Fate/Viridian of Vampire 作:一般フェアリー
「――いや、まさか。まさかこんな突然にこうしてそのご尊顔を拝見することになるとはね」
驚愕の感情に包まれている中、黙っていても失礼なので何とか気を取り直そうと言葉を口にしてひり出す。
「ふふ、それはそうだね。ただ、君も招待状の説明を聞いた時点でこんなことになるのはある程度予想は付いてたんじゃないかな?」
動揺を取り繕う精霊とは正反対に落ち着いた表情と声でそう言う彼女は、何を隠そうこの國最強の騎士にして自身と同じ顔・声・名を持つ蒼き妖精だ。
「あぁ…うん、それはそうだけど。だからってこんな急に接触してくるとは思わなかったからさ。ノクナレアといい、この世界の御偉方は見知らぬ者には不意に言葉を掛けるのが常識なのかい?」
「あははは、これは随分と辛辣だね。ほら、僕だけじゃなく君も含めて言われているよノクナレア。
多少皮肉じみたジョークを飛ばしつつ、その間に最低限の平静を取り戻す。
彼女―――妖精騎士ランスロットは、そんなジョークにも澄ました笑顔でノリを合わせてノクナレアをからかう。
「お黙りなさいランスロット。あまり悪ノリが過ぎるとその
「む、それはちょっと困るな。じゃあ、もし君がそうしようとしたら瞬間的に喉元を優しく切り裂いてあげるから、安心して僕の
おちょくられたことにノクナレアは不快感を露にし軽く脅しを掛けるも、対するランスロットは全く動じないどころか笑顔で逆に脅迫し返した。
「出来るものなら、と言いたいけれど貴方の場合それも余裕なんでしょうね。全く、あの冷血女王様は本当に末恐ろしい怪物を軍門に下らせてくれやがったものだわ」
(…うん、確かにそれには大いに納得できるよ)
メリュジーヌもノクナレアの発言に心の中で同意する。
何故なら彼女の
仮にこの会場内にいる全ての妖精の力を足してもノクナレア以外は彼女の足下にも及ぶことはなく、例えるなら成獣の虎の前で赤子の狸が必死に背を伸ばしているに等しい。
「……私に近い体質、と言ったね。それはつまり貴方も竜種の特性を持っている、或いは―――竜“そのもの”だったりするのかい?」
ならばその事実といい、先の自己紹介で彼女が言ったことも多少仄めかす様な言い方ではあったものの、つまり『そういうコト』なのだろう。
「お、いきなりそこ問い質すか。まぁ僕の方から流れで口にしちゃったわけだし、君には特別サービスで答えてあげようかな。けどここで話すのは都合が悪い、場所を変えよう」
そう言うとランスロットは上の階のロビーに行くよう促し、メリュジーヌは言われるがままに彼女に付いていく形でノクナレアと共に会場を後にする。
「…よし、近くに誰かいる気配は無いな。さ、入ってくれ」
ランスロットは少しだけその場を見渡してから人気が無いことを確認すると
「…何か、やけに準備がいいね。まさかそっちもそっちで私がこうして舞踏会に来るのを想定してた?」
「うん。君がノクナレアの庇護下にある以上、彼女が招待状に応じるにあたって共に会場へ赴くのではと予想していたからね。だから事前に部屋を取ってたってわけさ」
一年前の謁見、その時の氏族長会議で申したノクナレアの報告。
それでメリュジーヌの存在を知ったランスロットは、どこかで何とか接触を計れないかと機会を探った結果、今回の舞踏会開催というタイミングに目星を付けていたのだ。
「さて、あまり勿体ぶるのも何だしさっさと私が何者なのかを端的に明かすけど……これ、本来ならそもそも
「へぇ、そんな最重要機密事項を私には軽々と話してくれるんだ?しかもノクナレアもいる前で?」
メリュジーヌの言うように、この場にはノクナレアという関係者であると同時に第三者の立場にあたる存在がいる。
機密情報であるならそう易々と口を割れる状況なのか、彼女がそう疑問に思うのも無理からぬことだ。
「…確かに僕としても本音を言えば君にだけ話したい。ただそうしたところで今の君の立場上、ほぼ確実に彼女の耳にも入るだろう?だからいっそこうして居合わせている上で話してやろうと思ったのさ」
それに対するランスロットの返答は尤もと言えば尤もなものであった。
今のメリュジーヌの立場は一年前と変わらずノクナレアの補佐兼盟友である。
それ故に“互いに一方に対する隠し事はしない”という暗黙の了解を約束しているので、ランスロットの言うようにメリュジーヌだけに話しても結局は彼女の耳に入る以上、他言無用を強いたところで殆ど意味を為さないのは明白だった。
…それこそ“口封じ”としてその場で抹殺、或いは拉致でもしない限りは話は変わらないが少なくとも今のランスロットにはそうした考えはさらさら無かった。
「そう。なら私という第三者も居合わせている上で貴方のその秘密、聞かせてもらおうじゃないの。―――メリュジーヌ?」
「―――!?今…」
「あのさ、その名前で呼ぶのはせめて話を聞いてからにしてくれ。…それじゃ、どこから話そうかな」
さらりとノクナレアが口にしたその名に思わず反射的に問おうとしたメリュジーヌだが、それを遮るようにランスロットが話し始める。
その行動に暗に彼女から『今は突っ込むな』と言われている気がした。
「そうだね……さっきさ、自己紹介の時に『君にかなり近い体質』と言っただろう?これがどういう意味か、わかるかい?」
不意にランスロットがメリュジーヌに問いかける。自分に似た体質とはつまり何なのか、彼女は数瞬の間それを考え、答えを出す。
「…この姿を見ればわかると思うけど、私は人と妖精の間の子であり、尚且つ竜の特徴も併せ持つ存在なんだ」
人、妖精、そして竜。一個体でありながらキメラの如く複数の種族の特徴と性質を持ち合わせているメリュジーヌだが、その中で最も割合が多いのは竜の部分だ。
「竜種は基本的に呼吸するだけで魔力を自然生成するから内包しているエネルギーも相応に凄まじい。無論私もその性質を半端ながら備えているけど、その特性も含めてかなり近いと貴方は言った」
先ほど会場で遭遇した時に彼女から感じた、その場にいる者全員が束になろうと敵わないだろうと思わせられるほどの底の知れない強大な
会場にいた者の殆どは妖精だった。そして妖精もまた人間より遥か格上の神秘を操る上位存在であり、ホープのの様なか弱い部類でも状況によっては英傑を殺害せしめる可能性があるのだ。
そんな妖精たちでさえ如何に集おうと一蹴できるほど圧倒的な力を秘めている存在など、メリュジーヌの知識の中ではそれこそ一つしか該当しなかった。
「ということはだ。さっきも言ったけどやっぱり貴方もまた私みたいな竜に近い、ないしは竜種そのものなんでしょう?」
そもそも瓜二つな外見と声帯の時点でランスロットがこの世界における自分自身なのはほぼ間違いないのだ。
従って彼女が自身と同じく竜に近しい、ないしは完全な竜種である可能性は容易に推測できた。
「…ま、流石にそこはわかっちゃうか。その通り、私の正体は人でもなければ妖精でもない、幻想種の中で頂点に立つ存在である竜の種族だよ」
やはりと言うべきか、彼女はあらゆる幻想種の頂点に君臨する竜種らしい。
妖精より更に上位の存在ならこの國で最強の精鋭と言われるのも納得できる評価だ。
「そして更に言うと、だ」
「…え?まだ何かあるの?」
どうやら彼女はまだこれから明かすことがあるらしいが、竜種である他に何があるのか?
そう考えているメリュジーヌは、この直後に自身が鳩が豆鉄砲を食らったような顔を晒すことになるとは露ほども想像していなかった。
何故ならランスロットが次に明かした発言の内容は、彼女に取って耳を疑わずにはいられないほど衝撃的なものだったからである。
「ああ、聞いて驚くといい。僕は幻想種の頂点たる竜種、その中でもこの星が生まれた刻より存在し、星と共に世界の歴史を歩んできた境界の竜『アルビオン』。―――その右腕が形を成した者さ」
「……………は?」
今、彼女は何と言った?あるびおん―――アルビ、オン?
「それって、まさか……地球とほぼ同時期に誕生して、あらゆる竜種の始祖と言われる、あのアルビオン!?」
「ああ、そのアルビオンさ。と言っても僕はあくまでその右腕から生まれた存在に過ぎないけどね」
アルビオン。それは地球という星が誕生した46億年前の頃より存在し、山の如き体躯を誇る大いなる純血竜。
数多の竜種が神代の終焉を悟る中、それでもブリテン島に残り続け、最期は世界の裏側を目指し地中を掘り進むもその半ばで息絶えた『真なる竜』。
メリュジーヌが元居た汎人類史の世界においては、このアルビオンの遺骸が地中のプレートの動きによって霊墓アルビオンという巨大かつ広大な地下迷宮を形成し、その上に魔術協会の時計塔が建っている。
「…なるほど、右腕って言ってたのはつまりそう言う事だったのね。道理で貴方だけ他の妖精騎士たちと比べても隔絶された実力を持っているわけだわ」
驚きを隠せないのはノクナレアも同じだったが、同時に彼女の中での長年の疑問にもようやく納得が行った。
なるほど確かに、一部から派生したとはいえ元がそんな高次元の存在であるならば妖精國最強の精鋭と評されるのも全く不思議ではないし、寧ろそう言われて当然だ。
「ただそれが本当なら解せない点があるわ。なぜ右腕という“肉体の一部”から貴方は生まれたの?何が原因でそうなったのかしら?」
「…!確かに。一体どうして?」
ノクナレアの問いに言われてみればと同意するメリュジーヌ。
汎人類史のアルビオンの遺骸は広大な霊墓としてあるが、この世界の彼の竜の遺骸は大昔に絶命して以降、湖水地方の最奥にて骨だけの化石として存在している。
そしてランスロットは自身は右腕から誕生したと言っていた。
だがノクナレアの知る限りランスロットの存在が世に知れ渡り始めたのは今から約88年前であり、『メリュジーヌ』として生活していたのも正確な年数は把握してないがそれでも数百年前だ。
無論その時点でも元のアルビオンは骨だけであり肉体は欠片も残ってなどいない。
故にこそ新たに疑問が生じた。元の肉体が無い筈なのに何故右腕という肉体から誕生したのか、そしてそれが本当なら如何なる理由が原因でそうなったのか。
「うーん、ここまで話した以上は答えてあげたいところではあるけど…すまないが、それに関しては話すのは無理だね」
しかしそんな二翅の期待に反して、当のランスロットはその真相を話すことを拒否した。
「へぇ、それはどうして?」
「理由は単純、そんなに大した話じゃないから。ま、どうしても知りたいなら僕ともう少し信頼を置き合える関係になってからもう一度聞くといいさ」
理由を聞こうにも彼女は適当に言いくるめてまともに語ろうとしなかった。
どうやらランスロットが誕生した原因と経緯を聞くには今よりも彼女との信頼関係を深めなくてはならない様だ。
(…妖精眼を使っても事情の全容が把握できないな。まぁ私の場合は感情の色が判る程度だし仕方ないと言えば仕方ないけど……)
一応、ランスロットに悟られない様に妖精眼を発動してみたものの、メリュジーヌのそれは残念ながら思考を覗き見ることまでは出来ないので、結局事の真相はわからずじまいに終わった。
「けど、これで僕がどういう存在かは概ね理解できただろう?こうして話す気になったのも君が僕と同じ顔、同じ声、そして同じ“名前”を持っていることに親近感が沸いたからね!」
「…同じ名前ってことは、それ即ち貴方の
「うん、そうだね。
それ故に間接的に自身の真名がそうであると認めたとしても名前を言われさえしなければまだ
現にランスロットに取ってはアルビオンという名は確かに真名ではあるがどちらかと言えば『メリュジーヌ』としての側面が強いので、自分から名を告げたところで
「あれ、でもそうなら何でそれが貴方の真名になっているんだ?貴方の正体はアルビオンの筈だろう?」
「言っただろ、僕はそのアルビオンの右腕であってアルビオンそのものではない。従ってその名前こそが
アルビオンはランスロットの前身であり、言い方を換えるなら生まれ変わりである。
何なら記憶もある程度ながら引き継いでいるが、ランスロットはメリュジーヌという一個体として泥沼より生まれた時点で成立している。
即ち、かつてのアルビオンと今ここに存在している彼女は同質ではあるが同一存在ではない。
故にこそ眼前にいる彼女と同じ―――『メリュジーヌ』という名も偽名でこそあるものの、悠久の時を生きたアルビオンではないアルビオンであるランスロットからすれば『もう一つの真名』と言って差し支えないほどに切っても切り離せない大切な“個性”と化しているのだ。
「まぁ、そういう訳でこれからも僕のことは変わらずランスロットと呼んでほしい。
「あ、うん。確かにその方が無難だね…」
(……アルビオン…そうか。彼女があの伝説のアルビオン、なのか……)
メリュジーヌに取ってアルビオンは、人間で言う坂田金時やアーサー王の様な創作上のおとぎ話や伝承――――より正確に表すと『実在していたかもわからない遠い存在』というのが彼女の中での固定観念だった。
しかし今し方聞いた話が事実なら、そんな夢幻の如くあやふやな印象だった伝説的存在が、違う世界とはいえ目の前に現実として立っている事を意味する。
「ふーん、そういう事情なら私も呼び方には一応気をつけようかしら。あ、でもモルガンとはいずれ敵対する関係にあるわけだし、ここで敢えて真名で呼びまくって
「はははは、それは度胸があっていいじゃないか!ただそれを実行する頃には発言する為の喉が掻き切られてるだろうけどね!……うん、この下りさっきもやったな」
そしてそんな伝説的な存在が、こうしてノクナレアと軽口を叩きあって他愛ない会話をしている。
違う世界―――加えて本人ならぬ本竜そのものではないとはいえそうした人間臭い振る舞いをする様子は、遠い存在である故に自分たちみたいな並の知性体には理解できない思考・価値観を備えているのではとこれまで想像していたメリュジーヌに取って意外が過ぎるものであり、彼女がアルビオンだと言う実感と認識があまり沸かなかった。
「…あ、そう言えばさ。君さっき会場で僕に話し掛けられる直前に気になる妖精が云々とか言いかけてなかったかい?」
そんな少々複雑な感情に浸っていたメリュジーヌにふと思い出した様にランスロットが問いをぶつける。
「あら、言われてみれば確かにそんなことも言ってた覚えがあるわ。どうなのメリュジーヌ?」
「ん…ああ、そうだね。しっかり盗み聞きしてたんだ」
「ふふ、そういう耳の良さも僕を最強たらしめる要素の一つだからね。それで、どんな妖精なんだい?」
「うん、確か………」
自身が見た妖精の容姿を二翅に伝える。程なくして説明を終えたメリュジーヌだが、それを聞いた二翅は彼女の言う妖精が何者なのかがすぐに思い当たった。
「長く赤い巻き毛に薔薇のブローチが特徴の黒いドレス、ね……。ランスロット」
「ああ、間違いない。汎人類史のメリュジーヌ、君が見たその妖精はバーヴァン・シーだ。それも君と同じ―――“汎人類史側”の妖精だね」
「え。バーヴァン・シー…しかも汎人類史側って、あれが…!?」
今日に至るまでの一年。メリュジーヌはノクナレアからこの世界の事情の説明を受ける中で妖精騎士ユーウェイン―――自身と同じく汎人類史側の存在であるバーヴァン・シーのことについても話を聞かされていた。
「そんなに驚くほどでもないじゃない。私達という大物だってこうして赴いているわけだし、何より人物画や顔写真で容姿は確認してるでしょう?」
「いや、そうだけど私が知っているのは緑色のドレスであって―――あ。なるほどつまり、あれはこの舞踏会用に拵えた衣装ってことだったのかな?」
「まぁ、大方そうだろうね」
実のところ、赤髪の巻き毛が目に入った時点でメリュジーヌも薄々わかってはいたのだが、今し方本人が言った様に自らが記憶している容姿と違っていたので他人の空似だろうと勘違いしてしまっていたのだ。
「ん?でもちょっと待って。何で貴方達は私の見たそれが汎人類史のバーヴァン・シーだって断言できるの?」
尤もな疑問だった。衣装が違うからと言って断言できる要素などないし、ノクナレアやランスロット側からすれば寧ろこの世界のバーヴァン・シー―――妖精騎士トリスタンだろうと思っても不思議ではない筈だ。
「それについては私が説明するわ。事前にムリアンに聞いたのだけど、実はトリスタンは今回の舞踏会には参加していないのよ。理由に関しても『他にやるべきコトがある』ってだけでよくわかっていないの」
「ノクナレアの言う通り、彼女はそういう適当にも思える事情で舞踏会には来ていない。よってそんな彼女と丸っきり被った特徴を持った妖精なんて汎人類史側のバーヴァン・シー、もといユーウェインしかいないから断言できたってだけのコトさ」
「な、なるほど…?」
取り敢えず断言した理由については判明したが、メリュジーヌはまだバーヴァン・シーどころか主催者のムリアン、その他妖精騎士や氏族長も顔写真等の一般的に公開されている情報しか知らない。
それ故彼女らの人物像は殆ど把握していないのでいまいちピンと来なかった。
「…何か、断言の理由はわかったけどそれはそれとしてまた疑問に思う所が出たって感じの顔だね。それならこれから本翅に会いにでも―――」
『―――えーこんばんは、会場にいる皆様方。この度も私ムリアンが主催する舞踏会にお集まりいただき誠にありがとうございます』
「「「!」」」
ランスロットが気軽に提案しようとした瞬間、唐突にムリアンの館内放送が流れだし一同は何事かと反応する。
それからしばらくして放送は続いたが、どうやら内容わ聞くにたった今話題にしていたユーウェインを3階の鐘撞き堂という場所に招き入れるらしい。
「…さて、どうするかしら?こっそり行ってみるかどうかは盟友である貴方の判断に委ねるわ、メリュジーヌ」
「僕は行ってみたいかな。ムリアンが特定の誰かを名指しで招待するなんてかなり珍しいし、興味を誘われるね」
ノクナレアはどちらでも構わず、ランスロットは行きたがっている。
そんな二翅の前でメリュジーヌは今しばらく考えた末に選択した。
「うん、行ってみようか。正直私としてもユーウェイン…汎人類史のバーヴァン・シーがどんな妖精でどんな人物なのか気になるし、何より同じ汎人類史の同胞として出来れば顔を会わせたいしね」
「まぁ、立場上の問題でその同胞とはいづれ敵対する事になるんだけどね。ただ貴方がそう判断したなら私達もとっとと行きましょうか」
「ああ、そうだね。君のその決断に僕は嬉しく思うよ」
かくして、次に取るべき行動は決まった。三翅は部屋を後にし、ユーウェインが誘われて行ったであろう3階の鐘撞き堂へ足を運んだ。
「ふふ、こんなこともあろうかと持参してきておいて正解だったわね。はいコレ」
道中、ノクナレアに舞踏会などによく使われる仮面を渡された。彼女によると3階は普段はオークション会場として使用されており、参加者は素顔がバレないようコレを付けることを義務付けられているらしい。
「さ、会場はもう目の前だ。…それにしても本当に何でユーウェインが呼ばれたんだろう?まさかとは思うが彼女を商品にしようとか目論んでいるのかな?」
「それは中々に笑えない予想ではあるけど、いずれにしろこの先に行けばわかることよ」
そして一行は参加者用の入場口を通り、オークションの会場内にさりげなく入る。
そこで彼女らが目にしたのは一面に広がる客席に座っている仮面を付けた妖精たち、天井から全体を照らしているスポットライト、そして――――――
「―――クソっ、すばしっこく動くんじゃねぇよ新参者のザコがッ!!!」
「―――ハッ、申し訳ないけど動くなと言われて動かないほど
二つの赤い華が、その