Fate/Viridian of Vampire 作:一般フェアリー
ユーウェインがムリアン主催の妖精舞踏会に向けた練習を始めて早くも二週間が経過。
彼女は現在、ウッドワス邸のエントランスにてウッドワス本翅と共に社交ダンスの練習に励んでいた。
「そこ、右足の動きが僅かに遅れているぞ。遠目からなら問題ないが、こうして密着しているとバレバレだ」
「す、すいません。まだウッドワス殿御自身との体格差に慣れていないもので…」
彼女らがこの練習を始めて三日目になるが、ウッドワスの図体と洗練されたキレのある動きに付いていげず悪戦苦闘していた。
「一翅でのダンスはこの二週間で随分と見映えの良いものになったが、この様な一組での場合はまさか経験が無いのか?」
「いえ、経験そのものは寧ろたくさんあるんですけど、何分こういう体格差のある相手とは初めてというか、つまりそういう事なんです」
森で同胞たちと競い合ってた時は皆同じくらいの体格であったが、今彼女の前にいるのは2mを超える大男。
170cm程度の彼女では動きに合わせるだけでも容易ではなかった。
「そうか、これでも貴様に合わせてなるべく調整しているつもりではあるのだが…当日の事を考えるとそうも言ってられないぞ?」
「? どういう事です?」
意味が解りかねるユーウェインに彼は説明する。
「二週間前に舞踏会の件を話した際、招待状を各地の権力者に手配していると言ったろう?それは必然的に我々女王軍に援助し、与している派閥も集まる事を意味する」
中立姿勢のグロスターの中で諍いが起きる事はまず無いが、中にはウッドワスの言うように女王派が来るだけでなく当然それ以外の派閥も集まってくる。
故に互いに同じ場につき、その場に限り派閥の垣根を一旦忘れて催しに興じることが舞踏会においての暗黙の了解となっている。
「つまりだ、仮に貴様より地位の高い女王派の者が貴様を選んだとして、その選んだ者が私のように大柄な体格をしていても援助の関係維持の為に貴様は断れずに嫌でも付き合わざるを得ない、というわけだ」
「うぐっ…なるほど、援助の関係維持の為ですか」
女王派が女王軍に与している理由は様々だが、主に「厄災から守ってくれるから」「下手に自分たちが殺されないようにするため」「恩恵という名の上手い汁を啜れるから」と何れも自分勝手で保身的なものが挙げられる。
そして保身的で自分勝手である故に、ダンスの誘いを下手に断ったのを理由に女王軍への援助を取り下げたり、最悪悪い噂を流したりして断った者を貶めた上で女王派から他の派閥に鞍替えすることすらありえるのだ。
(コーンウォールでのあの有り様を見るに、この世界の妖精たちは基本的に移ろいやすい。もし断ったのを切っ掛けにいい加減な悪評を流されでもしたら堪ったものじゃないわ)
ウッドワスの忠告の意味をようやく理解する。
確かにそうとわかればどんな相手だろうと快く受け入れ、最低限恥ずかしくないダンスを披露出来る程度には上達しないといけない。
「わかりました。なら体格差が云々などと言い訳を垂れてる余裕は無いですね、少しでも色んな相手に対応できる様にしないといけませんわ」
「その通りだ。残りの1週間もその調子でかつての感覚を取り戻していくといい」
「ええ。確実に腕を上げて、かつての全盛期を超えるつもりでのめり込んでやりましてよ」
それ以降ユーウェインはソロと一組との練習時間をより効率良く配分し、日が経つ毎にそれまで生じていたミスを一つずつ直していった。
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そして舞踏会開催の前日。二日前の時点で採寸作業を受けていた彼女はウッドワスから特注のドレスを授かっていた。
「わぁ…なんて綺麗で優美な衣装なの!ありがとうございますウッドワス殿!」
「フッ、礼はいい。この程度の用意も出来なければ氏族長の名折れだからな。ひとまず自室で試着してみるといい」
彼から言われた通り手渡されたドレスを早速自室で着替え、ドアの手前で待っていた彼の前にその姿を晒す。
「ど、どうでしょう?似合ってます?」
「ああ、とても似合っているよ。まぁそのように作ったのだから似合わなければおかしいがな」
その衣装は黒を基調としたゴシックドレスで、スカートには紅色のグラデーションが、左肩には逆立つカラスの黒羽の装飾が施されており、薄地の部分には茨と薔薇の紋様が編まれている。
宛ら吸血鬼にも魔女にも見えるそのダークビューティーなドレスは、彼女の嗜好に酷く反応した。
「フフッそれは嬉しい御言葉です。私としてもこの衣装はこうして実際に着てみてとても気に入りましたわ」
(あああああまってまってホントにデザインが私の好みに的中なんですけど!こういう如何にも悪のヴァンパイア令嬢っぽい感じがもう、なんてゆーか心にキュンキュンして……好きっ!!!!!!)
表面上は朗らかに笑っているが、その
「だろう?明日はその衣装でこれまでの特訓の成果を大衆の前で見せつけてこい。師として大いに期待しているぞ」
幸いにも彼がそれに気づくことはなかったが、もし彼がモルガンやユーウェインの様に妖精眼を持っていれば彼女の表と内心のギャップに軽くドン引いていただろう。
「ええ、わかっておりますとも。実力派のダークホースとして目にもの見せてやりますわ」
(はーーーーーもう今ならどんな踊りでも華麗に美麗に秀麗にやれそうだわコレ。ってかこの
自信満々に宣言するユーウェイン。狂喜欄間している内心といい、今の彼女に恐れるものは何も無かった。
強いて言えばそれこそ裏表の判りかねるムリアンくらいか。
「うむ、では今日はその衣装の来たままリハーサルという形で、この1ヶ月間で貴様がどれだけ上達したかの最終確認と行こう。尤も今の貴様なら小さなミスでもそうそうやらかさないだろうがな」
「ええ、これまで貴方と奉仕係の皆さんとで散々練習を重ねに重ねたんですもの。リハーサルだろうと当日だろうと関係なく見る者全員を魅了するつもりで踊ってやりますわ!オホホホ!」
「あ…ああそうだな、その意気で本番も恐れず挑むといい」
(全く、完全に浮かれているな…まぁ当日は改めて気持ちを切り替えるだろうし、今日だけは許すか)
普段以上に露骨なお嬢様口調で高らかに笑うユーウェインに困惑しつつも、彼女の生真面目さに免じて今日に限り目を瞑ることにした。
そして以降は休憩や食事を挟みながらいつもと同じ感じでリハーサルをやり通したが、心なしかその時のユーウェインの表情は普段より生き生きとしていた。
余程衣装が気に入ったのだろう。
「…む、もうこんな時間か。私としたことが時間の把握をほんの一時とはいえ忘れるとはな。それほど貴様のリハーサルに付き合っていたということか」
「ハハハ、私なんて今の今まで夕方だと思ってましたよ。何かに没頭するとホントに時間を忘れてしまいますね」
二翅が気がつく頃には時計の針は早くも11時を差していた。
「ふん、本当ならもう少し特訓するつもりだったが…まぁ良い。リハーサル中の貴様の動きに無駄は一つたりとも見受けられなかったからな。この辺りを頃合いとしよう」
「ええ、そうしましょう。明日に備えて早く寝ませんとね」
この一ヶ月に及ぶダンスの特訓は今日を以て終わった。
いよいよ明日が舞踏会開催の日だ。
「だな。では明日の早朝にこちらから馬車を用意次第それで出発する。町の入り口までなら私も同行するから道中のモース煙等の危険に対する警戒はしなくていいぞ」
「はっ、ありがとうございます」
「良い返事だ。それではもう就寝していいぞ」
「ええ、わかりました。偉大なるモルガン女王陛下と排熱大公ウッドワス殿に仕える者として恥じない舞踊を披露してきますわ。―――では先に失礼致します」
そうして丁寧に御辞儀をして退室し、軽くシャワーを浴びて余り物のワインを嗜んだ後で彼女はベッドに身を投げる。
(はぁ~…いよいよかぁ。そう意識すると急に緊張してきたわね。早く寝ないといけないのに…)
鼓動が静かに高鳴っているのを感じる。この一年と四ヶ月の間オックスフォードとキャメロットしか行き来しておらず、他の町にはソールズベリーに希に寄りかかる程度しかなかったが、ようやくそれら以外のところへ足を踏み入れられるのだ。
(何よりこれはムリアンに直接会えるまたとないであろうチャンスでもある。彼女が果たして本当に仲良くなれそうな善精か、それとも関わっちゃいけない悪精か……ま、あの
あの何を考えてるか解らない不気味な笑顔が脳裏にチラつく。
そも、ユーウェインに限らず汎人類史の妖精全般に取っても彼女は淘汰されるべき欠陥生命体であり、よしんば生きれたとしても今とは見る影もないほど醜く色褪せた姿に変貌するのは避けられないだろう。
(いや、今はあの生き物のことはどうでもいいわ。不愉快になるだけだし。…とはいえ一年と四ヶ月、か)
窓から差し込む月明かりをその身に浴びながら、静かに瞼を閉じる。
(ハハ…最初の一年は様子見だとか言っておいて、いざ一年が過ぎれば試練を課されるわ共鳴という新たな力を慣らす為の特訓をされるわダンスの練習をするわで結局四ヶ月も
その中でウッドワスに対する印象も随分と変わっていった。
最初こそ威圧的な風貌の大男でしかなかったが、今となっては自身が強くなる上でこれ以上ないほど頼れる武闘の師だ。
しかしそんな彼以上にずっと気になっている者たちもいた。
(あの子たちは…ホープは、ドーガは、ハロバロミアはどうしてるんだろう。確か、エインセルとかいう妖精の下で保護されてるんだったわよね)
あの時の別れ際、彼女たちを連れて目の前から消えた金髪の少女の外見をした妖精。
(…まぁ邪気は一切感じられなかったし、それどころか雑じり気の無い善意すら視えたから大丈夫だろうとは思うけどね。ランスロット殿とも友人関係を築いているらしいし、憂慮する必要は無いでしょう)
鏡の氏族という名の妖精たちを束ねる長であるエインセル。
「…ふぁ~……そろそろ、眠気が来たわね……」
(未来を見れるとか…言ってたけど……どんな妖精なのかしら………ね………)
彼女にもいずれまた会ってみたいなと思いつつ、ユーウェインはゆっくりと意識を夢の中へ落としていった。
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「――――――で?ソイツはちゃんと明日ここに来るのよね?」
「はい、それはもう間違いなく。彼女は明日ここに来られますよ」
少し時を巻き戻してユーウェインたちがリハーサルに浸っている頃。
領主であるムリアンの下に一翅の妖精が来ていた。
「ふーん、まぁアンタがそう言うからには事実なんでしょうけど…ホントにソイツは私と瓜二つなワケ?こっちはあくまで情報を知ってるだけで実物を見てねぇから未だに信じられねぇんだけど?」
その妖精は不満の募った疑問をムリアンにぶつけるも、対するムリアンは臆することなく飄々とした感じで質問に答えた。
「ええ、まるで鏡合わせが如くソックリでしたよ。性格や口調はまるで違いますがね」
「ハッ、だろうな。前にお母様から聞いたけど、自分の仲間を守る為にあろうことかお母様の命令を拒絶したらしいじゃんか。そんなんでよくもまぁお母様が妖精騎士に選んだものね、そこもまた信じらんないぜ」
ムリアンの返答に納得と不満を垂れ流す。彼女は一年前のある日、自分と似た姿の妖精が第四の妖精騎士として就任したとの噂を聞き、その時はただの下らないホラ話として本気にしなかった。
だが日が経つにつれその噂は収まるどころか各地で耳にするようになったので真偽を確かめるべくキャメロットに出向き、母に相談するとあっさりと事実として容認してきた。
そこで自分も初めて例の存在を把握し、その後此処で行われる舞踏会に参加するという情報を風の噂で聞き及び、こうして領主であり主催者であるムリアンの下へ直接出向いていた。
「けどまぁ、こうしてわかったのならそれで良いわ。是非ともソイツには私が先輩として色々と手解きしてあげねぇとなぁ?」
情報の信憑性が確かなものと確信した途端、彼女は口角を釣り上げ邪悪な笑みを浮かべる。
どこまでもワガママでザンコクな彼女はとても刺激的で印象に残る新人歓迎会を開こうと考えていた。
「あはは、相変わらず悪い顔してますね~。仮にも後輩なんですから手を掛けるにしてもちゃんと加減した方がいいですよ?」
「るっせぇな指図すんじゃねぇ、私にあれこれと言っていいのはお母様だけなんだよ」
からかう様に注意するムリアンにあからさまな敵意を向けるその妖精は、ガウェイン・ランスロットと同様この國でその名を知らぬ者はいない残虐で凶悪な妖精騎士の一角。
「おおっと怖い怖い。そんなに凄まれちゃそれだけで私なんていとも簡単に死んでしまいますってー」
「…自分の妖精領域を思っくそ展開させておいてよく言うぜ。ま、それはそれとしてとにかくこれでソイツが明日来るのはわかったし、私も一旦戻って準備するから当日よろしくな?」
「はいはーい、ちゃんと手筈通りにやりますとも。それじゃ気をつけてお帰りくださいね~☆」
彼女の適当な返事を最後まで聞かずにさっさと水鏡を用いてその場から消え去り、一瞬でキャメロットの自室に帰宅する。
「チッ、ムリアンのああいう余裕綽々なところ本っ当にムカつくな。ネコに壁際まで追いつめられたネズミみたいに少しは怯えやがれっての!クソが!」
目の前のタンスに軽く足蹴して八つ当たりしてから、今自分が注視すべき存在を思い出す。
「…ハッ、妖精騎士ユーウェインだっけ?私と瓜二つだか何だか知らねぇけど、テメェみてぇなお母様の命令より仲間を優先しやがるような奴が妖精騎士として仕えるなんて身の丈に合わねぇってコトを先輩の私が教え込んでやるよ」
顔を合わせたこともなく、名前しか知らない後輩に対する敵対心と嗜虐心を沸かせながら彼女は不敵に微笑む。
「ああ―――どうか見ていてお母様。未来の女王として、悪逆な妖精騎士として、ぽっと出の癖してイキり散らしてるだろう新参者を骨の随まで恐怖で震え上がらせてみせるわ…!!」
天に向かって片手を握りしめ、己に取ってこの世の何よりも心酔している母君に恍惚とした表情で宣言する。
この世界のバーヴァン・シー―――もとい妖精騎士トリスタンは、これから舞踏会という品のある場所で繰り広げられるであろう惨劇を想像し、その端麗な顔を狂喜に歪ませた。