白鷺と鴉   作:オクシモロン

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4話

モンド城より南方。見上げるほどに高くそびえ立つ白亜の山、ドラゴンスパイン。

 

場所によっては常に吹雪が吹き荒れるほどの寒冷地で、その雪が完全になくなったところを見たことがないぐらいだ。そんな環境で生きているヒルチャールもいるのだから、その逞しさには尊敬の念すら抱いてしまう。

 

「あったかいねぇ」

 

そんな過酷としか言いようのない白亜の山の麓に、普段着に上着を一枚だけ羽織るという舐め腐った格好で山へと進んでいく少女が一人。千鶴である。

 

なぜそんな薄着でドラゴンスパインに突入できるのかと言えば、その腕に炎スライムを抱えているからであった。

 

ドラゴンスパインでの寒さに対処できる摩訶不思議なスープがあるらしいと聞いてはいたのだが、聞いたことがあるだけでレシピなぞ知らない千鶴は炎スライムで凌ぐ方法を思いついたのである。樽バクダンの中に入っているスライムに水をぶっかけて起爆を防ぎ、そのまま抜き取ってきたようだ。

 

彼女の目的はただ一つ。恐らくここにいるであろうアルベドに会いに来たのだ。いなければ完全な無駄足になってしまうが、そんなことは考えもしていない。

 

そんな千鶴は、一直線にドラゴンスパインへと突き進んでいくのだった。

 

 

 

 

「いなかったらホントにやってられないからね...」

 

朝一でモンド城を出発したため、アルベドが今どこにいるかなんて聞く暇もなかった。ティマイオスかスクロースにでも聞いてくればよかったと若干後悔。くそう。

 

そろそろ本格的に山を登ろうかという時、視界の端から飛んできた氷塊が腕を掠める。

 

「っ!」

 

咄嗟に回避行動と取るが間に合わず、体温が奪われ動きが鈍ってしまう。氷塊が飛んできた方向を見てみると、そこには宙に浮いたまま寝そべっているアビスの魔術師がドヤ顔でこちらを見ていた。

 

「ちっ、こんの...」

 

『Lan,Lan,Lu〜♪』

 

「ホンっトにムカつく!」

 

人をおちょくる才能がずば抜けて高いと見える。絶対に始末してやるから覚悟しろよ...

 

ひとまずアビスの魔術師から距離を取り、炎スライムちゃんを木の幹の裏に隠してやる。なにかの拍子に消滅してしまったら私はこの山を諦めなくてはならなくなるのだ。命大事に、だ。

 

「さて、どうするかな...」

 

全体的に白っぽい色で氷塊を飛ばしてきたことを考えると、あいつは氷元素を扱う魔術師であることがわかる。対して私は水元素、ちょっち相性悪いっぽいかな?まぁでも、やりようはあるはず。

 

そんなことを考えているうちにも、魔術師はいくつもの氷塊を連続で撃ち込んでくる。パワーを抑えた水元素の噴射でステップを踏むように避けつつ、まずはあの厄介な氷のバリアを割る隙をうかがう。

 

「もう、しつこすぎ!って、あぶな!」

 

こちらの動きにも慣れてきたのか、私が避けた先に氷塊を偏差で撃つという芸当もやってみせた。慌てて水元素を解除し、居合によってそれを真っ二つにぶった斬る。いや、よく間に合ったな私...誰か褒めてほしいよ。

 

「今度はこっちからいくからね」

 

賢いあの魔術師は私の武器のリーチを見て近づかないと戦えないと思っているらしく、刀のリーチ外にいるときはこれ以上ないほどの余裕たっぷりな態度をとっている。その油断が命取りだということをわからせてやらないといけない。

 

深呼吸をして、刀に手をかける。離れた場所にいる魔術師は少し警戒した様子を見せるが、回避の構えまでは見せていない。――今ッ!

 

「はっ!」

 

本来なら届くはずのない斬撃も、水元素を利用すればその制約をある程度無視できる。油断しているからこその、最初で最後の不意打ちというわけだ。

 

『!』

 

反応したけどもう遅い。魔術師のバリアを水の斬撃が捉え、確実に耐久値を減らした。だけど、この奇襲はもう通じない。遠距離攻撃ができると分かったうえで立ち回られると、こちらがジリ貧だ。

 

『nnn......』

 

「考えたって無駄。確かにそのバリアは厄介だけど、あんたより私の方が強いんだから。覚悟してよね!」

 

そこからはお互いに遠距離での攻防となった。魔術師が氷塊を放てば水の斬撃で切り裂き、こちらが飛ばせばワープやバリアを使ってそれを防ぐ。しかしあのバリアが思った以上に硬く、少しじれったくなってきた。

 

「都合よく炎元素でもあれば一瞬で割れるんだけど...」

 

ここはドラゴンスパインの麓、冷気が吹き下ろすこの場所にそんなものあるはずも......炎元素の塊、あるじゃん!

 

チラリとそっちを見てみると、なんという偶然か私が連れてきた炎スライムとばっちり目が合ってしまった。

 

「~~~~!!!!!」

 

なにか涙目で訴えかけている。まぁ、さすがに良心が痛むと言いますか、そんな鬼畜なことできないよね,,,冗談だって活性化したら火事になっちゃうから抑えて!!

 

こうなったら自力でバリアを破壊して魔術師を倒すしかない。

 

魔術師が杖を振りかざし氷塊を飛ばす準備に入るので、そこへすかさず斬撃をお見舞いする。あいつは杖を振ってから氷塊を飛ばすまでに若干のタイムラグがあるみたいで、そこをチクチク突きまくっている。体感ではそろそろ、あのバリアを割れるはずだ。

 

もう何発撃ったかわからない斬撃を放った時、パキッという音が聞こえる。

 

「っ!」

 

ここしかない。魔術師が氷塊を飛ばしてくる前に決着をつける!

 

 

鞘を捨て両手で刀を持ち、前方に体重をかけながら利き足で踏み込めるよう足を下げる。そしてフルパワーの水元素で刀身を強化。

 

思い出すのは稲妻での鍛錬、神里家の剣術を見せてもらった時のこと。肌に合わなかった神里流を自分なりにアレンジして出来た、私だけの構え。

 

狙うはバリアに入ったヒビの一点のみ。それを見据えると、あの時と同じように世界がスローに見えた。魔術師の杖が振られようかというその瞬間、全力で踏み込み刀を振り抜く。

 

『Ggnnnaa...』

 

「ふぅ......」

 

気を抜かず、振り向いた先にいる魔術師を見やる。ちょうど消滅するところだったようで、すっぱりと切れた魔術師は跡形もなく消えていった。

 

「鞘、拾わないと...っちょちょちょい!!!」

 

足を動かした瞬間、地響きと共に木の幹が目の前に倒れてきた。間一髪避けられたけど、判断が遅かったら大変なことになっていたことだろう。長女だから避けられた。

 

どうやら魔術師を斬ったときの余波でついでに木をまるごとやってしまったらしい。咄嗟と力加減が未だ上達しない、もっと鍛錬せねば...。

 

「おーい、スライムちゃーん?」

 

鞘を回収し旅のお供を探してみると、奥の木の陰からひょっこり顔を出す。もし逃げられてたら私はこの雪山で凍え死んでいたよ。

 

「アクシデントもあったけど、さっそく向かいますか!」

 

相手のバリアをスライムで粉砕しようか、などと考えてしまったからなのか。若干こちらを見る目が冷めている気がする。君、炎スライムでしょ?もうちょっと温かい目で私を見ておくれよ。

 

 

 

 

アルベドのところまで最短ルートで行こうとすると、途中にある崩れた橋を渡らないといけない。吹雪で視界が悪い時も多いのに、なぜここを崩れたままにしているんだろうか。アルベドの錬金術で直せないの?

 

そんな崩れた橋を軽々飛び越え、過ぎたところのすぐ左手に”そこ”はある。

 

「アルベド~?いる~?」

 

返事が無かったら即刻モンド城に戻ろう。そんなことを思っているところに...

 

「あー!千鶴お姉ちゃんだー!」

 

「ぶふぉあっ!」

 

私の名前を叫びながら、その小さい体から出ているとは思えないほどの威力を持った体当たりをブチかましてきた少女。クレーである。騎士団に所属しており、「火花騎士」の称号は伊達ではないと感じさせる。

 

「やあ、千鶴。大丈夫かい?」

 

「これを見て大丈夫だと思う?」

 

手を引いて立ち上がらせてくれた彼こそ、今回のターゲットであるアルベド。「主席錬金術師」といういかにもすごそうな称号をお持ちらしい。

 

「大丈夫じゃないなら、冗談を言っている余裕はないんじゃないかな?」

 

「うるしゃい☆」

 

抱えていたスライムの代わりにクレーが腕の中におさまる。今日はなにかと炎元素と縁があるみたい。

 

「それで、ボクになにか用事でもあるのかい?」

 

”三人分”用意してあった椅子の一つに腰かけ、アルベドが口を開いた。いつの間にかクレーは私の腕から離れており、タックルによって吹き飛んだ炎スライムを突っついて遊んでいる。帰りもあるんだから爆発させないでよね...。

 

「いやー、用ってほどじゃないんだけど。久しぶりにモンドまで来たから、帰るまでにみんなと会っておこうかなって思って。あとこのゴーグルの感想とかさ」

 

「なるほど。じゃあ、それの製作者として意見を聞いておこうか」

 

残った最後の椅子にスライムを抱えたクレーが座る。大変気に入ったようで、ずっとムニムニして彼女の欲を満たしている。

 

「んー、正直気になるとことか無いんだよね。強いて挙げるなら、たまに太陽がまぶしいかなってくらいだし」

 

「ふむ...ちょっとそのゴーグルを貸してくれないかな」

 

「あい」

 

ゴーグルを受け取ると、そのまま錬金台でなにやら作業を始めてしまった。え、ここでやってくれるの?

 

横からちょんちょんと、クレーが突っついてきた。

 

「トカゲのしっぽ使う?」

 

「使うとどうなるの?」

 

「トカゲのしっぽはねー、爆薬の材料になるんだよ!」

 

「物騒だわ!」

 

そういえば、クレーのボンボン爆弾って錬金術で作ってるんだっけ?しかし、誰がその知識を与えたんだろうか。まさか自分で見つけたわけじゃあるまいし。

 

そう思ってふと作業中のアルベドを見てみると、かすかに笑っていた。...犯人絶対コイツじゃん。

 

「さて、出来たよ」

 

「早っ」

 

渡されたゴーグルを見てみるけど、大して変わっていないように見える。ただゴーグルを覗いてみると...

 

「...おぉ!なにこれ!明かりが眩しくない!」

 

なんということでしょう。匠の手によって、元々完成度の高かったゴーグルが更に快適に。これにはさしもの私もビックリである。

 

「場所によってゴーグルの濃さが変わるようにしてみたんだ。屋内と屋外で同じ濃さだと、不便なこともあるだろうからね」

 

なんと、そういうことらしい。詳しいことはわからないけど、唯一の弱点であった太陽の眩しさは克服できたということだけは分かった。

 

「風神様、岩神様、アルベド様!」

 

「気に入ってもらえたようでなによりだよ」

 

 

その後は近況報告も兼ねて三人で主に雑談をした。昨日エウルアとアンバーから聞いたドラゴンスパインでのことも詳しく聞けたし、クレーは相変わらずお魚をドカーンして反省室に入れられているみたいだ。うん、一応お魚さんも生き物だからね?ほどほどにね?

 

というか、アルベドの言っていた人に化けるトリックフラワーの話。目の前にいるアルベドが偽物とかいうオチじゃないよね?流石に。そんなことになったら、もうなにも信じられないかもしれない。

 

 

 

 

寒いのが苦手な私は、特にドラゴンスパインを探索したりせずにアルベドのところでまったりしている。まぁ、暑いのも普通に嫌いなんだけど。もしかして人間向いてなくない?

 

ずっと同じところにいると退屈になりそうだけど、実際はそうでもない。稲妻を離れてからは数倍他人と関わらないと生きていけなかったためか、誰かと話すだけでも十分楽しかったりする。稲妻にいる頃は広くないコミュニティの中だけで生きてたしね。

 

そんなわけで、もういい時間である。あのクレーも私という遊び相手がいたからなのか、お魚をドカーンしに行かなくても満足したらしい。

 

「じゃあ、そろそろ騎士団の宿舎に帰るね」

 

私のために空き部屋を用意してくれてはいるけど、結局私室というわけではないから荷物をまとめて綺麗にしなければならない。今の家は璃月だから。

 

「そうか」

 

「千鶴お姉ちゃん、またね!」

 

未だに元気いっぱいなクレーは、現在アルベドの膝の上である。ホントに仲いいよねこの二人、傍から見たら妹の世話をする兄にしか見えん。綾華にもああいう時期があったのかと思うと、自然と笑みがこぼれる。

 

 

宿舎への帰路、日常の至るところに綾華を感じるようになったなと考える。

 

さっきの兄妹のような二人であったり、果てはちょっとした買い物の場面であったり。...ちょっと綾華に会ってまた璃月に帰ってくれば発作も治まるかもだし。

 

 

いや、これ病気では?

 

 

なんだ発作って。会いたくて震えちゃってるじゃん。

 

璃月に渡って数年、そろそろ里帰りを考えてもいい時期なのかもしれない。とは言っても、やっぱ稲妻人には若干の抵抗感が無くはないけど。

 

別に稲妻を恨んでいるわけじゃない。出たくて出たんじゃないし、平和的解決ができたならそのまま稲妻に残っていたいとすら思ってた。

 

まぁ、帰ったところで私の家地図から消えてるんですけどね!!!

 

 

―――

――

 

 

「って感じなんだよぉ、七七ちゃん」

 

不卜廬にて、ちまっこいキョンシーこと七七ちゃんと雑談に花を咲かせている。モンドから帰る前、バーバラに会ってから帰ろうかと思っていたらどっかに出かけているとのことだったので、不貞腐れながら璃月まで戻ってきたのである。

 

ちなみにキョンシーがなんなのか、ぶっちゃけよく知っているわけではない。教えて!鍾離センセー!

 

そんな下降気味な気分も七七ちゃんと会ってしまえば吹き飛ぶというもの。可愛い、可愛い、可愛いと三拍子揃った可愛い店員さんなのだ。ただ、あんまり温かくしすぎるとダメらしいから膝の上で抱えるのも控えなければならない。辛い。

 

「千鶴、帰る?」

 

「んや、そんなすぐってわけじゃないけどもさ。開国に向けて動いてるって言っても、じゃあすぐオープンになって誰でも来てねってことにはならないし。段取りとか色々あるだろうしね」

 

「...七七、よくわからない」

 

 

稲妻は変わろうとしている。...私も、変わらなきゃいけない時が来ているんだろうか?

 

ねぇ、どうしたらいい?―――母さん




戦闘描写のセンスはパイモンが食べました。

今はとにかく夜蘭が楽しみです。

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