今回からUSJ突入ですっ‼︎
マスコミ侵入事件から数日後の午後のヒーロー基礎学の授業。その授業で相澤は開口一番にまず変更事項を伝えた。
「今日のヒーロー基礎学だが………俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」
多くの者が突然の変更が気になり多少なりとも困惑する中、嵐はその理由を察することができた。
(……敵の襲撃に備えて、ってことなんだろうな)
先日のマスコミ騒動。あれが敵の手による煽動だということは、嵐だけでなく教師陣も気づいており、一つの授業にプロヒーローを3人も寄越すということは、それだけ今回の一件を重く見て警戒していると言うことだ。
(………いつ来てもおかしくないからこその厳戒態勢ってわけか)
嵐は一人、いつ敵が襲撃してきても動けるように気を引き締めた。
そんな嵐をよそに、瀬呂が挙手をして相澤に尋ねた。
「ハーイ!何するんですか⁉︎」
瀬呂の質問に相澤は『RESCUE』と書かれたカードを見せながら応えた。
「災害水難なんでもござれ。
相澤の言葉に、クラスメイトたちが沸き立つ。
「レスキュー……今回も大変そうだな」
「ねー!」
「馬鹿オメー!これこそヒーローの本分だぜ‼︎鳴るぜ‼︎腕が‼︎」
「水難なら私の独壇場。ケロケロ」
救助こそヒーローの本分であり、必要不可欠な資質である為、殆どのものが例外なく気合を入れていた。
しかし、そうして沸き立っているが、まだ相澤の話は終わったわけではない。
「おい、まだ途中」
低い声とギロッと睨まれたことで、興奮していた生徒達は萎縮して縮こまってしまう。
入学して一週間足らずで、ここまで躾けられているのは相澤の教育的手腕が成せる技なのか。なんにせよ、よく調教されていると一番後ろに座る嵐は思った。
相澤は静まったのを確認するとリモコンを操作しながら話を再開させる。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗って行く。以上、準備開始」
『はい‼︎』
生徒達は元気よく頷き、やる気に満ちた表情で席を立つと各々コスチュームケースを手に取って行動を開始した。
そんな中、嵐と立ち上がりコスチュームケースを手に取り、更衣室に向かうが、その表情は他の者達のやる気に満ちたものとは違い、複雑なものだった。
(………救助訓練、か………)
彼はこの救助訓練に対して思うところがあった。言わずもがな、己の個性についてだ。
個性を活かして救助訓練に臨む、個性が救助向きだったり、救助に応用を効かせれるものもあるだろう。
現にプロヒーローの中でも災害救助を専門としたヒーローは存在する。このクラスでも救助に応用できる個性を持つものは多いだろう。
だが、嵐の個性に関しては救助に全くの不向きであるどころか、むしろ災害救助の場では嵐の個性は危険でしかないだろう。
(…………俺の個性は………災害そのものだからな………)
嵐の個性は『厄災』を体現する。
人を、建物を、ひいては世界を破壊することに特化している個性であり、戦闘力という一点で見れば彼の力はもうトップランカーをも凌駕しており、もしかしたらオールマイトにも匹敵するかも知らない。
だが、救助の場では助けるどころかパニックをもたらすことしかできないはずだ。
そんな危険極まりない個性が人命救助に役立つとは思えなかったのだ。
(…………何か可能性が見つかればいいんだが……)
嵐は僅かな期待と大きな不安を抱えながら更衣室へと向かった。
▼△▼△▼△
各々コスチュームに着替えた後、生徒達はバス乗り場に移動する。
雄英高校は敷地面積が広大で、各所に訓練施設が散らばっているものの徒歩での移動は時間がかかるため、こうして施設間の移動は大型バスで行っているのだ。
バス乗り場に集合した生徒達は殆どがコスチュームを着用しており、例外なのは体操服姿の緑谷と葉隠くらいだ。
「ん?デクくん体操服だ。コスチュームはどうしたの?」
「ああ、戦闘訓練でボロボロになっちゃったから……サポート会社に修復に出してるんだ」
「確かに君のコスチュームは損傷が酷かったからな」
麗日からの問いかけに緑谷がそう応え、飯田が納得する。
先日の先頭訓練で、緑谷のコスチュームは使い物にならないほどにボロボロに損傷しており、精々が手袋とマスクぐらいしかまともに使えなくなってしまっていた為、やむなくサポート会社に修復に出してるのだそうだ。
緑谷、麗日、飯田が和やかに話す中、嵐は体操服を着ている葉隠に声をかけた。
「葉隠も体操服なんだな。コスチュームは改良に出したのか?」
「うん!八雲君がアドバイスくれたからね。切った髪の毛送って作り直してもらってるんだ‼︎」
嵐に指摘された後、考え直した葉隠は他の女子達に相談しながらデザインを考えて、纏まったデザイン案を自分の毛髪と一緒にサポート会社に送って、今は完成待ちなんだそうだ。
これで、彼女が全裸でヒーロー活動をするという、防御面と倫理面共に危険な事態に陥ることは無くなった。
嵐、障子、耳郎は心待ちにしている葉隠を見ながら、密かに安堵する。
その後、嵐は一足先にバスに乗って座席を確認する。
「………これなら、自由でいいか」
内装は見たところ、市営バスと同じように向かい合って座るタイプと隣に座るタイプの二つのタイプが混合した形だった。
これならば、わざわざ席順を考える必要はないし、もともと嵐の方針としてバスの席ぐらいは自由に座らせようと思っていたのだ。
「よし、全員適当に座ってくれ」
そうして嵐が談笑するクラスメイト達に声をかけて、適当な席に座らせて全員が座ったのを確認すると嵐も座席に座り、バスは発車した。
バスが発車し、訓練施設に向かう中、ふと蛙吹が緑谷の方へと振り向きながら口を開く。
「私思ったことをなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん」
「あ⁉︎ハイ⁉︎蛙吹さん‼︎」
「梅雨ちゃんと呼んで。それでね緑谷ちゃん、あなたの“個性”オールマイトに似てると思うの」
「‼︎⁉︎」
蛙吹の鋭い質問に緑谷は思わずギョッとすると、慌てながら答える。
「そそそそうかな⁉︎いや、でも僕はその、えー」
(……どもりすぎだろ……)
全く隠せておらずおどおどしている緑谷に後方に座る嵐は苦笑する。どうやら、隠し事を誤魔化したりするのが彼は苦手なようだ。
ちらりと、通路を挟んで隣の席に座る爆豪に視線を向けてみる。
すると、爆豪は窓の外を見るふりをしながらも、動揺する彼を訝しむようにチラリと見ていたのだ。
(………もしかしたら、ちょっとしたことでボロを出しそうだな)
彼の対応を見るにもしかしたら、思わぬところでボロを出すかもしれないと嵐は軽く危惧する。しかし、動揺する緑谷に対して、切島が話に参加してフォローを入れた。
「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ」
彼が蛙吹の質問をやんわりと否定する。緑谷は思わぬフォローに密かに安堵しており、嵐はその様子に隠せてないな、と密かに笑った。
「しっかし増強型のシンプルな個性はいいな‼︎派手でできることが多い‼︎俺の“硬化”は対人じゃ強ぇけどいかんせん地味なんだよなー」
切島は自身の左腕をガッチガチに硬めながら、羨ましそうにそういった。彼の個性は見ての通り、“硬化”であり、身体を硬くさせることができるようだ。
そんな彼に、今度は緑谷がフォローを入れた。
「僕はすごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ」
緑谷が目を輝かせながら言ったフォローに切島は笑いながら答える。
「プロなー‼︎しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなとこあるぜ⁉︎」
「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」
「でもお腹壊しちゃうのはヨクナイね‼︎」
切島の言葉を皮切りに自分の個性を自慢したり、アピールしたりと会話が広がる中、青山が自慢げにそういうも直後の芦戸の言葉にあっけなく撃沈した。
(………む、惨い……)
自慢しようとしたのに瞬殺されて表情に影が落ちる青山を嵐は密かに憐れ同情していた。それからの個性の話題は派手さや強さへと変わっていった。
「でもよ、派手で強ぇっつったら、やっぱ轟と爆豪、それに八雲だな‼︎」
「ケッ」
「そうでもねぇよ」
ニッと笑いながら後方に座る3人に振り向きながら言った切島に爆豪はつまらなそうに吐き捨て、嵐が苦笑しながら謙遜する。轟は話に興味がないのか、爆豪の後ろで既に寝ていた。
そして、窓の外へと視線を背けた爆豪に対して、蛙吹はまたしてもはっきりと言った。
「八雲ちゃんはともかく、爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」
「んだとコラぁ‼︎出すわぁ‼︎」
「ほら」
案の定ブチギレて立ち上がった爆豪に、蛙吹は予想通りと言わんばかりに指を差す。そして、蛙吹に続いて上鳴が呆れ混じりに笑いながら便乗した。
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「テメェのボキャブラリーはなんだコラ‼︎殺すゾォっ‼︎‼︎」
上鳴の言葉に目を吊り上げ般若のような形相を浮かべながら、今にも飛びかからんとする爆豪だったが、続く嵐の鋭い一言でそちらに矛先が向く。
「爆豪いい加減煩ぇ。一々キレてんじゃねぇよ。早々に禿げるぞー」
「ハゲねぇわっ‼︎テメェこそその白髪全部ハゲ散らかしてやろうかっ‼︎⁉︎」
「テメェには出来ねぇから一々吠えんな。誰彼構わず噛み付く狂犬かよ。おーい、誰か首輪持ってねぇか?」
「だぁれが狂犬だコラァァ‼︎‼︎」
「首輪は鋼鉄製の方がいいか?いや、あえて紐でも…」
「聞けやァァァ‼︎‼︎」
ギャンギャンとまさに犬の如く叫ぶ爆豪だったが、適当にあしらう嵐の様子に怒りでプルプルと震えていた。流石に爆破をしないあたり、しっかり理性は働いているようだ。
「プッ、爆豪のやつが完全にあしらわれてやがる‼︎野良犬扱いされてんじゃん‼︎」
「ハハハハっ‼︎不良爆豪も八雲にかかりゃあっけないな!」
「アホ面ァァ、しょうゆ顔ぉぉ…‼︎テメェら調子乗ってんじゃねぇぞぉ‼︎‼︎」
堪えきれなかったのか上鳴や瀬呂が吹き出して大笑いしており、他のクラスメイトもそれに釣られて笑ってしまう。
しかし、ただ一人、緑谷だけは戦慄の表情を浮かべて頭を抱えていたが。
(あ、あのかっちゃんがイジられてる……⁉︎信じられない光景だ‼︎さすが雄英……‼︎)
幼い頃からガキ大将や不良といった姿ばかり見てきた緑谷は、今のように爆豪が誰かにからかわれてイジられている光景が信じられなかったようだ。
「おい、もう着くぞ。いい加減にしとけよ……」
『ハイ‼︎』
生徒達が笑い声が響く中、低い声が響いた。相澤だ。相澤の鶴の一声で全員がぴたりと会話を止めて、元気よく返事をした。
そして、A組一行はいよいよ目的の施設へと着いた。
▼△▼△▼△
ドーム型の大型施設が今回の人命救助の訓練の場であり、門をくぐってその中へと足を踏み入れた生徒達は揃って目を丸くした。
『すっげ———‼︎USJかよ‼︎⁉︎』
中はさながら遊園地を模倣したかのような作りの施設が広がっていたのだ。ある場所では湖だったり、ある場所では岩場とあらゆる災害を模したであろう施設は、某日本の大型テーマパークにも似ていたのだ。
目を丸くしながら感嘆の声を上げる生徒達を一人のプロヒーローが出迎える。
彼女は宇宙服をイメージしたコスチュームを着た女性にしては高身長のプロヒーロー『スペースヒーロー13号』だ。
「ようこそ1年A組の皆さん‼︎ここは、水難事故、土砂災害、火事……etc.あらゆる事故や災害を想定した僕が作った演習場です。その名も……
「「「「「それ大丈夫なんですか⁉︎⁉︎著作権的に‼︎‼︎‼︎」」」」」
一人のヒーローの説明に思わず生徒達は見事なシンクロを見せた。気持ちは大いに分かる。そんな生徒達の反応は想定済みなのか、13号は少し面白そうに笑いながら答える。
「ふふ、大丈夫ですよ。所詮はイニシャルが
『…………』
自信満々に答える彼女に、A組生徒の殆どが何とも言えないような表情を浮かべる。
だが、まぁいいか!という感じで気を取り直した彼らは、改めて13号の登場に舞い上がる。
「スペースヒーロー『13号』‼︎災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー‼︎」
「わ——私好きなの‼︎13号‼︎」
ヒーローオタクの緑谷や彼女のファンである麗日腹興奮を隠しきれていなかった。
生徒達が舞い上がる中、相澤が彼女に近づき小声で話しかける。
(13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが……)
(先輩。それが……通勤時に
(不合理の極みだなオイ)
三本指を立てながら答えた13号に、相澤は不機嫌をあらわにしながらそう言う。
その会話は殆どの生徒達に聞こえることはなかったが、元来高い聴力を有している嵐は意識して聴いていたこともあり、ばっちり耳に入っていた。
(制限?オールマイトは、活動制限があるのか?それで、今は休んでるだと?)
嵐は驚愕の事実に表情を険しくさせる。
(まさか、本当にオールマイトは弱くなってるのか⁉︎)
嵐は彼に感じた違和感が間違っていなかったと理解してしまった。
詳しい理由はわからないが、何らかの理由で……いや、確実に何らかの後遺症でヒーロー活動に限界が生じてしまった事は、ヒーロー界だけでなく世界全体において衝撃的な事実だ。
(……緑谷の個性を授けた、と言う話に繋がるのか?)
不意に思い出すのは先日の緑谷の会話。
緑谷の個性がオールマイトから授けられたものと仮定した場合、オールマイトが弱体化したから緑谷を後継にして個性を授けたのではないかとも結論づけることができる。
だが、それが事実であろうとそうでなかろうとも。
(オールマイトが弱った、と言う事実は看過できねぇ……)
今まで平和の象徴として不動のNo. 1を維持し続け、今もなお多くの事件を解決する偉大なヒーローが、弱っている。
それは、ヒーローの卵として見過ごせない驚愕の真実であることに変わりはなかった。
(………早く、俺がもっと強くならねぇと……)
きっと今動揺を露わにしたところで、混乱を招いてしまう。だからこそ、嵐はすんでのところでそれを抑えて、深く深く呼吸をして拳を強く握りしめる。それは内に広がる動揺を現しているかのように小さく震えていた。
「八雲?どうしたの?」
「体調でも悪いのか?」
嵐の様子に、左右に立つ耳郎と障子が目ざとく気づき心配そうに小さい声で尋ねる。
「………いや、何でもねぇ」
「「?」」
ハッとなった嵐は二人に視線を向けると、首を振りながら小さく首を横に振った。嵐の様子に首を傾げる二人をよそに相澤達がオールマイトを待っていても来ないことを理解して早速話し始める。
「仕方ない、お前ら、オールマイトはヒーロー活動で多忙な為、遅れてくるそうだ。先に始めるぞ」
「では、えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」
指を次々と伸ばしながら増えていく回数に生徒達が困惑するが、それに構わず彼女は話し続ける。
「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性は“ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
その名の通り、彼女の個性は凡ゆる者を吸い込み無に帰してしまう強力な個性だ。それを災害現場で活かして、凡ゆる災害から人々を救ける救助活動を行なっている。だが、この個性は………
「ですが……これは簡単に人を殺せる力です」
『ッッ‼︎』
「ッッ‼︎⁉︎」
続いた憂いを帯びた彼女の言葉に、舞い上がったままだったクラスメイト達の顔が一様に強張る。嵐もビクッと体を揺らし暗い表情を浮かべた。
「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制する事で、一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せるいきすぎた個性を個々が持っていることを忘れないでください」
彼女の個性は、指先を人に向ける。たったそれだけの行為で多くの人の命を跡形もなく消滅させることができる。射程範囲は最低でも数十m。この場で抗えるとしたら、個性を消せる相澤と超速飛翔が可能な嵐だけだ。
そう言った個性を無秩序に使用させない為に、今のヒーローの資格制度がある。もしも、それがなければ誰もが欲望のままに個性を振るい、多くの人の命が失われているだろうから。
彼女はそれを忘れないように念を押した。
「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います」
相澤の個性把握テストで何ができるか、何ができないかなどの己の可能性を知った。
オールマイトの戦闘訓練で人に向けた時の危険性を体験し、自分達が目指している者の輪郭を知った。そして、この授業では、前者二つのことを踏まえて、救助に活かすのだ。
「この授業では……心機一転‼︎人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう」
そう言って13号は両腕を大きく広げながら、明るい声音ではっきりと語る。
「これからの3年間、君達は多くのことを学び心身と個性を鍛えて強く立派になっていくでしょう。だからこそ、自分達が持つ『力の恐怖』も忘れないでください」
恐怖を知るものこそ、強く立派に成長できるのだと彼女は言外に言って、更に己が過去に味わった挫折や苦難、そして、抱いた誇りを踏まえてまだまだ未熟な小さな小さな卵である彼らへと自分の想いを伝える。
「その切欠を今回の授業で学んでいってください。戦う術だけじゃない。誰かを守り、助け、救う術も。ヒーローとして必ず財産になるであろう、それらの種を持って帰ってください。その種はいつしか綺麗な花を芽吹かせて未来を輝かせるものへと変わるんです。
君達の力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあり、どんな個性でも誰かを守れるヒーローになれると言うことを心得て帰ってくださいな。
以上‼︎口うるさい先輩からのお節介小言、ご静聴ありがとうございました」
ぺこりと紳士的にお辞儀して話を締めくくった彼女。同時に、彼女の話に生徒達が感動し拍手喝采を送る。
「ステキー‼︎」
「ブラボー‼︎ブラーボー‼︎」
生徒達の歓声や拍手が響く中、嵐だけはその表情が暗いままだった。
「…………」
13号の話は確かに嵐の心にも響いたし、感動に値する有意義な話だったのは間違いない。彼女はまさしく尊敬に値するプロヒーローだ。
しかし、
(13号先生……貴女の話は確かに有意義でした。それだけの凶悪な個性を使いこなすのに、相当努力を積んだのも分かります。ですが———この個性で実際に大勢の人間を殺してしまった者は、どうすればいいんですか?)
悲痛な問いかけが、彼の心の内で浮かび上がる。
嵐は幼い頃に己の個性で人を殺したことがある。
暴走状態にあり理性はなかったが、自分は広範囲に大きすぎる災いを齎してしまった。
あの時、敵は数十名殺したが、それだけで被害は終わらずに間接的に多くの一般人も傷つけてしまった。……更には、結果的に自分が大好きだった姉もこの手にかけてしまった。
(………分からない。どうすればいいのか。存在を否定されて、拒絶された俺が、この厄災しか齎さない個性で、どうすれば誰かを救けることができるのかが)
今でも自分がヒーローを目指すことが正しいことなのか分からない。
姉を殺したくせに、姉の想いを継いでヒーローになろうとするなんて、彼女がそんなことを許すだろうか、そんな葛藤をずっと抱き続けていた。
そんな事を考える中、嵐は不意に全身に悪寒が駆け巡ったのを感じる。
「ッッ⁉︎」
縄張りに侵入する不穏な輩を嵐龍の個性が嵐自身に知らせる。
己の危機を。そして、侵入者の悪意を。
それを明確に感じ取った瞬間、嵐は反射的に動いていた。
「ッ八雲っ⁉︎」
「おいっ⁉︎」
耳郎、障子の困惑の声を無視して嵐は飛び上がり生徒達の上を飛び越えると、相澤よりも前に出ながら鋭い視線を中央広場の噴水へと向ける。
「グゥルルルルルッッ‼︎‼︎」
「……っ‼︎」
素早く変身し龍人へと姿を変えながら、まさしく龍の如き威嚇の唸り声を上げながら、噴水から視線を決して背けずに睨む。そして、生徒達が突然のことに困惑する中、ただならない嵐の様子に相澤も少し遅れて気づき視線を噴水の方向へと向けた。
その直後、ソレは現れた。
噴水前の空中にズズと現れた黒い靄。それが次第に大きくなり、縁を描くとその中心から手が伸びてきて、やがて顔に人の手をつけた気味悪い風貌の灰色の髪の男が姿を表した。
「全員一塊になって動くな‼︎‼︎13号‼︎生徒を守れ‼︎‼︎」
顔だけでなく全身に手を掴ませている男の、顔面に掴ませた指の隙間から覗く、血のように赤い瞳には底知れぬ悪意しか宿っておらず、それに気づいた相澤が素早く生徒達の前に出ながら声を張り上げて13号に指示を出す。
空気が変わった事を明確に感じ取っていた彼女は、相澤の言葉に迷いなく頷き生徒を守るように立つ。
そして、最初に出てきた手だらけ男に続き広がった靄からは続々と人が姿を表してきた。
異形の人間や、普通の人間の姿、多くの人間が姿を表し、多くの者の手には人を殺せる武器が握られている。
突然の3人の急変に呆けた声を上げる生徒達だったが、切島がやっとソレに気づいた。
「何だアリャ⁉︎また入試ン時見たいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな‼︎‼︎」
噴水方向に視線を凝らしながら、前に歩き出そうとした生徒達を相澤の一喝が止める。
相澤はゴーグルをつけながら、不埒な闖入者の正体を彼らに鬼気迫る声ではっきりと告げた。
「あれは———敵だ‼︎‼︎」
『ッッ⁉︎⁉︎』
生徒達に激震が走る。
奇しくも、命を助ける訓練の時間に、命を奪う敵が現れたのだから、動揺するのは当然だろう。
「………ッ」
動揺する生徒達の声を聞きながら、嵐は耳を凝らして彼らの声に意識を集中させる。
「13号に…イレイザーヘッドですか……隣の彼は見覚えがありませんね。先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが………」
「ったく……どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ………オールマイト……平和の象徴…いないなんて……あぁでも……」
靄が人の形を取り、顔部分に黄金の筋ー瞳を出現させながら紳士的な口調で言葉が紡がれ、隣の手だらけ男が周りを見渡して首を傾げながらそう呟くと、こちらへと赤い瞳を向けて嗤う。
「………子供を殺せば来るのかな?」
———そこには、吐き気を催すほどの気味悪い途方もない悪意のみが宿っていた。
嵐は通常でも耳がずば抜けていいですから、相澤達の小声での会話も意識して聞いていた分、ばっちり聞こえてしまい、オールマイトの衝撃的な事実を知ってしまいましたね。
そして、次回から本格的にバトル開始です‼︎
嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?
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小野大輔
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諏訪部順一
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細谷佳正