Fate/Viridian of Vampire   作:一般フェアリー

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第四の妖精騎士

「――――そうか。では言葉通りそこな端くれ共を庇って無様に死ぬがいい」

 

 

「……っ!!!」

 

 

告げられたと同時に放たれる、一発の大きな魔力弾。

 

それは命令を拒絶した愚かな騎士に対する女王からの死の刑罰だった。

 

「ちぃッ!!」

 

咄嗟に両腕を前へ構えて魔力障壁を展開し、激突に備える。

直後―――とてつもない衝撃がバーヴァン・シーに襲い掛かる。

 

「が――ああぁあぁああぁぁあッッ!!?」

 

腕から全身に感じる、想像を絶する暴力的なまでに荒れ狂う神秘。

 

(な、なんて力なの…!!う、腕が…ちぎれ、飛びそうだッ…!!!)

 

少しでも力を緩めれば腕が上半身ごと消し飛ぶ。

障壁越しでも手が焼け爛れそうなほどの熱を浴びながらもそう直感し、必死に思考を回す。

 

「バーヴァン・シーさんっっ……!!」

 

「ほう、受け止めるか」

 

衝撃の余波に吹かれているホープの悲痛な呼び掛けも、モルガンの僅かな()()も、今のバーヴァン・シーに取って耳に入れる余裕は微塵もない。

 

全神経、全魔力を総動員させて、目の前で尋常じゃない魔力を迸らせている青く輝く光弾を抑えるので精一杯だ。

 

しかしこのままではいずれ押し負け、そしてそのまま後ろの仲間たち共々消されてしまうだろう。

 

(直前に妖精騎士としての力を授かる事ができたのは本当に幸運だった!もし素の状態だったらと思うと……!!)

 

脳裏に浮かぶは、ほんの一瞬すら耐えられずに仲間ごと死に絶える自分。

 

その死相(イメージ)に我ながら情けないという怒りと同時に、妖精騎士の力はこうして女王の一撃にも耐えられるくらいには凄いのかという実感が沸いてくる。

 

(けど、本当に恐ろしいのは!こんな馬鹿げた威力の魔力弾でも、多分あの魔女からすれば“本気とは程遠い戯れレベル”ってコトっ……!!)

 

目の前でこちらを消し滅ぼさんとする、自分の身の丈より一回り大きいサイズの光弾。

それは、約2000年もの時を支配者として君臨してきた女王に取っては眼前の弱小妖精四翅を粛清するだけの、単なる作業同然の感覚で放った程度のモノなのだろう。

 

(…はは、これに比べたら、あの時のは今なら指一本でも防げそうね)

 

この世界に迷って間もなかった頃、最初にホープと共にモースと戦った時の事を思い出す。

 

その戦闘の最中でもモースが自分に対して一際巨大な呪弾を放とうとし、ホープの加勢で未遂に終わった事がある。

 

あの時はその巨大な呪弾を脅威に感じて冷や汗を垂らしたこともあったが、今目の前で受け止めているこれに比べたら膨張抜きで『日中のガラティーンと一般兵の剣』と評せるだろう。

 

「ぐっ、ぎ……っ…!!」

 

(なんて、過去を思い出してる場合じゃ、ないわねっ…!さぁ、どうする、どうすれば、いい…!?)

 

後方にはホープたちがいるので避けることはできない。

弾道を逸らそうにも出力が強すぎるので難しく、仮にできたところで明後日の方へ当たって玉座の間を傷つけようものなら、それこそモルガンの更なる怒りと追撃を買ってしまうだろうからそれも無理だ。

 

故に残されたのは『何とかその場で抑え込み、その上でこれを飛散し無効化させる』という他なかった。

 

(できるものなら吸収したいところだけど、こんなの取り込もうものなら妖精騎士化したこの状態でも、すぐに許容量を超えて肉体が壊れるでしょう、ね)

 

―――現状を打破できる要素が、ないか。

 

容赦ない神秘と熱と衝撃にその身を襲われながらも、バーヴァン・シーは頭の中で思考を一心に振り回す。

 

(…?待て、よ)

 

すると彼女の中である可能性の疑問が生じた。

 

(今の私は、妖精騎士。そして騎士の名はユーウェインで、モルガンはその騎士の力をギフトとして私に与えた。となると…)

 

もしかしなくてもその騎士の力を権能として使えるのでは、彼女はそう思い至る。

 

勿論たった今なったばかりなのでどうしたら使えるかはわからないし、そもそもユーウェインというのも名前は見たことがあるというだけで何の能力があるのかすら知識にない。

 

(だけど、この状況を何とかできそうなのはそれしかない!…一か八かよっ!!)

 

賭けに出たバーヴァン・シーは、障壁が罅を発てて軋みはじめる中で感覚を研ぎ澄ます。

 

妖精とは神秘を自在に行使できる上位存在。ならば妖精騎士が円卓の騎士の力を思うがままに操れるということは、その円卓の権能もまた行使する際の力の源泉が神秘であってもおかしくないハズ。

 

であるならば、話自体は、何をやるべきかは簡単だ。

 

普段やってる事と本質的にはそう変わらない。

 

(―――集中しろ、鋭敏になれ。肉体の全神経、全細胞を、神秘の行使に活かせ……!!)

 

感覚を集中させるだけでなく、ビジョンのイメージもする。

 

眼前の死の弾丸を跡形もなく消す、そのイメージ(未来)を。

 

(私の中にある円卓の力…ユーウェイン卿。私の『仲間を守りたい』という、この思いに応えてくれるなら―――どうか、その力を貸して!)

 

祈る。自らの内にある、異邦の英傑の権能が現れ出づることを。

 

願う。英傑の権能(ちから)が、この死を打ち消してくれることを。

 

 

 

「私、は―――ユーウェイン。―――妖精騎士、ユーウェイン―――――!!」

 

 

 

妖精騎士としての自身を自覚し、受け入れ、与えられたその名を高らかに叫ぶ。

 

そして、それが切っ掛け(トリガー)となり―――『ソレ』は顕現する。

 

「む…?」

 

それまでバーヴァン・シーが耐え忍いでいる様を粛々と見ていたモルガンが不意に眉を潜める。

 

突然、バーヴァン・シーの頭上辺りに大きな一つの黒い波紋が現れたのだ。

 

「え…な、なに…?」

 

ホープたちも突如出現したそれに困惑していると――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■!!!!』

 

 

その時、その場の全員が『ソレ』をおぞましい声を響かせる黒い影の波と錯覚した。

 

だが、こと魔術の域においては彼の夢魔に比肩するブリテンの魔女は直後にソレの正体に気づく。

 

(なるほど…よく見ればアレは無数の『カラス』か)

 

魔女の言うように、黒い波紋から現れているのは夥しい数のカラスだった。

それが濁流の如き勢いで、己が主を守らんと魔力弾に突撃していく。

 

「―――これが、私の中にある…騎士の力、なのっ…!?」

 

動揺しているのはバーヴァン・シーもであった。

 

いきなり視界の周りが黒く染まったかと思うと、よく見ればカラスの集団が魔力弾に向かって抉らんばかりの勢いで攻撃しているではないか。

 

(突然のことだったからビックリしたけど…いける!これなら、消せる!消して、みせる……!!)

 

 

「お―――おぉおおぉぁあああっっっ!!!」

 

 

バーヴァン・シーの叫びに呼応するかの様にカラスたちも更に勢いを上げ、数を百、二百、そして三百と加速度的に増していく。

 

 

そのまま勢いに任せて光弾全体を覆い尽くし、徐々に収縮していく。

 

 

そして、最終的に隙間から光弾の青い光が見えなくなった辺りでカラスたちが四散すると――――――そこには先ほどまで存在した死の弾丸が、完全に消え失せていた。

 

 

「―――っはぁ…は、ぁ…ふーっ……ふーっ……!!」

 

 

やった、やりきれた。バーヴァン・シーは息も絶え絶えになりがらもそう確信し―――しかし警戒を緩めない。

 

「す、凄い…女王陛下の一撃を、かき消した…!」

 

「いいえ…まだ、安心するのは、早いわ…!」

 

先ほども懸念したが女王に取ってこんなものは十中八九私たちを殺せるだけの威力に調整した程度に過ぎないだろう。

ユーウェイン卿の力を以てして一撃目は何とかかき消せたが、鬩ぎ合いで体力を大きく消耗した今、次はそうはいかない。

順当に二発目を飛ばしてくるか、或いは一度に何十もの数を浴びせてくるか。

 

(前者ならまだ防げる可能性はあるけど三発四発と数を重ねられたら結局詰むし、後者に至っては……。ははは、どう足掻いても死ぬ、かな…)

 

希望がない事実を、避けようのない死を悟る。

 

だが、それでも彼女の灰色の瞳は絶望で曇ってはいなかった。

 

(だけど、ただでは死なない。どうあってもここで死ぬのが変わらないなら、せめて足掻きに足掻ききってから散ってやるわ)

 

消耗している肉体を無理矢理動かし、再度意識を集中し魔力を全身に張り巡らす。

 

(それに…死ぬか助かるかに限らず、信じてくれている友達の前で潔く諦めたり命乞いするなんて、私からすれば真っ平御免よ!)

 

眼前に鎮座している女王を見据え、いつ来られても良いように迎撃の構えを取る。

 

 

だが、そんな覚悟を決めたバーヴァン・シーに対する女王の反応は彼女の虚を大きく衝くものだった。

 

 

――――――パチ、パチ、パチ、パチ

 

 

突然、モルガンが手を叩いて拍手をし出す。

 

静寂な空間に乾いた音を響かせながら、彼女は口を開く。

 

「―――素晴らしい。妖精騎士となって間もなく、力の使い方も私から何一つ教わっていないというのに、死に物狂い故の冷静な判断と仲間たちを守りたいという想いだけで騎士の権能を行使してみせたか」

 

いきなり上機嫌に褒めはじめたかと思えば、直後にそれまで滲み出ていた重圧な殺気と威圧が収まっていく。

 

「やはり貴様を妖精騎士にしたのは英断であったな。少々やり方は荒かったが、私の予想をやや上回る結果になったのは実に僥倖だ。貴様は本当によくやってくれた、ユーウェインよ」

 

「は…?貴方何を、言ってるんですか?」

 

途切れることなく称賛を続けるモルガンに、間髪入れず疑問をぶつける。

 

「何、簡単なことよ。貴様らも知っての通り私は妖精を信用していない。理由は一つ、妖精の善意など揃いも揃って自分を満たすか他者を利用する為だけの手段であり、信じるに値しないからだ」

 

話しながらバーヴァン・シーを指差す。

 

「それ故に妖精眼でわかってはいたものの私は貴様の、貴様らの深い信頼関係に疑いを持っていた。互いに重んじているのはあくまで余裕があるからで、ギリギリまで追い詰められれば責任を押しつけ合い、罵詈雑言を飛ばし合うという見るに堪えん様になるのでは、とな」

 

 

 

現在の女王歴以前の時代、妖精歴において彼女は筆舌に尽くし難いほどの挫折と絶望を他ならぬ妖精たちに味わされてきた。

 

特に決定打となったのはロンディニウムで起こった円卓毒殺の悲劇。

 

それまで英雄だの救世主だのと持ち上げに持ち上げていたにも関わらず、ふとした気まぐれで戴冠式の日に毒酒を煽らせるという酸鼻極まる仕打ちをされたのだ。

 

誇りであった円卓と想い人をゴミの様に始末されたモルガンは、それを皮切りに救世主の役割を完全に捨て去り、新たに冬の女王として今の苛烈な圧政を敷くようになった。

 

そうした経緯もあり、彼女からしてみればバーヴァン・シーたちの絆は妖精眼で感じた程度ではどうしても素直に認められなかった。

 

 

 

 

「だからこそ貴様らの信頼が本当にガワだけのものでないかを見極める必要があった。故にあのような命令を下し、拒否した貴様に対して更に一撃追い詰めたのだ」

 

「…つまり……私たちを、試したと?」

 

事の真相を語るモルガンに鳩が豆鉄砲を食らったような気分に陥るバーヴァン・シーだったが、構わずモルガンはネタバラシを続ける。

 

「然り。そして貴様は権能を発現させ我が一撃を見事打ち消してみせ、それで尚諦めも命乞いもせず最期まで仲間の為に立とうとした。ここまでされては如何に冷酷な私とて認めざるを得まいよ」

 

「…では、殺す気自体はなかったと?」

 

「――いや、それもあった。先ほど貴様が消した一撃だが、あれでも普段の2000分の1ほどの出力しか出していなかったからな。もしあのまま悶着状態が続いていれば妖精騎士として不相応の格と見なし、直ぐ様二発目を放っていた」

 

「――――――――」

 

バーヴァン・シーは本日数度目の絶句をした。

あのまま権能が行使できてなかったら理不尽にもそこで全てが終わっていたのだ。

 

「そして、仲間たちが貴様に対して責任転嫁などといった負の思いを抱き、信頼に亀裂が生じた場合も同様に殺していた。私と同じく妖精眼を持つ立場でありながらそんな醜い感情を奥底に持つ者との関係を信頼と勘違いする愚か者に我が庇護を受ける価値など無いからな」

 

「………………」

 

 

 

結果的には女王に認められ助かった。だが、バーヴァン・シー当人としてはハイそうですかと許せるものではない。

 

初対面とはいえ自分たちの信頼を疑われただけでなく、本当かどうかを試すなどと一方的な理由で本気で殺されかけたのだ。

 

相手は自分たちの理屈も常識も通用せず、そもそも妖精自体が嫌いな魔女だと頭ではわかっていても、憤りを感じずにはいられなかった。

 

 

 

「…さて、説明は以上だ。改めて言っておくがそこな三翅は貴様の大切な仲間として、我が名にかけて丁重に扱ってやる。とはいえタダで住まわせるわけにもいかぬ。…そうだな、まずはこの城の清掃でも任せるか。ランスロット、この謁見が終わり次第其奴らに我が城内の右側の案内を命ずる。よいな?」

 

「…了解。ご命令とあらば」

 

長々と言うだけ言った後、モルガンはランスロットに命令しランスロットもそれを淡々と承る。

 

「よかろう。ではここからは氏族長らの発言を許す。各自私の命の下、順を追って好きに喋るがいい。一番手はオーロラ、貴様からだ」

 

そして何事も無かったかのように氏族長会議を始めると、早速オーロラに意見を求めた。

 

『風の氏族長、オーロラ様。発言をどうぞ』

 

『まぁ、偉大なる女王陛下から一番手を許されるなんて光栄ですわ!』

 

遠隔立体映像(ホログラム)越しに相も変わらず天真爛漫な表情で答えるオーロラ。

 

尤も心の内を覗いたことのあるバーヴァン・シーからすればひたすら不気味でしかないのだが。

 

『そうですわね、私の意見はユーウェインたちをこのままキャメロット城内に居座らせる方がいいと思います。ほら彼女って、陛下の娘さんの影武者をやるのでしょう?なら常に貴方様と娘さんの側に侍らせておく方がいいですし、彼女の仲間たちも一緒にキャメロットについてお勉強いただく方がいい経験になると思いますわ!』

 

バーヴァン・シーたちの為に言ってくれている…と周りは思っているだろうが、当の本人にとっては暗に厄介払いをしている気がしてならなかった。

 

「そうか。貴様らしい尤もらしさを並べ立てた意見だな。では次はスプリガン、貴様だ」

 

『土の氏族長、スプリガン様、発言をどうぞ』

 

次に指名されたのはエルフのように長い耳が目立つ、如何にも悪の参謀といった出で立ちのスプリガンという男だった。

彼は実際にその場に赴いていた。

 

「おお!一番手の直後という早きのご指名、誠にありがとうございます。して、私の意見としましてはただ一つ。―――なぜ、この謁見にトリスタン嬢を呼ばなかったので?」

 

卑下するような笑みでモルガンに問うスプリガン。

 

「トリスタンは貴様も知っての通り悪逆残酷な性格だ。私がそう教育したとはいえ、少しでも機嫌を損ねようものなら此奴らを躊躇なく殺し尽くしていただろうからな。私とてそれは望むところではない。故に外した」

 

「ほう、確かに筋の通っている理由ですな!…あぁとはいえ、とはいえですよ。事情あっての事であれ御自身の知らぬ間にこうして新たな妖精騎士が迎え入れられ、しかもその者は御自身と同じ顔と声を持つ存在で、更に更に事前知識無しの土壇場で権能を発動せしめたと知ったら……貴方様に認められたい一心で悪逆に努力しておられるトリスタン嬢は果たしてどう思うでしょうねぇ?」

 

モルガンの返答に納得しながらも、顔に手を当てわざとらしく嘆く様子を見せつつスプリガンはモルガンを煽る。

 

「おいスプリガン。偉大なる陛下の前でその発言と態度は何だ。大体いつも貴様はそうして小馬鹿にするような振る舞いをするな。そんなに殺されたいのか?」

 

『牙の氏族長、ウッドワス様。発言をどうぞ』

 

そんなスプリガンに口を出したのは、バーヴァン・シーたちが玉座の間に入ってから今の今までずっとただならぬ雰囲気を放っている牙の長、排熱大公とも呼ばれているウッドワスだった。

 

「いえいえ滅相もない、貴公の目にはそう見えられてるかもしれませんが小馬鹿になどしておりませんとも。それに、あの令嬢は貴公にとっても気にくわないのでは?」

 

「…確かにそれはそうだ。だが私が気に食わなくとも陛下にとっては私に勝るとも劣らないほど配下として寵愛されているのだ。故にあの小娘についての言及だろうと貴様の発言は見過ごせるものではない、次から気をつけろ」

 

ウッドワスからすればトリスタンは顔を合わせる度に獣臭いなどと好き勝手に言ってくる生意気な下級妖精なのだが、それはそれとして主が大切にしている部下の一翅でもあるのでスプリガンのように小馬鹿にしてくるのもまた気にくわなかった。

 

「…ふむ、わかりました。私としては煽っているつもりなど無いのですが、今度からもう少し言動に気をつけておきます。陛下、どうか御許しを」

 

「よい、ウッドワスに注意されたところでどうせ貴様はいつまで経ってもその態度を直す気は無いだろう。故に許す。まぁ、そういうところも含めてどうかと思わなくもないがな」

 

「おお、御許しの慈悲を下さりありがとうございます!」

 

モルガンからの許しを得たのを良いことに上機嫌に感謝を述べるスプリガン。

毎度毎度こんな感じで振る舞っているらしいのに殺されていないところを見るに、どうやら相当な口上手らしい。

 

「ああ、それとユーウェイン卿たちのことですが私は特にこれと言って気になるところは無いのでオーロラと同じ意見ですな」

 

「そうか。仮にも汎人類史からの漂流物だというのに貴様が興味を示さないのは珍しいな」

 

「ええ、私が興味を示すのはあくまで貴方様の言われるところの“ガラクタ”ですので」

 

…ガラクタ、とは何だろうか?バーヴァン・シーの疑問を他所にモルガンは次の氏族長に意見を促す。

 

「…ふん、そうか。では次は貴様だ、ウッドワス」

 

指名を受けたのはウッドワスだった。

 

「は。私からの意見も現状維持の一言です。此奴らにはこのまま陛下の庇護の下で働いてもらい、それが如何に光栄極まることなのかを骨身に至るまで知ってもらうべきです。―――ただ」

 

そこで一旦言葉を切り、ウッドワスはバーヴァン・シーの方を見やり、口を開いてこう続ける。

 

「下級妖精といえど、こうして妖精騎士という陛下の御身を護る盾にして剣になったのは事実。故に近々オックスフォードの方にユーウェインの身柄を預かり、私が直接指導してやろうと思っているのですがよろしいでしょうか?」

 

(…!)

 

何を言うかと思えば指導の予定とその許可だった。

特訓でもさせられるのだろうか?

 

「近々、というのはいつからだ?また、指導にどの程度の期間を掛けるつもりだ?」

 

「いつからというご質問に対しては具体的には今日より3日後であります。期間については……そうですね、まずは様子見という形で―――1年、でしょうか」

 

(い、一年?様子見にしてはちょっと長くない…?)

 

ウッドワスの答えは丸1年指導するというものだったが、正直バーヴァン・シーとしてはあまり喜ばしいことではなかった。

 

何しろその間ずっとこの威圧感漂う獣人の側に居続けないといけないのだ。しかも今からたった3日後に。

 

「1年か。それだけあればこちらから任務等で其奴を預かる事が度々あるだろうが、構わないな?」

 

「はっ、構いませぬ」

 

「よかろう。ならば貴様のその提案を許可する。だが貴様はプライドの高さ故に感情の起伏が激しい。下級妖精だからと言ってくれぐれも殺すなよ?其奴とその仲間たちの生殺与奪の権利は私だけが持っているのだからな」

 

「御意に。肝に命じておきます。私からは以上です」

 

あっさりと許可が下ったが、大丈夫だろうかとバーヴァン・シーは不安になる。

まぁモルガンが殺すなと言った以上死ぬようなことは無いと信じたいが、どうにも安心しかねると彼女は思った。

 

「わかった。では次はムリアン。貴様の番だ」

 

『翅の氏族長、ムリアン様。発言をどうぞ』

 

次に指されたのは翅の氏族長のムリアンという小柄な妖精らしいが、彼女も遠隔立体映像で参席していた。

 

『私からは特に何も。強いて言うならこの前のオークションにしれっと参加していただけた礼を言いたかったくらいですかね。というわけでユーウェイン卿と愉快な仲間たちの皆さん!以前のオークションはご参加ありがとうございました!』

 

えらくフランクな感じで話し掛けてきた。

 

直前まで冷静沈着そうな感じで黙っていただけにそのギャップに困惑するも、一応返事を返す。

 

「あぁ、いや…こちらこそありがとうございます。あの時は私たちとしても有意義な一時でした」

 

『お、そう言っていただけると私としても嬉しい限りです!必要があれば是非寄っていってくださいね、グロスターでいつでも待ってます!』

 

「え、ええ。そうさせてもらうわ!」

 

朗らかな笑顔で答えるムリアンに、バーヴァン・シーも笑顔で返す。

 

(…仮にも一氏族の長である以上は少なくとも一枚岩じゃないでしょうね。多分何かしらの裏を抱えてるハズ………けどなんだろ)

 

オーロラと違って何故かその笑顔も言動もそこまで気持ち悪くは見えなかった。

 

『というわけで私からは以上です。それと申し訳ないですがこの後も予定が山積みなのでここらで失礼致します。では』

 

そう言うなりムリアンは映像と共にその場から消えた。

 

「…ふん。私の許可も聞かずに去るとは、余程経営を優先しているのだな。些か無礼ではあるが、それも奴らしいと言えば奴らしいか。…では次だ」

 

自分のペースで半ば一方的に退室したムリアンに多少の不満を漏らすモルガンだったが、すぐに切り替え次の氏族長を指名する。

 

「―――エインセル。貴様の意見を申せ」

 

『鏡の氏族長、エインセル様。発言をどうぞ』

 

指されたのは、エインセルという名前の氏族長。

彼女は直接赴いており、見たところ金髪に綺麗な緑の瞳を持つ、人間の少女のような容姿だった。

 

「はい、私の意見ですが彼女の仲間の皆さんをキャメロットではなくこちらに…我々鏡の氏族に任せて世話をさせてほしいというものです」

 

エインセルの意見は、ホープたちの身柄を自分たちに預けてほしいとの内容だった。

 

「ほう…貴様がそう述べるということは、即ち『それが最善の結果だと“わかった”』という意味だな?」

 

「流石に察しがいいですね。ええ、この子たちを見た瞬間に『観えた』のですよ。キャメロットで生活していた場合どうなるかを」

 

「…よかろう。ならば貴様のその申し出を許可する」

 

先ほどから一方的な会話が続けられているが、バーヴァン・シーは咄嗟に割って入った。

 

「あ、あの。エインセル、様…だったかしら?話されているところ申し訳ないけどちょっと待ってくださらない?」

 

「ん?どうしましたユーウェイン卿」

 

「いや…今貴方は唐突にホープたちの世話をしたいと言われましたが、私たちからすれば貴方と貴方の氏族は名前しか知らないんですよ」

 

当たり前だがバーヴァン・シーは鏡の氏族もエインセルも名前以外の知識も面識も全く無く、エインセルという氏族長の存在自体この謁見で初めて知ったのだ。

 

「私だけならともかく、そういう素性も得体も知れないところに命より大切な仲間たちを預ける、というのははっきり言ってモルガン陛下が御許しになられても私が承諾しかねます」

 

「むむ、確かに貴方の言い分はご尤もですけど…でもこのままこの城で生活させるとその内大変なことになりますよ?」

 

「大変なこと?それってどういう…」

 

 

 

「―――全員殺されて死ぬというわけだろう?エインセル」

 

 

 

その時、ランスロットが割って入りエインセルに尋ねた。

 

「は?殺される、って…!?」

 

「うん。ここに居座らせた場合、モルガン陛下が偶々監視の目を離している間に他の妖精たちに日頃のストレスの捌け口にされた末にバラバラにされて死ぬみたいですよ」

 

馬鹿な。何を言っているんだこの妖精は?殺されるだと?モルガンの監視が常に行き届いているハズのこの城で?

 

「…冗談なら今すぐやめて。モルガン陛下の監視下にある中で庇護対象を殺すなんて愚行がやれるわけがないでしょう?」

 

「ところがどっこい、実際に“そうなる”らしいんですよね。汎人類史(そっち)はどうなのか知らないけど、この世界の妖精たちは基本的に後先の損益を考えずに生きてるから、例えモルガン陛下の監視下だろうと殺す時は容赦なく殺してしまうんです」

 

「エインセルの言っていることに間違いは無いよ。君だってそういう妖精の醜い側面を見たことがあるんじゃないか?」

 

ランスロットの問い掛けにバーヴァン・シーはコーンウォールでのあの夜を思い出す。

確かにあの時も気にくわないからという取るに足らない理由で自分たちを皆殺しにしようとした。

 

「…まぁ、それはそうだけど…だからと言ってエインセル様に預けるのを認める理由には繋がらないですわ」

 

「じゃあ、こう言えば認めてくれるかな?私とランスロットは旧知の仲で今でも強い友好関係にあるんです!」

 

「え―――ら、ランスロット殿と!?」

 

エインセルの思わぬカミングアウトにバーヴァン・シーに目を丸くしそうなほどに驚く。

 

「その通りさ。だからこうして当たり前の様に割って入ったんだよ。実は彼女を始めとして鏡の氏族とはそれなりに長い付き合いなんだ。故に彼女は信用に足る人物だと僕が保証しよう」

 

「そうそう。さて、これで認めてくれますか?」

 

バーヴァン・シーは悩む。ランスロットがそう言うからには少なくとも悪い妖精ではないのだろう。

だが、それでもホープたちを預けるのを許すにはまだ少し抵抗があった。

 

「う~ん…もう一押し必要みたいだね。それなら、今言った“城に居続けたらその内殺される”というのが全部私が『実際に観た未来』だと言ったらどうします?」

 

「……なんですって?実際に観た、未来?」

 

半信半疑に問うバーヴァン・シーにエインセルは説明する。

 

「うん。これも周知のことなんですが、私たち鏡の氏族は少し先の未来を実際に観測できる能力があるんですよ。先ほども貴方たちを一目見た瞬間にその光景が観えました」

 

「まぁ、たまに随分先の未来も観えるらしいけどね。因みに彼女たちの未来視が外れたことは今のところ一度も無いよ。そうだよね、陛下?」

 

「ああ。未来が視えるなどと馬鹿馬鹿しいと思うかもしれぬが、現に此奴らの予言は全て的中している。故に此奴らの未来視は私としても信用に値する」

 

ランスロットに振られる形で未来視を肯定するモルガン。

 

(ランスロット殿どころかモルガンまで…それなら、預けるのを許してもいいのかも。さっきから視てるけどこの方には邪気が一切感じられないし、ここは…信じてみるか)

 

「…わかりました。ランスロット殿やモルガン陛下をしてそこまで言われるのであれば、私も貴方を信用してみます。その要望を認めますよ」

 

悩んだ末にバーヴァン・シーはエインセルの提案を受け入れた。

 

「ありがとう。その信頼を裏切らないように全力で彼女らを、ホープさんたちを保護しますね!」

 

屈託のない笑顔で答えるエインセル。

それは、邪気のある者には真似できない確かな優しさが溢れる表情だった。

 

ホープたちも一方的に話が決まったことに思うところがないこともなかったが、妖精眼を持っていてモルガンの命令にも流されなかったバーヴァン・シーが認めたのだから大丈夫ではあるのだろうと納得した。

 

「…話は終わったか?」

 

「はい、モルガン陛下。私からは以上です。申し出を許可していただきありがとうございます。あ、言い忘れてましたが預かるタイミングはウッドワス公の予定に合わせて3日後とさせていただきます」

 

深々とお辞儀をし、エインセルは感謝の意を示す。

 

「よかろう。それと念のために言っておくが私が許可したのはあくまで貴様の未来視を評価しているだけが故に過ぎん。そこをゆめ忘れるな。――では最後だ」

 

そして、最後の氏族長をモルガンは指名する。

 

「我が配下にして我が政敵。北の女王ノクナレア、意見を述べよ」

 

『王の氏族長、ノクナレア様。発言をどうぞ』

 

最後の氏族長はノクナレアという妖精だった。

彼女は映像越しに参席していたが、それでも肌で感じ取れるくらいの凄まじい気品があった。

 

『ご機嫌麗しゅう。モルガン陛下に各氏族の長の方々。私からの意見は特にこれと言ってございませんわ。彼女をオックスフォードのウッドワス公へ寄越すも良し、そのお仲間を鏡のところへ預けるも良し、どうぞ陛下のお好きにされてくださいな』

 

映像越しというのもあるかもしれないが、彼女は他の氏族長以上にモルガンの威圧に対しどこ吹く風と言った感じで意に介していなかった。

 

『あ、でも―――これは意見ではなくご報告なのですが、私最近あるモノを見つけまして』

 

唐突に話題を変えるノクナレア。あるモノとは?

 

『2日前、湖水地方からモースが流れてきていないか周辺の偵察をしていたところ、果ての海岸との境目付近でとある妖精を発見したのです』

 

(とある、妖精?)

 

『その妖精に接触したところ、どうやらその妖精は当てもなく興味本位で周囲の探索をしていたとのこと。何処から来たのかと問うと“ブリテンの海を遊泳していたらいつの間にか知らない場所にいた”…と言っていました』

 

ブリテンの、海?いつの間にか知らない場所…?

――――――いや、まさか、それって。

 

「もしかして…私と同じ…!?」

 

『あら、流石に体験済みの者はすぐに察せたみたいね。ご明察の通り、その妖精は貴方と同様に汎人類史から漂流してきた異物ってコトよ』

 

ノクナレアの発言にざわつき出す妖精たち。

 

バーヴァン・シーとて例外なく動揺していた。

自分と同じ、汎人類史からこの世界に流れ着いた漂流物の妖精。

てっきり自分だけがこういう事故にあったものと思っていただけにその衝撃は大きかった。

 

「名は。その者の名は何と言う?」

 

 

『ええ、陛下。聞いて驚きなさい!その妖精に名を尋ねたところなんと―――メリュジーヌ、と答えましたのよ!』

 

 

「――――――!!?」

 

 

「な、ななっ…!!?」

 

 

「――――ほう…」

 

 

『あら―――あらあらまぁまぁ!』

 

 

ノクナレアがその名を口にした瞬間、モルガン―――――だけでなく、なぜかランスロットとハロバロミア、オーロラの三翅が一斉に反応を示した。

 

「…?ハロバロミア、ランスロット殿?どうしました?」

 

「あ……その、バーヴァン・シーくん、なんていうかだね…」

 

「ハロバロミアは黙ってて。ユーウェイン、君は気にする必要はないよ」

 

「あ…は、はい……」

 

「…??」

 

突然、ランスロットがハロバロミアを威圧する。

彼を黙らせたランスロットはノクナレアに問う。

 

「ノクナレア。それ、冗談なんかじゃなくて本当にその妖精はそう口にしたんだね?」

 

『ええ、一字一句、聞き間違いなくそう述べたわ。……何、やはり気になっちゃう?』

 

「からかうな。…そう、そうか……」

 

何を思っているのか、低い声で静かに呟くランスロット。

その顔は哀れむような、憂いているような、どちらとも言い難い複雑な感情が出ていた。

 

「……ランスロットが何を思っているかは妖精眼を使わずとも想像がつくが、貴様の報告はそれだけか?」

 

『ええ、私から述べたかったのは以上です。それじゃモルガン陛下、毎度ながらの去り台詞ですが―――何れその玉座から貴方を絶対に引きずり墜としてみせますのでどうかそれまでに御覚悟、決められてくださいね♡』

 

そして捨て台詞を決めるとノクナレアはその場から退室した。

 

「ふん、わかってはいたが相変わらず身の程知らずな小娘よ!生意気さで言えばトリスタンと良い勝負だ!」

 

「そう邪険にするなウッドワス。私からすれば下手に媚繕ったりせずに堂々と物申してくるあの態度は悪くない。寧ろあれでこそ我が政敵に相応しい。…今はまだ弱いがな」

 

モルガンに取ってノクナレアはライバルであり、自身が倒れた時に備えている後任者でもある。

故に彼女もまたモルガンが優秀で誇り高いと認めている数少ない妖精の一翅である。

 

 

 

「―――さて、では我が真言で此度の謁見を締めるとしよう」

 

 

 

玉座からゆっくりと立ち上がり、モルガンは締めの宣言をする。

 

 

 

「此度の謁見、ランスロットの報告を聞いた時点で私が流れを作っていたとはいえこうして新たなる妖精騎士、ユーウェインが此処に就任した」

 

 

 

「後に貴様らに専用の個室を与える。そこで3日後に備えて各々言葉を交わしておくといい」

 

 

 

「だが忘れるな。我が庇護下に入るということは我が所有物になるということ。貴様も、貴様の仲間も、此処にいる妖精共と同じく私が生かし、私が殺すのだ」

 

 

 

「――――――では、解散だ。全員速やかに立ち退くがいい」

 

 

 

 

―――かくして、汎人類史の吸血鬼と異聞帯の女王の謁見は終わり、同時に『第四の妖精騎士就任』という歴史的瞬間が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈

 

 

 

「―――てことで私たち、今日から三日後に離れ離れになってしまうわけだけど、本当にこれで良かったのかしら…?」

 

その後バーヴァン・シーたちは適当に当てられた四翅部屋でこれからについて話し合っていた。

 

「た、確かに不安はありますけど!あの状況から生き残れただけでも私は良かったと思います!」

 

「ホープの言う通りだぜ。いやぁつってもさっきはマジでオレら終わったかと諦めかけたけどよ、すげぇなバーヴァンシー!黒い鳥の波みたいなモンを召喚して女王の一撃をかき消した時は正直惚れたぞ!」

 

「いやはや、まさか少し前に村の仲間の一員に過ぎなかった君が妖精騎士に就任するだなんて今でも信じられないよ。鏡の氏族でも予測がつかなかっただろうね」

 

各々謁見でのことを口にする。正直バーヴァン・シーとしてもこうなるとは全く予想がつかなかった。

 

「まぁ、それは私もそうだけど…あ、それと改めて言うけど私のことはこれからユーウェインと呼んでちょうだいね。折角のギフトの力が意味無くなっちゃうし」

 

「おっとそうだったな。本音を言やぁ元の名前で呼んでた今までが名残惜しいが、こっちこそ改めてよろしくな!ユーウェイン!」

 

「私もドーガさんと同意見ですけど…改めてよろしくです、ユーウェインさん」

 

「私はそれが君の為になるなら特に抵抗はないよ。というわけでよろしくね、ユーウェインくん」

 

 

 

「…フフッ、ありがとう貴方たち。妖精騎士ユーウェイン、“最高の友達”を護る為に頑張ります」

 

 

 

バーヴァン・シーは―――否、新たなる第四の妖精騎士ユーウェインは、改めてこの三翅との出会いにこれまでの生涯で一番の感謝を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして3日後。ユーウェインはウッドワスに、ホープたちはエインセルの手引きによってそれぞれオックスフォード、湖水地方に向かうこととなる。

 

「では私の方はこの子たちを預かるので、そちらはユーウェイン卿をお願い致しますね」

 

「フン、貴様に言われる間でもない。精々此奴の身に私の強さの一端を刻んで虐め抜いてやるわ」

 

「おおう、相変わらず怖いですね。―――では、お互い世話役を頑張りましょう!」

 

そう言ってエインセルはホープたちを連れて、モルガンから貸し与えられた片道分の水鏡を取り出す。

 

「それじゃあ私たちもお互いに気をつけましょう、ユーウェインさん!」

 

「オックスフォードも良いトコだからよ、存分に楽しんでこい!間違ってもウッドワス様に殺されないようにな!」

 

「私たちのことは気にしなくても構わないよ!こちらもエインセル様とランスロット殿の下で頑張るとするさ!」

 

「ありがとう、ホープ、ドーガ、ハロバロミア!精々ご機嫌取りに徹して必死こいて生き抜いてやるわ!エインセル様も彼女たちをよろしくお願い致しますわねー!」

 

その言葉にエインセルは柔らかな笑みで返すと、水鏡を発動してホープたちと共にその場から消えた。

 

「さて、では我らも行くか。陛下からの命令で殺しこそしないが…指導をする上では一切の容赦はしない。今の内に覚悟を決めておくんだな」

 

「―――はい。これから一年間、どうぞよろしくお願い致します。排熱大公、ウッドワス殿」

 

これからの自身の世話役に敬意を表する。

……あの謁見でもう一翅の私を毛嫌いしてるのがわかったし、きっと私も無事では済まないだろう。

もしかしたら骨を折られたりされるだけでなく、四肢を千切られたり、内臓を抉られたりするかもしれない。

 

それでも私は友達の為に―――この身を削ってでも懸命に足掻き続けてやるわ。

 

 

 

「…まぁ、その殊勝な態度は認めてやる。あの小娘と違って礼節も弁えているしな」

 

ウッドワスからしてもユーウェインは仲間思いかつ礼節と身の程の分別が出来ている数少ない妖精なので割りと高い評価をつけていた。

 

しかし、だからこそ厳しく指導すると決めているのだが。

 

 

「それでは早速指導を始めるが…まずはここキャメロット正門からオックスフォードまでワンストップでダッシュするぞ」

 

 

「はい、わかりま―――えっ!?ここからオックスフォードまでダッシュですか!?私たちにも移動手段があるのでは!?」

 

 

「たわけ、移動手段など自らの脚に決まっておろう!一度だけ休息を与えていることに寧ろありがたいと思えっ!さぁ行くぞっ!!」

 

 

「ひぇっ!?ちょま、速い速い待ってください排熱大公ォおおおおっっ!!??」

 

 

 

 

何はともあれ、こうして第四の妖精騎士ユーウェインは誕生した。

 

 

 

彼女がぶつかる最初の試練は、亜鈴返りの牙による苛烈極まる修行の一年である。

 

 

 

 


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