天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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最初に言っておきます。
すでに何人かは気づいていたり、予想がついていたりするかもしれませんが、改めて今回は胸糞注意ですので、そちらを踏まえてどうぞ。


18話 亡霊

 

『オールマイトォォォ‼︎‼︎』

 

 

オールマイトの登場に生徒達の表情は一様に明るくなって安堵や歓喜の声が溢れる。

オールマイトは生徒達の表情から恐怖が消えたのを見てひとまず安心するものの、直後に応急処置を受けている後輩二人の姿に、険しい面持ちになる。そして、彼は入口前の広場や噴水前の広場を見渡しながら呟いた。

 

「嫌な予感もあったし、空模様がおかしかったらから……校長のお話を振り切りやって来たよ。そして、来る途中で飯田少年とすれ違って、何が起きているかあらまし聞いたよ」

 

元々オールマイトが遅れてきたのは、何も制限時間が近かったからだけではない。仮眠室で休んでいていざ向かおうとした時に、雄英の校長である白い珍獣ー根津に捕まり、それはもう長いお説教タイム+彼の教師論を聞かされていたのが1番の原因だ。

電話が繋がらないという気掛かりがあったものの、話を聞いていたのだが、突如USJの方向から凄まじい速度で暗雲が広がり嵐が発生したことで事態は急変。そして、龍の咆哮が聞こえてきた瞬間に、オールマイトは根津の話を中断させて、教師達を動員する様に伝えながら飛び出したのだ。

吹き荒れる暴風に多少速度を落とされながらも、走っていた彼は途中嵐の命令で本校舎に救援を呼ぶために走っていた飯田と遭遇。そして、話を聞いてここに来たというわけだ。

 

絶望を浮かべていた生徒達の表情や、倒れる相澤と13号、そして、半ば崩壊しかけている噴水広場で敵と思しき数名と向かい合う様に立っている暴風纏う嵐の姿を見て大凡のことは把握できた。

 

(あぁ……君は凄いな。君は見事に凌いだんだね。私が来るまで、君は諦めることなくたった一人で、子供達や後輩達を護りきったんだ…!)

 

入試で彼を目にしてから常々凄い子だとは思っていた。戦闘力もそうだが、卓越した判断力も、ヒーローとして必要な素養が既に軒並み高く、自分の半分にも満たない歳なのに、もうトップ10に名を連ねていてもおかしくはないだろうと確信できていたほどに。

プロヒーローが二人も倒れ、生徒達が恐怖に怯える中……彼らの代わりに同い年のクラスメイト達を護る為に彼はたった一人で強敵と戦っていたのだ。

 

(全く、己に腹が立つ…っ‼︎子供らがどれだけ怖かったか、後輩らがどれだけ頑張ったか………そして、他ならぬ彼に全てを背負わせてしまっていたことがっ‼︎)

 

彼は嵐を誇らしいと思うと同時に己を情けなく思う。

自分がもたもたしている間にこんな状況を招いてしまったこと、本来ならば守らなくてはいけない子供である嵐に命をかけさせていたことを。

だからこそ、自分が戦わなくてはならない。

 

(君がここまで頑張ったんだ。……ならば、私もヒーローとしてこの騒動を終わらせなければっ)

 

子供達を安心させる為だけではなく、彼のこれまでの奮闘に報いる為にこの騒動を終わらせよう。

 

「………オールマイト先生」

 

その為に進もうとした時、自分を呼ぶ声が聞こえる。その声に足を止めて振り向けば、そこには二人の手当てを続ける八百万の姿があった。彼女は手当の手を止めず、視線も逸らさないまま真剣な声音で状況を説明していく。

 

「最も強い敵は八雲さんが圧倒しており、残りの主犯の敵二名もあともう少しの所まで追い詰めていましたが、つい先ほど増援が到着してしまいました。増援は一人ですが、八雲さんの様子から彼女もまた並外れた力を持つ敵のようです。いくら、八雲さんといえど2対1では苦戦は免れないでしょう。ですから」

 

そう言って八百万は初めて顔を上げると、オールマイトを見上げて懇願する。

 

「お願いします。八雲さんを護ってください。私は、私達は八雲さんに死んでほしくはありません。ですが、私達ではまだ彼を支えられるほどの力はありません。ですから、貴方のお力で八雲さんを救けてください」

 

八百万の真剣な懇願や他の生徒達からも縋るような視線を向けられたオールマイトは彼女の頭に手を伸ばして優しく撫でると、自分がいつもやっているように人々を安心させる笑顔を浮かべながら頷いた。

 

「ああ、彼の事は任せなさい八百万少女。だから、二人のことは頼んだよ」

「〜〜っ、はいっ‼︎」

 

オールマイトの言葉に八百万は一層気を引き締めると彼らの治療へと意識を戻した。それを見たオールマイトは軽く跳ねて地面を駆け抜けると一瞬で嵐の隣へ移動し、自分を無言で見上げる嵐の肩に手を置く。

 

「八雲少年、ここまでよく頑張ってくれたね。本当にありがとう」

「…………いえ、俺がもっと上手く立ち回っていたら、先生達はあそこまで重傷になることはなかった。俺は、完全には護りきれませんでした」

 

オールマイトの礼に嵐は険しい表情のまま自分の行動をそう酷評する。オールマイトはそんな彼の言葉を、優しく否定した。

 

「そんなことはないよ。君がここまで持ち堪えてくれたおかげで、私がここに間に合ったんだ。状況は八百万少女から簡単に聞いて把握している。もうすぐ、教師達も此処に到着するよ。だから、安心して休んでてくれ。君はここにいた皆の命を護りきったんだから、もう十分に頑張ってくれた」

 

そう彼の勇気ある行動を賞賛すると、嵐に小声で別の事について話した。

 

「それと八雲少年、外では嵐が酷くなりつつある。君が力を抑えきれないほどに怒っているのは重々承知だが、これ以上続くと市民達が危険だ。纏う風は抑えなくていいから、せめて外の嵐は抑えてもらえないかな?」

「ッッ⁉︎」

 

嵐はオールマイトの言葉に目を見開くと、僅かに動揺し申し訳なさそうな表情を浮かべながら謝罪する。

 

「……っっ、すみません、失念していました。今の状態で完全に抑えることは不可能ですが、範囲を絞らせてみます」

「うん、頼むよ」

 

嵐は無言で頷くと、深く息を吸って天に向かって咆哮を上げた。

 

オオォォォォ—————————ン

 

それは、今までの威圧感が込められたような鋭い雄叫びではなく、長く尾を引く遠吠えにも似た鳴き声だ。

それに呼応するかのように外で広がる大嵐が範囲を縮小していき、ドームから覗く空模様からはわからなかったが、十秒もしないうちに大嵐の範囲を雄英高校の敷地とほぼ同サイズの大きさにまで縮める事に成功したのだ。それを成した嵐は、小さく息をつくとオールマイトに結果を報告する。

 

「……一応、4割程度の大きさに抑えることはできました。感覚的には雄英高校を丸ごと飲み込めるぐらいの大きさです。ですが、これ以上は無理です。奴らを滅ぼすまで、この怒りを抑えることはできない」

「……八雲少年………」

 

オールマイトは嵐の殺気に満ちた紅い眼光と放たれている怒気や躊躇のない発言に思わず目を見張る。

 

彼の容姿の変貌は限界を超えた怒りによるものだ。感情が高ぶれば瞳や胸が橙色に輝くが、限界を超えた怒りや生命の危機に直面した時、彼の瞳は紅く輝き、胸には紫電の迸りが混ざり、体は黒く染まる。

 

しかも、それだけではない。彼の感情の発露の影響は、彼自身の肉体だけでなく()()()()()()()()()()

現に、今外では未曾有の大嵐が突然発生しており、テレビではどの番組でも緊急ニュースとして取り上げられ、警察や消防隊、近隣のヒーローも雄英周辺区域の避難活動を行なっていた。

ちなみに、嵐が猛威を振るっていたのは僅か数分だけであり、既に嵐の範囲は大幅に狭まっている為、外部では怪我人は数名出たものの、死者は出ずにすんだ。

 

そして、誰もが突然の気象変動に混乱する中、オールマイトを含めた雄英の教師陣や一部の者達は理解していた。

 

これは、八雲嵐の個性によるものだと。

 

個性『嵐龍』。その本質は———『厄災』。

彼の個性の最大の特徴は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。

 

その力は本当に強大であり、何もしていなくても()()()()()()()()()()()()()()嵐を呼んで周囲を破壊するほどの天災を齎してしまうほどだ。

その危険性を理解しているからこそ、彼は普段はその鍛え抜かれた強靭な精神力で無意識下でも嵐を出現させないように抑え続けているのだ。

しかし、今回は大嵐が出現してしまっている。抑え続けてきた理性の枷が砕けてしまうほどに、今回の一件は嵐を怒り狂わせたのだろう。

そして、人間の理性ではなく嵐龍の本能が彼の心を突き動かしている為、敵を鏖殺することも厭わないはずだ。

だからこそ、オールマイトは自然と理解する。

自分が来たからと言って、自分に任せて下がるほど彼はおとなしい精神状態にはない事に、そして今彼はヒーローとしてではなく嵐龍として敵を排除しようとしている事に。

一体どう言って彼を落ち着かせようかと彼が苦悩する中、既に剣扇を構えて敵を見据えていた嵐が彼らから目を離さないままオールマイトの名を呼んだ。

 

「オールマイト」

「……っ、なんだい、八雲少年」

「単刀直入に聞きます。貴方は()()()()()()()()()?」

「ッッ⁉︎どうして、それをっ⁉︎」

 

オールマイトは本来嵐が知らないはずの情報を知っている事に目を見開き明らかに動揺する。そんな彼に嵐は小さく謝罪した。

 

「先生達の会話を聞いてしまいました。貴方が制限時間ギリギリまでヒーロー活動をしていたせいで授業に遅れると」

「………そう、だったのか」

「詳しい話は後で聞きます。貴方が一応後数分戦えるという前提で話しますが、後ろの二人ははっきり言って脅威ではありません。しばらくはまともに動けないほどに痛めつけましたから。そして、前の二人。差異はあれどどちらも貴方クラスの強さです」

「なっ」

 

オールマイトが自分並みの強さを敵が誇っていると言う事実に純粋に驚く中、嵐は敵の詳細な情報を伝えていく。

 

「右の大男ー脳無と呼ばれていますが、彼の個性は超再生とショック吸収の二つ。素の身体能力は貴方並みです。痛覚はゼロで、再生の方も胴体が分かれても繋がるほどの再生力を有しています。しかし、脳無はただ出鱈目に暴れるだけで技術がない。あと、奴は命令を聞いて動いています。逆に言えば命令がなければ何もしませんのでやりようはあります。それよりも、あの女です」

 

そう言って嵐は次に白妖の事も伝えていく。

 

「白妖の方は情報が少なすぎる。黒炎と血の刃を扱うという複数の個性を持っているとしか情報がありません。そして、総合的に見て脳無よりも強いと俺は判断します。———ですから、彼女は俺が相手します。先生は脳無の方を」

「なっ⁉︎駄目だ、君は下がっていなさいっ‼︎‼︎いくら君でもこれ以上の戦いは危険だっ‼︎‼︎君自身の心が危ないっ‼︎‼︎」

 

オールマイトは戦闘を続行し、より危険な敵を引き受けようとする嵐を思わず引き留める。

嵐龍の個性は使い続ければ使い続けるほどに威力が増すと言うメリットがあるが、同時に本能に理性が蝕まれると言うデメリットが存在している。

ただでさえ、大嵐を発現させてしまうほどに怒り狂っている彼が、これ以上この精神状態のまま戦えば彼自身の心が個性に呑まれる可能性があったからだ。

だが、そんな彼の制止に嵐は静かな声音で答えた。

 

「完全変化しない分、消耗は大幅に抑えることができます。だから、俺はまだまだ戦えます。後何分戦えるかわからない貴方が弱い方を引き受けて、まだ余力のある俺が強い方を引き受けるのは当然だ」

 

嵐の言い分は否定のしようがない事実であると同時に正論であり、オールマイトは反論できずに程なくして折れた。

 

「〜〜〜〜〜ッッ、分かった。正直今の私にとって君の協力はありがたい。私と共に戦おう。でも、殺しは駄目だよ。それにヤバくなったらすぐに下がりなさい。いいね?」

「………分かりました」

 

彼の言葉に渋々頷いた嵐は、オールマイトと共に身構える。

二人の話し合いが終わるのを律儀に待っていた白妖は、終わったと判断すると嵐に声をかける。

 

『作戦会議は済んだか?』

「ああ、済んださ。悪ぃな、待たせちまって。テメェらも早く決着をつけてぇだろ?だから、とっとと始めようぜ」

「さあ、敵よ。覚悟しろよ。ここから逃げられると思うな‼︎」

『いいだろう。脳無、君はオールマイトをやれ。私が彼の相手をしよう』

「……っ‼︎」

 

脳無はその言葉に答えるとすぐさまオールマイトへと駆け出していき、オールマイトもまた迎え撃つべく駆け出す。

互いの距離がゼロになった瞬間、お互い剛腕を大きく振りかぶりながらその拳を激突させた。そうすれば、嵐との激闘の時と同じように凄まじい衝撃波が放たれて、二人はそのまま壮絶な殴り合いを始める。

真横から聞こえる壮絶な殴り合いによって生じた打撃音を聞きながら、嵐と白妖は横へと歩きオールマイト達から距離をとった。

 

「『…………』」

 

ゆったりと歩いているように見えて、両者お互いに全く隙すら見せずに、お互いの出方を探っている。そして、数秒の睨み合いの末、嵐が動いた。

 

「《疾風瞬天(しっぷうしゅんてん)》ッッ‼︎」

『《烈火爆進(れっかばくしん)》』

 

嵐が暴風を圧縮して疾風の如く飛翔したのに対し、コンマ数秒遅れた彼女もまた脚や尻尾に収束させた黒炎を爆発させて勢いよく前進する。

白風を纏う嵐と黒炎を纏う白妖はお互いに真っ直ぐ突き進み、風の黒刀と血の紅刃をぶつけオールマイト達同様、凄まじい速度の斬り合いへと転じる。

火花を散らし、風と炎を周囲に撒き散らしながら、その爆心地に立つ二人はお互いに何度も体を浅く斬られているものの互いに一歩も引かず、剣をぶつけ合う。そして、四十合目の斬り合いをした後、彼女が更なる一手を繰り出す。

 

『……《九怨焔尾(くおんえんび)》』

「……っ‼︎」

 

嵐と斬り合いながら九本の尻尾その全てに黒炎を纏わせると、槍のようにして上と左右から伸ばしほぼ同時に嵐を貫こうとけしかけたのだ。

 

「《天嵐羽衣》ッッ‼︎‼︎」

 

間一髪で暴風の防御壁が間に合い、槍尾と激突する。ガギィィンと明らかに異様な音を立てて槍尾を阻み弾く。しかし、一度では弾かれるとわかると彼女はそのまま尻尾を動かし、九本の尻尾で絶え間ない突きを試みたのだ。

ガガガガガガと降り注ぐ雨が如く尻尾を突き立てる音が響くが、それでも防御壁は破れない。

 

『………硬いな。これでも破れないか。驚くべき強度だ』

 

何十度突き刺しても破れない風の防御壁に白妖はじれったそうに呟くと一度後ろへと後退し距離をとって仕切り直そうとする。だが、それを嵐が見逃さずに距離を離されないように距離を詰めてきた。

 

「逃がさねぇよっ‼︎」

『なら、こうしよう』

 

距離を詰めてくる嵐に彼女は小太刀から血を噴き出させると素早く振るう。

 

『《斬血緋断(ざんけつひだん)》』

 

小太刀からは無数の薄い刃のような血の斬撃が放たれ、迫る嵐を迎え撃つ。しかし、嵐は迫る血の斬撃に一瞬も怯まずに飛び出して風を纏わせた剣扇を振るった。

 

「《惨華・狂咲き》っ‼︎」

 

風の加速を受けた剣扇は金と赤の軌跡を生みながら、血の斬撃を弾いていく。しかし、全ては捌くことは出来ずに、脚や腕に数撃被弾し血が噴き出す。血の刃は嵐の堅牢な鱗を斬り裂くほどの切れ味を秘めていた。

 

「ぐっ、ハァァァァッッ‼︎」

 

体を数箇所深く斬り裂かれたことに呻き声をあげた嵐だったが、彼はそれを堪えて白妖へと一気に接近して、黒刀を叩きつけた。

彼女はそれを小太刀で平然と受け止めて鍔迫り合うと嘲笑うように呟く。

 

『まだだぞ。追え、斬血』

「ッッ⁉︎」

 

彼女がそう呟いた直後、弾かれて嵐の背後に飛んでいった数十の血の刃が向きを変えて嵐へと再び襲い掛かったのだ。それに加え、嵐を包むように上、左右からは再び炎の尾が迫ってきている。

 

(回避を、ーッ⁉︎右腕が、動かねぇっ⁉︎)

 

嵐がすかさず後ろへと下がろうとした時、右腕が何かに引っかかったような感覚を覚える。何事かと見れば、黒刀と鍔迫り合う小太刀から血が噴き出しており、黒刀の刀身と右手首を縛って固めていたのだ。

 

(血の拘束っ⁉︎こんなこともできるのかっ⁉︎)

 

固まった血の拘束は思いの外に強く、嵐でも解くのに数秒は要する。平時なら何でも無いが、四方から攻撃が迫っている今に限っては相当不味い状態だ。そして、拘束から抜け出そうともがく嵐に攻撃が迫る瞬間、

 

 

 

「《蜷局竜巻》———ッッ‼︎」

 

 

 

嵐が雄叫びをあげて最大出力での竜巻を放った。

轟々と唸るソレは嵐の姿が見えないほどの密度で吹き荒れており、白妖の攻撃を弾き、彼女自体も大きく吹き飛ばした。

 

『……っチッ、今のを防御できるのか。………だが、多少は傷を負ってくれたみたいだな』

 

難なく着地しながら舌打ちする彼女だったが、竜巻が消え露わになった嵐の姿にほくそ笑んだ。

露わになった嵐の身体にはところどころ傷ができており、太腿や肩、側頭部には炎の尾が掠ったのか、裂傷と共に火傷もできており、背中も飛膜が一部斬り裂かれ血が僅かに滲んでいた。

彼は彼女の攻撃を完全には防ぎきれていなかった。コンマ数秒防御が遅れてしまい、その分の攻撃を彼は受けてしまっていたのだ。

全身から血を流しながら、僅かに呼吸を荒げる嵐を見て、彼女は妖しく嗤う。

 

『ふふっ、流石の君でもあの攻撃は全て捌くことはできなかったようだな。しかしまぁ、本当に君は強いな。脳無だけでなくこの私ともここまで戦えるとは。賞賛に値するよ』

「………そりゃ、どうも。……頑丈さには自信があるんでな。それに、この程度はすぐに治る」

 

そう言って嵐は自分の腕を見せる。裂傷ができ血が滴っていたのだが、今はその傷が少しずつ塞がりつつあったのだ。

脳無程ではないが、嵐も再生能力を有しているため、このぐらいならば少し時間が経てば塞がる。彼女はソレを見ると面白そうに頷きながら答える。

 

『何だ君も同じか。実は私も再生能力を有していてな。先程君から受けた傷もちょうど治ったところだ』

 

そう言って彼女は右手を上げる。見れば、先ほど竜巻に巻き込まれ酷く損傷していたはずなのに、既に治っていたのだ。

どうやら彼女も嵐と同じように再生能力を有しているらしい。

そして、彼女は激闘を続けるオールマイト達の方に一度視線を向けて再び嵐に視線を戻すと告げる。

 

『さて、あちらはまだ決着がついていないようだが、私もあまり時間をかけたくは無いのでな。とっとと終わらせよう』

「はっ、奇遇だな。俺もだよっ‼︎」

 

嵐もまた笑みを浮かべると、彼女の意志に応えるかのように剣扇を構えて再び斬り合いを始めた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

オールマイトと脳無、嵐と白妖。

二つの激闘を少し離れたところで見ていたもの達がいた。

 

「うおおぉぉぉ‼︎すげぇ、マジでどうなってんだぁ⁉︎オールマイトもすげぇけど、八雲も何だよあれっ‼︎」

「うるせぇっ‼︎黙ってろクソ髪っ‼︎」

「…………」

 

切島、爆豪、轟の三人だ。

切島、爆豪は倒壊ゾーン、轟は土砂ゾーンのチンピラ達を撃破してからこの噴水広場に移動しており、ちょうど二人が戦い始めた瞬間に着いて、ちょうど二人のそれぞれの激闘を見ていたところなのだ。

切島が興奮気味に叫び、それを集中して見ていた爆豪が怒鳴り、轟がじっと見つめていた。

 

(クソがっ……オールマイトはともかく、白髪野郎もなんつう動きだよ。全く目で追えねぇっ!)

(あれが、八雲の本気…っ、親父よりも明らかに強ぇ!)

 

爆豪は目まぐるしく変化する戦いの動きに視線が全くついていかずに心の中で悪態を突き、轟は嵐の真の実力に驚きつつも、超えるべき壁の高さを再認識していたところだ。

そして、爆豪は見えないなりに戦いを分析していく。

 

(話に聞いた限りじゃ今オールマイトと殴り合ってんのが、オールマイトを殺せる奴らしいが、あの女もあの脳味噌敵と同じぐらいにヤベェのは確か。それに、オールマイトが共闘を許してる時点で、あの女も相当ヤベェ奴ってことだ。そいつと互角に戦えているアイツの実力はオールマイトに近ぇっつぅことかよ)

 

どうしても認めざるを得ない。

嵐の本気はあのオールマイトに近いレベルであるということを。そして、それだけの強大な強さを持っているということは、裏を返せばそれだけの実力を普段は出さずに手加減していることになる。

爆豪はその事実を理解し、舌打ちする。

 

「チッ、普段は手加減してやがるなっ。クソがっ、舐めプすんのも大概にしろや」

 

そして爆豪が嵐に悪態をつく一方で轟もまた冷静に思考していた。

 

(あれだけ強ければ、訓練の時に圧倒されたのも納得がいく。しかも、オールマイトが共闘を認めるほどだ。間違いなく親父よりも八雲は強い。アイツに勝てるほど強くなれれば、俺は完全に奴を否定できるっ)

 

轟はどうしても越えなければいけない存在がいる。しかし、今の段階ではまだ超えることはできていない。だからこそ、オールマイトが認める強さを有する嵐よりも強くなることでその目標を達成できるようにしようと考えていたのだ。

そして、彼らから少し離れたゲート前の階段側にいた耳郎、障子、緑谷は誰もが不安そうな表情を浮かべていた。

 

「八雲……大丈夫なのか……?」

「うん…‥不安、だよね……」

「そうだね………」

 

それは嵐が先程躊躇なく人殺しをしようとしたからだ。嵐が激怒していることは知っていたが、いくら敵とは言え人殺しは御法度だ。

クラスメイトから多くの信頼を寄せられる、頼もしい兄貴的な存在である嵐を人殺しにはさせたくなかった。そんなことをしたら、皆が悲しむと分かっているから。先程三人は思わず駆け出したのは、そういう理由からだ。結局、オールマイトがきたことで最悪の事態は防げたものの、やはり不安は残る。

それに、先ほどから彼らの心には妙な胸騒ぎがあったのだ。

 

そして、戦いが繰り広げられていくうちに、戦闘を見守っていた彼女達は気づいてしまった。

 

 

白妖と戦う嵐の動きが、悪くなってきていることに。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

嵐と白妖が再び斬り結ぶ事2分。

白妖と互角の激闘を繰り広げる嵐は表向きでは平静を保っているが、心の内では酷く動揺していた。

 

(なんだよっ………これはっ……)

 

彼女が現れてからずっと感じていた嫌な予感。それが際限なく大きくなり続けており、今は嵐の本能が警鐘を何度も鳴らすほどに膨れ上がっていた。

 

彼女と戦うなと。彼女を傷つけてはだめだと。

 

そう己の心が悲鳴をあげているようだった。

 

何故そうまでして自分が動揺しているのかははっきりとは断定できない。

ただし、そうなった理由は何となくわかる。

 

目の前の女ー白妖だ。

彼女が『九本の狐の尻尾』と『炎』の個性を有していることが嵐に少なからず動揺を与えていたのだ。

 

彼女の動きには見覚えがあったのだ。

小太刀を構えて舞うように戦う動きが、尻尾の使い方が、炎の操り方が、嵐の記憶の中にある憧れた彼女のソレに酷く似ていた。

最初こそは気のせいだと、他人のそら似だと思い無視して戦い続けた。だが、戦う程に嫌な予感は膨れ上がり無視できないほどになっている。

 

(なんで、なんで今あの人のことが浮かぶっ⁉︎)

 

彼女と似ているからだろうか。どういうわけかずっと嵐の脳裏には笑う姉の姿がずっと浮かんでいた。

分からない。なんで今彼女との思い出が浮かぶのか。しかし、彼女との思い出が浮かぶたびに、嵐の脳裏にはノイズのような雑音と鋭い痛みが響いていた。

 

その時、不意に脳無のことが頭によぎる。

脳無はオールマイト用に複数の個性を持てるように作り替えられた改造人間だと死柄木は言っていた。彼女は脳無とは違い確かな意志や感情があるが、複数の個性を持っているのは共通している。だから、もしかしたらー

 

(まさか、まさか、まさかっ⁉︎)

 

嵐の中で一つの可能性が浮上し、戦いながら目を見開いて狼狽える。

脳無は人間の死体を使って作られている。だから、複数の個性を扱う彼女もそうであり、そのベースとなっているのが………

 

(あり得ねぇっ‼︎そんなこと、あっていいはずがねぇっ‼︎‼︎だがっ……)

 

頭に浮かんだ最悪の可能性を嵐はすぐさま否定する。だが、完全に否定することはできなかった。

否定するだけの材料が今の嵐にはなかったのだ。そして、最悪の可能性を想像して動揺する彼を、白妖は容赦なく追い詰めていく

 

『攻撃の手が緩くなったな‼︎まさか、君はこの状況で加減でもしてるのか?だとしたら、愚かだっ‼︎』

「〜〜〜〜ッッ黙れぇぇッッ‼︎」

 

白妖は嵐の攻撃の手が緩んだ隙を容赦なくついて、嵐の肉体に血と炎の斬撃を刻んだ。鮮血が身体中から噴き出して、傷口を焼く。二種類の激痛が彼の体を駆け抜けるが、ソレに構わずに嵐はぐちゃぐちゃになった感情のままに叫んだ。

 

「答えろっ‼︎テメェはその個性をどこで手に入れたっ⁉︎誰から奪った⁉︎」

『……?何を言っているかわからないな。この個性は元々私が持っているものだ』

「ふざけるなっ‼︎その狐の個性は……その『()()』の個性を持っているのは()()()()の者だけだっ‼︎‼︎答えろっ‼︎‼︎テメェは誰からその個性を奪ったぁぁっ‼︎⁉︎」

 

そう叫びながら嵐は暴風纏う黒刀を叩きつけるが、交差した焔血の小太刀に防がれる。強靭な一撃は受け止めてもなお、足元の地面を陥没させるほどのものだ。

そして、彼女の小太刀を叩っ斬ろうとしている嵐の顔は………果てしない憤怒と今にも泣き出しそうな悲痛な表情が混ざった酷い表情になっていた。白妖はソレを見ると、つまらなそうに呟く。

 

『酷い顔だな……個性を奪ったとほざいていたが、一体、君は私に誰を重ねているんだ?』

「ッッ‼︎‼︎黙れ、黙れ黙れ黙れぇっ‼︎‼︎」

 

白妖の言葉に嵐は錯乱しているかのように叫びながら剣扇を振るう。そこに先ほどまでの冴えはなくて、明らかに動揺していることが窺える。

 

「八雲……?」

「何があったの……?」

 

障子と耳郎が彼のただならない様子を見て困惑の声を上げる。いついかなる時も、揺るぎない背中を見せていた彼が、普段からは想像できないほどに取り乱していたのだから。

他の者達も嵐の様子に困惑する中、状況は変化する。

 

「アァァァァァァッッ‼︎‼︎」

 

刀を弾かれた嵐が悲痛な叫び声を上げながら白妖へと迫る。錯乱状態での突貫はあまりにも隙だらけであり、白妖は小太刀を突き出して腹と右胸を深々と貫いた。

 

「ガフッ……アァァァァァァァッッ‼︎」

『なっ』

 

燃え盛る黒炎纏う血の刃に貫かれ口から血が溢れても、彼は止まることはなかった。

刺され、焼かれてもなお前進すると嵐は剣扇を手放して、驚愕する彼女の肩を掴みながら、その面に手を伸ばして確かに掴む。

 

「テメェは誰なんだっ‼︎⁉︎」

 

そして、あらんかぎりの力で狐面を剥いだのだ。そうすれば狐面が宙を舞って、隠されていた彼女の素顔が露わになり———嵐は絶望に表情を歪めた。

 

「………っ、あ、あぁ……嘘、だろっ……どう、してっ……」

 

悪い予感が的中してしまった。

悲しいことに白妖の狐面の下の素顔は、嵐の予想通りの顔だったのだ。

嵐は愕然とすると、思わず後退りし首をふるふると横に振り震えた声をあげる。その様子を見て、数歩下がった彼女は心底わからないというふうに首を傾げる。

 

「なんだ?その顔は。まるで、亡霊でも見たかのようだな。そんなに私の顔は悍ましいか?」

 

彼女は嵐がここまで動揺している理由を知らない。()()()()彼女には知るはずもないこと。だが、その声で放たれた言葉は嵐をさらに追い込んでいった。

嵐の中で、何かが砕けていく音が響いてる。

 

「なんで、だよっ……どうして、貴女が………ソッチ側に、いるんだよ………」

 

動揺のあまり嵐の瞳からは紅い眼光が消え、飛膜も元の白へと変わり、胸の紫電も消える。

そして、ついには嵐の両目からは涙が溢れ始め、顔から流れる血と混ざった赤い涙は地面へとポタポタと落ちていく。

最悪の可能性が現実となり、嵐は膝から崩れ落ちると、震えた声で嗚咽を漏らす。

 

隣から何かの轟音が響く。まるで何かを吹き飛ばしたかのような凄まじい轟音。だが、今の嵐にはそれが酷く遠く聞こえていた。

呼吸が荒くなり、頭痛が激しくなり、表情は絶望に染まっていき、口唇は悲しみに震える。

 

どうして彼女がここにいる。

死んだはずだ。他ならぬ嵐の手で殺したはずだ。こんなことはあり得ないはずだ。

これが夢であって欲しかった。悪夢ならまだよかった。この現実を何が何でも否定したかった。だが、彼女の声が現実であることを突きつけていた。

 

目を背けるなと。これはお前が犯した罪なのだと。どこかで嵐を責める声が聞こえてくる。

 

髪の色は小麦のような鮮やかな金ではなく、色素が抜け落ちたような寒気がする白。

瞳は太陽や紅葉のような美しい紅ではなく、血のような悍ましい真紅。

白い肌には体に浮かぶモノと同じ、紅い紋様がある。

容姿に多少の差異はあれど、顔は嵐の記憶の中のソレと全く同じだ。彼女は、嵐を殺そうとしている白妖という名の敵は、

 

 

「答えてくれよっ‼︎なぁっ‼︎‼︎……紅葉姉ぇっ‼︎‼︎」

 

 

あの時死んだはずの、嵐の実の姉の紅葉、その人だったのだ。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

俺には姉が二人いる。

その一人、◾️◾️紅葉が俺の憧れの人だった。

一族に代々受け継がれてる『妖狐』という特殊な個性を持っていた彼女は、九本の尻尾を持つ『九尾の妖狐』と呼ばれる『妖狐』の中でも特に優れた力を持っていた。

彼女はその力で人々の未来を守る為にヒーローを目指していた。

小麦色の髪と九本の狐の尻尾に、太陽や紅葉を連想させる鮮やかな紅の瞳、そして底抜けに明るい活発な性格が特徴の優しい人だった。

 

『大丈夫。あなたなら絶対にヒーローになれるわ!この私が保証する!だってあなたはこの私の弟なんだから』

 

一族の個性を持たず、代わりに怪物の個性を持って生まれた俺に紅葉姉はいつもそう言って励まして応援してくれた。

時には特訓相手にもなってくれたし、何かできれば頭を尻尾や手で撫でて喜んでくれた。

昔は台風や雷が怖くて、夜に彼女に泣きついては、もう一人の姉、彼女の双子の妹の青葉姉と共に二人の尻尾で包まれながら三人で一緒に寝たこともあった。

彼女は俺に取って誇りであり、憧れであり、目標であった。いつか彼女は凄いヒーローになると思っていた俺は、俺もヒーローになって紅葉姉の隣で戦えれるように強くなりたいと願っていた。

 

だけど、紅葉姉は………もういない。

 

俺が………殺してしまったから。

 

俺が紅葉姉を、狐火ヒーロー“クレハ”の未来を奪ったんだ。

敵に襲われて暴走した俺を助ける為に、自分達を守りながら敵と戦って瀕死となった身体を引きずって暴走している俺と戦い………俺が、殺した。

 

殺したはずだった。死んだはずだった。

 

俺自身の手で、彼女が得るはずだった未来を奪ってしまったんだ。

 

そう思っていたのに、彼女は生きていて俺の前に立っていた。

 

 

 

———人外の化け物になって。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 

「答えてくれよっ‼︎なぁっ‼︎‼︎…紅葉姉ぇっ‼︎‼︎」

 

 

彼の悲痛な叫びが響いたのはオールマイトが脳無をドームの外へと殴り飛ばした直後のことであり、オールマイトが脳無に勝利し安堵していた瞬間に響いたその叫びは、周囲にいた者達だけでなく、ゲート前の広場にいた者達にまで届き大きな衝撃を与えた。

 

「あの敵が…‥八雲君のお姉さんっ⁉︎」

「まさかっ、そんなことがあるのかっ」

「嘘だろっ……おいっ……」

「そんなっ……嘘っ……」

 

緑谷、障子、切島が衝撃的な事実に愕然とし、耳郎は口に手を当てて絶句する。全身から蒸気のようなものを出している、少しボロボロになったオールマイトもまた衝撃を受けていた。

 

(そんな、彼女は7年前に死んだはずだっ。なのに、どうしてここにいるっ?)

 

入学時に渡された彼の家族構成などの資料から、姉紅葉は7年前に嵐の暴走を命懸けで止めて死んだという事を知っている。

そして、周囲の者が絶句する中、嵐の悲痛な叫び声が響く。

 

「なんでだよっ……なんで、貴女がそっちにいるんだよっ⁉︎貴女は7年前に死んだはずだろっ‼︎俺のせいで、俺が、あんなことになったからっ…それで死んだっ……なのに、どうしてっ‼︎⁉︎」

 

嵐の叫びが響くが白妖はソレには応えずに、冷徹な瞳で彼を見下ろしている。そして、応えない彼女の代わりに死柄木が嘲笑の声を上げた。

 

「ヒヒ、ハハハハハハっ‼︎こいつは傑作だぁっ‼︎‼︎まさか、白妖がお前の姉だったとはなぁっ‼︎ハハハッ、面白ぇ、面白い展開だなぁ。ゲームでもこんなシナリオはそうないぜ?なぁ、どんな気分だ?自分のせいで死んだ姉が、人外の化け物として改造されて甦り、今お前を殺そうとしている気分はぁっ‼︎‼︎」

「……ッッ‼︎あ、あぁ……あぁぁぁぁ……」

「そんなっ、なんてことをっ‼︎」

 

死柄木の狂気に歪んだ嘲笑が響くが、嵐は応えることすらできない。反論できないほどに動揺しており、涙を流しながら慟哭の声をあげた。オールマイトも衝撃的な事実に怒りの声を上げた。

嵐の姿がますます面白かったのか、死柄木は先ほど徹底的にしてやられたのもあって、楽しそうに彼の無様を嘲笑う。

 

「ハハッ、いい様だな。俺達をボッコボコにして殺そうとしていたのに、今じゃただの小さいガキみてぇだ。あぁ、さっきまではお前を殺したいほどに憎かったのに、今はスカッとしてるぜ」

「………ッッ、ふざ、けるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ‼︎‼︎」

「ダメだっ‼︎八雲少年っ‼︎‼︎」

 

嘲笑う死柄木に嵐は激情に歪ませ顔を上げると、涙を流しながら殺気に目を血走らせると、怒号の声を上げながらオールマイトの制止も聞かずに飛び出す。

地面が捲れ上がるほどの踏み込みで飛び出し、暴風を纏うと右手刀を構え、肩を揺らして笑う死柄木の喉を貫こうと襲い掛かる。

オールマイトが駆け寄って嵐を止めるよりも圧倒的に早く、死柄木の元へと迫った嵐はそのまま腕を伸ばそうとする。だが、それは他ならぬ白妖の手によって止められた。

彼女だけが嵐の超速の突貫に反応し、彼に追いついて右腕を掴んで止めたのだ。受け止められた嵐は白妖へと視線向けると、懇願するように叫ぶ。

 

「退いてくれっ、紅葉姉っ‼︎頼むっ‼︎」

「言ったはずだぞ。私の名は白妖で、死柄木の敵を排除する爪牙だと。退く訳がないだろう」

「違うっ‼︎貴女の名前は紅葉で、貴女はヒーローだっ‼︎‼︎狐火ヒーロー“クレハ”っ‼︎‼︎それが貴女なんだっ‼︎敵に利用されるような人じゃねぇっ‼︎‼︎」

 

必死に叫ぶ嵐に白妖は煩わしそうに顔を歪めると、彼の言葉を真っ向から否定する。

 

「くどいな。たとえ今の君の話が本当であったとしても、それはこの体の前の持ち主の話だ。今の私は敵連合の白妖。君達ヒーローと敵対する者だっ‼︎‼︎」

「……っっ⁉︎」

「八雲少年逃げなさいっ‼︎‼︎」

「八雲逃げてっ‼︎」

 

煩わしそうに叫んだ彼女は右の小太刀を振るった。気づいたオールマイトと耳郎が逃げるように叫ぶも動揺している嵐はソレに対応することができずに、右腕を躊躇なく肘から切り落とされ、後ろに蹌踉めいた直後、嵐の顔が右目ごと切り裂かれ、最後に血で覆い固めた右の貫手で鳩尾を貫かれた。

 

「ゴッ、ガハッ……」

「八雲ぉぉぉぉ‼︎‼︎」

 

耳郎の悲鳴が響き、生徒達が揃って息を呑む。

一瞬にして致命傷の傷を刻まれ、嵐は大量の血を口から吐き出す。そして、左腕を引き抜かれ、鳩尾からも大量の血を噴き出しながら膝をついた嵐は涙を止めどなく流し悲しみに表情を歪めると、彼女の名を呼び左手を伸ばす。

 

「……紅葉……姉ぇ……」

「これで終わりだ」

 

しかし、伸ばされた左手は彼女に届くことはなく無慈悲な宣告と共に翳された左手から巨大な黒炎が放たれて、嵐を容易く呑み込んだ。

 

「八雲っ‼︎」

「八雲君っ‼︎」

 

周囲で動けないでいたクラスメイト達が悲鳴じみた声をあげて彼の名を呼ぶなか、黒炎の中から嵐が飛ばされ、ボロ切れのように宙を舞うとオールマイトの方へと落ちていく。

 

「八雲少年っ‼︎ッッ‼︎これは、酷いっ」

 

落ちてくる嵐を受け止めたオールマイトは、彼の状態に目を見開く。飛膜は真っ黒に焼け焦げ、黒い鱗も一部が焼け焦げて白煙を上げていたのだ。更には右腕がなくなり、右顔面が目ごと斬られ、鳩尾には風穴があき、その他にも全身に火傷や裂傷があったのだ。傷口からは今もなお血が流れ続けている。そして、時折血を吐きながらヒュー、ヒューと掠れた呼吸をしていた。

一刻も早く医者に見せなければいけない程の危険な状態だ。しかし、あの敵達も残された力で制圧しなければいけない。だから、彼を運ぶのを障子達に任せて倒す為に動こうとした時、見計らったかのように白妖が言った。

 

「ああそうだ、私達を捕まえる前にその少年を救けるのをおすすめるぞ。今、その少年の身体には多量の猛毒が入り込んでいるからな」

「猛毒だとっ⁉︎」

「私が操る血には猛毒がある。掠っただけでも常人なら死ぬ毒を彼には多量に注いだ。どうやら毒に耐性があるようだが、それでも急がないとすぐに死ぬだろうな。生徒の命と敵の捕縛。平和の象徴様はどちらが大事か考えるまでもないだろう?」

「っっ、おのれっ‼︎」

 

彼女に齎された事実と生徒の命を人質に取るような彼女の言葉にオールマイトは歯噛みする。彼女はオールマイトのことを、ヒーローというものの性質をよく理解しているようだ。

確かに嵐に毒が盛られたと分かってしまった以上、急いで対処しなければならない。

そして、歯噛みするオールマイト達に彼女は余裕な動作で背を向けた。

 

「黒霧ゲートを出せ。撤退するぞ」

「分かりました」

 

足を切られ歩けない死柄木を尻尾で包みながら黒霧に指示を出して撤退しようとする白妖に運ばれている死柄木が抗議の声を上げる。

 

「おい待てっ、まだオールマイトが殺せてねぇだろっ‼︎それに脳無もっ‼︎」

「諦めろ。ソレよりも先に教師共がここに来る。それに、あの少年はもうすぐ死ぬ。脳無は失ったが、爪痕は残せるだろう。だから、今回はここまでだ」

「ええ、仕方ありませんね。死柄木弔、ここは大人しく引きましょう。あの生徒を殺せただけでも十分な成果です」

 

白妖と黒霧の言葉に渋々納得を見せた死柄木は舌打ちすると、大人しく食い下がった。

 

「チッ、分かったよ。だが、クソゲーはこれで最後だ。今回はそこのガキで手打ちにしてやるが次だ。次は必ずお前を殺すぞ、平和の象徴オールマイト」

「では、皆さんさようなら。次こそは、必ず貴方を殺して差し上げましょう」

 

死柄木が憎悪と怒りに満ちた言葉で吐き捨てて、黒霧が紳士的な口調で更なる殺害予告をして、そのまま立ち去ろうとする時、か細い声が聞こえる。

 

「待、て……返せっ……」

 

嵐だ。オールマイトの腕の中にある瀕死の嵐が絶えず涙を流しながら掠れた声をあげて、白妖の背中に震える左腕を伸ばしていたのだ。

 

「返し、て……紅葉、姉を……返して、くれ……頼、む………」

「…………」

 

一度足を止め、顔だけ後ろに向けた彼女は嵐をじっと見ると、視線を戻して冷酷な声音で告げる。

 

「さらばだ、少年。もう二度と会うことはないだろう。黄泉の国で先に待っているといい。前の私(紅葉)の弟よ」

「まっ……」

 

そう言い残すと、そのまま彼女は黒い靄の中に消えて、黒い靄もまた完全に姿を消した。

脅威が過ぎ去ったことに安堵するべきなのだろうが、緊張の糸が切れて座り込むクラスメイト達は誰もが喜べなかった。

危機を乗り越えれたのは確かだ。だが、嵐が瀕死の重傷を負い、更に彼に関する残酷な事実を知ってしまった為に、誰もが暗い表情のままだった。

 

「八雲少年っ‼︎意識をしっかり保つんだっ‼︎」

「八雲っ‼︎しっかりしろっ‼︎」

「しっかりして‼︎八雲っ‼︎」

 

そんな中、オールマイトが嵐に必死に呼びかけ、障子と耳郎が血相を変えてオールマイトの腕の中にいる嵐に駆け寄る。

 

「……ぁ………あぁっ……ぁ……ああ”っ‼︎」

 

嵐は震える瞳で白妖がいたとこを見つめながら、次第に口唇を歪めると、

 

 

「あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“ッッ‼︎‼︎」

 

 

口を大きく開けて、慟哭の声を上げた。

聞く者の心をも引き裂くほどの悲しみに満ちた絶叫は、USJ内に響く。

 

血まみれで、涙を流しながら慟哭の声を上げる嵐の姿はあまりにも痛々しくて、切島や緑谷は彼に声をかけることすらできずにその場で座り込んだままだった。轟や爆豪すらも何も言えずに、その場に立ち尽くし地面を見下ろしていた。

 

こうして雄英高校史上最悪の襲撃事件は、最悪の結末で幕を閉じた。

 

 

 




まぁ、はい、今回は嵐にとってかなり絶望的な展開となりました。
まさか、個性の暴走で殺してしまった姉が、死体を改造されて敵として蘇ってしまうなど、嵐にとっては酷な話でしょうね。

白妖の名前の由来ですが、黒霧が元が白雲という苗字で色が対比になっているということで、彼女も名前が紅葉であるため紅白に準えて白にしました。白は黒霧とも対になるので紅と白の対比を採用しました。
そして、妖の部分ですが、紅葉⇔白葉という風にして、敵なら白葉だとあまり怖くない名前だなと思って、妖狐の個性を持っていることも踏まえて、葉のようを妖のように変えて白い妖狐、つまり白妖と言うふうにさせて頂きました。





嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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