Fate/Viridian of Vampire 作:一般フェアリー
澄み渡る橙色の空模様。その下の大地で激しくぶつかり合う二つの影がいた。
「ふっ、はっ!ぜぁっ!!だぁあぁッッ!!!」
「まだまだ遅い!もっと早く、正確に!」
その正体は第四の妖精騎士ことユーウェイン、そして最強の妖精騎士たるランスロットであった。
舞踏会の一件から三日後、モルガンの招集命令でユーウェインはウッドワスと共にキャメロットへ出勤。
そこで既にトリスタンから事情を聞いていたモルガンが彼女を問い詰め、ユーウェインは事の経緯をそのまま話した上で自身がした行動の罪と咎を容認。
その潔さのある態度と供述の内容から、モルガンは情状酌量の余地自体は十分にあると判断。
一先ずは娘に対する此度の対応を反省するよう注意し、
因みに件の内容を聞いたウッドワスは自領の邸宅に帰還するなり『陛下からの罰をもらったのは愚かではあるがよくやった!!!』と上機嫌にユーウェインを絶賛。
どうやら普段から仲の悪いトリスタンが自業自得で痛い目を見たことに相当愉快になったらしい。
『はっははははははは!!これで奴も自重するということを少しは覚えただろうよ!!』
『(よっぽど彼女の振る舞いに不満が溜まってたんだろうなぁ)』
それからの間は彼女は普段と変わらずウッドワスを監督としたトレーニングを続け、偶にやってくるメリュジーヌと猥談もしながら月日を過ごし、翌年に謹慎処分の期間を無事終える。
期間を終えてからのモルガンとの顔合わせも済ませ、いざ自由に歩き回れる様になったところで唐突にランスロットが接触。
曰く、期間が終了したらその記念として軽く挨拶しておこうと前から考えていたらしい。
これを聞いたユーウェインは、今の自分の実力がどこまでランスロットに迫れるかに興味が沸かないこともなかったので、これを快く承諾。
かくしてユーウェインは小手調べかつ油断はせずに、ランスロットは一先輩として指導するつもりで試合に臨み、そして今に至る。
「……うん、しばらく小競り合ったけど今はまだこの程度か。じゃあ――――――終わりにするよ」
その時、ランスロットの姿がユーウェインの視界から一瞬で消え失せる。
彼女は即座に反応し、周囲を警戒する―――と同時に背後から腕を回され、喉元に
「っ………!!」
「さ、どうする?このまま喉を裂かれるか、それとも潔く負けを認めるか、君の判断に任せるよ」
「……私の、負けです」
一瞬の決着だった。あのガウェインより強い妖精國最強の騎士と言われている時点で、少なくとも敗北は必至だろうと察しは付いていた。
だがこうもあっさり一本取られてしまうと、覆しようのない隔絶された実力差の壁に一周回って笑みさえ浮かべてしまう。
先のトリスタンとの闘いも彼女に取ってはネズミとリスが必死に背比べしているに等しい、低次元の争いだったのだろうとユーウェインは痛感した。
ただ実際はそんなユーウェインの考えに反して、その時のランスロットはつまらないと思っていたどころか驚愕さえしていたのだが。
「…本爪が側におられる手前、こう言うのは恐れ入りますけど………貴方、ウッドワス殿より強いんじゃないんですか?」
そう言って先ほどから彼女たちの試合を観ていたウッドワスを横目で見ながら、ランスロットに手を向ける。
「おい貴様、馬鹿を言うな。確かに単純なスピードだけならランスロットが上だろうが、それ以外は軒並みこの私が上回っているに決まっているだろう」
これにウッドワスは即座に異を唱える。彼とて六氏族最強の牙を束ねる長であり、同時に女王が信頼するこの國随一の右腕である。
その
「此奴が最強なのはあくまで妖精騎士の中ではの話だ。このブリテンにおける最も強い者は陛下を除けばこの私以外に存在せぬ。そうだろう、ランスロット?」
「…まぁ、そうだね。確かに君は『僕』より強いし、そう考えると文字通り妖精國最強だ」
堂々と己が最強だと自負しながら同意を求めるウッドワスに、彼女は
(なんか、普通に話してるけど……気のせいかしら?心なしか威圧に近い重苦しさを感じるわ…)
一連のやり取りを見ていたユーウェインは、何故か両者から若干ながら圧を―――近い表現をするなら『ここまでは譲るがそれ以上は認めない』と言う様な強い意思を感じ取る。
が、それについて下手に口を出すと何か面倒な事になりそうなので、敢えて突っ込むまいと判断した。
「…フン、まぁそれはそれとしてだユーウェイン。今の貴様はランスロットには先の通りにまだ手も足も出ないが、このまま更に鍛練を積み上げて行けばガウェインと同じ域に達する…否、凌ぎさえするやもしれんな」
「! それは……」
ウッドワスの評価に微かに驚きを見せるも、直後にそれは果たしてどうなんだという疑問が沸く。
何せ前に一度挑んだ時には共鳴しようと何をしようと、その一切が通用することなく一方的に魔力食いで意識を刈り取られたのだ。
勝てるビジョンが全く浮かばないという点ではランスロットも同様だが、彼女の場合は先ほどの様にあくまで向こうの気分で半ば強制的に負けを認めさせられたに過ぎない。
しかしガウェインの時は手加減など一切ない、全力を出しきりに出しきった上で苦い大敗を喫したのである。
その事実もあり、自身が彼女を越えるどころかそもそもまともな闘いが成立するかさえ怪しいとユーウェインは訝しまずにはいられなかった。
「何か若干顔が曇ってるけど、あまり気負うことはないよ。ウッドワスの言う通り、君にはまだまだ相当なポテンシャルが秘められている。そもそもあの舞踏会の時点で辛勝とはいえトリスタンを打ち負かしてるんだ、ガウェインだってその内越えられるだろうさ」
そんなユーウェインを見かねてランスロットがフォローを入れる。
現に今しがた行った試合でもユーウェインの動きは舞踏会の時と比べて更に速く、正確さとキレに磨きが掛かっている。
少し視力を集中させれば相変わらず止まって見えるが、完全な意識外からの不意打ち――――――例えば寝ている時にこの威力と速度の一撃を食らえば、流石の自身でも無傷では済まないだろうと言う確信を覚えた。
「…本当に、越えられるんですかね?私あの方に手も足も出し尽くした上でボロ負けしたんですけど、その影響で言ってしまうと恐怖心に近い不安を抱いてるんですよ………」
「最強の僕が言うんだ、必ず越えられるとも。寧ろその辛い敗北の経験を糧にして強くなることが大事だよ。注意すべきはそうやって消極的に考えないことさ」
それでも怪訝な気持ちが抜けない彼女に対し、先輩として諭す様に優しく言い聞かせる。
分身とはいえ、竜の始祖たる自身でさえその様な確信を覚えさせられるのだ。
ウッドワスも言っていたが、そう遠くない内に……具体的に言うならあと5年もすれば真っ向から撃ち合える程には成長するだろう。
「ああそうだ。私からも言うが、物事を否定的に考えるのは実際のパフォーマンスに小さくない影響を与えてしまう。それが肉体面に関わることであるなら尚更だ」
似た様な…というよりほぼ同じ現象が思い込みによって生じる結果の差である。
物事に対して肯定的に考えて取り組むなら人並み以上の成果を出しやすく、反対に否定的なら人並み以下の失敗を起こしてしまいやすくなる。
転じてユーウェインが否定的である限りガウェインを越えることはあり得ないので、まずは自信を持って肯定的になってもらう必要があった。
「まぁけど、今すぐには気持ちを切り替えられは出来ないだろうし、これから少しずつ自信を身に付けていけばいいさ」
「其奴の言う通り、これを機としてこれからは精神面も鍛えてゆけ。尤も、これまでを振り返ると貴様は元より心が強い方だ。故に私や此奴の想定より早くその恐怖心を克服するかもしれんな」
二翅とも、ユーウェインがガウェインに対する不安と実力の壁を乗り越えられる可能性を疑わなかった。
それが意味するところは即ち、それだけウッドワスもランスロットもユーウェインの将来性に期待と信頼を寄せているということだ。
「……わかりました。なら御二方の仰る様に頑張ってみます。助言していただきありがとうございます」
そしてその期待を前に変わらず否定的でいるのは気分が悪いし、それが原因で失望されるのだけは絶対に避けたい。
ならばここは素直に二翅の助言を飲み、吹っ切れた気持ちでガウェインを越えるつもりでトレーニングに取り組もう。
「うん、こういう時に素直になれるのは非常に評価できるね。それじゃ今後の目標も出来たところでこの場を去らせてもらうよ。やりたいことは済んだからね」
「ああ、帰って普段通りオーロラの御守りでもやっておけ。…それとだ、あと数十年後には貴様も此奴に対して余裕を見せられなくなると私は思っているぞ、ランスロット?」
「ははは、それは楽しみだ!もしそこまでの域に至れたら、その時は畏敬の念を込めて君の愛弟子を死なない程度にズタズタにしてあげるよ、ウッドワス!」
お互いに軽口を言い合った後、ランスロットはそのままソールズベリー方面に飛んでいき、ウッドワスもユーウェインと共に自邸へ戻る。
その中でユーウェインはある事を考えていた。
(…冷静に考えるとガウェイン殿を越えようが越えられまいが、大厄災に抗えるだけの実力に至れた時点で妖精騎士の基準としては十分なのよね……)
彼女自身少し忘れかかっていたが、妖精騎士の本分はいずれ来る大厄災から國を死守する事であって、決して他の妖精騎士との実力競争などではない。
(そう考えると問題は大厄災に抗えるだけの力がどれほど必要か、だけど……これは後々ウッドワス殿に聞いてみればいっか)
或いはこの手における彼以上のスペシャリストであろうモルガン陛下に直接訪ねるのもいいかも、と彼女は思った。
因みにその後ウッドワスに聞いてみたが『私に引けを取らぬほど強くなればまず大丈夫だ』と全く参考にならなかった。
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「…ふん、ここに寄るのも久しぶりね」
それから更に一ヶ月後。ユーウェインは再びグロスターの町へと足を運ばせていた。
彼女はそれまでもオックスフォードで延々とトレーニングし続けていたのだが、ウッドワスから今年に入ってから一度も休暇を取っていない事を指摘され『偶にはきちんと体を休ませることも大切だ』と注意された上で一週間の休暇期間を賜る。
そこで息抜きに丁度いい場所はないかと思っていたところ、そう言えばと娯楽の町グロスターの存在を思い出したので手頃な額を持参して訪れた次第である。
「さーてどうしようかしら。いざ来たはいいものの、特に予定は立ててないのよねぇ…」
少し悩んだ末に取り敢えず服でも買おうかと思い、一頻り服屋を出回り気に入ったモノを何点か購入する。
無論、他にも手を付けていき――――――
「うーん、このケーキ美味しい~!中にあるフルーツの瑞々しさがたまらないわぁ!他にはどんなのが……へぇ、このソフトクリームも悪くなさそうじゃない」
レストランでのスイーツ巡りで色んな味を堪能したり、
『ゲームセット!』
「―――よしっ!!クソが付くほど危なかったけどギリッギリで勝ったわっ…!」
チェス試合で一手一手に緊張が走るスリルな駆け引きをしたり、
「そぉれっ!………チッ、少し外したか。もっかい!」
コルフで正確に玉を柱に当てるまで何度も繰り返したり、これら以外にもオークションに参加してみたり馬上槍試合を観戦したりと、存分に心を軽くしてグロスター中を巡り回った。
「ふぅー、さっすが娯楽の町だけあって客を楽しませる事には余念が無いわね!…これで領主様の性格がもう少しマシなら尚いいんだけどなぁ」
昼過ぎまで遊戯三昧した後、彼女は手持ちの財布を見てしばらく睨めっこし、まだ散策を続ける余裕があると判断する。
(………………そろそろ、突っ込んでやろうかしら)
そして町中を歩いている最中に何を思ったのか、彼女は突然大通りを離れて人気の無い路地裏へと足を移す。
そのまま突き当たりまで進むと、ゆっくりと顔を来た道の方へと向け―――建物間の隙間に声を掛ける。
「ねぇ。コソコソ後をつけてないで、そろそろ姿を見せたらどうかしら?」
(――――――!?)
ユーウェインがその気配を察知したのは服を買い終わった時だった。
最初は少し違和感を感じただけに過ぎなかったがすぐに自分を尾行していると悟ったので、敢えて気づいていないフリをしながら相手を人気の無いところへ誘い出す算段を考え、そして実行したのだ。
「何者か知らないけど、さっさと姿を見せなさい。私をつけてるってことは、私が何者かもわかってるんじゃないの?…いえ、わかってるわよね?」
警告のつもりで声を低くする。今すぐに大人しく出てくればこちらからは何もしない、という意思表示である。
(えヤッバ、完全にバレてんじゃん!!すすすぐに出ないと…!!)
「わ、わかったわよ!わかったからそんなに恐い声出さないでちょうだい……」
如何に新参とて彼女もまた指折りの精鋭たる妖精騎士。
壁越しでも感じられる威圧感に気圧され命の危機を覚えたその者は、慌ててユーウェインの前へ姿を晒す。
「……へぇ。どんな奴かと思えば、顔は随分と別嬪さんじゃない」
現れたその者は人間ではなく、若い女の妖精であった。
シルクの様な白さを持ったウェーブの掛かった長い髪に、肌も陶器の様に色白で、しかし死人の如きソレではなく生き生きとした艶があるのが見受けられる。
顔付きは眉目秀麗と言ってもいいほど端正であり、金色に彩られた瞳も相まって、顔だけならユーウェインよりも吸血鬼の伯爵令嬢らしいと言ってもいい。
しかしその一方で、服装は黒を基調としたジャケットに同じく黒のショートパンツにニーソックスを履いていたりと、中世の特徴を色濃く残すこのブリテンにおいてかなり現代チックな装いをしていた。
「べ、別嬪って……いえ、それよりアンタ、いつから私の存在に気づいたの?」
そう聞いてきた妖精に、ユーウェインは今の状況に持ち込むまでの経緯を端的に話す。
「えぇ…。け、結構最初の時点で気がついていたのね…」
「そうよ。で、今度はこちらが質問するけど、何の理由があって私をつけていた訳?返答次第によっては相応の対応を取らせてもらうから、心して答えてなさい」
「そ、そんな脅さなくたってバレた以上は白状するわよ。妖精騎士サマの前で嘘つけるほどの度胸なんか私には無いし…」
そう相手は言うものの、ユーウェインに取っては嘘を付こうが付くまいが妖精眼でお見通しなので、この時点では然程信用していない。
そして白髪の妖精は堪忍した様子でここまでユーウェインを尾行した理由を話し出す。
「ほ、ほら…アンタさ、私の人違いじゃなければ最近就任したっていうユーウェインって名前の妖精騎士でしょ?」
「…まぁそうね。確かに私は二年前に新しく就任した妖精騎士であるユーウェインよ」
「ホ、ヨカッタ……んんっ、それで私がアンタを付けていた理由だけど、その…アンタがどんな妖精なのかを間近で観察して知りたかったからなの」
何を言うかと思えば、それは要するに自分に純粋に興味があるからまずは人柄から知りたい…のだろうか?
そう思いながら妖精眼で視たが、少なくとも嘘の色は全く見受けられなかった。つまりこの妖精は冗談のつもりなどで言っている訳ではない様だ。
「ふーん…私がどんな妖精かを知りたいから、ねぇ。……続けて」
「え、ええ。それでどういう事かって言うと……」
そこから5分ほど聞き続けたが、彼女の話を要約するとこうだ。
遡ること一年前の舞踏会での一件。そこのオークション会場に彼女も一観客として参加していたらしく、最初は妖精騎士歴70年のトリスタンが勝つだろうと思い彼女に賭けていたのだが、結果は新参者のユーウェインが勝利するという大番狂わせが起きて開いた口が塞がらなくなる程の驚愕を覚える。ついでに賭け金もパーになった模様。
だが同時にそれを機にユーウェインに対して強い興味を覚え、彼女が再びこの町に来るまでの一ヶ月間ずっと調べていたらしい。
……だったのだが、その中で興味が膨らむあまり『どんな人柄なのかも知りたい。そしてもしトリスタンの様なロクでもない奴じゃなければあわよくば友好的な関係になりたい』とまで思ってしまう。
それ故に服屋で偶々見掛けたのを思わぬ絶好の機会と捉え、接触のタイミングを計るべく付け回していた……という経緯があった様だ。
「あのねぇ…動機は別にいいとして、こんな不器用かつ不審極まるやり方じゃ友好的な関係どころか怖がられるか怪しまれて通報されるかで終わりよ?」
「ぐっ…し、仕方ないじゃない。相手はただの妖精なんかじゃなくて女王直属の上級妖精なんだし」
ユーウェインの正論に軽くダメージを受けつつも、彼女は負けじと言葉を返す。
「それに……私は元々田舎の出なの。だから長い付き合いなんて同じ田舎の妖精たちしかいないし、ここに住み始めてからも基本は日銭を稼ぎながらの一翅暮らしだし…。そんな生活なもんだから気軽に話し合える奴が欲しかったのよ」
そしてそのまま流れでその妖精は身の上話を口にし出す。
彼女のグロスターにおける在住歴は約10年だが、その間ずっとレストランのウェイターで日銭を稼いで遣り繰りし、余裕があれば舞踏会用のドレスを買ったりオークションや賭博に参加したりする日々を送っていたとの事。
しかし先ほど言っていた様に基本的に一翅暮らしなので、雑談したり愚痴を吐ける様な相手がいない事にストレスが溜まっていったらしく、それが転じて『話し相手が欲しい』という欲求に変わった模様である。
「話し相手…つまりは実質友達が欲しいってことなんでしょうけど、どうして私なのかしら?さっき貴方自身も言ってたけど、私はモルガン陛下直属の妖精騎士。仮に友達になったところで気楽に何度も会える様な立場じゃないわよ?」
別にユーウェイン自身は彼女と友好的な関係を持つことに抵抗は無かった。理由はここまでのやり取りで彼女から嘘の気配や邪気と言った悪性を全く感じられなかったからだ。
ただ、それはそれとして何故自分なのかが解せなかった。
自分に対する興味が沸いたから、というだけでは切っ掛けにしては弱いし単純すぎる。
他にも理由があるからこそ立場間の問題を承知の上で接触してきたのだろうな、と彼女は考えた。
「…実は、こっそり影から見てたのよ。あの時アンタが馬車の中で楽しそうに話してたところを」
「んん…?詳しく説明してくれる?」
いまいちピンと来ないので説明を求めたところ、彼女はユーウェインとトリスタンの闘った翌日にも館の側まで立ち寄っていたらしい。
その日の仕事も終わり帰路に着こうとした時にふと昨日の事を思い出す。
就任歴においては遥か
その時点で興味関心を持ち始めていた彼女はまだあの館にその新米がいるかもと思い、早速正門近くまで足を運ぶ。
すると噂をすればと言わんばかりに奥にある玄関にてユーウェインがいるのを目撃し、館の当主であるムリアンと何やら話し合っている。
しばらくすると会話は終わり、馬車に乗り込みそのまま町を出ていったのだが――――――その際に一瞬だけ視界に写った、馬車での仲間と思われる者たちと会話している様子が凄く楽しく愉快そうに見えたらしい。
それからユーウェインという妖精の人柄についての関心も日に日に強くなっていき、あとはこれまで話した通りだと言う。
「さっきアンタも言ってたけど、立場上友好的な関係を結べたところでそう何度も顔は会わせられないでしょう。けど、私はそれでも構わない。月に…いや、半年に一回だろうとね」
そう発言する彼女の目からは、とても強い意思を感じた。
そこまで言うほどなのか、とも思ったがよくよく考えれば彼女はこの町で約10年も一翅身の状態だ。
それを考慮すれば話し相手に飢えても仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
況して、なまじ年頃の人間の少女に近いであろう精神構造であるなら尚更だろう。
「という訳で、改めてお願いするけど…どれだけ会う機会が少なくてもいいです。私と友達になっていただけますか?」
態度を整えてユーウェインに懇願する彼女からは、変わらず悪意は感じられない。
(友達ってのはお願いされてなる関係じゃないと思うんだけど……まぁ嘘もつかずに純粋に頼んでる相手にバッサリ断るのも少々後味が悪いし、ここは応えてあげましょうか)
それに、こちらや向こうの都合で会えない期間が空けば空くほど結局それまでの一翅生活と何ら変わらなくなるし、そうなればその内向こうから縁を切りたいという旨を伝えてくるだろう。
即ちこの関係は恐らくそう長く続くことはない。ユーウェインはそう考えた上で、敢えてこれを聞き入れる。
「いいわ。貴方のその申し出、快く受け入れましょう」
「え、ウソ!?本当に!!?っしゃぁ!!ぶっつけ本番同然だったけどありがとうございますユーウェイン様!!」
ユーウェインから了承の返答を聞いた瞬間、彼女は軽く狂喜欄舞の様子を見せる。
その様を見て都合が良くなると随分とお調子者になるところも人間の少女みたいだなと思いつつ、ユーウェインは互いに知り合う上で一番重要なアレを彼女に問う。
「それじゃまずは貴方のお名前から知りたいのだけど、なんて名前なのかしら?」
「あ…そうだったわね。やだ私ったら、よくよく考えてみれば今の今まで名乗ってなかったわ」
ユーウェインからの問いにそれまで舞い上がってた気分が鎮まり、少しだけ気恥ずかしくなる。
「ま、まぁそれも今から名乗れば問題ないわ!てな訳で耳かっぽじってよく聞きなさい!」
すぐに気を取り直し、ユーウェインを指差しながら自信あり気にその名を口にする。
「――――――ルーアン。これが私の名前よ。よく覚えてちょうだいね!」
「ふぅん、それが貴方の名前なのね。なかなか悪くないじゃない」
ルーアン。それはユーウェインの元居た汎人類史において、とある英傑が没した聖地の名を意味しているものであった。
「ふっ、そうでしょう?私の数少ない自慢できる要素の一つよ」
「数少ないって…。ああ、それはそうとこうして知り合った訳だし、今から一緒に歩き回らない?私このあとも色々と遊ぶ予定なんだけど、どうせならね?」
「え、いいの?なら御言葉に甘えさせてもらうわ!」
そうして彼女らは意気揚々と大通りの方へと歩み行く。
「あ、でも有名人と歩くなんて視線が集まりそうでちょっと抵抗があるわ…」
「ああ、そこは私が貴方のことを『この妖精は自分の奴隷です』と誤魔化しておくから安心していいわよ」
「あら、それはありがた……いやちょっと!?尚更奇異の目で見られそうなんですけど!?わかってて言ってるでしょアンタ!!」
「ハッハッハッハッ、さて一体何の事やらさっぱりだわ~」
「~~~~~~!!し、しらばっくれるなぁ…!!」
こうしてこの日、グロスターの路地裏にてまた一つ新たな出会いが生じた。
一方は國の精鋭の一角を担っている別世界の吸血鬼、もう一方は一翅でいる日々に嫌気が差した元田舎娘。
それぞれ妖精という種族である以外に殆ど共通点のない者同士による、数奇と言える
「ふむ、しかしこのまま相手の気分を害したままというのも些か居心地が悪いわね。お詫びにまずは私の奢りでスイーツでも食べに行く?」
「はぁ?スイーツですってぇ~?……ふん、まぁ甘いモノは苛立ちを抑制する効果があるし、それで許してやろうじゃない」
「ふふ、許してくれてありがとう。じゃあ早速向かおうか」
「ええ、そうね。…ところで、お詫びだからとはいえ急に気前がよくなったじゃない。どうしてです?」
「…別に。経緯はどうあれ折角結んだ関係に亀裂が入りかねない可能性を無くしたかっただけよ」
正直なところ、ユーウェインとしては内心は友達などではなく、ただの知り合いに等しい距離感で接しているつもりだ。
だがルーアンと話している時に見せるその笑顔は、それこそ気の知れた仲の友人が和気藹々と雑談しているかの如く楽しそうであった。
彼女たちはこれから友達とも知り合いとも言える、或いはそのどちらとも言えず、しかし互いの仲はそれなりにいい話し相手―――その様な関係を築いていくに至るだろう。
――――――その関係が、最悪の形で終わりを迎えるとも知らずに。