Fate/Viridian of Vampire   作:一般フェアリー

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生きるというコトは

 

「―――紹介します、ウッドワス殿。グロスターに出歩いている時にひょんな事から私の友達になった、ルーアンという名の妖精です」

 

「は…は、初めまして。ルーアンと、申します。なな…何卒、ぉお見知り置きを……!」

 

 

デスクにて腕を組んで座っているウッドワスを前にユーウェインは嬉々として知り合いを紹介し、紹介された白髪の妖精―――ルーアンは緊張で冷や汗を垂らし、声を震わせながらも挨拶する。

 

「…一応こちらも自己紹介しておくが、私が領主であるウッドワスだ。この町を統治する者として貴様を一市民と認め、歓迎しよう」

 

「は、はい。お迎えしていただき、まま誠にありがとうございます………」

 

何故この様な状況になったのか。事の切っ掛けは二翅が初めて出会ったあの路地裏の件より後になる。

 

あのあとユーウェインはルーアンと一緒に夕暮れまで遊び尽くし、別れ際に互いの住所を聞き合い挨拶を済ませてそのまま帰路につく。

 

だがその道すがら、ふとある事を思い出す。それはこの休暇期間が終わった時、次にいつ何時に会えるか全くわからないという事だ。

 

知っての通り二翅はそれぞれの身を置いている立場が違いすぎる故、顔を会わせられる機会などそうそうない完全な不定期である。

 

無論ユーウェインとしては最初はそれで別に良かった。

そうして会わない時間が続きルーアンの方から関係を断とうと言ってくるのを想定した上で、友達になってほしいというお願いを承諾したのだから。

 

『(……の、ハズだったんだけどなぁ)』

 

だがその日を共に過ごす内に彼女の人柄にいつの間にか惹かれ、もう少しだけ積極的に話したいと思ってしまう。

なぜ惹かれたか?理由は恐らく、自身がこれまで目の当たりにしてきた卑しく利己的で醜い妖精共の様な邪悪な感情が、彼女からは終始感じられなかったからだろう。

 

…或いは、そうした裏表のない純粋さにホープと重なるところが多少ながら見受けられたからかもしれない。

 

そう言う訳で何とか会える機会を増やすだけでも出来ないかと頭を回した結果、ある考えに辿り着く。

 

 

――――――次にいつ会えるのかもわからなくなるのなら、いっその事こっちから説得してこの場所(オックスフォード)に移住させてしまえば良いのでは?

 

 

思い立ったが吉日。いつか読んだ極東の書物にあったその言葉に従って彼女は行動に移し、後日再びグロスターに足を運びルーアンの自宅へ訪問。

肌着姿で出てきた彼女に用件を伝え、部屋の中へお邪魔させてもらってから本題を詳しく話し、返答を待つ。

 

『……少し、考えさせて。何だかんだでこの町に思い入れがあるし、今すぐに返事をすることは出来ません』

 

『まぁ、それはそうよね。ただ私がこうして自由に動けるのはあと5日程度だから、その間に答えを決めてちょうだいね』

 

『5日…わかったわ。なら今日1日ちょうだい。最後にもう一度この町を自由に見て回った上で考えたいのです』

 

『ええ、なら存分に楽しんでおきなさい。私は今日この辺りのホテルに泊まるから、答えが決まったらすぐに来てね』

 

そして次の日、グロスターを離れる決心が付いたルーアンはユーウェインの下へ行き、その旨を打ち明ける。

 

彼女からの返答を受けたユーウェインは早速移住の準備を開始。

まずは現住所の領主であるムリアンと移住先の領主であるウッドワスにそれぞれ事の次第を説明し、移住許可と書類を発行してもらった上でルーアンにサインさせる。

 

次に彼女のウェイター歴を考慮し、正確な移住先をウッドワスが経営するレストラン近辺の住宅街の一軒家に決定。新しい仕事先もそこのレストランのウェイターに就いてもらう事になった。

 

『因みに移住するにあたって色々と生じる費用は私が全額負担しておいたわ。元々提案したのは私なんだし、これくらいはしてやらないとね』

 

『もうアンタ、いや貴方様に足を向けて寝られません。神はここにおられたのですね』

 

『うっわ急に丁寧な口調で拝まないでちょうだい。貴方はいつも通り小生意気な態度で接してればいいのよ』

 

『(それナチュラルに馬鹿にしてない…??)』

 

そうして色々と手続きと引っ越し作業を4日ほど掛けて済ませ、取り敢えず一段落ついたところでこれからこの町の世話になる者として挨拶しに行こうという話になり、その日の夜に彼女らはウッドワスの邸宅へ足を運ぶ。

 

事前に彼へ連絡をし、部屋までルーアンを案内し入室したところで今に至る。

 

「しかし最初は突然のこと故に少々面食らったが、そんなにこの妖精が気に入ったのか?」

 

「ええ。出会ってから会話を重ねる内に、この子の内面をもっと知りたいと興味を持ってしまいましてね」

 

「…ふむ、なるほど………」

 

彼女の言葉を聞いたウッドワスはルーアンに視線を向ける。

 

事前にユーウェインから詳細を概ね聞き及んでいたが、いざこうして対面してみれば内包魔力も存在規模(スケール)も普通の下級妖精のソレだ。

 

報告によると元々は田舎の出らしいが、一体何の意図があってユーウェインに接触したのだろうか?

 

もし邪な真意が隠されているなら、その思惑通りになる前にここで見定めておかなければいけない。

 

「―――ウッドワス殿。何やら訝しんでおられる御様子ですが、この様な下級妖精に騙されるほど私の目は曇っていませんからね?」

 

しかしいざ問い詰めようとしたところでユーウェインに突っ込まれる。

 

それまで表情筋は一切動かしていなかったつもりであったが、容易く内心を看破された事にほんの一瞬目を丸くする。

 

「…思想を顔に出さぬ事には自信があったのだが、よくもまぁ貴様は見抜けるものよな」

 

「ええ、そういう他者の考えている事をおおよそ読み取る読心術は私の特技ですので」

 

少し自慢気に言うユーウェインにそう言われればとウッドワスはこれまでの彼女との生活を思い出す。

 

思えばこちらが何かを考えて行動したり命令しようとする度に、まるで本当に心を読んでいるかのように彼女は自身の望んだ通りの動きを見せてきた。

 

あまりに都合良く意図を察してくる故、よもや陛下と同じく妖精眼の権能を持っているのではと思い込み過去に問い質したのだが、ユーウェイン自身はあくまで特技と言い切って自分は妖精眼を持たないタイプの個体だと述べるだけであった。

 

「それに、もしこの妖精が良からぬ事を企てているならほんの一時言葉を重ねるだけでも察しが付きますし、その時点で首を飛ばすか役所に突き出しています。私が容赦ない時は容赦ないのは貴方もご存知のハズです」

 

これまでもお尋ね物の捕縛や悪妖精化した住民の“駆除”の任務をモルガンから承った際に、彼女は表情を変える事なく淡々とそれらを遂行・達成していた。

 

そうした経歴もあり、彼女の発言にはしっかりとした説得力が感じられた。

 

「ああ、そうだな。確かに貴様の察しの良さは折り紙つきである上、騎士として必要な冷徹さも備えている。現にこれまでもその能力のお陰で私も何度か助けてもらっている」

 

「フフ、お褒めに預かり光栄です」

 

何かの事情で隠しているのか、或いは本当に単なる特技に過ぎないのか。

いずれにしろわかっているのは、彼女は他者との対面における思考推察が異常なまでに長けているという事だ。

 

「…フン、いいだろう。どうやら私が釘を刺しておく必要は無いらしいな。精々其奴と上手くやっていくがいい」

 

ならばこのルーアンなる者の思惑が本当に報告の通り『気軽に話し合える友が欲しい』などと言う単純極まる(筋違いな)理由なのか、その真偽の程をユーウェインに一任させるのも良いだろう。

 

「納得していただけて何よりです。ではここらでそろそろ失礼しても宜しいでしょうか?見ての通りルーアンが緊張のあまり今にも魂が磨り減りそうな感じになっていますので……」

 

ウッドワスの威圧的な佇まいに当てられたのだろう。

ルーアンはただでさえ白い顔を更に青白くし、冷や汗も止めどなく流していたりと、とてもマトモに話せる状態ではなさそうな感じだ。

 

「ああ、そのままこの場で死なれても笑えんし後処理が面倒だからな。出ていって良いぞ」

 

「はっ。では失礼致しました」

 

丁寧かつ正確な角度で御辞儀をし、ユーウェインは部屋を後にする。

 

それを見届けたウッドワスは、彼女らが入室する前と同じ様に積み重なった書類を整理し始めた。

 

 

 

◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈

 

 

翌日。朝のトレーニングを済ませたユーウェインは昼食を食べに早速レストランへ立ち寄る事に。

 

するとそこには、清潔感と品のあるウェイター服に身を包んだルーアンの姿があった。

 

…少しからかいたくなったので、取り敢えずベルを鳴らして呼びつける。

 

「お待たせ致しました!ご注文は―――げっ」

 

「…おやぁ?まるで仕事先で知り合いと遭遇してしまった様な顔をしているけれど、どうかしたのぉ?」

 

若干―――否、かなり気まずそうな表情の彼女に笑みを向けながら、わざとらしく声を掛ける。

 

「い、いえ失礼……ナンデモゴザイマセンヨ?」

 

「あらそう?でもよく見れば、なーんか私を前にストーキングしていた不審者に似ている気がするんだけどなぁ~~??」

 

「ウグッ……き、気のせいじゃないデスカネ?」

 

明らかにわかっていて茶化している物言いに顔をしかめるも必死に営業スマイルを保つ。

 

「ふ~~ん?ま、確かにそう言われるとそう言う気がしてきたわ。いやぁ変に疑ってごめんなさいね!…あ、それと何時まで勤めてる?」

 

「エ…、アー……18時までデス」

 

そんな彼女の表情を一時堪能したところで注文に移り、食事を楽しんだ。

 

店を出た後は、改めて引っ越し先の感想を聞いておきたいので図書館で暇を潰しながら退勤時間になるまで待機。

時間に迎えてから少し経った辺りで動き出し、そのままルーアンの自宅前まで行ってインターホンを押すと中から反応があったので、早速声を掛ける。

 

「やぁ、数時間ぶりね!中に入れてもらってもよろしくて?」

 

「…薄々思ってたけどやっぱり来たわね。いいでしょう、私もアンタに言っておきたい事があります」

 

中に入れてもらい居間に着くや否や昼間での戯れについての文句と注意を口煩く言われた。

 

これに対して軽く謝罪した上で“可愛くて綺麗で、友人という親しい関係だからこそ少しだけ苛めたくなった”、と言うと途端に頬を染めて素っ気ない様子で許してくれた。

どうやら彼女は急にベタ褒めされる事に弱く、突っ慳貪な態度を見せつつ何だかんだで甘くなってしまうタイプらしい。

 

ちょろいなぁと内心悪い笑みを浮かべつつ、ユーウェイン本題である現時点での住み心地についてを質問する。

 

「…で、どうかしら?今のところのこの町での生活は」

 

「そうね……まぁ言っていまえば前とそんなに変わらないわ。家は見ての通り一翅暮らしだし、仕事もそれまでと同じだし。変わった事と言えばアンタと顔を合わせやすくなったのと、店長も従業員も殆どが強面な牙のオッサンになったくらいかしらね」

 

カクテルの入ったグラス片手に彼女は愚痴る様に呟く。

町を興している氏族が氏族だけに勤務時間中は常に鋭い目付きで筋骨隆々な男たちが視界に写るみたいで、いつ粗相をやらかしてブン殴られるかと思うと内心ガクブルで接待しているらしい。

 

特に店長であり総責任者であるウッドワスの事は昨日の件もあって、彼の怒りを買う事態だけは絶対に避けるべく必死になって勤めていかなればならないので早くも胃に穴が空きそうとの事。

 

他にも少しの不都合で猿みたいに怒鳴り散らす傍迷惑な客がいたりとか、こうなるんなら別の所で働く方が良かったかもなどと不満を溢しながら彼女は酒を口に含んでいく。

 

「勿論牙の連中だけじゃなくて中にゃ人間の従業員もいるんだけどぉ、皆も大体があたしとおんなじ心境らしくてぇ、マノイって奴としか気軽に話し合えないのよぉ~…ヒック」

 

そんなこんなで愚痴を垂れ続ける事約10分。いつの間にかボトルは二本目に突入し、顔を仄かに紅くしながらルーアンは台に突っ伏していた。

 

「うぅ…グロスターの時は何とか上手くやってけたけど、ここは今の時点で不安だらけで怖いのよぉ」

 

「うん、そうね。その気持ちは私も理解できるわ。私だってこの國に迷い込んだ当初は右も左も判らずに不安しか無かったわ」

 

ぐったりしたまま泣きつくルーアンを慰める様に、ユーウェインは当時の自分の状況も似たものだと言って彼女の気持ちに寄り添う。

 

「…そう言えば、アンタって元々この國の外から来たのよね。…………外って、どんなところなの?」

 

何となく、流れで気になったルーアンはブリテンの外の世界について尋ねてみた。

これをユーウェインは快く了承し、自分が居た世界の文化・歴史・国、他にも偉人や文化遺産、由緒ある家系や伝統的な料理などを存分に語ってくれた。

 

そうして人軋り語り終えた後、ユーウェインはルーアンの機嫌を伺う。

 

「…ありがとう。聞いていてとても楽しくて有意義だったわ」

 

そう言う彼女の顔は先ほどの様な不安に歪めた表情ではなく、目元がまだ赤くなってはいるものの少しだけ穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「どうやら、かなりお気に召していただけたみたいね。まだ時間に余裕はあるし、もう少しだけ聞かせてあげましょうか?」

 

「ええ、是非そうしてちょうだい。アンタの話、もっと聞きたくなってきたわ」

 

そしてユーウェインは彼女のリクエストにお答えして自分が居た世界の話を面白可笑しく語り、ルーアンは黙ってそれを楽しそうに聞いていた。

 

「―――で、パーシヴァル卿はそんな母の言い付けを自分なりに忠実に実行した結果、名も知らぬ貴婦人の唇を奪った上に側にあった鹿肉のパイを勝手に貪るという蛮行を……ん?」

 

気がつくと、ルーアンは台に突っ伏したまま静かに寝息を発てていた。

 

話をするのに夢中で気づかなかったが、いつの間にやら寝ていたらしい。ふと時計を見ると帰宅予定時間を大幅に過ぎていた。

 

「うわマズっ、もうこんな時間とか急いで帰らなきゃ!ウッドワス殿に半殺しにされかねないわ!」

 

すぐに家を出ようとするが、目の前でだらしなく寝ている彼女に視線が移る。

 

「………………」

 

それを見たユーウェインは何も言わず、音を発てない様に周囲に布がないかを探して手頃な大きさのモノを見つけると、そっとルーアンに被せた。

 

「…おやすみなさい、ルーアン。良い夢見なさいよ」

 

そのまま消灯し、静かに家を出て帰路に着く。

 

(人生なんてのは困難の一つ二つぶつかって当たり前。それは貴方も私も、全ての生き物に共通して言える事だけど、その中でどう前向きに生きるかが大切だと私は思っている)

 

彼女はこの世に生を受けて200余年の時を過ごしたが、その中で『生きるとは理不尽と常に隣り合わせで相対する事であり、同時にそれでも現実から目を逸らさずに前を見て歩み続ける者のみが自由と楽しさを謳歌できる』という人生観が形成された。

 

そして今、ルーアンも自身も『大厄災』に『慣れない仕事先の環境』と形や規模は違えどそれぞれ困難という壁にぶつかり、懸命に抗っている。

 

 

 

「精々お互いに頑張って行きましょう。知り合いとしても、友達としてもね」

 

 

 

密かに友への声援を送り、翡翠色の妖精騎士は夜道へと姿を消していく。

 

 

 

時を同じくして、静寂に包まれた家の窓に蒼白く輝く月が写り込む。

 

 

 

差し掛かった光に照らされた白髪の妖精の寝顔は、とても柔和で穏やかな表情であった。

 

 

 

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