天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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……………モンハンやってた。


ランク100まで後もう少しっ‼︎

怨嗟マガド待ってろぉ‼︎‼︎


7/24追記 諸事情で主人公八雲嵐君の追放前の名前を、出雲嵐だったのを、出雲翠風(みかぜ)に変えます。というのも、追放されて苗字を変えたのなら、名前も変えた方がいいかなとあとあとになって思ったからです。






25話 愚者蹂躙

 

 

 

『さぁさぁ開始5分にしてあちこちで混戦に次ぐ混戦‼︎‼︎各所でハチマキの奪い合いが続く中、やはり1位の八雲チームは狙われまくるが、圧倒的防御力で1000万未だ防衛中だぁぁ‼︎‼︎』

「あの一位のチームが凄いなっ‼︎」

「A組の連中は皆すごいが、彼は別格だ」

「敵と戦っただけでこうも差が出るかねぇ!」

 

個性を使っていることでもはや普通の騎馬戦の体を成していない超常的な攻防がスタジアム各所で行われる中、観客達は繰り広げられる激闘に口々に感心の声を上げた。

 

その中でもとりわけ注目されているのが、やはり嵐のチームだった。

1000万を持っているが故に全ての騎馬から狙われているが、嵐はその高い防御力と機動性を駆使することで攻撃の殆どを凌いでいる。一度危ない場面もあったものの、それは彼自身の機転で見事持ち直している。

既に並のプロを超えている高い実力を有している嵐に、多くの観客達が注目しているのだ。

 

注目されている嵐チームはというと現在、耳郎チームと障子チームの2チームの1対2の攻防を繰り広げていた。

しかし、嵐の圧倒的な防御力の前に彼らの攻撃は何一つ通用せず、耳郎チームは撹乱として利用していた鳥達が『嵐龍』の存在に慄き使役できなくなっており、手札の一つを無効化されていた。

 

そして遂にー

 

「心操。…最初の出番だ。準備はいいな?」

「ああ」

 

心操人使。普通科からの刺客が、嵐達が有するジョーカーが、動こうとしていた。

 

「拳藤、伏せてろ」

「う、うん!」

 

嵐にそう言われ、拳藤は嵐の角を掴むと身を屈めて伏せる。嵐はスッとしなやかな右足を真上へとあげてそこに暴風を集わせ圧縮させる。

白い風が渦巻き出来上がったのは、風の大槌だ。嵐は風槌と化した右脚をそのまま、

 

「《凶槌・風爆衝》」

 

地面へと振り下ろした。

ゴオォォッと唸り声を上げながらソレは地面へと振り下ろされ、直後ドゴォンッと轟音を響かせる。変化はそれだけではない。

 

『は、はぁぁぁぁぁ!?うっそだろオイッ!?八雲の奴、脚の振り下ろしでフィールドを踏み砕きやがったぁぁぁぁ!?』

『風を纏わせて破壊力を上げたか。とはいえ、踏み込みだけでフィールドを砕くとは……あんな芸当オールマイトじゃなきゃ難しいだろうな』

 

プレゼントマイクが驚愕の絶叫をあげて、相澤ですら目を丸くし驚愕を隠せないでいる。

彼らの眼前では嵐の暴風纏う振り下ろしによって、嵐を中心に蜘蛛の巣状のひび割れが発生したのだ。かなり堅固に設計されたはずのコンクリートのフィールドを嵐は風を纏っているとはいえ右脚一本で見事踏み砕いた。

轟音に次ぐ振動によって、嵐を除く全ての騎馬が崩れなかったものの蹌踉めいて動きを強制的に止められる。

 

「よし、行くぞ。心操ミスるなよ?」

「ああ」

 

心操にそう言った嵐は、すかさず動き暴風を纏うと葉隠達へ瞬く間に接近する。

 

「っ、このっ!」

 

嵐の接近に気づいた耳郎が苦し紛れにプラグを伸ばすものの、それは容易く躱されそのまま接近を許してしまい———

 

「………え……?」

 

どういうわけかハチマキは取られなかった。

代わりに、嵐は耳郎達の周りをぐるっと一周した後、すぐに離れて障子チームの方にも向かうと障子達の周りも一周し障子達からも距離を取ったのだ。

不可解な行動に耳郎達が揃って訝しみ警戒する中、嵐は心操に尋ねる。

 

「心操……首尾は?」

「ああ、()()()()()()()()。いつでもいけるぞ」

「それは重畳。なら———仕掛けろ」

「了解。リーダー」

 

 

短く告げられた攻撃開始の合図。それに、心操は決然とした表情を浮かべながら短く答えた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

『心操。洗脳だが、使う時は相手に触れてから使ってくれ』

 

騎馬戦開始直前に作戦会議をしていた嵐はそう心操に提案する。その提案に心操は首を傾げた。

 

『は?なんでだ?どうしてそんな手間をとる必要がある?』

 

洗脳の発動条件は相手に返事をさせればいいだけ。だというのに、なぜわざわざ相手に近づいて触れると言う面倒なワンアクションを挟まなくては行けないのだろうか。そんな疑問に嵐は答える。

 

『お前の個性は初見殺しだ。初見こそ成功するが、二度目からは警戒されるだろう』

『…‥まあ、確かに、それはそうだ』

『だから、競技を跨いでブラフを仕掛ける。この場にいる全員にお前の個性の発動条件を誤認させるんだよ』

『!なるほど、そう言うことか』

 

心操は嵐の言わんとしてることを理解する。

返事をするだけで発動ではなく、触れてから相手に返事をさせると言う二段階の工程を重ねなければ洗脳は発動しない。

嵐は洗脳の発動条件を相手に誤認させることでこの次のトーナメント戦で有利に戦えるように作戦を立案したわけなのだ。

この戦いを勝ち抜くことを前提とし、その先を見据えて作戦を立案した嵐に、心操は舌を巻く思いだった。

 

『こっからは情報戦でもある。使える情報は使うし、騙せるのなら騙す。そんでもってトップで勝ち抜く。それだけの話だ』

 

一歩どころの話じゃない。

十歩。いや、百歩以上嵐は自分の先を走っている。あの入試をくぐり抜け、1ヶ月違う授業を受け、しかもA組に関しては敵とも戦った。それらの経験を全て糧にした彼はこの場にいる誰よりも先を駆け抜けていた。

 

すごいと思った。こんなすごい奴が同い年にいて、こんなすごい奴が自分の個性を認めてくれた。

 

ヒーローになれると言ってくれた。

 

ヒーロー科に上がるのを期待してると言ってくれた。

 

だから、彼の期待に応えたい。

彼の期待に応えて、己の価値をこの体育祭で証明してヒーロー科に行って、そこで彼と、彼らと共に学びたい。

 

初めて、心操人使は誰かの背中を追いかけたいと思えたのだ。

 

 

 

(俺はヒーロー科に行って、絶対にヒーローになってやる)

 

 

 

今日、この戦いは夢を叶える為の第一歩だ。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「了解。リーダー」

 

 

嵐にそう返した心操は早速行動に移す。最初の狙いは、

 

「そこのプラグの人。あんたの耳凄いな」

「……何が狙いなの?」

 

耳郎だ。唐突な褒め言葉に耳郎は眉を顰め警戒しながらそう問い返す。

だが、その時点で手遅れだ。

 

「………!」

 

耳郎は虚な目を浮かべて完全に動きが止まる。

 

「えっ、ちょっ耳郎ちゃん!?どうしたの!?」

「お、おい!?どうした!?」

 

葉隠と砂藤が完全に止まった耳郎に慌てて呼びかけるも耳郎は一切返事をせず、虚ろな目を向けたまま立ち尽くしている。

そこに心操がすかさず命令を下した。

 

「耳のプラグで騎手のハチマキをとってこっちに差し出せ」

「…………」

「耳郎ちゃん!?ストップ!!」

「はぁっ!?どうなってんだっおいっ!!」

「…………っっ⁉︎」

 

耳郎が虚な目のままプラグだけを動かし葉隠の頭からハチマキを取ろうと伸ばす。しかし、それには流石の葉隠も慌てながらそのプラグを避けようと必死に上体を逸らす。砂藤や口田までもが驚愕する中、葉隠達の視界に影がかかり、

 

「貰ったぁ!!」

「あぁっ、取られたぁっ!?」

 

飛翔する嵐におぶられ拳藤が声を上げて葉隠の頭に手を伸ばしてハチマキをぶんどった。ハチマキを取られ慌てる葉隠に、横を通り過ぎた嵐の尻尾に巻かれている心操が一言言い放つ。

 

「ハチマキは貰うよ。おつかれ」

「くっそ………っ!」

 

あからさまな挑発の言葉に葉隠が悔しそうに呻きながら呟く。しかし、それも悪手だ。

心操の言葉に返事をした時点で洗脳は完了した為、葉隠もまたぴたりと動きを止め完全に動かなくなってしまった。

 

「葉隠⁉︎お前までどうしたんだっ⁉︎」

 

耳郎だけでなく葉隠までもが動かなくなってしまったことに砂藤が慌てる中、嵐達は彼らからは完全に視線を外して障子達に振り向く。

障子達は今何が起きたのか訳がわからずに訝しげな視線を向けていた。

 

「………今、何をした?」

「それを俺が話すとでも?」

「………っっ」

「障子ちゃん冷静になって。おそらくは普通科の人の仕業よ」

 

更に警戒を強くする障子に蛙吹が冷静に宥め先程の絡繰を探ろうとする。しかし、嵐達がそんなことを呑気に許すつもりはない。

 

「考える時間を与えるわけがねぇだろ?」

「くっ!」

「くっそぉぉ!やるしかねぇのかよぉ!」

「そうみたいね」

 

暴風を纏って障子達へと肉薄し、拳藤が片手を巨大化させて騎手を覆う複製腕のドームをどかそうとし、取影が体を分裂させて多方向からハチマキを取ろうと襲い掛かる。

障子は体の大きさを生かし、複製腕の皮膜を活用することで騎手の二人を必死に包みながら攻撃を凌ぐ、蛙吹や峰田も攻撃するもどう見ても分が悪い。

そして、完全に嵐の速度が障子達の認識を超えて見失った時、ここでも心操の個性が牙を剥いた。

 

「障子、だっけ。アンタ後ろがガラ空きだな。後ろからだと簡単に取れるぞ?」

「しまっ……っ!」

 

背後から不意打ち気味に聞こえた心操の声に障子は慌てて振り向く。だが、それはフェイクだった。後ろには誰もいない。これは障子の気をひくための発言だ。そしてそれに障子は答えてしまった。つまり、

 

「お、おい障子⁉︎お前までどうしたんだっ⁉︎」

「障子ちゃんっ⁉︎」

 

障子も洗脳にかかったという訳だ。

二人の声も届かず、障子もまた耳郎同様虚な目を浮かべその場に棒立ちとなる。障子達の前に再び姿を現した嵐の尻尾に巻きつかれている心操はすかさず命令を出す。

 

「背中に乗っている二人を拘束しろ」

「ケロォ!?」

「はぁっ⁉︎ちょっ、おいぃ!?」

 

障子は二人を覆い隠していた複製腕を操作してそのまま二人を拘束するように変える。二人をがっちりと拘束したことを確認した嵐は一気に肉薄して、拳藤があっさりと峰田の頭からハチマキを奪った。

 

「心操が触れた時点でチェックメイトだ」

 

ニヤリとしてやったりという笑みを浮かべながら嵐は二人に言い放つと背を向ける。

 

「じゃ、ハチマキは貰っとくね」

「そのまま二人を拘束し続けろ」

 

そしてハチマキを手に持っている拳藤がハチマキを頭に巻きつける中、心操がダメ出しで更に命令を下した。洗脳状態の障子はあっさりと従ってしまい、騎手の二人を拘束し続けている。

 

「もう何が何だかわかんねぇよちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎」

「……ケロォ……悔しいわ」

 

その場からさっさと離脱した嵐達の背中を見ながら峰田が悔しそうに叫び、蛙吹が肩を落とし残念そうに呟く。当然二人の胸中には何もできなかったことへの悔しさが大部分を占めているが、肝心の障子の洗脳が解けるそぶりもない為、何もできない。ゆえに、彼らは耳郎チームと同様ここで終わりとなってしまった。

 

『おぉぉ!ここで八雲チームが2チームからハチマキをあっさりと奪って更にポイント獲得‼︎‼︎まさに破竹の勢いだぜぇ‼︎‼︎』

『今のを含めると4チームからハチマキを奪ったのか。やはりあいつをどうにかしないとこの騎馬戦を制覇することは難しいな』

『やっぱそうだよなぁ‼︎ほんと、どこまでもぶっ飛んでやがるぜ‼︎‼︎もう反則だぞ反則‼︎‼︎』

「ひでぇ言い草だなぁ」

 

プレゼントマイクの褒めてるのか貶してるのか分からない酷い言い草に嵐は走りながら苦笑を浮かべてしまう。それには拳藤達も笑ってしまう。

 

「いやいや、八雲ほどぶっ飛んでる奴はいないでしょ?」

「確かに、アンタ滅茶苦茶だもん。ほんと味方でよかったわー」

「……まぁ、並外れた実力なのは確かだな。プレゼントマイクの言い分もわかる」

「おいおい、俺そんなに滅茶苦茶じゃないだろ?」

「「「それはない」」」

「解せぬ。……ッッ!」

 

チームメイトから共感を一人も得られなかったことに、嵐が不服そうに呟いた直後、嵐は不意にその場を飛び退いた。

飛び退いた直後、嵐が元いた場所には何か小さい鱗のようなものが無数に地面に突き刺さっていた。ソレが飛んできた先を見れば、三人の騎馬にまたがり、嫌な笑みを浮かべながら右腕をこちらに向ける金髪の少年がいた。

 

「………物間。このタイミングできたか」

「物間?あいつがそうか」

 

拳藤の心底面倒臭そうな言葉に嵐も彼こそが拳藤達を悩ませるB組きっての問題児だということを理解する。

それにより、警戒心が一気に上がり身構える嵐に物間はニヒルな笑みを浮かべるとわざとらしく拍手をしながら嵐に声をかける。

 

「いやぁすごいすごい。今の不意打ちを完全に躱すなんて。やっぱり主席のエリートさんはとても優秀だよ。格下の僕とは文字通り格が違う」

「八雲、気をつけて。こいつA組に頭おかしいレベルで対抗心抱いてるから何いってくるかわからないよ。後、アイツは触れたやつの個性をコピーできるから絶対に触れられないようにして」

「なるほど。了解した」

 

同じクラスでありなおかつ日頃から手を焼かされる者として彼の性格は把握しており、嵐と致命的に相性が悪いことを理解している拳藤は警告する。嵐も直感的にこいつは嫌いなタイプだと確信する。

 

「おやおや、酷いじゃないか拳藤。僕は本当のことを言ってるだけだぜ?ソレでなんでそこまで警戒するんだい?しかも、個性までバラしちゃうなんて」

「白々しいよ。お前がそういうやつだってのは私ら分かりきってんだから。ソレにこれは騎馬戦でしょ。お前は私らの敵だ。だから、味方の八雲に情報提供すんのは当然だ」

「やれやれ、酷いなぁ。まぁいいか。それはそうと、八雲君、よくもまぁ拳藤と取陰を誑かしてくれたね。まさか、その二人がA組に与するとは思わなかったよ。全く、酷い所業だ。僕達の大事なリーダー達を利用するなんて、クラスメイト全員に無視されたからって、男として情けなくないかい?」

 

ペラペラと薄っぺらい煽り文句が連続で放たれ、それに不快感を隠さずに眉を顰めた嵐が何かを言う前に拳藤達が抗議の声を上げる。

 

「お前、いい加減にしなよ。別に私らは利用されたわけじゃない。八雲の力になりたくてこいつと組んでるんだよ。八雲も私達を信頼してくれてる。くだらない挑発はやめなよ」

「そーそー、てか情けないってソレ言うなら、そうやって人を煽ることばかりしてるアンタの方がよっぽど情けないわ」

「………俺もこいつのことは信頼してる。だから、お前の言うような奴じゃないのはわかってる。微塵も情けないとは思わないよ」

 

同じB組である拳藤達はともかく普通科で全く関わりのない初対面の心操にまでそう返された物間は頬をピクピクさせるも、すぐに平静を取り戻して続ける。

 

「……ふ、ふふ、まぁいいや。僕は前々から君には興味があったんだよ。八雲君」

「…………」

「おや、だんまりかい。初対面なのに随分と嫌われたものだね」

「何が言いたい?言いたいことがあるなら早く言え」

「ああ悪いね。僕は話すのが好きなんだ。性分みたいなものさ。まぁ手短に話すよ」

 

不快感を隠さず剣呑な空気を放つ嵐の言葉に物間は臆することなくそう答えると、一層笑みを深くし、

 

「八雲君。君は、とっても素晴らしい個性を持ってるんだね」

 

そんなことを言い放った。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

『A組が敵襲撃から帰還』

 

 

きっかけはそれだった。

B組物間寧人。個性はコピーであり、触れた相手の個性を5分間だけ使用できる。時間が経てば自動的に消えるが、複数コピーすることが可能であり、制限時間内であれば複数の個性を高い多彩な戦法を用いられるトリックスターのような個性だ。

彼はA組に並々ならぬ対抗心を持っており、常に張り合おうとしている。

A組とB組。入学時は特に大した差もなかったはずなのに、()()()()()敵に襲われて戦っただけでA組が注目されるようになった。

それでA組が調子付いているように見えて気に食わなかった。たかが一度会敵したぐらいでどうしてここまで注目度が変わるんだ?

 

気に食わない。だから、思い知らせようとおもった。調子付いているA組にB組の存在を。

 

その為に物間はB組のメンバーの多くを巻き込み作戦を立てた。

先ほどの障害物競走。そこで中下位に甘んじることで自分達の個性の詳細をあまり明かさないようにし、かつ上位を狙うA組連中の個性や性格を後ろから分析することで有利な作戦を立てて、次の種目ー騎馬戦で一気にA組を陥落させてB組がのし上がるという下克上作戦を。

 

初めこそは、全員から狙われる1000万を持っておらず、いつも攻撃的な不良生徒でもあり去年敵に襲われたこともある悪目立ちしている爆豪をターゲットにしようかと思っていた。だが、その考えを変えて八雲へとターゲットを変えた。

 

なぜか。

 

それは彼が気に入らなかったから。

 

物間は日頃から頭を回し、他人の粗探しをし続けて出し抜いてきた。『主役を喰らう脇役』。コピーの個性を持つが故に己をそう定めた彼は、今まで脇役のように生きながらも虎視眈々と主役を蹴落とそうと画策している。そんな彼にとって、嵐はまさしく、蹴落としたい主役だった。

 

自分をいつも手刀ノックアウトしてくる拳藤と同じく、クラスを束ねる委員長の立場にあり、雄英高校ヒーロー科入試主席合格者。

風と水と圧倒的な身体能力、手足の欠損すら再生してしまうほどの高い再生能力が合わさった複合型個性。あのオールマイトにも匹敵するような素晴らしい強個性を持ちソレを使いこなす姿。

 

しかも、自分達B組のリーダーと副リーダーかつ頼れる柱でもある拳藤や取陰をチームに引き込み、普通科の生徒すらも引き込んだ。分け隔てなく接して信頼関係を築ける人柄。

 

気に入らない。気に食わない。

 

何だソレは。反則じゃないか。自分は『コピー』という一人では何もできない個性に対し、彼はまさしく対照的。一人で何でもできる個性を持っていた。

一人で強敵に立ち向かうことができるのに、仲間を簡単に作る。それはまさしく物語の中の主人公ー定番の勇者みたいだ。

 

ズルい。憎い。羨ましい。妬ましい。

 

自分が持っていない全てを持っている嵐の存在が何もかもムカつく。彼を煽って怒らせることでボロを出させて蹴落としたい。

 

だから、皮肉や憎悪、嫉妬の意味も込めて煽ったのだ。

 

 

『素晴らしい個性を持っているんだね』と。

 

 

それがどんな結果を招くかも知らずに。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「………あぁ?」

「ッッ⁉︎」

 

物間の突然の言葉に、嵐は眉を顰めると自分でも分かるほどに声が低くなり空気が殺気立つ。誰よりも近くにいた拳藤が息を呑むも、ソレに気づかない物間は更に言葉を並べていく。

 

「そのままの意味さ。仮想敵の群れを薙ぎ払えるほどの暴風に、大砲以上の威力を秘める水の息吹。フィールドを砕けるほどの身体能力。しかも、手足の欠損すら治してしまえるほどの高い再生能力。あのオールマイトにも匹敵するほどの優秀すぎる力だ‼︎ソレほどの個性、素晴らしいと思わない方がおかしいじゃないか‼︎‼︎」

「……………な、に?」

 

手を大きく広げ大仰な身振りで話す物間は熱が入っているのか、どんどんと声のトーンを上げながら話し続ける。

 

「君は、さぞかし輝かしい人生を送ってきたんだろう。強大な力を手に夢へとまっすぐに突き進み多くの人に賞賛される‼︎まるで絵本の中の英雄みたいだ‼︎僕らみたいな格下の脇役なんて存在する価値がなく、君一人で物語を完結できてしまいそうなそんな素晴らしいスーパーヒーローになれるんだろうね‼︎‼︎」

「………ッッ」

「ああ、君が羨ましいよ。願うなら、僕も君みたいな個性を持って生まれたかったね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものだ。誰もが羨む英雄譚の主人公、ソレが君なんだ‼︎‼︎だから僕は——」

「いい加減にしろッッ‼︎‼︎物間‼︎‼︎‼︎」

 

聞くに堪えない戯言を続け、最後に何か言い放とうとした物間の言葉を、拳藤の激情に満ちた怒号が遮った。

いいところで邪魔された物間はあからさまに眉を顰め邪魔した拳藤を咎める。

 

「なんだい拳藤。これからがいいところだったのに」

「黙れっ。もうお前はそれ以上話すなっ‼︎」

 

物間の言葉に怒りに満ちた言葉でそう返した拳藤は物間を睨む。彼女の目尻には涙が滲んでいた。これには流石の物間も驚き口をつぐむ。

拳藤は凄絶な激情をその顔に浮かべながら、言葉をつづける。

 

「お前に八雲の何がわかるんだよっ‼︎くだらない意地張って、他人を貶めるような発言ばっかして人を傷つけて「拳藤、もういい」っっ」

 

続けようとした拳藤は途中遮られた嵐の言葉に反論しようとして彼を見下ろした瞬間、ゾクリと凄まじい悪寒が背筋を駆け抜け口を噤んだ。

 

「や、八雲……?」

 

恐る恐る彼を呼ぶ拳藤の体は小刻みに震えており、顔は青褪め、冷や汗が頬を伝っていた。

上にいる自分からは彼の顔は見えない。だが、先程彼の口から出た言葉。それがあまりにも冷たく悪寒を感じ、体の震えが止まらなくなっていたのだ。それは、心操や取陰だけでなく物間チームの騎馬の三人、円場、回原、黒色も同じだった。

 

「も、物間、早く八雲に謝れ。謝ってくれ‼︎頼むからっ‼︎」

「物間‼︎流石に言い過ぎだ‼︎‼︎早く謝れ‼︎」

 

円場、回原の焦燥と恐怖に満ちた嘆願が物間に届く。

 

「円場に回原まで、一体どうしたんだ…っっ⁉︎」

 

不思議そうにつぶやいた物間は最後まで言い切ることができなかった。それは、突如かつてないほどの濃密な恐怖に呑まれたからだ。

体は震え、カチカチと噛み合わない歯を鳴らしながら物間はゆっくりと前方へと振り向く。

 

 

そこには、恐怖が、絶望が———怪物がいた。

 

 

垂れる白髪の隙間から覗く眼光の色は黄金でも、橙でもなく、血のような真紅。

飛膜は根元からズズズと墨色の黒が滲み、黒く変色し山吹色の模様が真紅に染まる。

胸には橙色の輝きに紫電の迸りが混ざりバチバチと音を鳴らす。

嵐を中心に風が吹き荒れ、激しく渦巻く。

それは他ならぬ彼が激昂した証拠。しかし、空がまだ黒雲に呑まれていない分、ある程度理性は残っているのだろう。

 

「ッッッ‼︎‼︎」

 

ここにきてようやく物間は自分が嵐の特級の地雷を踏み抜いたことを理解した。

 

「くく、くはは、はははははははははははははははははっ‼︎」

 

嵐は肩を揺らすと顔を上げ鋭く尖った牙を剥き出しにして嘲笑の声を上げる。物間達が恐怖に硬直する中、一頻り笑った嵐は物間へと視線を向けて、

 

「ははは、はー………テメェ、ふざけんなよ」

 

怒りが滲む冷酷な声音でそう言い放つ。

瞬間、凄まじい殺気が嵐から放たれ物間達は当然のこと、それだけにとどまらずフィールド全体を凄まじい殺気で呑み込み全員の動きを止めたのだ。全員が何事かとその殺気の発生源に恐怖や動揺、驚愕の眼差しを向ける中、嵐は苛立ちや怒りが多分に含まれた声音で続ける。

 

「黙って話を聞いてりゃあなんだ。素晴らしい個性?輝かしい人生?俺の個性が羨ましい?しまいには、テメェ……生まれた瞬間から人生勝ち組が確定しているって言ったか?……あぁ、ふざけんなよ。ふざけんじゃねぇよっ‼︎クソッタレがッッ‼︎‼︎‼︎」

 

次第に語気を荒げる嵐は、物間をギンッと鋭く睨むと怒りや憎しみを顕にしながら怒鳴る。

 

「テメェに俺の何がわかるっ⁉︎俺のこれまでの何もかもを一つも知りもしないテメェがっ‼︎テメェみてぇなっクソ餓鬼がっ‼︎知ったような口をきくんじゃねぇっ‼︎‼︎」

 

嵐は胸の内で荒れ狂う激情のまま叫び散らす。

素晴らしい個性?違う。こんなもの素晴らしいわけがない。傷つけることしかできない個性なんていらない。もっとまともな個性が欲しかった。こんな厄災を操る力なんてヒーローになるには邪魔でしかない。

輝かしい人生?ふざけるな。こんな力のせいで大好きだった姉を殺し家族から捨てられたんだぞ。かつて、殺してしまった姉が人外の化け物に改造されて、そんな彼女に殺されかけた。悲劇ぶるつもりはないが、家族に愛されない人生のどこが輝かしいんだ。

個性が羨ましい?黙れ。知らないからそう言えるんだ。副次的な力しか使ってないからただの強個性にしか見えないだけだ。こんなもの…‥俺は、持って生まれたくなかった。

 

「……八雲………」

 

かつてないほどに怒りのままに叫ぶ嵐の様子に、誰もが圧倒し驚く中、彼の背に乗っている拳藤は、それが悲しみを怒りで覆い隠しているように感じた。

その怒りの慟哭は、拳藤からすればひどく悲しくて彼女の胸が強く締め付けられるような感覚を覚えた。

 

「主人公?脇役?知るかッッ‼︎‼︎

テメェの何の価値もねぇ物差しで俺を測るんじゃねぇよっ‼︎‼︎そんなもん他所で勝手にやってろ‼︎‼︎一生脇役のまま腐り落ちて死ねっ‼︎‼︎」

「なっ、なっ……」

 

激情のままに吐き捨てられた暴言に物間が唖然とし眉をひくつかせる中、嵐はさらに顔を歪ませて怒りの咆哮を上げる。

 

「あぁくそっ、クソガッ、ふざけんなっ‼︎ふざけんじゃねぇよっ‼︎‼︎なんもしらねぇバカが好きにほざきやがって‼︎‼︎虫唾が走る‼︎反吐が出る‼︎

潰すっ‼︎叩き潰してやるっ‼︎‼︎もう二度とそんなふざけたこと言えねぇようにぶっ潰してやるっ‼︎‼︎テメェは、邪魔だっ‼︎‼︎」

 

彼の怒りに呼応するかのように瞳の輝きは増していき、風も激しさを増していく。

嵐が激昂した様子は誰の目から見ても明らかで、プレゼントマイクも焦燥に満ちた声を張り上げる。

 

『お、おいおいおい‼︎八雲の奴ブチギレてんぞっ⁉︎物間何言ったんだ⁉︎おい、イレイザーっ、あの状況かなりやばくねぇかっ⁉︎』

『……………』

 

プレゼントマイクの言葉に何も答えない相澤は視線を鋭くし包帯の下で表情を険しくする。

 

(………物間が何かを言ったのは確実だろう。それも、あいつが激昂するほどの特級の爆弾を。今のところ、空は荒れてないから一応理性の枷は残っているのか。……だがまぁ、この後の展開次第では競技そのものを中断させた方がいいな)

 

今はまだ空が荒れてないからいいが、嵐が完全に理性を手放してブチギレるようものなら試合そのものを中止にせざるを得ないだろう。

相澤がそんなことを考えながら嵐たちを見下ろす中、回原は顔を青ざめ恐怖と焦燥に満ちた声を上げる。

 

「ヤベェ、ヤベェヤベェヤベェ‼︎おい物間どうすんだよこの状況‼︎」

「………どうしようもないだろう。もう手遅れだ」

 

回原に続き口を開いた黒色はもう全てを諦めたかのような気弱な声音で呟く。殺気とも取れる凄まじい気迫を放つ嵐を前に、どんな抵抗も無意味と思ってしまったのだろう。

 

「と、とにかく距離を取らねぇと‼︎」

「っ‼︎あ、ああっ‼︎」

 

円場にそう言われてハッとなった物間は頷くと、牽制としてクラスメイトの鱗飛竜の個性『鱗』を両手に生やし弾丸のように飛ばす。

しかし、そんなもの何の障害にもならない。

 

「目障りだ」

 

苛立ちの一言と共に暴風が吹き鱗の弾丸は悉く弾かれる。あっさりと防がれたことに物間は歯噛みしながら必死に頭を回転させた。

 

(やっぱりこの程度の牽制じゃダメかっ。どうにか彼の個性をコピーできれば互角に渡り合えるんだけどね)

 

物間は嵐と渡り合うには嵐の個性をコピーしなければ勝負にならないと理解する。複合型の超強個性だ。コピーすればどれほどの力を得られるのか。その為にはどうにか接近して触れなければいけない。どうすればいいか、そう思考を巡らせる物間を、嵐は殺気に満ちた眼光で睨みながら背にいる拳藤に声をかける。

 

「拳藤、今から両手を離す。振り落とされないように捕まっとけ」

「う、うん」

 

拳藤は素直に頷くと少し下に降りて嵐の尻尾の根元に座ると後ろから首に腕を、腰に足を回してしっかりと捕まると、申し訳なさそうな表情を浮かべてそっと呟く。

 

「…………八雲、うちの馬鹿が本当にごめん。今回のは委員長の私にも責任がある」

「違う。お前に責任はない」

「………うん、お前ならそう言うと思ったよ。でも、これは私のけじめだ。あとで埋め合わせさせてよ」

「…………勝手にしろ」

 

視線を後ろの彼女に向けていた嵐はぶっきらぼうに答えると、取陰と心操にも声をかける。

 

「取陰、心操、これから少し暴れる。体に負担がかかるかもしれんが耐えてくれ」

「好きに暴れていいよ。あんなの誰だって怒る。てか、本当にウチのアホがごめんね」

「……俺も大丈夫だ。好きに動いてくれ。どこまでも付き合う」

「………そうか」

 

短く頷いた嵐は、再び前を向くと少し距離をとった物間を視界に収めつつ身を屈め、

 

「…………《疾風瞬天》」

 

刹那、彼の姿が消えた。

 

 

「……は……?」

 

 

物間は一切目を逸らしても、瞬きもしていないはずなのに嵐達の姿を見失ったことに間抜けな声を上げたが、次の瞬間には自分の眼前に嵐の姿があって、自分の腹に拳がめり込んでいたのだ。

バキボキと骨に罅が入る音が断続的に響く。

 

「?〜〜〜ッッ!?!?!?」

「も、物間ぁっ‼︎⁉︎」

 

その直後、物間の体は軽々と宙へと打ち上げられる。物間は訳がわからないと言った表情を浮かべつつも、腹から伝わる激痛に空中を舞いながら血を吐いて悶絶している。

 

「………ッッ」

 

嵐は物間が落ちてくるのを待たずに地面を砕き凄まじい速度で飛び上がると、一気に物間へと肉薄し、

 

「ガッ、ハァッ!?」

 

落ちてくる物間の鳩尾に容赦ない膝蹴りを叩き込んだ。ドゴォォッと嫌な音が響き、物間は肺の中の空気全てと更なる血を吐き出しながら更に高く打ち上げられる。

 

『殴り飛ばされた物間を八雲が追撃して膝蹴りをかましたぁぁぁ‼︎‼︎すげぇ音したぞっ‼︎⁉︎』

 

プレゼントマイクが思わず立ち上がりそう叫ぶ。人体からなってはいけないような鈍い音が実況席まで届いたのだ。焦りもするだろう。

だが、そんなこと当人である嵐にはどうでもいいこと。既に物間を蹂躙することは決めているのだから。

 

「……………」

 

嵐は空中で無様にもがく物間に迫る。

 

「……グゥッ………このっ、くそっ!」

 

一年ステージどころか隣の2年ステージまで見下ろせるほどの高さまで蹴り飛ばされた物間は、痛みに顔を歪めながらも、悪態をつきこちらへとまっすぐ迫る嵐に右腕を構える。すると、右腕がドリルのように回転したのだ。

この個性の名は『旋回』。物間チームの騎馬の一人である回原から事前にコピーしていた個性だった。

まさしくコークスクリュー、いやそれ以上の回転速度で放たれる右腕に対して、嵐は左拳を構える。

 

(勝った…‼︎)

 

その選択に物間は勝ったと確信する。

 

(ドリルにパンチが敵うわけがないだろっ!そのまま君の腕を砕いてあげるよっ!)

 

回原の個性『旋回』は対人近接戦においてはかなり強力な物である。普通なら真っ向から向かおうとは思わないし、躊躇う。だが、嵐は何を血迷ったのか拳で迎え撃とうとしているのだ。いくら身体能力が高くても、体が鱗に覆われていようと所詮は生物の身体。ドリルならば貫ける道理がある。

だが………物間は知らないのだ。嵐の鱗の強度は、あのオールマイトの並のパワーを持つ脳無のパンチにも耐えうるほどだと言うことを。

そして、そのまま、二人の拳と腕は激突し、バギィッと音を立てて物間の右腕が砕かれた。

 

「ぎっ、あああぁぁっ⁉︎⁉︎」

 

右手の指がすべてへし折れてあらぬ方向に曲がり、一瞬にして脳に伝わる熱を持った痛覚に物間は驚愕するまもなく苦痛の悲鳴をあげる。

物間は砕かれた右腕を押さえながら、大地へと堕ち始めるものの、嵐がただもがくだけで堕ちることを許さなかった。

 

「…………《空絶・風縛牢》」

 

スッと開いた右手を物間へと向けながら小さく呟く嵐。直後、風が吹き荒れてフィールド20m上空まで落ちた物間を包み込むとその場に拘束される。

 

「こ、このっ、離せっ‼︎」

 

拘束から抜け出そうと痛みを堪えながら必死に身を捩らせる物間に嵐は急降下し迫り、右拳を構えて今度はそれを彼の顔面に振り下ろす。

しかし、返ってきた感触は金属のような硬い何かを殴った感触。音もガギィンと人体からは決してならない音だった。

 

「…………あ?」

 

見れば、物間の皮膚は肌色ではなく灰色の金属に覆われていた。

 

「これって、鉄哲のスティールっ⁉︎」

 

同じクラスメイトである拳藤がすぐさまその個性の存在に思い当たり思わず声を上げる。

彼女の言った通り、物間は回原だけでなく「スティール』という己の体を金属に変える個性を持つ鉄哲からもコピーしており、防御として今使ったのだ。嵐の拳を受け止めた物間は未だ拘束されてるはずなのに、ほくそ笑んだ。

 

「ふ、ふふ、ふふふ、いやぁ、本当死ぬかもしれないってヒヤヒヤしたけど、どうにかなったよ」

「………何がだ?」

 

拳を離して物間を見下ろす嵐が冷徹な声音でそう尋ねると、物間はニヤァと嫌な笑みを浮かべると嵐を見上げながら嘲笑う。

 

「………さっきね、君に触れてたんだよ」

「ッッ」

 

実を言うと物間は先程右手を砕かれた時、砕かれはしたものの嵐との接触を果たして個性をコピーすることができたのだ。もっとも直後の激痛のせいですぐに使う余裕はなかったが。

しかし、その一言に誰よりも驚愕したのは嵐よりも拳藤だった。拳藤は慌てながら嵐に叫ぶ。

 

「八雲早く下がって‼︎お前の個性のヤバさはお前自身がよくわかってるだろっ‼︎早く下がって‼︎」

 

嵐の方を掴み揺らしながらそう叫ぶ拳藤だったが、嵐は一切耳を傾けずに顔色を変えることもなく無言で物間を見下ろすとポツリと小さく呟く。

 

「………いいぜ。使ってみろよ」

「は?」

 

嵐の予想外の一言に物間には呆気に取られるも、すぐに嘲笑へと変わる。

 

「は、はははは!君の大事な個性がコピーされたってのに随分な余裕だねぇ‼︎‼︎でも、どうせ虚仮威しだろっ‼︎⁉︎内心では焦っているんじゃないのかいっ⁉︎大好きな個性がコピーされたんだからさぁ‼︎‼︎」

「…………」

「ふふ、だんまりかい。でもまぁ、君がそう言うなら是非とも使わせてもらうよっ‼︎これでさっきまで散々してやられたお返しをしてあげようかっ‼︎‼︎」

 

そう言った直後、物間の皮膚は全て灰色の鱗に変わり、服を突き破り尻尾や灰銀色の飛膜が、額からはくすんだ鬱金色の角が生えて、瞳は縦に割れて黄色の輝きを帯びた。

それは確かに嵐の個性『嵐龍』をコピーした証拠だ。それには拳藤達だけでなくそれを目にした者達が全員驚愕を隠せなかった。

 

『び、B組物間八雲の個性をコピーしやがったっ‼︎‼︎これは流石に八雲も気をつけた方がいいんじゃねぇかっ⁉︎』

 

プレゼントマイクの驚愕の声が響く中、コピーした証拠を裏付けるように早速砕かれた右手が再生を始めていった。

 

「は!はははっ!本当にすごい個性だねっ‼︎あんなに痛かった身体がもう痛みを感じないほどに再生されたよっ‼︎‼︎本当に素晴らしい個性だっ‼︎使ってみるとよくわかるものだねっ‼︎‼︎」

 

右手の再生が済んだことに歓喜の声を上げる物間を冷めた目で見続ける嵐は、小さく嘆息すると、スッと少しだけ距離をとった。

その様子に、ようやく事態を飲み込んで臆したと思ったのか物間は明らかに挑発する。

 

「ふふふ、どうやらようやく状況が飲み込めたようだね。ねぇ、どんな気分だい?君の絶対的強さを支える個性がコピーされて、動揺が大きいんだろう?わざわざ隠さなくてもいいよ。僕も君の立場ならそう思うさ。まぁいいや。そろそろこの風も鬱陶しいし、君の個性で早速壊させてもらうよ」

 

そう言って物間が風の牢獄を破ろうとコピーした風を発動しようとした瞬間、嵐が静かに口を開く。

 

「………随分とはしゃいでるようだが、一つ忠告しといてやる」

「ん?」

 

憤怒や殺気だけでなく憐憫の色も混ざった瞳を向けて、嵐は憐れむように続ける。

 

「お前程度の小物に()()()を抑えることはできない」

「負け惜しみかい?何を言って……ッッ‼︎⁉︎」

 

最初こそ訝しみ首を傾げた物間だったが、ビクンッと勢いよく体が跳ねた直後、

 

「ぎっ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

悲鳴を上げた。

体はガクガクと震え、冷や汗がどっと吹き出し、狂ったように周囲に吹き荒れる風。嵐は自身の風で相殺しつつ周りに影響が出ないように風の球体で包み込むと言う器用な真似をしつつ静観し、拳藤達は何が何だかわからずに警戒している。

嵐達が各々の反応を見せる中、物間の心を占める感情。それは、

 

(な、なんだこれっ⁉︎……なんなんだ……アレはっ⁉︎……なんだよっ……あの怪物はっ⁉︎)

 

恐怖。その一つのみだった。

嵐の個性をコピーしていざ本格的に使おうとした瞬間、自身の内側に何かが入り込みそれが暴れているのを確かに感じた。

そうして物間は遂にソレを見た。見てしまった。

 

 

キイイィィィィィィィ—————————ァァァアアアアッッ‼︎‼︎‼︎

 

 

自身の内側ー脳裏に突如映った赤紫に染まった黒天。その中に佇み優雅に舞う見るも恐ろしき巨大な怪物の姿を。

赤く染まった眼光をこちらに向けて凄まじい威圧感を感じさせる咆哮は耐え難い恐怖を感じてしまう。

 

逃げたい。早く逃げたい。今すぐあの怪物から逃げたい。そう必死に願っているのに、体は一向に動かず、目を閉じることも叶わない。絶対的な死の恐怖に、圧倒的な怪物の威圧に物間は完全に呑まれてしまったのだ。

 

「な、なに?何が起きてんの?」

「あの苦しみようは尋常じゃないね……」

「……どうなってんだ?」

 

訳がわからず悲鳴を上げながら苦しむ物間の様子に拳藤達は訳もわからず混乱してしまう。

 

「な、なぁ、八雲、お前はああなることわかっていたのか?」

「…………いや、あくまで予想でしかなかったがな。あの個性のリスクは俺が一番よくわかっている。そのリスクを踏まえたら、コピーしたところであの程度の小物が扱える訳ねぇんだよ。それに……」

 

そう言って嵐は空を見上げる。

見る限り、雲一つない晴天の空だ。変わる様子もなく小さく安堵する。

 

「……見た限り、全てをコピーはできないみたいだな。俺の個性が全てコピーされたら、大惨事になっちまうから、ひとまず安心だな」

 

青空が黒天に変わってない以上、物間はコピーできると言っても全てではなく何かしらの制限があるはずだ。嵐龍の本領である天候操作ができないのは、その辺りの制限による物なのだろう。

少しばかりの不安要素も払拭できた嵐は表情に影を落とし顔を伏せると自嘲気味に小さく呟く。

 

「過ぎた力は身を滅ぼす。まさしくその通りだな。…………本当、つくづく思い知らされる。俺は、俺の個性は、どう取り繕っても……怪物なんだな」

「………え………?」

 

並みの人間ならば恐怖に怯えるしかないような怪物が自分の中にいることに、ソレを使いこなす自分もまた怪物だと言うことを思い知らされているようだった。そんな彼の悲しい呟きを拳藤はかろうじて聞き取ってしまった。

だが、ソレに嵐は気づくことなく、未だ悲鳴を上げてのたうち回る物間へと視線を向け構えた。

 

「……そろそろあいつの声も鬱陶しくなってきたから、早々に潰すか。ソレにガワだけでもコピーしてるようだから遠慮なくやれる」

 

最後にそう獰猛に呟くと一気に物間との距離を詰めて、手加減遠慮なしの本気の拳を腹に叩き込む。普通なら物間の肉体は貫かれてしまうほどの破壊力だ。しかし、今は嵐の個性をコピーしている状態だ。嵐を呼び出すことこそできないが、肉体の強度はコピーできたのだろう。軽くめり込むだけに止まったのだ。

それでも、破壊的な威力には変わりはないが。

 

そこからはもはやただの蹂躙だった。

 

風の結界内で嵐は物間を何度も殴り、蹴り飛ばした。その度に轟音を鳴らし勢いよく吹っ飛ぶものの、結界のせいで地面に落ちることはなくむしろ、風に当たった瞬間に勢いよく弾かれ嵐のとこへと戻ってきてしまうのだ。まさしくサンドバッグのような扱いで、嵐は物間を蹂躙し続けた。

 

「ガッ、ゴフッ、く、くそっ……あぁっ⁉︎」

 

常人ならば既に20回は死んでいるであろう猛攻だったが、皮肉にも嵐の個性をコピーしてしまったことで死ぬどころか意識すら保ててしまっていた。

 

『………うっわぁ容赦ねぇな八雲。かれこれ一分は殴り続けてるぞ。音がここまで聞こえてきやがる』

『『『…………ッッ』』』

 

プレゼントマイクが引き攣った声を上げ、容赦ない蹂躙に観客達だけでなく他の騎馬も動きを止めて絶句する。個性ありの残虐ファイトといってはいるものの、実際にその光景を見ると絶句するのも仕方ない。そして、時間にして約1分。荒れ狂う激情のままに物間を蹂躙し続けた嵐は、連打の最後に勢いよく顎を殴られて仰け反った物間の角を掴み強引に引き戻すと顔面に容赦のない膝蹴りをかました。

 

「ゴブゥッ⁉︎」

 

顔面に膝がめり込むと鼻でも折れたのか、パキと軽い音が響き、鼻血が宙を舞い醜い苦悶の声が響く。しかもソレに終わらず、角を掴んでいた手に力を込めて物間の両角をボギィッ‼︎とへし折ったのだ。

折られた角は宙を舞いながら地面へと落ちていく。

 

「〜〜〜〜〜ッッ‼︎⁉︎‼︎⁉︎」

 

激痛に声にならない悲鳴をあげる物間の顔は恐怖に染まりきっておりもう抵抗すらできないようだった。もう十分に蹂躙した嵐は、風の結界を解除すると同時に今度は物間の顎めがけ足を振り上げ物間を再び天高く蹴りあげたのだ。

激痛に悶える物間は風を纏って姿勢を安定させることもできずに無様に空を舞う。そんな彼を嵐は瞬く間に追い越すと空高く飛び上がり見下ろしながら冷徹に告げた。

 

「これで終わりだ」

 

そう言うと嵐は大きく息を吸いながら体を逸らすと、勢いよく前へと押し出して顎門を大きく開き、咆哮と共にブレスを放った。

 

 

ガアアァァァ————————————ァアァッッ‼︎‼︎

 

 

超高圧縮された激流ブレスが放たれ、物間を容易く飲み込むとそのまま下のフィールドへ突き刺さり轟音を鳴り響かせ土煙を巻き起こす。

幸いにも着弾地点には誰もおらず巻き込まれはしなかったものの、クレーターを作るほどの衝撃と振動に、何度目かわからないがまた騎馬の全員が蹌踉めいて膝をついた。

 

『と、とんでもねぇブレスが炸裂したぁぁぁ‼︎‼︎おい、ミッドナイト‼︎物間はどうなった⁉︎無事か⁉︎』

「………ッッ」

 

嵐の激流ブレス。その威力をよく知ってるからこそプレゼントマイクは青褪めた表情で席から立ち上がり声を張り上げる。ミッドナイトも焦燥を顕にし土煙が立ち込めるクレーターに視線を向ける。そんな彼女に嵐が声をかける。

 

「俺の個性を一部とはいえコピーしたんです。多少弱くても、たかがブレスの一発。せいぜい気絶する程度のはずです」

 

そう言って嵐は土煙の中に突っ込むと中から何かを引き摺り出して土煙の中から出ると、掴んでいたそれをミッドナイトの前に投げる。投げられてきたのは、

 

「………ぁ………あぁ………」

 

白目を剥いて呻き声を上げる物間だった。気絶した際に個性が解除されたのか、肉体は元に戻っている。

だが、見た限り命に別状はないように見える。たとえやばいと思うほどに鼻血を流し続けていたとしても、ミッドナイトの経験則からリカバリーガールの治癒で十分に回復可能だと判断できた。

だから、ミッドナイトは声を張り上げる。

 

「物間君の命に別状がないことは確認できたので、競技はこのまま続行するわ‼︎そして、騎手の物間君が地面に落ちたので、物間君チームはリタイアとします‼︎‼︎あと、今すぐに彼をリカバリーガールの元へ運んでちょうだい‼︎‼︎」

 

物間が意識消失かつ地面に落ちてしまったので、物間チームは残念ながら失格となった。その判断に、騎馬である円場達が悔しそうにする中、担架を担ぐロボット二体が現れ物間を担架に乗せるとさっさと入場口の中へと消えてしまう。

 

『一応物間は無事みてぇだな。なら、競技は続行だ‼︎さぁさぁ固まってるリスナー共‼︎とっとと暴れろ‼︎まだ時間はあるぜ‼︎‼︎』

『物間チームの騎馬三人、後で俺のところに来い。詳しく話を聞かせてもらうぞ』

 

プレゼントマイクの競技続行に後、冷たい相澤の声が響き円場達は顔を伏せてしまう。そんな彼らの前に嵐は立つと睥睨し冷徹な声音で告げる。

 

「文句があっても受け付けん。恨むならあの馬鹿を恨め」

 

物間と組んだからこうなったのだと、怒りが滲む声音で告げられた言葉に、回原が罪悪感を表情に滲ませながら首を横に振って答える。

 

「……いや、元からお前を恨むつもりはねぇよ。それより、物間が本当に悪かった。もっと早くに止めるべきだった」

 

その辺りのことはちゃんと分かっているのだろう。円場や黒色も異論なく申し訳なさそうにしていることから、全員が同じことを思っているのだとわかる。

だから、嵐はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らすと、彼らから視線を外す。

 

「…………分かってるならいい」

 

そういって嵐は前へと歩き出す。回原達も物間をの無事を確かめるため、フィールドを出て医務室へと向かっていった。

 

「………や、八雲……その……」

「お前ら怪我はないか?少し無理な動きをしたからな、どこか身体は痛めてないか?」

 

何か言いたげだった拳藤に嵐は彼らに怪我はないかと尋ねた。それに拳藤は心操と取陰に視線を向ける。向けられた視線に二人は大丈夫だと頷いた。

 

「……う、うん、私らは大丈夫だよ。それより、お前の方が……」

 

心の傷を抉られ一番辛いはずなのに、自分達の身を案じる嵐の優しさに拳藤は胸を締め付けられるような気持ちになってしまう。

心操や取陰も悲しげな表情を浮かべていた。そんな彼らの気持ちを感じ取ってしまったのか、嵐は申し訳なさそうに答える。

 

「……大丈夫だ。それよりも、お前らを必要以上に怖がらせてしまった。悪かった」

「……そんなこと……私らは気にしてないよ」

「……いや、俺が気にする。……俺がまだ未熟だったから、あんな安い挑発に乗っちまったんだよ」

 

嵐は片手で自分の顔を覆い隠すと、指の隙間から赤い眼光を覗かせながら忌々しげに呟く。

 

「………アァくそっ、こんな無様、あの人達に認めてもらえるわけがねぇのに、あんなクソの挑発に乗って八つ当たりじみたことしちまった。まだまだだな」

 

まだ胸の内で燻る苛立ちに露骨に不快感を表した嵐はそう吐き捨てる。それは物間への怒りというよりかは、己へと怒っているような感じだった。

 

「………八雲、私は「拳藤、取陰、心操」…?なに?」

「…どうしたの?」

「……?」

 

何かを言おうとした拳藤に被せるように嵐が三人の名前を呼ぶ。嵐は拳藤が問い返すと、静かな声音ではっきりと告げた。

 

「勝つぞ」

 

シンプルな一言。

だが、その一言の重みに拳藤達三人全員の表情が引き締まる。残り5分。1000万は決して取らせないし、むしろ他のポイントを根こそぎ奪おうという気力に満ち溢れた。

 

「「「おうっ‼︎‼︎」」」

 

思うことはそれぞれある。だが、それはひとまず置いておいてとにかくこの競技を一位で完全勝利する。そう意気込み三人は強く頷いた。

 

「ッッ‼︎‼︎」

 

その直後、真横から嵐達を氷結の波が襲いかかる。白い冷気を放ちながらまさしく濁流が如く迫るソレを、嵐は右腕を振るい暴風を解き放つと容易く砕いてしまう。

氷が砕かれダイヤモンドダストが舞い上がり空間を煌めかせる中、その奥から氷結を放った挑戦者が姿を現す。

 

「そろそろ獲らせてもらうぞ。八雲」

「…‥来たか、轟」

 

飯田、八百万、上鳴を率いる轟チームだった。彼は、左右で色が違う瞳を嵐に向ける。

その瞳は1000万を必ず獲るというやる気に満ちたギラついた瞳。轟以外も全員が闘志に満ちた眼差しを向けてきた。

 

 

 

「テメェに挑んで、今度こそ勝つ…ッ‼︎」

「勝手に吼えてろ。勝つのは俺たちだ」

 

 

 

残り時間5分。騎馬戦はいよいよ最終局面へと突入した。

 

 





というわけで、今話は騎馬戦中盤戦であり、同時に物間ぶっ潰し回でしたね。物間は自分の目的のためなら普通に他人の傷を抉るだろうし、地雷も踏み抜くだろうなぁと思っていて、今回は誰もが一度は思ったことを嫌味を十二分に混ぜた煽りで曲解させて、見事嵐君をブチギレさせました。
その結果、ボッコボコにされてリタイアというわけです。

ちなみに、物間が保有していたハチマキですが、嵐がポイントそっちのけでボコボコにしたので誰にも取られていません。ソレに加えて、物間がリタイアしたことで彼らのハチマキは誰にも取られることなく無効になりました。

そして、最後に物間は嵐の個性をコピーしましたが、物間がせいぜい使えるのはかなり弱体化した風と肉体強度の底上げと膂力の向上程度です。
ブレスはそもそも体内にある嵐気胞に水を溜めて初めて威力を発揮するものです。天候を操作する力は使おうと思えば使えますが、物間のような並の人間の体では古龍の生命エネルギーに耐えられない為、使えません。
もっとも、ソレ以前に嵐龍の本能は通常の人間の心を簡単に飲み込めてしまうので、普通の人間は恐怖に飲まれ発狂します。嵐の強靭な精神力があるからこそ使えるのであって、精神力や肉体強度、それらが全て高くなければ使いこなすことはできません。

つまり、物間には一生無理です。


嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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