Fate/Viridian of Vampire   作:一般フェアリー

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新たなる力、『翅』のお誘い

「………ん…ん"ん"っ…」

 

 

闇に沈んでいた意識が明瞭になっていき、ゆっくりと瞼を開く。

 

視界に入ってきたのは見慣れた天井で、全身に感じるは柔らかく温かい布地の感触だ。

 

「…ここって、私の寝室……。あぁ、そっか…負けちゃったんだっけ、私」

 

自分がなぜ此処にいるのかを察する。大方あの後ガウェインに負けて気絶でもしたから、ウッドワスによって此処まで運ばれていたのだろう。

 

「は、ははは……凄かったなぁ、あの強さ。全然敵いっこなかった…」

 

先の戦闘を―――否、戦闘と呼べるかすら怪しい一方的な負け試合を思い出す。

 

自分が繰り出すあらゆる攻撃は一切通じることはなく、逆に向こうからの攻撃はただのボディブロー一発で派手に血を吐き散らす始末。

 

ならばと完全に自棄糞になって滅茶苦茶に叫んで、がむしゃらに攻撃し続けても結局は通じずに倒れるという結果に終わったのだ。

 

「…あれが、妖精騎士。この國を滅ぼしうる絶望に抗えるだけの力を持った存在か」

 

蒼く美しい月明かりに照らされながら、ユーウェインは自分が至らねばならない領域がどれほどのモノなのかを改めて認識する。

 

(けれどあの方曰く、あれでも四割くらいしか出してないらしいしホント底が知れないわね……)

 

確かにそれだけの強さなら町が滅ぶような厄災を単騎で祓えるのも納得できる。

 

ガウェインでそれなのだ、恐らく最弱と言われるトリスタンも少なくとも今の自分より倍以上は強いに違いないとユーウェインは見立てた。

 

ランスロットは多分、本気で殺しに掛かられたら10秒経つまでに10回は死んでるだろう。

 

(…とはいえ、先輩たちとの力の差にいつまでも絶望している暇は無い。私だって妖精騎士の端くれ、同等に並び立つイメージが全く出来なくても寧ろ超えるつもりで追いついてみせるわ)

 

正直なところ、大厄災で死ぬのが自分だけだったらまだ諦めが付いた。

 

だが、この國にはもう切っても切り離せない縁を築いた大切な仲間がいる。

 

仮に自分が死んだとして他の妖精騎士が、モルガンが守護してくれるとは言い切れない。

 

その可能性が100%でない以上、自分が死ねば彼女らも死ぬかもしれないのだ。

 

(だからこそ、どんなに力の差があろうと私は挫折しないし、強くなることを諦めない。自分の力足らずのせいでかけがえのない仲間を死なせてしまう、なんてのは心底気持ち悪いしね)

 

こういう思いを“決意”として改めて強固なものにしてくれたという意味では、今回の敗北は実に有意義な経験になったなと彼女が感心していると―――。

 

 

―――コン、コン

 

 

「―――おい、入るぞ。起きていたら返事をしろ」

 

不意にノックが響いたかと思えば、ウッドワスの声が聞こえた。

 

「はーい、起きてますよー」

 

一応住まわせてもらってる立場であるし態々丁寧に確認しなくてもいいのにと思いつつ、言葉を返す。

 

「ふむ、もう目覚めていたか。ほれ、これでも食って明日にはまともに動けるようになれ」

 

そう言って彼は側にある台にポテトサラダとワインを置き、ユーウェインに食べるように勧めてきた。

 

「一応言っておくが、貴様はあの試練で倒れてから3日ほどそこで寝込んでいたぞ。物理的な重傷に加えて体内魔力がからっきしだったが故だろうな」

 

「えぇ…そ、そんなに酷い状態だったんですか私…」

 

日が三回過ぎる程にダメージが深かったとか、下手すると妖精騎士でなかったらそのまま死んでたかもしれない。

 

「ああ。だがこうして目覚めるまでの間、私が治療行為をずっとしていたのだ。全く今更ではあるが世話の掛かる弟子を持ったものだよ」

 

「あはは、ウッドワス殿には本当に頭が上がりませんわ。…って、このワイン貴方が経営しているレストランでも上位に入る高級品じゃないですか。しかも私が好きなレッドワインなんて……良いんですか口にして?」

 

「躊躇うことはない、今回の試練で貴様は私にとって良い結果を出してくれた。これはその褒美のようなものだ、遠慮なく飲むといい」

 

一月前、彼はユーウェインに飲食物の嗜好を聞き出し、彼女がワインを好むことを知った時から試練の報酬を彼女の好みの味に合わせた上物にしようと予め考えていた。

つまり“アメとムチ”でいう彼なりのアメである。

 

「わかりました、改めて感謝致します。それでしたら御厚意に甘えて頂きますね」

 

自由に飲んでいいとわかるや否や、彼女は落ち着いた所作でグラスに注ぎ、ゆっくり味わう様に口に含んでいく。

 

「んっんっ……ふぅ、流石高級品だけあって蕩けるほど美味しいですわ」

 

「当然だ、ワインに限らず私の経営店に客の舌を唸らせられない粗悪品は存在しないからな」

 

堂々と言い切るウッドワスであるが、彼の店のメニューは殆どが菜食料理ばかりなので、他の妖精はともかく肉を好む同族からはあまり良い評判は立っていない。

 

「さて…話は変わるが、今回の試練で貴様はガウェインと闘り合いそして敗北したわけだが、何か掴めるものや得たものはあったか?」

 

「……掴めるもの、得たものですか」

 

彼に今日の事を聞かれて試練での戦闘を思い出す。

 

「わかりません。少なくとも今の私ではどう足掻いても敵わず、ただひたすらに途轍もない強さだったとしか…」

 

「…そうか、では質問を変えよう。ガウェインと闘っている中で、不意に“力が沸き上がってきた”ことは無かったか?」

 

「力が、沸き上がってきた…?そんなことは…」

 

彼からそう言われ、あの時を思い返してみる。

そして出来るだけ鮮明に記憶を思い出し、辿っていく内に―――――思い当たる節を見つけた。

 

「…いや、そういえば。ガウェイン殿から一撃もらって意識が朦朧としている時に、何か……こう、例えるなら『別の意識が混じり合うように干渉してきた』と言うべきか、とにかくそんな瞬間がありましたね」

 

「ふむ…混じり合うように、か。実はあの試練以降ずっと考えていたのだが、もしかするとそれは貴様の中にあるユーウェインの力が『共鳴』という形で働きかけたのかもな」

 

「共鳴…?私の中のユーウェイン卿が?」

 

彼女の問いに頷くウッドワス。彼はオックスフォードに戻ってから今に至るまでユーウェインのあの突然の覚醒の原因は何なのかを自分なりに考え、導き出した推論がユーウェインの力による『共鳴』だった。

 

「ああそうとも。これは私の推測だが、恐らくあの時貴様がガウェインに殴られ危機に貧した際に死を回避するべく、宛ら防衛本能が如くユーウェインの力が貴様の魂と直接リンクし共鳴を引き起こしたのだろう」

 

「…とすると、あの時急に力が沸いてきたのはその共鳴によるものだったと?」

 

「私はそう考えている。現に共鳴していると思われる間、貴様の瞳は爛々と真紅色に輝いていたのだからな?」

 

「え…!?」

 

彼の言葉に軽く驚愕を覚えるユーウェイン。

真紅に輝いていただと?この灰色の瞳が?

 

「これも推測ではあるが、共鳴した際の影響で貴様の魂の色が“瞳の変化”という形で表に現れたのだろう。血のような真紅なのも、それが貴様の魂の色だったからということなら辻褄が合うしな」

 

「…なるほど……」

 

あくまで瞳だけとはいえ、まさか外見的にも小さな変化が出ていたとは。

 

(あの時は激痛で頭が回らないのとガウェイン殿に一矢報いようとする意地で必死だったから、妙な力の介入にも藁にもすがる思いで受け入れてたけど…そんなことになってたなんてね)

 

しかし、これは見方を変えればユーウェイン卿が自分の危機に向こうから力を貸してくれたということになる。

 

もしウッドワスの言う通り、本当にこれが共鳴に当たるのであれば―――これを巧く使いこなすことで今までより更に強くなれるかもしれない。

 

「ウッドワス殿」

 

「なんだ」

 

そうなれば今後やるべきことは明白だ。

ただ単純にモース退治の日々を繰り返すだけの作業ではどう見積もっても到達できる強さの域に限界があると前々から悟っていた。

しかし、これなら。

 

「ガウェイン殿との闘いで窮地に陥った時、突然何かが介入したことで力が沸き上がった。貴方の言われる通りその現象が『共鳴』ならば、今後の特訓で私はそれを自在に発揮できるようになりたいです」

 

「ハッ、奇遇だな。私も同じことを考えていたよ。その意気で共鳴を修得し、妖精騎士として更なる高みに至るがいい」

 

そうだ、今回は本当に一時期な発現に過ぎなかったが、この共鳴さえモノに出来れば他の妖精騎士に、延いては大厄災にだって簡単には殺られないくらいにはなれるやもしれない。―――否、絶対になってみせる。

 

「…それにしても不思議だな」

 

「? 不思議とは?」

 

「いや、今回の試練で唐突に起きたその共鳴だが…実は他の妖精騎士にはこれまで誰一翅として同じような現象は起きていないのだ」

 

「え。えぇ!?」

 

またしても彼の発言にユーウェインは驚かされる。

この現象も妖精騎士なら当たり前なんだろうなと思っていたものが、まさかの自分だけしか起こっていないと聞かされ酷く困惑する。

 

「だ、誰一翅として起こってないですって…!?てっきり妖精騎士なら誰もが経験していることと思ってたんですけど!?」

 

「だが今言ったようにそのような事例はただの一つも無い。そういう意味でも貴様が特別だと言うことが今回でわかったな」

 

何故彼女だけがそうなったのか。原因はウッドワスにもわからないが、前例が無いというだけでも彼がユーウェインを特別と評するには十分だった。

 

「いや、御言葉ですがそれでも他の妖精騎士には起きずに私だけ起きるというのも不可解に思えて仕方ありません。例えばそう、条件さえ揃えば誰にでも起きるものであって、それを偶々私が満たしただけとか―――」

 

「そうか。では仮に条件があったとして、今回の試練以外で貴様がこれまでやってきた行動で“これだ”と思い当たる瞬間はあったか?」

 

不意に言われたその問いにユーウェインは記憶を巡ってみるものの、ウッドワスに問われたような瞬間は特に思い当たらなかった。

 

「え、それは………これといって無い、ですね。強いて言うなら丸一年ずっと特訓していたとしか…」

 

「ならそれ自体が条件なのだろうよ。1年間特訓をやり続けた末に、試練での戦闘がトリガーとなりそれまで眠っていた力が一時期に目覚めたのだ」

 

ウッドワスはユーウェインの共鳴を決して単なるバグ(まぐれ)だとは思っていない。

共鳴という仮説が正しかった場合、それ即ちユーウェイン卿の権能そのものに“意志”があったとしても全くおかしくないことを意味する。

 

「要するに貴様の身に起きたソレは単純に貴様自身のこれまでの弛まぬ努力あっての結果であり、偶々などではなく起こるべくして起こるものであった。そうだとは思わないか?」

 

そしてその権能の持つ意志が宿主(ユーウェイン)の折れない努力と意地の強さに危機に応え、共鳴という他の妖精騎士には発現しなかった“奇跡”を起こした。

 

これを彼女自身のこれまで積み上げてきた血と汗の滲む特訓が結んだ一つの成果と言わずして何と言おうか。

 

ユーウェインは偶々かもしれないと謙遜しているが、逆にウッドワス自身は肯定的に捉えていた。

 

「ん、貴方にそう言われると確かにと納得できなくもないですけど…良いんでしょうか?他の先輩方に対して、この力は私のみが扱える特別なモノだと知られても」

 

「構わぬ、自由に扱えるようになったら寧ろ恐れずに堂々と自慢してやれ。トリスタンの奴は顔を真っ赤にして殺しに掛かってくるだろうが、恐らくその時の貴様は奴など脅威の内に入らない程度にはなっているだろうからな」

 

現に今の時点でユーウェインはトリスタンと遜色ない域にまで達している。

尤も彼女自身、この一年で自分がそこまで強くなってるとは全く気づいていないのだが。

 

「…ええ、わかりました。貴方がそうまで認めてくださるのであれば、これ以上無駄に謙遜するわけにもいきませんわね」

 

「その通りだ。では貴様の意見を聞けて用は済んだから私は自室に戻る。明日からまた厳しく指導するからしっかりと英気を養えよ」

 

「はい、この國を護る戦士としてしっかりと休み、しっかりと頑張ります!」

 

これで当面の目標は決まった。この身に発現した共鳴をいつでも発揮できるようにし、その力で先輩の妖精騎士たちと並び立ち、そして(きた)る大厄災からの守護に貢献するのだ。

 

 

 

 

(…まぁ、正確な本音を言うと護りたいのは“この國”なんかじゃなくて――――――“ホープたち”、なんだけどね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈

 

 

―――それから三ヶ月後。試練の時と比べて自在にとはいかないが、窮地にまで追い込まれなくとも一時期に発動できるようにはなった。

 

「流石だな。まだまだ出来は悪いようだが、早くも発動のコツを掴み始めたか」

 

「ふー、ふーッ…!とは言ってもっ、その分精神と肉体にっ、負担が掛かりますがねっ…!!」

 

共鳴中は筋力、敏捷、技のキレと威力、魔力が軒並み跳ね上がるが、普段発揮できない力を半ば強引に引っ張り出してるにも等しいのでその負担はとても大きい。

 

「しばらくはその負担をなるべく効率よく抑えるべく練習する必要があるな。と言っても努力家な貴様のことだ、少なくとも来年を迎える頃にはその問題も自力で解消できてるだろうよ」

 

「はぁ、はぁ…そんなに、都合よく行くと良いですけど、ね…」

 

その後も二翅は軽く二時間ほど指導を続けて今日の分を終え、邸宅へと戻った。

 

「あ"ぁ"~~~~疲れたあぁ~~…。さっさと風呂入ってご飯食べよ~っと…」

 

「待てユーウェイン、その前に貴様に話しておかねばならない事がある。風呂上がりで良いから私の部屋に来い、待っているぞ」

 

「え?あ、はい。わかりました…?」

 

突然、彼から妙な案件を持ち掛けられた。何の話だろうか?

 

(…まぁ、とにかくまず風呂に入って上がってからにしましょう。頭動かすのはそれからよ)

 

そして風呂から上がり、体を涼めて軽くワインを飲んだ後で彼の待つ部屋に向かった。

 

 

 

「―――ウッドワス殿、失礼します」

 

「来たか。では早速話に入るが、近頃グロスターで『妖精舞踏会』が開催されることになったのは知ってるか?」

 

「グロスターで、『妖精舞踏会』…?グロスターって確か…」

 

遡ること1987年初頭、ランスロット監督の下で行われた調査試験の一環で一度だけ訪れた記憶がある。

 

「ああ、ムリアンが領主として管理している、ブリテンで唯一の完全な中立の姿勢を取っている繁華街だ。ムリアンについては貴様も一度その目で見たことがある筈だ」

 

「は、はい。確か一年前の謁見に映像越しで参席してた小柄な体格の氏族長でしたわよね?」

 

あの時の氏族長会議で目にした、やけにフレンドリーでちょっと裏がありそうな、そんな明るくも怪しい雰囲気を放っていた紫髪の妖精のことだろう。

 

「そうだ。そのムリアンが今から1ヶ月後に『妖精舞踏会』という催しを開くことを宣言し、各地の領主と諸侯といった権力者に予約制の招待状を手配し回っている。無論、我々の所にもそれが来た」

 

そう言いながら彼が机の引き出しに手をやると、果たしてそこから取り出したのは一通の封筒だった。

 

「これがその手紙だ。因みに私の分も来ていたのだが…()()()()()()()()故、参加拒否の旨を示して送り返した。一応言っておくが詮索はするなよ?然るべき時が来れば私の口から話そうと思っているのでな」

 

ユーウェインとしては正直気にならないこともなかったが、彼の言うようにおいおい知るだろうし下手に口を挟む必要は無いなと判断した。

 

「はぁ、わかりました。…ってことはつまりその手紙は」

 

「ああ。察しの通り、貴様に対する招待状だ」

 

彼から封筒を手渡され、中身を見ると確かに自分宛で舞踏会への誘いの文が書かれていた。

どうやらムリアンは自分も一後客人として招きたがっているらしい。

 

「勿論、参加に応じるか否かは貴様の自由だ。どうする?」

 

「そうですね……ここは…」

 

今、自分は共鳴を巧く使いこなす為に絶賛特訓中だ。

國とホープたちの未来を考えるなら一分一秒を強くなる為の時間に費やすべきであって、それを考慮するとこの招待状は拒否するのが妥当だろう。

 

(しかし…ムリアンがどんな人物像をしているかも正直凄く気になる。もし仲良くなれそうだったらその時にコネを築いておくのも社会的交流手段としては悪くない)

 

実際、彼女と良好な関係を結ぶことが出来れば、その後のグロスターでの行動も大分やり易くなるだろう。

 

(けど逆に物凄く悪辣な性格だったら…拒否したことを切っ掛けに陰湿で気色の悪い嫌がらせをしてきそうだし、そうなるとホープたちにも魔手が迫る可能性も無いとは言い切れないわ)

 

仮にも一領主だ。情報網だってそれなりに凄いだろうし、何より彼女自身があの謁見で自分とホープたちの強い信頼、そして“顔”を直接目の当たりにしているのだ。

 

仮に自分が思うような悪趣味な性格であった場合、それこそ位置情報だけでホープたちの存在を把握し、最悪殺しに掛かってくるかもしれない。

 

(彼女の裏がわからない以上、おいそれと拒否することはできない。であるならばここは―――)

 

少し悩んだ末、ユーウェインは己の選択をウッドワスに告げる。

 

「決めました。私…この妖精舞踏会に参加しようと思います。真意はともかく、こうして一客人として招待してくださっているんです。ここはそれに応えるのが誠意だと判断しました」

 

彼女は真面目だった。真面目である故にこの言葉も嘘ではなく、彼女なりにムリアンを信じようと思っていた。

 

「よかろう。ならばそこに了承のサインを書いて私に渡せ。後で送っておいてやる」

 

「はい、ありがとうございます。…それにしても舞踏会ですか。さぞたくさんの眉目秀麗でお上品な妖精さんたちが来られるんでしょうね」

 

これまで自分が妖精眼で見てきた妖精たちを思い浮かべ、皮肉を垂れながらサインを書いて彼に手渡す。

 

「そうだな。人間も来るには来るが基本的に妖精たちの引き立て役で終わるからな、目立つことはない。…それはそれとして、貴様はダンスは得意な方なのか?」

 

「ええ、前の世界に居た時によく仲間と踊っていましたからね。特訓に明け暮れている今でも人並み以上には手慣れていましてよ?」

 

それだけでなく、“狩り”の時にも踊りは役立った。

獲物である男をまんまと誘い寄せるのに効果覿面だったからだ。

あの頃は他のバーヴァン・シー種の同胞と踊って競い合ったものだ。

 

「なるほど。かなり自信ありげのようだが、それでも1年以上のブランクは決して小さな影響ではない筈だ。当日に備えて練習を重ねておけ。―――では以上だ、そろそろ夜食の時間にするか」

 

「ええ、そうしましょう。私もさっきからくうくうお腹が鳴って仕方ありませんでしたの!」

 

かくしてユーウェインは一ヶ月後の妖精舞踏会に備え、戦闘ではなく舞踊の特訓(リハビリ)に突入するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈

 

 

 

 

「ふーん。ウッドワスは案の定拒否したものの、例のあの子はちゃんと承諾してくれたみたいですね」

 

 

左右に本が積み上がった机の前で、二通の手紙を指で摘まんで眺める妖精が一翅。

 

 

「まぁ一番参加してほしい方に参加してもらえた以上、結果として不満はありませんが…ウッドワスは毎回何をそんなに遠慮しているのでしょうか?別に取って殺すわけじゃあないのに、私ちょっとだけショックです」

 

 

ウッドワスが毎度ながら拒否してくることに細やかに嘆くも、彼女は承諾のサインが書かれたもう一通の手紙を見て口角をつり上げる。

 

 

「ふっふふふ。私、一目見た時から貴方に対してそこそこの興味を持っていたんですよね」

 

 

手紙を器用に回しながら、彼女は残虐な悪の華にそっくりな吸血鬼に対する思いを口にする。

 

 

「だから貴方がこうして承諾してくれて少しホッとしました。もし拒否したら無理矢理にでも参加してくれるように、貴方のお仲間さんたちを人質にすることも辞さない覚悟でしたので」

 

 

さらりと吸血鬼の地雷を踏み抜く発言をかましつつ、彼女は窓から差し込む蒼い月明かりにその顔を晒す。

 

 

「うふふ。そういうわけで、1ヶ月後を楽しみにしていますよ。汎人類史のバーヴァン・シー―――もとい、妖精騎士ユーウェイン様?」

 

 

妖精國ブリテン。その中で“唯一の”翅の氏族であるムリアンは、月に向かって怪しくも柔らかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 




ふと最近のアーケードの現状が気になって調べたらラスボス兼星5配布とかいう二大初快挙を同時にやらかしてるのを知って草通り越してただただ唖然した。

なんで本家でそれをやらないんですかね…もしくはこれからする予定だったり??

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