ふと、自室のベッドで目を覚ます。
稲妻に帰ると決めてから数日が経った。経ったのだが……
「な~んもやってません!」
なぜ私はこうも母親の厳格さを引き継がなかったのか。これでも、いわゆる良家と呼ばれる家の出身なんですけども。
帰るのが嫌なわけではなく、”その日”までに何を準備したらいいのかが分からないだけだ。大丈夫、まだほんの致命傷だから。
しかし、いつまでもこんな体たらくでは綾華に合わせる顔が無い。
「ん~、仕方ない。奥の手を使うしかない」
◇
「ってわけなんだよね、助けてくんない?」
「知らないわよ、あと鬱陶しいから離れてもらえるかしら」
「あー!璃月七星が善良な一般人に暴言吐いた!」
その菫色の瞳には、さぞ情けない友人の姿が映っていることだろう。
「あなたね、人に頼み事しておいてその態度はなに?ちゃんと相談する気があるなら真面目にやって。あと、その肩書を出すのはやめなさい」
薄紫色の髪に猫耳のような髪型、璃月七星の「玉衡」こと刻晴は本気で嫌そうな顔をする。
「私は知ってるよ、刻晴が怠け者嫌いなこと。でもね、分かるでしょ?一度追い出された故郷に帰るのって相当勇気がいるんだよ」
「事情はおおかた把握しているけど、人の足にだらしなくしがみついていなければもう少し聞く耳を持ったかもしれないわね」
「ひぃん」
だって、こうでもしないと「忙しいから」とか言ってどっか行っちゃうじゃん。惜しみながらも刻晴の足から離れると、自分の椅子に腰かける。なにがとは言わないけど、スベスベでした。
「んじゃ、ご飯食べよっか」
「厚顔無恥とは、まさにコレのことを言うのかもね」
ここは新月軒。くっそプライベートな話をするため自腹で貸し切りにしたのだ。いくら私でも、衆人環視の中あんな情けなく友人にすがりつくなんて無理ってものである。ちなみに新月軒は大変人気でいつも満員なんだけど、そこはまぁ色々ゴニョゴニョである。決して往生堂とか刻晴をだしにしたわけではない。ないったらないのだ。
なんにせよお金が思った3倍かかってしまったのである。……もしかしたら、適当な理屈こねてタルタリヤにツケておけるのでは?まぁ、それは追々ということで。北国銀行に負荷をかけていけ。
「私の奢りなんだから、文句言わない。岩王帝君の二頭身土偶買ったのバラすよ」
「ふんっ」
「あ゛っ」
この猫耳、あろうことか脛をヒールで蹴飛ばしやがった。少しぐらいからかってもいいじゃないか、いっつもジンさん並みのワーカーホリックで眉間にシワ寄ってるんだから。ていうか、この子最近までアンチ帝君だったじゃん。どんな心境の変化があればこうなるんだ。
「あー痛かった。んで、どうしたらいいと思う?」
「はぁ……。どうせその恰好で帰るんだから、最低限清潔にしてればいいんじゃない?」
「それなんもしなくていいって言ってるのと同義では」
はっはーん、さてはめんどくさがってるな?今美味しそうに食べてるもの全部こっちが払っているというのに。
「……せめて香水でもつけて行ったら?今更整えなきゃいけないような身なりでもないんだし、特別なにか出来そうなことなんてそれくらいよ」
「あ~……香水ねぇ」
そういえば使ったことなかったかもしれない。向こうにいた時も、周りで使ってる人なんて見たことないし。
「鶯さんに頼んでみるか。ん、これ美味い」
◇
「ごちそうさま。私は仕事に戻るから、それじゃ」
そう言って去っていく刻晴を見送ってから、「春香窯」を目指す。理由はもちろん、いい感じの香水を作ってもらうためだ。ちなみに、鶯さんが香水を作れるかどうかは知らない。なんか、ティマイオスと一緒にポーションなるものを作ったとかなんとか。それぐらいの情報しかないけど、何とかなるでしょ。ティマイオスも隅に置けないものである。次会ったらいじってやろ。
などと考えているうちに、目的地である春香窯が見えてきた。
「鶯さ~ん」
相も変わらず店の前で立っている彼女を見つけて手を振ってみると、あちらも気づいたようで控えめに手を振り返してくれる。うーん、これは可愛い。ティマイオスが骨抜きになるのもうなずける。
「珍しいなぁ、今日はどないしたん?」
「香水を作ってもらおうかと思って」
「香水?」
少しだけ首をかしげて、考える素振りを見せる。なんか、女としての全てにおいて負けている気分。そういうとこも可愛いんじゃ。
「噂には聞いてたけど、本当に帰ってまうんやねぇ。寂しくなるわぁ」
「ん~~~決意の揺らぐ音がする」
「そんな簡単に揺らいじゃあかんよ」
おっしゃるストリート。
「そんで、具体的にどんな香水にしたいん?」
「……え?ど、どんなって……なんかいい感じの」
「えらい抽象的な注文やな」
「どんな香水があるのかも知らないから……」
あまりの事前準備の無さに困ったような顔をする鶯さん。これなら刻晴にヒントもらっておけばよかったか……。
「んー、そんなキツい感じじゃなくていいんですけど。スッキリ爽やかみたいな」
「じゃあ、無難にミントの香水でいいんやない?色々考えすぎてもあれやし、帰るのももうすぐなんやろ?材料持ってきてくれればあとはこっちで作るから。代金は取りに来た時でええよ」
「あ、それでお願いします」
璃月港のおよそ西にそびえ立つ天衡山にミントを爆速で採りに行き、鶯さんに預けてその場をあとにする。
「さて、あとは……」
空に浮かぶ巨大な建造物、群玉閣を見上げ大きくため息をついた。
◇
璃月港の南西側、群玉閣へ向かうにはここを通る他ない。
「歩雲さん、こんにちは。月は売ってますか?」
「おや、あなたでしたか。群玉閣へ向かわれるのでしたら、こちらへどうぞ」
この合言葉、刻晴限定らしいのだけど、詳しいことはよくわからない。ていうか、いい加減このちっさい台で群玉閣まで飛ばすのやめたら?冗談抜きで漏れそうなんだけど。手すりとか柵とかつけてほしいですぅ。
まぁ、落ちそうになっても風の翼があるからなんとかなるっちゃなるんだけどね。
そんなこんなで天空に浮かぶ群玉閣へと到着。守衛をやっている千岩軍のお兄さんを素通りしてバカでかい扉を開けると、それはそれはド派手な内装がお目見えする。
いつ見ても圧巻なソレを眺めていると、不意に声をかけられる。
「本日の来客にあなたの名前は無かったように思いますが」
群玉閣で秘書を務める百聞さん。ここで秘書をやっているだけあって優秀なのだろうけれど、場所が場所だけに非常に疑り深い人。変に人を信用するよりもよっぽどセキュリティとして機能しているとは思うけど、なんだか個人的には苦手な人だ。
「まぁ、アポなしですんで。凝光さんは下ですか?」
「ご用件は?」
「お別れの挨拶ってとこですね」
「……凝光様はいつもの場所に」
軽く謝辞を述べてから、中央にある螺旋階段を降りていく。下の階へ降りると、ひと際広く目を引く部屋が見えた。大量の書類が張り付けられたボードや、彼女が持っている骨董品等が飾られている棚。緑色の巨大な屏風のようなものを背に、お目当ての人がそこにいた。
「この群玉閣にアポも取らずに来るなんて、思い切ったことをするのね。千鶴」
「う、うす……」
こっっっわ。忙しいのもアポなしがまずいのも分かるけど、あと数日で多くの来客を押しのけて予定をねじ込めるかと言えば厳しいわけで。かの旅人のような国を救った英雄なら違うのだろうけど。
「ふふっ、冗談よ。そんなに萎縮しないでちょうだい」
「ホントやめてくださいよ……」
心底楽しそうな顔してえげつないことしないでほしい。危うく乙女の尊厳を全て捨ててチビっちゃうところだった。
「それで、私になにか用かしら?」
「いやー、もうすぐ稲妻帰るんでちょっと挨拶しようかなと」
「あら、残念ね。流通において、あなたの速さはオンリーワンの価値があったのだけど」
うーん、璃月人の引き留め力が高すぎる。そういえば、刻晴は1ミリもそういうのなかったな。え、私が帰っても寂しくないってこと?ちょっとはそういう青春なやり取りあってもよかったのでは?
「あなたの決意はあなただけのものよ。失うのが惜しいというのは本音だけど、障害を乗り越えて故郷へ帰ると言うのなら背中を押すわ。天権としてではなく、友人として」
それに、と彼女は続ける。
「烏丸千鶴を失っただけで崩壊するほど、璃月の流通は落ちぶれていないわ。だから、安心して帰ることね」
「まぁ、色んな人に帰るって言っちゃってるし、今更引っ込めることもできないんですけどね」
「そうでなくても、あなたは稲妻に帰っていたと思うわよ。あぁそれと、ろくに計画も立てていないのでしょうし、稲妻への移動は死兆星号を使うといいわ。北斗船長には、私が話を通しておくから」
「え……あぁ、はい。なんかすみません色々と」
しれっとディスられた気がしないでもないけど、これだけやってもらって文句など言えるはずもない。……いや、友人としてなら一発かましてやってもよくない?やり返される未来しか見えないけど。もしかしなくても、天権崩玉でワンパンである。
余計な雑談もせず群玉閣から出ると、ちょうど蒼が帰って来たところだった。稲妻に帰る旨を書いた手紙を送った帰りだろう。なんかいつもより時間かかってない?
「愛しの蒼ちゃん、私は寂しかったよ。何度その羽毛が恋しくなったことか」
不足していたアオイニウムを摂取していると、一通の手紙を背負っていることに気が付く。
中身を確認してみると、どうやら綾人さんからみたいだ。もっと言うと社奉行から。
招待状のようなものが入っていて、これがないと正式に来客として認可されないっぽい。鎖国はやめたけど、誰もかれも受け入れるってわけじゃないのかな?まぁこれがあれば大丈夫なんだし、私には関係ないか。
「んー、事前準備はほとんど終わったかな。残りの時間なにしよう」
群玉閣から璃月港の景色を眺める。普段過ごしている場所がこんなにも小さく見えて、なんだか不思議な気分だ。今にもバカでかい商船が出たり入ったり、鍾離先生が言っていた通り流通の要であることは疑いようのない事実らしい。あっちは海路で私は陸路、同じ穴の狢ってやつか……。違うかな、違うかも。
バカでかいと言えばこの群玉閣もそうだ。いずれはテイワットの空を覆うぐらいまで増築する、なんて言っていたけど、夢物語で終わらないだろうと感じさせるなにかがあの人にはある。もし稲妻の上空まで広がったら、浮生石の台座を設置してもらって璃月と稲妻を自由に行き来できるようにしてほしいものだ。船で海を渡るより空路を自力で突っ走った方がどう考えても速いからね。
「とりあえず往生堂に帰ろっか、蒼」
ちなみに、蒼は私を待たず先に帰ってしまった。ひどい。
◇
恐怖の『アポなし!群玉閣の凝光さん!』から数日。
「さてと……」
雑巾よぉし!汚れてもいい服よぉし!水は……まぁ元素使えば無限やろ、知らんけど。こういう生活の根幹にモロ影響する元素を使えるって言うのは、ある意味でメリットなのかもしれない。炎とか雷とか。神の目持ちってやたらみんな戦闘能力高いイメージあるけど、日常生活に転用できるのは"持つ者"である私たちの特権と言える。かもしれない。
"立つ鳥跡を濁さず"。稲妻の古いことわざのひとつだ。意味は読んで字のごとくで、稲妻へと帰る私にぴったりの言葉だろう。何年も住んでいるというのに、相も変わらず部屋の内装はあの日とそう大して変わってはいない。
仕事柄ほとんどが外での活動になるし、モンドまで足を延ばせばそっちで宿泊したりと、食事と風呂、睡眠以外では特筆すべき用途は思い浮かばない。ぶっちゃけ借り物というか、いつかはこうやって出払うことを考えて内装の改造とかはやっていない。今後この部屋を使う人もいるだろうしね。別に堂主が怖かったとかそんなんではない、絶対に。雷電将軍に誓って。ワタシウソツイテナイ。
そんな事情もあって、思ったより片づける荷物は少なかったりする。普段着に綾華に送っていた便箋の余り、こっちで作ってもらった蒼の寝床、決して多くない化粧用具……まぁこんぐらいか。今をときめく乙女として化粧道具が少ないのは致命的だけど、どうせ雨でもお構いなしに全速力を出すので最低限が楽なのだ。
持っていく荷物をリュックに詰め込んで、いざ部屋の掃除である。いくら持ち込んだ物が少ないと言っても、何年も同じ場所で生活していればそれ相応に汚くなるもので。年末の大掃除並みの気合を入れて臨まなければならない。
うまいこと制御できるようになった水元素の力を使い、水圧でしつこい汚れを処理したり背が届かない天井をバシャバシャしたり。モップの先端に水元素を集中させればあら不思議、水の補給をしなくてもずっと水拭きができるではありませんか。これは賢さSS+ですわ。
乾拭きは元素の補助が使えないから自分でやらなきゃいけないけど、みるみるうちにピカピカになる我が家に小さくない満足感がこみあげてくる。今までの大掃除もこうやって元素使えば楽だったのでは?……気づくべきではなかったね。忘れよう。
えっさほいさと掃除を続け、気が付けば窓から見える夕陽はもうほとんど見えなくなっていた。ちょっとテンションが上がって掃除に集中し過ぎたのかもしれない。まぁキレイにし過ぎて悪いってことはないし、逆に褒めてほしいレベル。
なんか気抜けたらお腹空いてきたな。
するとそこへ3回のノック。
「はーい」
『入るぞ、千鶴』
扉を開けて入ってきたのは鍾離先生だった。
「ずいぶんと綺麗になったな」
「まぁ、だいぶお世話になったので」
部屋を数秒眺めると、鍾離先生が口を開く。
「夕飯はもう済ませたのか?」
「え?いや、ご飯はこれからですけど」
「そうか、ならちょうどよかった。瑠璃亭に席を取ってあるから、ついてきてくれ。明日璃月を発つお前の送別会とでも思ってくれればいい」
うーん、サプライズ。私ってば愛されてるぅ~。
「あぁそれと、支払いはこちらが持つから気にするな。主役に負担させるわけにはいかないからな」
「いやほんと、何から何まで……。送別会ってことは他にも誰か来てるんですか?」
瑠璃亭までの道を歩きながら鍾離先生に質問する。
「まぁな。……着いたぞ、入ってくれ。」
「あ、お邪魔します……」
入口に立つ女性店員に軽く会釈してから、瑠璃亭の扉を開ける。
「あー!やーっと来たー!」
「香菱!」
黒と黄色を主体としたエプロンのような服装をした少女、香菱がこちらに駆けよってきた。
しれっとついてきていた蒼は、香菱の相棒でもあるグゥオパァーの頭に乗っかって一休みしている。仲良さそうだね君たち。
「最近全然会えなかったから、久しぶりに会えて嬉しいよ!」
「光から生まれし女神香菱……眩しい」
「??」
私の気持ちの悪い独り言に首を傾げる彼女との雑談もそこそこに、集まってくれた他のメンバーにも目を移す。
胡桃、甘雨、煙緋、行秋くんと重雲くんのペアまでいる。刻晴と凝光さんは忙しいだろうし、魈は来てないみたいだった。言うてそこまで接点があったかと言われると、ねぇ?
「ささっ、主役の方はこちらまでどうぞ~」
胡桃に促されて、所謂お誕生日席のような場所に座らされる。なんだか恥ずかしいな、これ。
長机のお誕生日席から見て、右側が女性陣、左側が香菱と男性陣、私の真向かいが鍾離先生である。新月軒であれば丸机があるので、みんなとの距離がそこまで変わらなくていいのだが、どうやら刻晴から新月軒を貸し切ったことを聞いていたらしく、気を利かせて瑠璃亭にしてくれたらしい。
いくら美味しいとはいえ、数日の間に連続で同じ店の料理ってのもアレなもんである。やっぱ持つべきはデキる女友達。
「その後は順調なのかな、千鶴さん」
「おかげさまでね。恥ずかしくない程度には扱えるようになったよ」
「それは良かった」
どこかの戦闘狂とは違った丁寧な指導をしてくれた行秋くんのおかげで、私の元素コントロールは上達したと言っても過言ではない。対価であった彼の小説批評も、私のツボにハマる部分もあって一石二鳥だった。普通に面白かった。
ちなみに、重雲くんとは妖魔退治でちょいと面識があったりする。例の旅人に助っ人を頼もうとしていたらしいのだが、旅人は既に璃月にいなかったため、冒険者としても活動している私に白羽の矢が立ったというわけだ。
「重雲くんもありがとね~。だいぶ助かっちゃった」
「妖魔退治に付き合ってくれた手前なにもしないというのも悪いし、なにより行秋の紹介だったからな」
結局は流動的な水と最初から固体の氷ではイメージの差が埋まらないという結論になってしまったが、彼の豪快な元素攻撃と、味方の武具に自らの元素を付与する技術は大いに役に立った。その気になれば、私もああいったサポートが出来そうである。
◇
胡桃が新作の歌を披露したり、私とみんなとの関係や思い出話を話したり、美味しそうな料理を前にした甘雨が体型維持のことで大変葛藤していたりと、ここ最近で一番と言っていいほどに楽しい時間を過ごせた。今日のことは、稲妻に帰ってもきっと忘れないだろう。
改めて鍾離先生にお礼を言い、みんなと別れて自宅へと戻る。布団を畳めばいつでも出ていけるほどに殺風景になった自室は、月明りに照らされて一層寂しげに見える。
「明日かぁ……」
明日の朝になれば、長いようで短かった私の璃月生活が終わりを告げる。
楽しそうに自作の歌を歌う胡桃
気が付けば眠そうにしている甘雨
忙しいと言いながら付き合いのいい刻晴
困ったときに頼りになる鍾離先生
会えばなにかと軽口を叩いてお話する煙緋
入れてくれるお茶がすごく美味しいピンばあや
ヤマガラをつれてきたら喜んでくれた七七ちゃん
……挙げていけばキリのない思い出が、今の瞬間にいくつもフラッシュバックする。璃月だけじゃなく、モンドの人たちもそうだ。
騎士団のみんなや、バーバラとロサリアさん、ウェンティにディルックさん。フィッシュルやオズの冒険者組も。
明日になればもう簡単には会えなくなってしまうのだ。
色んな人に支えられ、背中を押されて迎える稲妻への帰国。恥ずかしくないように、胸を張って璃月を出ていかないとみんなに申し訳ない。
「……よし、明日に備えてもう寝よう」
使い慣れたベッドに潜ると、珍しく蒼が布団に入ってきた。
「気遣わなくてもいいのに……まぁ、いっか」
"その日"はもう、目の前だ。
○○○
―――数日前
稲妻城の天守に、紫色の着物を着た女性が立っている。近日開催される祭りの準備に奔走する
ふと、遠く彼方からこちらへ飛んでくる影を捉える。
その影はどうやらカラスのようで、稲妻で一般的に見られる種とは一回りほど大きいらしかった。
そのカラスは天守の高欄にとまると、
「久しいですね。今は……そう、蒼という名前でしたね」
人差し指で頭を軽く撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めるカラス。なんとも愛くるしい様子である。
「
苗字の無かった当時の戦友に、そのカラスと共に"烏丸"の名を授けた。長い年月の末、今では見る影もないが。
「……余程、今の主が気に入っているようですから、これからも頼みましたよ」
そう言うと、カラスは来た道を戻るように彼方へと飛び去って行った。
無想に最も近いと評された漆黒の女剣士を、彼女は今でも覚えている。
「烏丸千鶴……まるで、彼女の生き写しのよう」
姉もずいぶんと気に入っていたと記憶しているし、純粋な人間がほぼいなかった仲間内においても存分にその社交性を発揮した笑顔の眩しい女性であった。
「会うのが楽しみですね、烏丸千鶴。彼女の魂を継いだ人の子……」
城内へと踵を返すその女性は、少しだけ微笑んでいた。
生きてます。お久しぶりです。
ちょっち忙しかったのですが、続行です。
だいぶ駆け足ですが、ようやく本編突入といったところでしょうか。
稲妻帰ったあとが本番だからね、仕方ないね。
スメール実装前に書き始めた気がするけど、もうすぐスメール終わっちゃうよ()
それと、綺良々ちゃん、配達業なんですってね。丸被りか?