Fate/Viridian of Vampire 作:一般フェアリー
バーヴァン・シー―――もとい妖精騎士ユーウェインが牙の長、ウッドワスによって指導を受け始めてから早くも半年の月日が経った。
「これで終わりよ、食らいなさい!
赤い薔薇の花が咲き誇り、10mほどの大型モースが四散する。
今日に至るまで彼女は文字通り血が滲むどころか流れ出るほど激しく厳しい指導訓練を課せられ、その度に肉体にむち打ちながらこなしてきていた。
「ふむ、最初と比べて随分と見違えるほどに成長したな。ただのモース10匹に苦戦を強いられていた頃の貴様が懐かしいよ」
「はは、自分でもそう思いますね。ここまで強くなれたのもウッドワス殿のおかげに他なりません」
この日彼女が受けていた訓練は涙の河からノリッジの間を挟む森に突発的に発生した、大型の個体が率いる30匹程度のモースの群れを単独で掃討することだった。
「当たり前だ、この私を誰だと思っている。これまでも見込みのある奴を多く育んできたのだ。故に育手を鍛え上げるのも朝飯前よ」
自慢気に鼻を鳴らすウッドワスだが、実際はこれまでの1000年近くの間で彼の目に止まった才覚ある者は妖精・人間含めて殆どいなかった。
「それにしても、貴様の大技もこの半年の間で何度も目にしたが…見た目と声が同じなら大技の雰囲気まであの小娘が放つそれと酷似しているとはな。陛下曰く魂の色まで全く遜色のない同一のものらしいではないか」
最初にランスロットからの報告でその存在を知った時は俄には信じ難いとウッドワスは思った。
彼から見た
故にその
「そうらしいですね。ウッドワス殿から見てもそのバーヴァン・シー…トリスタン殿は私と瓜二つに感じますか?」
「…まぁそうだな。そのつり上がった目も血に浸した様な赤い髪も奴にそっくりだ。まるで鏡写しだな」
彼女に問われる形でこうして改めて見ると本当にどこまでもトリスタンに似ていた。
ただしそれはあくまで見た目“だけ”だが。
「しかし、この前の謁見とここ半年を通して貴様という存在を見てわかったことがある。それは貴様の心の在り方は奴とは似ていないどころか対極と言えるほどに違うことだ」
「心の在り方、ですか?」
「ああ。奴は礼節を知らず常に傲慢不遜に振る舞っているが、貴様の場合は相手と己の立場を正しく理解し、仲間の安否に関わること以外は命令を拒絶せずに潔く受け入れる。故にこその対極なのだ」
あの小娘の相手はその傍若無人な態度もあってひたすらに不快で仕方ないが、目の前の小娘は此方の言うこと自体は素直に聞き、尚且つ丁寧な口調・態度で接してくれるので此方としても気持ち良く指導することができた。
「加えてここ半年の指導に対する励みぶりもあって私は貴様を評価している。その意欲と意気込みの強さはこれからも是非維持してもらいたいものだ」
この半年間、指導の中でユーウェインは幾度も血と汗を流し、傷つき、倒れてきた。
しかしその度に再起し、そうした死と隣り合わせの状況に置かれても逃げもしなければ弱音も吐かず、一度と諦めずに向き合い課せられた指導をこなしてきた。
その姿勢を常に間近で見ていたウッドワスは、彼女を『実力はまだまだだが、根性だけは一翅前』と彼なりに高く評価していた。
「とはいえまだ様子見の段階であることに変わりはない。実力も最初と比べてかなり強くなってはいるが女王軍の武の象徴たる妖精騎士としては未だ力足らずだ」
彼の理想としては残りの期間で最低でも今しがた彼女が倒した大型モースを、大技ではなく通常攻撃で二~三体はまとめて倒しきるくらいはなってほしかった。
「そういうわけであともう半年、死なない程度に追い詰めてやるから覚悟しておけ」
でなければ他の妖精騎士と比較して明らかに見劣りするし、自分の師としての腕とプライドにも傷がつく。
何より
「はい、こちらとしても最初から覚悟はできています。精々貴方に見限られないよう、骨身を惜しまず頑張りますわ」
「その意気や良し。その思いに応えてまた明日も厳しく指導するが、実を言うと貴様の成長性にはこの私からしても目を見張るものがあるのだよ」
少し前の自分なら絶対に言わなかったであろう台詞を彼女に対して口にする。
妖精騎士としての力を持っているから、というのが一番影響しているのだろうが…彼女の成長ぶりはとても元が下級妖精のそれとは思えないほど伸びが早い。
現時点でもこの強さだと書記官のメルディック程度なら十分に渡り合えるだろう。
「つまり―――私は貴様のその成長性に期待している、というわけだ」
これなら何れはランスロット…とまでは行かずとも、間違いなくトリスタンを凌ぎ、ガウェインと比肩する域にまで達するだろう―――――彼の中でそういう確信があった。
「…驚きました。まさか六氏族最強と言われる牙のトップの貴方にそう言われるとは。私のような一妖精にはもったいない御言葉です」
「なに、今の貴様に対する私の評価をありのままに述べただけだ、そう畏まることはない。その謙虚さも貴様の良きところではあるがな」
謙遜するユーウェインにそうする必要はないと言いつつ、そこもまた一つの魅力として認めるウッドワス。
それまでの姿勢を見ていたからこそではあるが、この日初めて彼が下級妖精だからなどと言った偏見を抜きに彼女という妖精を認めたのだ。
「お褒めいただたけて光栄ですわ。ですが、私としてはこの謙虚さを控えるつもりはありません。『持ち上げられたからと言って調子に乗るな』と常に自分を戒めていますので」
「…ふん。違う世界の存在とはいえ、本当に貴様は下賤な下級妖精らしからぬ奴だな。まぁそれはそれで良いとして―――そろそろオックスフォードに戻るぞ」
「はい、明日も頑張ります!」
それから二翅は当たり前のようにオックスフォードまで走りきり、レストランで適当な菜食料理を食べて英気を養った。
そのあと就寝時間で自室に向かっていくユーウェインを見たウッドワスは、その瞳に淡い期待を抱いていた。
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――――――それから更に四ヶ月の月日が経過。
「だぁあっ!!」
ユーウェインは最早大技を出すまでもなく、最小限の攻めでモースの群れを一掃する域にまで達した。
「―――ふぅ。どうです?四ヶ月前と比べて」
「…動きと魔力消費が前にも増して効率化しているな。加えて一撃の精度も威力も上がっており、権能の使い方もより手慣れて来ている。前々から期待していたとはいえ、ここまで成長するとは驚かされたぞ」
この四ヶ月間、彼女はウッドワスの指導だけでなくモルガンからの任務で相当数の魔獣や幻獣を討伐、更に一部の暴動した住民たちの鎮圧や手練れの指定犯罪者の捕獲なども達成し、実力と共に実績もそれなりに積み重ねていた。
「お褒めに預かり光栄です。…フフ、そろそろ妖精騎士として名乗っても恥じないところまで達しているのではなくて?」
「ハッ、自惚れるでないわ。確かにこの強さであればトリスタン程度なら渡り合えるだろうが、奴など妖精騎士の中では最弱に過ぎん。ランスロットは言わずもがな、ガウェインであれば今しがた貴様が倒したモースの群れなど剣の一薙ぎで滅ぼせるからな?」
自慢気に言うユーウェインをウッドワスは戒める。
妖精騎士は本来、モルガンの配下で彼以外の追随を許さない一騎当千の実力を持っているのが当然の存在であり、従って今のユーウェインでも彼からすればようやく片足突っ込み始めたという認識であった。
「今の群れを一薙ぎ、って…ちょっと私には想像し難い上にそこまで成れる気がしないのですけれど?」
「何を言うか、この私がこうして直々に鍛え上げてやっているのだ、そう遠くない内に貴様もそこに至るだろうよ。…いや、“先”を考えれば至らねばならぬと言った方が正しいか」
「…?何か妙に引っ掛かる言い方ですけど、どういう事です?」
単に女王軍、延いては妖精國の力の象徴としてそうであるべきなんだなと解釈してコツコツと頑張ってきたが、“先”とは何なのか。
「…そう言えば貴様は成り行きで妖精騎士になっている故に、その『真の存在意義』については何も知らぬのだったな」
彼の発言の意味がわからぬユーウェインに、ウッドワスはそろそろ話してもよい頃合いだと判断する。
「よかろう、ここらで貴様にこの先この國を護る剣としてなぜそこまで強くならなくてはいけないかを教えてやる。ここで話すのも何だ、一旦私の邸宅に戻るぞ」
そして彼はユーウェインを連れてオックスフォードに帰還する。
まだ右も左も把握していない新米に向けて、妖精騎士という存在の最も重要な
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「―――では、まず先に確認しておくが貴様は『厄災』という存在は知っているか?」
「厄、災…?聞いたことありませんけど、何ですかそれ?」
「ふむ、やはりというべきかこの國に迷い込んでからただの一度も耳にしていないのだな。一般常識の一つである故、名前程度は聞いているものと思っていたのだが…まぁこの際だ、しっかりと覚えてもらうぞ」
邸宅の自室にて早速話題を展開するウッドワスだが、彼の予想通りユーウェインは厄災については知識ゼロであった。
「まず厄災というのはこのブリテンの島において定期的に発生する災害現象であり、発生時期はとにかく不定期で数百年の時もあれば百年前後で発生する場合もある」
厄災。汎人類史にはなく、このブリテン異聞帯にのみ存在している概念現象。
この異聞帯が異聞帯として分岐した時点で絶えず起き続けている災害である。
「そして厄災はこれと決まったものではなく多様な形で襲ってくる。例を上げると大量の芋虫が波の如く押し寄せて来たり、有象無象の屍共が此処彼処に溢れたり、貴様が倒している大型モースが数百は下らない規模で攻めて来たりとかな」
「す、数百っ…!!?そ、そんなのが攻めて来たら個翅や集団どころか町の一つ二つ大打撃を受けてもおかしくないのでは…!?」
「ああ、現に屍共が沸いて出た災害…通称『蘇りの厄災』は発生地点であるダーリントンという町を軒並蹂躙し尽くし壊滅状態に追いやったのだ。思い返すとあの忌まわしい惨状は今でもこの目に焼きついているよ」
当時の記憶を思い出し、ウッドワスは顔を酷くしかめる。
建物は所々破壊痕があり、家の一部は炎上し、何より強烈なのは町全体に充満する腐った血肉の汚臭。
その筆舌に尽くし難い不快感を思い出しながらも、彼はすぐに引っ込める。
「さて…厄災については以上だが、これでまず厄災というのが何なのかが理解してもらっただろうか?」
「ええ、大体は。…それにしても襲ってくる周期がバラバラで、しかもその都度形を変えてやってくるなんて、まるでそれそのものが“意志を持ってる”みたいで不気味ですね」
「…!ほう、勘が鋭いな。流石だ」
なんとなくそんな気がする、と言った感じで彼女が溢したその感想にウッドワスは感心を寄せる。
「え?勘が鋭いって…まさかとは思いますが本当だったり?」
「それは今から話す“本題”でわかる。貴様が、貴様ら妖精騎士が立ち向かわねばならない真の脅威…『大厄災』について聞けばな」
「大厄災……?なんかより不吉な名前ですけど…察するにそれが私が妖精騎士として“先”に備え、もっと強くならなくてはいけない理由だと?」
「左様だ。理解が早くて助かる」
そして彼は話し始める。長らく妖精たちを苦しめ、この世界を幾度も滅亡の危機に陥れてきた終末の具現を。
「まず大厄災というのは約1000年に一度の周期で発生し、先ほど話した厄災とは比較にならないほどの破滅的な脅威度を秘めている。それこそ妖精國そのものが滅びかねないほどのな」
「―――は……?國そのものが、って…。じょ、冗談でしょう流石に…!?」
「ふん、冗談だったらどれほど良かったか。これまでは我ら牙の氏族と陛下の手で退けてきたが、今より約1000年前―――即ち私が生まれて間もない時にもそれが起きていたのだ」
思い出すは『モースの王』を名乗る、途轍もなく大きな闇との身を削り合った死闘の記憶。
女王暦1000年、当時ウッドワスは排熱大公ライネックの
「後にモース戦役と呼ばれるその戦いは多くの犠牲を払いながらも、陛下と私の一分の隙もない連携によってモースたちの王と自身を称する厄災の根源を絶ち切った。…のは良かったのだが……」
「…良かったけど、何です?」
「王が消滅する間際、我ら牙の氏族に向けて不吉な言葉を遺したのだ。『つぎはおまえたちだ』、と」
王はただでは死ななかった。最期の悪あがきで遺したその
「私もそうだが陛下はその言葉を重く受け止められ、御自身や牙の氏族以外にも大厄災に抗える存在をどうにかして用意できないか。それを戦役以降から何百年と模索している中で出来たのが…」
「…私が就任している妖精騎士、というわけですか」
「然り。今から170年前にガウェインが就任して以降、これまでランスロット、トリスタンと続き、そして貴様がユーウェインとして選ばれたのだ」
ウッドワスからここまでの説明を受け、ユーウェインはようやく自身がどういう使命を担っているかを理解する。
「なるほど、要するに妖精騎士というのは本来そういう厄災や大厄災の脅威から國を死守するのがあるべき姿で、だからこそ私も今より更に強くならなくてはいけない。そういう事でしょうか?」
「概ね理解できているが、少し違うな。厄災から守るのは“使命”ではなく“仕事の一環”に過ぎん。なぜならただの厄災の一つも祓えぬのならばとても大厄災に抗うなど不可能であるし、従って妖精騎士としても未熟であるからな」
ウッドワスがトリスタンを毛嫌いしている理由の一つにその実力不足がある。
かつてその力で大厄災に正面から立ち向かい、見事終止符を収めた彼からすれば、トリスタンは偉そうにマウント取ってくる癖にその力は小規模の厄災ですら祓えるか怪しいほどに弱く、故にこそ妖精騎士としては性格的にもとても不相応に感じて仕方がないのだ。
「あー、つまりそこいらの厄災なんて祓えて当然と。うわぁ、そんな化け物じみた力になるなんて本当に私にできるのかな……」
「できなければ、貴様は大厄災の脅威に抗いきれずに死ぬ。そうならぬ為に私がこうして貴様を鍛えてやっているのだが」
「ハハ、事実ですから頭が上がりませんわね。………ん?」
その時、ユーウェインはふと悪感を感じる。話を聞く中でどうしても確認せずにはいられないことがよぎった。
「…ウッドワス殿。貴方先ほど大厄災は約1000年の周期で発生する、と仰いましたよね?」
「ああ、そうだな」
「それで、ついさっきの…モース戦役でしたっけ。その時に“今から約1000年前に起こった”と言われました、よね…?」
「…そうだな。大厄災は1000年周期で、そしてモース戦役は今より約1000年前に起こった出来事だ」
―――まさか、まさか。ああいや、ここまで来るともう確信を得てしまっているも同然だが、同然なのだが、その上で有りもしない一抹の希望にすがりたい。
今から口にする問いに対する返答は、もう半ばわかりきっているけど、それでもどうか“それは違う”と否定してほしい――――――。
「も…もしかし、て…次の大厄災は、時期的にもう………目の前まで、迫っているのですか…?」
「―――ああ、全く忌々しいことにな」
そんな吸血鬼の一縷の淡い期待は、無情にも肯定の一言で絶たれた。
「っ…ぐ、具体的には、どれくらいとかわかりますか…?」
「…陛下と私は島の現状やこれまでの発生歴からここ50年以内の何処かで発生する可能性が非常に高いと予測しているが、モース戦役が起きたのは女王暦1000年、現在は女王暦1987年でもうすぐ88年になる」
彼は目を細めてユーウェインに告げる。
「つまり88年から計算して2000年に起きると仮定した場合――――――猶予は少なくともあと『12年』、ということになるな」
「―――――――――」
―――――12年。彼から告げられたその数字が、期限が、頭の中を目まぐるしく駆け回る。
一年を、365日を12回繰り返しただけで國が終わりかねないような絶望が襲い来るかもしれないのか。
「いや、12年って…あくまで仮定だとしても、たったそれだけの時間で私はその脅威に抗えるようにならなくちゃいけないんですか…?無理が、あるでしょう!?」
ユーウェインは正直、今の今まで聞いた話の全てを冗談だと思いたかった。
だがウッドワスがそんな下らないホラ話をするような性格ではないこともこの十ヶ月の付き合いでわかっていたので、無理やり笑い飛ばしたくてもできなかった。
「加えて他の妖精騎士たちが何十年も務めてるのに、たかが十年そこらでその方たちと同等になれるわけないじゃないですか…!」
「確かに普通はそうだ、だがだからこそ何度も言うが私が直々に貴様を鍛えているのだ。今までの妖精騎士たちに私が指導したことは一度も無かったが、貴様は元が下級妖精であるに加えて就任時期が時期だからな。早々にあれこれと教えた方が特急で強くなると判断したまでよ」
実際彼の言う通り、ガウェインにしろランスロットにしろトリスタンにしろ、ウッドワスからの干渉を受けずにそれぞれが独学で、または戦闘訓練自体を今日まで一切することなく過ごしている。
「…ウッドワス殿の指導の腕を見くびっているわけではありませんが、それでも本当にそんな短期間で彼女らと肩を並べられるとは私は正直思えませんよ」
確かに彼の指導を受けていなかったら自分はここまで強くなれはしなかっただろう。
だがそれにしたって12年という短い時間でそこまでいけるハズがないと、ユーウェインは疑っていた。
「……ならば私に考えがある。まずはこのまま残りの二ヶ月間の指導を乗り越えろ。その後で貴様にある試練を授けるとしよう」
「ある試練?」
「ああ、それが何なのかは今は言わぬ。後のお楽しみというわけだ」
何やら彼には秘策があるらしいが、どうにも怪しかった。
が、指導の腕が確かな彼が言うことだ。何か強くなる為の切っ掛けを与える類いのものかもしれない。
「…わかりました。他ならぬ貴方の考えです、今はその試練とやらに期待しておきます。疑いはありますがね」
「ふっ、精々そうして不信に思っているがいい。貴様のその疑念を払拭してくれよう」
こうして妖精騎士の使命を知ったユーウェインは、ウッドワスの考える試練に向けて一先ず残りの二ヶ月間を頑張って励み続けた。
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―――そして二ヶ月後。ユーウェインがウッドワスの指導を受けてから風のような早さで一年が経った。
彼女らは今、キャメロットとマンチェスターを結ぶ北部平原に立っていた。
「ここでその試練を始めるのですか?」
「左様だ。―――さて、そろそろ奴がお見えになる時間だな」
「奴…?」
遠くを見つめてウッドワスはそう言う。
ユーウェインが不思議に思い、彼の目線を追ってみると向こうから人影が此方に向かってきていた。
「―――お待たせ致しました、ウッドワス公」
その人物は目の前まで来ると軽く御辞儀をし、堂々とした出で立ちで二翅の前に現れた。
「陛下からの許可は得ている。貴様には今のこいつの限界を引き出すべく相手をしてほしい。くれぐれも勢い余って喰い殺したりするなよ」
「そこは言われずとも常日頃より心得ております。先達として相応しい対応をしてみせましょう」
「ふん、そうか。…ではよろしく頼む」
ウッドワスとのやり取りを終えるとその人物はユーウェインの方に顔を向ける。
「さて、というわけで今から貴様の相手をすることになったガウェインだ。よろしく頼むぞ、後輩」
(え、ガウェインって…)
一方、ユーウェインはその人物の顔を見て酷く既視感を覚えたが、直後にその名を聞いて彼女が何者かを思い出す。
「貴方まさか…あの時に玉座の間にいらした、やたらと重そうな鎧を着た金髪の妖精!?」
「思い出してくれたか。その通り、私は一年前のあの謁見の場で貴様の勇姿を見ていた者の一翅だ」
その人物―――否、その妖精は女王暦1600年に牙の氏族として生誕し、後に女王からの祝福を与えられ女王暦において最初の妖精騎士となった日輪の黒犬公。
人間や妖精問わず補食し、食べた者の能力を引き継ぐ『妖精食い』の異能を持つ、凶兆の前触れとされる存在。
「では改めて軽く自己紹介を。私は妖精騎士ガウェイン。円卓の騎士ガウェインの権能を持ち、都市マンチェスターの領主を任されている者だ」
その名は妖精騎士ガウェイン。秘されし真名はバーゲスト。
妖精國における牙の氏族でウッドワスの次に強大な力を秘めている、女王モルガンの懐刀である。
「わ、私は妖精騎士ユーウェインです。貴方も知っての通り一年前に就任した新参者ですわ。……ところで」
一応、向こうに合わせて自己紹介を返すがユーウェインは正直それどころではなかった。
「あの、ウッドワス殿?試練の内容ってまさかこの方と今から戦うってことなんですか?」
「そうだが、今の会話で察せなかったか?」
事も無げに彼はあっさりと答えた。
「いや、いやいやいやどう考えても手も足も出ずに敗北するに決まってるでしょう!?最悪殺されますよ!!」
「早まるな、何も勝てとも勝負しろとも言っておらぬ。先ほども言ったが、あくまで貴様が今の限界を出しきるまで軽く相手をしてもらうだけだからな。…そら、向こうはもう定位置についたぞ、貴様も動け」
ウッドワスが指を差す。見れば、数メートル先で剣を地面に刺して仁王立ちしてるガウェインがいた。
(うわぁ~…もういつでも掛かってこいって感じで準備万端じゃん。ていうか目付き怖っ…)
「ウッドワス公の言われる通り、貴様も早く掛かってくるといい。私も貴様の実力が如何程なのか、先達として興味があるからな」
「う、うぅ…わかりました、わかりましたよ!やってやりますよ!妖精騎士ガウェイン殿、御覚悟を!」
(くそ、これも将来的にホープたちを守り抜く為と思って腹を括るしかない!必死こいて頑張りなさいよ私…!!)
己に取って何よりも大切な者たちの顔を思い、弱気な自分を引っ込め、強引に心を奮い起たせる。
かくして、此処に女王暦で最も古い妖精騎士と最も新しい妖精騎士がぶつかることになった。
水怪クライシスの陛下とハベニャンが可愛すぎる。
これでかつては冷徹な女王だったってマ?