天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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続き投稿しまーす。


16話 吹き荒れし凶嵐

 

 

敵と交戦を始めてから、嵐はひたすらに敵達を血祭りにあげていった。

扇を振るえば風の刃で斬り裂いたり、風を圧縮した大槌で敵を粉砕していく。尻尾を振るえば敵を纏めて薙ぎ払い、拳を振るえば敵の防御もろとも撃砕していき、水の砲弾で敵を吹き飛ばしていった。

まさしく、蹂躙の一言に尽きる。

 

「《凶槍(きょうそう)空穿ち(そらうがち)》ッッ‼︎‼︎」

 

畳んだ扇に風を纏わせてそれを勢いよく突き出し、空を穿つような風の槍で直線上の敵を例外なく吹き飛ばしていく。

地面を抉るほどの渦巻く風が敵を吹き飛ばし、副次的な鎌鼬でまた数名血飛沫を上げながら崩れ落ちた。

 

「クソがっ‼︎何なんだよっ‼︎世間知らずのエリートを甚振るだけの、簡単な仕事じゃねぇのかよっ‼︎⁉︎」

 

その光景に敵の一人が冷や汗を大量に流しながら、恐怖に引き攣った声で恨み言を吐いた。

主犯格の手だらけ男や黒靄の男曰く、ただ各地に散らばした大して戦闘経験のない子供達を嬲って殺せばいい、という簡単な仕事だったはず。

だというのに、今自分達の目の前で起きているのは全くの逆。戦闘経験がないはずの子供達にある程度戦闘経験がある自分達が圧倒されているという事実のみ。

 

耳郎、八百万、上鳴はお互いを援護することで何とか戦えているだけで、物量で押せば勝てる見込みはある。たが、あの白髪の青年ー八雲嵐は異常だった。

彼だけが常軌を逸する強さだった。明らかに喧嘩慣れした動きに圧倒的なまでの風と水の力、その上並外れた膂力に、異常な強度を持った鱗。

彼が持ちうる戦闘技術、肉体特性、その全てが敵の予想を軽く凌駕していたのだ。

 

 

何なんだアレは。

 

 

何なんだアレはっ‼︎

 

 

「……何なんだよっ‼︎あのバケモンはぁぁぁっ‼︎⁉︎」

キイィィィ—————————ァァアッッ‼︎‼︎

 

 

敵の動揺に満ちた悲鳴と龍の敵意に満ちた咆哮が重なり、敵の悲鳴が龍の咆哮に掻き消される。

その鋭い咆哮は聞いてしまった敵の動きを本能的恐怖により容易く止めて、その場に縫い付ける。そして、その隙を嵐が当然見逃すはずがない。

 

「《天旋(てんせん)荒鞭尾(こうじんび)》ッッ‼︎‼︎」

「ぐはぁっ⁉︎」

「ぶげぇっ⁉︎」

 

白い飛膜と黒い鱗を纏う青年が敵の群れに飛び込み、その中心で自身の体を勢いよく回転させ、風を纏った尻尾の薙ぎ払いを放つ。そうすれば、敵が数人纏めて吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて意識を失い崩れ落ちた。

他に残った僅かな敵たちはもはや嵐に抗おうと言う気概は湧かず、恐怖の悲鳴をあげながら逃げ出す者たちもいたが、逃げるものから徹底的に嵐が斬り伏せていき、最後に地面の中に潜んでいた明らかに他のチンピラよりも強いであろう敵がいたものの、嵐の感知の前に容易く見つかってしまい、呆気なく気絶させられ、程なくして、敵は鎮圧された。

 

 

「…………とりあえず、片付いたか」

 

 

血を流して地面に転がり激痛に呻く敵達を睥睨しながら、嵐は扇を振るい付着した血を払って腰に差すと小さく呟いた。

30以上はいた敵達はその8割が嵐によって斬り伏せられて、傷口から血を流し多くが出血性ショックで気絶している。

 

「や、八雲さん、その……」

「八雲、お前……」

「八雲……」

 

血の海に沈んだ敵達の中心に立つ嵐に、3人が恐る恐ると声をかけた。

顔を見ずともその声音には恐怖や動揺が宿っており、彼らの声に振り向いた嵐は彼らが戦慄の表情を浮かべ、体を僅かに震わせているのを目にした。

同時に、嵐は自分の格好に気づく。

自分の白の戦闘服はその大半が返り血によって赤く染まっていたのだ。純白の髪も同様であり、半分ほどが血が滲んでいる。

純白の服と髪に赤黒を滲ませ、血を滴らせながら血の海に立つ彼の姿は、敵の襲撃を経験し、不良との喧嘩に明け暮れていた嵐とは違い、まだ荒事には慣れていない15歳の少年少女には不気味に映ったことだろう。

 

「………っ、あぁ、悪ぃ。気持ち悪りぃものを見せたな」

 

嵐はそれを理解すると苦笑を浮かべながら、彼らから距離を取るように数歩下がった。

その対応に自分達の態度が彼を傷つけたのだと思った八百万と上鳴が慌てて謝罪する。

 

「す、すみません、そんなつもりではっ‼︎」

「わ、悪りぃっ‼︎八雲っ俺達はただっ」

「ああ、いや、大丈夫だ。俺の方こそ悪かった。敵を早く鎮圧するためとはいえ、もっとお前らのことも考えるべきだったよ」

「いえ、八雲さんは何も悪くありませんっ‼︎私達の方こそすみません。守ってもらったのに、こんな失礼な態度をっ」

「だから、わかってるって。お前らは俺とは違って、荒事には慣れてねぇんだろ?だからこういうのを見て驚いて、怖がるのは当然なんだよ。お前らが謝る理由なんてひとつもねぇんだ」

 

慌てて謝罪する二人にやんわりとそういった嵐は、ついで彼らを安心させるように笑みを浮かべると、周囲で倒れている敵達を見渡しながら呟く。

 

「それに全員致命傷は避けてるし、出血が派手なだけで、死に至るような傷じゃない。まぁ目に悪いのは仕方ねぇな。もうこの辺りの敵は片付いたから、今すぐ離れよう」

「……八雲さんは、この後どうするんですか?」

「最初は散らばった皆を助ける為に飛び回ろうかと考えていたが、敵のレベルがこの程度なら余程のことがない限り大丈夫だろう。だから、俺は相澤先生を救けに行く」

「先生を?でも、先生だってプロだし、八雲が言うレベルの敵なら、大丈夫なんじゃねぇのかよ?」

 

上鳴が困惑混じりにそういう。

嵐の言う通り、敵のレベルがこの程度のチンピラならば、自分達ならともかくプロの相澤が苦戦するはずはないと思っている。だからこそ、嵐が救けに行く理由がわからなかったのだ。

 

「…………あんたが焦るぐらいヤバイ敵がいるの?」

 

今までずっと黙ったままだった耳郎が緊迫した表情を浮かべながら彼にそう尋ねた。

嵐はそれに静かに頷く。

 

「………ああ、一人だけとんでもなく強い奴がいる。手だらけの男ー恐らくはリーダーだろう。そいつの隣に控えていた脳味噌剥き出しの大男。あいつが黒靄の男以上に危険だ。俺の見立てだと、オールマイト並みの強さはあるだろうな」

「はぁっ⁉︎オールマイト並みっ⁉︎そんな敵がいるのかよっ⁉︎」

「お待ちくださいっ‼︎まさか、八雲さんはそのオールマイト並みの強さの敵と戦うつもりなんですかっ⁉︎」

「そうだ」

 

迷いなく強敵と戦うことを選んだ嵐を八百万は引き止めようと必死に声を張り上げる。

学級委員長、副委員長として同じクラスをまとめる立場にあるからだけではない、一人の仲間として、みすみす友人を見殺しにするような真似を彼女はしたくなかったのだ。

 

「そんなの無茶ですわっ‼︎いくら貴方が強くても無謀ですっ‼︎ここは先生方が救援に来てくれるまで待っ「待ってたら先生は確実に死ぬっ‼︎‼︎」ッッ⁉︎」

 

必死に言葉を紡いでいた八百万の言葉を遮った嵐の怒号に彼女は思わず息を呑んだ。

嵐の怒号に驚いたのもあるが、それ以上に彼の表情が確固たる力強い決意と、深い悲しみが宿る後悔が混ざり合っていたのだ。

嵐は静かな口調で続きを話す。

 

「……救援を待っていたら、相澤先生は確実に殺される。それを分かっていながら、待つことなんて俺にはできねぇ。あの人は、俺にとって大きな恩がある人なんだ。返せない大きな借りがある。だから、死なせたくねぇんだ。確かにお前の言う通り、オールマイト並みの敵と戦えばタダで済まないのは確かだ。だが、一方的に負けるほど俺も弱くもねぇ。それにな」

 

そこで、一度口を閉じ、憂いを漂わせる悲痛な表情を浮かべながらも、口だけは笑みを浮かべて絞り出すように言った。

 

「———もう、目の前で誰かが死ぬのを見るのは御免なんだ。今度こそ、俺はこの力で傷付けるんじゃなくて、護りたい。だから、行かせてくれ」

『ッッ‼︎』

 

自分の顔の前まで右腕を上げて、血が付着した拳を握りしめそう告げた嵐の顔は悲痛に満ちており、今の言葉から彼が過去に目の前で誰かを失ったのだという事実をはっきりと彼女らに認識させたのだ。

彼が過去に何があったのかはわからない。だが、そう言う覚悟を持つに至った壮絶な経験をしており、彼がそれを繰り返したくないと思っていることが分かってしまった。

八百万と上鳴は彼の黄金色の瞳に宿る決意の固さが窺えてしまい、彼を引き留めるための言葉が思いつかずに何も言えなくなってしまう中、耳郎が静かに言った。

 

「行って、八雲」

「耳郎?おい…」

「耳郎さん、何を?」

 

二人が戸惑いながら彼女に振り向く中、耳郎は二人の間を抜けて、血の海にブーツが汚れるのも構わずに彼に近づくと彼を見上げながら、真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 

「ウチらはあんたのおかげで大丈夫だから、早く先生を救けに行ってあげて。あんたの力ならそれができるんでしょ?」

「……ああ、恐らくな」

「うん、だったらいいよ。あんたの本気ならもしかしたら、オールマイト並みの敵相手でも勝てちゃうかもしれないしね。だから、ウチらのことは気にしないで行って」

 

そう彼の背中を押す言葉を言うと、少し申し訳なさそうな表情を浮かべ謝罪した。

 

「それと…さっきはビビっちゃってごめん。八雲が躊躇なく敵を斬っていたから、正直アンタが怖かったんだ。でも、ウチらを守る為に戦ってくれたんだよね」

「………そんなこと、気にしなくていい」

「アンタがそう言うのは分かってたよ。それでも、ありがとうね。あんたが守ってくれたから、今ウチらは生きてられる。だから、その力で次は相澤先生達を護ってあげてよ」

 

そうして今度は一転してニッと笑みを浮かべながら、彼の胸にドンと自分の拳をぶつけ彼女は言った。

 

「アンタの本気はこんなもんじゃないでしょ?試験の時みたいに、敵を蹂躙して勝ってよっ。それで、絶対に無事に戻ってきてって約束してよ。戻ってきたら、八つ橋たらふく奢るからさ」

「……耳郎。ああ、約束する」

 

耳郎の言葉に嵐は驚いたように目を見開いて彼女の名を呼ぶも、真っ直ぐにこちらを見つめる信頼に満ちた彼女の黒い瞳を見て、小さく笑みを浮かべて約束すると上鳴へと振り向いた。

 

「上鳴、刀を」

「お、おう」

 

そう言って上鳴は嵐に『催花雨』を返した。受け取った嵐は、徐に鞘に結ばれた赤紐を掴むとするすると解いていく。そして、鞘と柄を結んでいた紐は完全に解け、嵐は鞘から少しだけ刀を引き抜く。

 

「よし」

 

鞘から現れた黄金の波紋が浮かぶ黒い刀身の煌めきを見た嵐は満足そうに頷くと、キンと鳴らして納刀すると腰の帯に差す。

そして、耳郎達に背を向けると呟いた。

 

「耳郎ありがとうな。ちょっと行ってくるわ」

「うん、行ってらっしゃい」

「ああ」

 

嵐は力強く頷くと両腕を大きく広げながら、両腕だけ更に変化させていく。

両腕の長さを伸ばしながら、親指、人差し指もまた伸ばしていき、他の三本の指はその隙間を大きく広げその間を水掻きのように飛膜が生え翼へと変わっていく。

そして、自分の体を覆い隠せるほどの巨大な飛膜に包まれた鰭のような形状の翼を広げると、全身に膨大な風を纏わせて、一度大きく羽ばたいて一気に空へと飛び上がり噴水前の広場に向かって飛んでいった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

飛び去る嵐を見送った八百万は彼の背中を押した耳郎へと視線を向けて尋ねる。

 

「耳郎さん、よろしかったんですか?」

「なにが?」

「八雲さんの事です。彼を行かせてしまって、もしも本当に命の危機に晒されてしまったら……」

「大丈夫だよ」

 

不安そうにする八百万に耳郎は迷うことなくそう断言したのだ。そして、耳郎は信頼に満ちた表情を浮かべて話し始めた。

 

「ヒーローを目指す人としては言っちゃいけないんだろうけど、ウチさ……八雲なら、こんなにヤバい状況でも何とかしてくれるんじゃないかって思ってるんだよね」

 

耳郎は嵐のことを信頼しているし、尊敬している。

彼の圧倒的な強さと、揺るぎない覚悟と決意を宿す背中を目の当たりにし、彼女は彼に憧れのヒーローの背中を重ねて心を奪われた。

だから、思ってしまうのだ。どれだけ危険な敵が相手でも、彼ならば乗り越えてしまうのではないかと。

それにだ、

 

「今あいつを引き留めて先生にもしものことがあったら、多分、八雲は自分を責めて酷く後悔する。でも、ウチはアイツには後悔して欲しくないんだ」

 

さっきの彼の言葉にもあった通り、彼は過去に誰かを目の前で失ってしまい、ひどく後悔したことがあったのだろう。だからこそ、もう二度と同じ過去を繰り返さないように強くなったのだと、分かってしまった。

そして、彼は優しい人間だ。自分にどうにかできる力がありながら、護れたはずの誰かをみすみす見殺しにしてしまっては彼は自分を責めてひどく後悔してしまう。そして、一人で抱え込んでしまうのだ。

 

そうさせない為に、彼女は彼を行かせた。

彼にはもう後悔してほしくないから。

 

最後にそう言った耳郎が浮かべた思いやりに満ちた笑顔に、八百万は驚きつつも小さく笑みを浮かべ呟く。

 

「………とても、信頼されているんですね。八雲さんを」

「………うん、まぁね」

 

照れて頬をかきながらも迷いなく頷いた耳郎に、上鳴は肩をすくめて笑うと、八百万の方に振り向きながら言った。

 

「じゃあ、あいつの事、俺らも信じようぜ」

「………ええ、そうですわね。同じA組の仲間であり、共にクラスをまとめる者ですもの」

 

二人の不安が完全に拭われたわけではない。

だが、入学してまだ日も浅いのに、多くの信頼を彼が得ている事、そして友人である耳郎にここまでの事を言わせた嵐を信じてみようと思えたのだ。

 

(………八雲、絶対に勝って無事に戻ってきなよ。それに、いつまででも待つからさ、話してよ。あんたが過去に何があったのかを。ウチらは友達として、あんたの支えになりたいんだから)

 

ただ友達として彼の力になりたい。

耳郎は嵐の無事を祈りつつ、そんなことを考えながら、八百万や上鳴と共に自分にやれることをやる為に山岳ゾーンを後にした。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「ぐぅああぁぁぁぁぁっ‼︎⁉︎」

 

 

噴水前の広場ーそこでは相澤の苦痛に満ちた叫びが虚しく響いていた。

相澤は大勢の敵相手に大立ち回りを見せていたものの、嵐が危惧していた脳味噌剥き出しの大男の一撃により窮地に追い詰められていたのだ。

“抹消”でその大男を視るもその速度、膂力は一切衰える事なく相澤をたやすく捉えて地面に叩きつけて丸太のような剛腕で彼の右腕を握りつぶす。

 

「〜〜〜〜ッッ‼︎‼︎」

 

嫌な音が響き、相澤の右腕が更に握りつぶされあらぬ方向へとへし折られる。しかも、彼の右肘は敵の個性によるものなのか、ボロボロと崩れており、赤い肉が剥き出しになっていたのだ。

 

「個性を消せる。確かに素敵な個性だけど、なんてことはないね。だって、圧倒的な力の前ではつまり、ただの、無個性だもの」

「ぐぅっ」

 

主犯格の手だらけ男ー死柄木弔は顔面に掴ませた他の人で愉悦に歪む笑みを浮かべながら、嗤う。更に大男は、激痛に苦しむ相澤のまだ無事な左腕を掴むと、小枝でも折るかのように容易く握りつぶした。

 

「ぐぁ……‼︎」

 

グシャと生々しい音が響き、相澤の苦悶の声が再び上がる。

 

(くそっ、小枝でも折るかのようにっ‼︎確かに個性は消したはずだっ‼︎てことは、素の力でオールマイト並みかよっ‼︎)

 

嵐の言葉がを思い出し悔しそうに呻く相澤の頭部を、大男は掴むと地面に叩きつけた。

地面が陥没するほどの威力で叩きつけられた相澤は声すら出せ

ないでいた。

 

「ハハハハ、どうだイレイザーヘッド。すごいだろう、脳無は。こいつが対平和の象徴なんだぜ?」

 

愉快そうに嗤う死柄木はまるで新品の玩具を自慢するかのように組み伏せられる相澤にそう言った。

この大男こそが、オールマイトを殺せる存在であり、嵐の読みは間違ってはいなかったのだ。

 

「死柄木弔。イレイザーヘッドを殺して、早く撤退しましょう。直に援軍が来てしまいますよ」

 

死柄木の側に現れた黒靄ー黒霧が死柄木に撤退を促す。彼は首をガリガリと掻きむしりながら、心底めんどくさそうに呟く。

 

「はぁ、もう少し遊びたかったけど、既に応援を呼ばれてんならしょうがないか。ったく、嫌になっちゃうよ、まさかチュートリアルが負け確定のクソゲーをやらされていたなんてさぁ。普通チュートリアルはプレイヤー側が勝つもんだぜ?」

 

まるでゲームをしているような感覚で紡がれる言葉は、この状況では異常だった。しかも、オールマイトを殺すと言っておきながら、オールマイトを殺さずに撤退しようとする始末。

彼がやろうとしていることは滅茶苦茶だったのだ。

そして、そんな彼らの様子を、少し離れたところから見ていたもの達がいた。

 

「む、無理だって……考え改めろよ、緑谷ぁ…!」

「ケロォ……」

「………‼︎」

 

峰田、蛙吹、緑谷の3人だ。彼らは湖の水辺に半身水に浸かったまま相澤が一蹴される光景を目の当たりにしてしまっており、驚愕に目を見開いていた。

彼らは湖のエリアー水難ゾーンと呼ばれる場所に飛ばされていたが、何とかそこにいた敵を一網打尽にし切り抜けてきて、水辺に到達したところでちょうどその光景を見てしまっていた。

彼らの表情は絶望一色に染まっており、自分達の認識が甘かったことを思い知り、恐怖に身を震わせていた。

 

(僕達がフォローしたところで………何も変わらないっ……むしろ、邪魔になるっ)

 

初め、緑谷は敵との初戦闘にして初勝利できたことで、相澤の負担を減らすために何かできないかと考えていた。

だが、それ自体が間違いだった。緑谷達は何一つ分かっていなかったのだ。

敵の恐ろしさを、敵の悪意を、敵の強さを。何一つ見えていなかったのだ。

だからこそ、今の自分達が出て行っても足手纏いになって、相澤を更に追い込む結果を招くだけと言うことを、緑谷は漸く理解した。

 

(何でっ…僕はまだ制御ができてないんだっ‼︎)

 

目の前でプロヒーローが敗北してしまったことで彼らの心には果てしない絶望が生まれる中、緑谷は悔しそうに歯を噛み締めた。

 

緑谷の個性ー“ワン・フォー・オール”はオールマイトから授けられた個性だ。彼と同じく超パワーの個性だが、今の緑谷はそれを十分に扱えていない。だからこそ、その制御ができていない自分が一発自爆覚悟で最大火力をうったとしても、一発で済むような相手じゃないのは明白。何も出来ないただの木偶の坊に成り下がってしまう。

 

(頼むっ……誰かっ、相澤先生を救けてくれっ……‼︎)

 

自分の無力さを恨む中、緑谷はそう懇願する。

ヒーローとして他力本願は本来ならばあってはいけないことだ。だが、今の自分達では相澤を助けにいくこともできずただ見ていることしかできない。

だからこそ、せめて他の誰かが相澤を救けてくれと願うほかなかった。

 

「でもさぁ、せめて‥‥最後に、平和の象徴の矜持をへし折ってから帰ろうぜ」

 

死柄木がそう呟き不気味な笑みを浮かべた直後、彼の赤い瞳がこちらへと向いたのだ。

 

「ッッ‼︎」

 

目があったことに緑谷が恐怖を覚え身をこわばらせた一瞬で、死柄木は彼らの元へと肉迫し、骨張った手が蛙吹の顔面に伸びていた。

 

「ぁ………」

 

完全に不意をつかれて、敵の接近を許してしまった緑谷は走馬灯のように相澤の戦いの一瞬が脳裏によぎり、相澤の右肘の崩壊、それを成した彼が触れれば人体が粉々に砕ける個性を持っていることを思い出したのだ。

あまりに一瞬のことに緑谷達は動けず見ているだけしかできない中、彼女を崩壊させようと死柄木が手を伸ばし、いざ触れようとした瞬間、

 

 

 

———一陣の暴風が吹き荒れた。

 

 

 

「ごほっ⁉︎」

「………っ?」

「ぬぅっ⁉︎何がっ‼︎」

 

突然噴水広場に暴風が吹き荒れ、まだ立っていた敵達が全員血飛沫をあげ崩れ落ち、緑谷達に襲い掛かろうとした死柄木がボールのように軽々と吹き飛ばされ、黒霧も同様に吹き飛ばされた。

更には、相澤を抑えつけていた脳無の両腕が二の腕から斬り落とされ、更に下から何者かに顎を蹴り上げられ上空へと舞い上がり、地面へと落ちたのだ。

 

「え………?」

「は……?」

「ケロォ………?」

 

一瞬で主力である3人の敵が吹き飛ばされたことに三人が呆気にとられる中、緑谷がまず気づいた。

 

「ぁ、あれは………」

 

いつの間にか相澤を抱き抱えながら立つ一人の青年。白い飛膜に長い尻尾、黒い鱗に黄金の角を携える白い羽衣に身を包んだ八雲嵐がそこには立っていたのだ。

 

「や、八雲君っ‼︎」

「八雲ちゃんっ‼︎」

「八雲ぉぉ———ッッ‼︎‼︎」

 

緑谷、蛙吹が涙を滲ませながら安堵の声をあげ、峰田が滂沱の涙を流しながら彼の名を叫んだ。

 

「………先生……」

 

嵐はその声を聞きながらも、自身の腕の中にいる相澤の状態を確認し、悲しみに顔を歪める。

まだ何とか脈はあるが、両腕の粉砕骨折に加えて、顔面からは大量の血が流れている。内部はレントゲンをとらないと分からないが、確実に骨は折れているだろう。

一刻も早く手当てをしないと危ない状態だ。

それに、危険な状態にあるのは13号も同じだった。彼女もまた、敵に敗れ背中を大きく負傷する怪我をしており動けないでいたのだ。

プロヒーローが敗北するという事態に、嵐の中で怒りの炎が沸々と湧き上がり、口唇を怒りに振るわせながら相澤に謝罪する。

 

「………すみません。遅れてしまいました…」

「……や……くも……」

「あとは俺に任せて休んでてください」

「………すま……ん…」

 

相澤は途切れ途切れにそう言うと、完全に意識を手放す。

嵐の胸中にはさまざまな想いが溢れていた。

相澤と一緒に戦っていれば、もっと早くに黒霧を捕らえることができていれば、相手が動く前に先手を打っていれば、などこうすればよかったとさまざまな後悔が溢れてきたのだ。

 

「…………っっ」

 

嵐は己の不甲斐なさにギリッと歯を噛み締め、怒りに打ち震える。だが、すぐに深く息をついて無理やり落ち着かせると相澤を気遣うように抱えながら、一瞬で緑谷達の元へと移動した。

 

『ッッ⁉︎』

 

一瞬で移動し自分達の目の前に現れた嵐に三人が驚く中、今度は自分達の体が浮く感覚を覚え、次の瞬間には地面に下ろされていた。

 

「え?えっ、速っ⁉︎」

「ケロ、私達を抱えて一瞬で……」

「………っ」

 

尻尾が自分達3人の腰に巻き付いていたことから、彼が尻尾で3人を抱えて移動したのだとわかる。しかし、人を四人抱えているとは思えない速度での移動に3人は驚愕を隠せなかったのだ。

嵐は驚く3人に相澤を託しながら、優しい声音で素早く指示を出す。

 

「お前ら、先生を頼む。かなり危険な状態だ。早く手当しないと命に関わる」

「う、うん」

「お前らはよく頑張った。だから、あとは俺に任せておけ。敵は全員俺がぶった斬ってやる」

 

嵐は三人を安心させるようにそう言う。クラス最強の男の登場に緑谷達は不安が取り除かれていくのを感じるが、彼の表情を見て気づいた。

 

(八雲君……激怒してるっ)

 

いつも浮かべてる兄貴を思わせる頼もしい笑みは今彼の顔にはなく、代わりに静かな怒りが滲んだ険しい表情になり、殺すのではないかと錯覚するほどの凄まじい殺気がこめられた眼差しに、彼が本気で怒っていることに気づいたのだ。

ここから彼は本気で戦い、何が何でも敵を倒すつもりなのだろう。その意図を理解した緑谷達は相澤を支えつつ彼に背を向けながら激励の言葉を送った。

 

「八雲君っ‼︎そのっ、気をつけてねっ‼︎」

「八雲ォッ‼︎あいつら全員倒してくれっ‼︎」

「ケロ、八雲ちゃん、絶対に無事に戻ってきてね」

「ああ」

 

そして緑谷が腕を抱えて、峰田が彼の足を持って相澤を運んでいく。嵐はそれを尻目に見るとすぐに排除すべき敵達へと視線を戻した。

視線の先ではちょうど倒れていた死柄木が立ち上がり、嵐を睨んでいたところだった。

 

「クソがっ、いきなり何しやがるっ‼︎あのクソガキがっ‼︎‼︎俺の邪魔をしやがって‼︎」

「落ち着いてください、死柄木弔。しかし、やはり来ましたか。貴方なら、我々がいるここに来るのではないかと思っていましたよ」

 

悪態をつく彼を黒霧が宥めると、恨む口調で呟く。嵐は彼の言葉には答えずに冷淡だが、明らかな怒りが滲む声音で独り言のように静かに言葉を紡いだ。

 

「………テメェらがどんな思惑でこんな馬鹿げたことをしでかしたかはこの際どうでもいい。だがなぁ」

「あ?何言ってやがる………っ⁉︎」

「これは…風が、彼の方へと流れて……」

 

何を呟いてるのか分からなかった死柄木が眉を顰めるが、その直後異変に気づき、黒霧も遅れて気づいた。

どこからともなく風が吹き、彼の方へと吹きながら、次第に勢いを増しているのだ。

はじめこそは、そよ風程度だったのに、今では体を横殴りにする暴風へと変わっていた。

そして、変化はそれだけではない。

 

「先生達をよくもあんなボロボロになるまで傷めつけてくれたなっ‼︎‼︎俺の大事なクラスメイト達をよくも不安にさせやがったなっ‼︎‼︎ふざけんじゃねぇぞっ‼︎‼︎クソ敵共がぁっ‼︎‼︎」

 

激昂し怒鳴る嵐の肉体にも変化は生じる。

橙色に輝いていた眼光は、殺意に満ちた血の如き真紅へと色を変え、胸部の橙色の輝きには嵐を内包しているかのように紫電の迸りが混ざる。

更には飛膜に浮かぶ山吹色の波紋もまた瞳と同じ不吉な真紅へと変色する。飛膜自体も墨が滲むような紫がかった黒へと変貌を遂げたのだ。

そして、嵐の周囲を吹き荒れる風は、もはや台風並みの強風へと変わっており轟々と唸る。

 

禍々しい変貌を遂げた嵐が放つ凄まじい気迫と、吹き荒れる暴風に死柄木と黒霧が息を呑み身構える中、嵐は腰の鞘から金の波紋が浮かぶ黒刀を抜くと右手に構え、左手に扇を持って剣扇一体の構えを取り腰を落として殺意と激怒を込めた雄叫びを上げた。

 

 

 

 

「この俺に喧嘩を売って怒らせたんだっ。テメェら全員生きて帰れると思うなっ‼︎俺が全員斬り捨ててやるっ‼︎‼︎」

 

 

 

 

己の縄張りに侵入し好き勝手した不埒者達を排除する為に。

 

 

己の大切な仲間達を傷つけ怯えさせた外敵を滅ぼす為に。

 

 

今、天空を舞う嵐の龍は怒り狂い己の力を解き放った。

 

 




耳郎がもはや健気なヒロインにしか見えない件。

そして、嵐君、嵐龍への完全変化を見せる前に人間態ではありますが、ゲームでもお馴染み第二段階へのブチ切れ移行を解禁しました。

さぁ、次回、嵐が暴れまくりますっ‼︎‼︎

嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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