天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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個性把握テスト続きです。


6話 最初の苦難

『第1種目:50m走』

 

こうして始まった個性把握テスト。名前順で行っていた為、『や』で最後になった嵐は2レーンあるものの一人で走る事になった。

先程のボール投げや最後ということもあって、クラスメイトの視線が嵐に再び集中する。

嵐は全員の視線が集まる中、入試の時と同じように左爪を地面に突き立てながらクラウチングスタートの姿勢をとる。しかし、今回はそれだけでなく、全身を変化させる。

黒い鱗、白い飛膜、黄金の角、長い尻尾が生えていき嵐の姿を人型の龍へと変えていく。

 

「えっ、まだ変化するのかよ……」

「風も使えてたし、本当になんの個性なんだろう」

 

クラスメイト達が彼の個性は一体なんなのかと思う中、嵐は全身に風を纏うと合図を待つ。

 

『位置ニツイテ、ヨーイ、ドン‼︎』

「ッッ‼︎‼︎」

 

機械音声の掛け声を合図に嵐は地面を踏み砕き飛び出した。じっと見ていたクラスメイト達の視線を振り切り、嵐の姿は消えた。

直後、ゴォォと轟音が響いて、周囲に風が吹き荒れた。

 

「うおっ⁉︎」

「きゃあっ⁉︎」

 

吹き荒れる暴風と舞い上がった砂塵に思わず腕で顔を覆うようにしていた彼らは、恐る恐ると目を開けた時にスタート地点に彼がいないことに驚愕する。

 

「お、おい八雲いねぇぞ⁉︎」

「どこ行ったんだ?」

 

金髪に黒い稲妻模様のメッシュがあるチャラい少年ー上鳴電気に続いて、髪を逆立たせて尖らせた赤髪の少年ー切島鋭次郎までそう言ったことで多くの生徒達が困惑して彼の姿を探す中、一人が気づいた。

 

「う、嘘……」

 

黒髪にポニーテール、釣り目気味の凜とした雰囲気の大和撫子風の、同年代の女子の中では抜群の美貌と豊満な体つきの少女ー八百万百。彼女がたった一人、困惑と驚愕混じりの声をあげたのだ。

 

「や、八百万さん、どうしたの?」

 

彼女の様子に隣にいたピンクの髪と肌、黄色い小さな角に、白目が黒目に反転している金眼が特徴の少女ー芦戸三奈が尋ねる。彼女は信じられないものを見ていると言わんばかりの表情を浮かべながら、ゴールの方を指差しながら答えた。

 

「や、八雲さんは……もうゴールされてますわ……」

『は?』

 

彼女の言葉に二人を除きほぼ全員が驚き、一斉にゴールの方へと視線を向ける。そこには、確かに八百万が言った通り、軽く息をついた嵐がいた。

 

「えっ、いつの間にっ…?」

「ほぼ一瞬じゃねぇかっ⁉︎」

「速すぎるにも程があんだろっ‼︎」

 

嵐が既にゴールにいたことに驚愕する中、嵐のそばにある計測器の数値を見て更に愕然とする。なぜなら、機械に表示されていた記録は———

 

「0.2秒って、速すぎだろっ⁉︎」

 

0.2秒と記されていたからだ。

クラスで二番目に早かった飯田の記録が3.4秒であったことから、単純計算で言えば嵐は飯田の15倍以上速いことになる。

そしてこの数値は、秒速に換算すれば約250m/s。時速に直せばそれこそ、900km/hと音速にもう少しで届く程の速度なのだ。

桁外れな速度を叩き出した彼にクラスメイト達が、とんでもない奴と同じクラスになったと思う中、当の本人はというと、

 

「だぁ—っ‼︎くそっ、タイミングミスったっ‼︎」

 

思いっきり悔しそうにしていた。

どうやら、彼としては飛び出しのタイミングと風の放出タイミングが合わなかったらしく、僅かなタイムラグがあったらしい。

そのせいで()()()()()()()()()()()()出せなかったと悔やんでいるようだ。

悔しがる嵐に耳郎と障子が近づく。

 

「いやいや、十分速いって‼︎」

「でも、タイミング合ってたらもっと速くなったんだよ」

「えぇ…」

「あれでも十分だと思うがな」

「ウチも同意」

 

嵐は今の記録には不満があるようだが、二人的には十分だと褒めた。

今の圧倒的な速度ですら、嵐にとっては遅いことに驚愕し、嵐の純粋な実力にこれからコレほど凄い奴と切磋琢磨するのかと萎縮してしまう者や、素直に感心した者、畏敬を抱いた者、多種多様の反応を見せる中、刺激を受ける者もいた。八百万もその一人だ。

 

(同年代のはずなのに、ここまで圧倒的な方がいらっしゃるとは。……世界はまだまだ広いですわね。私もまだまだ精進しなければ)

 

四人しかいない推薦入学者の一人である八百万は嵐を、推薦で入学してきたはずの自分よりも上であると認識して、尊敬の念を抱くようになっていた。

 

「…………」

「……チッ」

 

そしてA組もう一人の推薦入学者である右側白髪、左側が赤髪の左右で綺麗に色が違う髪とオッドアイ、そして左目に火傷の痕がある端正な顔立ちの少年ー轟焦凍が嵐をなぜか執念や憎悪のようなものが感じられる視線で観察するように見ていた。

爆豪も嵐が次々と叩き出した圧倒的な成績に、苛立ちを隠さずに小さく舌打ちをした。

 

「………」

 

嵐はそれらに気づきながらも、あえてスルーして次の種目の為に耳郎達と共に移動した。

 

『第2種目:握力』

 

増強系ではない者達は高校生平均よりも少し高い数値を出すだけにとどまっていたものの、障子は自信でもあったのか、自分の左腕の他に“個性”で片側二本の触手に腕を複製して三本の腕で540kgwの記録を叩き出した。

そして、もう一人八百万が万力を創造して障子に匹敵する記録を叩き出したのだ。

上位に位置する記録を叩き出した二人にクラスメイト達が驚き感心する中、嵐の番が来る。

ボール投げや50メートル走で注目を集めていた嵐は、今度は何をするのかと更に注目される中、握力計を掴み、

 

「ふんっ‼︎」

 

あらんかぎりの力を込めた。

すると、バギィッッ‼︎‼︎と音を立てて握力計が握りつぶされたのだ。

 

「あ、やべ……」

 

掌からパラパラと破片が零れ落ちる握力計を見ながら、嵐は少し青ざめる。しかし、クラスメイト達の反応は違った。

 

「うおお⁉︎ぶっ壊しやがったぁ⁉︎」

「すげぇ‼︎何キロあんだよ‼︎」

「ゴリラってレベルじゃねぇよ‼︎」

 

切島や上鳴、そして肘がセロハンテープのロールのようになっている少年ー瀬呂範太が興奮気味に叫ぶ。

 

「あ、いや、そうなんだけど……これ、壊し……」

 

興奮する彼らをよそに、昔同じことをやって弁償したトラウマがある嵐は呟きながら、青ざめた表情で恐る恐ると相澤に視線を向ける。怒られると思っていたが、彼は「気にしなくていいから、破片集めておけ」と言ってくれた。

 

結局、記録は計測不能になった。

 

「あんた、怪力にも程があるでしょ」

「全くだ。俺もコレには自信があったのにな」

「………またぶっ壊しちまったよ」

「え、アンタ、前にも壊したことあんの?」

「中学の時に……割と高かったんだよ、アレ……」

「弁償もしたのか……」

 

『第3種目:立ち幅跳び』

 

爆豪が両掌を連続で爆破させながら飛び続けていたり、腰にベルトのようなものを巻いている見た目は良いとこのお坊ちゃんな金髪少年ー青山優雅が腰のベルトからレーザーを出して飛んだりと、飛ぶ事が可能な個性を持つ者達が上位を占めた。それは、風を操れる嵐も同じであり、風でずっと飛んでいる為、記録は測れず嵐の記録は初の『♾』が出た。

 

「あんた飛ぶのはずるいでしょ」

「立ち幅飛びってことじゃね?」

「字が違ぇな」

 

耳郎に続いてそう言った上鳴に瀬呂がそう言う。そして、透明人間であるが故にジャージがひとりでに浮いているように見える透明少女ー葉隠透は快活な声で言う。

 

「個性使えるともう皆、枠に収まらないよねー。私透明なだけだから苦労するよ!」

「透明も透明でできることはちゃんとあると思うけどな」

「八雲くんフォローありがと!」

 

嵐の何気ない言葉に、葉隠は明らかに嬉しそうな声で言って腕を突き出す。手は見えないが、おそらくサムズアップしているのではないだろうか。

 

『第4種目:反復横跳び』

 

これは特に個性を応用した動きをできるものは少なく、嵐も風で緩急をつけることを考えたものの反復横跳び程度の横幅では不可能であるため、単純な身体能力のみで行い見事3桁代を記録。

しかし、頭部がまるでブドウのような小柄な少年ー峰田実が自身の頭部から粘着力が極めて高いが自身には跳ねる性質があるボール状の物質を山のように左右に積み重ねる事でその反発力を利用して残像が見えるほどの速度で動き一位の記録を叩き出した。

 

「峰田って奴、早すぎないか?」

「あれはしょうがないけど、単純に身体能力だけで僅差になったアンタが言う?」

「お前も大概だな」

「そうか?」

「「絶対そう」」

 

『第5種目:ソフトボール投げ』

 

これは嵐は既に二回投げたのでお休み。

ちなみに、あの後投げた二回目の記録は『7420.5m』とちょっとだけ伸びてた。

 

糖分を摂取する事で一定時間身体能力を底上げする、筋骨隆々の体躯とたらこ唇が特徴の厳しい顔つきの少年ー砂藤力道や、掌を爆破できる爆豪、腕の触手を複製させて遠心力と膂力を利用したフルスイングの投擲をした障子、大砲を創造してボールを打った八百万などが数百mの記録を出す中、一人嵐の記録を上回る記録を出した者がいた。

それは、麗日お茶子だ。

彼女は指先で触れたものを無重力にすると言う個性を持っており、それでボールを無重力状態にして投げた結果、『♾』の記録を叩き出したのだ。

 

そうして各々が個性を応用して様々な記録を出す中、ただ一人成績が芳しくないものがいた。

 

「………」

 

緑谷出久だ。

彼だけがどう言うわけか、どの種目でも平凡的な記録しか出せておらず、常に青ざめて焦っているような顔をしていたのだ。

 

(緑谷。お前、大丈夫なのか……?)

 

途中から緑谷の成績が芳しくなく、青ざめた表情にも気づいた八雲は密かに彼の心配をする。

初めは、除籍宣告されたことに驚いてその不安を未だ引きずっているのかと思っていたが、何か違う。何かは分からないものの緑谷の表情から察するに、何かただならないことがあるのは確かだ。

 

「なんか緑谷、めちゃくちゃ緊張してない…?」

「ああ。どう言うわけか個性を使う素振りもないな」

 

耳郎も障子も緑谷の様子に気づいたのか嵐の両側でそんなことを呟く。二人の言う通り、緑谷は種目が進むたびに青褪めていっているのだ。

そして、障子の言う通り、彼は今まで一度も個性を使用していない。

 

「………ああ、このままだとヤベェな」

 

嵐も緑谷をじっと見ながら二人に同意する。

彼が今まで一度も個性を使用していないことから、彼の個性が何らかの事情を抱えているものだと嵐は推測する。

例えば、反動が強すぎるあまり全力で使えなかったり、発動条件を満たしていなかったりと、考えられる可能性はいくつか考えられる。

しかし、例えそうだとしても、15歳になる頃にはその辺りのことも把握できていて、自分なりに模索できているはずなのだ。だが、緑谷はそれすらもできていないように見えている。

 

(個性の練度があまりにも低い。まさか、サボっていた?いや、そんなわけないか……)

 

そこまで考えて、嵐は緑谷が個性を使いこなせていないと推測する。

何らかの要因で個性の練度が低いのだろう。だが、それにも当然疑問は残る。

 

(緑谷の性格上、怠ることはしないだろう。だったら、どうして個性の練度が低い?)

 

ソフトボールを受け取り、焦っている表情を浮かべる緑谷を見ながら嵐は依然考え込む。そして、嵐達が抱いた不安は、他のものも感じたようで麗日や飯田も心配そうにしている。

 

「あの地味目の人、まだ良い記録出せてないよ。大丈夫かな?」

「ああ、このままだと緑谷君はマズいぞ……」

 

二人の心配する声に、嵐達が揃って視線を向けた時、爆豪が嘲笑する。

 

「ハッ、出来なくてたりめーだ。デクは無個性のザコなんだぞ‼︎」

 

爆豪の嘲笑に対して、飯田が強く反論する。

 

「無個性⁉︎彼が入試時に何をなしたのか知らんのか⁉︎」

「はぁ?」

 

飯田の発言に爆豪が何を言っているんだと眉を顰める中、緑谷がついに腕を振りボールを投げようとする。

その時、嵐は辺りの空気が張り詰めたようなものになった事ともう一つのことに気づく。

 

「っっ‼︎」

 

もう一つのこと。それは、ボールを投げようとした緑谷を相澤が髪を逆立てて瞳を赤く輝かせて視たのを。

そうして緑谷が投げたボールは、大して飛ばずに、『46m』と無慈悲に相澤が結果を告げた。

 

「え……な、なんで……今確かに、使おうって……」

 

緑谷は訳もわからず愕然として自分の手を見ながらそう呟く。やはり、個性を使おうとしたのだろう。しかし、個性は使うことができなかった。その事に、緑谷は動揺していたのだ。

動揺する彼に相澤は近づきながら忌々しげに呟く。

 

「“個性”を消した。ったく、つくづくあの入試は、合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」

 

そう呟く相澤は首に巻いていた包帯を解いて首元のゴーグルを顕にする。それを見てようやく緑谷は彼の正体に気づいた。

 

「消した…‼︎あのゴーグル……そうか……‼︎抹消ヒーローイレイザーヘッド‼︎」

 

『イレイザーヘッド』それこそが、相澤消太の正体だ。しかし、クラスメイト達はそのヒーロー名を知らないらしく殆どの生徒が首を傾げる。

 

「イレイザー?俺…知らない」

「聞いたことねぇヒーロー名だな」

 

首を傾げるクラスメイト達にその正体を知っていた嵐が説明する。

 

「抹消ヒーローイレイザーヘッド。視ることで個性を消す個性を持つアングラ系ヒーローだ。メディアへの露出も少ないからな、知らねぇ奴も多い」

「アンタはよく知ってたね」

「まぁな。つっても俺が知ってるのもそういった情報ぐらいだがな」

 

嵐は耳郎にそう誤魔化して答える。

実は初めて名前を聞いた時点で相澤の正体に気づいていた。なぜなら、相澤は幼い頃に姉紅葉から聞いた雄英での生活で名前が上がっていたからだ。それも……()()()()()()()()()()として。

彼女から話をよく聞いていたので、知らないはずがなかったのだ。

嵐達が話す傍らで、相澤も話を続ける。

 

「見たとこ、個性を制御できてないんだろ?また()()()()になって、誰かに救けてもらうつもりだったか?」

「そっ、そんなつもりじゃ…うわっ」

 

相澤の言葉に反論しようとした緑谷は相澤が伸ばした包帯で緑谷を自身に引き寄せながら言う。

 

「どういうつもりでも、周りはそうせざるを得なくなるって話だ。昔、()()()()()()()()が大災害から一人で千人以上を救い出すと言う伝説を創った」

 

それは誰もが知るオールマイトデビュー時の話だ。相澤の言う通り、彼は千人以上をたった一人で救うという大偉業を成し遂げた。

それこそが、オールマイト伝説の始まりでもあったのだ。

 

「同じ蛮勇でも……お前のは一人を救けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久。お前の力じゃ、ヒーローにはなれないよ」

 

容赦なく厳しい言葉を投げかける相澤に緑谷は冷や汗を滲ませる。それを耳郎達と話しつつも聞き耳を立てていた嵐は同じことを考えていた。

 

自己を犠牲にして誰かを救ける。

それは確かに蛮勇だが、結果多くの人を救い出したのならば偉業へと変わるのだ。

オールマイトがまさしくそうであり、彼は戦い続けて多くの人を今もなお救け続け、尚且つ自分も無事である。

対する緑谷は自己を犠牲にするところまでは同じだが、一人を救って行動不能になってそこでお終いだ。それでは駄目なのだ。ヒーローとは誰かを安心させるべき存在、だと言うのに誰かを救けて動けなくなり人々を不安にさせるなどもってのほかなのだ。

嵐はそうやって死んでしまった人を知っている。

だからこそ、緑谷のやろうとしていることに好感を抱くことができなかった。

 

(ヒーローは誰よりも前に立って戦わなくちゃいけない。………だが、それで死んでしまったら………残された人が悲しむだけなんだ……)

 

かつての自分がそうであったように。

嵐は過去を思い出してから僅かに表情を曇らせて人知れず、小さく拳を握りしめた。

 

(……八雲……?)

 

嵐の小さな変化に耳郎が気付くが、声をかけるよりも先に相澤の声が聞こえる。

 

「個性は戻した。ボール投げは二回だ。とっとと済ませな」

 

そう言うと、相澤は緑谷にボールを渡して二球目を促すと離れる。

 

「どうやら、指導を受けていたようだが……」「ハッ!除籍宣告だろうが」

「うぅ……大丈夫かなぁ」

「彼のことが心配?僕はね……全っ然」

 

未だにボールを投げずにブツブツと何かを呟いている緑谷を見てそれぞれの反応を見せる中、嵐は何かを思い出して飯田に尋ねる。

 

「そういや、飯田。さっき言いかけてたが緑谷は何を成したんだ?」

 

それは緑谷が入試の時に何を成したかのことだ。直後の爆豪の無個性発言も気になった彼はふと尋ねた。

 

「あ、ああ、緑谷君は入試の時に、あの0Pの仮想敵を———殴り飛ばして破壊したんだ‼︎‼︎」

「うん‼︎私も見たもん‼︎あの地味目の人、私達のこと救けてくれたの‼︎」

「飯田詳しく話せ」

「ああ、勿論」

 

そうして飯田は話し始める。

入試の時にオドオドして全くポイントを稼げていなかった緑谷はビルを薙ぎ倒しながら現れた0Pに腰を抜かしながら地面を這うように逃げていた。それを見た飯田は入試ガイダンスのこともあって、()()()()()()()()()()()()()()()そうだ。

そして、共に逃走を試みようとした彼らだったが、二人の後方で麗日が瓦礫に足を挟まれて動けない姿があったらしい。

 

飯田はそこで一瞬どうするべきかと迷ったものの、緑谷が迷いなく飛び出して0Pの頭部の位置まで高く跳躍すると、右腕を振りかぶって顔面を粉砕したと言うことだった。

 

それを聞いた爆豪は信じられないと言うふうに愕然と呟く。

 

「ちょっと待てやっ。デクは無個性なんだぞっ‼︎……んなっ芸当が出来るわけがねぇだろっ‼︎」

「だが、0Pを倒した後右腕がひどく腫れ上がって折れていたんだぞ‼︎あれは明らかに個性の反動だ」

「着地もできそうになかったし、両足もありえへん方向に曲がってたから、多分跳躍する時の反動もあったんよ」

 

あり得ないと取り乱しながら否定する爆豪にその一部始終を見ていた飯田と麗日はありのままのことを伝えた。それを聞いて、嵐の中では結論が決まる。

 

「決まりだな。緑谷の奴、強すぎる増強型の個性を使いこなせてねぇ。一回使えば体が壊れる程の代物ってわけか。ピーキーすぎるな」

「というか、他の会場でも0P倒した人いたんだね」

「む?それはどう言うことだい?まさか他にもいたのかい?」

「八雲がそうだな」

「そうなのかい⁉︎よかったら、詳しく聞かせてくれないか?」

 

あの0Pを倒したことに俄然興味が湧いたのだろう。飯田だけでなく、多くのクラスメイト達が聞き耳を立てており、嵐の話を聞きたがっていたのだ。

 

「ああ、いいぞ、だが、これが終わってから……っ」

 

後で話をしようとそう言いかけた嵐は、再び空気が変わったのを感じて勢いよくそちらへと振り向く。

その視線の先ー緑谷はボールを投げようとしていた瞬間だった。

嵐はボールが手から離れつつあり、最後に人差し指が掛かっているのを見て、彼の様子にただならぬ迫力を感じたのだ。

他の者は何も感じていない。だが、嵐だけは、嵐が持つ『龍』の個性だけが緑谷の雰囲気に反応したのだ。

 

「あいつ…っ!」

 

思わず口の端を吊り上げて笑みを浮かべてしまう。『龍』の本能が彼の存在を認識した瞬間だった。

 

「SMAAAAASHッッ‼︎‼︎‼︎」

 

緑谷はそう猛々しい叫びと共にボールを空高くへと打ち上げたのだ。ボールは大気を突き破りながら、勢いよく空へと飛んでいく。

そうして、打ち出された彼の記録は———なんと『705.3m』。先の爆豪の『705.2m』の記録を僅差で超えたのだ。

緑谷は個性の反動でひどく腫れ上がった人差し指の痛みに、涙を浮かべながらも拳を握り締めると相澤に笑った。

 

「あの痛み……程じゃない‼︎先生…‼︎僕は、まだ……動けます‼︎」

「コイツ……!」

 

相澤も土壇場でやってのけた緑谷に思わず笑みを浮かべてしまっていた。

嵐は腫れ上がる指を見る。飯田の話を照らし合わせて、緑谷が人差し指に力を集中させたのだと気づいた。

 

(右腕全体ではなく……指一本に力を集中させて、怪我を最小限に抑えたのか‼︎)

 

嵐も思わず笑みを浮かべてしまう。

人差し指一本でこの威力なのだ。だったら、もしも全力を完璧に使いこなせていたら、どれほどの威力が出せるのだろうか?嵐は密かにそれを想像して胸の内から密かに高揚感が湧き上がった。

 

「やるじゃねぇか、緑谷っ」

 

思わずそんな言葉を溢してしまう。他の者達も口々に声を上げる。

 

「やっとヒーローらしい記録出たよ———‼︎」

「指が腫れあがっているな。入試の件といい、おかしな個性だな……」

「スマートじゃないよね」

「うっわ、痛そう……」

「指一本であの威力か、凄まじいな」

 

各々が緑谷の記録に反応を見せる中、ただ一人周囲とは全く異なる反応を見せるものがいた。

 

「………‼︎‼︎」

 

爆豪だ。

彼だけは信じられないものを目の当たりにしたかのようにこれでもかと目を見開き、大口を開けて愕然としている。

 

(何だ今のパワーっ⁉︎あいつは無個性なはずだろっ⁉︎“個性”の発現はもれなく4歳までのはずだ‼︎なのに、ありゃぁ…ッッ)

 

爆豪は緑谷の幼稚園からの幼馴染である。

故に、彼が個性を持っていない無個性であることを知っており、また、強力な個性と天性のセンスで周囲からチヤホヤされ育った結果、プライドが肥大化しすぎて緑谷のことをデクという蔑称で呼び馬鹿にしていたほどだ。

だからこそ、目の前で起きた間違いなく“個性”によって齎された事象に驚愕を隠せなかったのだ。

そして、その驚愕はすぐさま激怒へと変わった。

 

「どういうことだこら‼︎ワケを言えぇ‼︎デクぅ‼︎」

「うわああ‼︎‼︎」

 

爆豪が飛び出し怒号を上げ、掌から断続的な爆発を引き起こしながら緑谷へと迫ったのだ。だが、その動きは突如後方から伸びた布によって止められる。

 

「んぐぇ‼︎」

 

爆豪は布に絡め取られると全く動けなくなり、掌からも爆発が消えてその場に縛り付けられた。

 

「ぐっ……んだ、この布…固ぇっ……‼︎」

「炭素繊維に特殊合金の鉱線を編み込んだ『捕縛武器』だ」

 

もがく爆豪に相澤は捕縛布を操り爆豪を拘束したまま呆れるようにため息をつく。

 

「ったく、何度も個性使わすなよ。俺は、ドライアイなんだ」

(((((“個性”すごいのに勿体無い‼︎)))))

 

個性を消す相澤の思わぬ弱点に、生徒達は揃って残念に思う。眼が武器なのに、その眼に弱点を抱えているのだから。

 

「時間がもったいない。次準備しろ」

 

爆豪の拘束を解き個性を解除すると、そう短く告げた。そして、何も言えなくなった爆豪をよそに緑谷は心配して駆け寄ってきた麗日と話しながら輪の中に戻っていく。

 

一人残った爆豪は立ち去る緑谷の背中を睨みながら、何とも言えない焦燥と怒りを表情に滲ませていた。

 

(クソッ、何なんだよ…っ‼︎後ろをついてくることしか出来ねぇテメェが……‼︎同じ土俵に立てるわけがねぇのに……っ‼︎何なんだよテメェはっ‼︎……ついこないだまで、道端の石っコロだったろーが‼︎‼︎)

 

常日頃から格下の雑魚だと見下し嘲笑ってきた存在が自分の記録を超えたことに、爆豪は肥大化しすぎたプライドが少しずつ砕かれていった。

 

 

嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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