白鷺と鴉   作:オクシモロン

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7話

朝。

 

気持ちのいい風が吹いている。

 

いつもの早朝鍛錬、璃月で行う最後の鍛錬だ。だからと言って集中が乱されることもないけれど。

 

「……っ!」

 

素早く刀を抜き放ち、真後ろに現れた気配に向ける。そのまま振り抜いていれば、彼の頭は胴体と泣き別れしていたことだろう。

 

「おぉっと、せっかく別れの挨拶でもしようかと思って来たのに、これはあんまりじゃないかい?」

 

「いきなり女の子の後ろに立ったんだから、ある種の正当防衛と言えると思うけどね。執行官殿?」

 

自分の首に刀を向けられているというのに、脅威など微塵も感じていないような顔で肩をすくめるタルタリヤ。この状況からでも逆転しようと思えば出来るんだろうな、とこっちが思ってしまっている事実にいくらかの悔しさは覚えるけれど、ここは大人しく刀を納めてやることにする。

 

「それで?ファデュイの執行官殿が何の用?」

 

「だから言っただろう?お別れの挨拶にってさ」

 

「……」

 

「そんな顔しなくてもいいと思うけど。信用ないなぁ」

 

「ファデュイが信用とか言っちゃうんだ?」

 

「その言葉で君のファデュイに対するスタンスが理解できた。ま、組織も一枚岩じゃないってことだけは理解してくれると助かるよ」

 

……まぁ、冒険者協会の本部がスネージナヤにあるのに、先遣隊等のファデュイの組員をどうにかしてくれって依頼がその冒険者協会から出されることもあるって時点でちょっと思うところはあったけど。

 

ファデュイ内部の実情がどうであれ、私にファデュイを信用するという選択肢は未来永劫出てこないと確信できる。

 

「決闘しろ、とか言わないんだ?」

 

「俺もできればそうしたいけど、生憎とこれから向かう場所があってね。そんな暇はないんだ」

 

「ふーん、めすらし。どこ行くの?稲妻には絶対来ないでよね」

 

「違う違う、フォンテーヌさ」

 

フォンテーヌ……?

 

「フォンテーヌって、あの水神の?」

 

「そうだね」

 

この戦闘狂がなんの用事があってフォンテーヌに行くのだろう。近くの岩に寄りかかって休んでいると、私の思考を読んだかのように話し始める。

 

「細かい説明は省くけど、フォンテーヌにはクロリンデという決闘代理人がいてね。彼女と是非手合わせしてみたいのさ。曰く、決闘代理人の中で最強らしいからね」

 

決闘代理人?だれかの代わりに戦ってくれる人ってことかな。っていうか……

 

「やっぱそういうのが目的なんじゃん。懲りないね」

 

「誉め言葉として受け取っておこう」

 

こういう手合いは無理に突っかからない方がいいのだけど、そうせずにはいられない。悔しい。

 

「でも、決闘代理人(・・・)でしょ?フォンテーヌの誰かに喧嘩吹っ掛けて引きずり出すつもり?」

 

「あぁ、そうじゃない。決闘代理人っていうのは、容疑者が自らの名誉を守るために法廷に出向く前に決闘を申し込める人たちのことさ。フォンテーヌは"正義の国"と呼ばれるだけあって他国よりも審判が重要視されるんだ

 

勝てば審判を免れ、負ければそのまま連行。最悪の場合、その決闘でそのまま死ぬこともある。冤罪の容疑を晴らしたい時や、何よりも自分の名誉が大切だという場合に申し込むのさ」

 

「ん-、稲妻の御前試合みたいな感じかな」

 

「本人が望んだ決闘で死ぬ可能性がある、という点では共通点はあるかもね」

 

そもそもフォンテーヌに詳しくないからよく分からないけど、それほどその"審判"とやらが中核となっているってことか。稲妻じゃ、御前試合に負ければ雷電将軍に斬られて終わりだし、そこんとこは稲妻人の私には想像も理解もできない領域なのだろう。

 

「まぁ、日常生活でその顔を見ないでよくなるのは大歓迎かな」

 

「これでも君には感謝してるんだよ?聞けば、一時ではあれどテウセルの面倒も見てくれたみたいだしね」

 

「て、テウセル……?」

 

「弟さ。以前、璃月に来ていたことがあってね。まさか旅人以外にも会ってたなんて思わなかったけど」

 

タルタリヤの弟が璃月に?スネージナヤから出てきたってこと?

 

……そういえば、璃月じゃ珍しいモコモコした帽子を被った男の子がいたような気がする。あの子がテウセルで、タルタリヤの弟だったのか。ふむ、世間は狭いものである。今思えば、お互いが名前知らない状態だったか。

 

「んじゃ、俺はそろそろ行くとしよう。また会える日を楽しみにしているよ、千鶴」

 

「絶対に嫌だからね」

 

こちらの必死の訴えもなんのその。手をひらひらとさせてタルタリヤは去っていった。

 

それに、私の方もそろそろいい時間だ。港に死兆星号が停泊しているのが見える。あまり北斗さんを待たせるわけにもいかないし、ちょっと急ごうか。

 

 

 

 

「鶯さーん」

 

鍛錬での汗を流すために軽くシャワーだけ浴び、蒼を抱えながら注文した香水を受け取りに行く。

 

「おっ、頼まれたもんはできとるよ。ちょっと待っててな」

 

そう言って奥に引っ込んでいく鶯さん。今のうちに代金を用意しておくか。

 

「はい、コレつけてチャンス掴むんよ」

 

「え゛っ」

 

危うくモラを落としそうになったが、なんとか耐えた。

 

「あら、好きな子がおるんやないの?当たりやと思ったんやけど」

 

「い、いや……なに言ってんすか鶯さん、やだなぁそんな、いやいやいや」

 

「ま、乙女の秘密っていうのもあるし、これ以上は聞かんからそんな動揺せんでええよ?」

 

「ははは……御冗談を。これお代です」

 

「まいど」

 

その後、香水のつけ方を軽く教わってからその場を後にする。見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。

 

 

港へ向かうと、死兆星号の上から北斗さんが顔を覗かせていた。

 

「おっ、来たね!早く乗りな、すぐにでも船を出すよ!」

 

水元素を噴射して一息に死兆星号へ飛び乗る。初めて乗るけど、めちゃくちゃデカいなこの船。普段は孤雲閣の近くに停泊しているみたいだけど、今回は私のために港まで来てくれたらしい。ありがたや北斗しゃん。

 

「ありがとうございます北斗さん、稲妻まで送ってもらえるみたいで」

 

「なに、これぐらいどうってことないさ。旅人を連れて行った時なんて、まだ稲妻が開国する前だったからね。それに比べればお安い御用だ」

 

そういえば、稲妻はずっと島の周りが雷雨だったんだっけ。その中を突っ切るとか、乗り合わせるのが御免こうむりたいね。

 

 

北斗さんの号令で死兆星号が出港する。

 

船尾から港の方を見てみれば、見知った顔がいくらかあった。

 

刻晴に煙緋、胡桃、鍾離先生……あっ、全璃月民の癒しピンばあやもいる。

 

滲む視界に構うことなく、第二の故郷に向けて手を振り続ける。……思いのほか、璃月を離れることに対して完全には割り切れていないらしい。

 

 

 

 

慣れないメンバーがいる中での気まずさか、未だ視界にある璃月に対する未練か。頭上に浮かぶ群玉閣を眺めてみたりして、どうやって時間を潰そうか考えていると……。

 

「お主が鴉丸千鶴でござるか?」

 

声の方へ振り返ってみると、なんだかいかにも(・・・・)な稲妻ファッションにいかにも(・・・・)な昔の稲妻っぽいしゃべり方をする青年がいた。

 

白い髪は片側で結われており、頭の右側には一房か二房朱色が混じっている。瞳も同じ色をしていて、服装にも全体的にその色が目立つ。

 

「え……っと、そうだけど」

 

「拙者は楓原万葉と申す。お主と同じ稲妻の出身でござるよ。経緯はどうあれ、拙者たちは似た者同士なのかもしれないでござるな」

 

「はぁ……」

 

なんだか掴みどころのない、飄々とした印象の人だ。それに

 

「楓原って、あの楓原?」

 

「流石に知っていたでござるか。拙者が継いだ頃には既に名ばかりの家ではあったが、まぁ、拙者にはそれぐらいがちょうどいい」

 

なんだか達観、とは違うのだろうけど、継ぐ前に家系自体が稲妻から消え去った私にはわからない心情かもしれないな、と思った。(うち)は女系だったから跡継ぎは確実に私だったんだろう。奇妙なことに、鴉丸に男が産まれたことは無く、家系図に刻まれる男性は必ず婿入りした外部の人間であったらしい。不思議だね。

 

「それで、私になにか用事でも?」

 

「北斗の姉君から、鴉丸千鶴という名の稲妻人を故郷に帰すために乗せると聞いたのでな。あんなこと(・・・・・)がありはしたが、拙者も稲妻人故、鴉丸の名を知らない方が珍しいでござる。個人的な興味というやつでござるよ」

 

「興味って……これ?」

 

そう言って腰の刀に手をかける。楓原と言えば、雷電五箇伝と呼ばれる刀鍛冶の流派の一つだったはずだ。

 

「そうだ、刀鍛冶の家ならこの刀のこと何か知らない?代々当主が受け継いできたみたいなんだけど、これに関してはなんも資料とか残ってないみたいでさ」

 

「ふむ……以前の楓原家であったなら、もしかしたら知っていたかもしれぬが、少なくとも拙者は聞いたことがないでござるな。いつからあるか分からない、鍔が桔梗の花の形をした刀などというのは」

 

「んー、それじゃ仕方ないか。残念」

 

「期待に沿えなくてすまぬな。ただ、鵐目(しとどめ)に雷元素の神の目のような石がハメこまれているのを見るに、雷電将軍に関係した刀なのかもしれないでござるな」

 

「雷電将軍に?……まさか、ねぇ?」

 

「仮にそうだったとしても、それは本人に聞かないことには分からないでござるが」

 

「想像しただけで胃がねじ切れそう……」

 

改めて、相棒の姿を見てみる。……いやいや、これお母さんも使ってたんだし、そんなことあるわけないでしょ。……ないよね?

 

 

 

 

その後も楓原万葉と他愛もない会話を続けたが、彼の個人的な興味(・・・・・・)とは私の刀ではなく、鴉丸という人間(・・・・・・・)であったらしい。変な勘違いをしてしまった自分を軽く恥じたが、彼がああいう性格なのでなんとか致命傷で済んだ。

 

楓原万葉曰く、楓原家には時折鴉丸の名前が出てくることがあり、先代の鴉丸当主たちは、ここぞという場合以外は楓原の打った刀を使っていたという。鴉丸と楓原にどんな繋がりがあったかは家を失った者同士では分かりようもないが、鴉丸の扱う刀は消耗が極めて少なく、手入れも完璧であったという。

 

そういえば、お母さんも「刀は自らの半身だと思いなさい」って言ってたっけ。そういう気質は昔からそうなのかな。

 

私は今、船から海を眺めておセンチになっている。楓原万葉は、先ほど死兆星号のクルーに「仕事を手伝ってくれ」と連れていかれてしまった。死兆星号の一員として認められている証拠なのだろう。

 

しかしここで問題発生である。

 

自分で言うのもなんだが、稲妻のいいとこのお嬢さんであった私。一度海に投げ出されはしたけれど、まともに船なんぞ乗ったことが無いのである。

 

それはつまり……

 

「うっ……きもちわる」

 

璃月を離れた時とは違う理由で滲んだ視界のまま、死兆星号の端っこの方で休ませてもらうことにした。

 

なけなしではあるけれど、乙女の尊厳を文字通り吐き出す(・・・・)わけにはいかないのだ。近くの船員に稲妻が近づいたら起こしてもらうように頼んで、私は目を閉じた。

 

 

 

 

『笹百合っ!』

 

彼女(・・)は悲痛な顔で叫ぶ。目の前で友が殺されたのだから、当たり前だろう。

 

笹百合を斃した惡王は、共に自らに相対し戦っていた人間の女に狙いを定める。人間にしては、しぶとく手強い相手であった。

 

魔神オロバシが稲妻との不可侵条約を反故にし、稲妻に侵攻した際の戦いである。

 

自分一人では勝てないと悟った人間の女は、背後にあまりに強大な元素力を感じ意を決する。

 

『影!!』

 

火事場の馬鹿力とでも言うのか、惡王を留めんとする彼女はびくともしない。

 

強烈な決意を宿した瞳に、惡王は僅かに怯む。その隙が命取りであった。

 

今にも放たれようとするソレ(・・)に目を向けながら、彼女は穏やかに言う。

 

『……またね、影』

 

無想の一太刀は彼女もろとも惡王と魔神オロバシを両断し、見事大蛇を退治したのであった。

 

 

 

 

「千鶴殿。起きるでござるよ、千鶴殿」

 

楓原万葉に声を掛けられて目を覚ます。……とんでもない夢を見た気がするが、アレは真実か幻想か。

 

「船酔いでござるか?あまり気分が優れないように見えるでござる」

 

「あぁ、うん。そんなとこ。船なんて初めて乗ったから」

 

「これに関しては慣れるしかないでござるよ」

 

今見た夢のことなんて、言ったところでどうしようもないしな、と思いながら楓原万葉の指差す方を見てみる。

 

「帰って来たんだ……私」

 

そこで産まれ、そこで育ち、そして追われた自分の故郷。

 

ここまで来てしまったのだから後戻りは出来ないが、やはり懸念がないと言えばウソになるだろう。

 

綾人さんからもらった手紙も含めて荷物を確認し、船首の方へ移動する。

 

「……ただいま」

 

もうすぐ会えるよ、綾華。




生きてます(唐突)

お久しぶりな感じですが、ようやく続きをお出しできました。

え、もうフォンテーヌ実装してるだろって?返す言葉もございません。

魔神任務でタルタリヤがしばらくフォンテーヌいたとか言うから、ここら辺でフォンテーヌに行ってもらいました。仕方ないね。


難産だった上に駆け足になってしまいましたが、ようやく千鶴ちゃんを稲妻一歩手前まで持ってこれました。

完結まで頑張ります。

あと万葉ってこんなござる連発するのか怪しいですが、そこはご愛嬌ということで()

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