最近、ランサー龍馬さんが我がカルデアに来てくれて嬉しい。
「これで———140‼︎‼︎」
試験開始から6分。
嵐は風を纏って演習会場を四方八方飛び回りながら、仮想敵をひたすら叩き潰していた。
そして、目の前にある3Pの大型の仮想敵を風の刃で真っ二つに切った嵐は、空へと飛び上がりビルの屋上に降り立つと腰のポーチに入れていた竹筒の水筒を取り水を流し込みながら、眼下の光景に視線を巡らせる。
「そういえば……0Pはどこにいるんだ?」
プレゼント・マイク曰く各演習会場に一体ずつ所狭しと暴れ回っているらしいが、ソレらしき姿は一向に見当たらない。
髭による感知と、本能による気配察知も、上空から見下ろしても、その姿は一向に現れないのだ。
お邪魔虫と揶揄されていたはずなのに、一向に邪魔してこないのは疑問しか出てこない。
「どっかに隠れてるのか?」
考えられるとしたら、ソレしかないだろう。
だとしたら、終了時間が近くなったら出てくるのかも知れない。
それならそれで、出てくるまで暴れてポイントを更に稼げばいい話なのだが、
「…‥一応敵だしな、ぶっ飛ばしてときてぇよな」
ポイントもなく、ただ邪魔なだけの存在でしかない0P。だが、仮想敵と呼称されている以上、それは敵だ。
敵であるのならば、殲滅する。それだけだ。
「ん?」
周囲に視線を回らしながら、そんなことを呟いていた彼は、ふとある光景に視線が止まる。
ビルとビルの間に挟まれた狭い路地、その行き止まりに、二人の少年少女が複数の仮想敵に追い詰められていたのだ。
足を怪我しているのか、ズボンの右足部分には血が滲んでいて足を引きずっている少女。それを守るように立ち、仮想敵に立ち向かっているのは六本腕の大柄の少年だ。彼もまた、体のところどころに打撲痕などを作っていたがそれでも、後ろの少女を守らんがためにその拳を振るっていた。そして、少女もただ守られているのではなく、その場から動けずとも耳のプラグを伸ばして迎撃している。
だが、彼等の必死な抵抗も虚しくジリジリと距離を詰められている、そんな光景があった。
「——————」
ソレを見た嵐の行動は疾かった。
竹筒をポーチに仕舞い、身を屈めてぐぐっと足に力を込め風を纏うと、ビルの屋上をぶち壊し疾風の如き速度でその視線の先へと向かった。
あれこれと考えてはいない。
あの状況を見て、救けなければと思った。
そう思った瞬間、嵐は動いていた。まさしく、体が勝手に動いたと言うことだ。
そして、常人では視認できないであろう速度で彼等の上空まで飛翔した嵐は叫んだ。
「二人とも伏せろ‼︎‼︎‼︎」
「ッッ⁉︎あ、あぁ‼︎」
「えっ、なにっ⁉︎」
上空から突如聞こえてきた声に、少年は一瞬体をこわばらせるもののすぐに動いて背後の少女を六本の腕で守るように抱きしめると身を屈めた。少女は突然のことで困惑の声をあげるが、ソレに構わず彼女の安全も確認した嵐は下方の仮想敵の群れにむけて腕を振り下ろす。
「オラァァッッ‼︎‼︎」
荒々しい気迫に満ちた激声と共に放たれたのは、二人を守るように展開された白い竜巻。吹き荒ぶ暴風が、仮想敵を悉く飲み込み撃砕した。
一瞬の出来事に二人が唖然する中、嵐は彼らの前にふわりと着地すると声をかける。
「二人とも、怪我はないか?」
「あ、あぁ俺は大丈夫だ。だが、彼女が脚を怪我してる。俺の不注意で怪我をさせてしまったんだ」
そう言って少年は、腕を解くと中にいる少女の姿を見えるようにした。
座り込んでポカンと嵐を見上げる少女の右足はロボの破片でも当たったのか、脹脛に少し大きな切り傷ができて血が流れていたのだ。
見た限り相当痛むだろう。歩くことはおろか、何もしていなくても痛むはずだ。
嵐は傷の場所を確認すると、ポーチをゴソゴソと漁りながら彼女の前に片膝をついた。
「分かった。傷を見せてくれ、簡単になるが、手当てする」
「へ?え、で、でも、今は試験中でしょっ、そんなことしてる時間なんて……」
「関係ない。怪我人がいるなら手当てする。そんだけの話だ。足触るぞ」
一言そう言うと嵐は腕だけ変化を解くと彼女の脚を掴んで傷の具合をしっかりと確認し、ポーチから取り出した包帯、ガーゼ、消毒液を取り出して消毒液をかける。
少女は足から伝わる突き刺すような痛みに呻き、体をビクッと強ばらせた。
「いっ」
「我慢しろ。すぐ終わらせる」
「う、うん」
嵐は少しきついが、ソレでも優しい口調で言って迅速に手当をしていく。少女は、時折痛みに呻きながらも嵐の手当てをじっと見ている。その最中、何も出来ずに見ていた少年に嵐は尋ねた。
「それでさっき俺の不注意って言ってたが、何があったんだ?」
「ああ、ソレが……」
彼曰く、撃破されたロボが彼に向かって飛んできた時、近くで戦っていた彼女がいち早く気づいて、彼を咄嗟に突き飛ばした結果、ロボットの尖った破片が右足を掠り裂傷が出来たそうだ。
説明をしていく彼は、マスクのせいで表情こそわからないが震えるほどに強く握り締められた拳から深い罪悪感を抱いているのがわかる。
今は雄英高校ヒーロー科の入試実技試験の真っ最中。将来の夢を叶えるための第一歩でもあるこの試験の場で、自分の不注意で、誰かの夢の邪魔をしたことに罪悪感を抱いていたのだ。
だが、それを少女が否定した。
「いや……あんたの、せいじゃないよ」
「だが、俺が気づいていればっ……」
「確かにそうかもしんないけどさ、ウチは救けたいから救けただけで、この怪我はウチの自業自得だよ。だから、アンタが後ろめたく感じることじゃない」
「………」
少女の言葉に少年は何も言えなくなる。それを横目に、嵐はちょうど手当てを終えた。
「よし終わった。これで動けるようにはなるだろ。どうだ?」
「ん、だいぶ良くなった。ありがと、あんたのお陰でまだ戦えるよ」
「おう。どういたしまして」
足を実際に動かして痛みがだいぶ和らいだ少女は嵐に微笑んで素直にお礼を言う。それに、嵐も微笑みを返して答えた。少年も深々と頭を下げて嵐にお礼を言った。
「すまない。お前に全部任せてしまった」
「気にしなくていいよ。こういう時は適材適所だ。それで、二人ともまだ戦えるんだろ?」
嵐は二人に背を向けて歩きながら、顔だけ振り向くとそう尋ねる。ソレに対し、二人は当然と言わんばかりに頷いた。
「ああ、無論だ」
「まだ終わってないからね」
やる気十分といった様子に、嵐もまた笑みを浮かべる。
「なら手を貸すぞ。俺はもう十分ポイントを稼いだからな。お前らのサポートに回ろう」
「……それは、ありがたいけど……いいの?」
「ただでさえ俺達は助けてもらったと言うのに……」
ただでさえ救けてもらっただけでなく、少女に至っては怪我の治療もしてもらったと言うのに、これ以上貴重な時間を割いて手伝ってもらうのは申し訳なかった。
だが、それに嵐は笑みを浮かべる。
「構わねぇよ。言ったろ?もう十分ポイントを稼いだって。それに、人救けはヒーローの本分だ。この後の時間はそのために使ってもいいだろ」
あっけらかんとそう言いのけた嵐に、二人は一瞬目を合わせると、やがて表情を綻ばせた。
「あんた、いい奴だね」
「助かる。お前がいると心強い」
「決まりだな。俺は八雲 嵐だ。お前らは?」
嵐が笑みを浮かべてそう尋ねると、二人はそれぞれ名乗る。
「ウチは耳郎 響香。よろしく」
「俺は障子 目蔵だ。よろしく頼む」
「おう、よろしくな。じゃあ、耳郎、障子。早速敵がお出ましだ。さっさと片付けるぞ‼︎」
嵐が二人に背を向け視線を向けた先には、先程の派手な竜巻に気づいたからなのだろう。無数の仮想敵が群れを成して嵐達の方に迫る光景があった。
そして、嵐の意気込みに二人は呼応するかのように声を上げ飛び出した。
「うん‼︎」
「ああ‼︎」
そして、受験生3人で組まれた即席チームアップは思いの外上手くいき、嵐が最前線に立ち風で動きの妨害だけでなく、攻撃手段を徹底的に潰し、怪我で満足には動けない二人の動きを風で補助し、耳郎が仮想敵に耳のイヤホンを伸ばして突き刺して己の心音を増幅させた振動で破壊し、障子が六本の腕を振るい仮想敵を拳で粉砕していき、撃破あるいは行動不能にしていき、3人は見事に襲いくる仮想敵を全て撃退することができた。
▼△▼△▼△
時間にして約2分。仮想敵の残骸の山々の中心で3人は漸く息をついた。
「大分倒したな」
「そう、だな。ポイントも、十分稼げた」
「てか、あんた、なんでそんなに、余裕なの?」
障子と耳郎が膝に両手をついて荒い息をつく中、一番動いたはずの嵐は平然としており、その様子に耳郎が疑問の声を上げたのだ。
嵐は竹筒の水を飲むと、微妙な表情を浮かべる。
「……いや、師匠の特訓に比べれば、この程度は別になんともないからな。ぶっちゃけ物足りねぇ」
戦いの師である巴に毎日地獄のようなどぎつい特訓メニューを課せられているからか、この程度では呼吸を荒げるほどではなかったのだ。
誰よりも仮想敵を倒して疲労しているはずだというのに、何ともないように呟く嵐に二人は驚くと同時に感心する。
「……あんた、強いんだね……」
「あれだけ動いて、まだ物足りないのか。…凄まじいな……」
「まぁソレはいいとして、これから———」
どうする?そう言おうとして、嵐は言葉を止める。
彼らの足元から振動が伝わり、地面が震え上がったからだ。
「今度は何⁉︎」
「地震か?」
「いや、違う。これは———」
二人が地震かと慌てる中、嵐だけはその事実を否定し、ある一点に視線を向ける。
その視線の先には、丁度一体の、他の仮想敵とは比較にならないほどの巨大な仮想敵が地面を割って下から出てきたところだった。
「成る程な。確かにお邪魔虫のギミックだあれは」
嵐は出てきた巨大な仮想敵ー0Pを見て一人納得する。
20…いや、30mはあるだろう鈍い緑色の装甲と巨大なキャタピラを駆動させ鉄塊と見紛う日本の巨大アームで建物を薙ぎ倒しながら突き進み、砂埃と地割れ、振動を齎すそれは歩く災害と例えてもいいかもしれないだろう。まさにドッスン的な存在だ。
しかも、それだけじゃない。
0Pの両側の建物の脇から、無数の仮想敵が出現したのだ。残り全てが出てきたのではないかと思うほどの数のそれらはまさしく軍隊のように徒党を組んで、0Pの周囲を囲みながらこちらへと迫ってきていた。
迫る巨大仮想敵と軍隊のような無数の仮想敵。それらはまさしく圧倒的な脅威となり雄英の狭き門に果敢に挑んだ受験生達の心を容易くへし折った。
『う、うわぁぁぁぁ‼︎‼︎』
『な、なんなんだよあれぇ⁉︎』
『あんなヤベェのがでんのかよ⁉︎』
『は、早く逃げろォォォォォ‼︎‼︎』
『あんなの無理だ!勝てるわけがねぇ‼︎』
受験生達が脱兎の如く、我先へと仮想敵から逃げる。しかも、腰を抜かした者や、転んでしまった者達に見向きもせずに、自分の身を最優先して……
「…………チッ、腰抜け共が」
嵐はそれらを見て、小さく舌打ちした。
ヒーローを目指す者達があろうことか、我が身を優先して怯えている者達を捨てて逃げる光景に冷たい表情を浮かべた。
これが援軍を求めるための戦略的撤退ならばまだ良い。だが、これはただの遁走。我欲の為の、我が身を守るためだけの逃走だ。
いくら、鎬を削り合う受験生同士とはいえ、腰を抜かして動けない者に、転んで怪我した者に声をかけることすらしないのは果たしてヒーローと呼べるのだろうか?
(そうじゃねぇだろ。ヒーローなら後ろにいる奴らを安心させるべきだろうが)
そう思った時、逃げようとしない嵐の様子に気づき、身の危険を感じて逃げようとしていた耳郎と障子が足を止めて声をかける。
「八雲‼︎あんたは逃げないの⁉︎」
「早く逃げないと危険だぞ?」
「むしろ、どうして逃げるんだ?ヒーローを目指すならば、今こそ戦うべきじゃねぇのか?」
「「ッッ」」
二人がそう問いかけるも、嵐はそれには応えずに0Pを見上げながら逆に尋ねる。
その問いかけに二人は思わず言葉を詰まらせた。ヒーローを目指しているだけに、危ないとは思っていても、やはり何とかしなくてはとも思っていたからだろう。
そして、嵐はそのまま言葉を続ける。
「後ろに逃げ惑う人達がいて、前からは巨大な敵が迫る。こういう状況だからこそヒーローは人々を安心させるべきじゃないのか?
敵に立ち向かうこと。敵に立ち向かえずとも怯える人達を安心させること。怪我をした人達に手を差し伸べること。何でも良い、誰かを安心させることができる奴こそヒーローと呼ばれるんじゃねぇのか?」
「‼︎……それは……」
「確かに、お前の言う通りだ……」
嵐の言葉に二人は納得を示す。
ヒーローとは何も戦うだけじゃない。人々の笑顔を守ること。人々の怪我を手当すること。誰かに手を差し伸べて、安心させることができれば、誰もがヒーローになれるのだから。
「それに、俺達はヒーローになりたくてここに来たんだろ。だったら、この試験の場でもヒーローとしての行動ができないで、どうしてヒーローになりたいと言える?もう始まってんだよ。俺達がヒーローになる為の挑戦は。
“Plus Ultra”。受難を超えて更に向こうへ行かねぇと、ヒーローにはなれねぇだろ」
「「………」」
嵐の言葉は驚くほどに二人の心に深く突き刺さった。迫る脅威や理不尽に立ち向かい、誰かを安心させようとするヒーローとしての覚悟。
それを言葉として突きつけられ、更には圧倒的脅威に背を向けない彼の背中に、二人は目を奪われた。
「‥‥そこまで言われて、何もしなかったらロックじゃないでしょ」
「ヒーローを目指すならば立ち向かうべき。ああ道理だな」
彼の覚悟に動かされ、耳郎と障子は笑みを浮かべながら嵐の左右に立つとそれぞれ構える。
「ウチだってヒーローになりたくてここに来たんだしね」
「ああ、俺達はその為にここにいる。なら、最後まで抗って見せよう」
二人ともやる気は十分。嵐の言葉に心動かされ、今確かにヒーローとしての第一歩を踏み出したのだ。
そして、彼の覚悟は、耳郎と障子以外の者達の心をも動かした。
「へぇ、お前良いこと言うじゃん」
突然、嵐に勝ち気な声がかけられる。3人揃って振り向けば、そこにはオレンジ色の髪をサイドテールにしているジャージ姿の女子がいた。いかにも男勝りであろう彼女は嵐に視線を向けると、一つ頼み事をしてくる。
「私も協力させてくれないか?お前の言葉響いたからさ」
彼女もまた嵐の会話を少し離れた場所から聞いていて、彼のヒーローとしての覚悟に心を動かされた者なのだ。
そして、彼女の申し出に嵐は快く了承する。
「ああ勿論だ。人手は一人でも多い方がいいからな」
「そ、ありがと。私は拳藤 一佳だ。よろしくな‼︎」
「八雲 嵐だ。よろしく」
「俺は障子 目蔵だ」
「ウチは耳郎 響香。よろしくね」
「よろしく。それで、八雲。お前はなんか策があるんだよな?」
既に作戦はあるだろうと予想した拳藤は嵐に尋ねる。嵐は頷くと再び0Pへと視線を向ける。
「0Pは俺がやる。お前らは周りの奴ら相手にして後ろに行かないようにしてくれ。手前にいるやつだけで良い。それと、俺が合図したら離れろ」
「それは良いけど、あんたもしかして0Pだけじゃなくて、周囲のロボも纏めて相手しようとしてる?」
「俺達もまだ余力はある。お前は0Pに専念してもいいんだぞ?」
「そうだよ。私らだってまだまだ戦えるよ?」
3人が嵐の作戦に口々にそう言うものの、嵐は首を横に振る。
「いや、そう言う話じゃない。俺の“個性”の話だ。周りに影響が出ちまうからな。巻き込みたくないだけだ」
嵐の“個性”は強力だ。しかし、強力であるが故に本気を出せば周囲に被害が出てしまう。だからこそ、今まで加減して使っていたのだが、あれほどの巨体ならば多少は力を引き出さなくてはいけないと言うわけだ。
理由を聞いて、耳郎達は納得する。
「……そう言うことなら」
「確かにお前の風ならそうなるな」
既に嵐の戦いっぷりを見てる二人は、嵐の個性を知らずとも強力であることを理解している。拳藤も二人の様子を見て渋々納得する。
嵐は0Pから視線を外し背後で未だ逃げ惑う人達を視界に入れると、怒りの表情を浮かべながら大きく息を吸って叫んだ。
「おい腰抜け共何をビビってんだぁ‼︎‼︎お前らは何のためにここに来たっ⁉︎⁉︎ヒーローになるためだろうがっ‼︎‼︎だったら、何で今腰抜かして怯えてまともに動けねぇ奴を見捨てて逃げようとしてるっ‼︎‼︎ふざけてんじゃねぇぞっ‼︎‼︎」
突然の怒号に耳郎達だけでなく逃げ惑う受験生達がビクッと肩を震わせて動きを止める。
嵐の怒声に危機的状況も相まって泣き出す者、彼の剣幕に腰を抜かすなど大体が驚き、怯える中、嵐の怒声は続く。
「敵と戦う勇気がなくても、できることはあるだろうがっ‼︎‼︎腰を抜かした奴がいるなら声をかけて立たせろ‼︎怪我をして動けねぇ奴がいるなら手を差し伸ばせ‼︎怖がる誰かを安心させるためにできることをやれ‼︎‼︎それがヒーローなんじゃねぇのかっ‼︎‼︎」
怒号が響き渡り、受験生達が沈黙する中、嵐は表情を一転させて笑みを浮かべる。
「後ろのデカブツ共は俺達がやる‼︎だからお前らは出来ることをやれ‼︎ヒーローになりてぇなら、今動けっ‼︎‼︎なんのためにここに来たのかを思い出せっ‼︎‼︎」
最後にそう締めくくり、嵐は彼らに背を向けると改めて耳郎達へと視線を戻した。
「悪いな、待たせた」
嵐は今もなお仮想敵が迫っていると言うのに、時間を使わせたことに軽く詫びる。だが、全員がそれに笑みを浮かべて大丈夫だと快く言ってくれる。
「いいって。お前の言いたいことはわかったから」
「ああ、お前の言葉にも一理あるからな」
「言い方はきついけどね」
三者三様の言葉に嵐は笑って頷くと、彼らと横並びに立ち身構えながら声を上げた。
「さて、敵退治と行こうか‼︎」
「ああ‼︎」
「「うん‼︎」」
そうして四人は勢いよく駆け出す。
風を纏って誰よりも早く嵐を捕捉して仮想敵達が揃って嵐へと襲い掛かる。だが、暴風纏う嵐にとってそれらは悉く意味がない。
「邪魔だぁっ‼︎‼︎」
力強い踏み込みと激声を以て嵐は一層風を纏って爆進する。暴風纏う彼の進路上にいた仮想敵は抵抗するまもなく悉く砕かれた。
仮想敵の群れをぶち抜くように、風によって地面を抉り削って一直線の道を刻む。
その凄まじさに両手を巨大化させて仮想敵を潰していた拳藤は目を丸くする。
「あいつ強すぎないか⁉︎⁉︎」
「うん、ウチも驚いたよ」
「ああ。凄まじい強さだ」
既に彼の強さを目の当たりにしている耳郎と障子はそんなことを呟きながら、嵐の作戦通りに手前にいる仮想敵を次々と潰していき、自分達の後ろには行かせないようにしていた。
そして、彼らの更に後方。
逃げ惑う受験生達にはある変化が起きていた。
「なぁおい‼︎あいつに好き放題言われてて良いのかよっ⁉︎」
「いいわけがねぇ‼︎俺だってヒーローになりにここに来たんだっ‼︎」
「俺たちに出来ることをやるぞ‼︎俺は怪我人の手当てをやる‼︎」
「なら、私は動けない人の避難を‼︎‼︎」
「手当の方法を知ってるよ‼︎誰か手伝って‼︎」
嵐の叱咤に心動かされた者達が自分の失態を挽回するかのように声を上げて動き始めたのだ。
ある者は好き放題言われて良いのかと呼びかけ、ある者は怪我人の手当てを行い、ある者は腰を抜かした者達に優しく声をかけている。
彼の一喝に多くの受験生達が奮起したのだ。
その様子を迫り来る仮想敵を次々と捩じ伏せながら見ていた嵐は一人笑みを浮かべる。
「なんだよ、やりゃ出来るじゃねぇか」
嵐としては発破をかけて数人動けば良いと思っていた。だが、実際はどうだ?嵐の予想よりも多くの人間がここに来た目的を思い出し、ヒーローになるべく失態を挽回しようと奮起したではないか。これでこそ、激励をした甲斐があると言うものだ。
「あいつらが動いたんだ。なら、俺もこのデカブツをちゃんと潰さねぇとな」
そして、彼らが奮起した以上、自分もこの目の前の脅威を取り除くことで彼らの想いに応えよう。仮想敵を潰しながら嵐はそう思った。
そんな中、嵐に狙いを定めていたのか、0Pが間合いに入った瞬間に嵐を潰さんと右の腕を振り下ろそうとしていた。
「八雲っあぶなー」
いち早く気づいた耳郎が嵐にそう叫ぼうとした直後、彼がいた場所から凄まじい烈風が巻き起こった。
「うわっ⁉︎」
「むっ⁉︎」
「なにっ⁉︎」
一瞬吹き荒れた烈風に耳郎達が思わず動きを止める。そして、顔を上げた彼らが見たのは、0Pの右腕がバラバラに斬られ崩れ落ちる光景だった。
「えっ…?」
「嘘でしょ?」
「腕を、斬り落としたっ⁉︎」
0Pの足下では右腕を上に振り上げる嵐の姿があったことから、嵐が右腕を振るって鋭い鎌鼬を放って0Pの右腕を斬ったのだと理解した。
目の前で起きた事象を信じられず唖然とする中、嵐は叫ぶ。
「吹き飛ばされたくなかったら全員離れろぉぉぉ‼︎‼︎」
『ッッ⁉︎⁉︎』
突如響いた嵐の合図に、ハッとした耳郎達は慌てて後退する。そして、一定範囲から離脱した彼らを確認した嵐は残った左腕を振り上げる0Pを見上げながら腰を落として呟く。
「久々にやるか」
嵐は両腕を大きく広げ全身に纏う風を強くさせていく。彼を中心に吹き荒れる風は周囲の大気を収束させ取り込むことで次第に勢いを増していき、圧縮されることで小さな竜巻が生まれる。嵐の飛膜や髪もまた風に靡き揺らめく。
そして、いよいよ0Pが左腕を振り下ろそうとした時、嵐は動いた。
「ぶっ飛べぇ‼︎‼︎」
猛々しく吼え、嵐は両腕を振るい遂に風を解き放つ。
「《
———刹那、巨大な嵐が生まれた。
激しく渦を巻いて、吹き荒れる颶風。
人々を、建物を、環境を、生態系を、ありとあらゆる全てを呑み込み、一切合切を破壊する天災の一つ。ハリケーン、サイクロン、台風などの呼び名も持つ嵐が突如出現し0Pだけでなく周囲にいた1、2、3Pの仮想敵をも全て飲み込むだけに留まらず、周囲の崩壊しかけているビルすらも瓦礫に変えて軽々と空へと巻き上げる。
巻き上げられ、嵐に囚われた仮想敵達を吹き荒れる暴風の斬撃ー鎌鼬が襲った。
轟々と唸りながら天空へと伸び、空に浮かぶ雲を喰らう特大の竜巻はさながら、咆哮を上げながら天上へと昇る龍のようだ。
「十分離れたはずなのにっ、なんて威力だっ⁉︎」
「無茶苦茶にも程があるだろっ⁉︎」
他の受験生達がいる数百m程先の場所まで後退したと言うのに、それでも低い姿勢を保たなければ吹き飛ばされかねないほどの強風が伝わってきて、障子と拳藤は驚愕するしかなかった。
そして、その嵐の余波に耐え抜く中、耳郎は竜巻を見上げて目を見開く。
「……っ⁉︎嘘っ、斬り刻んでるっ?」
彼女の言葉通り、特大竜巻の内部では仮想敵が悉く斬り刻まれていたのだ。
ギャギャギャと耳障りな異音を立てながら、仮想敵のロボはなす術もなく吹き荒れる風の斬撃に悉く斬り刻まれ、その躯体を削られている。
それは0Pも例外ではなく、他のロボと一線を画す躯体を有していようと天災の暴威には抗えるわけもなく、頭部、左腕、胴体、脚部と次々に別れていった。
やがて、特大竜巻が収まり中に囚われていた仮想敵—だった見るも無残な残骸や瓦礫が次々と地面へと落ちていく。
そして、一際バラバラに斬り裂かれた巨大な0Pの残骸が体に響くような地鳴りと鳴らし、砂埃を巻き上げながら地面に落ちる。
『終了ぉぉぉ——————ッッ‼︎‼︎』
それと同時に、スピーカーからプレゼント・マイクの試験終了の声が辺りに響き渡った。
雄英高校実技試験ーA会場。
そこでは試験の最初から最後まで常に風が吹き荒れていた。
竜巻が巻き起これば、仮想敵は舞ってしまう塵芥の如く吹き飛ばされる。
旋風が吹けば、仮想敵は悉く踏み潰されたかの如く叩き潰される。
鎌鼬が放たれれば、仮想敵は龍の爪に斬られたかの如く斬り裂かれる。
極め付けは、最後。
天災たる嵐の如き特大竜巻が巨大な0P仮想敵と残りの仮想敵全てを呑み込み空へと巻き上げて斬り刻んだことだ。
圧倒的なまでの暴威を目の当たりにした受験生達はソレを成した者———風を纏い、晴れ渡った空に浮かぶ白い羽衣と黒い鱗、黄金の角、長い尾を携える一人の少年ー八雲 嵐。
殆どの受験生達は彼のその背中に暫しの間、目を奪われていた。
アマツマガツチは見た目、強さ、BGM、全てが素晴らしいと私は思います。
アマツの嵐はいつ解禁できるのやら……先は遠いなぁ。
あ、ちなみに、次回で入学前編は終了する予定です。
嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?
-
小野大輔
-
諏訪部順一
-
細谷佳正