Fate/Viridian of Vampire 作:一般フェアリー
探索、そして出会い
朝の日差しに輝く森の中、動く影が一つ。
(さて、あそこでじっとしていても仕方がないからこうして行動しているけれど…今のところ小鳥の囀りが微かに聞こえているくらいで何も進展が無いわね……)
影の正体はバーヴァン・シー。彼女は漂流物としてこのブリテン異聞帯に迷い込んだ汎人類史の吸血妖精である。
目が覚めたら見覚えの無い場所にいたので、取り敢えず情報収集しないことには何もわからないし何よりも不安を拭えないと判断し動いた。…は良いものの、これと言った異常や発見もなくかれこれ10分ほど歩いていた。
(というかさっきから気になっていたけど、どうして空が夕日の色に近いのだろう?小鳥の囀り、木々の日差し、何より景色全体が明るい。…これどう見ても朝の雰囲気よね?)
ふと気にかかっていた疑問。この時の彼女はまだ知る由もないが、ブリテン異聞帯の空は汎人類史のそれと違い夜を除き常に黄昏色で青空になることは決してない。それ故この世界の住人たちは青い空という概念を汎人類史から流れてくる書物を通してでしか知らない。
(まあ、それも含めて引き続き情報を集めましょう。一番手っ取り早いのは話しが通じそうな住人に聞くことなのだけれど―――)
一旦疑問を仕舞い込み、考えながら歩いていたその時。
ガサ…ガサ…
「…ん?」
近くで微かに草むらが揺れる音がした。単に風が吹いた際のものではない。明らかに何かが動いた場合に鳴る音だ。
(何?妖精?野生動物?或いは、怪物の類だったり?…こんな神秘に溢れた場所だしそれもおかしくないわ。一端距離を取るか?)
考えていると音が先ほどより段々と大きくなってきた。どうやら向こうも此方の存在に気づいた様だ。
(っ! 向こうに気づいてから物音一つ発ててないのに近づいてきてる!?と、取り敢えず身構―――)
「………え?」
ガサガサ、ガサガサ
いつ何を仕掛けられても対応できる様に迎撃と逃走の体制を取ろうとした時、それの輪郭が段々と見えてきた。
ガサガサガサガサガサ
しかし見えた瞬間、現在進行形で彼女は絶句し硬直せざるを得なかった。
何しろ彼女の目の前に現れたソレは――――
ぐじゅ…ぼごっ…じゅる…
「■■■■■■■ーーーー!!!!」
今まで見たことも感じたこともないほどの凄まじい怖気を迸らせる、芋虫の様な黒く蠢く『ナニカ』だったのだから。
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―数分前―
「はあっ、はぁっ、はっ…!!」
ああ――何でっ何でこんなことになったの!?
確かに元を辿れば!採ってくるように言われた木の実を見つけて集めていたからって!周りの注意をほんの少し疎かにした私が悪かったけど!
だからっ、だからって―――!
「“モース”に見つかるなんて目にはっ!会いたくなかったよぉっ!!」
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――モース。それは汎人類史のブリテンには存在しない、このブリテン異聞帯独自の生命体にして最も忌まわしき存在悪である。
そこに在るだけで周囲に呪いを振り撒き、根こそぎ汚染してしまう習性を持った妖精國のがん細胞そのもの。
その呪いを他の妖精がまともに受けてしまえばその妖精もモースに変貌し、同じ様に呪いを振り撒き始めるので感染が広がると非常に対処が難しくなる。
幸いモース自体は個体規模で見た場合はそこまで強くはない。基本的に大体は弱い部類に入るので一般的な下級妖精一人でも弓などの遠距離武器を駆使し、尚且つ地形などを利用して自分が有利な状況を崩さぬよう立ち回れば何とか勝てる。
しかし油断して攻撃を一発でも受けようものなら耐性の強い妖精でもない限り、瞬く間に全身を呪いが侵食しモースに変異するので高い危険性を持つことに変わりは無い。
―――そしてこの時、一人のか弱い妖精の少女が一匹のモースに追われていた。
何てことはない、少女は村の皆からいつもみたいに
その最中で採集に意識を向けすぎた故に、そう、ほんの少しだけ周囲に対する警戒を緩めてしまったのだ。それが失敗だった。
結果、その僅かな隙を少女の気配を鋭敏に察知したモースに見事に突かれてしまい、そしてこの必死の逃走劇に至る。
「うぅっ、ぐう"ぅぅっ~~~~…!!!」
少女は心の中で激しく後悔した。なぜ自分はあの時警戒を緩めたのか?モースじゃなくとも危険な魔獣なども居るとわかっておきながら。いや、そもそも採集のお願いを受けた時点でこんな律儀に集めなんかせずに投げ出してそのまま逃げてしまえば良かったのではないのか?
―――“どうせ自分なんて、いてもいなくても大して変わらない役立たずなんだから”
「は…ははっ…」
少女は笑う。流れる様に浮かんだその考えを否定したくとも、これまでのぞんざいに扱われ虐げられてきた人生が否が応にもそれを事実として肯定してしまうからだ。
他人の為に奴隷が如く身を削り、心を消費させられ続けただけの人生。自由なんかどこにもなく、ただ軽蔑の視線に怯えながら嫌でもご機嫌取りに徹していた日々。実に空虚で、哀れで気持ち悪い不快極まる記憶の数々。
だけど少女にとって一番嫌いなのは、そんな目に延々と晒されて尚愚直に、都合の良い様に、すがる様に働き続けるしかない自分自身。
少女の妖精としての元々の『役割』は、誰かのお願いを自分でこなせる範囲で聞き入れて、心からの
しかし『あの森』に入ったからか、もしくはそれ以前にそうした悪辣な目に会わされ心の余裕が擦り減る内に、自然と記憶が摩耗したからか。
少女はいつしか本来の目的を忘れ、『誰かに無償で奉仕し続けることだった“ハズ”』という曖昧で中途半端な解釈をし、今日まで楽しくもない毎日を過ごしてきた。
(まぁ…それも仕方ない、か)
――だって、名前も目的も失った妖精なんかに存在価値は無いんだから。
(…このまま、何とか撒いて戻ってこれても村の皆は私の心配なんてこれっぽっちもせずに遅いだの役立たずだの、相も変わらず叱責と嫌みしか吐きかけてこないでしょう)
どんなに頑張ろうと、尽くそうと、結局返ってくるのは負の思いばかりで労われることも報われることもない。
………こんな、こんな、中身がないふざけた人生をこれ以上積み重ねる意味は、理由はあるの?
我が身可愛さで、いちいち他者の機嫌を伺って、これからも生き汚さを見せながら生に執着する必要は…本当に、あるの?
「あぁ…なら、もういっそこのまま…」
少女の内で繰り返されるは、止めどなく出てくる自らの先に対する疑問。その問に返される答えは何処までも広がる闇、闇、闇。一寸の光も見出だせずに諦観しきり、いよいよその足を止めようとした時。
「―――え?」
後ろで聞こえていたゲル状の不快音が突然消えた。振り返ってみると追いかけていたモースが急に明後日の方向を向いていた。
そしてあろうことか目の前にいる自分を無視してそのまま向いていた方へと動き始めた。
(な、何?どういうこと?何で格好の獲物のはずの私を差し置いてそっちに…?)
……まさか、そっちにも妖精がいる?
そう考えた時、少女は悩んだ。モースは基本的に目に写るモノ全てに襲いかかるが、妖精には特に敏感だ。そしてこのモースは目の前の自分を差し置き、別方向へと動いた。ということはその先に妖精がいることはほぼ確実だろう。
「でも…でも…」
だからこそ助けるかを決めあぐねる。少女の場合戦闘力こそ無いが、皮肉にもこれまで散々働かされてきた影響である程度体力が付いているので囮役としてならそれなりに貢献できる。
問題はその先にいるであろう妖精が助けるべき良心的な人物か否かだ。
これまで説明した通り少女は自分に対しても嫌気が差すほど妖精たちの悪意を受け続けてきた。
もし必死で助けたにも関わらずに罵声を浴びせる、或いは仇で返してくる様な悪妖精だったら?そうした不安に苛まれる。
「うぅ…うぅっ…!!」
助けるか、見捨てるか。考える、考える、考える。
――そして、ある結論が浮かんだ。
“ここで見捨ててしまったら、どうでもいいと切り捨てたら、それこそ自分に押しつけてきた妖精たちと何ら変わらないじゃないか”――――――
その瞬間、突き動かされる様に少女は駆け始める。
ああ、何を今まで迷っていたのか。例え悪かろうとそうでなかろうと、目の前に危険に晒されている命があったらそういった損得勘定に駆られずにまず助けるべきだろ。
仮に助けたのがろくでなしだとしても、元より他人に失望し、人生に絶望していた身。その時は自分の中にある妖精としての悪意を存分に発揮して一緒にモースに殺されて道連れにしてやればいい。
(ただ、我が身可愛さで、どこまでも自分のことしか考えられない妖精たちと同類に堕ちるのは――ごめんだ!)
少女は駆ける。
そして、モースに追いついたその先で――――
「――あな、たは――?」
「――私のことは後で話します、今はこの状況を何とかして切り抜けましょう!」
その瞬間、少女の