久々の投稿ですね〜。いやー、本当にお待たせしました。
今回は、体育祭直前の話になります。
今週のジャンプ早速読んだのですが……耳郎がめちゃくちゃかっこよかったです‼︎‼︎
これ以上はネタバレになるので言いませんけどね。
USJ襲撃事件から2日。
臨時休校を1日挟んで、一応肉体と精神を休めたA組生徒達は気が気じゃない様子で登校した。
校門前には雄英が敵の襲撃を許したと言う大々的な事件があったため、前と同じようにマスコミ達が群がり話を聞き出そうとしており、A組の生徒達も何人かが声をかけられ尋ねられはしたものの、当然答えられるわけもなく、そのままなんとか突破して教室にたどり着いた。
A組の生徒達は誰もがその表情は暗く、教室の空気も重々しい悲壮なものになっている。
何とかその空気を紛らわそうと何人かが雑談をするも、それでも暗い空気は払拭されずさらに不安げな表情を浮かべてしまった。
しかも、刻一刻と朝のホームルームが近づくごとにクラスメイトの殆どが、教室で唯一最後列に位置する机にしきりに心配そうに視線を向けては、前に戻すと言うことを繰り返していた。
現在教室にいるのは、二十名の生徒。未だ一人ー嵐だけが登校していないのだ。
瀕死に陥った嵐の安否もまだ明らかになっておらず、医師達が手を尽くすと言ってはいたものの危篤状態だと言われてる以上、何が起こるかわからない。
最悪、自分達は入学2週間にして頼れるクラスメイトを一人失う可能性もある。
だから、クラスメイト達は嵐が無事に生きていてもしかしたら授業に遅刻してくるかもしれないと考える一方で、もしかしたら、もう手遅れではないかとも思ってしまっていたのだ。
そして、そんな空気だからこそあの場で嵐の悲しい過去を知らない飯田達も聞くに聞けなかったのだ。
それからしばらくして不意に、ガラリと教室の前の扉が音を立てて開く。
「おはよう」
朝の挨拶をして現れたのは、全身包帯まみれのミイラマンと化した相澤だった。
「「「「相澤先生復帰早ぇッ⁉︎」」」」
生徒達の記憶では相澤は重症者として病院に運ばれたはず。だというのに、僅か1日足らずで復活して包帯を巻きながらも職務を全うしようとは誰が予想できよう。
生徒達は揃って相澤の強靭な精神力とプロの姿に驚愕の声をあげる。
「先生無事だったのね。よかったわ」
「俺の安否はどうでもいい。婆さんの処置が大袈裟すぎるだけだ」
無事と復帰を喜ぶ蛙吹にぶっきらぼうに答えた相澤は、出席簿を教卓に置き生徒達を見渡す。
「さて、八雲以外全員無事に揃ってるな」
『ッッ‼︎』
安堵するようにそう言った相澤からでた友の名前にクラスメイトが全員ビクッと反応し、耳郎がすかさず挙手をして尋ねた。
「せ、先生。八雲は、無事なんですか?」
「………」
生徒達が全員興味深そうに相澤に無言の視線を送る中、相澤は耳郎の問いかけに少しの沈黙の後、静かに頷く。
「ああ、とにかく一命は取り留めた。今は病院で療養中だ」
『………っっ』
嵐の無事を知った瞬間、張り詰めていた空気が一気に弛緩し、多くの生徒達が安堵の息をこぼした。だが、まだ完全に安堵はできなかった。
「じゃ、じゃあ、復帰はできるんですか?」
安堵していた生徒達は耳郎の更なる質問にハッとする。
確かに彼が無事なのは喜ばしいことだが、それと復帰できるかどうかは違う。右腕と右目が欠損し、毒に体を蝕まれてもいた。運良く命を取り留めても、後遺症で復帰できるかも分からないのだ。もしかしたら、復帰できずに退学してしまうという可能性だってある。
しかし、そんな彼女らの心配そうな視線に対し、相澤は静かに頷く。
「復帰は可能だ。詳細は省くが、あいつの個性には再生能力があるからな。腕も目も生えてくるそうだ。毒の方も解毒可能と聞いている」
嵐が無事であり、復帰も可能であることを知れたクラスメイト達は今度こそ強張っていた身体を弛緩させて安堵の息をついた。
「………よかった……」
「………あぁ、無事でよかった」
友人である耳郎が目の端に涙を浮かべながらホッと胸を撫で下ろし、障子も同意するように呟き肩の力を抜く。
「……一先ず安心ってところか」
「てか、再生能力もあるのかよ。どんだけ強個性なんだ」
「……でも、本当に無事でよかったね」
「うん、お医者さんもどうなるか分からないって言ってたもん」
「復帰したら、復帰祝いしてやんねぇとな」
「ああ、あいつが一番頑張ったもんな」
「つぅか、見舞い行こうぜ」
「それいいね‼︎じゃあ、今日早速行こうよ‼︎」
「明日の方がいいんじゃないかしら?まだ寝てるかもしれないわ」
他のクラスメイト達も口々に嵐の無事を喜び、何人かは復帰祝いやら見舞いやらを計画し始める者までいた。
そんな盛り上がりを見せるクラスメイト達に普段ならば静かにしろと一喝するのだが、今回は事情が事情だけに黙認した相澤は話を続ける。
「完全に回復するのは来週になるらしい。その間は通学できたとしても後遺症で満足に動けないから車椅子での登校になる。しばらく不便が続くだろうから、お前らで色々とフォローしてやれ」
『はい‼︎』
「八百万、八雲が完全回復するまではお前が委員長代理だ。委員長の仕事はお前に頼むからそのつもりで」
「勿論ですわ‼︎」
嵐のフォローかつ委員長代理を任されたことに、クラスメイトや八百万が元気に返事して意気込む。
「さて、前置きが長くなったがそろそろ本題に入ろうか。何せ、戦いはまだ終わってないからな」
明るくなった空気に水を差すような相澤の発言に、A組の空気が張り詰める。
まさか、敵の残党がいたのか?次は何があるんだ⁉︎と若干戦々恐々になり(一部は逆に目をギラつかせた。爆豪である)生徒達がどよめく中、相澤はついに言った。
「雄英体育祭が迫っている……‼︎」
重々しい声音で告げられたいい意味で予想外だった言葉に生徒達は一瞬の沈黙。その後に、
「「「「「超一大イベントキタぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」」
歓喜の咆哮を上げた。
▼△▼△▼△
時間は過ぎて、6限。
A組は近代ヒーロー美術史の時間であり、担当教員であるミッドナイトが教壇に立って授業を行なっていた。
嵐との面会の時とは違い、過激なSM嬢のようなヒーローコスチュームを身に纏っており、男子はまだ慣れずに頬を赤らめながら授業を受けている。とある下種葡萄は動きの全てを目に焼き付けようと血走った目で凝視していたが。
そんな中、耳郎は一人授業に全く集中できないでいた。
(お見舞い……何持って行こうかな)
考えているのは嵐について。
昼に色々話して結局明日、全員で行くのではなくて最初に数名が彼のところにお見舞いを行こうと言うことで耳郎、八百万、障子、上鳴、葉隠の五名がまず行くことになって、耳郎は早速見舞い品で何を持っていこうか考えていたのだ。
(やっぱり八つ橋かな?……いや、でも、消化にいい物持ってった方がいいよね?)
彼の好物は八つ橋だが、いかんせん療養中の彼に和菓子は大丈夫なのだろうか?フルーツの詰め合わせとかの方がいいのではないだろうか?消化しやすいものの方がいいのではないか?などなど、それはもう授業そっちのけで嵐の見舞いに関して色々と思考を巡らせていたのだ。
(う〜ん、お見舞い品って何がいいんだろう。八雲が好きなものがいいのかな?いや、それ以前に、見舞いに行ったらなんて声をかけたらいいんだろ……)
思考が嵐への見舞い品となんて声をかければいいかの二つで若干混線していたのだ。
その時だ。
「……お、おはようございまーす……」
ガラリと教室前方の扉が開き、外から控えめな声で挨拶しながら入ってきた人物がいた。
それは、嵐だった。
右目部分は包帯を巻かれて顔半分が隠れていて、右腕は存在しておらず中身のないシャツの袖がぶら下がっている。そして何より、彼は車椅子に乗っていたのだ。その後ろには車椅子を押す巴の姿もあった。
「あら、八雲君おはよう。今日は来ても大丈夫なの?」
「三時間だけ外出許可もらったんですよ」
「そう。なら今日はこのまま受けてくってことね」
「はい」
ミッドナイトとそんなことを話した嵐はどうしてか硬直しこちらをガン見しているクラスメイト達へと視線を向けると、苦笑いしながら声をかける。
「あぁ…えーと…おはよう?いや、時間的に、こんにちはかな?」
「それ以前に、畏まりすぎではないですか?」
「いや、まぁ一応な、心配かけたわけだし。……って、なぁお前ら何で固まってんだ?なんか反応してくれよ」
おーいと全員に手を振るう嵐だったが、それでもクラスメイト達は反応してくれない。
どうしよ?と巴に視線を向けた嵐だったが、ちょうどその時になって尾白が小さく呟いた。
「や、や……」
「や?」
「「「八雲君——————ッッ‼︎‼︎」」」
「「「「「八雲ぉぉぉ———ッッ‼︎‼︎」」」」」
「うおぉぉぉっ⁉︎⁉︎」
尾白の言葉を反芻して首を傾げた嵐にクラスメイトの半数が叫んで押し倒す勢いで突撃したのだ。
机と椅子を押し退けながら迫るクラスメイト達に流石の嵐も驚愕の声をあげてガタタっと車椅子を揺らしてしまう。そして、車椅子に座っている為、押し倒すのは自重したクラスメイト達は嵐の眼前でブレーキをかけて止まった。
「うわあぁぁぁぁんん!八雲君本当に無事でよかったよぉぉぉ‼︎」
「八雲お前なぁ!本当に心配したんだぞぉぉ!マジでなぁ!本当によぉぉ‼︎」
「お前になんかあったらと思うと、オイラはいても立ってもいられなかったよぉ‼︎」
「ふおぉぉぉお‼︎やぐもぐんん゛〜〜ッ!」
葉隠、上鳴、峰田、麗日が滂沱の涙を流しながら最前線で口々に声を上げる。葉隠に至っては半ば抱きつきかけているほどだ。嵐の膝が涙で濡れ始める。
「や、八雲君本当に大丈夫かいっ⁉︎先生からはまだ完全回復できていないと聞いたが……少しでも異常があったら直ぐに教えてくれたまえ‼︎保健室に全速力で運ぶぞ‼︎‼︎」
「なんかあったら直ぐに言ってくれよ‼︎俺らもできることは何でもやるから‼︎」
「そうだぜ‼︎何でも頼んでくれよ‼︎」
飯田と瀬呂、砂藤が彼女らに続き捲し立てるようにそう言う。他にもクラスメイト達が矢継ぎ早に言ってくるが、その全てが嵐の無事を喜び、今の彼の体を気遣ってくれているものだと理解した嵐は、最初こそ驚いていたがくすりと相好を崩すと葉隠の頭を優しく撫でながら、クラスメイト達を見渡す。
「……お前ら、本当に心配かけたな。見ての通り、とは言えないが俺は無事だ。ちゃんと生きてるぞ」
穏やかな微笑みを浮かべながら安心させるようにそう言った嵐に、集まったクラスメイト達は揃って笑みを浮かべる。
そんな時、彼の声を呼ぶ声がひとつ。
「………八雲」
人垣の向こうから聞こえてきた声。
恐らくは最も心配していたであろう彼女の声は透き通るように響き、嵐は自然とそちらへと顔を上げる。見れば、人垣から少し離れたところ、八百万と障子の二人がいて二人の前に耳郎がいた。
「……耳郎、障子、八百万」
嵐は少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら、三人の名を呼ぶ。周りのクラスメイトも空気を察してか、三人に道を開ける。
まず、八百万と障子が彼に歩み寄った。
「……八雲さん、本当にご無事で良かったですわ。お医者様が予断を許さない状況だと言った時、気が気でありませんでした」
「‥‥まぁ、そうだろうな。医者も奇跡だって言ってたからな」
「俺も、朝先生にお前の無事を伝えられるまではずっと不安だった。心優しい友を失うのでは無いのかと。……だから、お前がこうして無事に生きていてくれて、本当によかった」
「……あぁ、悪い。本当に心配をかけた」
心から嵐の無事を安堵し喜んだ八百万と障子に穏やかな声音でそう返すと、次いで耳郎に視線を向ける。
耳郎は既に目の端に涙を浮かべており、スカートの端をぎゅっと握っていた。それを見て、嵐はすぐさま謝罪をした。
「耳郎、約束を守れなくてすまなかった。あの時、俺の背中を押して送り出してくれたというのに、約束を守れずに怪我をして戻ってきてしまった。多分…その…一番心配させたと思う。…だから、本当に、ごめん」
申し訳なさそうにしながらも必死に言葉を紡いで軽く頭を下げた嵐に、耳郎は首を横に振る。
「……ううん、八雲は何も悪くないよ。あれだけのことがあったんだもん。八雲の事を責めるわけない。……約束を破ったことなんて、謝らなくて良いよ。そんなことより……」
そう言うと耳郎は嵐へと近寄り側で膝をつくと、左手に自分の手をそっと添えると、潤んだ瞳で嵐を見上げながら涙を流し始めた。
「アンタが、無事でよかった。約束なんてどうでも良い。とにかく、アンタが生きてて、本当によかった」
「………」
「あの時はウチらを守ってくれてありがとう。……それと、何もできなくて、ごめんね。ウチら、八雲に全部背負わせたっ。……だから、アンタに頼り切りになって、本当に、ごめんっ。どうしても、これだけは謝りたかったの」
そう感謝と謝罪を言うと、左手に額を当てながら肩を震わせ嗚咽を零し始めた。八百万がすぐさま彼女のそばに座り込み、優しく背中を摩っていた。嵐はその様子を見て静かに思う。
(…………ここまで心配をかけていたのか、俺は)
心配をかけているのはわかっていた。あの時、自分の背中を押してくれたからこそ、死にかけてしまったことに罪悪感を感じているのかもしれないとも思っていた。
そして、今回の自分の身に起きたことは、かつて入学したばかりの頃、個性把握テストで相澤が緑谷に言った自己を犠牲にして誰かを助ける行為に限りなく近かった。
(………俺がこいつらを大切に思うように、こいつらも俺のことを大切に思ってくれていたんだ。だからこそ、ここまで悲しませてしまった)
かつての自分が味わった悲しみ。嵐はそれを彼女達に味合わせてしまうことだ。いや、実際に失うかもしれないと言う恐怖を味合わせてしまった。結果的に死んでいなかったとはいえ、その恐怖を味合わせたことには変わりはない。
好感を抱かないその在り方を、よもや自分がしてしまったことに嵐の心には罪悪感が再び広がった。
(………ああくそ、駄目だな。泣かせるつもりじゃなかったのにな)
嵐は自分の情けなさに心のうちで歯噛みする。
しかし、今は自分を責めるとかではない。それはもう昨日のうちに済ませた。だからこそ、今は、彼女を安心させることが先だ。
「………耳郎、心配してくれてありがとうな。それと、本当にごめん。俺も、お前達にそんな顔をさせたくて戦った訳じゃないんだ」
彼は、左手を動かし彼女の手を握り返しながらそう言葉を紡ぐと、周りにも視線を向けながら言葉を続けた。
「……ただ、お前が、お前達が傷つけられるのが嫌だった。誰にも死んでほしくなかった。
俺が前に出て戦えば、お前達を護れると思っていた。…………だが、その結果がこれだ」
「…………」
「紅葉姉の事で俺はまともな判断ができなかった。けど、それは言い訳にすぎない。結局約束を反故にして瀕死になったのは事実だ。だから、改めて約束させてくれないか?」
「……え?」
顔を上げた耳郎の涙が流れる頬に嵐は手を添えて目尻の涙を優しく指で拭うと、穏やかな微笑みを浮かべながら彼女の黒い瞳を真っ直ぐに見て言う。
「……きっとこれからも戦い続けることは変わらない。だが、無茶はしないし、一人でできないようならお前達を頼る。そして、何があっても必ず無事に戻ってくる」
「………八雲……」
耳郎もまた嵐の黄金色の瞳を真っ直ぐに見返しながら、彼の名を小さく呟いた。そして、頬に添えられた嵐の手に自分の手を重ねると、小さく頷いた。
「………うん」
耳郎の頷いたのを確認した嵐は、顔を上げて周りを見渡して……周囲のクラスメイト達の様子がおかしいことに気づく。
女子達はニマニマとした笑みを浮かべており、八百万は「まあ」とお上品に口に手を当てているし、男子共は顔を赤くしたり、峰田と上鳴は「イケメン死ねや」と言わんばかりに血涙を流していたのだ。
そうなった理由がわからず首を傾げた嵐は、一番近くにいた障子に視線を向けた。
「………なぁ、障子。この空気はなんだ?」
「……その、なんと言うかな、今のお前達の様子がな、恋人同士のように見えたんだ」
「えっ……あっ……」
障子に指摘され漸くその理由に気づいた嵐は、若干顔を赤くした。
そう、彼の指摘通り今の嵐と耳郎のやり取りはさながら怪我した彼氏の無事を喜ぶ彼女のようなラブコメ的展開のようであったのだ。
そして、嵐が顔を赤くする一方で、耳郎はというと……
「………っっ⁉︎〜〜〜〜ッッ‼︎‼︎」
「あらっ、耳郎さん?」
障子に指摘され顔を赤くした嵐を見て、少ししてから自分がやったことを漸く理解したのか、ボボボッと顔を噴火の如く一気に赤面させると嵐の手を離して、八百万の背中に隠れてしまった。
背丈的にそれなりに差がある耳郎の体は、見事八百万に隠れてしまう。しかし、八百万の後ろからひょっこり見えたプラグが真っ赤に染まっていたことから、彼女の表情の色は想像に難くない。
「え、えーと、じ、耳郎?」
「ち、違う。こんなのウチじゃないっ。こんなのウチじゃないって…っ、あぅぅ……」
「お、おーい耳郎さん?」
「八雲さん、ストップですわ。耳郎さんが羞恥心で爆発してしまいそうなので、しばしそっとしてあげてくださいな」
「え?あ、お、おう」
パニックになってるのかブツブツと呟く彼女に嵐が恐る恐る声をかけるものの、母性を感じさせるような微笑みを浮かべながら後ろに手を回して耳郎の頭を優しく撫でる八百万にそう言われて、嵐は仕方なく頷いた。
そして、この空気をどうしようかとしたところで救いの手が差し伸べられる。
「はーいはい、青春してて微笑ましいけど、そろそろ授業に戻るわよ。皆席に戻りなさ〜い」
救いの手を差し伸べたのはミッドナイトだ。
彼女はご満悦な表情を浮かべながら、手をパンパンと叩いて全員を現実に引き戻した。
それで漸く動き出した空気でそれぞれが席に戻ろうとした時、緑谷がそういえばと恐る恐る嵐に尋ねた。
「そ、そういえば八雲君。ずっと気になってたんだけど、そちらの女性は?」
彼の視線の先には、一部始終を見守っていた巴の姿がある。彼女は穏やかな微笑を浮かべていた。
「あ、ああ、そうだった。彼女は旭巴さん。俺の保護者で師匠だ」
気を取り直した嵐は慌てて彼女の紹介をした。だが、嵐が師匠と言った瞬間、クラスメイト達が揃って目を剥き、驚愕の声を上げる。
「「「「この人が八雲(くん)の師匠ッッッ!?!?!?」」」」
「ふふ、初めまして。1年A組の皆さん。嵐さんの師匠の旭巴です。彼がお世話になっています」
バッと勢いよく視線を向けられた巴は、微笑みを崩さずに恭しく一礼をして自己紹介をした。
しかしだ、紹介されたクラスメイト達はと言うと、
((((思ってたのと違うっ。というか、めちゃ美人っ‼︎))))
揃ってそんなことを思っていた。
彼らが思い描いているイメージと全然違ったのだ。クラス最強であり、オールマイトが共闘を認めるほどの学生レベルを逸脱した強さの嵐が扱う武術を教えた人間であり、容赦なくボコボコにして嵐を今でも青ざめさせるほどの存在だ。
彼らの頭の中では、オールマイト並みの筋骨隆々の巨漢で、強面の男だと勝手に思っていた。きっと、めちゃくちゃいかつくて目を合わせたら死んでしまうのではないかと言う、それはもう鬼のような恐ろしい風貌をイメージしていた。
だが、蓋を開ければどうだ?
身長は一般女性のソレであり、美しい純白の髪に燃え盛る炎の如き赤い瞳。鬼のように額からは一対の角が伸びているが、その容姿は十人中十人が口をそろえて美人と評するほどの美貌。
腕も丸太のように太くなく、鍛えられ引き締まったしなやかなそれだ。体つきも筋骨隆々というわけではなく、むしろ引き締まって出るところは出ているモデル顔負けの抜群のスタイル。
一見すれば、戦いとは無縁じゃないかと思えるような女性。それが、嵐の師匠?嵐をボコボコにした張本人?嵐を容赦なく追い詰めた?いやいや、嘘でしょ?と言わんばかりの感じだった。
「?皆さんどうしたのでしょうか?」
「さぁ?なんか驚いてるみたいだけど」
驚愕の声を上げて硬直するクラスメイト達に巴は首を傾げ、嵐もそう呟いた。
いや、お前の師匠の姿が予想外だったからだよ⁉︎とはとてもではないが言えず、クラスメイト達が硬直する中、一人だけ動いた。
「うおおぉぉい八雲ぉぉ、テメェェェ‼︎‼︎」
峰田だった。
彼はこれでもかと血涙を流しながら、先ほどとは打って変わって嫉妬に満ちた視線を嵐に向けて叫ぶ。
「そんな美人さんの師匠がいんのかよっ⁉︎羨ましすぎるぞこの野郎ぉ‼︎‼︎あれか?あれなんだろっ⁉︎お前ヒーローのことだけじゃなくて、アッチのことも色々と教えへぶぅっ⁉︎」
「そういう態度失礼よ峰田ちゃん」
とんでもないことを口走ろうとした峰田だったが、蛙吹の舌による強烈な刺突が首に突き刺さり床に叩きつけられた。
奇怪な声を上げて叩きつけられた峰田を、女子達はゴミを見るような目で見下ろしている。男子達も助けるようなそぶりを見せず呆れた目を向けていた。
「………えーと、その子大丈夫ですか?」
「いや、巴さんは気にしなくていい。むしろ、すまん。変なもん見せた」
「え?あ、はい」
「…‥とりあえず、誰か席に戻しておいてくれないか?」
「……ああ」
困惑する巴に額に手を当てて呆れた様子を見せた嵐がそう答えると、素早く指示を出した。
障子がそれに応じて、服の裾を掴んで彼の席へと運んでいった。
それを見送った嵐は、ミッドナイトへと視線を向ける。
「先生、授業を中断させてしまいすみません。そろそろ再開させましょう」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「巴さんもここまでありがとう。また放課後に」
「はい。外でお待ちしてますね。では、皆さんも失礼しますね」
嵐は素早くミッドナイトや巴と会話する。
そして、巴が嵐やクラスメイト達に一礼して廊下に出て扉を閉めた後、クラスメイト達へと視線を巡らせて苦笑いを浮かべながら言う。
「えーと、とにかく、皆席戻って、授業再開しようぜ?」
▼△▼△▼△
そして、時間は過ぎ放課後、六時限目の授業には無事参加した嵐を加えて、A組21名全員揃った状態での授業を終えていざ帰ろうとした時だ。
「うおおお、何事だあ‼︎⁉︎」
教室を出ようと扉を開けようとした麗日の悲鳴が教室中に響く。何事かと見れば、A組の扉の前に大勢の生徒達が集まっており教室を覗き込んでいたのだ。しかも、多すぎるせいで教室から出れなくなっている。
自分の席で耳郎や障子、八百万と談笑していた嵐は、大方目的を察することができている為に苦笑いして肩をすくめている。
「出れねーじゃん‼︎何しにきたんだよ‼︎」
「敵情視察だろ。ザコ」
出れなくて文句を言う峰田に、隣を通り抜けた爆豪がぶっきらぼうに吐き捨てるとそのままズカズカと群衆へと突っ込もうとする。
「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてぇんだろ」
一人推測する爆豪の背後で峰田が「あいつマジで何なの?」と言わんばかりに爆豪を指さして愕然としており、緑谷がため息をつきながら「あれがニュートラルだから」とフォローを入れておく。
「そんなことしたところで無駄だ。意味ねぇからとっととどけや。モブ共」
「知らない人のこととりあえずモブっていうのやめなよ‼︎」
敵を作る気しかしない発言に流石に飯田が見かねて注意する。だが、そんな注意をまともに受けるわけもなく、爆豪が群衆を押しのけようとした時、群衆の中から声が聞こえる。
「噂のA組がどんなもんかと見にきたがずいぶん偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
「ああ⁉︎」
群衆の中から聞こえる喧嘩を売るような声に爆豪がドスの聞いた声を上げて、A組が爆豪のような不良集団とは認定されたくない緑谷や飯田、麗日が後ろで必死に首を横に振って否定する中、その声の主が姿を現す。
出てきたのは、目の下に隈がある紫髪の少年だ。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴結構いるんだよ。知ってた?」
「ああ⁉︎んなモブ共のことなんざ、知ったことかよ」
「だろうね。まぁ、そんなモブ共でも体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ………」
雄英は自由な校風である為に良い意味でも悪い意味でも実力がものを言う。体育祭もその一例らしく、そこで結果を残せば他の科の生徒達がヒーロー科へと編入することもありえて、逆にヒーロー科から落とされるケースもあるそうだ。
少年は、その事実を口にすると、爆豪達をまっすぐと見据えながらはっきりと言う。
「敵情視察?違うね。少なくとも俺は、
少年は発破をかける為にあえてそう言う言い方をしたのであって、別に悪意で言ったわけではない。
だが、その発言は。今の
『……‼︎』
少年の発言にA組生徒達の空気が急激に張り詰め、多くの生徒が少年に非難の視線を向ける。それは、今の少年の言葉を否定するものだった。
それを少年が感じ取るよりも先に、怒りの声を上げるものが二人。
「たかが事件一つって…あんたこそ、何言ってんの⁉︎あの事件をたかがで片付けようとしないでよっ‼︎ウチらだって必死に戦ったんだよ‼︎‼︎死にかけた人だっている‼︎あの事件で、ウチらは大切なクラスメイトを一人失いそうだったんだよ‼︎‼︎」
「耳郎の言う通りだ‼︎軽々しくそんな発言をするな‼︎‼︎俺達がどれだけ己の無力さに打ちのめされたかを、あの場で何があったのかを、何一つ知らないくせに知ったような口を聞くな‼︎‼︎」
耳郎と障子だ。
二人は激情に表情を歪ませて少年へと詰め寄る。今の少年の言葉が自分達の大切な友が味わった苦しみを全て否定するように聞こえて我慢ならなかった。
たかが事件一つ無事に乗り越えた?
調子に乗ってる?
違う。そんなわけがない。
無事なわけがなかった。嵐とオールマイトがいなければ全員殺されていただろうし、自分達を守り戦ってくれた嵐も生死の境を彷徨った。
それだけじゃない。嵐にとって残酷すぎる事実を。敵の途方もない悪意を知った。
誰もが己の無力さに悔やみ、何もできなかったことを恨んだ。後悔があるからこそ調子になんて乗れるわけがなかった。
自分達の後悔を。悔しさを。そして何より嵐が味わった大きすぎる苦しみを。何も知らない少年が、ソレら全てを当然のように否定する発言をしたことに怒りが抑えきれなかったのだ。
「………⁉︎」
大胆不敵に宣戦布告をしにきたはずの少年は、二人の凄まじい剣幕だけでなく、A組生徒達の大半から向けられる怒りの眼差しに思わず怯み後退ってしまう。
「大体アンタ「それ以上はよせ」ッッ」
更に何かを言おうとした耳郎と障子を後ろから八百万に車椅子を押してもらいながら来た嵐が止める。
『ッッ‼︎‼︎』
ここにきて現れた包帯を右顔面に巻き、右腕がなく車椅子に座る嵐の悲痛な姿に、少年を含めた外の野次馬生徒達が息を呑んだ。
少年に至っては自分がとんでもない失言をしたのだと理解し、少し表情を暗くさせていた。
耳郎は嵐へと振り向くと、涙が滲む視線をキッと向けると怒りのままに声を上げる。障子も目元だけだが怒りに揺れているのは明らかだった。
「八雲っ、でも、コイツがっ」
「分かってる。だが、コイツらにソレを話したところで何の意味もねぇよ。それに話す理由もない。お前らが怒ってもコイツらには何も響かねぇ。俺の為に怒ってくれたのは嬉しいが、とりあえず落ち着け」
「お二人とも少し落ち着いてください。この方達は何も知りません。何も知らない方々に怒ったところで、私達の気持ちは届きませんわ」
冷静に告げる嵐に続き宥めるように言う八百万の二人の言葉で、冷静さを取り戻した二人は気まずそうに顔を俯かせながら嵐に謝る。
「……ごめん。ついカッとなった」
「俺もだ。冷静になるべきだった」
二人の素直な謝罪に嵐は優しく頷くと、今度はクラスメイト達に視線を向けた。
「お前らも、俺が気にしていないんだから怒りを抑えてくれ」
『………』
他ならぬ嵐にそう言われ、他のクラスメイト達も渋々怒りを抑える。次に爆豪へと振り向いた。
先程まで敵意を振りまいていた爆豪は思うところでもあったのか思ったよりも落ち着いていて、無言で嵐を見下ろしていた。
「爆豪。お前のやり方を否定する気はないが、無駄に敵を作ろうとするな。かえって面倒なことになるだけだぞ」
「はっ、知るかよ。そんなもん黙らせりゃ良い話だ。上にあがりゃモブ共の戯言なんざ関係ねぇからな」
「……まぁ、お前のいうことにも一理あるがな。とにかく、ちったぁ言動には気をつけろ」
「チッ、うるせぇな」
嵐の注意にぶっきらぼうに返した爆豪は、今度こそ群衆を強引にかき分けて教室から出ていった。
その背中をやれやれという感じで見送った嵐は、目の前にいる少年を見上げる。少年は気まずそうに俯いており、嵐とは決して目を合わせようとしなかった。嵐は苦笑いを浮かべると優しく声をかける。
「爆豪の件は悪いな。あいつは元々そういうやつなんだ。俺からも言っておくから、一々めくじらを立てないでほしい」
「あ、いや、その……」
「さっきの君の発言も自分の存在を認識させる為に言ったのであって、別に悪意で言ったわけじゃないのも分かってる。…………だが、ソレでも言葉は選ぶべきだったな」
「ッッ‼︎」
スッと目を細めて告げられた言葉に少年は息を呑む。嵐から発せられた押し潰すような迫力に圧倒されたのだ。
言葉にできないような恐怖が全身を強ばらせて、その場から動くことすらできなかった。
彼の背後に巨大な何かがいて自分を見下ろしているようにも感じたのだ。
嵐は目を細め、真剣な表情を浮かべると話を続ける。
「俺がニュースで報じられた重傷の生徒だ。
敵と戦った俺は見ての通り、右目を切られ、右腕も切り落とされた。しかも、見えてはいないが、胸にも風穴を開けられたよ。一度は心臓が止まったらしいから、本当に死にかけた。
他の皆もそうだ。誰もが容赦無く殺しにかかってくる敵に恐怖を感じながらも必死に立ち向かって、ようやく乗り越えたんだ。
誰か一人欠けていたら、どれか一つ選択を間違えていてたら、この場に全員が無事に揃うことは無かっただろう。そう思えてしまうぐらい、あの事件は危険だった。断じて、君達が思ってるような軽いものじゃない」
「…………」
ここまで言われれば誰でも気づく。
嵐は静かに怒っていた。しかし、耳郎達に怒るなと注意しておきながら、自分が怒ってるのはどうしてだと責める者はここにはおらず、むしろ、もう少し声を荒げても良いんじゃないかと思ってるほどだ。少年は少年で嵐の怒りにあてられ冷や汗を流している。
「とはいえ、それは直接戦った俺達だから言えることだ。君達はニュースで報じられた程度の情報しかない。今この場に群がってる奴らも多くが興味本位できただけなんだろう。もしかしたら、たかが事件一つと思ってる奴も意外と多いかもしれないな。
だが、今日君は不用意な発言で耳郎達を怒らせて、大怪我を負った俺の姿を見た。それでも君は、まだ俺達がたかが事件一つ無事に乗り越えて調子に乗ってると言えるか?」
「…………」
少年は何も答えることができない。迫力に圧倒されたからというのもある。だが、今の嵐の話を聞き自分が失言をしてしまったと心から反省をしていたからだ。
嵐は表情を崩すと、微笑みを浮かべる。
「意地悪な言い方をしたな。今のは別に答えなくて良いぞ。その顔を見れば分かるからな。どうやら、君は他の奴らとは違うようだ。本気で俺達に挑もうとしている」
「ッッ!」
図星だったのか、自分が秘めている思いを見透かされた事に少年は明らかに目を見開き驚く。
「爆豪の言葉を借りるつもりはないが、実力を示すのが一番手っ取り早いだろう。勝ち上がれば否が応でも注目されることになる。
もしも君が、
「ッッ‼︎」
そして、更に告げられた言葉に少年は驚愕を通り越して唖然とする中、嵐は後ろにいる野次馬達に視線を向けて声を上げる。
「話は終わりだ。病院に行かなくちゃいけないから、とっとと退いてくれ。それ以上通行の邪魔をするようなら、相澤先生を呼ぶぞ?」
流石に教師を呼ばれるのは面倒なので野次馬生徒達は徐々に解散していった。少年も唖然としていたものの、すぐにハッとなり立ち去る。
「八百万、悪いが校門前まで車椅子押してくれないか?電動なんだが、いかんせんまだ手が動かしにくくてな」
毒の後遺症のせいで手元のレバーで簡単に操作できる電動車椅子の操作が覚束ない嵐は彼女にそう頼み込んだ。
「ええ、お任せください。では、鞄をとってきますわね」
「ああ、悪いな」
「あ、じゃあウチがヤオモモの持つよ」
「なら俺は八雲のを持とう」
八百万は快く了承すると、自分の席へと小走りで向かう。直後、耳郎や障子も加わり荷物を取りに行き、すぐに戻ってきた。
「俺の鞄は膝の上にでも乗せればよかったんだがな」
「いいだろ。こういう時は俺達に手伝わせてくれ」
「ま、なんにせよありがとな。じゃあ、八百万頼むわ」
「はい。では、帰りましょうか」
そして、八百万が車椅子を押して、耳郎と障子が二人ずつの鞄を持って左右に立って教室から立ち去っていった。
彼らの背中を見送った切島は、拳を握りしめて感動する。
「爆豪も、八雲も、漢らしいじゃねぇかっ」
「二人の言い分にも一理あるもんな。言ってくれるぜ」
砂藤も感慨深そうに呟いていた。
「上に上がる。実力を示す。シンプルだが、確かに正論だ。俺達は示さなければなるまいな。……八雲はあの場で誰よりも苦しんだというのに、決して折れずに前を向いている。なら、俺達もあの時味わった悔しさを糧にしていることを、奴らに見せつけてやらなければ」
常闇の静かだが確かな闘志が秘められた言葉に、教室に残っていたクラスメイト達が揃ってやる気に満ちた顔で頷いた。
ちなみに、嵐の姉紅葉改め敵連合の白妖のことはA組全員知っている。と言うのも、あの後、嵐があの場にいなかったメンバーが知りたそうにしていたので、簡単な説明だけしたのだ。
それを聞いた面々は、あまりにも衝撃的な内容に驚愕するとともに、必死に嵐に謝った。特に飯田は大号泣しながら、何でも力になると宣言したぐらいだ。まぁ、他の面々も遠慮なく頼ってほしいと言っていたから、彼らが抱える想いは同じようなものだろう。
そして、その後A組の面々は早速訓練場を予約して訓練に行ったり、これからの計画を練ったりと、誰もが体育祭へと並々ならぬやる気を抱えつつ各々行動に移した。
▼△▼△▼△
廊下を歩く耳郎は八百万に車椅子を押されている嵐に心配そうな表情を浮かべながらふと尋ねる。
「八雲、本当に大丈夫?」
「何がだ?」
「いや、さっきのあいつの言葉…」
耳郎的に先ほどの少年の言葉は、一番嵐が傷つくと思っていたのだ。だから、表面上ではなんともなくても傷ついているのではないかと思っていたのだが、嵐は微笑みを浮かべて首を振った。
「そんなことか。ああ、大丈夫だ」
「本当に大丈夫なのか?辛いなら抱え込まずに言ってほしいんだが」
障子もあまり信じられないのか、嵐の言葉にそんなことを呟く。まぁ、彼らの気持ちもわからないでもない。だが、もうそれは嵐としては過ぎ去った問題だ。
だから、彼は笑いながら障子を見上げる。
「だから、大丈夫だって。紅葉姉の事はもう十分後悔して苦しんだ。いつまでもウジウジ悩んだところで問題が解決するわけがないだろ?
何もしないで紅葉姉が戻ってくるわけでもないし、過去のことを無かったことになんてできない。だったら、どうする?」
簡単な事だ。そう言って、嵐は力強い決意が宿る眼差しを浮かべて自分の左手を見下ろしてはっきりと言う。
「前を向くしかないだろう。戦うしかないだろう。あの人の未来を奪ってしまった俺が、あの人の想いを受け継いだ俺が、あの人を救け出す。
たとえ、あの人がそれを望んでなくても、俺を恨んでいたとしても、どう思っていようと俺はあの人を何としてでも救ける。
それが、俺がヒーローを目指す為の第一歩なんだ」
力強く断言した嵐に、耳郎達は揃って瞠目すると、ついでくすりとそれぞれ笑みを浮かべた。
「お強いですね。八雲さんは」
「………すごいね。アンタは」
「……ああ、本当にな」
三人とも嵐の心の強さに感心する。
おそらく自分達ではここまで早く立ち直る事はできなかっただろう。数ヶ月、もしかしたら何年も時間をかけないといけないかもしれない。
だが、彼は立ち直ってみせた。気負った様子もなく、本心からの言葉。折れようとも、立ち上がれた力強いに、彼らは純粋に感心の声をあげた。
「……いいや、俺一人じゃこうはならなかった。巴さんや相澤先生のおかげだな。二人が俺を立ち直させてくれたんだ」
「師匠さんだけじゃなくて先生もなの?」
「ああ。あの二人の言葉があったから、俺は立ち上がれた。あの二人がいなかったら、俺はしばらくは塞ぎ込んだままだったろうな。本当に俺は人の縁に恵まれているよ」
心底嬉しそうに笑う嵐。その時、彼を呼ぶ声が聞こえた。
「八雲!!」
聞き慣れた声に振り向けば、そこにいたのは走ってきたのか肩を上下する拳藤の姿があった。その後ろには取陰もいる。
「よ、拳藤、取陰、心配かけたな」
振り向いた嵐は、二人に軽く手を上げながらそう言う。だが、拳藤は漸く見えた彼の姿に息を呑むと、拳を握り締めながら彼に近づく。
「お前なっ本当に心配したんだぞっ。響香達から危篤状態って聞いて、もしものことがあったらって思ったら、私はっ」
泣きそうなほどに表情を歪めた拳藤は、震える声で言葉を紡いだ。取陰は何も言わないが、心配そうな表情を浮かべている。
耳郎を始めとしたクラスメイトだけでなく、友人である拳藤や取陰も彼のことが心配で気が気でなかったのだ。
「………悪かったな。本当に心配かけた。だが、来週には完全に回復するからそこは安心してくれ」
だから、嵐は申し訳なさそうな表情を浮かべながらそう言った。だが、当然拳藤達は怪訝そうな表情を浮かべる。
「完全回復って……その怪我治るのかよ?義手とかをつけることになるの?」
確かに右腕がなくなり右目もない。復帰するにしても義手などのサポートアイテムをつけてヒーローを目指すのかと思ったのだ。
「いや、詳細は省くが俺の個性には再生能力もある。肉体の欠損も今の状態じゃ時間はかかるが再生できるんだよ。だから、完全に回復って言ったんだ」
それを聞いた拳藤達は揃って目を丸くして驚愕する。
「再生って、そんな能力もあるのかよ」
「……ほんと、滅茶苦茶だねぇ」
拳藤が純粋に驚き、取陰が規格外だなと乾いた笑い声を上げる。
「……とにかく、もう大丈夫なんだな?」
「ああ、大丈夫だ」
嵐がそう言ったことで漸く安心したのか、肩の力を抜き顔の強張りを解くと安堵の息をついた。
「……何にせよ、無事なのもだし、お前のヒーロー生命が絶たれなくてよかったよ」
「……ほんとそうだよね」
安堵し心から嵐の無事を喜ぶ二人。そんな二人の様子に、自分は本当に大勢に心配かけたんだなと、心底嵐は己の行動を反省した。
「………心配してくれてありがとな。これからは無茶しないように気をつけるよ」
「当然だ。このバカ」
謝罪する嵐に拳藤はそう返すと、じっと嵐を真っ直ぐ見ると言った。
「……なぁ、八雲。辛かったら遠慮なく言ってよ。私と切奈はクラスは別だけど、それでもお前のことは大切な友達だと思ってるんだ。だから、何かあったら私らにも遠慮なく頼ってよ」
「……拳藤」
「私らはお前に何があったのかは表面上のことしか知らない。でも、お前が辛い思いをしたのは分かる。別に無理に話そうとしなくていいよ。辛いことを無理やり話させて傷つけたくはないから、お前が話してくれるまでずっと待ってる。だから、頼むから無理はしないでほしい。何があっても私らはお前の味方だからさ」
はにかむように笑った拳藤の、友の為に少しでも力になって寄り添いたい。そんな想いが込められた言葉に嵐は少しだけ目を見開くとすぐに優しく微笑んだ。
「………ああ、ありがとうな。その時は、頼むよ」
彼が浮かべた儚い笑みに拳藤達は胸が締め付けられるような思いになりながらも、揃って笑みを浮かべて力強く頷いた。
その後、共に校門前まで行ったのだが迎えの為に待っていた巴が嵐の師匠だと言うことを知り、予想と違いすぎる姿に二人揃って驚愕したのは余談だ。
そして、2週間はあっという間に過ぎて、ついに体育祭当日を迎えた。
次回から体育祭編へと突入しますよぉ〜。
嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?
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小野大輔
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諏訪部順一
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細谷佳正