天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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今回は書いてたら、二万文字を超えてしまったので二つに分けて投稿します。

あと、お気に入り登録が1,000を超えていました。みなさんお気に入り登録ありがとうございますっ‼︎


15話 大嵐激昂

「…………子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 

 

途方もない悪意しか宿っていない男の嗤いは相澤には聞こえた訳ではないが、それでも感じる悪意に彼は舌打ちする。

 

「やはり、先日のはクソ共の仕業だったか」

「ッッじゃあ、やはり先日のは…っ」

「ああ、おそらくあいつらの煽動だろう」

 

嵐と相澤がそんな会話を交わす中、彼らの背後で動揺する生徒達を代表して峰田と上鳴が叫ぶ。

 

「敵ンン⁉︎バカだろ⁉︎」

「ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ‼︎」

 

確かにそれはそうだろう。

特にここは雄英高校だ。オールマイトをはじめとした教師を任せるに相応しい実力を有するプロヒーローが多くいるこの学校に敵が踏み込むこと自体が愚の骨頂だ。

そんなことをやるのは、現実を理解できていない余程の馬鹿か、それ相応の実力を兼ね備えた強者のみだろう。

 

「先生、侵入者用センサーは⁉︎」

「もちろんありますが……‼︎反応してないということは、恐らくジャミングされてますね」

 

センサーが起動していない事実を認識し、嵐と轟が口を開く。

 

「電波干渉系の個性持ちがいて妨害してるな。でなきゃ、天下の雄英のセンサーが反応しないわけがねぇ。偶然にしちゃできすぎてる」

「校舎と離れた隔離空間に俺ら(一クラス)が入る時間割……馬鹿だが、アホじゃねぇ。これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

 

嵐と轟の冷静な分析に、いよいよ現実を理解した生徒達が息を呑み、理解する。彼らは確かな目的があり、自分達を殺すつもりできたのだと。

命を狙われているという事実に、クラスメイト達が身をこわばらせる中、嵐が先ほど傍受した内容を相澤に小声で伝えた。

 

「先生、奴らの会話を聴いた限り目的は恐らく、オールマイトです。しかし、ここに彼がいない以上、ここにいる俺達を皆殺しにして彼を呼ぶつもりのようです」

「ッッ分かった。情報提供感謝する。13号避難開始‼︎学校に連絡試せ‼︎上鳴お前も個性で連絡試せ‼︎」

 

嵐の情報提供に礼を言った相澤は13号に的確に指示を出し、ついでに無線をサポートアイテムとして持っている上鳴にも連絡を試すよう指示を出し、前に進もうとする。

そんな相澤は、最後に隣に立つ嵐に指示を出す。

 

「………八雲。すまんが、お前は13号と一緒に生徒達を守ってくれ。お前の実力なら任せられる」

「………先生…‥はい、分かりました。あの中央にいる脳味噌剥き出しの敵が一番危険です。恐らくはオールマイト並みかと、気をつけてください」

 

嵐は敵の気配から戦力を分析し、手だらけ男のそばに立つ脳味噌剥き出しの大男が一番危険な存在だと看破していたのだ。

それを聞いた相澤は無言で頷くと、首の捕縛布を構えていつでも戦闘を開始できるようにしていた。その様子に、緑谷が慌てながら言う。

 

「先生は⁉︎一人で戦うんですか⁉︎無茶です‼︎あの数じゃあいくら個性を消すって言っても‼︎イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は………」

 

ヒーローに関しては人一倍詳しく、相澤の戦闘スタイルも知っていた彼は、彼がこの状況では不向きだということを理解して引き留めようとするが、

 

「緑谷。減点だ。敵の前で味方のスタイルをペラペラと漏らすな。大丈夫だ、一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

そう答えて、13号と嵐に視線を向けると託すように呟いて飛び出していった。

 

「13号‼︎八雲‼︎任せたぞ‼︎」

「…………」

「………どうか、お気をつけて」

 

走り去る相澤の姿を見送った嵐は小さくつぶやくと、悔しさを堪えるかのように歯を噛み締めながらも、すぐに振り向いて指示を出す。

 

「飯田、委員長命令だ。今すぐ校舎まで走って襲撃を知らせてこい」

「なっ、いくら八雲君の頼みとはいえ、クラスのみんなを置いていくなど、そんなことはっ」

 

半ば予想はしていたが、飯田がクラスメイトを置いて一人逃げおおせようとするのはヒーローとして反する行為だと思っているようだ。

だが、それは違う。嵐はそれを伝える為に、彼の方に手を置いて少し厳しい口調で言う。

 

「そうじゃねぇ。俺達を救う為にはお前の脚が必要なんだ。今ここで先生達の救援を呼ぶのが最も効果的な方法で、俺達が生き残れる確率が一番高いんだ。俺はここで殿を務めるように先生に任された。だから、俺の次に速いお前が救援を呼びに行け」

「だ、だがっ、だとしてもっ……」

 

嵐の説得に頷きつつもまだ納得できずに、迷う飯田に嵐は彼の右肩を強く掴みながら叱るように大声で言った。

 

「迷うな‼︎飯田天哉っ‼︎‼︎今お前にできる最善がコレだっ‼︎俺はお前に逃げろと言ってんじゃねぇ‼︎俺達を救ける為に走れって言ってんだっ‼︎お前の脚が今必要なんだよっ‼︎」

「八雲君の言う通りです。飯田君、僕達を救ける為に個性を使ってください‼︎」

「そうだぜ‼︎行けよ‼︎飯田‼︎」

「俺らだって覚悟は決まってんだ‼︎そう簡単にやられねぇよ‼︎‼︎」

「飯田の脚で靄なんか振り切っちゃえ‼︎」

「私達のことお願い、飯田君‼︎」

「13号先生……皆………」

 

嵐に続き信頼を託す13号やクラスメイト達の言葉に飯田は遂に決心すると、彼らに背を向けた。

 

「………はいっ‼︎皆どうか無事でいてくれ‼︎必ず先生方を連れてくる‼︎」

「ああっ、任せたっ‼︎‼︎」

 

決心した飯田に嵐が笑みを浮かべながら背中を叩いて前へと押し出す。他にもクラスメイト達の信頼の言葉を背中で受けながら、彼は地面を踏み出して、個性のエンジンをブーストさせ勢いよく飛び出していき、ゲートを開くとそのままUSJの外へと無事脱出した。

一同が彼を見送った後、13号が嵐に小声で礼を言う。

 

「………八雲君、ありがとう。君がいてくれて助かるよ」

「いえ、ここからです。こっからどうにかしないと」

「…‥うん、そうだね。皆‼︎とにかく、避難を急ぎましょう‼︎」

『はいっ‼︎』

 

13号の指示に従い避難を開始する生徒達だったが、まだ一人緑谷だけは相澤の戦う姿を見て呑気に分析をしていた。

 

「すごい……‼︎多対一こそ先生の得意分野だったんだ‼︎」

「分析してる場合じゃないよ‼︎早く避難せな‼︎」

 

分析する緑谷を麗日が慌てた声音で注意しながら彼の手を引いて避難を始める。嵐も殿として彼らの最後尾を走っていたが、前方に突如感じた気配に声を張り上げた。

 

「13号先生ストップ‼︎来ますっ‼︎」

「ッッ‼︎⁉︎」

 

嵐の言葉に足を止めた13号達の目の前に、黒い靄が道を阻むように生じる。それは、先ほど大勢を転移させた黒靄の男だった。

 

「させませんよ」

 

黒靄の男は生徒達の前に立ちはだかると、一対の筋のような黄金の瞳を開き生徒達へと視線を向け、何を話そうとする。

その瞬間嵐は動きだし、最後尾から勢いよく飛翔すると、扇を振るい先手を打った。

 

「初めまして、我々は「《飛翼(ひよく)風斬羽(かざきりばね)》ッッ‼︎‼︎」ぬぅっ⁉︎」

 

飛翔して黒靄に一呼吸の間に接近すると、翼で大気を切り裂くように扇を振るって黒靄を躊躇無く斬り裂く。

暴風が吹き荒れ、黒靄の背後の地面やゲートに大きな斬痕を残すほどの暴風の一撃であり、クラスメイト達がやったかと驚く中、嵐は舌打ちした。

 

「チッ‼︎外したっ‼︎この野郎、ほぼ物理無効かっ‼︎うまいこと靄にずらしやがったなっ‼︎‼︎」

 

嵐が黒靄に忌々しく吐き捨てる。

目の前の脅威が去っていないことに、クラスメイト達が身構える中、黒靄は紳士的な口調で呟く。

 

「ふぅ、危ない危ない。躊躇無く攻撃を仕掛けるとは、どうやら貴方はよほど場慣れしているようだ」

 

殺意に満ちた鋭い眼光を宿した目を細めながら、嵐をそう評価した黒靄の男ー黒霧は改めて紳士的な口調だが、同時に冷徹な声音で話し始める。

 

「では改めまして、我々は敵連合。僭越ながら……この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせていただいたのは……」

 

そうして黒霧は衝撃的なことを告げた。

 

「かの平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

『は?』

 

生徒達の呼吸が一瞬止まり、理解が追いつかなくなり戦慄する。

彼らはかの敵への絶対的な抑止力であり、誰もが尊敬する偉大なNo. 1ヒーローを殺害しようと言うのだ。

そんな思いついても実行しないような馬鹿げたことを彼らはやろうとしており、生徒達が動揺するのも無理はなかった。

黒霧は自分達の目的を言うと、顔を動かして周囲を見渡しながら呟く。

 

「しかし、肝心のオールマイトはいらっしゃらない様子。……何か変更あったのでしょうか?」

「さぁな。しかし、オールマイトを殺すとは、大きく出たな。できる根拠があるからか?」

 

ただ一人、本物の敵の悪意を前に全く物怖じしていない嵐が不敵に笑いながら逆にそう尋ね返す。

 

「……っ!」

 

生徒達が何をしてんだ、と目を見開く中、13号だけは嵐が背中に回した右手で作ったハンドサインにより彼の意図に気づく。

 

会話で時間を稼ぎつつ、自分の風と13号のブラックホールを合わせて彼を捕らえる、と言う意図が伝わったのだ。そして、嵐の合図を受け密かに準備をする中、黒霧は目を細めながら感心の声を上げる。

 

「……ほぉ、敵を前にして平然と話しかける胆力。見事な度胸です。称賛に値しますよ」

「そりゃどうも、荒事には慣れているんでね。で?テメェらがやろうとしてるオールマイト殺し。それってよぉ、あの脳味噌野郎が鍵なんじゃねぇのか?」

「………ふふ、それはどうでしょうね。確かにアレに目をつけるのは慧眼と言わざるを得ませんが、そう易々と切り札を見せるとお思いで?」

「思ってねぇよ。ただ、あいつだけ明らかに気配が違ったからなぁ。違うんなら、違うで警戒するだけだ」

「おやおや、やはり優秀だ。どうやら、貴方はすでに金の卵では無く、孵化した若鳥のようですね」

 

至極冷静に会話を交わす二人。互いが互いに腹の中を探り合い、次の対応に注意を向ける。しかし、次の瞬間黒霧は自身の体の靄を広げ始めたのだ。

 

「………ただまぁ、オールマイトがいようといなかろうと私には関係ありません。私の役目はそこにはありませんのでね」

「八雲君っ‼︎」

「ッッ‼︎」

 

転移が来る。そう直感した嵐は、ほぼ同時に聞こえた13号の合図に勢いよく飛び上がりながら、黒霧を風で囲おうとする。

だが、その瞬間、予想外のことが起きた。

嵐の左右から二人の人影が飛び出し、攻撃を仕掛けたのだ。

一人は爆発を放った爆豪で、もう一人は硬化した腕で斬りつけた切島だったのだ。

 

「その前に俺にやられることを考えてなかったか⁉︎」

「それにもう飯田が救援呼びに行ってんだ‼︎大人しく降参しやがれっ‼︎」

 

爆豪と切島が一矢報いたと言わんばかりにそう勝ち誇ったような声音で言う。しかし、爆豪はともかく、敵の前で浅はかな言動をした切島に他の生徒達は揃って戦慄し、嵐は激怒した。

 

「何話してんだッ‼︎‼︎敵に作戦を漏らす馬鹿がどこにいる‼︎⁉︎」

 

突然上から聞こえた嵐の激昂に全員が驚く中、切島は自分が犯した失態に青ざめ、更に13号の声でもう一つの失態にも爆豪と共に気づいた。

 

「ダメだ‼︎どきなさい、二人とも‼︎」

 

それは、自分達が彼女の攻撃の射線上に入り、二人の作戦を完全に無駄にしてしまったことだ。

そして、一度限りの奇襲は失敗し、更には飯田を事前に流したことも知られてしまった。度重なる作戦の露呈、失敗を知り、黒霧は怒気が滲みながらも嘲りが混ざる声で嗤った。

 

「成程成程。先程の会話は奇襲を成功させるための時間稼ぎと言うわけでしたか。しかも、生徒をすでに脱出させていたと。貴方の手腕は確かに見事でした。ですが、残念。愚かなクラスメイトによって全てが無駄になったようだ」

 

そう告げるや、彼の怒りに呼応するかのように黒い靄が一気に広がったのだ。

 

「チィッ‼︎全員下がれぇっ‼︎‼︎」

「皆‼︎下がってくださいっ‼︎‼︎」

 

嵐と13号が危機に素早く反応し生徒達にそう叫ぶも、その時にはすでに漆黒の闇が生徒達を覆い尽くしており、ドーム状に黒い靄の空間を生み出していた。

 

「教師を呼ばれる以上、我々の敗北は確定。ですが、ただでは済まさないっ‼︎せめて、私自身の役目ー教師達が来る前に貴方達を散らし嬲り殺すのを果たし、雄英への宣戦布告とさせていただきましょうっ‼︎‼︎‼︎」

「くっそぉっ‼︎‼︎」

 

黒霧の怒りと殺意に満ちた声が響く中、ドームの外側にいた嵐は悪態をつきながら靄の中に飛び込み、近くにいた13号と麗日、そして砂藤を掴んで外へと投げ飛ばしていく。

3人はとにかく外に出せたが、それでも靄が転移させる速度が嵐の想定よりも早く、クラスメイトの半数はすでに転移させられていた。

 

(駄目だっ‼︎間に合わねぇっ‼︎)

 

自分一人なら回避は可能だが、他の者達は違う。範囲内にいるものは例外なく、その場から動けず、全員を外に出すことは間に合わない。

ソレを瞬時に把握した嵐は、咄嗟にそばにいた耳郎、八百万、上鳴の3人に腕を伸ばして守るように自分の腕で抱き寄せながら、必死に声を張り上げた。

 

「全員死ぬんじゃねぇぞっ‼︎‼︎勝って生き残れぇっ‼︎‼︎」

 

そうして、彼らは靄へと呑み込まれていった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

靄に呑まれ黒一色だった視界に光が入り景色が映る。嵐の目に映った光景は山にある岩場のような場所ーUSJ内の山岳ゾーンに当たる場所だった。

 

「お前ら大丈夫か?」

「な、なに?…ウチらどうなったの?」

 

嵐が腕を離しながら3人に尋ねると、耳郎が困惑した声で周囲を見渡しながら呟く。

それに嵐が応えるよりも先に、声を上げるものがいた。

 

「ハッハー‼︎来たぜガキどもがぁ‼︎」

「男が二人、女が二人か。いいねぇ、男はとっとと殺しちまおうか」

「だな‼︎んで、女はマワそうぜ‼︎片方は胸もデケェしな‼︎」

「そりゃいい。とっとと殺して楽しもうぜ‼︎」

 

下卑た笑い声が響く。周りを見れば、30は超えるであろう敵達がその顔に嫌らしい笑みを浮かばせながら、嵐達を取り囲んでいたのだ。

 

「…………チッ、典型的なゴミクズ共だな」

 

男達の下卑た言葉に嵐は怒りの表情を浮かべながら吐き捨てる。他の3人もようやく状況を把握した中、戸惑いながら立ち上がる。

 

「ちょっ、何なんだよこれぇ‼︎」

「これ、ヤバくない?」

「ええ、あの黒靄の方はワープの個性だったのでしょう。私達はまんまと飛ばされたみたいですわ」

「あの男の言葉から察するに、俺らは分断されたな。それぞれ飛ばされた先に敵が待ち構えているって訳か」

「いやいや、何で冷静に分析してんだ二人とも⁉︎」

 

背中合わせで立ちながら、冷静に状況を判断して分析する八百万と嵐に上鳴が慌てて突っ込む。突然敵が現れて、訳もわからないうちにどこかに飛ばされて、飛ばされた先では殺意剥き出しの敵がいるというのに、二人は慌てる事なく、冷静だったからだ。

嵐は既に双扇を開いて構えており、八百万も長棒を創造して構えている。更に彼女は太腿から刃引きしてある剣を創造して左後ろにいる耳郎に渡していた。それを見ていた上鳴が戸惑いと抗議の声を上げる。

 

「ちょっ、八百万俺にも武器くれよ‼︎」

「そうしたいのは山々なんですが……場所的に厳しいですわ」

「素手で戦いなよ。電気男でしょ」

「嘘だろぉ⁉︎」

 

八百万の真後ろにいる彼には武器を渡そうにも必ず隙が生じてしまうため、渡せなかったのだ。自分だけ武器がない上鳴が女子二人の無慈悲な言葉に慟哭の声を上げる。

そんな彼に、嵐は小さく嘆息すると、帯から刀を引き抜いて彼に渡した。

 

「上鳴、これ使え。ただし、紐は解くなよ」

「えっ、い、いいのかよ?」

「俺には扇もある。お前に剣の心得がなくても、防御ぐらいはできるはずだ。通電性は保証できねぇが」

「いやマジで助かるわ‼︎」

 

上鳴が嵐に感謝して鞘ありの刀を構える中、八百万はそっと小声で彼に話しかける。

 

「それはそうと八雲さん、どうされますか?」

「とにかくここを突破する。俺が敵を薙ぎ倒すから、お前らは防御に専念していろ、前に出なくていい」

「えっ、ですが、これだけの数をまさかお一人で?」

「いくらお前が強くてもこれだけの数は流石にヤベェだろっ」

 

自分一人でこれだけの数を引き受けようとしている嵐に八百万は戸惑いの声を上げる。上鳴も今の嵐の策に困惑を示していた。

ただし、耳郎だけは無言で彼の言葉に耳を傾けている。怒りによる感情の昂りで瞳や胸部を爛々と橙色に輝かせた嵐は怒りが混じる口調でその困惑に応えた。

 

「問題ねぇ。理由は省くが、こういうチンピラの荒事には慣れている。それに、正直頭にきてんだ。こんなことしでかしやがったクズ共は、俺が全員ぶった斬る」

 

そう告げるや嵐は暴風を纏うと地面を踏み砕いて飛び出し敵の群れに突っ込む。

 

「ギャハハ‼︎バカが!一人で突っ込んできやがった‼︎」

「なら、まずはあのガキから殺し……へっ?」

 

敵達は単身特攻する嵐を嘲笑い、まず一人目の犠牲者として殺そうと武器を構えたり、個性を発動させようとしたが、直後間抜けた声を上げた。

なぜなら、5mは離れた場所にいたはずの嵐が、既に自分の目の前にいて双扇を構えていたのだから。

そして、男達が反応するよりも圧倒的に早く、橙色の眼光が宙を駆け抜けると同時に、扇が激しく振るわれ暴風が吹き荒れた。

 

 

「《惨華(さんか)狂咲き(くるいざき)》ッッ‼︎‼︎」

「「「ぎゃあぁぁっ‼︎‼︎」」」

 

 

風の刃が四方八方に放たれて嵐の周囲にいた敵数名を纏めて斬り裂いた。敵達は悲鳴を上げながら身体中から血飛沫を上げ、血の華を咲かせて崩れ落ちる。

 

敵達は一瞬のうちに仲間が数人やられたことに呆然とする。何が怒ったのかを理解できないまま、いつのまにか仲間が血飛沫を上げて崩れ落ちたことに動揺していた。

それに加えて、まだ子供だと思っていた青年が、躊躇なく仲間を斬り裂いた事による衝撃も大きかったのだ。

嵐は動揺する敵達に、橙色に輝く鋭い眼光を向けながら、扇を突き出し牙を剥き出しにして唸るように冷徹な声音で告げた。

 

 

「殺しはしねぇ。だが、躊躇もしねぇ。

もう二度と悪事を起こせねぇぐらいにテメェらの心を徹底的にへし折ってやる」

 

 

轟々と唸る暴風を纏いながら、『黒風白雨』を構え、龍の眼光を以て排除すべき敵達を見据える。

嵐が発する迫力に、敵達は体の芯から震え上がり、二の足を踏んでいた。

彼らは嵐の背後に巨大な龍の姿を幻視していたのだ。

 

「腹を括れよ、ゴミ屑共。テメェらは喧嘩を売る相手を間違えた」

 

唸り声を上げながら、そう宣告する嵐に敵達もまた激情にその顔を歪ませながら数の有利を生かして嵐を取り囲む。

 

「囲め囲め‼︎こいつ普通のガキじゃねぇ‼︎‼︎」

「こいつさえ殺せば、後はただのガキどもだ‼︎‼︎」

「全員で一斉にかかれぇ‼︎‼︎」

 

嵐を取り囲む敵達が一斉に嵐に襲い掛かる。物量を活かした攻勢で嵐へと襲い掛かる。八百万と上鳴が焦り助けに行こうとする。

だが、次の瞬間———

 

 

「———《蜷局竜巻(とぐろたつまき)》」

「「「うわぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」」」

 

嵐を中心に巨大な竜巻が生まれ、暴風が彼らを悉く飲み込んだ。敵達は吹き荒れる暴風の衝撃に肉体を打たれ、巻き上げられていき、あちこちに飛ばされ地面に落ちていった。

 

「へ?」

「嘘っ、一瞬であの数をっ」

 

上鳴が間抜けた声を上げて、八百万が驚愕に声を振るわせる。二人が驚く中、嵐の不敵かつ獰猛な声音が響く。

 

 

「さぁて、情けなくも逃げる腰抜けはいねぇよなぁ。テメェらが売った喧嘩だ。売ったテメェらが逃げるなんざ、あっていいわけねぇだろ?俺が安く買い叩いて、叩き潰してやるよっ‼︎‼︎」

 

 

そうして、嵐は萎縮しかけている敵達に突撃して蹂躙を開始した。襲い掛かる敵達を風を纏わせた扇で斬り裂き、殴り砕き、吹き飛ばしていく。

暴風を纏い敵を蹂躙する嵐の傍で耳郎達も交戦を開始する。

 

「す、スゲェ。八雲のやつ強すぎんだろ……」

「見惚れてる場合じゃありませんわっ‼︎」

「そうだよっ‼︎こっちも来てるっ‼︎」

 

上鳴が嵐の凄まじい戦いぶりに呆気に取られているが、そんな彼を女子二人が現実へとひっぱり戻す。彼女らの元にも敵が向かってきており、囲んでいたのだ。

嵐が大勢を引きつけているが、それでも自分達が数的不利であることには変わりはない。

 

「こいつらを人質に取れっ‼︎‼︎」

「あのガキだってヒーロー志望だ。人質は軽視できねぇはずだっ‼︎」

 

どうやら、一方的に蹂躙する嵐には敵わないと思った者達が、まだ未熟であろう耳郎達を人質にとって嵐を嬲り殺しにしようとする腹積りなのだろう。

耳郎はその思惑を理解すると、不機嫌さを隠さない口調で反論する。

 

「八雲ほどじゃないけど、ウチらだってそう易々とやられるほど弱くはないよ?」

「おもしれぇ‼︎なら見せてみろよ‼︎ヒーロー志望のお嬢ちゃんよぉ‼︎‼︎」

 

そう嗤いながら、一人の敵が耳郎へと襲い掛かる。大型のサバイバルナイフを振り上げて襲い掛かる敵に耳郎もまた剣を構えて応戦し、受け止める。

 

「ハッハー‼︎どうしたっ‼︎押されてんじゃねぇかっ‼︎」

「ぐっ、舐めんなっ‼︎」

 

膂力の差で耳郎が押し込まれるも、耳郎は耳のプラグをブーツに突き刺して、ブーツに取り付けてあるスピーカーから大音量の爆音が指向性を以て放たれる。

 

「ぐあぁぁぁ‼︎耳がァァ‼︎」

 

敵はあまりの大音量に悲鳴を上げながら、耳を押さえて苦悶の声を上げる。その隙を、耳郎は見逃さずに剣を敵の肩に振り下ろす。それと同時に、反対側から八百万が棒での突きを放ったおかげでまず一人呆気なく倒すことができた。

 

「ヤオモモフォローありがとう‼︎」

「ええっ‼︎ですが、次がすぐに来ますわっ‼︎」

 

女子二人の息があった連携が続く中、上鳴は大柄の敵の剛腕の振り下ろしをなんとか嵐の『催花雨』で捌きながらもびびっていた。

 

「うぉおぉ⁉︎ヤベェ!マジで見えた‼︎三途見えたってマジ‼︎マジどうなってんだよこいつらはぁっ‼︎⁉︎」

 

剛腕を捌くことはできたものの、その瞬間にかかった重量と遠慮なしの攻撃に完全に彼は及び腰になっていたのだ。それを見た耳郎が呆れた声で呟く。

 

「そういうの後にしなよ。……っていうか、あんた電気男なんだから、八雲を見習ってバリバリとやっちゃってよ」

「あのな、俺のは電気を()()だけなの‼︎八雲みたいに器用に操れるわけじゃねーから二人も巻き込んじまうの‼︎」

 

上鳴は己の個性のデメリットを話しながら、なんとか敵の攻撃を凌いでいた。彼の個性は放電だ。それをこんな密集地帯で使えば、周りが敵だけならばともかく味方がいれば巻き込むというのは確かに納得できる理由だ。

 

「助けを呼ぼうにも特製電子変換無線(こいつ)ジャミングヤベェしさ。いいか⁉︎二人共、今俺は頼りになんねーから、頼りにしてるぜ‼︎」

 

サポートアイテムで外部に救援を呼ぶことも叶わず、肝心の個性も味方を巻き込むため使えないという、全く頼れない状況で、彼はさらに頼。ない発言をする。

男としてそれはどうかという物言いに、耳郎はじれったそうに呟くと、

 

「男のくせにウダウダと言って……じゃあさ、人間スタンガンやってこい‼︎‼︎」

「マジかバカっ‼︎⁉︎」

 

上鳴を敵の方向へと蹴っ飛ばしたのだ。突然のことに驚愕する上鳴だったが、敵と接触した瞬間に個性を使えば、

 

「ぐわぁぁぁぁ‼︎⁉︎」

 

何とまさしく人間スタンガンとなって敵を気絶させることができたのだ。

 

「あ、通用するわコレ‼︎俺強ぇ‼︎二人共、俺を頼れ‼︎」

「軽いなオイ……」

 

自分に自信を持った上鳴の手のひら返しの様子に耳郎が呆れる。

 

「だったらこいつでどうだぁっ‼︎‼︎」

 

それを聞いていた敵が巨大な岩塊を抱えて、上鳴を叩き潰そうと投げ飛ばしてきたのだ。

 

「それは無理ぃっ‼︎⁉︎」

 

自分の身長以上の大きさの岩塊が迫る光景に、上鳴は青ざめながら何とか回避しようとする。

しかし、明らかに間に合わず上鳴の体が圧壊されようとした時だ。

 

「上鳴伏せろっ‼︎‼︎」

「えっ?おわっ‼︎⁉︎」

 

上鳴が慌てて伏せたと同時に、彼の頭上を何かが飛んで岩塊を粉々に粉砕したのだ。

 

「な、何だ今の?って、これ水?」

 

頭を抱えて伏せた上鳴が突然のことに周りを見渡しながら驚いていたが、自分の周囲や自分自身が水浸しになっていたことに気づく。

何でこんなところに水が?と呆ける上鳴だったが、直前の嵐の声を思い出してこの水が嵐の仕業だと気づき、彼の方向へと勢いよく振り向く。見れば、ちょうど嵐が敵を風で薙ぎ払いながら口から人間大の水の砲弾を連射し敵を吹き飛ばす姿があった。

 

「す、スゲェ!あいつ水も使えるのかよっ‼︎」

「……本当、あいつの個性って滅茶苦茶だね」

「二人共‼︎驚くのは分かりますが、後にしてくださいっ‼︎」

 

嵐が風だけでなく水も使ったことに驚く中、戦闘に集中しろという八百万の叱咤が響き、二人は慌てて敵の応戦へと意識を戻した。

 

 

嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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