Fate/Viridian of Vampire   作:一般フェアリー

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ブトウの閉幕

「…………凄いな、彼女」

 

赤い華たちの闘いの行く末を見届けたランスロットが、密かに会場に忍び込んでから初めて口を開く。

 

驚くのも無理はない。どういう経緯で闘いになったのかは知るところではないにせよ、就任して僅か一年の新参も新参のユーウェインが現役70年のトリスタンを倒したのだ。

 

ウッドワスの元でトレーニングしていた事が一番大きいのだろうが、それでもこの結果には最強を自負するランスロットとて驚愕と感嘆を覚えずにはいられなかった。

 

「はぁ~…。確かに凄いけど、これまた将来的に厄介な奴が増えてしまったわね…」

 

「……………」

 

ノクナレアもランスロットの言葉に同意するが、同時に打倒するべき手強い存在がまた一つ出てきた事実に対し、つい溜め息を漏らしてしまう。

 

そしてメリュジーヌは―――観戦した余韻と、闘いにケリを着けた黒いドレスを纏った妖精を凝視し、何も喋れずにいた。つまり興味津々な心境にあった。

 

彼女らがこの会場に侵入してから約4分。中心で繰り広げられていた闘いは、ユーウェインがトリスタンを右ストレートで直接ぶん殴るという形で勝敗が決した。

 

「…………勝負は終わりよ。トリスタン嬢」

 

「がっ…かはっ…ぃ…!」

 

片肘をつき地に伏せるトリスタンを見下ろすユーウェイン。

彼女としてはこれでトリスタンが観念してくれればそれに越したことはない。共鳴による肉体への負荷が掛かっている現状もあって、よりその思いが強くなっている。

 

「ふ、ざげんな…っ!!何が、終わり、だ…!わだじはまだ、あぎらめで、ねぇぞッ……!!!」

 

が、やはりと言うべきか哀れと言うべきか。この期に及んで尚ユーウェインへの闘志と殺意を見せるトリスタン。

 

歯が欠け、鼻と口から血を垂れ流しながらも頬を押さえユーウェインを射殺さんとばかりに睨み付ける。

 

「だいだい…ごんなごとして、お母ざまがデメェに、何もじない、とでも…!」

 

「そんな楽観的な頭はしていないわよ。いくら正当防衛とはいえ仮にも女王の愛娘をブン殴ったんだし、相応の処罰は受けるでしょうね。ま、そんなのはとっくに覚悟の上でやったんだけど」

 

トリスタンの脅しに淡々と答えるユーウェイン。そもそもトリスタンから闘いを仕掛けられた時点で、彼女の中での正当防衛をすることによって生じる(責任)と、それを請け負う覚悟は決まっていた。

 

「わかったらそろそろこんな()()()()()()は止めて退かれては如何です?どうせまた後日、キャメロットで顔を合わせることになるでしょうしね」

 

「っ……下らない、だと……?」

 

ユーウェインのその発言がトリスタンの神経を逆撫でする。

 

「馬鹿にすんのも…大概にじやがれ……!」

 

自分は今まで母の言い付け通り悪逆に振る舞い、何をするにしても真剣にやってきた。

だから今回もムリアンと裏で画策し、目の前にいる生意気な新参者を叩きのめすべく真面目に、悪辣に努めた。

 

それをこの新参者は、あろうことか“下らない闘い”と一蹴したのだ。自身が優位に立てているのを良いことに。

 

なんたる屈辱。なんたる侮辱。許さない―――許せない…!!

 

「偉ぞうに…上がら目線で、ほざぐんじゃねぇええ!!!」

 

今すぐに黙らせんという怒りと共に爪の一撃を放つ―――が、そのなけなしの一撃がユーウェインの喉元に届くことは無く、直前で見えない壁の様なモノに阻まれた。

 

「!?」

 

『―――トリスタン様、私としてもここいらで切り上げられた方がよろしいかと。ユーウェイン様の仰る通り貴方がそうして地に伏せられた時点で決着です』

 

直後、ムリアンの声が放送越しに会場内に響く。

彼女はこの件におけるトリスタンの協力者であり、同時にオークション会場の運営もしている。

 

即ちこうして彼女が介入した時点で、今回のオークションは終了を意味していた。

 

「なんだよ、ムリアン…。アンタまでコイヅが私より強いっで言うの…!?」

 

『いえ、とんでもない。確かに今回の闘いはユーウェイン様の勝ち、と私も断言せざるを得ません。しかしほら、彼女の状態を見てください』

 

そう言われてユーウェインを見やると、堂々と立ってこそいるが随分と苦しそうな表情をしており、汗がタラタラと顔や腕の皮膚を伝っていた。

よく見ると瞳の色も鮮血の様な赤から元の灰色に戻っている。

 

『ご覧の様に、彼女は瞳の色が戻ると急激に身体が衰弱します。これは無理な身体能力向上をしたことによる代償です。どうやらユーウェイン様は『共鳴』と名付けているらしいですね?』

 

「は…はぁあ……?何で知ってるんですか……?」

 

いつの間にか共鳴のことを知っていたムリアンに、疲労と脱力に襲われながらもユーウェインは心底恐怖する。

どうやら彼女が想定していたよりムリアンの情報網は規模が大きく異常らしい。

 

『それは秘密です☆ ……とまあこのように実際は余裕など一切ない、運に運が重なった故のギリギリの辛勝だったという訳なのです』

 

つまりですね、と一つ間を置いてムリアンはトリスタンへ説明を続ける。

 

『貴方が出し惜しみせずに最初からその即死技を使えばそれでもう勝負は終わっていました。従って今回ユーウェイン様が勝たれたのはただの“マグレ”、てコトですよ』

 

「……つまり、ゴイツは運で勝ったっでだげで、私がコイヅより弱ぇワゲじゃねぇ……って言っでんだな?」

 

『ええ、仰る通り。…どうです?納得していただけましたか?』

 

口元と鼻を押さえながら問い掛けるトリスタンに、粛々と肯定するムリアン。

 

それを受けたトリスタンは今しばらく沈黙し、気に食わない様子でユーウェインを一瞥すると、その重い口を開く。

 

「………ハッ、いいぜ。今回はムリアン、アンタの口車に乗せられでやるわ。もの凄く癪だけど……お望み通りこごらで、諦めてやろうじゃない」

 

ムリアンの言葉により、トリスタンは一度冷静になって考えた。

 

この空間が彼女の妖精領域に支配されている以上、幾らユーウェインに攻撃しようがその悉くを無効化されるだろう。

 

それに油断して負けたからと何時までも癇癪を起こすというのは、ハッキリ言って國の未来を統べる女王として相応しくない振る舞いだ、と彼女なりに割り切りを付けたのだ。

 

『納得していただけた様で何よりです。それでは早くお帰りになられてモルガン陛下に看てもらうといいでしょう。ついでにそのまま今回の件も報告されては?』

 

「フン……言われなぐても、そうするづもりよ」

 

少しよろけつつも立ち上がり、トリスタンは常時持参している水鏡を取り出してその場を去ろうとする。

 

その間際、ユーウェインを横目で睥睨した。

 

「―――じゃあな、煽ることど運しが能のないクソアマ。精々お母様がら罰せられやがれ」

 

そう吐き捨てると彼女は鏡の向こうへと姿を消した。ユーウェインはそれを確認したあと、張り詰めていた緊張状態を解く。

 

「…ふん、一言多いのよ。口の悪いマザコンめ」

 

息を乱しつつ自身も申し訳程度の軽口を叩く。間一髪だったが、一先ずは生き延びる事ができた。

事が終わった以上、すぐにでもホープたちの下へ戻りたいが、まだ共謀者であるムリアンがいる。

 

(…トリスタンはこの場を去った。ならオークション自体も続ける理由はないと思うけど、ムリアンの次の行動によってはまだ体を酷使しないといけないわね……)

 

そう考えたユーウェインは再び警戒状態に入り、この後のムリアンの出方を伺おうと注視しようとする―――だが。

 

「あ―――れ?」

 

不意に視界がぐらつく。続けて頭に血が回らない感覚を覚える。

平衡感覚はおかしくなり、足に力が入らず重心も不安定になり姿勢を保っていられない。

全身を脱力感が襲い、地面が目の前まで迫ってくる中、ユーウェインはその原因がすぐに思い当たった。

 

(あぁ…そういえば、普段よりも少し長く…共鳴を使ってたわね)

 

ガウェインの時といいウッドワスとのトレーニングといい、これまでも何度か発動させてきた彼女だが、実を言うと一分以上継続させた事は一度もなかった。

 

彼女の扱う共鳴はただの身体強化ではなく、普段無意識に抑えられている力の枷を外す権能…所謂『リミッターの解除』である。

 

通常、生物は自分の意思とは関係なく脳の制御で限られた力しか発揮できない。理由は単純で、それ以上の力を発揮すると肉体に大きな負担が掛かり、場合によっては死んでしまう事さえあるからだ。

 

そしてそれは例え一分だろうと肉体へのダメージは凄まじく、決して軽い程度で済むものではない。

しかし今回の場合トリスタンの強襲に抗う為とはいえ、彼女はそんなハイリスキーな状態を約5分間も継続していた。

 

であるならば、それを解除した際に襲い来る反動は如何ほどか―――彼女が人外の域にある妖精騎士、ということを考慮しても推して知るべきであろう。

 

(しかも……重傷を負ってた時に…強引に発動させたから、より負担が掛かったの…かな…)

 

更に言うと発動したタイミングもタイミングである。

直前に軽く呼吸(マナ補充)したとて、半分瀕死の状態から強引に再起したのだ。

その際の消費エネルギーも補充した分を上回っており、刺さっていたトゲも吸収して、ようやく何とか発動させるまでは間に合わせる事が出来ていた。

 

尤も―――今の状況を見ると、結局は付け焼き刃に過ぎなかったのだが。

 

(あーーーー………。まっず……なんも、かんがえられ…ない…)

 

体は地に倒れ伏し、目に映る世界は霞が掛かった様にボヤけ、歪んでいく。

 

耳に入ってくる周囲のざわめきが段々と遠くなる中で―――微かに自分の名前を叫んでいる声が聞こえた。

 

(…あぁ……この声…また、心配かけさせて……しまう、わね………)

 

酷く聞き覚えのあるその声に少し申し訳なさを感じつつ、吸血鬼は静かに意識を闇に手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……っ…んぅ…?」

 

「おや、ようやく起きられましたか。ユーウェイン様」

 

闇から意識が浮上し、徐々に明瞭になってきたところで瞼を開ける。

 

何やら声がしたので、振り返ると何故か今回の主犯の一翅であるムリアンがいた。

 

「えっと…ムリアン、殿?ここは―――」

 

「ユーウェインさんっ!!!」

 

「うぉっ!?」

 

目が覚めたユーウェインが周囲の状況を確認しようとした瞬間、何者かが物凄い勢いで彼女に突っ込み、包容する形でそれを阻止する。

よく見ると飛び込んできた者の正体はホープだった。

 

「う…うぅ……よかった、本当によかった……!」

 

「ほ、ホープ…?何をそんな泣いて………あ」

 

彼女の安堵の涙を見て、自分がどうして眠っていたのか―――その経緯を思い出す。

 

(あぁ…そうだったわね………)

 

ホープが涙を流す理由を理解したユーウェインは、今一度謝罪の言葉を伝える。

 

「……ごめんなさい。私、貴方にまた心配かけさせてしまったわ」

 

「っ…ほんと、ですよ…!私を、私たちを守る為なのは痛いほどわかります…。でもだからって、どうして無理をするんですか…!!」

 

…返す言葉が無かった。思えばモルガンの時も身を挺して庇って無茶をし、一歩間違えればホープたちと諸ともに死んでしまっていた。

 

その時といい今回といい、共鳴の権能があったからどうにか乗り越えたものの、見方を変えればその力に頼りきりの綱渡りに等しい道をこれまで辿ってきたのだ。

 

「……お願いですから、どうか無理だけはしないで。私たちを守る為でも、その度に貴方が危険な目にあって、こうして死にかけるなら――――――私は、ちっとも安心なんか出来ません」

 

「――――――」

 

ああ、言われてみれば確かにそうだ。どうして気づけなかったのだろう。

 

如何に彼女たちを守ろうとしたところで、そうしようと尽力しすぎた結果死んでしまっては元も子もない。

 

彼女たちを守れるだけの力と地位を持つ盾である以上、どうすれば危機的状況をなるべく安全に打破できるかを冷静に考えるべきであって、断じてその場しのぎに無茶を晒すなどというのは間違ってもしてはならなかった。

 

(本当、何でこんな単純かつ重要なことも頭に浮かばなかったのかしら。…とんだ薄情者ね、私は)

 

目の前で泣いている少女の気持ちを汲み取れず、ただ『自分が頑張れば彼女たちを安心させられるだろう』という身勝手な考えに囚われ、己の身を大切にしてこなかった事実に自嘲する。

 

「…ええ、わかったわ。今回で反省して、次からは無茶をしないと約束するわ」

 

彼女のお願いを聞き入れ、約束をする旨を伝える。

―――“絶対に”とは付け加えずに。

 

「本当に、本当にですよ?もし破ったら、許しませんからねっ…」

 

「あ、その気持ちわかりますよー。私も契約の内容を破る方には心底嫌気と吐き気を催しますしね~」

 

と、ここで厭に明るい声色が場に響く。声の主は先ほどから温かい顔でユーウェインとホープのやり取りを見ていた。

 

「……そういえば、何で貴方がこんな所にいるんです?」

 

「いえ、貴方が倒れた時に私の部屋まで運んだんですよ。正直倒れるのは予想できた事だったんで、すぐに対応できましたけどね」

 

「…あまり偉そうなことは口にしたくありませんが、予想できた事ならもう少し対応を早めて欲しかったですわ」

 

細やかに不満を言う彼女にノータッチでムリアンは淡々と説明する。

 

あの後にユーウェインが倒れるのを見たホープとエインセルが一目散に駆け寄り、容態を確認したエインセルがムリアンに手当ての協力を申し出た。

 

ムリアンとしてもここで助けない事で自身のイメージ悪化に繋がるのは極力避けたいので、これを二つ返事で承諾。

場所的に最寄りで都合のいいマイルームを選び、そこで約10時間経過した辺りでユーウェインが目覚めて今の状況に至る。

 

「それにしてもこんな短時間で目覚めるとは、流石は妖精騎士と言うべきですね。てっきり丸一日は起きないと思ってましたよ」

 

「それはどうも。………ところでエインセル殿は今どちらに?」

 

ホープ以外のもう一翅の同行者である、鏡の氏族長エインセルの所在を問う。

 

「ああ、あの方なら20分前にある方々が接触してきたのでその対応にあたってます。おっと、一応言っておきますけど物騒なコトではありませんからね?そこは御安心…」

 

「すいません、ただいま戻りました!」

 

ムリアンがユーウェインの質問に答えている時、噂をすればと言わんばかりに当人が部屋に入ってきた。―――三名の客人を招いて。

 

「ああエインセル殿―――って、貴方たちは…」

 

「やぁ、御無沙汰だねユーウェイン。トリスタンとの闘い、素晴らしかったよ」

 

「こんにちは。謁見の時以来ね、覚えてるかしら?」

 

三名の内、一翅目は最初に出会った妖精騎士で今も時折世話になっているランスロット、もう一翅はモルガンとの謁見で見たノクナレアで、ユーウェインと面識がある者らだった。

 

「…初めまして。貴方が妖精騎士ユーウェインだね」

 

だが―――二翅の前に出てきたもう一翅の妖精は彼女の記憶にない、初めて顔を合わせる者だ。

 

紺色の翼に蛇の胴体の様な下半身を備え、何より彼女が目を引いたのはランスロットとほぼ同じ顔つきをしているという点である。

 

「……えっと、何者なんです、貴方…?」

 

「まぁ驚くのも無理ないよね。私だって同じ状況に会ったらそういう反応を取らざるを得ないし、現にこの人の顔を最初に見た時は頭がハテナで埋め尽くされちゃってたよ」

 

彼女はランスロットに手を向けながら、ユーウェインの問い掛けにやけにフレンドリーな口調で答える。

 

「それじゃあ早速自己紹介と行くけど、私はメリュジーヌ。貴方と同じく汎人類史からこの世界に迷い混んだ『漂流者』さ」

 

それから彼女…メリュジーヌは自身がここに漂流してからの経緯、そして何故こうしてユーウェインに接触してきたのかをある程度簡略しながら説明した。

 

「…つまり?最初にノクナレア殿と知り合ったのを切っ掛けにこの世界についての大まかな事情を知って、舞踏会で同じ汎人類史から来たこの私を偶然見掛けたから、元居た世界の同胞として興味を持った……と?」

 

「概ねその通りだね。ただ、もう一度その姿を見ようと会場に侵入してみればなぜかトリスタンと闘ってたから正直驚いたよ。その後にまさかの勝利を収めたのはもっと驚いたけど」

 

どうやら彼女らもちゃっかり会場に来ていたらしい。いくら同じ世界の同胞だからって顔も合わせていない相手によくそこまで興味が沸くわね、とユーウェインは呆れとも感心とも言えない気持ちを覚える。

 

…そう言えばさっきランスロット殿もトリスタンとの闘いは素晴らしかったと言っていた。ということは恐らくノクナレア殿も含めて皆して見ていたんだろうな、と彼女は察した。

 

「…はあ、そうですか。それで、私に会うという目的はこうして達成された訳ですが、今からはどうされるんです?」

 

「どうするも何も、ただ貴方と色々話し合いたいかな。私と貴方はまだお互いを何も知らない関係なんだから、これを機に少しでも知り合って親睦を深めたいのさ」

 

親睦を深めたい。そう言うメリュジーヌにユーウェインは特に何も思うことは無かった。

 

彼女からすればメリュジーヌはたった今面識が出来たばかりの赤の他人だ。

 

最初こそその顔に驚きを隠せなかったが、冷静になって考えるとこれと言って興味が沸いてくるという訳でもなく、現時点ではあくまで『同じ元汎人類史在住の妖精』に過ぎない。

 

「ふーん…。まぁ別に貴方がそうしたいなら私は構いませんけど、私の事を知ったって面白くないかもしれませんよ?」

 

ただそれ故に、ユーウェインとしては話し合うも合わないもどちらでも良かったのでメリュジーヌの目的を拒絶する理由は全く無かった。

 

「大丈夫、面白いか否かはあまり関係ない。重要なのは親睦を深める事だからね。話し合うことそのものが大切なんだよ」

 

一方、メリュジーヌに取っては話し合いに限らず、コミュニケーションを上手く取り合う行為自体が重要だと言う考え方を持っている。

 

そもそもこうしてユーウェインと仲と築こうとしているのは純粋に彼女に対する興味が主であるが、それはそれとしていずれ来るであろう“その時”に此方側へ引き込みやする為の細やかな戦略でもあった。

 

「あ、それと敬語は使わなくて結構だよ。私、堅苦しいのは好きじゃないからね」

 

「ん…そうなのね。じゃあ御言葉に甘えてフランクに行かせてもらうけど、何か知りたい事とかある?」

 

「うーん、そうだね。それじゃあまずは…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それからと言うもの彼女らは時間を忘れて他愛のない話をし続け、やがてゆっくりとなら何とか自力で動けるくらいにはユーウェインの体調も回復した。

 

そして夕暮れが近くなった時、彼女らは館の入り口付近に立っていた。

 

「痛っ……チッ、まだ節々が動かす度に若干響くわね…」

 

「ええ、まだとても万全とは言えないので帰られてからもう暫くは安静にすることを奨めます。街の入り口付近でウッドワスがオックスフォード行きの馬車と共に待っていますので、どうかお大事に」

 

「ハッ、トリスタンと誰かさんの所為でこうなってるってコトを少しは理解してほしいものですよ」

 

さも関与していないかの如くしらばっくれるムリアンに軽口を叩きつつ、ホープとエインセルに支えられて馬車に乗り込む。

 

因みにメリュジーヌたちは目的を達成したので一足先に帰路に着いた。

 

『機会があればまた会おう!というより暇な時にこっちから行くよ!』と言っていたが、彼女の立場を考えると暇な時などまず存在しないだろうとユーウェインは心の中で突っ込んだ。

 

(…ま、邪な気は一切感じなかったし、少なくとも悪い奴ではないんでしょうけどね)

 

「あ、それと最後にもう一つ」

 

「…?何ですか?」

 

まだ何かあるのか。そう思いムリアンの次の言葉を待つ。

 

「私がトリスタン様と組んで今回の件を画策したのはですね。グロスターというこの街の楽しさと残酷さを知ってもらいたかったのです」

 

彼女の治めるグロスターはただの娯楽繁華街ではない。

買い物や食事といった一般的な娯楽もあれば、珍しい人間や妖精などをオークションの商品とした人身売買、今回の様に殺し合いでどちらが勝つか負けるかを賭けた賭博などの倫理の欠けた娯楽もある。

 

そうした正も負も、あらゆるものを娯楽として利用している事こそがこの街―――グロスターの妖精國における唯一無二の特徴だと、ムリアンはユーウェインという『お客様』に知って欲しかったのだ。

 

「楽しさと残酷さ…。つまり何です、貴方なりに領主としてこの街の魅力が何たるかを実際に体験してもらう形で伝えたかったと?」

 

「正しい解釈、流石でございます。ええ、ですので別れ際にこの言葉を残しておきましょう」

 

そこまで言うとムリアンはより一層柔和に見える笑顔で、ユーウェインに“お見送りの言葉”を届ける。

 

 

 

「―――私めが治めるグロスターでの此度の体験。如何でしたか、お客様?」

 

 

 

「―――ええ。それはそれはとびきりに『サイアク』でしたわ、領主様!」

 

 

 

 

こうしてユーウェイン――――――汎人類史のバーヴァン・シーに取って初めてとなる、妖精國ブリテンでの舞踏会と武闘劇は閉幕を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふーん、アイツが最近就任したって言う妖精騎士サマなのね。ホントにトリスタンと瓜二つじゃない…」

 

 

 

ただしこれが機となり、彼女は新たな出会いと『悲劇』に遭遇する事になるのだが、今はまだ知る由も無かった。

 

 

 

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