Fate/Viridian of Vampire   作:一般フェアリー

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日輪VS吸血鬼【押絵あり】

キャメロットよりマンチェスターに続く北部平原。

 

そこで今まさに、二翅の強大な騎士がぶつからんとしていた。

 

「では―――行きますよっ!!」

 

二翅の一方―――ユーウェインはそう言うと同時に地を蹴り、眼前の生きた要塞―――ガウェインへ駆ける。

 

(まずは、様子見の一発っ!!)

 

その疾走の勢いを利用し、瞬間的に伸ばした赤爪(せきそう)を彼女の胴目掛けて凪ぎ振るった!―――が。

 

「ほう、初撃にしては中々の威力だな。ほんの一瞬だが衝撃が響き渡ったぞ」

 

「…!!」

 

当のガウェインはそう言いながらもその場から仰け反らないどころか僅かに体勢がブレることすらなく、攻撃を受ける直前と変わらぬ仁王立ちを維持していた。

 

(…大型モースもヨーグルトみたいにスパスパ斬れるってのにまるで堪えてない。精々が鎧に薄く跡が残っただけか…そして)

 

爪に視界を写せば、その先端が欠けていた。

この一年の訓練で大体のものは斬り裂けられる様になったのだが、どうやらこれでも彼女の鎧の前では錆びた果物ナイフと変わらぬらしい。

 

「ならこれは、どうです!」

 

だがこの程度のことなら彼女としてもまだ予想の範疇であった。

ユーウェインが次に取った行動は足に液状の魔力を纏わせ、ガウェインの側に撒き散らし始めた。

 

「まだまだですよ!」

 

そのまま周りを踊るように足を振り回しながら旋回し、全方位に撒き散らしていく。

 

「さぁ刺し貫きなさい、血の(いばら)!」

 

「!」

 

そしてユーウェインの言葉を合図に撒き散らされた血の液状溜まりが瞬時に鋭利な赤棘に変化し、そのまま一斉にガウェインに襲い掛かる!

 

「ん……」

 

(よし!鎧に当たった分は全部折れたけど露出している頭部には僅かながら刺さってるわ!)

 

モースだろうと幻獣だろうと容赦なく貫通する赤棘は、さしものガウェインも生身のままで受けて無傷というわけにはいかなかった。

…それでも彼女に取ってはこの程度、問題でも何でもないのだが。

 

「ふ、流石同じ妖精騎士とだけあって良質かつ強力な魔力だな。―――ではこの魔力、ありがたく糧にさせてもらうぞ」

 

「え…?糧に、って…」

 

発言の意味が理解できず呆気に取られているユーウェインを他所に、ガウェインは自身に刺さってる棘の魔力をみるみる吸い上げ、更に周りの血溜まりもまとめてその身に吸収し尽くした。

その光景に半ば呆然とするユーウェインに、ガウェインは自慢気に種明かしをする。

 

「教えてやろう、後輩よ。私の妖精としての能力は『魔力食い』―――即ち、一定の範囲内であれば相手の魔力を問答無用で強奪・吸収できるのだ」

 

「なっ…!?」

 

そう、これこそがガウェインの妖精騎士としてではなく元々の妖精としての異能、黒犬公の『魔力食い』である。

 

「貴様も今ので理解しただろうが、奴には他の生命体から魔力を強引に吸い上げ、更にその時に吸った分だけ自己を強化していくのだよ」

 

傍観しているウッドワスがユーウェインに軽く説明する。

 

彼女はその異能の性質上、妖精どころか魔力を持つ存在全てに取っての天敵と言える。

 

過去にもコーンウォールの領主であった大妖精ファウル・ファーザーと交戦した際にこの異能をフルに行使し、これを撃破・補食した。

 

その時に満腹状態に入り、以降は今に至るまで補食衝動が抑制されているらしく、少なくともあと20~30年は無駄な補食をすることはないだろう―――と、本翅はそう言っている。

 

「魔力を自分の意のままに強引に吸収して、更にその分だけ強化されるですって…!?どんな反則技ですかそれ!!」

 

「ふふ、称賛してくれてありがとうと言いたいが、この能力にも流石に限度はある。無限に吸収し、無限に強化できるわけではない。もしそうであればランスロットの奴をとっくに超えていてもおかしくないだろう?」

 

「…まぁ、それはそうかもしれませんけど」

 

ガウェインの能力はそこまで常識はずれ(チート)ではない。

彼女のそれには吸収できる限界というものがあり、例を上げるならそれこそファウル・ファーザーのような大妖精クラスを食らえば軽く100年以上は空腹になることはなく、補食を繰り返す必要がなくなる。

 

無論、空腹になるからと言って魔力食いができなくなるわけではないので吸収する時は吸収するが、大抵は殆ど誤差レベルの影響なので目に見えて強くなることは基本的にない。

 

「それにしても、今の魔力は実に美味かった。質もファウル・ファーザーほどではないが、これまで食らってきた有象無象の弱者共のソレよりはずっと良い。正直気に入ったぞ」

 

「は、はぁ……そうですか。お気に召されて何より(?)です」

 

「ああ、だから貴様も引き続きあの手この手を使って私を殺すつもりで掛かってくるといい。その全てを私は余裕を持って受けきってやろう」

 

そう宣言し、不敵な笑みを浮かべるガウェインに対しユーウェインは明らかに舐められていると感じて多少の不服を覚える。

 

(…何よソレ、そっちが遥か格上なのはわかってるけど私だってこの一年間を必死に耐え抜いて乗り越えきったんだ。その余裕綽々とした顔をほんの一瞬でも崩してやるわ!)

 

「そうですか、了解しました。―――ならお望み通り殺しに掛かってやりますよ!!」

 

その言葉を皮切りに再びガウェインに攻撃を仕掛けるユーウェイン。

彼女が次に取った手段は円卓の騎士ユーウェイン卿の権能――――――即ち。あの謁見で初めて発動に成功した、視界を埋め尽くさんばかりの無数のカラスの召喚だった。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■!!!』

 

「ほう…!」

 

 

自身に容赦なく襲い掛かる黒き弾丸の荒波に、ガウェインは驚きを見せつつも姿勢を変えずに耐え続ける。

 

 

「はぁぁっ!!」

 

 

しかし、その黒き荒波に紛れて()()()()()ユーウェインが彼女の首元を狙って思い切り横に斬りかかった!

 

 

「なにっ、剣だと…!?」

 

「まだまだ行きますよ!!」

 

 

そのまま彼女はカラスと共に矢継ぎ早に斬撃を繰り出し、ガウェインに猛攻を仕掛けていく。

 

「貴様、どこから剣など用意した…!まさかそれも貴様の中にある円卓の…!?」

 

「ご名答ですわ!これが私の持つユーウェイン卿のもう一つの権能、その名も『三百本の剣(ケンヴェエルヒン)』よ!!」

 

あの謁見から今日までの一年。彼女はウッドワスの指導訓練の中でユーウェイン卿の秘めたるもう一つの権能を目覚めさせていた。

 

それが『三百本の剣(ケンヴェエルヒン)』で、これはかつて彼が受け継いだ強力な神秘を秘めている魔剣である。

 

「『三百本の剣(ケンヴェエルヒン)』…!そうか、確かにそれもまたユーウェイン卿の持つ力の象徴だったな…!」

 

その名を聞いてハッとするガウェイン。

汎人類史の円卓の騎士に憧れ、羨望し、それについて記された書物を読んでいる時にいつか目に通したことがあったのを思い出す。

 

「へぇ、知っていたのですね。私は、この力が発現した時に、知りましたよっ!!」

 

言いながら攻撃を絶え間なく叩き込んでいくユーウェイン。

 

彼女が訓練を始めて約七ヶ月時点でその力が目覚め、その際に頭の中に知識として自動的に名前や特徴が流れ込んだ。

 

無論、情報が入っただけで上手な使い方まで覚えたわけではなく、扱いに関してはカラスの使役と同様に独学で身につけていき今に至っている。

 

「はぁあぁああ!!」

 

「ぬぅっ…!」

 

四方から突撃してくるカラスの弾丸に、前方からズバズバと容赦なく斬り掛かってくる剣撃の舞。

 

大型モースだろうと数秒でミンチにされかねない怒涛の攻めにガウェインの足が、ほんの少しずつ後ずさっていく。

 

「…流石だ。この私が攻撃の勢いで僅かながらと言えど後退させられているとはな」

 

「それはありがたき御言葉です!しかしながら一つ聞きますけど、何で!未だに!()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですかねぇっ!?」

 

一見ユーウェインが優勢に見えるが、実際はガウェインが一切ガードの構えを取らずに真っ向から彼女の攻撃全てを平然と耐え抜いていた。

 

(鎧は当然の様に無傷、露出している頭部も傷が入った側からカラスや私自身から魔力食いをして即完治している!)

 

彼女が攻撃を入れる度、鎧に当たれば剣の刃は欠け、生身の頭部にカラスが当たれば魔力食いで付けられた傷を治される。

 

それならばと大技である暴飲の赤い薔薇(グリード・ヴァンパイア)を喰らわせるかと考えるも、アレはまず前提として赤棘が深々と刺さっていないと発動せず、先ほどのあの効き様ではその棘も全くと言っていいほど通用しない事が確認できる。

 

(…これは、手詰まりって奴かしら)

 

―――現状、明らかに決定打に欠けていた。

 

僅かに後退させることはできても、言い方を変えればそれだけだった。

 

(相手は百年以上もこの國を護り続けているベテラン。たかが一年程度で差が埋まるなんて思っちゃいなかったけれど、こうまで通じないとなると悔しさを通り越して泣き寝入りしたくなるわ…)

 

己と相手との隔絶された実力の差に口惜しさと怒りを覚え始める。

それでも攻撃の勢いは止めずに続けていると―――。

 

「おい、少し待て」

 

突然、それまで黙って観ていたウッドワスがユーウェインに待ったを掛ける。

 

「 ! な、何でしょうかウッドワス殿…?」

 

「しばらく貴様の攻めを眺めていたが…そろそろ頃合いだ。今度はガウェインの攻撃をなるべく避け続けろ」

 

「…!」

 

何を言うかと思えば、彼はガウェインからの攻撃を避けるようにと述べてきた。

 

「ただ単に壁役に向かって一方的に攻撃し続ける、というだけでは試練とは呼べぬ。相手からの攻撃をひたすら死に物狂いで避けるというのも必要だ。それが遥か格上なら尚更な」

 

彼の発言は尤もだ。そもそも壁役に攻撃するだけなら態々ガウェインを呼びつけなくとも彼自身で事足りる。

 

「それと、可能であれば反撃も狙え。例え攻撃が通用せずとも、“回避からの反撃”という行為そのものが戦闘力の向上に繋がることはこの1年で貴様も理解している筈だ」

 

「…ええ、それもしっかりと心得ています。わかりました、できるだけやってみます」

 

「ほう、流石ウッドワス公から直々に手解きを受けているだけあって中々にやる気があるではないか」

 

「まぁ、どの道やらないといけませんからね。……因みにガウェイン殿は勿論手加減されてくださいますわよね?本気で来られると私余裕で死ねますよ?」

 

冷や汗が滲むも、最初の位置についてガウェインに確認を問う。

 

一方彼女は地面に刺さっている剣をゆっくりと引き抜き、その問いにこう答える。

 

「フッ、安心しろ。貴様に言われるまでもなく全力は出さん。―――四割近くは発揮するが、なっ!!」

 

言うと同時に彼女は橙と青に燃え盛る剣を振り下ろし、巨大な炎の衝撃波を飛ばしてきた!

 

「は!? ちょ―――おぉあっ!!?」

 

不意に襲い掛かってきた炎の波に肝を冷やすが、咄嗟に地面を蹴って回避に成功する。

 

「どうした、初撃でその様に動揺するなど騎士として未熟だぞ!もう少し冷静さを以て避けるがいい!」

 

焦りを見せたユーウェインを叱咤しつつ、ガウェインは更なる猛攻を仕掛けていく。

 

「は、はいぃっ!気をつけますぅっ!?」

 

それに律儀に返答しながら、襲い来る炎を息つく間もなく懸命に避け続けるユーウェイン。

 

(くっそ、炎の勢いが強すぎる!こんなんじゃ反撃を試みるどころか避け続けるだけでも精一ぱ―――?)

 

その時、炎の燃える音に混じって『獣の声』のような音が聞こえた。

 

気になって声のした方に顔を向けると、そこには―――

 

 

『■■■■■ッッッ!!!』

 

 

巨大な獣の影が黒い顎を開き、今にも此方を喰らわんと迫っていた。

 

「――――――っっ!!??」

 

突如として目の前に現れた『死』に絶句するも、咄嗟に魔力障壁を展開し、それを足場にして獣の影が障壁を噛み砕くとほぼ同時に脱出。

瞬間獣の方を見たが、そのまま障壁を喰い尽くすとすぐに消滅した。

 

「はぁ、はぁっ、はっ…!!」

 

(な―――何なの今の!?モースとは違う、もっとおぞましい感じだったけど、まさかガウェイン殿の使い魔か!?)

 

「ふむ、良い反応だ。脅かしがいがあるな」

 

「!」

 

ガウェイン殿が上機嫌そうに此方に声を掛けてきた。

脅かしがいがあるって?

 

「…はぁ…どういうこと、ですかそれ。はぁ…いや、それより今の怪物は、はぁ…貴方の使い魔とみてよろしいですね?」

 

依然として放たれる炎を避けつつ、少しずつ荒んだ呼吸と感情を整えて調子を取り戻す。

 

「ああ、ご名答だ。今のは我が使い魔であり、名をブラックドッグ。この妖精國において人間や妖精どころかモースすら喰らう暴食の黒き猟犬だ」

 

ブラックドッグ―――彼女がガウェインではなくバーゲストとして生きていた頃より存在している犬型の妖精。

 

個の力でも武装していない者なら妖精であろうと牙以外は容易く殺せる危険生物で、生息範囲はマンチェスター付近の地域を中心にブリテン全土に分布している。

 

「それと先ほどの発言だが、これは単に必死に炎を避けている中でいきなり自分を喰らわんとする怪物を目にしたらどう驚いてくれるのかと気になってな、つい魔が差して炎に紛れて飛ばしたのだ」

 

「…なんです?つまりさっきのは貴方なりの“悪戯”であったと?私がそれで死にかけたのに?」

 

「まぁ、それに近い…というかほぼそれだな。いやぁすまない、我ながら騎士らしくないことをしてしまった。ハハハハ」

 

そうわざとらしく言って適当に笑い飛ばすガウェインを見て、ユーウェインは確信した。

 

 

――――――『ああ、これ明らかに此方を舐めているな』と。

 

 

(―――っ、ふざけるんじゃないわよっ!!)

 

そう思った途端、沸々とガウェインに対する怒りの念が燻り始める。

 

(確かに貴方からすれば私なんて一年目を迎えたばっかの弱っちろい軟弱者でしょうね)

 

一瞬、炎の間に隙間が生じたのを見逃さずに、すかさず通り抜けていく。

 

(けど私は!!こんなワケのわからない大変な世界で出来た何よりも大切なものを守る為に!その取るに足りない一年間を毎日真面目に、死ぬ気で!軟弱者なりに頑張ってきたのよ!!)

 

高まる怒りと共に冷静さも次第に尖り始め、次々と紙一重で炎と獣の影を避けていく。

 

(ほとんど面識の無い他人とはいえ、貴方はそんな必死になって生きている奴の気持ちを少しも考えずに!個人的な戯れで半ば殺しに掛かった!!)

 

段々とガウェインとの距離を一歩、二歩、三歩と詰め寄っていく。

 

(許しがたい、許しがたいわガウェイン殿!例えそれが私を挑発する為の戯言だったとしても―――私は貴方をおいそれと許せないっ!!)

 

「ほう!急に動きが良くなったと思えば、ここまで迫ってくるか…!」

 

やがて剣の斬撃範囲内まで接近し、直前に振るわれた一撃を間一髪で避けきり、そして―――

 

 

「その余裕こいた表情、今すぐ崩」

 

 

「―――せると思ったか?」

 

 

―――その反撃が届くことはなく、彼女の腹にボディブローが炸裂した。

 

 

「ぉ――――――」

 

 

その衝撃に何かを考える余裕すらなく吹き飛ばされ、数メートル先の地面に叩き付けられる。

 

「ごはっ…、ぁ…かふ……っ…!!」

 

直後、遅れてやってきたダメージに血反吐をぶちまけ、悶絶する手前まで意識が追い詰められる。

 

「フーッ……、フー…フーッッ……!!」

 

(痛みで考えが、まとまら、ない。血が喉元まで、せりあがってくる感覚が、気持ち、悪い。私、吸血鬼、なのに)

 

自分のそれとはいえ、血を好む吸血鬼たる自分がその血に苦しまなければならないという状況に、酷く不快感を覚える。

 

「ごぼっ……おぇ…」

 

(けど…立ち上がらな、くちゃ。一瞬でも、あの澄ました顔を、崩してやるって、決めたんだから)

 

それでもすぐに体勢を直そうとする。今は試練だからああして待ってくれているが、実際の命を懸けた殺し合いじゃ敵は待ってなどくれない。

 

「ぐ…ぅぎ……ぃ…」

 

多分、直撃を受けた部分の内臓はダメになっているのだろう。動かそうとする度、腹部を中心に全身を痛みが走り回る。

 

(立て、そして攻撃しろ。あんなにも余裕ぶってる顔に、取るに足らない雑魚の意地を、ぶつけてやれ―――!!)

 

「フー……ごふっ…フー…!」

 

「…ほう、血を吐きながらも尚立ち上がるか」

 

己の拳を直に受けたにも関わらず、そう時間を置くことなくよろけながらも立ち上がるユーウェインに感心を覚える。

 

「どうやら思った以上に根性があるらしいが…そんな体では我が剣撃からは逃れられまいだろう」

 

そう言うと剣を再び地面に突き刺し、直立不動の姿勢を見せるガウェイン。

 

騎士道精神を学び、尊ぶ彼女は、実際の戦闘はともかく試練の時まで相手を容赦なく叩き潰すのは良しとしなかった。

 

そもそも本来なら妖精騎士が別の妖精騎士を攻撃するのは御法度であるのだが、この時に限って態々モルガンからその鉄則をある程度緩めてもらっていたのだ。

 

「どれ、今度は我が拳と足からどこまで逃げられるかを試してやろうではないか。こう見えて体術にも心得があるのでな」

 

そう言って弱々しく立っているユーウェインの方にゆっくりと歩を進める。

 

 

――――――だが、あと1メートルを切った辺りで予想外のことが起きた。

 

 

(…ん?何だ、この違和感は?)

 

ふとそう思い、歩を止めるガウェイン。

よく見ると彼女は落ち着いていた。そう、落ち着いていたのだ。

 

ほんのつい先ほどまで呼吸は荒く、血を吐きながらよろけていたのに、今は何故か呼吸は僅かに乱れているが血は吐かず、よろけていた姿勢も直っている。

 

(…何だ、何かただならぬ予感が―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁああああぁああッッ!!!」

 

 

 

突然、彼女が雄叫びを上げると再びカラスを一斉に召喚し、剣を手に持つと、そのまま()()()をギラつかせながら一瞬で距離を詰めて襲い掛かった!!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「おぉあああああっ!!!」

 

「っ…何だ、この気迫は…!」

 

ダメージは無い故、未だ防御の構えは必要なし。

だが、これまでにない攻撃の勢いに先ほどよりも大きく後退させられる。

 

何より驚きなのが、先ほどまで弱りかけていた者のそれとは思えぬほど闘志に溢れた危機迫る顔をしているではないか。

 

「だぁああぁああ!!」

 

「……………」

 

それを見ていたウッドワスも驚きこそしたが、同時に上手くいったと喜びもした。

 

(生物は追い詰められるほど普段よりも大きな力を発揮しやすい。所謂生存本能からくる一時的な馬鹿力というヤツだが…あの感じだと成功したようだな)

 

先ほどよりも更に激しい攻撃の嵐を眺めながら彼はその成功を確信する。

 

(ただこれには適度な強さを持った相手が必要だった。トリスタンは弱すぎるし、オレやランスロットは逆に強すぎる。従って強すぎず弱すぎず、それでいて今のユーウェインに対する試練の相手を務めるに相応しい奴としてガウェインを選んだが、英断だったな)

 

即ち、この試練の目的は『ユーウェインを敢えて重傷を負わせるまでガウェインに追い詰めさせることで、眠っている力を目覚めさせる』ことだった。

 

「さて、更なる力に目覚めたあいつはどこまでガウェインとやり合えるか見物だな―――ん?」

 

怒涛の攻め入りで追い詰めるユーウェインに期待を寄せるも、そんな彼の期待とは裏腹にあっさりと結末は訪れた。

 

「…ぅ…あぁ……?」

 

それまで猛烈に暴れていたユーウェインの勢いが何故か徐々に衰えていき、最終的にはガウェインに身を寄せる形で力尽きたのだ。

 

「…ふぅ。見ての通り終わりましたよ、ウッドワス公」

 

「…おい貴様、魔力食いで決着を早めたな?もう少しでこいつが更なる限界を超えるかもしれなかったというのに、要らぬことをしてくれたものだ」

 

「申し訳ありません。ですがこれで、この子はそれまでより強くなる切っ掛けを得た筈です。貴殿としても一応満足のいく結果になったのでは?」

 

「まぁ、それはそうだがな」

 

彼女の言う通り、試練の目的自体は達成しているのでそこに文句はない。

 

魔力食いで決着を早めたのは多少ながら不満はあるが、それは目的達成するところまで上手くやってくれた有能さで以て水に流すことにした。

 

「ふん、ではこの辺りで試練は終了とするか。付き合ってくれてありがとう、もう帰っていいぞ」

 

「は、では失礼します。…私としても将来が楽しみな実力をお持ちでしたよ」

 

ガウェインはそう賞賛して最初にやってきた時のように御辞儀すると、そのままさっさとマンチェスターの方へ戻っていった。

 

「…ふん、随分と余裕を見せていたがあと10年も経てば貴様と遜色ない域にまで達すると思うぞ」

 

ウッドワスもユーウェインを担ぐとオックスフォードの方へ駆け出していく。

 

 

 

「……フフフ。いいぞ、ようやく本格的に芽吹き始めた。これからも強くなって、そして陛下とオレの為に尽くしてくれよ?―――妖精騎士ユーウェイン」

 

 

 

己の肩で死んだ様に眠る可憐な吸血鬼の寝顔に、ウッドワスは更なる期待を抱きながら帰路に着く。

 

 

 

女王暦最古の日輪の黒犬公と最新の獅子の吸血鬼との戦いは、黒犬公の圧倒的な勝利で幕を降ろした。

 

 

 

 

 

 

 




余談ですが今の汎トリちゃんは異トリちゃんの八割以上九割未満の実力です。

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