

そのはずだったのだが………

 

「………明らかにマスゴミの仕業じゃねぇよなぁ」

 

嵐は変わり果てたゲートを見上げながらそう呟いた。

今嵐の目の前には、完全に外との視界を遮断している頑丈なゲートではなく、正門部分に巨大な風穴が開いたゲートの姿があった。

 

マスコミにこれだけの強固な門を破れる力があるとは到底考えられない。

ネタを探して記事にする仕事をしている彼らであっても、事と次第によっては社会的批判は免れない。それは彼らとて分かっているはずであり、どうあってもマスコミがオールマイトへのインタビューしたさにこんな凶行をしでかすとは思えないのだ。

だから、そこから得られる可能性は一つ。

 

「………敵、の仕業か。マスゴミは利用されたと見ていいな」

 

足元に散らばる門の残骸。細かく砕かれたであろう破片を見下ろしながら、嵐は険しい表情のまま小さく呟いた。

これほどの強固なゲートを粉々にできるほどの個性。間違いなく危険な個性だろう。

 

「……考えなしの馬鹿げた挑発か……あるいは、雄英、ひいてはヒーローへの宣戦布告か。なんにせよ……胸騒ぎがするな」

 

自身に宿る『嵐龍』の本能のせいか、嵐は昼休みの一件からずっと胸騒ぎが止まらなかった。同時に今回の一件に対してある確信もあった。それは———

 

 

「近いうちに必ず次が来るな」

 

 

そう。次がある。しかも近いうち、おそらくは一週間以内に敵が本格的に侵入してきて大事を起こすつもりなのだと、確信できたのだ。

今回はマスコミを利用して、侵入できるかのテストを行ったのだろう。テスト段階の結果を鑑みて、侵入するかどうかを試したのかも知らない。

 

「………只者じゃねぇなこいつは。警戒しておいた方がいいか」

 

不気味な悪意が密かに、されど確実に迫りつつある予感に、嵐は顔も姿もわからない敵の襲撃に一人危機感を高めて、次の本格的な襲撃に備えた。

 

 





原作で緑谷が飯田に委員長を譲るシーンは正直に言うとおかしいんですよね。なぜ、副委員長である八百万の意見を聞かないのかが不思議でした。

そして、次回いよいよUSJ事件突入です。

嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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