天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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今回で入学前編は終了‼︎そして、次回からは入学編に入ります‼︎

では、どうぞ‼︎


4話 英雄への道を

 

 

 

 

プレゼント・マイクの試験終了の声が響いた後、中空に留まっていた嵐は小さく息をついて肩の力を抜く。

 

「ふぅ……終わったか」

 

僅か十分という短い時間だったものの、それでも濃密な時間を過ごした嵐はそう呟いた。そして、耳郎達の元へと戻るべく風を操作して飛びながら周囲を見渡す。

あたりには仮想敵の残骸が転がっており、周囲のビルにも落ちており、半ば崩れかけていた。道路も落ちた衝撃で大きく捲れ上がって茶色の地肌が剥き出しになっている。

 

「……う〜〜ん、やっぱアレだと街への被害が大きいな」

 

嵐は一人反省する。

《神嵐・天津風》。嵐が有する技の中でも大技の一つだが、見ての通り周囲への被害が大きすぎる。

ヒーローを目指す以上、街に被害を出すということは避けたいため、改良が必要だなと考えたのだ。

 

「ポイントは稼いだからいいが、周囲への被害はこれからの課題だな」

 

ポイントも最後の最後で荒稼ぎできており、詳しい数字は分からないが相当なポイントは獲得できたことだろう。

ポイント的には実技試験は合格できたと嵐は思っている。…………問題は、内申点だが。

 

「………なるようになれだ」

 

内申点のことを思い出して微妙な顔を浮かべた嵐はすぐに顔を振ってその思考を止める。

グダグダと考えるより、素直に試験の結果を待とう、と結論づけた。

そして、受験生達の視線が自分達に釘付けになる中、その一番前にいた耳郎、障子、拳藤の3人の元へと降り立った。

 

「よ、怪我はないか?」

 

降り立つと、変身を解きながら笑みを浮かべた彼女達に尋ねる。3人は、一様に頷きながらも驚いたり、戸惑ったりとさまざまな表情を浮かべ口を開く。

 

「い、いや、ウチらは大丈夫だけど……」

「お前の個性、ぶっ飛んでるな……」

「ああ、あそこまで強力だとは思わなかったぞ」

「だから言ったろ。俺の個性は周りに影響が出るって」

「確かに言ってたけど、ここまでだなんて……」

 

さらりと告げた嵐にやはりまだ驚愕が消えていない耳郎がそう呟いた。

彼女の気持ちもわからなくはないので、今だに驚愕が抜け切らないのも仕方ないことだ。

だが、彼女達は知らない。

 

先程の厄災が如き特大竜巻。アレでも抑えた方だということは。

 

実を言うと、先ほどの特大竜巻でも嵐の全力には程遠い。そもそも、()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

しかし、全力を出すことは本当に余程のことがない限りはこの先もあり得ないだろう。

なぜなら、嵐の個性は……文字通りの厄災なのだから。

そして、個性の詳細は話さずとも全力ではなかったことを話せば更に驚くことだろう。だが、そうなると面倒になるはずなので、嵐はあえてそれを口にすることは決してしなかった。

 

「ま、今回は誰も巻き込まれた奴はいなかったから結果オーライだろ」

 

耳郎が驚愕まじりに呟くのをよそに、拳藤が空気を変えるかのように他の受験生達を見渡しながらそう言うと、嵐に視線を戻して背中をバシバシと叩きながら言う。

 

「それに、他の会場がどうなってるかは知らないけど、八雲、お前が実技試験の成績1位になるのだけは間違いないな」

 

アレだけの凄まじい戦いぶりを見せたのだ、他の試験会場ではどうかは知らないが、拳藤個人の見立てでは主席合格は間違いなく嵐だと断言できる。そして、その言葉には耳郎や障子も頷く。

 

「うん、それはウチも思う。ポイントも相当稼いでるはずだしね」

「ああ。そうだな。八雲が主席合格なのは間違い無いだろう」

「……そうだといいがな」

 

二人もそれは疑ってないらしくそう答える。

3人からの称賛に嵐は少し嬉しそうにしながら顔を逸らしながらそう呟く。

そして、未だに唖然としている受験生達の姿を視界に収めると、表情を変えて彼らの元へと徐に歩いていき、一番近くにいた座り込んでいる受験生に近づくと手を差し伸べる。

 

「立てるか?」

「あ、あぁ、立てるよ。あんた、凄いな。…‥俺は、何も出来なかったよ」

 

嵐に手を引っ張られて立ち上がった受験生は、そう小さい声で恥じるように呟く。

彼は、嵐の激励を受けてもなお動けなかった類らしく、他の受験生達に引っ張られて後退したようだ。

そして、自分の情けなさを心底悔やんでいるように顔を俯かせた。嵐は項垂れる彼を無言で見下ろすと、静かに口を開く。

 

「……これは、俺の独り言で個人的な考えだ。だから、嫌なら聞かなくていい」

「?」

 

受験生が困惑する中、嵐はしばしの沈黙の後にそれを言葉にした。

 

「ロボ相手に腰を抜かして何も出来なかった奴ら。………君達には、ヒーローは向いていない。諦めたほうがいい」

「ぇ……」

 

紡がれたのは、冷たく苛烈な諦めを促す言葉。

その言葉に、話を聞いていた多くの受験生達が絶望の表情を浮かべる。

 

「ちょっ、八雲っあんたそこまで言わなくてもっ………っ」

 

耳郎は驚愕して、そう嵐に詰め寄るも彼の表情を見て言葉が止まる。

なぜなら、彼の表情は決して彼らを嘲笑っているわけではなく、ひどく優しげなものだったからだ。その表情で否が応でもわかってしまう。嵐が悪意で言ったことでは無いことに。

 

「今回の敵はロボだ。殺さないようにプログラムされているし、感情もない。だから、少なくとも死ぬようなことはなかっただろう。だが、本物の敵は違う。敵は俺達を殺すつもりで来る。本物の、殺意や敵意、悪意が自分達に向けられるんだ。

感情がないロボ相手に腰を抜かしているのなら尚更本物の敵とは戦えない。殺意を向けられて情けなく腰を抜かしていたら、それこそ死ぬだけだ。怯えることしかできない奴は、本当にあっさりと死んでしまう」

 

嵐は敵の恐ろしさを知っている。

人が死ぬことも、恐怖に怯えてしまうことも、敵との命のやり取りの全てを嵐は巴から何度も聞かされ、過去の経験からそれを知っていた。

 

「我が身可愛さで逃げ出して守るべき人達を見捨てたら、ヒーローどころか、人としても、失格だ。かと言って心を殺して恐怖を感じないようにしろ、なんて言わない。怖いのは怖いでいいんだ。人なんだから、恐怖を感じるのは仕方ない。だが、怖いと思っても敵と戦う覚悟を持って立ち向かわなくちゃいけないのがヒーローなんだよ」

 

殆どの受験生達は敵の脅威を知らない。

ヒーローがどんな思いで敵と戦っているのか、敵と戦うというのがどんなことなのか。

現実は絵本の世界とは違う。ヒーローが敵と戦うにしても、そこには覚悟がある。

敵と戦う覚悟、敵と命を賭けて戦い後ろの人達を護るという覚悟が。

それが出来る者達こそヒーローと、英雄と呼ばれる者達なのだから。

嵐は目を伏せて拳を強く震えるほどに握りしめながら、脳裏に過去の光景を思い浮かべながら続ける。

 

「敵と戦う覚悟がろくにないのなら、戦場に立つな。普通に家庭を築いて、家族と共に笑って幸せに過ごせ。

その分俺が戦って、敵を倒すから。君達は安心して暮らしていればいい」

 

嵐の発破に動いた者達も多くいた。

だが、言われてから動くのでは遅いのだ。そもそも、プロになって社会に出てのなら鼓舞してくれるものはいないのだ。むしろ、自分達こそが人々を安心させなくてはいけない。

今回は、偶然自分がいたからこそ奮起することができたものの、こんな偶然早々起こるわけではない。

やる気があるのは認める。だが、それとこれとは話が別。ヒーローを目指すのなら今の時点でも何かあった時に動けるようにしておかなければいけないのだ。

嵐はそう言い切ると、目を開けて受験生全員に視線を向けると、ひどく優しげで慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 

「………悪いな。勝手に君達の夢を否定しちまった。好きに恨んでくれて構わねぇ」

『…………』

 

最後にそう嵐は優しく言う。

彼の言葉に、そしてあまりにも優しげな表情に受験生達は何も言うことができず、目の端に涙を浮かべたり、唇を噛み締めたりと無言で嵐の言葉を各々噛み締めていた。

嵐の目の前にいる受験生も顔を俯かせながら、拳を震えるほど強く握りしめていた。

嵐はそんな受験生の肩をポンと叩きながら、横を通り過ぎると、再び風を纏って空を飛んで一人先に会場から去っていった。

 

 

最後にひゅるりと優しく吹いた風が、受験生達の頬を撫でていった。

 

 

その風は、冬であるはずなのに、とても暖かく感じた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

嵐が会場から去った後、飛び去る背中を見送っていた耳郎は呟く。

 

「………あんな奴もいるんだ…」

 

耳郎にとって八雲は初めてみるタイプの人間だった。

最初、耳郎は嵐の発言に怒った。

彼らだって頑張ったのに、そんなことを言わなくていいでしょ、と。憤りのままに言おうとしてた。だが、詰め寄った時に見た彼の表情はそう発言したとは思えないほどにひどく優しげなものだったのだ。

だからこそ、耳郎は気づいた。

 

彼は、彼らに死んでほしくないだけなのだ。

 

ただ死んでほしくないから、嵐はああいう風に厳しく言ったのだ。

ヒーローという職業は明日も満足に生きていられる保証などないのだから。

そして、アレが彼なりの優しさだと耳郎は気づいた。

 

「厳しくて優しくて、不器用な奴なんだね。あんたは……」

 

同年代とは思えないほど確固たる覚悟を持っている青年に彼女はただそう素直に感心した。

 

 

そして、彼の存在が心に大きく残ったのは彼女だけじゃない。共に戦った障子と拳藤も同じだった。

 

「八雲、お前は……凄いな」

「そうだね。凄い奴だよ、本当に」

 

2人にも嵐の本心は分かった。

ヒーロー業界は厳しい世界だ。敵と戦うということは命のやり取りをするということ。ともすれば、敗北して死んでしまうこともある残酷な世界だ。

どう言った経緯を辿ったかは分からないが、嵐はその現実をこの場にいる誰よりも知っているのだろう。だからこそ、篩にかけて彼の言葉に何もいえなくなった者達を遠ざけようとしている。

 

そして、彼は夢を諦めてしまった者達の分まで、自分が戦って皆の平和を守ろうとしているのだ。

 

そんな優しい意志が確かに感じられた彼の背中。それは、まさしく自分達が憧れたヒーロー達の背中と同じモノだった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

場所は変わり、巨大なモニタールーム。

ここには雄英高校の教員達が集まり、各会場の実技試験の様子を見ながら採点していた。

 

「実技試験、成績出ました‼︎‼︎」

「しかし、まさか救助P0で2位とはなあ!」

「ああ、その反面敵P0で、救助Pのみで合格の者もいるな。どちらも極端な点の取り方だ」

「1、2Pは主に音に引き寄せられる性質がある。後半が鈍っていく中で、派手な個性で迎撃し続けた。タフネスの賜物だな」

「救助Pだけのあの子も、 0P倒すまでは典型的な不合格者の動きだったのに、最後のは痺れたわねぇ」

「俺ァあいつ気に入ったぜぇ‼︎」

 

無数のモニターを見ながら採点をしていた教師達は特に印象の強かった合格者達を見て口々にそう呟く。

教師達の発言にもあった通り、試験の採点方式は仮想敵であるロボットを倒して獲得できる敵Pだけではない。

もう一つのポイントはー救助活動P(レスキューポイント)

 

その名の通り、誰かを救ける、あるいは護るなどの救助活動を行なった受験生に対して与えられる教師達による審査制の得点なのだ。

どうやら、今年はどちらかのみのポイントで合格した生徒が2人いたようだ。

やがて、殆どの生徒達の採点が終わり、A会場の様子が写っているモニターに一人の青年が投影された。

 

白い飛膜と黒い鱗、巨大な角と長い尾、翡翠の鉤爪を携える白髪金眼の青年ー八雲 嵐だ。

 

教師達は風を纏い試験会場を縦横無尽に飛び回りながら、仮想敵を蹂躙している嵐の戦いぶりに、揃って驚愕している。

 

「これは………凄まじいな……」

「ああ、まだ中学生でここまで戦えるとは。……もはや、そこらのプロを凌駕しているぞ」

「他の受験生達とは既に一つも二つもレベルが違う。……他の子達が霞んでしまうな」

 

教師達は冷や汗を流しながら、彼の戦闘に圧倒されていた。

プロである教師達の目から見ても嵐の実力は既に受験生達の中でも頭二つ飛び抜けていたのだ。しかも、戦闘力だけではない。

 

「応急処置も適切だ。だいぶ勉強しているね」

「えぇ、しかも周囲をよく見ています。危なくなった受験生を何度も助けていますね」

「しかも、即席チームアップできるコミュニケーション力もあるな」

「俺の合図に真っ先に反応したのもコイツだけだったしなー‼︎」

 

この試験で求められているのは戦闘力だけではない。状況をいち早く把握する為の『情報力』。早く駆けつける為の『機動力』。どんな状況でも冷静でいられる『判断力』。市井の平和を守る為の基礎能力があるか否かを炙り出しているのだ。

そして、それに加えて嵐が耳郎や障子、拳藤と即席チームアップをしてみせたコミュニケーション能力も必要だ。

それらにおいて、嵐は全てが軒並み高かった。

極め付けが、 0Pを倒した時だ。

 

「アレに立ち向かったのは過去にもいたが、まさかアレを倒してしまうとはな」

「しかも、今年は彼だけでなくもう1人も撃破したわ。2体も壊されるのは初めてじゃない?」

「ああ、今年は豊作だな」

 

過去にも嵐同様 0Pに立ち向かったものはいたらしいが、倒したものは久しく見ていないそうだ。

しかも、それが今年は嵐含めて2人もいる。今年はなかなかに豊作だった。

そして、教師達は嵐が 0Pを残りの仮想敵ごと纏めて特大竜巻で飲み込んだ光景を見て驚く。

 

「あそこまで強力な風を操れるとはな……」

「ええ、あの破壊力はもはや災害だわ」

「……ただの特大竜巻じゃなく、内部では風の刃が無数に飛び交っているようだ。あの歳であの破壊力……末恐ろしいな」

「風の他にも鱗に飛膜などの全身の変化、複数の個性が混ざった複合型の個性かしらね」

「YEAH‼︎‼︎何度見てもすごいぜ‼︎あれだけの破壊力。プロでも出せる奴はそういねーぜ⁉︎」

 

教師達の言葉に続いて、プレゼント・マイクもやや興奮気味にそう言う。そして、手元にある嵐の成績表を見る。

 

「なになに、名前は八雲 嵐。敵P(ヴィランポイント)は……はっ⁉︎218ぃ⁉︎んで、救助活動P(レスキューポイント)が120ぅ⁉︎なんだこのぶっ飛んだ数字はよぉ‼︎‼︎」

 

嵐が獲得したポイント数に驚愕の声をあげるプレゼント・マイク。それに他の教師達も呟く。

 

「トータル338Pか。敵Pは2位のほぼ3倍。救助Pに至っては9位の2倍か。これは、雄英始まって以来の記録じゃないか?」

「だが、あの戦いっぷりを見ればそのポイントも納得だ」

「ああ、最後のあの竜巻で一気に加算されたな。おそらくは残りの仮想敵全てのポイントを獲得したはずだ」

「本当に見事なもんだぜ、クケケケッ。……ただよぉ、問題は……」

 

嵐の大量ポイント獲得を賞賛する一方で、恐竜を模したマスクを被った教師が特徴的な笑い声の後に神妙な声を出す。

なぜなら、中学での彼の問題行動があったからだ。

 

「……他校の不良との乱闘が25回。しかも、そのうちのいくつかは病院送りもある」

「典型的な不良少年、か」

「だが、彼は中学では多くの生徒に慕われ生徒会長をしていたそうだ。教師からの評価も軒並み高い」

「なぜだ?喧嘩ばかりしているなら、教師からの評価は低いはずだろ?」

 

他校の不良達と幾度となく乱闘し、中には病院送りまですると言う絵に描いたような不良少年だが、その一方で中学では生徒会長として慕われていると言う正反対っぷりに教師達はそんな疑問をこぼす。

その疑問には、ある者が答えた。

 

「実はね調べてみると彼、自校の生徒達が不良に絡まれていることが多くて、それを救けるために喧嘩していたそうなんだよ」

「校長……」

 

校長と呼ばれたのは、犬かネズミかわからない小型犬サイズのスーツ姿の白い珍生物。

彼こそが、この雄英高校の校長根津なのだ。

 

「では、彼が行なった喧嘩は全て不良から生徒を護るということですか?」

「そうなるね。紅城中の生徒達は周りの中高の不良達から結構な頻度で絡まれることが多いらしく、彼が護っていたということなんだ。学校周辺の治安維持にも役立っていたらしく、教師達からの評価も高いそうだよ」

 

根津の説明に喧嘩ばかりする不良青年というイメージを抱いていた教師達はそのイメージを変えていく。

だが、プロフィール欄を見ていた教師達の目がある一行を認識して、難色を示す。そこに書かれていたのは、

 

 

『———幼少期、個性の暴走にて敵を数十名殺害』

 

 

と、書いてあったからだ。

殺人という最も重い罪の一つを犯した過去。それは議論を紛叫させた。

 

「いくら成績が優秀とはいえ、殺人歴のある生徒を入れるのは………」

「プロでも殺人は余程のことがない限りはしない。それを1人どころか複数人……」

「しかも、個性の暴走と書いてある。万が一、アレだけの個性が暴走したら一たまりもないぞ」

「大量殺人歴に加えて、暴行歴も多数。これだけでも十分不合格にしていい理由になる」

「殺人歴のある子供を合格にして、他の有望な子供を不合格にするべきではない」

 

殺人歴を知り、嵐を不合格にすべきだという反対意見が上がり始めた。

しかし、その反面、彼にヒーローとしての素養を見出し、擁護する者達も出てきた。

 

「だが、彼にはヒーローとしての素養がある。我々がしっかりと教え導くべきじゃないのか?」

「ああ、俺もそう思う。いくら危険とはいえ、彼はある程度制御できているように見える。だから、今はそれほど危険ではないだろう」

「だが、万が一暴走したらどうする気だ?」

「それこそ分からない話だ。これからがどうなるかなんて誰にも分からない。そうさせないように我々が導くのだ」

 

しばらく議論が続く中、それを黙って聞いていた根津は静かに発言をする。

 

「うん、皆がそれぞれの意見を持つのは当然だと思う。でも、ボク個人の意見としては、彼は合格にすべきだと思っている」

 

根津は彼を擁護すると続ける。

 

「それにこれはあくまで考察に過ぎないけど、幼少期の個性の暴走は彼自身が悪いわけではない。必ず、外的要因があったはず。

そして、こうして雄英の門を叩いた以上、彼にはヒーローになりたいという思いがあるはずなんだ。だから、ボクは彼を合格にすべきだと思うよ」

『……………』

 

根津の言葉に教員達は全員沈黙する。そして、沈黙した彼らを見渡しながら彼はある提案をした。

 

「そこで一つ提案なんだけど、彼の主席合格は変わらずに、一般入試の合格者をもう一枠設けようと思うんだ」

「ヒーロー科を41名にするんですか?

今年はオールマイトの件もあります。マスコミが騒ぐと思いますが」

「それについても心配はないさ。幸いにも、実技試験で同点の生徒がちょうど2人いたからね。公式には同点の生徒がいたためと公表するよ」

 

根津はそう言って一度口を閉じると、腕を後ろで組んで改めて教師達を見渡しながら言った。

 

「各々思うことがあるのは仕方ないと思う。

だから、彼が入学した後、しっかりと我々で教え導いてあげようじゃないか」

 

まだまだ未熟な子供を導くのは大人である教師達の役目だ。そして、ヒーローであるならば未来ある子供達が踏み外さないように正しい道へと教え導いてあげるべき。

それを理解しているからこそ、教師達は根津の言葉に力強く頷いた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

雄英高校入学試験から1週間後。

 

嵐は試験の結果を気長に待ちながら、自室で本を読んでいた。

その時、呑気に本を読んでいる嵐の部屋の襖を叩く音が聞こえた。

 

『嵐さん、巴です。入ってもよろしいですか?』

「ああ、どうぞ」

 

嵐から許可をもらい、入ってきた巴の手には一つの封筒があった。

巴は嵐に近づくと正座をして手紙を差し出す。

 

「雄英からです。合否の通知でしょう」

「ありがとう、巴さん」

 

嵐は手紙を受け取ると、ペーパーナイフを机の引き出しから取り出しながら呟く。

 

「せっかくだし、巴さんも見ようよ」

「よろしいのですか?」

「勿論」

「ふふ、ではお言葉に甘えて」

 

そして、巴も正座して結果を心待ちにする中、嵐はペーパーナイフで思ったよりも分厚い封筒の封を開けて中を見る。

中には三つ折りの書類がいくつかと小さな円盤型の機械のようなものが入っていた。

 

「何だこれ?」

 

嵐は円盤を手に取り、まじまじと見ながら呟く。巴はその機械に心当たりがあるのか、気づいた。

 

「投影機ではないでしょうか?」

「投影機?なんでだ?」

「さぁ、そこまでは……置いてみたらきっと作動すると思いますよ」

「ん、分かった」

 

嵐はそう答えて、投影機を机の上に置く。

すると、投影機が光りホログラムが空中に投影され、そこには———

 

『私が投影された‼︎‼︎』

 

ドアップで映る彫りが深い、一人だけ画風が違うウサギのようなピンとした二本の前髪が特徴の金髪の大男がいた。

彼こそが、日本だけでなく世界中の人間が知る、誰もが知るトップヒーロー。

 

「オールマイト⁉︎」

「……OBの特別出演でしょうか?」

 

嵐が目を見開き驚愕する中、巴はそんなことを呟く。オールマイトは周知の通り、雄英のOBだ。だから、雄英がOBにゲスト出演してもらったと考えることもできると言うわけだ。

そして、出演理由は彼本人が話してくれた。

 

『ハハハハ、きっと驚いているだろうね。

実はね、私は今年から他でもない雄英高校の教師を務めることになったんだよ‼︎

このビデオもOBの特別出演じゃなくて、教師としてのこのビデオに出ているわけなんだ‼︎』

「マジかよ。オールマイトが教師って」

「凄いですね」

 

No. 1ヒーローがあの雄英の教師になるのは本当に凄い事だ。そして、このことが公表されていなかったのは、混乱を避ける為ではないだろうか。

しかし、嵐としては倍率が跳ね上がっていたかも知れなかったので事前に公表されなくてよかったと安堵した。

そして、オールマイトは早速説明を始めていく。

 

『まずは筆記試験からだ‼︎

筆記試験は文句なしの成績だ‼︎それどころか上位5名に入っている好成績だ‼︎凄いじゃないか‼︎試しに解いた私でも少し難しいと思う問題もあったというのに‼︎

そして次は実技試験だ‼︎‼︎』

 

筆記試験の結果報告は手短にして、いよいよ嵐が気にしていた実技試験の話に入った。

 

『実技試験の成績だが、敵P(ヴィランポイント)が218P‼︎こちらも素晴らしい成績だ‼︎文句なしの主席合格さ‼︎』

「俺が、合格……」

「おめでとうございます‼︎嵐さん‼︎今日はお祝いですね‼︎」

 

自分が合格、しかも主席合格したことに信じられないと言う風に呟く嵐に、巴は瞳を潤ませながら心底嬉しそうな声音で言う。

 

『これだけでも……って、ええ?巻きで?彼が最後だろう⁉︎時間はまだまだ余裕あるはずだぜ?』

 

話を続けようとしたオールマイトは撮影者だろう人物にそう言う。

どうやら一人につき制限時間が設けられていたようだ。だが、オールマイトの話を聞くに自分で順番は最後見たいらしく、それを理由でオールマイトは撮影者を論破する。

そして、咳払いを一つ挟んで、オールマイトは話を続けた。

 

『コホン、さてこれだけでも君は合格、しかもぶっちぎりの主席合格だが、我々が見ていたのは敵Pのみにあらず‼︎

どんな状況であろうと救けることがヒーローには必要な心構えだ‼︎

偽善?綺麗事?大いに結構‼︎‼︎命を賭して綺麗事実践するのがヒーローのお仕事なんだからさ‼︎‼︎』

 

オールマイトは大層勿体ぶってそう言うと、大きく腕を広げながら遂にそれを言った。

 

『審査制の救助活動P‼︎それこそが、我々がみていたもう一つの基礎能力の採点項目さ‼︎‼︎

君の救助活動Pは———120P‼︎‼︎

見てたぜ‼︎君は危ない人を救け、怪我人の応急処置を行い、即席のチームアップでの協力撃破、最後には圧倒的脅威である0Pや残りの仮想敵を全て倒し多くの受験生を護ってみせた‼︎‼︎

カッコよかったぞ‼︎‼︎見ていた私も感動しちゃったよ‼︎』

「………」

 

親指を立てて称賛するオールマイトに、嵐は照れ臭そうに笑う。

あのNo. 1ヒーローに賞賛されるのだ。嬉しくないわけがない。

 

『そして、敵Pと合わせてトータル338P‼︎‼︎

最初から最後まで他の追随を許さない怒涛の快進撃‼︎素晴らしかったぜ‼︎‼︎戦闘力だけじゃない、その他の基礎能力でも君は目まぐるしい活躍をしてみせた‼︎‼︎

もう一度言おう‼︎君は合格さ‼︎しかも、ぶっちぎりの主席合格だ‼︎‼︎』

「〜〜〜〜ッッ」

 

もう一度はっきりと言ったオールマイトに、嵐は興奮や歓喜が抑えきれずに体を震わせながら、口の端を上げて笑みを浮かべる。

オールマイトは腕をこちらに向けて伸ばすと、最後に言った。

 

『来いよ八雲少年‼︎雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ‼︎‼︎』

 

その言葉を最後に、ホログラムは消えてオールマイトの映像は終わった。映像が終わり、静寂が訪れた嵐の自室。黙って見ていた嵐は、映像が終わると震える左腕で握り拳を作りガッツポーズをし、歓喜の叫び声を上げる。

 

「……っっしゃあぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」

 

自室どころか家じゅうに響き渡ったであろう歓喜の声。それほどまでに、嵐は雄英を主席合格したことが嬉しいのだ。

それは巴もだ。巴は遂に瞳から涙をこぼしながら嬉しそうに笑う。

 

「本当におめでとうございます嵐さん‼︎

いつも努力されていましたからね。……嵐さんなら必ず合格できると思っていました……‼︎」

 

保護者として、また師匠として嵐の成長をずっと見守ってきた彼女は、あの誉れ高き雄英に嵐が主席合格したことに心の底から喜ぶ。

 

「ああ、巴さんが鍛えてくれたお陰だ。ありがとう」

「私なんて、この合格は嵐さん自身が勝ち取ったモノですよ。私はほんの少し手助けしただけです」

 

嵐の感謝にそう謙遜した巴は、不意に何かを思い出すと表情をわずかに暗くさせながら嵐に問うた。

 

「あの……嵐さん、その、この事は……()()には?」

「必要ない」

 

戸惑いながらも尋ねる巴に、嵐はキッパリと答えると、表情に影を落としながら答える。

 

 

 

「俺はもうあの家の人間じゃないからな」

 

 

 

そう。もう彼らとは関わりがないのだから、雄英に受かった報告など必要ない。

それに対して巴は肩を落とし悲しそうな表情を浮かべるも、すぐに穏やかな微笑みを浮かべた。

 

「はい……では、買い出しに行ってきますね。今日は奮発しますよ‼︎」

「……ああ」

 

何かを振り払うように微笑みを浮かべながら、そう言った巴に嵐もまた穏やかな微笑みを浮かべそう答えると、同封されていた合格通知書類を読み始めた。

巴はそれを見ると、嵐に一礼し部屋から出て夕飯の買い出しに行った。

 

 

「…………」

 

 

一人になった部屋でしばらく無言で合格通知書類を読んでいた嵐は、徐に書類を開くと机に立てかけている写真立てに視線を向けると、悲しげな笑みを浮かべる。

 

「………紅葉姉、青葉姉、俺雄英に受かったよ。しかも、主席合格だ。

これでようやく紅葉姉と同じスタートラインに立つことができた」

 

写真には幼い頃の自分と、その左右に立って嵐を左右から抱きしめる真紅の瞳とポニーテール、翡翠の瞳とストレート、と尻尾の本数しか容姿に違いがない瓜二つの、金の狐耳を持つ二人の少女が写っていた。

一方は既にこの世におらず、もう一方は久しく会っていない大切で、大好きな姉達だ。

嵐はその二人を見て笑みを浮かべると、告げる。

 

「見ててくれ、俺は絶対にヒーローになるから」

 

幼い頃に大切な姉達と誓った約束を果たすために、今一度嵐は決意を新たにした。

 

 





余談ですが、A会場での合格者は嵐の他に耳郎、障子、拳藤の計四名のみです。
7つの会場で原作で40人しか合格者がいないのなら、一会場あたり5〜6人が平均だと思いましたので、ポイントを荒稼ぎした嵐のあるA会場は少し減らして4人ということにさせていただきました。

あと、感想でもあったのですが、人以外の被害は気にしていないという点ですが、気にしていないというわけではなく、加減が出来ていなくてやってしまったという感じです。
これからは建物に被害を出さないようにすることが嵐の課題となっていくでしょう。というわけですので、決して嵐が建物の被害を気にしていないというわけではありません。

そして、今回でストックが切れたのでしばらく書き溜めます。

嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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