天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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皆さん、新年あけましておめでとうございます!

去年は大変なことばかりでしたね。コロナしかり、大学のレポート然り、そして3つの拙作の同時連載など、色々と大変でした。ですが、私としてはとても充実した一年でもありました。

だからこそ、願わくば今年もそんな充実した一年になりますよう願っております。

こちらの作品をお読みになってくださる皆様、まだまだ未熟な点がありますが、今年も頑張っていきますので、私の拙作達をどうか応援よろしくお願いします‼︎‼︎


では、早速新年一つ目の最新話をどうぞ‼︎‼︎





7話 交流

 

 

途中、緑谷が怪我したりと爆豪が暴れ出したりと小さなハプニングがあったものの、その後も個性把握テストはつつがなく行われた。

 

『第6種目:上体起こし』

 

これは特に変哲もないもので、嵐は普通に純粋な身体能力で上体起こしを猛スピードでやって一位突破。

 

『第7種目:長座体前屈』

 

日頃から柔軟をして身体が柔らかい嵐は胸をペタと地面に張り付けれる程に前屈すると、更に距離を伸ばすために、頭部の角を生やして額を床につけて腕を伸ばした時よりも記録を伸ばした。

 

しかし、この種目でも嵐は1位を取り逃がしてしまった。

 

なぜなら、伸縮できる個性が数人いたからである。耳のプラグを伸ばしたり、腕の触手を複製して伸ばせる耳郎や障子は言わずもがなで、蛙吹という蛙少女がベロを伸ばして20mという記録を叩き出し、その後も黒の鳥頭の少年ー常闇踏影が臍から黒い影のようなモンスター黒影(ダークシャドウ)を出して蛙吹を超える記録を出したり、八百万が自身の腕からとてつもなく長い棒を創造して距離を伸ばしたりと上位を占めていた。

 

 

もはや長座体前屈じゃない。

 

 

「長座体前屈じゃ中堅かぁ」

「まぁ伸縮できる個性だからな。俺達のは」

「てか、あんたは他で圧勝してるからいいじゃん」

「まあな」

 

 

『第8種目:持久走』

 

 

持久走は嵐が風を纏って50m走の時よりかは少し遅い速度で飛翔して圧倒的一位。

バイクを創造して乗った八百万や、脚部のエンジンのギアを最大まで引き上げて猛スピードで駆けた飯田二人とも圧倒的大差をつけた。

 

「速度には自信があるんだがな。八雲君、君は本当にすごいなっ‼︎」

「お前もなかなか速かったぞ、飯田。それに、八百万はバイクまで創れるんだな。なんでも創れるのか?」

「いえ、私は無機物に限り創造できるんですの。八雲さんこそ、凄いですわ」

 

 

こうして、色々あったものの個性把握テストは全種目終了し無事終わった。

 

「んじゃ、ぱぱっと結果発表するか」

 

生徒達を集めた相澤はそう切り出して、続ける。

 

「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

 

そうして彼が持つ端末から展開されたホログラムには一斉に順位が公開されていき、一番上、1位の欄には嵐が………そして、最下位21位には緑谷の名前があった。

 

「………………」

 

各々が結果に反応を示す中、緑谷はしばらく見上げていた視線を力無く落とした。

記録らしい記録はボール投げだけであり、他はパッとせず持久走に至っては指の激痛で散々な結果だった。結果だけ見れば、仕方ないことであったものの、自分が除籍処分という事実に申し訳なさがいっぱいだった。

応援してくれて母に……そして、()()()()()()()にも申し訳なかった。

だが、その直後、

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

ホログラムを消しながらそう言ったのだ。

 

『⁉︎』

 

突然の発言に、クラスメイト達はほぼ全員の目が点になる。相澤はそれを見ながら、ハッとしてやったりな顔で更に衝撃的なことを言い出す。

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

つまり先ほどの最下位除籍という言葉は、ただ生徒達を追い込んでやる気を出させるための言葉であったのだ。

 

『は—————————⁉︎⁉︎⁉︎』

 

その心臓に悪い言葉に緑谷、麗日、飯田が揃って大口を開けて絶叫する。飯田はなぜか眼鏡のグラスが割れているし、緑谷に至ってはムンクの叫びのようなことになっていた。

 

「あんなのウソに決まってるじゃない…ちょっと考えればわかりますわ………」

(((き、気づかなかった………)))

 

ただ一人、八百万だけがウソだと気づいており緑谷達を呆れた様子で見ており、彼女の指摘に多くの生徒がそうだったのかと密かに驚いていた。

だが、嵐は嘘ではないことに気づいた。

 

(………除籍宣告が合理的虚偽……それ自体が虚偽………見込みありと判断してやめたんだろうな……)

 

嵐だけは相澤が除籍宣告した時の目が本気だったのに気づいてた。だから、何もなければ容赦なく除籍するつもりだったのだろう。

しかし、結果的に除籍はしなかった。

恐らくは緑谷の二回目のボール投げを見て考えを変えたのだろう。二回目、彼の犠牲を最小限にした行動が相澤に見込みありと判断させたから、今回のような結果になったのだ。

 

(……聞いてた以上に癖のある先生だなぁ、相澤先生。紅葉姉、優しい先生って言ってたけどマジか?)

 

紅葉姉から聞かされていた相澤の印象。

厳しいけど、実は優しい生徒想いな先生。そう聞かされていたのだが、今回の件だけみると嵐には、とてもではないがそうは思えなかった。

まぁ、そういうのはこれから追々分かっていくことだろう。

 

「ま、そういうわけだ。

これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類あるから目ぇ通しとけ。その後は自己紹介するなり好きにしていいぞ。それと、緑谷」

 

そう言って生徒達に背を向けて立ち去ろうとしていた相澤だったが、おもむろに緑谷の方に近寄り一枚の紙を見せる。

それは相澤のサインがある保健室利用書だった。

 

リカバリーガール(ばあさん)のとこ行って、治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだぞ」

 

そう言って緑谷に利用書を渡すと今度こそ立ち去った。

 

個性把握テスト『1位:八雲嵐』

 

それが、嵐の雄英高校に入学してからの最初の苦難の結果だった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

立ち去る相澤は生徒達に見えない建物の影に移動すると、そこにいた一人の人物に声をかける。

 

「……で、何で貴方がここにいるんです?オールマイトさん。暇なんですか?」

 

そこにいたのは、黄色のストライプのスーツに身を包む筋骨隆々の画風が違う大男。今年から雄英高校の教師に赴任したーNo. 1ヒーローオールマイトだった。

彼は、相澤の質問に少し慌てつつ答える。

 

「い、いや、私新米だからさ、他の先生がどんなことやってるのか気になってね……」

「……まぁ、新人教師としては正しいことなのかもしれませんけど……本音は?」

「いや、あの、相澤くん名簿で見たんだけど、去年の一年生…一クラス全員除籍処分にしてるでしょ?今年の子達は大丈夫かなって、心配で」

 

そう、相澤は多くの生徒を除籍処分にしている。その数は、なんと154回。しかも、オールマイトの言う通り、去年に至っては一クラス20名をまとめて除籍にしているのだ。

オールマイトはその事実を知り、A組に肩入れしている生徒がいるのもあって心配で様子を見にきたのだ。

 

「見込みゼロと判断すれば、迷わず切り捨てる。そんな君が前言撤回ってさ、君も緑谷君(あの子)に可能性を感じたからだろう?」

 

相澤は生徒に見込みがなければ除籍にすることも厭わない。だというのに、前言撤回をして緑谷の除籍処分を取り下げた。そのことに、オールマイトはそう指摘した。

その言葉に相澤は目ざとく反応する。

 

「…………………君も?随分と彼に肩入れしているんですね?教師として一生徒に入れ込むのはどうなんですか?」

「……ッッ」

 

相澤の最もな指摘に、オールマイトは分かりやすくギクッと反応する。

実を言うと、オールマイトは確かに緑谷に肩入れしている。しかも、ただの教師と生徒としての関係ではなく、()()()()であるが故にだ。

しかし、その関係性を知っているのは本当にごく少数の者達だけ。相澤もそれは知らない。

 

「“ゼロ”ではなかった。それだけの話です」

 

相澤はオールマイトの返事を待たずにそう続けて言うと、彼に背を向ける。

 

「見込みがない者はいつでも切り捨てます。半端に夢を追わせる事ほど残酷なものはないんで」

 

除籍処分もただ見込みがないからと言うだけではない。これは彼なりの優しさであって、ただ無関心だからと言うわけではないのだ。

そして、相澤はオールマイトとの話を終えて一人教員室に向けて歩く中、一人の生徒の事を考える。

 

(現状最も見込みがあるのは……八雲だな)

 

個性把握テストでの各種目での結果、いくつかは個性の特性上一位の記録は出せなかったものの、一位を出している種目においてはほぼ圧倒的で、他の生徒達とは隔絶しているほどだ。

見込みがあるかないかで言えば、嵐はあのクラスの中で一番ある。

 

()()()の弟か………本当に来たんだな。雄英に)

 

相澤はふと脳裏に一人の生徒の姿を思い出す。

自分が雄英高校に赴任してしばらくした頃に、対人戦闘で色々とアドバイスをした初めての弟子とも言える生徒。

今はもう不慮の事故でこの世にはいない思い入れのある生徒だ。

 

弟を溺愛しており、何度も休憩の合間に弟の話を聞かされていたからこそ相澤は嵐のことを入学前から知っていた。

 

(しっかし、似てるな。ああいうところは……流石姉弟だな)

 

先ほど除籍宣告した時、クラスメイト達の多くが戸惑う中、嵐だけが笑って見せた。その姿は、彼女とよく似ていたのだ。彼女も窮地に直面した時、笑うタイプの人間だった。

 

(さて、これからどうなるのか、見せてもらうぞ。八雲)

 

現状最も期待していると同時に、最も問題を抱えている生徒である嵐に相澤は密かにそう思った。

 

▼△▼△▼△

 

 

個性把握テストを終えて更衣室で着替えた後、嵐はクラスメイト達に囲まれていた。

相澤が終わりだと言ったものの、当然終わるわけもなく着替え終わってそれぞれカリキュラムに軽く目を通した後、爆豪と轟以外ほぼ全員のクラスメイト達が窓側の一つだけはみ出した一番後ろの席に座る嵐の元に集まって質問責めをしていたのだ。

 

「八雲君体力テスト凄かったねぇ‼︎」

「どんな個性なのか教えてくれよ‼︎」

「普段どんなトレーニングやってんだ?」

「実技試験の時のことを教えてくれないか⁉︎」

「イケメンで強いとかずりぃよ‼︎」

「八雲君ワイルドすぎるよ‼︎」

 

体力テストの成績のことを誉めたり、どんな個性なのかや身体つきからどんなトレーニングをしているかと気になったり、全く関係のないことを言ったりと様々な質問をされた嵐は、苦笑いを浮かべながら両手で彼らを宥めて言う。

 

「あー、わぁったから少し落ち着け。一つずつ答えていくからそんな詰め寄んな‼︎」

 

そうして殺到する彼らを落ち着かせた嵐は一つ咳払いをする。

 

「えー、ゴホン。んで、とにかく色々と聞きたいことがあんのはわかったが、まずはテストの時に話すって言っていた飯田からだ。お前のは確か0Pをどう倒したかだったよな?」

「ああ、その通りだ。八雲君はあれをどうやって倒したんだ?まさか、緑谷君と同じように殴り飛ばしたのかい?」

 

一番手は先程事前に話す約束を取り付けていた飯田だ。彼は嵐の問いかけに大きく頷くと少し前のめりになりながらそう尋ねた。

他の者達も気になっていたのか、興味津々に聞いており、緑谷や麗日も若干前のめりになっている。

嵐はその様子に笑みを浮かべながら、簡潔に答えた。

 

「いや、巨大竜巻で吹っ飛ばして鎌鼬で斬り刻んだ」

『は?』

 

突拍子もない返答に殆どの者が目が点になる。

推薦入学で仮想敵と戦っていない八百万ですら、目を丸くして首を傾げている。

どうやら、信じられないらしい。だが、まだ疑う彼らにそれを間近で目の当たりにした耳郎と障子がフォローを入れる。

 

「本当だよ。同じ試験会場だったウチらが保証する」

「そうだな。俺も見た。八雲は0Pとその周囲に群がった仮想敵を纏めて巨大竜巻で吹き飛ばしながら、更に風で切り刻んだんだ」

 

耳郎と障子の補足に、何かを思い出したのか上鳴が慌てた様子で尋ねる。

 

「えっじゃあ、ちょっと待て‼︎あの時試験終わる直前に見た竜巻ってまさかっ」

「ああ、それ俺がやった。やっぱ他の会場から見えてたのか」

『えぇ———⁉︎⁉︎⁉︎』

 

八百万と耳郎、障子を除くほぼ全員が揃って驚愕の声をあげる。

上鳴の話を聞くに、どうやら嵐が最後の最後に使った《神嵐・天津風》の特大竜巻は自分達がいたA会場だけでなく他の試験会場から見えたらしい。

そういえば、試験が終わった後更衣室で着替え終わった後、他の会場の受験生と思しき者達がそんなことを話していた気がすると嵐はふと思い出した。

 

「あれ八雲がやったのかよ⁉︎」

「すげぇなお前‼︎」

「才能マンかよって、レベルじゃねぇな」

「破壊力凄すぎひん⁉︎」

 

八百万以外の一般入試で受けた者は、誰もがそれを見ていた。そして、同年代にあれだけの力を持つものがあるのか、はたまた敵の襲撃でもあったのか、様々な憶測が受験生達の間で飛び交っており、ずっとその正体がわからなかったのだ。

だが、こうして張本人が見つかり、純粋な実力であれを成したことにクラスメイト達は驚くと同時に感心したのだ。

そして、飯田が更に続けて質問する。

 

「じゃあ、八雲君は入試成績何Pだったんだい?同じ会場だった障子君達の口ぶりだと相当稼いだように聞こえるが」

「敵Pが218で、救助Pが120のトータル338だったな」

『はぁぁ⁉︎⁉︎』

 

さらりと答えられた圧倒的な記録にクラスメイト達は揃って目を丸くする。

それもそうだろう。入試成績二位の爆豪ですら、77Pなのだ。それよりも低い彼らからすれば5倍以上は確かなのだから。

 

「300越えって何体ロボット倒したんだよっ⁉︎」

「無茶苦茶にも程があるよぉ‼︎」

「てか、そんなに稼げるのかよ⁉︎あの試験っ‼︎」

「そりゃ実技主席にもなるわ」

 

クラスメイト達が口々に声を上げて嵐が成したことに驚く。嵐もそんな騒ぐ彼らの様子に笑みを浮かべていたが、

 

「どんだけ強個性なんだよっ‼︎⁉︎」

 

切島が何気なくつぶやいた言葉にピクリと反応する。

 

(強個性、か………)

 

嵐は表情に影を落としながら、視線を机に落とす。

 

強個性。確かに自分の個性は話を聞いただけならばそう言いたくなるのもわかる。

空を穿つ巨大竜巻を生み出せるほどの風の力、並外れた強度と膂力を持つ変身型の力。どれか一つとっても、嵐の個性は並の個性を凌駕している。

 

だが、この力は…‥断じて強個性なんて耳触りのいい言葉で片付けられるものではない。

 

この力は……嵐の個性は……忌むべき『厄災』そのものだ。

 

(………俺のは、破壊することしかできない個性だ。………ただ副次的な物しか出してないから………)

 

強個性と思われてるだけ。

もしも、この個性の本当の力を見せて仕舞えば、きっと彼らもあの人達と同じように………。

 

そこまで考えて、嵐はその思考を止めて顔を上げるとわざとらしく笑みを浮かべる。

 

「よし、次からは挙手制だ。ただし、何でもかんでもは答えられねぇからそこら辺は分かってくれよ?」

「オッケー‼︎なら、私から‼︎」

「はい、葉隠‼︎」

 

ノリよく挙手した葉隠に嵐がビシッと指差して当てる。当てられた葉隠は溌剌とした声で話し始める。

 

「じゃあ、八雲君の自己紹介かな‼︎

名前に出身中学校、あとは個性と無難に誕生日とか好きなもの、趣味とか教えて‼︎」

「あー、OK分かった。ただ個性の話は無しにしてくれ」

「えー⁉︎なんで⁉︎」

 

一番聞きたかった個性の事を断られて葉隠はそんな声を上げてしまう。

他の者達も同様でどうしてと嵐に疑惑の視線を向けている。

 

「そんなに凄いのにか?」

「そう言われると、余計に気になるけどな」

「でも、強個性は確かなんだろ?」

 

口々にそんな事を言う彼らに嵐は少し悲しさを感じさせる笑顔を浮かべながら詫びる。

 

「悪いな。いつか話せるといいんだがな……今はあまり話したくねぇんだ。聞いてて気分のいいものじゃないから」

 

そう言った嵐に多くの者が聞きたいと思う反面、聞いてはいけないんだなと相反する思いを抱き困惑する反応を見せる中、耳郎と障子が止めに入る。

 

「無理矢理聞くのはやめようよ。誰だって話したくないことはあるんだしさ」

「ああ、八雲が話したい時に話せばそれでいいだろ」

 

二人が庇うようにそう言ってくれた。

二人とも入試の時に共に戦って他のクラスメイト達よりも少し早く交流を始めたぐらいでそれほど深い関わりがあるわけではない。

だが、それでもあの入試の時の彼のインパクトがあまりにも強く、暫く彼の存在が頭から離れなかったほどだ。

それほど強烈に残ったからこそ彼が厳しいが実は優しくて、不器用なのだと言うことにも気づいた。

 

そして………思いやりに溢れている男だとも。

 

だから、分かってしまった。

彼がなんらかの事情を抱えている事を。きっと、それは彼の個性に関係している話なのだろう。あれほどの覚悟を持つに至るほどの事が過去にあったのだ。

だからこそ、嵐が先程悲しげな表情を浮かべていたことにも気づけた。

二人の言葉に、聞きたそうにしていたクラスメイト達も折れる。質問した本人である葉隠も少し罪悪感を感じる。

 

「そ、その、ごめんね?気を悪くさせちゃったみたいで……」

 

慌てて謝罪する葉隠に手を振りながら嵐は大丈夫だと返す。

 

「気にしなくていいさ。これは俺の問題だからな。さて、確か自己紹介だったな。まず名前からだな。俺は八雲嵐だ。初日から色々と騒がせたが、これからよろしくな」

 

自身の名前を言って笑みを浮かべると軽く頭を下げてから、続きを話し始める。

 

「んで、出身中学は紅城中学ってところで、そこでは色々あって生徒会長をやってた。誕生日は9月13日。好きなものは八つ橋で、趣味は温泉巡りと音楽に読書だな」

「八つ橋に温泉巡りかぁ、渋いなっ‼︎」

「八つ橋美味しいよね!」

「生徒会長やってたんだぁ。なんか納得」

 

既にクラスメイトの嵐に対する認識は、爆豪と喧嘩していた不良っぽい怖い人ではなく、見た目は少し怖いが実は優しい人という風に変わっており、嵐の自己紹介に口々にそんなことを呟く。

そして、葉隠に続き切島が挙手しながら尋ねる。

 

「じゃあさ憧れてるヒーローいたら教えてくれよ‼︎」

「おういいぜ」

 

切島の質問に快く頷いた嵐は答えると小さく苦笑する。

 

「ただ、俺が憧れているヒーローは全然有名じゃないからお前らは知らないかもな」

「てことは、オールマイトじゃねぇのか」

「まぁそうなるな」

 

オールマイトは嵐の憧れのヒーローではない。

勿論、オールマイトが素晴らしいヒーローだってのは分かってるし、尊敬に値すべきヒーローだと言うのも分かっている。

だが、嵐がヒーローになることを志したきっかけとなったヒーローは他にいるのだ。

それは———

 

「狐火ヒーロー“クレハ”。その人が、俺が憧れたヒーローの名だ」

 

そのヒーローの名に全員が揃って首を傾げる。

 

「クレハ?初めて聞く名前だな」

「名前からして狐の個性使うのかな?」

「狐火つったから、炎かもしんねぇぞ?」

 

思い思いに呟くクラスメイト達。誰もがそのヒーローのことを知らないし、名前も初めて聞いたはずに違いない。

 

それも当然だ。

 

だって、その人は———もう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

数年前に自分達を守る為に命を賭けて、その末に亡くなってしまった大切な人だった。

過去のことを思い出して少し悲しげな表情を浮かべる嵐に、耳郎が尋ねる。

 

「そのクレハって人は、どんなヒーローなの?」

 

耳郎の問いに嵐は表情を一転させて昔を懐かしむように答える。

 

「そうだな。彼女は子供達の未来を守る為に戦える人だった。

『どんな個性を持っていてもその子供達が個性のせいで苦しまずに笑える未来を作りたい』常日頃から彼女はそう言ってたよ。俺はその背中に憧れた。

だから、俺も子供達が笑って過ごせる未来を護れるようなかっけぇヒーローになりてぇんだ」

「「「「おぉ〜〜〜!」」」

 

最後に笑みを浮かべてそう締めくくった嵐に感嘆の声と共にパチパチと拍手が巻き起こる。

 

「くぅ〜かっけぇな‼︎漢らしいぜ‼︎」

「子供達のためとかもう考え方がヒーローだよね‼︎」

 

切島や葉隠がそう声をあげる。

他の者達も嵐がなぜそういう考えを持つに至ったのかはわからなかってが、それでも彼の志はまさしくヒーローたるにふさわしい、素晴らしい志そのものだということがわかった。

 

「他にはあるか?個性以外ならある程度は答えるぞ」

 

嵐が周りを見渡しながらそう言う。次に挙手したのは障子だ。

 

「次は俺だな。入試の時から気になっていたが、八雲は相当戦い慣れているように見える。俺から見てだが、既に八雲の実力は上位のプロ並みの実力だと思う。だから、今まで一体どういう鍛錬を積んできたのか個人的に気になった」

「あっ、それウチも気になってた。試験の時、指示も援護も的確だったからさ」

 

あの時、共に戦った二人から見て嵐の動きは既にランキング上位名を連ねるトップヒーロー達に匹敵しているように見えたのだ。

自分達と同じ15歳の少年とは思えないほどの練度の高さに二人はその秘密が知りたかったのだ。

対する嵐は、数秒考えると笑みを浮かべるとなんてことのないように答える。

 

「ん〜、死ぬほど鍛えたってこと以外は特にこれといった特別なことはしてないんだが…まぁ、知り合いにプロヒーローがいてな、その人に色々と師事しているんだ」

 

知り合いのプロヒーローとは巴のことだ。

彼女は数年前までとあるプロヒーローの元で筆頭サイドキックを務めており、その実力はトップでも通ずるとそのヒーローからも評価されていたぐらいだ。

嵐はそれほどの実力を持つ彼女に師事しており、ヒーローに必要な様々なことを彼女に叩き込んでもらっていたのだ。

 

「成る程な。道理で」

「てことは、その師匠がクレハって人なの?」

 

当然とも言える耳郎の質問に嵐は首を横に振る。

 

「いや、その人じゃない。ただ、彼女も俺が尊敬するヒーローであることには変わらねぇな」

 

巴もまた嵐の尊敬するヒーローの一人だ。

だが、憧れているわけではない。それでも、今まで付き人兼保護者として今までずっとそばにいてくれた。

彼女には返しきれないほどの大きすぎる恩がある。だから、彼女に恩返しする為にもヒーローを目指していると言うのもある。

 

「他に質問あるやつはいるか?まだ答えれるぞ?」

 

耳郎にそう答えた嵐は全員に振り返りながら尋ねる。そして、その後もしばらく各々の自己紹介も交えた嵐の質問コーナーは続いた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

様子を見にきた相澤に「程々にしろ」と言われ嵐達は連絡先を交換した後各自解散。

そして、嵐、耳郎、障子は初日から誰も除籍されなくてよかったや、無事に一日目が終わって安心した等、微笑ましく話しながら共に廊下を歩き、玄関口に向かっていた。

 

当初は、B組に所属する拳藤の様子を見に行こうかとも話していたが、入学式に出ずに個性把握テストを行ったA組とはタイムスケジュールが違う、というかA組が強制的に変更されており、時間が合わないと考え後日また観に行こうと言うことになったのだ。

 

そうして、階段を降りて玄関口に向かっていると、

 

「お、拳藤」

「あ、八雲。それに耳郎も障子も、もう帰るのか?」

 

階段を降りた先で、会えないだろうと思っていた拳藤と他数名の女生徒達に出くわしたのだ。

拳藤は嵐達を視界に収めると、他の女子達に一言言うと三人に近づきながらそう呟いた。

 

「ああ、こっちは急遽変更になってな。そっちは見るからに、今から個性把握テストか?」

 

嵐は拳藤達の格好を見ながら尋ねた。

彼女らの格好は制服ではなく、体操服姿だ。だとしたら、スケジュール通りなら入学式やガイダンス諸々の後に個性把握テストを受けることになるはずだからだ。

これに拳藤も「うん」と頷いた。

 

「担任のブラド先生に言われてね。入学式もガイダンスも終わったから、グラウンドに集まれって………でも、八雲達の様子見ると、もしかして入学式出ないでそっちやった感じ?」

「そ、初日から最下位は除籍とか言われてさ、皆必死にやってたよ。な?」

「うん、最初は本当に焦ったよ」

「もっとも、その後は焚き付ける為の嘘だと言われて安心したがな」

「……えぇ、ぶっ飛んでんね、あんたらの担任。いきなり厳しすぎない?」

 

A組の個性把握テストが理不尽だったことを知った拳藤は顔を引き攣らせると苦笑する。

 

「まぁ、あの人なりの優しさなんだろうな」

「ふぅん、そうなんだね」

 

拳藤の言葉に答えた嵐に、拳藤は嵐が言うならそうなんだろうと素直に信じた。

 

「ま、八雲だけは余裕でやってて、一位取ってたけどね」

「八雲の記録はほぼほぼ圧倒的だったな」

「ああ、なんとなく想像出来るよ。八雲は大概ぶっ飛んだ奴だしな」

「どう言う意味だコラ」

 

二人の言葉に笑いながら賛同した拳藤に嵐は眉をひくつかせる。拳藤はそれに笑みを浮かべると、体育館で行われた入学式の途中で見た事を言った。

 

「だって、入学式の合間に、外で突風みたいなのが吹いて何かが空を突き抜けていったのを見たんだけどアレ八雲がやったんじゃないのか?」

「……確かに、それ俺のボール投げの時のだが、よく分かったな」

「やっぱりな。あの時のお前の大技見てたから、お前がなんかやったんじゃないかって思ったんだよ」

 

嵐の7キロ超えのボール投げの様子は、体育館で入学式を行なっていた生徒達の目にも入っていたらしく、B組ではちょっとした話題になっていたらしい。

拳藤は入試の時の嵐の大技を見ていて、それと似た現象だった為すぐに嵐がなんかやったなと思い至ったそうだ。

と、その時、少し離れたところにあるB組女子達から彼女を呼ぶ声が聞こえた。

 

「おーい、拳藤、もう行こーよ‼︎」

「ああうん‼︎すぐに行く‼︎……じゃ、私は行くよ。また明日な」

「ああ、また明日な」

「うん、明日ね」

「ああ」

 

口早に告げた拳藤に嵐達は3人揃って拳藤を見送った。そして、彼女達がその場から立ち去った後、嵐は二人に振り返る。

 

「そんじゃ帰るか。帰り昼飯食いにどっか寄らね?」

「いいね、どこ寄る?」

「俺はどこでもいいぞ」

「じゃあ、サ◯ゼとかどうだ?」

「そこでいいよ」

「俺もだ」

 

まだ昼までは時間的に余裕があったものの、彼らと交流を深めたかった嵐の提案に二人は快く頷いた。

 

 

初日から除籍宣告など慌ただしいスタートだったが、それでも嵐のヒーローアカデミアがついに幕を開けたのだ。

 

 




感想や誤字・脱字報告、それと何かご指摘があれば、これからの参考にしていきますので遠慮なくどうぞ‼︎

嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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