僅か1日でお気に入り登録が37で、評価が一つついたのは、自分的には一番いい出だしになったかも。
それはそうと、アマツマガツチ、サンブレイクで復活してほしいなぁー。
遂に来た国立雄英高等学校入学試験当日。
その日の早朝、嵐は普段より少し早く目が覚めた。
「…………!」
まだ日が昇ったばかりで空を淡い橙と青色に照らし始めて、鳥が囀り始めた頃だ。2階にある畳敷の和室である自室、そこに敷かれた布団で目を覚ました嵐はすぐにその身を起こした。
朝に弱い嵐は、普段ならば目を覚ましてから20分ほどは起き上がるのに時間がかかるというのに、今日に限ってはすぐに起き上がったのだ。理由は一つしかない。
「………いよいよ今日か」
今日は雄英高校の一般入試の日だ。
筆記に関してはずっと模試でA判定をキープしていたので、よほどのことがない限りは問題ないはず。実技試験に関してもこれまでずっと巴に鍛えられたおかげであまり心配はしていない。だが、試験が試験なだけに、だいぶ緊張していたようだ。
「……軽くトレーニングでもするか」
完全に目が覚めてしまったので、緊張を解す為に日課の朝トレを軽くやろうかなと嵐は布団から完全に立ち上がると、寝巻きの浴衣を脱ぐと黒袴と白の道着に着替えて、襖を開けると部屋を出る。そして、階段を降りて居間に入るとそこには既に巴がいた。
嵐と同じように道着姿の彼女は座椅子に正座して新聞を読んでいて、嵐が来たことに気づくと顔を上げて微笑む。
「あら、嵐さん。おはようございます。今日はお早いのですね」
「……ああ、今日は少し早く起きた」
早く起きたとはいえ、少し眠いのか若干眠そうな声でそう答える嵐。その様子に、巴はくすくすと笑う。
「ふふ、今日は雄英高校の試験ですからね。
緊張して早く起きてしまうのも仕方ありません」
そう言うと、巴は新聞を畳んで立ち上がる。
「それで道着を着ていると言うことは、軽くトレーニングをするつもりなんですよね?」
「ああ。実技もあるからな。体は解しておきたい。巴さん、組手頼むよ」
「ええ、勿論です。では、早速道場に参られましょう」
そして、家に併設している道場で軽く組手稽古を行い体を解してシャワーを浴びて、巴が作ってくれた朝食を食べ、制服に着替えて荷物を纏めると玄関に向かう。
玄関で靴を履いて、鞄を持った彼は巴に振り返る。
「じゃあ、行ってくる」
「はい。行ってらっしゃい。あまり気負いすぎずに、貴方なら大丈夫ですから、普段通りに頑張ってください」
「ああ、ありがとう」
そうして巴に見送られながら、嵐は家入学試験を受けるべく雄英高校へと向かった。
▼△▼△▼△
雄英高校ヒーロー科。
そこはプロヒーローの資格取得を目的とする養成校の一つであり、全国同科中、最も人気で最も難しく例年倍率300倍を超える超エリート校。
国民栄誉賞に打診されるもこれを固辞した誰もが知るNo. 1ヒーロー『オールマイト』。
事件解決史上最多燃焼系No.2ヒーロー『エンデヴァー』。
ベストジーニスト8年間連続受賞。No.4ヒーロー『ベストジーニスト』。
現在トップランカーに名を連ねるヒーローの多くが雄英の出身であるのだ。
偉大なヒーローになるには雄英卒業が絶対条件。そういわれるほどに、雄英高校は凄まじい人気を誇っている。
駅まで徒歩で10分。そして、電車を乗り継いで30分。さらに徒歩で20分、計一時間の移動時間を経て嵐は目的の場所ー雄英高校に辿り着いた。
「でっけぇ……」
嵐は校門前で一度立ち止まり、校舎を見上げると思わずそう呟く。
雄英高校の校門は、もはや普通の高校の校門のソレとは全くの別物であり、近代的な巨大ゲートのようになっていたのだ。
しかも、その奥には巨大な校舎。ソレすらも既存の高校を凌駕しており、大学のキャンパスと思ってもおかしくはなかった。
「さすが雄英、校舎からもう違うなー」
一体いくらかけて作ってるんだろうかと、嵐は試験直前なのに呑気なことを考えていた。
そして、校門前で立ち止まる嵐は周囲に視線を向ける。嵐同様、この雄英高校ヒーロー科を受験する為に来たのであろう中学生達は、その多くが既に雰囲気が違っていた。
一層気を引き締めていると言うべきだろう。
彼らから感じる気迫は一般受験生とは違う。受かろうと落ちようとも、受けるだけでも称賛されると言われているほどなのだ。まるで、これから戦に臨む兵士の如く、彼らの顔は引き締まっていた。
嵐はソレを見渡して小さく笑みを浮かべると、右手首につけてるブレスレットに目を向ける。
紅白の紐で結ばれたソレには燃えるような真っ赤な紅葉と、穏やかな翡翠の青葉の形をした結晶が結ばれていた。
このブレスレットは大切な人達から貰ったものであり自分がヒーローを志したきっかけになったものだ。
嵐は小さく微笑むと穏やかに呟く。
「……
ここに来るまでに緊張はほぼ消え、いい塩梅に落ち着けた。気力も十分。コンディションとしてはほぼ完璧な状態に整えることができたのだ。
そして嵐は顔を上げると白髪を靡かせながら試験会場へと入って行った。
午前に行われた筆記試験を終えて、各々が昼食をとった後、ヒーロー科受験者達は皆一つの巨大なホールへと集められて待機していた。
そして、各々がコンディションを整えたり、事前に配られた入試要項を読んで実技試験の概要を見直したりと自由に時間を潰している中、やがて一人の男性ー否、プロヒーローが登壇した。
トサカのように後ろに逆立った金髪に、サングラス、そして首にはスピーカーらしき装置のあるコスチュームを纏った一人のプロヒーロー『プレゼント・マイク』だ。
彼は一人のプロヒーローであると同時に、雄英高校の教師でもある。雄英高校の教師達は皆プロのヒーローなのだ。
彼は壇上に立つと、受験生を見渡して大きく息を吸う両手を大きく広げる。
『今日は俺のライブにようこそ—‼︎Everybody say hey‼︎‼︎‼︎』
そう凄まじい声量を室内に響かせるとプレゼント・マイクは耳を傾けて応答を待つ。
本来ならば合いの手として『Yokoso』と返ってくるのがセオリーであり、毎週やっているラジオ番組でもそうだ。だが、こと今回に関しては、見事に空ぶってしまった。
『……………』
シーンと沈黙がホールに満ちる。
合いの手が来てくれなかったことに、プレゼント・マイクはラジオ番組をやっているだけあって慣れているのか、平然とした様子で首を横に振る。
『こいつぁシヴィ———‼︎‼︎OK‼︎緊張してるんだろうな‼︎んじゃあ、受験生のリスナー‼︎実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ‼︎Are you ready⁉︎Yeach‼︎‼︎』
『…………』
しまいには一人でセルフ合いの手までしてしまった。しかも、またしても沈黙が返ってきた。
一人でめげずに合いの手を打っても、誰も応えてくれないのは流石に堪えるはずだ。
『入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の「模擬市街地演習」を行ってもらうぜ‼︎』
なのに、彼は動じないどころか次の説明を始めてしまっていた。
(……メンタルスゲェな、おい)
嵐はその様子に少しだけ感心する。
嵐も生徒会長として壇上に立って話すことはあったが、多くの生徒がこちらに意識を向けてくれていたし、応えてもくれていた。
だから、ここまで無視されると自分ならちょっと傷つきそうだと、そんなことを思いながら説明を聞いていく。
プレゼント・マイクの説明と共に背後の巨大モニターに映ったのはA、B、CとGまでのアルファベットが振られた試験会場だ。
『持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へと向かってくれよな‼︎』
そして、さらに映ったのは街を模した図といくつかのシルエットだ。
『演習場には“仮想
(三種?)
嵐は説明に疑問符を浮かべながら、手元の入試要項に視線を落とす。
確かに今からは仮想敵は三種だと言った。だが、入試要項には
作成ミスでそもそも気づいていない?
それともあえて触れていない?
そんなことを考えている間にも話は進んでいく。
次に映ったのは、某ゲームにでてくる赤い帽子をかぶるちょび髭おじさんを模したであろうシルエットがコインを集めている様子だ。
『各々なりの“個性”で“仮想敵”を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが君達の役目だ‼︎
もちろん、他人への攻撃などアンチヒーローな行為は御法度だぜ⁉︎』
今回のこの試験は、市街地戦を想定した実践試験のようなものだろう。
受かりたければ、実力と結果を見せろ。雄英がそう言っているようにも嵐には聞こえた。
(上等。やってやるよ)
嵐は迫る実技試験に一人闘志を滾らせつつどう戦うか思考を巡らせていたとき、一人の受験生が声を上げた。
「質問よろしいでしょうか⁉︎」
『!』
声を上げたのは、眼鏡のいかにも真面目そうな男子生徒だ。彼は立ち上がると、片手に持つプリントを指差しながら質問をする。
「プリントには
(おー、真面目メガネだ)
その質問は、先ほど嵐が疑問に思ったところだ。だが、思ったところで、受験先の教師に、恥ずべき痴態というのは大それたことをしたと思う。
あそこまで真面目な人はそうそういない。もしかしたら、見利よりも真面目かもしれない。
そう思いながら、面白そうに彼を見ていたが、彼は徐に斜め後方へと振り向く。
「ついでにそこの縮毛の君‼︎」
「⁉︎」
その視線の先にいたのは、緑髪の縮毛の生徒だ。真面目メガネは彼をギロリと睨む。
「先程からボソボソと……気が散る‼︎物見遊山のつもりなら、即刻ここから去り給え!」
「すみません……」
注意された緑髪の生徒は彼の睨みに萎縮してボソボソと謝りながら、自分の口を手で抑える。その様子に、周囲の受験生達は嘲笑を浮かべる。
(おいおい……そこまで言うか……)
これではもはや軽い公開処刑だ。
確かに時折、ボソボソと何かを話していたのは聞こえてはいたが、まぁ緊張を抑える為なのだろうかなと勝手に思って無視していたのが、どうやら彼に限ってはそうは思えなかったらしい。
そして、周囲の人間が彼を嘲笑う光景に嵐はふつふつと不快感が湧き上がっていた。
「おい。今のは言い過ぎだ」
だから、気づけばそんな言葉を口にしていた。
突然発言した嵐にホール中の視線が集中する。そんな中、嵐はゆっくりと立ち上がると自分よりも高い位置に立っていた眼鏡を見上げ、視線を鋭くすると口を開く。
「確かにそいつがボソボソと話していたのは俺も知っていたし、お前みたいに気になる奴がいるのも仕方ねぇと思う。けど、それをこんな大衆の場で注意するのは違うだろ。
こんな大事な時に不必要なプレッシャーをかけて、萎縮させるな。他人に注意するのは結構だが、こんな所で他人に恥をかかせるのは間違ってるぞ」
嵐の指摘に眼鏡はハッと気づく。そして、すぐに動くと緑髪の少年に向けて見事と言えるような90度のお辞儀をしてみせた。
「済まなかった‼︎俺の不注意で君に恥をかかせてしまった‼︎大変申し訳ない‼︎」
「あ、いや、こ、こちらこそすみません」
眼鏡の素直な謝罪に緑髪も慌てて迷惑をかけたことを謝罪する。嵐はソレを見て安堵するように小さく笑うも、次いで表情を冷たいものへと変えて周囲を見渡しながらはっきりと告げた。
「でだ、そこの緑髪を笑った奴ら。
テメェら、何のためにここにきているのか忘れてんのか?ここはヒーローを目指す奴が集まる場だぞ。なのに、他人の失敗をヘラヘラと嘲笑うのはどう言うつもりだ?それがヒーローのすることかよ。テメェらこそ目障りだ。人を嗤いてぇならこっから失せろ」
眼光を鋭くし、明らかな怒気を伴って放たれたソレに、会場中の受験生たちが時が止まったかのように絶句する。多くの者が凍りつく中、一部の者からは不満に満ちた気配が発せられたのを嵐は感じた。
どうやら、説教された彼らの中に恨みを抱いたものがいるらしく、どこからか嵐に恨みがこもった視線を向けているようだ。
しかし、嵐はどこ吹く風というふうにそれらを無視すると、プレゼント・マイクに軽く頭を下げる。
「プレゼンの邪魔をしてしまい申し訳ありません。どうぞプレゼンを続けてください」
プレゼント・マイクは一つ頷くと嵐に手をひらひらと振りながら真面目メガネの質問に答える。
『オーケーオーケー、勿論だぜ。それと受験番号7111くん、ナイスなお便りサンキューな!
四番目の敵は0P!そいつはいわば———』
———お邪魔虫さ!
彼の声がホール全体に響く。
『スーパーマ◯オブラザーズはやったことあるか⁉︎0Pはアレのドッスンみたいなもんさ!各会場に一体!所狭しと大暴れしている「ギミック」よ‼︎』
プレゼント・マイク曰く倒すのはほぼ不可能であり、文字通り邪魔なだけだそうだ。レトロゲームに例えてその説明に受験生達はそれぞれ納得する。
『なるほど……避けて通るステージギミックってことか』
『まんまゲームみてぇな話だぜこりゃ』
「有難う御座います。失礼致しました‼︎」
真面目メガネも納得したのか、そう言って着席する。大部分の生徒達が0Pは避けて通るべきものだと認識した中、一人嵐だけは違った。
(……別に、ぶっ飛ばしてもいいんだよな?)
彼だけは0Pを倒すことも視野に入れていた。
勿論、0Pであるため倒したところでポイントが入らないのは明確。もしかしたら、厄介な仮想敵で時間も取られるかもしれない。
なら、その時間をポイント稼ぎに使うのが効率的、と思うのが道理だ。
だが、実力を見せろということならば、嵐の“個性”ならば丁度いい相手なのかもしれない。
(……まぁ、敵と呼ばれてるならポイント関係なく潰すか)
実力を見せる以前に、仮想とはいえ敵と呼称されている以上、ヒーローを目指す者ならば倒すのが道理であるはずだ。
ポイントなど二の次だ。と嵐は結論付けた。
『俺からは以上だ‼︎
最後にリスナーは我が校“教訓”をプレゼントしよう‼︎』
プレゼント・マイクはそう言って生徒達の注意を己に向けさせる。
『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った‼︎
「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と‼︎』
誰もがプレゼント・マイクの言葉に耳を傾ける中、彼は手を広げて言った。
『“
(人生の不幸を乗り越える、か……)
嵐の脳裏を、ある光景が過ぎる。
幼い頃の、過去の記憶が。
確かにアレは乗り越えなければいけないものだ。いつか、越えると誓ったものだ。
だが、今はそれを考えるべきではない。
(とりあえずやるべきことをやるだけだ)
嵐は脳裏によぎる記憶を振り払い、実技試験に向けてコンディションを整える。
まさに苦難が早速迫っているのだ。今はそちらに専念する。
『それでは皆、よい受難を‼︎』
そして、終始ハイテンションなプレゼント・マイクの実技試験説明会は終了した。
▼△▼△▼△
説明会の後、嵐達受験者は更衣室で各々ジャージなどの動きやすい服に着替えてそれぞれ割り振られた演習会場へと向かった。
ちなみに、嵐が受ける会場はAだ。
小さなビル群の町を模したであろう演習場の入り口前で、嵐達受験生は待機していた。
雑談や準備運動など、各々が自由に準備を整える中、嵐は腕を組み目を閉じたままその場で仁王立ちしていた。
彼の格好は黒袴とその腰部に縫い付けられたポーチがいくつかのみだ。道着は“個性”を使う以上破ける可能性もあるため、初めから無しにして上半身をあらわにしている。靴などの類も履いておらず、彼は素足だ。
しかし、あらわになっている腕や袴から覗く足は肌色の皮膚ではなく黒い鱗に覆われていた。
爬虫類を思わせる漆黒色の鱗が太腿と肩から先を覆っており、爪は全て翡翠色の鋭利な鉤爪へと変わっていた。
更に、四肢には脚は袴があるため分からないが、山吹色の模様が入ったビロード状の羽衣を思わせる純白の飛膜が生えている。
そして、下顎部からは左右に一本ずつ細長い髭のようなものも生えており、それはゆらゆらと動いていた。
無言で佇む彼と少し距離をとっている受験生達は各々準備をしながらも、嵐を遠巻きにチラチラとみている。
恐れているような、恨んでいるような、そんなさまざまな視線だ。
それは先ほどのプレゼンでの説教が原因だった。
多くの者が嵐の指摘に恥じるようにしていたものの、一部の心無い者。つまり、性根が腐った者たちは嵐に逆恨みに近い感情を抱いており、プレゼン終了後控え室で各々着替えて、バスで各試験場に移動する際、バス乗り場で突っかかってきたのだ。
曰く、『偉そうに言ってんじゃねぇよ。お前こそ失せろよ』や『別になんてことないことだろ?一々説教する意味がねぇ。アピールのつもりか?』、『てか、お前みたいなのが偉そうに人に何か言える立場なのかよ』など、なんとも聞くに耐えない戯言を言ってきたのだ。
別に嵐個人としてはソレを言われたところで、言わせておけばいいと思っているのだが、ここはヒーローを目指す者達が集まる場だ。
そんな場所にいるのに、平気でそんな発言をするのが気に入らなかった。
だから、嵐は突っかかってきた者達に殺気をぶつけて無理矢理黙らせたのだ。突っかかってきた者達は揃いも揃って無様な声をあげて腰を抜かすという醜態を晒し笑い者になった。
それ以降、嵐の周辺には誰も寄り付かず、遠巻きに様子を見られているというわけだ。とはいえ、嵐個人としても一人瞑想して集中力を上げれるので丁度よかったのだが。
そして、準備運動をしていたとある二人の少年少女の視線もふとした時に彼に向けられる。しかし、それは他の者達とは違う理由でだ。
(あの髭……もしかして、うちのと似ている感知系の“個性”かな?)
(鱗に飛膜か。一体、どんな“個性”なんだ?)
彼に別の意味で視線を向けたのは、短い黒髪に耳朶からプラグが生えた小柄な少女と、銀髪で目元以外をマスクで隠した六本腕の大柄な少年だ。
二人は、準備運動で体をほぐしていたときに、気迫に満ちている受験生達の中でも一際、鋭く研ぎ澄まされた気配を放つ嵐の姿に目が止まったのだ。
そして、二人が人知れず嵐に視線を向けていた時、嵐は動かしていた髭で空気の揺らぎを感知した。
(空気が震えてる。来るな)
風の流れを感知する器官でもあるソレは、空気の振動ーすなわち、音も感知できるのだ。
彼はスピーカーが音を発する直前の僅かな音を嵐は捉える。それは、ただの身体能力にあらず、嵐の“個性”があったからこそ成せる力。
嵐は静かに腰を落として屈むと、左手の鉤爪を地面に突き立ててぐっと身構えるとクラウチングスタートに似た姿勢をとる。
殆どの者がその行動を、奇行だと解釈し何やってんだと思う中、彼の“個性”を観察していた二人はまさかと思う。そして、
『ハイ‼︎スタァァァトォォォォッッ‼︎‼︎』
「ッッ‼︎」
その声が聞こえた瞬間、嵐だけが反応して飛び出した。
コンクリの地面に足跡を刻むほどの力強い踏み込みで地面を粉砕すると、凄まじい速度で入り口を駆け抜けていった。
しかし、ここで飛び出したのは彼だけではなかった。
「「ッッ‼︎」」
二人。嵐に意識を向けていた二人の黒髪の少女と銀髪の少年が僅かに遅れて唖然とする受験生達の間をすり抜けて、一番に飛び出した嵐の後を追うように入り口を駆け抜けたのだ。
誰よりも早く飛び出した嵐は三歩目を踏み込んだ直後己の肉体をさらに変化させる。
ビキビキと異音を立てて四肢だけでなく、全身、顔の皮膚までもが全て堅牢な漆黒の鱗へと変化して、後頭部から背骨に沿うように腕に生えている飛膜と同様の純白の背鰭が生える。そして、その両側にも沿うように大小四枚の背鰭が生えて、側頭部の髪がビロード状の白い鰭に変化する。腰からは袴にあらかじめ開いていた尻尾用の穴を通って黒い鱗に飛膜が生える長大な尾が生えて伸びる。
最後に、額から生えたのは一対の長大な黄金の角だ。
そして、変化を終えた嵐の眼前に複数の影が現れる。
『テキ、ハッケン‼︎』
『ブッコロス‼︎』
人工音声で叫びながら現れたのは、1や2と番号が記された数体のロボット。
これらこそが、今回の入試における仮想敵だ。
ロボット達は突っ込んでくる嵐をレンズに収めると一斉に襲い掛かった。
ソレらに対して、嵐は———一声。
「風よ」
風が生まれ、嵐の体を包み込む。
陽光に照らされ煌めく純白の飛膜が風を孕み、波打つ。風を纏った嵐は一度深く呼吸をすると口の端を吊り上げて笑みを浮かべる。
そして、風が揺らめいた。
「行くぞ」
地を蹴り砕き、爆風めいた音と砂塵を巻き起こしながら、嵐の姿がかき消える。全身に纏った風の力を飛膜で余すことなく受け止めて猛烈な加速を行い高速の突貫を行ったのだ。
『タタキツブ——』
『ブッツブ——』
『テキ、ホソ—』
刹那、直線上にいた六体の仮想敵が全て轟音を立てて唸る横向きの竜巻によって薙ぎ払われた。
仮想敵は吹き荒れる暴風によって悉く破壊され、機械油を撒き散らしながら瓦礫となって左右のビルへと激突し爆散する。
「次‼︎」
遠くで聞こえるプレゼント・マイクの声や仮想敵の爆発音を聞きながしながら、嵐は次の獲物へと狙いを定めてその場から離脱した。
実技試験は長かったので2話に分けさせて頂きました。
そして、ヒロアカの入試ですが、当作品では午前で筆記をやって、午後に実技をやると言うふうにさせて頂きました。
アマツマガツチの髭ですが、魚の髭のような感覚器の役割を持っていると自分なりには解釈しています。自分の縄張りに侵入してきたものの匂いや、僅かな音、空気の揺らぎなど、人の五感では捉えきれない微細な感覚を捉える特殊器官という感じですね。
嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?
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小野大輔
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諏訪部順一
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細谷佳正