天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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エペランクプラチナ行った。ちょー嬉しい。

今回からいよいよ雄英高校生活スタート、そして、みんな大好き相澤先生のご登場です


5話 普通じゃない始まり

 

 

 

4月。すっかり春の陽気で暖かくなり、花壇には花々が咲き、道路には薄紅色の花を咲かせる桜の木が並んでいる。

空は雲が少しある程度で鮮やかな青が広がる晴天。

そんな晴れやかな小春日和の日。今日、嵐はついに雄英高校の入学式の日を迎えた。

 

学校から送られてきた制服。

緑のラインがあるグレーのジャケットに、白無地のワイシャツに赤のネクタイ。そして緑無地のズボン。しかも、嵐の場合は万が一のための尻尾用の穴まであるまさに彼専用の制服を、彼は部屋にある姿見の前で着る。

鏡に映るのは真新しい制服に身を包んだ自分の姿。あの雄英高校の制服を着ていることに嵐は喜びを覚える。

 

「……よし」

 

やがて、満足そうに頷いた嵐は黒地に白いラインのあるリュックを手に取ると忘れ物がないかを確認してから階段を降りて玄関に向かう。

そして、玄関で赤いラインのある白いスニーカーを履いて靴紐を結んで立った時、見送りで玄関先で立っていた巴がふと声をかける。

 

「嵐さん」

「なに?」

 

嵐は巴に振り向く。すると、巴は目の端に涙を浮かべながら嬉しそうに微笑んだ。

 

「とっても良く似合っていますよ。格好いいです」

 

巴は嵐の雄英の制服姿を下から上まで見渡してそう言ったのだ。嵐もそれに対して快活な笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、行ってくる‼︎」

「はい、行ってらっしゃい」

 

巴が手をひらひらと振って嵐を見送る。

そうして嵐は扉を開けて外に出て、桜の花が舞う道路を駆け抜けていった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

入試の時と同じ道を辿った嵐は、雄英高校の正門前で一度立ち止まると巨大な校舎を見上げる。

 

「……今日から雄英生か」

 

感慨深そうに呟いた嵐は、改めて自分が姉と同じ雄英生になれた事を強く実感して、右拳を握りしめて小さくガッツポーズをする。

 

「……っし」

 

誰にも聞こえない程度の声量で声を出すと、顔を上げて正門をくぐる。そして、校舎内に入ろうとした時不意に後ろから肩をポンと叩かれた。振り向いた先にいたのはー

 

「よっ」

「入試以来だね」

「久しぶりだな」

 

実技試験で共に戦った3人、耳郎、障子、拳藤だった。耳郎が肩を叩いて、拳藤がそう声をかけてくる。障子もその後ろから着いてきていた。

 

「よぉ、お前らもやっぱ受かっていたか」

 

嵐は笑みを浮かべて彼らに振り向くと、合格したことを祝う。3人はそれにそれぞれ笑みを浮かべた。

 

「ま、ほぼあんたのお陰だけどね」

「そうだな。お前の手助けがなかったら、俺達はあの時に終わっていたかもしれない」

「私もだなぁ。最後の最後で荒稼ぎできたし。あれがなかったら危なかったかも」

「そうか。それで、3人は近くで会って一緒にきたのか?」

 

どうして3人が一緒にいるのか気になった嵐は3人にそう尋ねた。3人はそれに頷く。

 

「そんなところ。ウチと障子が駅であってさ、拳藤とは正門前で会ったの」

「それで話してたら、前に八雲がいるのが見えてさ。こうして声かけたってわけ」

「なるほど。そういうわけか」

 

嵐は耳郎と拳藤の説明に納得する。

入学式の時間とかを考えたら、今ぐらいの時間がちょうどいいのだろう。だから、こうして鉢合わせすることができたのだ。

そうして、4人はそのまま仲良く校舎内に入って教室を目指す。

雄英高校は校舎だけでなくその中、廊下もバカ広く、一階一階の天井が5m以上は有る。教室の扉も建物に合わせたかの様に高く、異形型の個性で大柄な体型を持つ者達へのバリアフリーに配慮した仕様なのだろう。

そして、無駄に広い廊下を歩きながら嵐はふと尋ねる。

 

「そういえばお前らはクラスどっちなんだ?ちなみに、俺はA組だ」

 

雄英高校にはクラスがA〜Kである。

ヒーロー科がA、Bでその他の3クラスずつある。普通科がC、D、E。サポート科がF、G、H。経営科がI、J、Kといった具合だ。

試験で知り合った面子だからこそA、Bのどちらかに割り振られたのか嵐は気になったのだ。

 

「俺もA組だ」

「ウチも」

「私だけB組かー。なんか、寂しいな」

 

拳藤以外の3人がA組だったことに、共に戦った仲間として1人だけ疎外感を感じた彼女はそう残念なふうに呟く。

だが、それに嵐達3人がすかさずフォローを入れる。

 

「別に対して問題はないだろ。お互いヒーローを目指して切磋琢磨することには変わらないんだ。休みの時間にでも情報交換とかしようぜ」

「うん、そうだね。別にお別れってわけじゃないんだし、また放課後にでも話そうよ」

「ああ。情報交換は良い刺激になる」

「……うん、そうだな。ありがと‼︎」

 

3人のフォローに嬉しそうに笑みを浮かべた拳藤はそう返した。

そして、しばらく歩いた頃、拳藤が所属するクラス、B組の札が先に見えた。

 

「私はここだな」

 

拳藤がそう言って扉に手をかけようとした時、嵐はふと思い出した様に彼女に待ったをかける。

 

「あ、そうだ。3人とも連絡先交換しないか?」

 

スマホを取り出しながらそう提案した嵐に3人は笑みを浮かべて「勿論」と答えてくれて、嵐は無事に高校初の友達を確保することができた。そして、お互い連絡先を交換した後、拳藤は扉に手をかけながら3人へと振り返る。

 

「またなー‼︎」

 

そう手を振りながら、拳藤はB組の扉を開けて中へと入っていた。扉の大きさに反して、彼女はガララッと容易く開けたので、軽い素材でも使っているのだろうか。

密かに嵐はそんなことを思っていたが、すぐ隣のA組。その前の扉に立つある人物を見て思考が途切れる。

 

「ハァ……あった……ドアでっか……」

 

扉の前で立っているのは、黄色い大きめのリュックを背負った緑髪の生徒。それは嵐が試験前のガイダンス時にフォローした緑髪の少年だった。

何をしているのか知らないが、どういうわけか彼はドアの前で立ち尽くしていた。

 

(あいつも受かってたのか)

 

あの時庇った彼が合格していたことに安堵しつつ、嵐は彼との距離を一気に詰めていき自ら声を掛ける。

 

「よ、おはよう」

「えっ、あっ、君はあの時の…‼︎」

 

緑髪の少年はビクッと肩を跳ねさせながら振り向くと、声の主があの時庇ってくれた人だと気づく、声を震わせながら頭を下げる。

 

「そ、その、あの時は庇ってくれて、ありがとう」

 

あの時のことのお礼をずっと言いたかったのだろう。やっと言えたと安堵する少年に嵐も表情を綻ばせた。

 

「気にすんな。俺がしたくてしたことだしな。

それにしても、お前も受かったんだな。お互いおめでとう」

「あ、う、うん、お陰様で………あっ、そ、そうだ!僕は緑谷出久。君の名前は……?」

 

名前を教えてほしいのだろう。若干、うずうずした様子の緑谷に嵐は笑いながら手を差し伸ばした。

 

「八雲嵐だ。これからよろしくな。そんでこっちの二人が……」

「うちは耳郎響香。よろしく」

「障子目蔵だ。これからよろしく」

「うん、よろしく八雲君!耳郎さん!障子君!」

 

3人の自己紹介を受けて緑谷はそう答えながら嵐の手に自分も手を伸ばして握手をした。

 

「んで、なんでお前は教室の前で立ってたんだ?」

 

やや挙動不審だった緑谷の様子に疑問を感じた嵐は思い切って尋ねた。緑谷は恥ずかしそうに笑いながらそれに答える。

 

「あ、それは、ちょっと入るのに緊張しちゃって……」

「もしかして、緊張しいタイプか?」

「そういえば、あの時も注意されてガチガチになってたね」

「確かにな。本番だと上がってしまうのか?」

「お、お恥ずかしい限りです……」

 

黒歴史になりつつあった入試の時の自分の姿を指摘されて、恥ずかしそうに恐縮する緑谷に嵐は笑った。

 

「はは、そう緊張すんなって、じきに慣れるだろ」

 

そう言いながら緑谷の代わりに嵐が扉に手をかけて開くと、中では———

 

 

「君‼︎机に足をかけるな‼︎雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか⁉︎」

「思わねーよ‼︎てめーどこ中だよ。端役が‼︎」

 

 

嵐が入試ガイダンスの時に注意した眼鏡男子と、服をだらしなく着崩したザ・不良な見た目の金髪の少年が言い争いをしていた。

何がどうしてこんなことになったのかは知らないが、嵐は彼らの言動からなんとなく察した。

 

「ボ……俺は私立聡明中学出身。飯田天哉だ」

 

眼鏡男子ーもとい、飯田は妙にカクカクした動きでそう自己紹介をした。それに金髪少年がガンを飛ばしながら反応する。

 

「聡明だぁ〜〜〜〜〜⁉︎くそエリートじゃねえかブッ殺し甲斐がありそうだなぁ」

「ブッコロシガイ⁉︎君ひどいな‼︎本当にヒーロー志望か⁉︎」

 

片や真面目が服を着たかのような少年。片や見た目、中身共にザ・不良な少年。

見るからに対照的な二人は、その外見に反さずに派手な言い争いを始めていた。その様子を見て、嵐達はドン引きする。

 

「うわぁ、何あれ……」

「教室にいるのだから、ヒーロー科のクラスメイトなのはわかるが……」

 

耳郎と障子は思わずそう呟いてしまう。

確かに初見でこんな光景を見れば、そんな微妙な反応を浮かべるのも仕方ない。

そして、緑谷も緑谷で何か嫌な予感があたってしまったと言うか、最悪だと言いたげな表情を浮かべている。

 

「ったく、どこにでもいんのな。ああいう奴は」

 

嵐としてはあの金髪少年は、中学の3年間で何度もボコっていた不良達とよく似ており、この雄英にもいるのかよと思わずため息をついてしまう。

それから、しばし思考すると一人頷き二人の方にずかずかと近づいていく。近づいてくる嵐に言い争いをしていた二人は当然気づく。

 

「む、君はあの時の……」

「あぁ?なんだテメェ」

 

飯田の反応はいいとして、金髪少年の反応は明らかに喧嘩腰な不良のそれだ。

嵐は懐かしいなぁと思いつつ口を開き答える。

 

「飯田の言ってることはともかく、とりあえず足を下ろせ。行儀悪ぃぞ」

 

やんわりとした口調で注意した嵐に、金髪の少年———爆豪勝己は鼻を鳴らして嗤う。

 

「ハッ、何言うかと思えば、そこのモブと同じようにくだらねぇことかよ。なんでわざわざテメェの言うこと聞かなきゃいけねぇんだ。アホくせぇ」

 

爆豪は威圧を込めてそう吐き捨てる。まるで自分が一番で、恐れるものは何もない。と言うのが、言葉や態度から感じられた。

普通の少年少女なら不良の威圧に多少威圧して、言いにくくなるのだが生憎、嵐は違った。

 

「はぁ………おい」

「ッッ⁉︎」

 

露骨に大きくため息をついた後、怒りに満ちた冷徹な声が響き、爆豪に自身の威圧を塗り替えるほどの壮絶な威圧が叩きつけられる。

爆豪は今まで感じたことがないような悪寒を感じ、思わず表情をこわばらせた。

嵐は爆豪を見下ろすと低い声音のまま口を開いた。

 

「何がくだらねぇだ。ふざけてんのか?このクソガキが。どうやら、テメェは常識がなってねぇようだな。物は大事に扱えって親に言われなかったのか?テメェのもんなら好きにすればいいが、この机は雄英のもんだ。テメェの私物じゃねぇ」

 

そう言うと、嵐は爆豪の首根っこを素早く掴んでそのまま軽々と持ち上げる。

189cmという高身長である嵐が爆轟を自分の目線と同じ高さまで持ち上げたら、170cm程度の爆豪では足が届くわけもなく宙にぶら下がる格好になってしまった。

突然子供のように、あるいは猫のように持ち上げられた爆豪はすぐにカッとなる。

 

「テメッ、離しやがれっ‼︎」

「ああ」

 

カッとなりながら、ポケットから右手を出して何かをしようとした爆轟だったが、何かをする前に嵐がパッとすぐに手を離す。すると、一瞬の浮遊感の後に爆轟は椅子に落ちた。

 

「ガッ⁉︎このっ、テメェっ…!」

 

割と高いところから落ちて腰か尻を打ったのか、伝わる痛みに爆豪は少し悶える。

苦悶する彼に嵐は言い放つ。

 

「まず小学校からやり直せ。

ヒーロー志望どうこう以前に、人としての社会常識がなってねぇテメェはろくなヒーローになんねぇよ。常識や礼儀ができねぇなら、とっとと帰って転校先でも探してろ」

「あぁ⁉︎……んだと…っ‼︎」

 

不機嫌や侮蔑を隠さずにそうはっきりと断言する嵐。その言葉に爆豪は顔にいくつもの青筋を立てながら、席から立ち上がり嵐を下から睨む。

見ての通り、爆豪はとてつもなく沸点が低い。そのうえ、かなりプライドが高い。

初日からモブ眼鏡にクソどうでもいい注意をされて気が立っていだと言うのに、それに加えて嵐にガキのようにおちょくられたことが彼のプライドを盛大に傷つけていたのだ。

現に、既に構えられている両掌からはバチバチと小さな火花が幾つも発せられている。

 

まさしく一触即発の空気に、先程まで爆豪を注意していた飯田も危険を感じて二人を止めなければと思うものの、殺気に等しい威圧と怒気の余波がこの教室全体に溢れており、それに晒され動くことすらできていなかった。

他のクラスメイト達も同様であり、耳郎に障子、そして後から来たであろう茶髪の女子は冷や汗を流しており、緑谷に至っては顔が青くすらなっている。ただ、早く終わってくれと願うことしかできていなかった。

というか、初日からやめてとでも言いたそうだ。

 

「さっきからべちゃくちゃと好き放題言いやがって……っ‼︎よっぽど死にてぇらしいなぁ…っっ‼︎クソ白髪野郎っ‼︎」

 

爆豪はよほど腹が立っているのか、親の仇を見るような尋常じゃない目つきで怒りに声を震わせながら、両掌の火花を一層強くする。

だが、嵐には大した威嚇にはならなかった。

 

「ハッ!そうやって、何でもかんでも暴力で解決しようとする。そこらのチンピラと同類じゃねぇか。クソみてぇな性格が滲み出てるぞ?そんなんでよくヒーローになりてぇとか言えたな。敵の方がお似合いだ」

「テメェ…っ‼︎いいぜぇ、お望み通りブッ殺してやるよっ‼︎‼︎」

 

嵐のあからさまな挑発に、プライドの高い爆豪が耐えれるわけもなく、もはや激突は避けられない。そう思った時だ。

 

「はいそこまで」

『ッッ⁉︎』

 

突然教室に一人の男の毅然とした声が響く。

動こうとしていた二人はピタッと動きを止めて、その声が聞こえたは方向ー教室の扉の方を見る。

そこにいたのは、真っ黒い服に身を包み、首元には白い包帯のようなものをマフラーのように巻いている長い黒髪に無情髭の、寝袋を脇に抱えている小汚い格好の一人の男性だ。

 

「あぁ?」

(あの人は…っ)

 

爆轟は思わず怪訝な声をあげるも、嵐はその男の姿を一瞥した瞬間に、僅かに驚いた。

なぜなら、嵐は一方的にだが彼のことを知っていたからだ。

嵐が僅かに驚くのをよそに、男は二人を視界に収めると歩み寄って二人を咎める。

 

「お前ら落ち着け。入学初日から問題を起こす気か?」

「……いえ、すみませんでした」

「………チッ」

 

男の指摘に嵐は素直に謝罪して、爆豪は小さく舌打ちすると構えを解いて、ポケットに手を突っ込んで不貞腐れる。

そして、男は二人の前に立つと咎める。

 

「一応経緯は耳郎達から聞いた。

爆豪、こればかりは八雲が全面的に正しい。

人として最低限の社会常識と礼儀ぐらいは身につけろ。もうお前は高校生なんだからな。それに、お前が所属しているのは雄英のヒーロー科だ。ヒーローを目指す以上、人から注目されるようになる。自分の振る舞いが人々に見られるようになる。その時、お前のような振る舞いをする奴がヒーローとして支持を受けれると思うか?」

「…………スンマセンした」

 

さすがの爆豪も教師に注意されては何も反論できない。彼は不貞腐れながらも渋々そう謝罪した。

爆豪の謝罪を受け取った男は軽く息をつくと、生徒達を見渡して口を開く。

 

「………さてと、俺が君達1年A組の担任の相澤消太だ。よろしくね」

((((担任なのっ⁉︎))))

 

先程の毅然とした態度から一転、気怠げにそういう相澤。あまりのギャップの違いにクラスメイト達はほぼほぼ困惑する。

入学初日にして、初めて生徒達の心がシンクロした瞬間だった。相澤はゴソゴソと寝袋を漁ると中から紺を基調としたジャージを取り出す。

 

「早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ。時間は有限だ。更衣室で着替えて十五分後に集合。更衣室は近くにある。くれぐれも遅れるなよ?」

 

そう矢継ぎ早に告げると、相澤は質問させる暇もなくさっさと教室を出てしまった。

 

『…………』

 

相澤が出て行った後、教室はしんと静まり返る。当然だ。嵐と爆豪が激突寸前まで行ったのだから。

 

「チッ……!」

 

静まり返る空気に居たたまれなさでも感じたのか、爆豪が舌打ちをしながら立ち上がると、鞄を持ちながらずかずかと嵐の脇を通って最後に扉の辺りで緑谷を一睨みするとさっさと出て行った。

嵐も気まずそうに頬をかきながら、改めてクラスメイト全体を見渡す。

 

「………あー、とりあえず、皆、迷惑かけてすまなかった」

 

彼らに殺気の余波を当ててしまったことに嵐はそう謝罪した。しかし、誰も返事をしないことに多少の気まずさを感じながらも、続ける。

 

「俺が言うのもなんだけど、とにかく急いで出た方がいいと思うぜ。あの人、多分厳しそうだからさ」

 

そう言って嵐はさっさと教室を出て更衣室へと向かった。

 

「あっ、八雲!」

「おいっ」

 

さっさと教室を出た嵐の後を耳郎と障子が慌てて追いかけていき、やがて他のクラスメイト達も慌てて更衣室へと向かった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

『個性把握…テストォ⁉︎』

 

相澤に言われるがままに更衣室で雄英の体操服に着替えてグラウンドに集合した嵐達は担任から告げられた言葉にそろって驚愕する。

 

「入学式は⁉︎ガイダンスは⁉︎」

 

その事に麗かな茶髪の少女がそんな抗議の声をあげるが、相澤はそれを一蹴する。

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事。出る時間ないよ。雄英は“自由”な校風が売り文句。そしてそれは“先生側”もまた然り」

『………?』

(………どう授業をするのかも、教師の自由ってわけか)

 

相澤の言葉に生徒達が揃って首を傾げる中、嵐だけは1人そう納得する。

姉の一人である紅葉がかつて雄英生であったことから、嵐は雄英の校風をある程度知っていたからだ。

 

「“ソフトボール投げ”、“立ち幅跳び”、“50m走”、“持久走”、“握力”、“反復横跳び”、“上体起こし”、“長座体前屈”。中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト」

 

どうやら彼が行おうとしている個性把握テストは、中学でもやったことある体力テストと同じものであるらしい。

 

「国は未だ画一的な記録を取って、平均を作り続けてる。全く合理的じゃあない。まぁ、文部科学省の怠慢だな」

(……確かに)

 

失礼ではあるが、嵐も相澤の意見に同意だった。“個性”の発現以降、元々の人間の体の作りとは離れた構造をしている異形型の“個性”を有している者は身体能力が通常よりも高い場合が多い。

だからこそ、同じ体力テストをやっていても常時発動型であるために個性の恩恵を受けて記録を次々と塗り替えてしまうのだ。

だからこそ、各個性に合わせた方法を取り組むべきだと嵐は常々思っていた。

相澤はそういうと、懐から金属のボールを取り出しながら呟く。

 

「まぁ、話すより、見てもらったほうが合理的だな。……確か、実技試験一位は八雲だったな。ちょっと来い」

『ッッ』

「はい」

 

入試一位。その単語が出た瞬間に、殆どの視線が嵐へと向けられる。多くのものが興味や好奇心などといった類だが、一部は敵意の様なものを向けているものもいた。確実に爆豪だろう。見なくてもわかる。

そして、嵐が主席合格したことに耳郎と障子はやっぱりなと納得していた。

 

嵐はさまざまな視線を無視して、平然と返事をしながら相澤へと近づき、相澤からなんらかの装置であろうボールを受け取った。

 

「……ソフトボール投げですか?」

「そうだ。ただし、個性を使用して、のな」

『個性を…⁉︎』

 

相澤の発言に今度こそクラスメイト達がざわつく。当然だ、これまでの体力テストは平均を取るために個性は使わない様にしていた。だからこそ、個性を使えるという事実に、クラスメイト達は驚いたのだ。

 

「一々騒ぐな。とっととやるぞ。因みに、八雲。中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」

 

本当に無駄を嫌う合理的な人なのだろう。

ざわつくクラスメイト達にそう一言告げると、すぐに嵐へと首だけを動かしながらそう尋ねたのだ。それに嵐は勿体ぶらずに答えた。

 

「350mです」

『ッッ⁉︎』

 

嵐は半異形型であるがゆえに、それだけの記録を叩き出せたのだが、当然それを知らないクラスメイト達は再びざわつこうとして相澤に注意されると思い驚くだけにとどめた。

 

「じゃあ、個性を使って思いっきりやってみろ。円から出なきゃ何をしても良い。はよ」

「うす」

 

嵐はそう頷くと徐に靴と靴下を脱ぎ、更には上着まで脱ぐ。突然服を脱ぎ出した嵐に、クラスメイト達は当然驚愕した。

 

「はっ⁉︎ちょっ、なんでいきなり脱いでんだっ⁉︎」

「ボール投げすんじゃねぇのかよっ⁉︎」

「……うっわ、すっごいバッキバキ……」

「細マッチョくんだぁ」

「……凄ぇ鍛えてんな。アイツ」

「…………まさか、あいつそんな趣味が……?」

 

2名を除いて三者三様の意見を言ってみせたクラスメイト達(約1名的外れな発言をしていたが)に嵐は快活に笑ってみせる。

 

「あー驚かせて悪ぃ。個性使うと服が破けちまうからさ、靴と上着だけ脱いでんの」

 

そう答えながら上裸になった嵐はズボンの裾をまくり早速両腕両足を変化させて実際にそれを見せる。

 

「ムッ、変化している……?」

「……あれって、鱗と飛膜?あれがあの人の個性なのかな?」

「なんだ、あの個性は……」

 

飯田と麗かな茶髪の女子ー麗日お茶子と腰から尻尾を生やした明るい金髪の少年ー尾白猿夫が思わずそう呟き、クラスメイト達の視線が嵐に集中する。

そんな中、同じ会場で受けた耳郎と障子だけは二回目ということもあって嵐の説明に納得していた。

 

「成程ね。だからあんな格好だったんだ」

「ああ。確かにあれだと服はダメになるな」

 

二人もそう呟く中、嵐は四肢を解すとボールを右腕で掴んで後ろに伸ばして、両足の鉤爪でしっかりと地面を掴む。

深く息をついた嵐は全身に力を巡らせると同時に右腕に風を纏わせる。ヒュオオオと音を立てながら嵐の右腕を中心に風が渦巻き小さな竜巻を形成していく。

 

「……風………?」

「えっ、あいつ変身系じゃないのかよ……」

 

風が吹き始めたことにクラスメイト達が動揺する中、嵐は地面に罅が生まれるほどに強く踏みしめると力のままに腕を振るい、

 

「ぶっ飛べぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」

 

裂帛の声で吼えながら、竜巻を解き放ち全力で投げた。瞬間、凄まじい暴風が吹き荒れボールを空へと押し上げていき、その風の余波で嵐の周囲の砂を巻き上げる。

そしてボールは天高く、高く登っていき、雲を突き破って消えた。

やがて一分もしないうちに相澤の手にある端末がピピッと音を鳴らした。相澤は画面に表示された数字を見ながら口を開く。

 

「まずは自分の最大限を知る事。それがヒーローの素地を形成する合理的手段。ここで君達には、個性を使った各記録の伸び代で、出来ることと出来ないことかを浮き彫りにしろ。それこそが己を生かす創意工夫に繋がる」

 

そう告げて相澤が見せた端末の画面には『7408.9m』という普通のボール投げでは決して出ない様な馬鹿げた数字が表示されていた。

その記録に、また、個性が使えるという事実にクラスメイト達は興奮する。

 

「なんだこれ‼︎すげー面白そう‼︎」

「7km越えってマジかよ‼︎」

「個性思いっきり使えるんだ‼︎さすがヒーロー科‼︎」

 

一気に騒ぎ始めるクラスメイト。だが、彼らの表情が喜色に満ちる中、嵐だけは冷めた目をして、表情を困ったものへと変えた。

 

(面白そう………は言わねぇほうが良かったかもなぁ)

 

嵐はこれまでの相澤の発言を思い出す。

まともに自己紹介すらしていない時点で、合理性云々いって、その後も合理性を重視した会話をしていた。

恐らく、今のクラスメイトの発言は相澤の前ではしてはいけない類のはずだ。

現に、

 

「…………面白そう、か。君達はヒーローになる為の3年間をそんな腹積もりで過ごす気なのかい?」

(ほらみろ)

 

嵐が予期した通り、相澤は不穏な気配を放ちながらそんな事を言う。その今までと違う迫力にクラスメイト達は多くが動きを止めた。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としようか」

 

そして、相澤はニヒルな笑みを浮かべるとついにそんな事を言い放ったのだ。

 

『はああああ⁉︎⁉︎』

 

そのあまりにも理不尽すぎる宣告にクラスメイト達は揃って驚愕する。

死に物狂いで勉強し、あの実技試験をくぐり抜けたというのにまさか入学初日に最下位は除籍などたまったものじゃない。いくらなんでも無謀だ。

 

「最下位除籍って……!入学初日ですよ⁉︎いや初日じゃなくても……理不尽すぎます‼︎」

 

あまりの理不尽な宣告に、麗日がそう抗議の声をあげる。他のクラスメイトも同様で彼女の抗議に頷くも、相澤はそれを全て一蹴する。

 

「生徒の如何は先生(俺達)の自由。これが、雄英高校ヒーロー科だ。

自然災害、大事故、身勝手な敵達……いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれている。

そういう理不尽を覆していくのがヒーローだ。

放課後マ◯クで談笑したかったのならお生憎。これから3年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続けるぞ」

 

ヒーローを目指すからこそ、その道は生半可なものではなく先生達はあらゆる試練を与えて生徒達を磨き上げていくつもりなのだ。

だからこそ、普通の高校生活を過ごせるとは思わないほうがいいのだ。

相澤は人差し指をクイッと曲げながら挑発するように言い放つ。

 

「“Plus Ultra(更に向こうへ)”さ。全力で乗り越えてこい。こっからが本番だぞ」

 

ニヒルに言い放った相澤に、これが最高峰の学校なのかと思う者、除籍のことを未だ引きずり青ざめている者、何を言ったところで通用しないと歯噛みする者。

十人十色の反応を見せた後、一人を除き多くのクラスメイトが腹を括り覚悟を決めた。嵐も同様だ。

 

「ハッ……上等だ。やってやる」

 

嵐は口の端を吊り上げながら、やる気十分というふうに呟く。

元より、覚悟などできている。この程度のことで萎縮していては、誓いを果たすことなど不可能だからだ。

 

「………」

 

そして、一人そう意気込む嵐の呟きが聞こえていたのか、相澤は無言で彼に視線を向けていた。

 

 






感想、誤字報告あればお待ちしてまーす。

嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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