天を舞う大嵐、英雄とならん   作:桐谷 アキト

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9話 命の重さ

 

 

「チッ………話になんねぇな」

 

モニターを見上げていた嵐の第一声は、舌打ちと共に出たそんな言葉だった。

 

緑谷・麗日のAチームと爆豪・飯田のDチーム。

両者の戦いはー嵐から見て酷い結果だったと言わざるを得なかった。

結果から言えば対戦は緑谷・麗日のチームが勝った。だが、モニターには緑谷が白目を剥いて倒れていて、麗日が顔を青ざめてうずくまっておりそれを飯田が介抱しており、爆豪が呆然と立ち尽くしている姿があったのだ。

勝者であるはずの緑谷達がボロボロで、敗者がほぼ無傷という逆の構図が成り立っていた。

 

最初から展開は酷いものだった。

侵入した緑谷、麗日を、爆豪が飯田との連携を一切取らずに私怨丸出しの独断専行で二人を奇襲したものの爆豪の動きを読んでいた緑谷の機転で初撃は見事回避した。

その後、核の捜索を麗日に任せた緑谷は爆豪とのタイマンを決行。最初こそ爆豪の動きを予測できていた緑谷が善戦していたものの………爆豪のサポートアイテムで建物を破壊しかねない大規模攻撃を放って緑谷を精神的に追い詰めていき、タイマンでの殴り合いも爆豪の磨かれたセンスが光り、爆豪のリンチとなり緑谷は何度も爆破や打撃をその身体に叩きつけられていた。

 

しかしだ、最後に緑谷が己の個性で一階から屋上をぶち抜くほどの凄まじい風圧を伴ったアッパーカットを放つという奇策を用い、緑谷の指示で端に避難していた麗日の機転で核に触れることで緑谷達の勝利で終わった。

だが、その奇策の代償に緑谷は右腕が超パワーの反動でぶっ壊れ、左腕が爆豪の爆破を受け止めたことで火傷でボロボロ、それ以外にも蓄積したダメージのせいで白目を剥いて気絶していたり麗日も個性の反動で酔って吐きかけていた。

 

嵐は緑谷のボロボロになって倒れる姿に、過去の後悔を重ねてしまい、悲しげな表情を浮かべていた。

 

対する爆豪も大した怪我はないものの今まで馬鹿にし続けていた緑谷に完全に作戦負けしたことから茫然自失となって、倒れる緑谷の前で立ち尽くしていた。

 

(……飯田以外はまともに評価できねぇな。これは……)

 

嵐から見て、この試合は飯田以外誰も状況設定を活かせていなかった。

ビルを破壊しかねない大規模攻撃を放った緑谷、爆豪は当然のこと。核があるにも拘らずに、瓦礫を弾丸のように飛ばした麗日も、彼らの攻撃の、衝撃でもしも核が爆発してしまったら、ということを全く考えていない。

 

本当に爆破して大規模な被害を齎してしまったのなら、万が一生き延びれたとしても人々からの信頼は無くなるし、愚かだと罵られ続けるだろう。

 

(………ったく……クソ餓鬼が…)

 

爆豪達を迎えに行ったオールマイトを見送りつつ、嵐は腕を組んで壁にもたれながら、モニターの中で冷や汗を流しながら荒い呼吸を繰り返す爆豪を静かに睨んだ。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

爆豪達を迎えに行ったオールマイトが戻った後、大怪我を負って保健室に運ばれた緑谷を除き全員が集まるとさっそく講評が始まった。

 

「じゃあ第一試合の講評をしていこうか‼︎結果は、緑谷少年と麗日少女のAチームだけど、今戦のベストは飯田少年だ‼︎」

「なな⁉︎俺ですか⁉︎」

 

オールマイトの言葉に飯田は驚愕し、麗日がまだ気持ち悪いながらもそこに悔しさも滲ませる。彼女自身はわかっているのだろう。だが、蛙吹はわからずに尋ねた。

 

「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」

 

まだ歩き始めてヒーローとしてまだまだ未熟である為に、何故勝った二人のどちらかではないのかと疑問に思ったのだ。

だが、実戦想定した上でのこの結果ならば、オールマイトの言った通り飯田がMVPなのは分かる人には分かるのだ。

 

「何故だろうなぁ〜〜〜〜?分かる人‼︎」

「はい、オールマイト先生」

 

勿体ぶるオールマイトに八百万が静かに挙手をして発言をする。

 

「はい、八百万少女‼︎」

「飯田さんがベストだったのは、飯田さんが一番状況設定に順応していたからです」

 

飯田がベストだった理由を説明した後、他の面々の悪い点を指摘していく。

 

「爆豪さんの行動は、戦闘を見た限り私怨丸出しの独断専行。そして先ほど先生もおっしゃっていた通り、屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですね」

 

特にビル内で大規模破壊をした二人には辛辣な評価が付けられる。

爆豪はこのメンバーの中でも比較にもならないほどの愚かな行為を何度も繰り返しており、サポートアイテムを使用した大規模爆撃は、護るべき牙城の損壊を招く行為として愚策と評価。

 

対する緑谷も建物の真ん中を貫くほどの風圧を伴ったアッパーカットが爆轟と同じく愚策だった。ヒーローとして出さなくても良い被害を出したからだ。それに加えて、彼は入試の時同様、また戦闘不能で倒れた。

試合に勝つ為に自爆覚悟での大技を使用して、勝って自分も戦闘不能になること自体が話にならないのだ。

 

「麗日さんは中盤の気の緩み。そして最後の攻撃が乱暴すぎたことが悪い点ですね。

ハリボテを「核」として扱っていたら、あんな危険な行為できませんわ」

 

麗日は途中敵役になりきろうとしていた飯田を見て吹き出してしまい、飯田に気づかれたこと。加えて、緑谷が打ち上げたアッパーの余波で巻き上がった瓦礫を無重力にした柱でホームランのようにスイングして撃ち放った攻撃は、ハリボテを「核」として扱っていれば、やってはいけない行為であり、訓練だからこその甘えだったのだ。

そして、最後に飯田だ。彼にはおおよそ悪い点はない。

 

「相手への対策をこなし且つ、“「核」の争奪”をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは「訓練」だという甘えから生じた反則のようなものですわ」

 

飯田が最も役に準じており、麗日への対応策もちゃんとこなしていたあたり、彼がベストなのは明白なことなのだ。

そうして八百万は話を締めくくった。

 

「………‼︎」

 

飯田は予想外の講評に感極まってしまっていた。だが、他のクラスメイト達は完全に沈黙していた。

 

「「「「………………」」」」

(お、思ってたより言われた‼︎)

 

オールマイトも自分が想定していた以上にダメ出しされたことに顔を引き攣らせながらも何とか左手を上げてサムズアップする。

 

「ま……まあ、飯田少年もまだ固すぎる節はあったりするわけだが……まあ…‥正解だよ、くう……‼︎」

 

思ったより、悔しそうだった。

教師としての初仕事なのに、よもや10代の少女がここまで見事な分析をして教師の自分が出る幕がなくなってしまったのだ。

 

「常に下学上達‼︎一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので!」

 

腰に両手を当てて自信満々に彼女はそう言った。推薦入学者でもある彼女は真面目な気質なのだろう。

「で、では、他には、いるかな?」

 

オールマイトは若干震える声で尋ねる。

かなりズタボロに言われたが、それでも教師として授業をしていくのなら、他の生徒達もあれば聞かなければいけない。だからこそ、そう尋ねた。

そして、嵐が冷たい表情を浮かべたまま静かに挙手をして発言をする。

 

「オールマイト、俺からもいいですか?」

「む?八雲少年、君も意見があるのかい?」

「ええ、いくつか言いたいことはあります」

 

嵐はそう言うと冷徹な表情のまま話し始める。

 

「まず、八百万の講評には俺も同意です。飯田と麗日の評価には異論はありませんが、緑谷、爆豪の二名に関してはいくつか付け加えさせて講評させてもらいます」

 

八百万の意見に概ね同意を示し、飯田、麗日の評価には異論なしを示す。しかし、緑谷、爆豪に関してはいくつかの補足をしていくと言う。

現状、クラスで最も注目されている嵐の講評にクラスメイトたちの視線が集まる中、彼は話し始める。

 

「まず、緑谷はあの自己犠牲が過ぎる精神を直した方がいいかと。あんな自爆覚悟の戦い方は、はっきり言って死に急いでいるといっていいし、見ていて気分のいいものじゃない。

何より、彼が現状解決すべき問題は個性の制御を早急にできるようにすることです。個性を使うたびに体を壊して倒れていては、本当に体が保たなくなる。個性の制御ができれば、彼の戦い方の幅は広がり、精神身体共に余裕が持てるのは確かなはずです。

だから、今緑谷に求められているのは個性の制御と自己犠牲の考え方の矯正でしょう」

 

そう言って緑谷の講評を締めくくると、爆豪へと冷徹な表情を向けると、言葉に明らかな怒気をのせてはっきりと告げた。

 

「でだ、爆豪。テメェ何のつもりだ。自分がヒーローを目指してるって自覚はあんのか?」

「……っ」

 

嵐の怒気が篭った言葉に、緑谷にプライドをズタボロにされ意気消沈していた爆豪は顔を上げるが、その表情はいつもの勝ち誇ったものではなく嵐に対する怯えがうかがえた。

そんなことはどうでもいい嵐は、そのままずかずかと彼に近寄ると彼を高いところから見下ろし睥睨する。

 

「ペアの話を聞かずに私情での暴走。ヒーローであるはずなのに、ビルを破壊しかねない大規模攻撃を私怨を晴らすためだけに使った。

あれがヒーロー?いいや、違う。あんなのはクソ餓鬼だ。自分の思い通りに行かなかったら駄々をこねて癇癪散らすだけの傍迷惑なクソ餓鬼だっ」

 

そうして嵐は彼の胸ぐらを掴み上げて持ち上げる。

 

「……ぐっ⁉︎」

 

苦悶の声をあげて爪先立ちになる爆豪の顔に自分の顔を近づけた嵐は激情を滲ませて怒鳴る。

 

「いいか‼︎ヒーローってのは勝つだけじゃねぇ‼︎その後ろにいる人達を護って救ってやっと、そいつらはヒーローって呼ばれんだよ‼︎‼︎

ヒーローの本質は誰かを護って救うことだ‼︎‼︎

ヒーローは自分の行動一つ間違えれば、それだけで多くの人を死なせてしまうことだってあんだよ‼︎‼︎

俺達はこれから先多くの命を背負わなくちゃならねぇ‼︎そんな時にテメェが勝つためだけに他人の命を軽んじる真似をしてみろ‼︎テメェだけじゃねぇ、ヒーロー全体の信頼が揺らいじまうんだよ‼︎

お前がやってるのはそう言うことだ‼︎人の命だけじゃねぇ、多くの人の信頼までお前は潰そうとしてんだよ‼︎‼︎」

 

嵐の瞳に宿るのは明確な怒り。

爆豪の姿は嵐が理想とするヒーローの姿とは正反対もいいところだった。

嵐が理想とするヒーローは、彼女は、未来を生きる子供達や、今を生きる人達を守る為にヒーローになろうとしていた。

彼はそんな彼女の、狐火ヒーロークレハという優しい姉の背中に憧れたのだ。

だからこそ、私情を優先して好き勝手して、他人の命を軽んじている爆豪の姿が許せなくて、怒りを抱いていたのだ。

 

「テメェみてぇな奴は今まで何度も見てきた。

癇癪撒き散らして他人の命をおろそかにするような馬鹿なことをする。昔からずっとそうだったんだろ?その個性で人を黙らせて、我を押し通して好き勝手にやってきたんだろ‼︎違うかっ‼︎」

 

爆豪は何も答えれない。

嵐の言葉が全て事実だからと言うのもあるが、それ以上に彼の折れた心では嵐の怒気に満ちた圧迫感に反論すらできなかったのだ。

 

「御山の大将で好き勝手したいんなら、ヒーローを目指すのなんかやめちまえ‼︎‼︎どこかでヴィジランテでもチンピラでも好き勝手にやってろ‼︎‼︎」

 

嵐は最後に怒鳴ると、爆豪を荒っぽく突き放す。爆豪はよろよろと後ろに蹌踉めいて尻餅をつくと視線を床に落としたまま魂が抜け切ったかのような様子で座り込む。

それを見下ろしながら、嵐は更に告げた。

 

「テメェの課題はとにかくその腐った性根を直せ。何か自分の思い通りに行かない度に癇癪を起こすのをやめろ。それができりゃあ、少しはマシになんだろ。

そして、忘れんな。俺らの背中にはこれから常に多くの人命が背負われ、多くの信頼が向けられることになることを。それらを決して蔑ろにするな」

 

そう淡々と告げると小さく息をついて話を締めくくると、爆豪から身体ごと視線を背ける。

そして、嵐の言葉に生徒達が各々の考えを抱いている中、嵐は瞳に怒りを宿らせたままオールマイトに視線を向けると怒気がこもった低い声音で告げる。

 

「最後にオールマイト。貴方にも俺は言いたいことがある」

「……っ」

 

15歳の少年が放ったとは思えないほどの壮絶な威圧に、オールマイトは思わず体を強張らせて、額からは冷や汗が流れた。

そして、オールマイトへと足を進める嵐を耳郎が慌てて前に出ながら止めた。

 

「ま、待ちなよ八雲っ‼︎流石に先生に口出しするのはダメだって‼︎少し落ち着こ…?」

 

爆豪への言葉は別に構わないが、教師に口出しするのは流石にダメだと思っている耳郎は二人の間に立ちながら、嵐を必死に宥めようとする。しかし、嵐は耳郎の顔を見ないまま首を横に振った。

 

「いいや、この人には今はっきりといっておく必要がある。No. 1でも関係ねぇ」

 

そう言って嵐は耳郎を優しく横へ退けると、オールマイトの前へと遂に歩いて行き、その顔を見上げながら、はっきりと尋ねた。

 

「オールマイト、何で貴方は爆豪が大規模攻撃をした時点で止めなかったんですか?」

「ッッ‼︎」

 

オールマイトが息を呑んだのが嵐には分かった。まるで、分かっていたことを言われたようだ。

動揺に肩を揺らしたオールマイトを見やると、嵐はそのまま続ける。

 

「貴方はプロヒーローであるが、今は同時に教師だ。教師であるならば訓練中の生徒の命は必ず守らなくちゃいけない。

だが、貴方は爆豪の大規模攻撃が放たれた直後、最も止めるべきタイミングで訓練を中止にしなかった」

 

嵐は視線一層鋭くして淡々と告げていく。

 

「授業で生徒が死んだら、その責任は貴方が背負うことになる。だが、人の死は貴方だけでなく多くの人に影響を与える。意図せずに殺してしまった者。同じ訓練に参加していた者。それを見てしまった者。そして、親しかった者や家族にも。人一人死ぬだけで、多くの人の心に傷が残るんです。

オールマイト、貴方はそれを十分知っているはずです。だから、訓練でも細心の注意を払わなくてはいけない」

 

平和の象徴と謳われるNo. 1ヒーローオールマイトは初めから強いわけではなかったはずだ。

もしかしたら、彼にだって助けられなかった人がいるかもしれないし、失敗や挫折も多かったはずだ。

だというのに、オールマイトは……肝心な所で止めなかったのだ。

嵐は無意識のうちにか、握りしめた両拳を震わせるほど強く握りながら、僅かに怒りに震える声で言った。

 

「…………なのに、どうしてその可能性を考慮しなかったんですか?現に、緑谷は大怪我して保健室に運ばれました。貴方があの時、止めていればそうはならなかった。それが、例え煮え切らない結果になったとしてもです。

最後も、あの部屋の真ん中に飯田がいなかったから大惨事にはなりませんでしたが、万が一にも飯田が麗日を捕らえるべく前に飛び出したのなら、彼は良くて重傷、最悪死んでました。緑谷の行動はそれだけ危険なものでした」

「………っ」

 

嵐の指摘に背後で飯田が表情を強ばらせていた。自分がそうなる可能性を考えていなかったんだろう。

あの超パワーの風圧で自分が吹き飛ばされ、木っ端微塵になる姿を想像してしまったのだ。

嵐はそれを尻目に見ながら、続ける。

 

「人の命はそれだけ重いものです。

それに対して責任なんて取りたくても取りきれないし、死ねば周りの人の心に傷を与えることになる。だから、もしもが起こる前に何かをしなければいけない。何か起きてからではもう手遅れなんです。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「………っっ‼︎八雲、少年……」

 

オールマイトは教師として、相澤などの他の教師陣と共に嵐の特殊な家庭事情を把握している。だからこそ、彼がそう思うようになった理由も察することができたのだ。

そして、嵐の指摘にオールマイトは自分が愚かなことをしたと強く自覚せざるを得なかった。

 

緑谷はオールマイトにとって愛弟子だ。

去年知り合った仲であり、彼が雄英に合格できるように鍛え上げた。

だからこそ、彼には特別な思い入れがあり、ヒーローになる以外で初めて見せた激情を前に、長年追い続けてきた爆豪に勝たせてあげたくて、彼の気持ちを汲んでやりたいと師としての想いを優先してしまったのだ。

 

彼の見据える未来には必要不可欠なものだとして。

 

だが、その結果緑谷は大怪我して意識喪失し保健室に運ばれた。

それは、果たして彼を思い遣ってのものなのか、否、例え思いやれていたとしても彼の、教師としての行動は愚かだと言わざるを得なかったのだ。

 

(私は……何をやっている⁉︎最初に贔屓目なしで見ていくと言ったじゃないか‼︎……彼の指摘した可能性だって、すぐに気づけたじゃないかっ‼︎)

 

オールマイトはただただ自分の行動を恥じた。

一人の教師としてでなく、プロヒーローとしても、また師匠としても自分の行動は間違っていた。

それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にあのような言葉を言わせたこと自体、彼の秘密を知っている者として最低な行為だった。だから、今すべきことは、その愚行に対する謝罪と指摘してくれたことに対する感謝だ。

 

「全く以って君のいう通りだっ。私には何の反論もしようがない程に君の言葉は正しいっ。君は彼らの未来を思ってそう言ってくれたんだっ‼︎

八雲少年、指摘してくれてありがとう。そして、本当にすまなかったっ‼︎‼︎」

 

オールマイトが感謝と謝罪を言いながら嵐に深々と頭を下げた。あのNo. 1ヒーローが頭を下げる姿にクラスメイト達が揃って動揺する中、嵐は表情を綻ばせながらやんわりという。

 

「どうか頭を上げてください。

貴方に頭を下げれられるなんて恐れ多いことです。それに、俺の方こそすみません、一生徒としてすぎた真似をしました」

「いいや、君の言葉は正しいよ。だから、これからも、こういうことがあったら遠慮なく言ってほしい。私は教師としてはまだまだ未熟だから、君のような子の指摘は本当にありがたいんだ」

「では、そういう機会があれば……」

 

オールマイトと嵐の話し合いに決着がついて落ち着いたのを見て、クラスメイト達は安堵するも誰もが真剣な表情を浮かべていた。

誰もが彼の言葉を重く受け止めていたのだ。

訓練とは言えど訓練中の事故で死んでしまうことはある。だからこそ、常に訓練を訓練として甘えて受けるのではなく、実戦を想定する場として使い気を引き締めて臨むべきだと理解したのだ。

 

個性把握テストの時同様、自分達は個性を使えることに、浮かれている部分があったのだろう。だが、昨日の相澤の言葉にもあった通り理不尽を乗り越えていくには、そのような浮かれた気持ちがあってはダメなのだろう。

 

クラスメイトの多くが嵐の言葉を真摯に受け止めて、気を引き締めたのだった。

 

 

▼△▼△▼△▼

 

 

 

「では、場所を変えて第二戦を始めよう‼︎次の対戦はBチームがヒーロー‼︎Iチームが敵だ‼︎呼ばれた2チームは移動を始めてくれ‼︎」

 

第二戦は八雲&葉隠チームと、轟&障子&尾白チームだ。早くも2対3という数的不利な状況下の組み合わせが決まり、自分達がそうであることに葉隠は一層気を引き締める。

 

「八雲君‼︎勝とうね‼︎」

「ああ」

 

嵐も笑みを浮かべながらも、勝つと言う強い意思が窺える引き締まった表情をしている。

そんな二人に、対戦相手である障子が近づく。彼は耳郎と同様、試験の時の彼の圧倒的実力と戦いぶりを見ていた為、闘志に満ち満ちていた。

 

「八雲、俺は全力でお前に挑むぞ」

「おう、どっからでもかかってこい。こっちも負けるつもりはねぇからな」

「無論だ」

 

入試の時に共に戦った者達が互いに宣戦布告する光景に、周囲が盛り上がる。

 

「男同士の友情か。漢だぜっ‼︎」

「こういうライバルみたいなのっていいよねー」

 

切島が何故か感動し、男同士の友情に葉隠が羨ましそうに呟く中、尾白も近づいてきて宣戦布告する。

 

「八雲の強さは気になってたから、こんなに早く戦えるのはありがたいよ。俺も全力でいかせてもらうからよく」

「ああ、よろしくな尾白。……じゃあ、俺らは敵だから、そろそろ行くか。葉隠、行くぞ」

「うん」

 

尾白にそう返した嵐は葉隠に言葉を投げかけると彼女と共にビルの中に入っていく。そんな中、嵐は一瞬障子達の方に視線を向ける。

 

「………」

 

その視線の先には障子や尾白と同じBチームの最後の一人、轟焦凍。彼が自分に向ける視線には、強い憎しみがあり、それはここにはいない誰かへと向けたかのような憎悪が篭った瞳。

 

「…………」

 

自分を見ているようで見ていない、何かをずっと憎んでいるようなその眼差しに、嵐は彼に何かしらの執念を感じていた。

 

 

そうして五階建のビルに入った嵐達は核を設置し終えて、早速作戦会議をする。ちなみに、嵐はすでに全身変化を終えており、髭を動かしながら周囲の状況を探っている。

 

「八雲君、まず相手の個性を整理しようよ‼︎」

「そうだな。尾白は見ての通り尻尾を使うんだろう。わかりやすい肉弾戦タイプだな」

「うん、それで障子君は体の部位を複製するってことでいいのかな?」

「ああ、試験の時も目や耳を複製してたからな、それに見たところ複製部位は強化されてるみたいだから、近接だけじゃなく索敵もこなせると見ていいだろうな」

 

二人は自分達が持ち得る情報を共有していく。

障子と尾白の個性から彼らの戦闘スタイルを推測していきそれらに対する対策も立てていく。

そして、二人の対策が固まったところで、最後の一人の話題になる。

 

「あとは、轟君だよね……」

「あいつが一番警戒すべきだな」

 

轟焦凍。

目下の最大の標的は間違いなく彼だ。八百万と同じく推薦入学者の一人であるため、基礎能力は高いはず。それに加えて、彼の実力は未知数であることも大きい。

なにより、彼の個性は———

 

「氷、だったよね?テストの時も使ってたし」

「それに、氷も溶かしてたから熱も扱えるだろう。と言うことは、温度変化なんだろうが……とにかく、一番情報がねぇな」

「なんにせよ、一番注意しないとね。……うん、私も本気出すわ‼︎手袋もブーツも脱ぐよ‼︎」

「いや、それは待った」

「へ?」

 

手袋を片方脱いだ葉隠は、嵐の制止に素っ頓狂な声をあげる。対する嵐は険しい表情を浮かべる。

 

「ブーツは脱ぐな。脱いだら、お前はまともに動けなくなる」

「どう言うこと?」

「俺が轟の個性を持っていたら、間違いなく開幕は建物を凍らせて敵や核をまとめて氷漬けにする。その時に、お前が裸足だったらまともに動けなくなるぞ」

「えっ、あっ、確かにそれは、大変だねっ」

 

凍りついた自分の姿を想像でもしたのか、葉隠がビビったかのような声音で手袋を脱ぐだけで動きを止める。

そして、嵐はたった今感知した情報を彼女にも伝えた。

 

「それと、今髭で感知した。入ってきたが……足音は一つ?すぐに止まったな、てことは…っ‼︎葉隠っ‼︎」

「えっ、わきゃぁ⁉︎」

 

嵐は表情を強ばらせると葉隠に謝罪をしながら彼女をすぐに抱き抱える。

 

 

 

直後———建物が凍りついた。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

少し時は遡る。

嵐と葉隠が潜むビル。その前で、轟、障子、尾白は立っていた。

 

「まず、葉隠の個性は常時発動の透明化で、俺が索敵に集中していれば、そこまで危険視しなくてはいいはずだ」

「問題は八雲だよなぁ。障子から見て、あいつはどれだけ強いんだ?」

「相当強い。とにかく、戦闘慣れしているとしか言いようがない。間違いなく、トップでも通用するレベルだ」

「そうか。じゃあ、障子が葉隠のことを索敵して抑えててくれるなら、俺と轟の二人で戦ったほうがいいか」

 

姿が見えない以上は、索敵要員である障子が彼女のことを捕捉し続けなければいけない、その点では尾白も同意でありとりあえず、彼女は障子が担当することになった。

そして、残るは最大の障壁である嵐の対応についてだ。

障子の目から見ても明らかに戦い慣れしているし、個性把握テストでも圧倒的な結果を見せつけた。警戒するのは当然であるため、残る二人が対応するのは当然のこと。だが、これに轟が異を唱えた。

 

「お前らには悪ぃが、俺がすぐに終わらせるぞ」

「何か策でもあるのか?」

「単純な話だ。俺の個性でビルを氷漬けにする」

「そんなことが可能なのかい?」

 

さらりと言ってのけた轟に尾白が驚きつつ尋ねる。それに轟は無表情のまま頷いた。

 

「ああ。流石の八雲もいきなり凍らされりゃあたまったもんじゃねぇだろ。透明な奴は初めから障害にもならねぇ」

「それは頼もしいね」

 

轟の言葉に尾白は感心したように呟いたものの、障子は腕を組んで思案すると、今度は彼の方から提案が出た。

 

「確かに、轟の案で行くのが妥当だが、万が一失敗した場合は先ほどの作戦で構わないか?」

「それで構わねぇ」

 

障子の提案に轟は頷いた。そして、5分が経っていよいよヒーロー側の作戦開始の時間になった。

 

「じゃあ、さっきの手筈で行くぞ」

「ああ」

「任せたよ」

 

外で待機する二人にそう言いながら轟が中に入り壁に手を触れて、個性を発動して一気にビル全体を凍らせた。

白い冷気が瞬く間に壁を伝って床を、そしてその中にある核ごと凍り付かせる。建物には隈なく白い霜が降りており、ビルを白銀に染め上げた。

 

「……マジで出来るのか…」

「……凄まじいな」

 

流石に光景に尾白と障子が驚く中、モニタールームにあるクラスメイト達も同じだった。

 

「見事だ。仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、なおかつ敵も弱体化できる‼︎」

 

地下のモニタールームであるため冷気の影響をモロに受けているオールマイトは寒さに震えながら轟の開幕即効を評価する。

他のクラスメイト達も寒さに震えながら驚愕している。

 

「最強じゃねぇか‼︎」

「入試主席と推薦組の戦いだから、どうなると思ってたけど……瞬殺じゃねぇか‼︎」

「強個性かよっ、無敵じゃんっ‼︎」

 

見ている者達は轟達の圧勝だと疑わなかったが、オールマイトと耳郎の考えは違う。

 

「———む‼︎これはっ‼︎」

「………」

 

オールマイトが気付き、耳郎が無言でモニターの一つを見上げている。他の生徒達もやがて気づく。

 

「えっ、八雲の奴‥‥普通に、氷砕いてんだけど……」

「マジ?あんなに氷漬けにされてんのに……」

「葉隠も抱えられて無事だし、実質今のを回避したって…こと?」

 

彼らの視線の先では下半身を氷に覆われている嵐が平然とした様子で氷を砕きながら拘束から抜け出している光景があった。彼の腕の形と浮かぶブーツから、嵐が葉隠を抱き抱えていることもわかる。

 

 

つまりは、まだ戦いは終わっていないと言うことだ。

 

 




一応USJか体育祭編までは続けて投稿するつもりですが、それが終わったら他の二作も連載を再開させていこうかなと思っています。

嵐のイメージCV誰がいいと思いますか?

  • 小野大輔
  • 諏訪部順一
  • 細谷佳正
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