天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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さぁいよいよ障害物競走が始まりましたァッ‼︎‼︎嵐がどんな活躍を見せるのか、どんな結果を残すのか‼︎それは、ご自身の目で確かめてくださいっ‼︎‼︎

そして、お気に入りが1500件を超えました‼︎登録してくれた皆様、本当にありがとうございますっ‼︎‼︎これからもよろしくお願いしますっ‼︎‼︎




23話 暴嵐驀進

 

 

『さぁ八雲が遂にスタートしたぜぇリスナー共ォォ‼︎竜巻に要注意だぁぁ‼︎‼︎』

 

 

プレゼントマイクによる嵐のテイクオフの合図はスタジアムの外にいる生徒達の耳にも届いており、A組メンバーとB組の拳藤、取陰は一斉に反応する。

 

「チッ、やっぱり来るかよ」

「来ましたわね‼︎八雲さん!」

「そろそろ来ると思ってたよ。八雲!」

 

それぞれが嵐の発進に身構える中、踏み込んだ地面を爆砕した嵐は、飛び出した勢いに豪風の加速を加え暴風の矢と化し一瞬にしてゲートを突破。未だスタート地点でもがいている生徒達を暴風の余波で動けなくしながら、第一関門に差し掛かった。

 

『敵、排除』

『握リ潰ス‼︎』

 

嵐を無数の0Pが迎え撃とうとしているが、嵐を出迎えたのは0Pだけではなかった。

 

「………ドローンか」

 

ゲートを突破して第一関門に突入した嵐の目の前には0Pの群れだけでなくその5m程上空を飛ぶ無数の直径3m近い大型のドローン型仮想敵が浮かんでおり、嵐を待ち構えていたのだ。

しかも、ドローン型仮想敵は目の前にいるものだけでなく、コース外から続々と飛び上がっていて上空を埋め尽くさんとしており、嵐の進路を塞ごうとしていた。

 

『いつ誰がロボが出んのが地上だけだって言ったぁ‼︎‼︎空中にもいるぜ‼︎‼︎全国初公開‼︎対飛行個性専用のドローン型敵だ‼︎‼︎飛んでる奴しか狙わねぇ特別仕様だぜ‼︎』

『ターゲット補足。迎撃スル』

『オチロ。空ハ我ラノ領域』

 

プレゼントマイクの言う通り、ドローン型敵は地上を走る生徒達には目もくれずに真っ直ぐ嵐目掛けて襲い掛かる。0Pも下から機械腕を伸ばして掴もうとしていた。

だが、それらを前に嵐は一切の減速すらせずに獰猛に笑う。

 

「ハッ、笑わせんな。空は俺の領域(世界)だ。テメェらが堕ちやがれ」

 

仮想敵の言葉に嵐は鼻で笑うと、決して止まらず両翼に膨大な風を纏わせて体を捻り回転させる。

 

「《蜷局竜巻》ッッ‼︎‼︎」

 

嵐の身体に更に暴風が纏われて肉体を風が覆い隠して先端を鋭い針のように尖らせた純白の竜巻へと変化させる。

そして、竜巻と化した嵐はそのまま突き進み、

 

『敵、ブッコ——』

 

ドンッと空気が弾けるような爆音を轟かせて、立ちはだかる仮想敵の悉くを一瞬で打ち砕いた。

ドローン型敵は竜巻に飲み込まれ暴風に千切られたり切り刻まれたりして宙を舞い、0Pは全てが例外なく頭部を根こそぎ抉られ、0Pの足元に群がっていた地上型の仮想敵は竜巻の余波で吹き飛びコース外に落ちていく。

 

ただ暴風を纏って正面から突進しただけで『ロボ・インフェルノ』に配置された仮想敵の九割以上が粉砕されたのだ。

 

落ち葉のように空中に巻き上げられた仮想敵の残骸は次々と地面へと落ちていき、0Pが轟音を立てて崩れ落ちて、嵐はそれに見向きもせずに生徒達がそろって見上げる中、前へと飛翔する。

ほぼ一瞬で、立ちはだかっていた仮想敵の悉くが撃砕されたことに暴風の余波に晒され身動きすら取れなかった生徒達は唖然とする。観衆達も轟の瞬殺劇をも上回る圧倒的な光景に開いた口が塞がらなかった。

 

『はあぁぁぁぁぁ!?!?あいつまじかぁぁ‼︎‼︎たった一瞬で第一関門のロボ殆どぶっ壊しやがった‼︎⁉︎滅茶苦茶にも程があるぞぉ‼︎‼︎』

『あいつは入試でも似たようなことやってたからな。この程度朝飯前なんだろ。……もう少し、仮想敵のレベルを上げとけばよかったか』

 

一瞬で第一関門そのものをぶっ壊した嵐にプレゼントマイクが文句を言って、相澤が呻くようにそう呟いた。

実を言うと、先ほどのドローン型敵は対飛行個性用と称してはいるが、嵐対策に作られた専用のロボなのである。入試の時仮想敵の群れを悉く薙ぎ払っていたことやUSJでの戦闘を鑑みて他の生徒達とは一線を画す実力を有する嵐への対策が立てられていたのだが、嵐は自分達の想定の範疇にはいない存在であり、立てた策の一つ目は全くの無意味に終わった。

 

『そんなことを話してるうちに八雲の奴はあっという間に第二関門に差し掛かろうとしているぅ‼︎‼︎先頭を走る轟の背中を捉えたぁぁ‼︎‼︎』

「……早すぎんだろうが。最終関門には行っておきたかったんだがな」

 

そして、飛翔する嵐は先頭を走る轟の背中を捉える。彼がいるのはちょうど第二関門だ。底が見えないほどの深い崖が見え数百mはあるような崖の中には無数の岩柱が乱立し浮島のような構造になっている。岩柱にはそれぞれロープがかけられいた。

先頭を走る轟はロープを氷で凍らせながら体を前に押し出し着実に進んでおり、凄まじい速度で自分との距離を詰める嵐に思わず悪態をついてしまう。

 

『オイオイ、第一関門チョロいってよ‼︎んじゃ、第二はどうさ⁉︎落ちればアウト‼︎それが嫌なら這いずりな‼︎ザ・フォ———ル‼︎‼︎』

「あいつには意味ないだろ」

 

第二関門の形式に轟は更に悪態をつく。

確かにこの第二関門は空を飛翔できる嵐にとっては意味がないものだ。嵐はそのまま上空20mを飛翔し第二関門を翔け抜けようとする。

しかし、流石は雄英。上空を飛ぶ者にも、正確には嵐対策のための妨害をここでも一つ用意していた。

 

「ッッ‼︎」

 

上空から第二関門を突破しようとした嵐を突如強風が襲ったのだ。しかも、それはただの強風ではない。

 

(滅茶苦茶に吹き荒れてるな。流れが一貫していない。だが………)

 

風が四方八方から吹き付けており、思うように進むことができなくなっていた。

風を操るからこそ、空気の流れを感じ取れるからこそ、すぐに嵐はその事に気づけたのだ。

そして、嵐がほくそ笑んだ時にプレゼントマイクの声が響く。

 

『飛べば楽勝と思ったか!?残念!!飛行個性対策に上空ではランダムに強風が吹くようにしてあるぜ‼︎飛ぶ高度が高ければ高いほど風の強さも向きも出鱈目になってくるから進むならロープを渡るのをお勧めするぞ‼︎‼︎まぁ奈落に落ちても途中で網が張ってある…か…ら……oh』

 

最初は威勢が良かったプレゼントマイクの声は段々とトーンが落ちていき、最後にはモニターから送られる光景に思いっきり顔を顰めた。

なぜなら、

 

『………なぁ、イレイザー気のせいか?あいつ更に加速してね?』

 

嵐は吹き付ける強風に翻弄されるどころか、強風吹き荒れる空中を泳ぐように巧みに舞いながら先程よりも疾い速度で飛翔していたのだから。

ウソンと言いたげなプレゼントマイクに相澤が現実を叩きつける。

 

『現実だ。どうやら八雲の奴、風の流れを見抜いて逆に吹き付ける風を取り込んで自分の推進力に変えたみたいだな。器用なことをするもんだ』

『そんなんありかっ‼︎いや、薄々そんな気はしてたけどよぉ‼︎‼︎』

 

プレゼントマイクの驚愕の絶叫が響く。

相澤の言う通り、嵐は即座に風の流れを読み取った後、自身が纏う竜巻を操作してあらゆる方面から吹き付ける強風を悉く取り込み竜巻を増幅したのだ。

 

四方八方から吹き付ける強風がなんだと言うのだ?

 

(風を取り込めばこっちのもんだ)

 

嵐の個性はー厄災の一つ天災である嵐を操る龍の力。それほどの力を操れる者が強風如きに翻弄されるなど笑止千万。

天空の全てを支配するが故に、この障害は障害どころかむしろ補助にしかならない。

 

嵐は吹き付ける強風を支配し、天空を泳ぐように舞う。

 

海流に乗って泳ぐ魚のように。風に乗って飛ぶ鳥のように。否。それ以上の自由さと優雅さで嵐は強風吹き荒れる天空を舞った。

 

その様に、多くの人間が思わず魅せられた。

 

『すげぇ……』

『綺麗……』

『まるで、踊ってるみたい……』

 

観客生徒問わず多くの人が嵐の舞が如き飛翔に見惚れてしまう。そんな中、飛翔する嵐を見て先頭で走る轟は妨害に動いた。

 

「………少しは止まってくれりゃありがてぇがな」

 

岩柱の上で反転すると轟は右手を添えてロープを伝って他の岩柱をも利用しながら横幅、高さ共に数十mの大氷壁を形成して嵐の進路を妨害しようとする。

 

『おぉーっと‼︎ここで先頭の轟が大氷壁を形成‼︎‼︎後方を、つーか八雲の進路を阻もうとしている‼︎‼︎さぁ、どうなるぅ⁉︎』

 

大氷壁と嵐の距離は残り20m程。回避か迎撃どちらかをしたところで一瞬の停滞は生むだろう。

一瞬の停滞のうちに自分はこの第二関門を抜け、もう一つ大氷壁を作って妨害する。

そう考えた轟だったが、嵐は大氷壁に真っ直ぐ突っ込んで行き、

 

「《狂飆・雲薙ぎ》」

 

左翼に竜巻が形成できるほどの膨大な風を纏わせると一気に振り上げて大氷壁を根こそぎ吹き飛ばしたのだ。

粉々に砕けた大氷壁は風に乗って左奥へと吹き飛び奈落の底へと消えていった。

 

『八雲、轟の妨害を瞬殺して第二関門を突破ァァ‼︎‼︎ほんと滅茶苦茶だぜ‼︎‼︎』

 

プレゼントマイクの実況が響き、轟は自身の頭上を飛び去ろうとした嵐と一瞬目が合う。

その目はまるで『この程度で俺が止められるわけないだろ』と挑発しているようにも感じた。

 

「………クソっ」

 

轟は嵐に眼差しに悔しそうに舌打ちしながら、自分を追い抜いた嵐をただ見上げていた。

そして、轟を抜いた嵐はそのまま第二関門を突破し轟をあっという間に置き去りにした。

 

『そんでそのまま最終関門に突入‼︎‼︎ネタバレになるから全部言わねぇけど、対飛行個性用に用意した固定砲台の集中砲火が次々と八雲に襲い掛かるぅぅ‼︎ちなみに、弾はセメント弾だから安心しろぉ‼︎‼︎』

 

対嵐用の最後の対策として最終関門の両脇の草むらに設置された無数の固定砲台。そこからは速乾性のセメント弾が放たれて当たったものの動きを鈍らせる。それが、嵐へと数百発放たれたのだが、

 

「邪魔だ」

『だがしかぁぁしっ‼︎八雲、放たれるセメント弾を風で全部弾いて、更には水の砲弾で固定砲台も全部ぶっ壊しやがって、最終関門即クリアァァ‼︎もうマジで止められねぇなこいつぅ‼︎‼︎どうすりゃ止められんだよっっ‼︎‼︎』

 

それすらも意味がなかった。

纏う暴風が襲い掛かるセメント球を全て弾いてコース外へと落としていってしまい、更には大きく息を吸って水の砲弾を連射して固定砲台を全て破壊したのだ。片手間で嵐対策の罠が完全に破壊されたことにプレゼントマイクが嘆く中、嵐はなんの障害にぶつかることもなく最終関門を圧倒的な速度で易々と突破。

 

(まぁあいつを基準にしてコースを設計したら、ほとんど辿り着きすらしねぇか。分かりきってたことだが、この障害物競走は出来レース以外のなんでもねぇな)

 

相澤はこの結果を仕方ないと思う同時に、当然だと思った。嵐は既にトップヒーロー達に並ぶほどの実力を持っている。そんな彼に合わせてコースを設計したら、ヒーロー科の生徒でも良くて半分しか、普通科やサポート科の生徒達では誰一人としてたどり着けないだろう。

全員にチャンスを与える平等な設計ではあるが、突出しすぎた実力を持つ個人()にとっては物足りなさすぎるものだったのだ。

 

そして、嵐は再びゲートを通過してスタジアムに戻ってくると飛んだ勢いのまま着地し、地面をガガガと削りながらスタジアム中心で止まった。

 

『豪快に地面を削りながら汗一つかかず、余裕の表情でスタジアムへぶっちぎりの一位で還ってきたのはこの男———八雲嵐だぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎』

「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」

 

ワアァァァァッッと観客達が大歓声を上げる中、嵐は翼から腕へと形を戻して左拳を天へと突き出して己の勝利を知らしめるために吼えた。

 

第一種目:障害物競走は嵐がぶっちぎりの独走をして一位となった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

『一位の奴すごいな。圧倒的じゃないか』

『“個性”の強さもあるが、それ以上にそれを使いこなせる判断能力と対応できる身体能力が並外れてるな……』

『あの子が噂のエンデヴァーさんの息子なのか?』

『いや、それは二位の氷を使ってた子だよ』

『トップ2の息子を抑えての圧勝か……』

『早くもサイドキック争奪戦だなー‼︎』

 

大歓声の中、余裕の表情で佇む嵐を見て、スカウト目的で来たプロヒーロー達が口々にそう話していた。雄英体育祭第一種目にも関わらず既に嵐は多くのプロヒーローに目をつけられていた。

そして、嵐に目をつけたのはプロヒーローだけではない。

 

『どう思う?』

『とりあえず八雲の株価は急上昇だね。風に加えて変身系の複合型の個性。しかも途中では、巧みな風の精密動作に加え、ロボや氷壁を打ち砕いた個としての圧倒的強さも見せつけた』

『それにルックスもいい。モデル系でも売れるだろうね。しかも、変身した姿も人気が出そうだ。だけど、正直に言うと彼は完璧すぎる。ここは二位以降の人たちの売り出しを考えたいんだがどう思う?』

『なら、まずは今二位でゴールした緑谷だね。見た目は無理だ。実力面や彼なりのアーティスティックなこだわりがあれば………』

 

そう出場選手達の売り出しを意見交換し合っているのは経営科の生徒だ。経営科は基本体育祭に参加するメリットはなく、売り子や経営戦略などのシミュレーションなどで勘を培う場としているのだ。

プロヒーローや経営科の生徒達、各々が出場選手達のことで話し合ってる中、しばらくすると嵐に続いて次々と選手達がスタジアムに戻ってきた。

嵐は早速二位を取った緑谷を労いに行く。

 

「よ、緑谷。二位おめでとさん」

「え、あ、ありがとう、八雲くん」

「最後のよかったじゃねぇか。爆破であの二人を吹き飛ばすとか、なかなか大胆なことするな」

 

嵐は緑谷の肩をポンポンと叩きながら素直に褒める。嵐は飛翔して突破したためわからなかったが、あの最終関門はなんと一面地雷原だったらしく、慎重に歩いて進まないといけなかったらしい。

轟と爆豪が先頭争いをしている中、緑谷は二人に追いつくために面白いことをしたのだ。なんと、地雷原を数個掘り起こして、あらかじめ持っていた仮想敵の装甲板を使ってその上に飛び乗り、数発分の爆風で勢いよく飛んで二人に迫ったのだ。

その後は、争いを中断した二人に抜かれないように、装甲板で二人の間の地面の地雷原を殴り爆風で妨害して抜け出して見事2位になったのだ。

その賞賛に緑谷は少し照れ臭そうにする。

 

「う、ううん、僕のは運が良かっただけだよ!それに、八雲くんの方がすごいよ。スタートは1番遅かったのに、あんな圧倒的な結果を残せたんだから」

「んー相性の問題もあったんだろうな。まぁ、こんなもんだろ。それにこっからだぞ。運とか関係ねぇ本当の実力を問われるのは」

「う、うん‼︎」

 

嵐の言葉に緑谷は大きく頷いた。その二人に視線を送る者達がいた。

 

「…………」

 

彼らにじっと無言で視線を向けるのは轟だ。彼は悔しそうな表情を浮かべている。

 

(…………あんな啖呵を切っておきながら、情けねぇな)

 

轟は自分の失態に悔しさを抱く。

開会式前自分は、嵐と緑谷の宣戦布告をした。まだ1種目とはいえ、その二人に轟は完全に負けた。

ただただ、父を否定するためだけに右側の力だけで一位を目指して、二人を超える。そう決めていたはずなのに、蓋を開ければこの様だ。

格上と見ていた嵐ならともかく、格下と侮っていた緑谷にすら負けたのだ。悔しくないわけがない。

 

「………っ」

 

湧き上がる悔しさに轟は、世界の広さを思い知りギリッと歯を噛み締めた。

そして、嵐と緑谷がワンツーフィニッシュしたことに、怒りを抱く者が一人。

 

「クッソォ‼︎白髪野郎だけじゃなくて、デクにまでっまたっ…!」

 

爆豪だ。彼は障害物競走でかいた汗に加えて冷や汗を流しながら、震える左腕を抑えながら悔しさと怒りに打ち震える。

先程、控室で轟が宣戦布告した際、轟は自分に見向きもしなかった。自分が眼中にないことにただでさえ腹が立っていたと言うのに、雄英に入ってから見下し続けていた緑谷がことある度に目立ち、目障りな存在になっているのに今回は自分を蹴落として2位になりやがった。轟も3位であり、自分は4位と言う情けない結果になってしまった。

目障りな存在達が全員自分を蹴落として眼中にない様子に心底腹が立つし、見向きもされていない、あるいは追い越されていると言う事実に焦りも覚えてしまっている。それらが彼を激しく苛立たせていた。それは、血走った目を見れば明らかだった。

 

「お〜い、デクくん!」

「麗日か。じゃ緑谷お疲れ。体休めとけよ」

「う、うん」

 

そんな二人の気持ちなどつゆ知らず、嵐は緑谷の後ろから麗日が走り寄ってくるのを見ると、緑谷に一言言って離れる。そして、ゲートの方を見て額に青筋を浮かべると大股でその方向へと歩いていく。その先には、体操服の上着の前を開いてインナーを晒して頬を赤くしている八百万の姿、彼女の尻と背中にもぎもぎを利用して張り付いている峰田の姿があった。

 

「くっ……こんなハズじゃあ……………!」

「一石二鳥よ。オイラ天才‼︎」

「サイッテーですわ‼︎‼︎」

 

顔面に複数の殴られた跡があって鼻血を流していることから察するに、八百万も必死に剥がそうとしたものの剥がせずに仕方なくゴールしたという感じだろう。

八百万は心底悔しそうに項垂れており、峰田はやりきった感じを出していた。

なんにせよ、嵐がそれを見た以上、峰田は問答無用で有罪であった。

 

「………おい、下種葡萄。そこになおれ」

「ヒィッ‼︎」

 

殺気を滲ませ額に青筋を浮かべる嵐が八百万達に近づき、そう告げると峰田は顔を青ざめてすかさず降りる。

 

「ま、待てっ!今全国放送中なんだぞっ⁉︎暴力沙汰を世に晒す気かっ⁉︎」

「テメェみたいな痴漢野郎を潰すだけだ。世間の皆々様も許してくれるさ」

「ヒィッ、ゆ、許してくれよぉ!オイラだってちょっとした出来心だったんだっ‼︎見逃してくれぇ‼︎」

「問答無用っ‼︎しばらくそこで寝てろ‼︎」

「いやぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎ぶべぇっ⁉︎」

 

釈明の余地なし。即座に有罪判決を下された峰田はすぐさま反転して逃げようとするも、嵐の風の前に逃走は叶わず、頭上に発生した風の大槌を叩きつけられ地面に沈んだ。

 

「八百万、とりあえずその上着は脱いで俺の着とけ」

「えっ、ですが……」

 

嵐は傍に抱えていた自分の上着を差し出すと彼女に今着てるものを脱いで自分のを羽織るように指示する。

八百万は少しばかり戸惑うような反応を見せる、だが嵐が無理やり上着を押し付けた。

 

「いいから。俺は上半裸の方が個性の都合上動きやすいからさ。それに、女子が肌を晒すのはあまり良くないだろ。予備の服もらうまではこれ着とけって。あんま着てないからそんなに汗臭くはないハズだから」

「そ、それでしたらお言葉に甘えて。本当にありがとうございます。八雲さん」

「いいっていいって、これは峰田が全面的に悪いから。……はぁ、ったく、全国放送されてんのに恥ずかしいことはすんなよなぁ」

 

頭を乱暴にかきながら嵐は峰田の醜態にため息をついて悪態をつく。そんな彼らに障子や耳郎、拳藤、取陰が近づいてきた。

耳郎が地面に沈む峰田を見て首を傾げる。

 

「峰田転がってるけど、また何かしたの?」

「……八百万にセクハラしたから沈めといた」

「成程。それなら仕方ないね」

「というか、全国放送されてるのにやったのか」

 

耳郎は肩をすくめ、障子は呆れる。そして、耳郎は完全に峰田を意識の外へと追いやると、嵐へと向き直り彼の遺体を称賛した。

 

「それよりも、ぶっちぎりの一位おめでと。やっぱ凄いねアンタは」

「どうも。まぁ今回は相性が良かったな。飛行個性にはアレ有利だと思うぞ?」

「いや、それでも飛行個性用の障害だってあったはずなのに、お前は易々突破したじゃんか」

「まぁな」

「うわ、ドヤった」

 

耳郎に続いて拳藤の言葉に嵐は得意げに笑う。そんな彼に障子が力強い眼差しを向けながら言う。

 

「障害物競走では完敗だったが、次の種目ではそうはいかんぞ、八雲」

「ああ、望むところだ」

 

障子と嵐はその瞳に確かな戦意を宿し向かい合うと、拳をぶつける。男同士の熱き友情に耳郎達は揃って笑みを浮かべると、自分達も忘れるなと言わんばかりに口を開く。

 

「男同士仲良いのはいいけど、二人とも私らも忘れんなよ?」

「ウチらだってこれで終わりじゃないしね」

「そーそー、油断してると足元掬われるかもよー?」

「無論、忘れてるわけがないだろ?お互い競い合うライバルだ」

「ハハ、いいぜ。どっからでもかかってこいよ」

 

それから、嵐達は順位の集計結果が出るまで談笑をしていた。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「………………」

 

 

観客達が障害物競走に思い思いに感想を言い合う中、観客席最上階の通路の陰。そこから1人のプロヒーローがまっすぐにスタジアム中央を見下ろしていた。

闇夜のような艶やかな濡羽色の黒翼を背に、着物と武者鎧のような甲冑を合わせたかのようなコスチュームに身を包む、烏の嘴を思わせる特徴的な仮面を付けて口以外の顔面全てを覆い隠しているその男は、仮面の奥から覗く翡翠色の眼光を細めながら口を開く。

 

「………なぜ、お前がそこにいるんだ」

 

その咎めるような声音は、怒りと驚愕が入り混じっていた。

男の視線はスタジアム中央で友人らと談笑している1人の青年ー八雲嵐に向けられている。

 

「……いや、そうか。お前は、まだあの時の夢を諦めていなかったのか…」

 

最初こそ咎めていたものの、何かを思い出してかそう呟く男性。確かに嵐は選手宣誓でもそんなことを言っていた。それを踏まえれば、昔話してくれた夢をまだ諦めていないのだと自然と理解できた。だが、いくら彼がヒーローになることを諦めていなくとも関係ない。

 

「……駄目だ。そんなことは許さん。いくらお前が紅葉の想いを無駄にしたくないのだとしても、お前だけはヒーローになることは認めん」

 

彼は初めから嵐の想いを認めるつもりはなかった。何故なら、知っているからだ。

彼が冒した罪を。彼の個性の本質を。彼がとてつもなく危険な存在であることを。

だからこそ、認めない。だからこそ、許さない。

八雲嵐がヒーローを目指すことだけは断じて許すことなどできなかった。

 

 

 

「八雲嵐………お前は、お前だけは、何があっても、絶対にヒーローになってはいけない存在なんだ」

 

 

 

男は、ギリッと歯を噛み締めると忌々しく、刺すような口調でそう言って嵐を睨んだ。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

また別の場所では、巴が観客席の通路から談笑する嵐達を見下ろしており嬉しそうに笑っている。

 

「ふふ、流石ですね。嵐さん」

 

巴は嵐の成績に満足げな様子を見せる。

従者であり、師匠であり、保護者でもある巴は嵐がヒーローを諦めずに目指し、こうして結果を出していることが嬉しかったのだ。

ちなみにだが、巴の格好は私服姿ではない。彼女はヒーローコスチュームを着用していた。

袖なしの白い和服と袴を、赤と青に装飾された籠手を、腰には肘まである白い脇楯と赤青の草摺を身につけている女武者ー彼女の場合は鬼武者と称えるべき格好をしていた。

これは、彼女のプロヒーローとしての姿であり、なぜこの姿なのかというと雄英高校に一年ステージの警備依頼をされたからだ。嵐の従者でもある彼女の為に近くで彼の活躍を見れるようにと雄英高校が配慮したものだった。

そして、嵐の活躍に表情を綻ばせている巴に一人の男が声をかける。

 

「む、貴様か。久しいな」

 

巴にとっては聞き慣れた低い声音に彼女は振り向く。その先にいたのは予想通りの人物だった。

 

「エンデヴァーさん。お久しぶりですね」

 

いたのは、全身に炎を纏っているのではないかと思わせるようなコスチュームを纏った大柄な男。目元や髭も燃えており、見るもののほとんどが威圧感に驚くだろう。だが、巴はすでに既知の間柄である為、特に変わった様子もなく()()()の名を呼んだ。

この男は『フレイムヒーロー・エンデヴァー』。

オールマイトに次ぐNo.2ヒーローである。

 

「巴……いや、今の姿では『インフェルノ』と呼んだほうがいいか?」

「どちらでも構いませんよ?」

「なら、インフェルノと呼ばせてもらおうか」

「ええ」

 

エンデヴァーは巴の隣に立つと、スタジアム中央の生徒達を見ながら尋ねる。

 

「お前がそれを着ているということは、ヒーロー活動を再開するということか?あるいは、事務所を持つのか?」

「いえ、そういうわけではありませんよ」

「む、そうなのか?お前が復帰するのなら、俺は大歓迎なのだがな……」

 

エンデヴァーは巴の返答に残念そうにする。

彼の言う通り、巴はヒーロー活動を休止している。休止する以前に所属していた事務所は、このエンデヴァーの事務所だ。

 

旭巴。彼女のプロヒーローの名は、『鬼火ヒーロー・インフェルノ』。元エンデヴァー事務所所属の()()()()()()()()と言う経歴を持つ優秀なヒーローだったのだ。

 

そして、数年前とある事情によって巴はエンデヴァーのサイドキックを辞め、現在までヒーロー活動を休止しているのだ。

 

エンデヴァーはコスチュームを着ていると言うことは巴が復帰するのではないのかと思い、また自身の右腕としてその力を振るって欲しかったのだが、彼女に否定され本当に残念そうだった。

また、彼女自身の実力は非常に高く、トップ10にも並ぶのではないかと思えるほどであった為、ついに個人事務所を持つのかと思ったのだが、それもどうやら違うらしい。

しかし、気落ちするのは一瞬、エンデヴァーはすぐに次の疑問を投げかける。

 

「なら、どうして貴様はコスチュームを着てここにいる?」

「雄英に警備を依頼されたからですよ。あとは、雄英が気を利かせてくれたんです。間近であの子の活躍を見れるようにと」

 

巴の言葉に、エンデヴァーは眉を顰める。

 

「あの子?生徒の中に知り合いでもいるのか?」

「ええ」

「それは誰なんだ?」

 

当然の問いかけに、巴は視線を嵐へと向けてくすりと微笑みながら答える。

 

「今、怒涛の活躍を見せている八雲嵐さん。彼がそうなんです」

「彼か。確かに一年生とは思えんほどの素晴らしい強さだ。既にそこらのプロを凌駕している実力者だな。しかし、彼とはどう言う関係だ?」

「彼とは、師弟であり、家族であり、主従の間柄の方です。私は彼にお仕えしているんです」

「なに?」

 

エンデヴァーは巴の発言に反応すると、怪訝な表情を浮かべた。

 

「主従だと?貴様は確か、出雲の従者だったはずだ。なのに、なぜ出雲の姓ではない子供に仕えているんだ?」

 

それは巴や、出雲家の事を少しでも知っていれば出てくる当然の疑問だ。

巴はサイドキックを辞める際に『仕えている主を支える為』と言うことを伝えていた。そして、巴が出雲家の従者でもあることを知っていたエンデヴァーは巴が仕えると言う人間は、出雲家の人間であることを分かっている。故に、出雲の姓を持たない嵐に仕えていることがわからなかったのだ。そんな彼の疑問に、巴は表情に少しだけ影を落としながら答える。

 

「………いいえ、彼は出雲家の子ですよ。ですが、少々複雑な事情がありまして、今は八雲の姓を名乗っているんです」

「……そうか。深くは聞かん」

「……ありがとうございます」

 

巴の表情にエンデヴァーはこれ以上は聞いてはいけないと察してそう言う。そんな彼なりの気遣いに巴は一言礼を言う。

 

「しかし、成程貴様が鍛えたのか。道理で強い訳だな」

「ありがとうございます。ですが、あれほど強くなられたのは彼自身の努力の賜物です。私はほんの少し背中を押しただけにすぎませんよ」

「ふっ、相変わらずだな」

 

昔と変わらず傲慢にならない彼女の謙虚な態度にエンデヴァーは口の端を吊り上げて笑った。そして、今度は巴が彼に問うた。

 

「そういうエンデヴァーさんは、やはり息子さんを観にですか?」

「ああそうだ。焦凍なら問題なく障害物競走だけでなくこれからの競技も圧倒できると思ったのだがな……どうやら、そう上手くはいかんらしいな」

「ふふ、当然です。嵐さんがいるんですから。優勝するのは彼ですよ」

 

巴はふふんと得意げに言う。エンデヴァーの言わんとしてることは容易にわかる。

確かに轟焦凍も十分に才能はあるだろう。エンデヴァーの息子であることからも戦闘技能は叩き込まれているのは明白。だが、それでも嵐の方が上だ。嵐が体育祭で優勝すると巴は疑わなかった。

そんな彼女の得意げな様子にエンデヴァーもまた不敵に笑いながら言い返した。

 

「いや、それならばウチの焦凍も負けんぞ。右だけでなく左の力も使えば、八雲嵐とも渡り合えることができる。もっとも、子供じみた反抗のせいで今の結果に甘んじているがな」

「反抗?反抗期なのですか?」

「そんなところだ。奴にはオールマイトを超える義務があるというのに全く。情けない姿は見せないでほしいのだがな……」

 

呆れたような、困ったような、反抗的な息子に手を焼くような様子でそう呟くエンデヴァーに、張り合っていた巴は少し表情を険しいものに変えながら尋ねる。

 

「オールマイトを超える、ですか?」

「そうだ。奴は炎と氷の二つを万全に扱える。兄らとは違う最高傑作だ。俺の上位互換となり、俺が果たせなかった野望を果たす。そうすべく作った仔だ」

「…………」

 

先ほどとは変わり明らかな狂気が宿る彼の危険な表情に巴は横目で見上げながら表情をより険しいものへと変える。

以前から時折見せていた執着や執念とも取れる狂気が、以前よりも増していると感じたのだ彼を危ういと危惧した。

だが、それを巴は指摘せずに静観する。

彼もいい歳をした大人だ。自分が正さずともいつか気づくだろうと。そして、巴がそんな事を考えているとは知るはずもなくエンデヴァーは何かを思い出したのか、狂気を一変させて落ち着いた表情へと変えた。

 

「…ああそういえば、さっき、ヤツを見かけたぞ」

「ヤツ?」

「“ヤシャガラス”のことだ。廊下を歩いていたのを見た」

「ッッ‼︎」

 

エンデヴァーより聞かされたとあるヒーローの名に巴は僅かに目を丸くすると、表情を悲痛なものへと変えて俯き呟く。

 

「……()()()が来ているのですか」

「ああ、こういう場にはサイドキックに任せて、あまり出てはこない奴が、今年はどうやら直接見に来たようだ。やはり、襲撃事件を耐え抜いた一年生が気になるのだろうな。いや、八雲嵐の事が気になったのか。親族なのだろう?」

「…………ええ、まぁ、そんなところですね」

「?」

 

エンデヴァーはそう推測するも、巴は曖昧な返答しか返さない。それにエンデヴァーが首を傾げる中、巴はとある可能性を考慮する。

 

 

(旦那様が来てるということはもしかしたら………はぁ、何もなければいいのですが)

 

 

巴は、この体育祭で密かに一悶着が起きそうだと嫌な予感にため息をついた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

『ようやく終了ね。それじゃあ結果をご覧なさい!』

 

そうしてモニターに43名の名前が順位と共に公開されていく。その中の1番上には1の数字と共に嵐の名前があった。

そして、その一覧を見てみればA組B組は全員名前が書かれており、途中には普通科の生徒とサポート科の生徒が一人ずつリストインしていたのだ。普通科の生徒はあの宣戦布告した少年である。

 

(……名前は、心操人使。やっぱ突破したか)

 

あの普通科の生徒が突破したことに予想通りだと思いつつ、とんだ伏兵になる可能性があると警戒する。そんな中、ミッドナイトが口を開く。

 

『予選通過は上位43名‼︎‼︎残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい‼︎まだ見せ場は用意されてるわ‼︎』

 

予選で落ちてしまった人は、残念ながらこの後の競技に参加することはできない。だが、昼休み後に設けるレクリエーションで見せ場があるそうだ。

そしていよいよ、第二種目ー本選の発表が始まる。

 

『そして次からいよいよ本選よ‼︎ここからは取材陣も白熱してくるよ‼︎気張りなさい‼︎』

 

大層ない言い回しを言った直後、モニターではルーレットのような映像に切り替わる。

 

『さーて第二種目よ‼︎私はもう知ってるけど〜〜〜〜〜………何かしら⁉︎言ってるそばから、コレよ‼︎‼︎』

 

そうしてモニターに映し出された競技名の名は———『騎馬戦』だった。

それを見て生徒達が思い思いの反応を見せる中、嵐は納得する。

 

(……なるほどな。個人戦の次は、団体戦。つまりは、将来へのシミュレーションも兼ねてるわけか)

 

この体育祭はつまるところ、ヒーロー社会に出てからの生存競争をシミュレーションしてるとも言える。ヒーロー事務所が多くひしめく中で、生計を立てていくために時には他を蹴落としてでも活躍を見せなくてはいけないが、その一方で商売敵といえど協力して事件に対応しなくてはいけないこともある。

障害物競走(個人戦)騎馬戦(団体戦)。二つの形態を経験させることで、プロになってからの生きる術を教えているというわけなのだ。

 

『参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ‼︎基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが、先ほどの結果に従い各自にポイントが振り当てられること‼︎」

「入試みてぇなポイント稼ぎ方式か。わかりやすいぜ」

「つまり組み合わせによって騎馬のポイントが違ってくると!」

「あー!なるほどね」

『あんたら私が喋ってんのにすぐいうね‼︎‼︎』

 

ミッドナイトが生徒達に自分のセリフを奪われたことにキレて鞭を打ち鳴らすもすぐに説明に戻る。

 

『ええそうよ‼︎そして与えられるポイントは下から五つずつ‼︎43が5ポイント、42位が10ポイント……と言った具合よ。そして……一位に与えられるポイントは、1000万‼︎‼︎‼︎‼︎』

「……んん?」

 

嵐はあり得ないはずのポイント数に思わず首を傾げる。そして、1000万と聞いた瞬間、予選を通過した全ての生徒が一斉に嵐に顔を向けたのだ。

聞き間違いでなければミッドナイトは、215ではなく、1000万と確かに言った。だから、一度聞いてみようとするも、すぐさまミッドナイトが反論を許さないかのように続けた。

 

『上を行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上何度でも聞かされるよ。これぞ、Plus(更に) Ultra(向こうへ)‼︎』

 

ミッドナイトが笑みを浮かべ、嵐を見ながらそう言う。

 

『予選通過一位の八雲嵐くん‼︎持ちポイント1000万‼︎‼︎』

「………………おいおい、はっちゃけすぎだろぉ。この学校」

 

最後に嵐の持ちポイントをミッドナイトがはっきりと告げると、生徒達が纏う空気が一気に重くなり、嵐に向ける視線に闘志と殺気が宿ったのを確かに感じとった。

嵐は思わず苦笑するしかなかった。

 

『制限時間は15分。振り当てられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイント数が表示された“ハチマキ”を装着!終了までにハチマキを奪い合い保持ポイントを競うのよ。

取ったハチマキは首から上に巻くこと。とりまくればとりまくる程管理が大変になるわよ‼︎そして重要なのは、ハチマキを取られても、また騎馬が崩れても、アウトにはならないってところ‼︎』

 

つまりは、43名からなる十数組の騎馬がずっとフィールドにあると言うことであり、ポイントの分かれ方次第では、一旦身軽になるのもアリなど様々な作戦が浮かんでくる。

 

『“個性”発動アリの残虐ファイト‼︎でも…あくまで騎馬戦‼︎悪質な崩し目的での攻撃などはレッドカード‼︎一発退場とします‼︎』

「チッ」

 

誰かが舌打ちした。爆豪である。やはりというか潰す気満々だったらしい。

そしてルール説明を終えたミッドナイトは、最後に再び嵐に視線を向けながら告げた。

 

『さぁ、この受難を見事乗り越えてみなさい‼︎Plus Ultraよ、八雲嵐君‼︎』

「クハハッ、上等っ‼︎やってやらぁ‼︎」

 

ミッドナイトの挑戦的な言葉に、嵐は口の端を吊り上げて獰猛な笑みを浮かべた。

 

確かにこの場にいる全員が1000万を取りに襲いかかってくるだろう。周囲から向けられる視線からもそれは確かに窺えた。

だが、それら全てを受けながらも嵐は全く動じないどころか、むしろ迎え撃つと言わんばかりの獰猛な笑みを浮かべたのだ。

 

そう、数十名から狙われるなんて嵐にとっては日常茶飯事のことだった。

中学での不良との喧嘩では、それ以上の数を相手にしていたこともあったのだから。

 

 

この程度は、嵐にとっては受難とは言い難いものだった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「さ〜て、どうしたもんかぁ」

 

 

チーム決めの交渉タイムに15分の時間を設けられた生徒達は、さっそく交渉タイムに移り各々組むメンバーを決めつつある中、嵐はポツンと一人で佇んでおり割とマジで困った様子で頭を悩ませていた。

というのも、交渉が始まった瞬間、嵐は障子と耳郎の二人に声をかけたのだ。障子の複製腕と耳郎のプラグによる手札の多さに加え嵐の拘束移動の強さを活かした高速騎馬ができると踏んで。

しかし、声をかけた二人は揃って嵐の提案を断った。

 

『ごめん。アンタがウチを選んでくれたのは嬉しいけど、ウチはアンタに挑戦したいんだ』

『俺もだ。確かにお前と組めば勝てる見込みは大いにあるのは理解している。だが、俺も耳郎と同じようにお前に挑みたい』

 

二人とも、嵐の友人だからこそ頼るのではなく対等にありたいということで嵐に挑むことを既に決めていたのだ。

それほどの決意に、さすがの嵐も文句は言えず、結局未だ騎馬のメンバーを一人も決めれていなかったのだ。その後も、クラスメイト達に声をかけていくも全員に断られ、お手上げの状態だった。

 

「………マジで一人ぐらいは組んでくれる奴決めねぇとヤベェぞ」

 

いよいよ焦ってきた嵐がどうしようかと頭を抱えつつあった時だ。

 

「八雲〜〜‼︎」

 

嵐を呼ぶ拳藤の声が聞こえてきた。

自分を呼ぶと言うことはつまり、騎馬になってくれると言うことだ。頭の中でその式を瞬時に構築した嵐は勢いよく振り向く。

そこにいたのは、拳藤と取陰だった。

 

「よ、ぼっち君。なんかお困りか?」

「誰がぼっちだ…って言いてぇけど、今の状況的にはそうだからなぁ。一応、理由聞いていいか?」

「騎馬戦、私らと組もうよ。八雲」

「……おぉ…」

 

拳藤の待ち望んだ言葉に嵐はじーんと感動してしまう。それほどまでに嵐は実は追い込まれていたのである。なにせ、クラスメイトの殆どから拒否られたのだから。

 

「アハハ、何感動してんのさ。そんなに嬉しかった?」

「あぁ、捨てる神あれば拾う神ありって言葉を噛み締めてるところだ」

「それは大げさでしょ!」

 

嵐のガチめな感動に取陰がカラカラと笑いながら、背中をバシバシと叩く。

拳藤はその様子に嘆息しながら、曖昧な笑みを浮かべ頬をかきながら言った。

 

「仲良いのもあるけど正直なところお前と組むのが1番勝率が高いと思うんだ。だから、勝馬に乗らせてもらおうってわけ」

「……まぁ、勝つ気ではいるが」

「ともかく、入試でのお前の戦いぶりを見てたからな。お前が強いのは分かってる。それに、お前なら私らの個性もうまいこと活かしてくれるだろ?」

「拳藤……」

 

嵐は拳藤がここまで信頼してくれていることに更に感動する。心なしか涙腺が緩み始めてきた。嬉しくて涙が出てしまいそうだ。

そして、拳藤は腰に手を当てて快活に笑うと嵐に返答を求める。

 

「で?八雲、返事は?」

「そりゃ当然。是非頼む」

「交渉成立だな」

 

断る理由などない。それに気心の知れた彼女達ならば連携も支障が出ることは少ないだろう。嵐は快く二人の参入を受け入れた。

こうして嵐は、拳藤と取陰を騎馬戦メンバーに加えることができた。

 

「マジで助かったぜ。救いの女神二人の加護だ。トップで勝ち抜くぞ」

「女神って大げさだよ。ま、勝ちに行くのは同意だな。頼むよ、リーダー」

「おうよ」

「私ら2人分の加護。高くつくよ?ちゃんと活かしなよ?」

「ハッ、任せとけ」

 

嵐と拳藤が仲良さげに拳をコツンと合わせ、取陰が顔を下から覗き込みながら特徴的なギザ歯を見せて笑って、嵐もそれに答えて鼻で笑う。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

そんな時、彼らに声をかける者が現れる。

四人目の参入希望者かと全員が振り向けば、そこにいたのは唯一普通科で予選を突破した少年がいた。彼は真剣な眼差しで嵐達をみている。

 

「お前は普通科の心操人使か。……何の用だ?」

「俺をアンタ達のチームに入れてくれ。まだ1人は入れるんだろ?」

「……八雲どうすんの?」

「…………」

 

普通科の少年ー心操の言葉に、拳藤がリーダーである嵐にどうするかを尋ねるが、嵐はしばし無言になり彼をじっと見据える。

やがて十数秒ほど観察するように見ていたが、彼はついに口を開いて彼に問うた。

 

「……まず、お前の個性を教えてくれ」

「……分かった。じゃあ、実演するのでもいいか?」

「ああ、いい………んぁ?なんだ今のは?意識が一瞬フワッとしたな……」

「はっ?」

 

実演することを許可した嵐が突如感じた一瞬の意識の混濁に戸惑いを見せる。心操はその様子に心底驚愕し目を見開いた。そして、嵐の発言に拳藤達が慌てて詰め寄る。

 

「ちょっ、八雲何かされたの⁉︎」

「アンタっ何やって…」

「待て待て、今の所俺に異常はねぇから落ち着け」

 

慌てる2人に今は何の異常もなくなった嵐は落ち着かせながら、心操へと視線を向ける。彼も彼で今のは予想外だったのか、大きく目を見開いて嵐を凝視していた。そんな彼に、嵐は彼の個性について気づいたことを話した。

 

「なぁ心操、お前の個性だが……精神に干渉するタイプのものだな。発動条件は、恐らくは返事をすることってところか?」

「ッッ、今の一瞬でそこまで分かったのかよ。ああ、その通りだ。俺の個性は『洗脳』。返事をした相手を操ることができる個性だ。ただし、衝撃を受ければ洗脳は解かれる」

「「なっ」」

 

拳藤達が心操の個性の凶悪さに驚く中、実際に体感した嵐は顎に手を当てて思考する。

 

(確かにこの個性じゃ雄英のあの入試は突破できないな。あくまで対人特化の個性だ。他の学校ならばヒーロー科に入ることもできただろう。こいつもそれは理解してるはずだ。だが、それでも雄英を選んだ)

 

それはつまり、彼は何が何でも雄英のヒーロー科に行きたかったのだろう。自分の個性が雄英の入試形式に沿わないものだったとしても、普通科に編入しこの体育祭で己の可能性を示して、ヒーロー科への編入を果たしてヒーローになろうとしているのだ。

 

(………お前は、本当にヒーローになりてぇんだな)

 

その夢を諦めない想いの強さに一瞬だけ僅かに口の端を吊り上げると彼に更に尋ねた。

 

「個性の件は分かった。どうしてそれを出合い頭に使わなかった?そうすれば、俺らのことを全員操れたかも知れないだろ?」

「確かに、アンタの言う通り最初から操ればいい。とはいえ、今こうしてアンタには俺の洗脳が効かないと分かった以上、どのみち無駄だったけどな」

「なるほどな。なら最後にひとつ。何故俺らのチームに声をかけた?1000万がある以上全員から狙われるぞ?」

 

嵐は普通科であり接点がほぼゼロである為にあえて尋ねる。1000万を持っている以上、全員から狙われて、かなり厳しい苦戦を強いられることになるかも知れない。それでもいいのかと。

そんな彼の覚悟を問う質問に心操は真剣な眼差しのままはっきりと答えた。

 

「だとしても、アンタのチームに加わるのが1番勝率が高いだろ。それにアンタは前に俺に言っただろ?『自分の価値を諦めずに本気で夢を追いかけたいのなら死ぬ気で這い上がってこい』って」

 

2週間前に嵐が心操に言った言葉を一言一句違わずに言われ、嵐は覚えていたことに笑みを浮かべる。

 

「へぇ、覚えてたか」

「当然だ。あんなことを言われたのは初めてだからな。俺は、ヒーローになる為にこの体育祭で自分の強さを示さなくちゃいけない。だから、()()()()()()()()。使えるものは何でも使う気で行かないとアンタらがいるステージには辿り着けない。だから、最強のアンタを利用して、この騎馬戦を勝ち抜いて俺の価値を示す」

「「……っっ」」 

「……く、ククッ」

 

断固たる決意を宿した心操の決然とした言葉に、拳藤と取陰が思わず瞠目する中、嵐は堪えきれないかのように笑い始めると、やがて口を開けて大声で笑い始める。

 

「ククッ、ハッハハハハ‼︎ハハハハハハハハハハハハッッ‼︎‼︎」

 

交渉する生徒達の中でその声はよく響き、多くの生徒達が何事かと振り向く。拳藤や取陰、心操までも何事かと驚いている。

嵐は、しばらく笑い続けると少しずつ声のトーンを落としていき、やがて笑みを浮かべて心操の肩を叩いた。

 

「いいなその根性‼︎気に入った‼︎‼︎よし、俺のチームに入れ!!」

「あ、ああ」

 

楽しそうに笑いながら心操の加入を許可した嵐に心操は思わず戸惑ってしまう。笑い続ける嵐に拳藤達は顔を合わせると毒気が抜かれたかのように肩をすくめる。

 

「全く、まぁお前がいいなら私らは何も言わないよ。よろしくな、心操」

「ま、個性は使いようだもんね。よろしく、心操」

「あ、ああ、よろしく」

 

2人も嵐がいいならいいかと言うことで心操の参入を歓迎して軽く握手を交わした。それを笑いながら見ていた嵐は、穏やかな表情を浮かべながら言った。

 

「なぁ心操、お前の個性は敵向きだとか、悪いことし放題とか心にもないことをこれまでに沢山言われたんじゃないか?」

「ッッ……ああ、よく言われるよ。けど、それが何だ?」

「いや、周りの奴は見る目がねぇなと思ってな」

「は?」

 

突然の言葉に心操は間抜けな声をあげてぽかんとしてしまう。そんな彼に、嵐はビシッと指を差しながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「お前の個性はヒーローに向いてる。『洗脳』、いい個性だ。パニックの時の避難誘導ではその個性で全員を安全に誘導できるし、敵を洗脳すれば怪我人ゼロでの捕縛もできる。

そして、何よりお前がその個性でヒーローになって人救けをしたいと思ってる。それだけで十分にヒーローの素質はあると思うぞ」 

「………っ」

 

嵐の言葉に心操は息を呑んだ。

『お前もヒーローになれる』

それは今まで自分が一度も言われたことがなかった、1番言って欲しかった言葉だった。

 

個性『洗脳』。

 

返事をしただけで操れると言うその個性は、これまであった人たちの多くから、『敵向きだね』とか『悪用し放題』などと否定的な言葉を向けられてきた。心操個人が悪人でなくても、そんな個性を持っているが故に、周りからは距離を取られたりすることもあった。

 

(初めてだ。俺の個性が他人から認められたのは)

 

だが、こいつは、嵐だけは自身の洗脳の力を受けながらそれでもいい個性だと、ヒーローに向いている個性だと言ってくれた。それはとても嬉しかった。

 

「〜〜〜っ、あぁ、ありがとう」

 

心操は、初めて自分の存在を認めてくれた事に思わず心が歓喜に打ち震えたのを感じた。

だからこそ、その感謝は自然と口に出ていた。

 

「おう」

 

そんな感謝に嵐はニカッと笑うと、遂に揃ったメンバーを見回しながら作戦会議を始める。

 

「よし、とにかく時間も少ねぇから作戦会議だ。全員できることをまとめていくぞ。まず、俺の個性だが、風を操れるのと口からは水を吐くことができる。後は、変身系もあって障害物競走でも見せた通り全身を変化することができる。膂力、強度、共に並外れていて並大抵の攻撃じゃ俺は揺るがない。次、拳藤」

 

実際に自身の右腕を変化させて風を纏わせながら個性の説明をすると次に拳藤に視線を向ける。

 

「私の個性は【大拳】。見ての通り手を巨大化することができるシンプルなものだよ。大きくなった分だけ重量もあるから打撃は得意」

「私の個性は【トカゲのしっぽ切り】。全身を細かく分割して操作することができるよ。宙に浮くことも可能だよ。だから、遠くにいる騎馬のハチマキも取ろうと思えば取れる」

「なるほどな。切り離した部位はどうなる?」

「元に戻すことも可能だし、一定時間経つと動かなくなる。動かなくなった部位は本体の方で再生されるから問題はないよ」

「OK、大体分かった。だとすると、騎手が拳藤で、前騎馬が俺。左右を取陰と心操で行こう」

 

嵐は全員の個性の詳細を聞き、いくつかの作戦を組み立てたのちに、最適なものを選択して提案した。その作戦に拳藤が異論を挟む。

 

「八雲は騎手やらなくていいのか?」

 

作戦的に拳藤が騎手をやるのが理に適っているが、嵐とて騎手をやりたいのではないかと思って尋ねたのだが、嵐はそれに対して悔しそうにすることもなく平然と答える。

 

「確かに騎手になってもいけるが、俺の個性的に騎馬で動き回った方がいい。機動力なら俺が1番あるからな。それに、心操と取陰を尻尾で運べば実質俺自身の速度で動き回れる」

「……あぁ、確かにお前の強みを活かすなら騎馬の方がいいか。でも、私を背負って更に2人も運べるのか?」

「そこは問題ない。この前4人ぐらい運んで移動したことあるから検証済みだ」

 

並はずれた膂力を秘めるのは尻尾も同様である為、数百キロの塊をも尻尾で運ぶことができる。だからこそ、三人分合わせて百キロ後半ぐらいの重量ならば速度を維持したまま運べる。

 

「頼もしいな。じゃあ、その作戦で行こう」

「うん、私も問題ないよ」

「俺もだ」

 

嵐が決めた作戦を承諾した三人に、嵐は一つ頷くとまだ時間は残っており話す時間があると判断して心操に話しかける。

 

「心操。お前は俺と似ている」

「は?俺が、お前と?」

「そうだ」

 

突然の発言に心操は意味がわからないと戸惑う。

片やヒーロー科を主席で合格しこの体育祭でも圧倒的な成績を見せ、片や個性が敵向きだと言われヒーロー科の入試に落ちて普通科にいるのに、どうして自分と嵐が似ていると言うのだろうか?

拳藤や取陰もどう言うことだと首を傾げている。彼らの反応を見た嵐は小さく笑いながら話を続けた。

 

「自分の個性が危険な可能性を秘めてることを理解しながら、それでも誰かを助けたい、救いたいと思いヒーローを目指している。その在り方は俺とよく似てると思うんだよ」

「………お前の個性も、そうなのか?」

 

恐る恐ると問いかける心操に嵐は憂いを帯びた表情を浮かべると、心操から目を逸らしながら答えた。

 

「………ああ、詳しくは話せないがな。俺の個性も方向性は違えど、危険で凶悪なものだ。一歩間違えれば、それこそ取り返しのつかない事になるほどのな……」

「………」

「……八雲」

 

嵐の言葉に心操は思わず驚き、拳藤も心配そうな表情を浮かべ、彼の名を呼ぶ。目を逸らした嵐は、心操に視線を戻すと静かな口調のまま続ける。

 

「……だが、俺もお前もヒーローになって誰かを救えるように、その危険な力を使いこなそうと努力している。そういうところが似てると思った」

「………」

 

嵐は心操にシンパシーを感じていたのだ。

心操の個性【洗脳】は人を操ることができ、人を操ることで自分の手を使わずに容易く犯罪を起こすことができる。やろうと思えば心操は自分の足がつくことなく、何度でも犯罪を引き起こせることができる。

嵐の個性【嵐龍】は厄災である嵐を操る力。使い方を誤れば人1人殺すどころか、町をも容易く破壊できてしまう。敵向きだとか、悪いことし放題というわけではないが、無制限無加減で振るえば簡単に大量虐殺が可能になる危険極まりない個性である。

 

どちらもベクトルは違えど、凶悪な個性であるという点では変わりなかった。

 

嵐は実際にこの個性で多くの人を傷つけて殺した。その結果、家族からは迫害され苗字を奪われ実家を追放された。

 

『姉殺しの怪物』

『厄災の子』

『忌まわしき化け物』

 

そんなことを言われ、自分の存在を否定され拒絶された。だけど、それでも嵐は自分が紅葉を殺してしまったからこそ、彼女の想いの火を消させない為に、その火を受け継ぎヒーローになることを諦めずにここまでもがき続けて今まで来た。

だからだろう。

個性のせいで周りから悪く言われ続けた彼の夢を、嵐は応援したくなったのだ。

 

「心操、お前にとって今回の体育祭は俺達以上に重要なものだ。ヒーロー科に編入を検討させてもらえるような成績を残す必要がある。

だから、遠慮なく俺達を利用して強さを示せ。俺達もより多くのプロの目に見てもらえるように、お前を利用して上に行く。お互いギブアンドテイクで行こうぜ」

「八雲……」

 

そして、嵐は拳を心操の胸に突き出してトンと拳をぶつけ、不敵に笑うと更に言う。

 

「『Plus Ultra(更に向こうへ)』だ。こっからは気張ってけよ。俺は、お前がヒーロー科に上がってくることを期待してるからな」

「ッッ」

 

真正面からそう言われたことに心操が心の底から込み上げてきた喜びに打ち震えた。そして、何かを言おうとした時、ミッドナイトの声が響く。

 

『そろそろ15分たったわね。それじゃあ、交渉タイムは終了‼︎早速騎馬を組み始めなさい‼︎‼︎』

 

15分の交渉タイムが終了した知らせだ。

嵐は心操から視線を外すと、拳藤や取陰に視線を向ける。

 

「じゃあ、早速騎馬を組もうか」

「りょーかい」

「ああ」

 

嵐の言葉に取陰や心操はすぐに応じるも、拳藤は暗い表情を浮かべて俯いていた。

 

「拳藤?」

「一佳?どしたん?」

「あ、う、ううん何でもないよ!」

「……?まぁいいか。なら、早く俺に乗って角を掴め。早く組まないとミッドナイト先生にどやされちまう」

「う、うん!」

 

慌てて取り繕った拳藤は急いで変身した嵐の背中に乗っかる。そして、拳藤を嵐が背負って他の2人を尻尾で持ち上げようと準備を始めていた時、拳藤はふと考える。

 

(………八雲はきっと個性を全て出し切ってない。いや、多分()()()()()()()()()()()()()

 

拳藤は一つの考えに思い当たる。

嵐の個性ーその全容はわからないが、きっと先ほど心操に向けて言った通り、危険な個性であることには間違いないのだろう。

何より、入試の時に見たあの特大竜巻。あれでも全力ではないのだとしたら、嵐の個性は相当に強力なものだ。いや、強力すぎる。そして、あれほどの力ならば人を殺そうと思えばいくらでも殺すことができるだろう。

だが、嵐はそんな個性を使いこなし、誰かを傷つけるのではなく救けるヒーローになろうと努力しているのだ。

 

(………本当に凄いよ。お前は)

 

その姿勢に、その在り方に拳藤は尊敬の念を抱いた。彼が抱いていた気持ちを推しはかることは彼のことを浅くしか知らない自分にはできない。だから、知らないのなら、せめて、

 

(……なら、私はそんなお前の友達として誇れるようにいないといけないよな)

 

胸を張って彼の友人だと誇れるように強くなるしかない。

 

「ふぅー」

 

そう覚悟を密かに決めて、拳藤は騎手用に渡された自分達の点数を合計した1000万190のポイント数が書かれたハチマキをしっかりと結び、気を引き締めるために息を深く吐いた。

他にも騎馬が着々と出来上がり、プレゼントマイクが実況を再開した。

 

『さぁ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立ったぞ‼︎‼︎』

『……ほぉ、中々、面白ぇ組が揃ったな。特に八雲と緑谷の組が異色だな』

『だなぁ‼︎緑谷はサポート科を加えて、八雲はA組B組に普通科の生徒も加わった混合チームだ‼︎コイツァどうなるか楽しみだぜぇ‼︎』

 

嵐が異色な騎馬を結成したことに周囲は騒然とする。

 

「うっわぁ、八雲が騎馬かよ。あそこ機動力ダンチだぞ……!」

「他の人達の個性を知らないから、1番何してくるかわからないチームだな」

「……油断できませんわね」

 

轟が騎手の上鳴、飯田、八百万の三人の騎馬が緊張を滲ませる。特に、上鳴、八百万はUSJで彼の戦いを全て見ているが故に警戒心を顕にする。

 

「‥‥上等だ」

「ぶっ潰してやラァ‼︎」

「………僕も、覚悟を決めないと」

 

3組の騎馬の騎手を務める、轟、爆豪、緑谷もそれぞれの反応を見せながら、戦意全開で構える。

 

「……めちゃやばそう。でも、戦り甲斐があるよ」

「……俄然やる気がみなぎってくるというものだ」

 

耳郎や障子も各々のチームで闘志を宿し気力十分と言った具合だ。拳藤と取陰が嵐チームに入ったことで、他のB組メンバー達も異色の組み合わせに驚く。

 

「………おいおい、確か八雲ってA組の委員長だったよな?やべぇぞ、ABのクラス委員長同士が手を組みやがった」

「それだけじゃねぇ。推薦組の取陰も加わってるから、マジで1番ヤベェ騎馬だぞ」

「ふぅん、拳藤も取陰もどうしてA組なんかの味方をするんだろうね?まぁいいか、2人には悪いけど調子づいた彼らには知らしめてあげないとね」

 

純粋に驚くもの、警戒するもの、そして不安な策を企てるもの、各々がそれぞれの想いを抱き1000万を有する嵐チームに視線を向ける。

その時、プレゼントマイクの声が大きく響いた。

 

『さぁ上げてけ鬨の声‼︎血で血を争う雄英の合戦が今‼︎‼︎狼煙を上げる‼︎‼︎』

 

いよいよ戦いの火蓋が切って落とされようという時、嵐は静かな声で自身のチームメイトの三人に声をかける。

 

「全員、腹は括ったな?」

 

前騎馬——A組ヒーロー科・八雲嵐。

 

「勿論」

 

騎手——B組ヒーロー科・拳藤一佳。

 

「トーゼンっしょ」

 

右翼——B組ヒーロー科・取陰切奈。

 

「お前の期待に応えてやるよ」

 

左翼——C組普通科・心操人使。

 

各々のやる気に満ちた気合十分な返答に、嵐は口の端を吊り上げて獰猛に笑うと、自身も闘志に満ちた声で三人に嵐は告げる。

 

「よし、勝つぞ‼︎お前ら‼︎‼︎」

「ああ‼︎」

「うん‼︎」

「おう‼︎」

 

雄英体育祭第二種目・騎馬戦。改め、1000万防衛戦がいよいよ始まる。

 

 

 





巴のヒーローコスチュームは霊基再臨三段階目。最終再臨の姿です。
武器系は刀や薙刀、弓をサポートアイテムとして持っています。
そして、彼女は元々エンデヴァー事務所に所属していたサイドキックで、エンデヴァーに次ぐ実力者です。嵐を支える為にヒーロー業を休止し、今は従者一本で活動しています。

途中出てきた、翼のお方。……どうやら、嵐を恨んでいるようですが、その正体は………⁉︎

心操と嵐ですが個性の性質的に似通った部分があると思うんです。洗脳も嵐龍も悪用しようと思えばいくらでも悪用できますし、洗脳で人を操って犯罪を起こさせたり、大嵐で街を破壊したり、力の方向性や規模は違いますけどどちらも悪用した方が活かせると言う意味では嵐と心操は似ており、己の個性に向き合おうとしている心操に嵐はシンパシーや仲間意識のようなものを抱いたと言うわけです。

ちなみに、嵐のイメージCVは小野大輔さん、諏訪部順一さん、細谷佳正さんの三人が、候補に上がってるんですが皆さんは誰がいいと思います?
諏訪部さんと細谷さんは既にいるんですけど、ヒロアカって一人の声優がいくつかのキャラを兼任してることもあるのでそこは気にしないでください。ちょっとアンケートとります。お気軽に選んでください。




嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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