Fate/Viridian of Vampire 作:一般フェアリー
「あな、たは?」
「私のことは後で話します、今はこの状況を何とかして切り抜けましょう!」
バーヴァン・シーが森の探索をしていたらいきなりワケのわからない怪物と遭遇。怖気にあてられ硬直し、大分ピンチになっていたところに謎の少女が現れ、協力を持ちかけてきた。
その状況に一瞬戸惑ったものの直ぐに中断させられる。怪物――――モースが彼女目掛けて黒く汚れたエネルギー弾を撃ってきたからだ。
「危ないっ!!」
少女の掛け声で咄嗟に我に帰り、硬直の抜けていない体を無理矢理動かし間一髪で回避する。弾はそのまま木にぶつかり、被弾箇所を起点にじわじわとゆっくり腐らせていったが、バーヴァン・シーはとてもじゃないがそんな光景を見ている余裕など無かった。
なぜなら彼女の妖精としての本能が告げているのだ。『アレには絶対に当たるな、故に余所見をするな。さもなくば妖精としての形を、存在を失くしてしまうぞ』と。
「…その顔を見るに早くも理解したみたいですね。あれがどれほど危険な存在なのかを」
「ええ、全くね。そして貴方のことも気になるけど、今は取り敢えず目の前に集中するわよ!」
「はい!」
少女の返事を皮切りに二人は同時に駆け出す。バーヴァン・シーはモースの方へ突撃し、少女はその周りの木々へ飛び回り身をくらませる。
「■■■■■■■ーー!!」
「喰らいなさいっ!!」
足に魔力を集中し、赤黒い血の様な液状体に変化させ纏わせた直後、それをモースの“手前の地面”に目掛けて思い切り振り上げる。
するとばらまかれて地面に付着した液状体が、雫の一滴に至るまで瞬時に鋭利な棘に変化しモースの身体を刺し貫いた!
「■■■■■!?■■■■■ーー!!!」
その痛みに耐え兼ねたか、或いは鬱陶しいと忌々しく感じたか。モースが激しく身体をくねらせ所構わず呪弾を射ち始めたが、全身から一斉に放つわけでもなく頭上に呪詛を集中させて一発ずつ飛ばすので回避自体は割と容易だった。
「わかっているでしょうが、気をつけて!その弾に当たったら、まず終わりです!」
「もう既に、本能規模で、心得ているわ!」
避けながら言葉を交わし合う二人の妖精。やがてモースを固定していた棘が空気中に四散していく。それを認識したモースは直後にバーヴァン・シー目掛けて、先ほどより純度と濃度の高い怒りと殺意を込めた呪弾で集中放火を仕掛ける。
これに対しバーヴァン・シーは両腕を前方に構え、簡易型の魔力障壁を展開し防御の姿勢に入った。呪弾が被弾したそばから呪詛に侵食されたが、その度に周囲の空気中に漂う神秘の力を利用して浄化することで半ば強引に障壁を維持。神秘を司る妖精という種族だからこそできる荒業だ。
(さて、一応防げてはいるけど向こうは未知の存在。今は闇雲に射ってくれているけどまだ奥の手を隠し持ってるかもしれないし、早く次の一手を考えないと私の方が殺られかねないわ…!)
そう彼女が思考を回しているとただ連射してるだけでは仕留められないと判断したのか、痺れを切らした感じのモースが今までよりも呪詛を一点集束させてバーヴァン・シーの身の丈以上の巨大な呪弾を生成した。
「は!?え、ちょ、それはまず――」
そして早くも装填完了し、呪弾の標準を彼女に合わせて放とうとした時。
「やぁあっっ!!」
「――■■ッ!?」
突然、背後から聞こえた雄叫び。直後に鋭い痛みを感じそちらに意識を向けると、うっすらと黄緑色に光る小枝が深々と刺さっていた。
そしてこれをやった黒幕が姿を晒す。
「それは撃たせません!そしてあなたの相手はこっちです!」
モースがバーヴァン・シーに攻撃している隙に、少女は手頃な小枝に神秘の力を纏わせて力いっぱい投擲したのだ。少女とて妖精の端くれ。神秘を扱える以上、戦闘力が無いからといって攻撃手段も全く無いわけじゃない。
「■■■■■ーーー!!!」
思わぬ奇襲により意識を削がれ、今まさに放とうとしていた渾身の呪弾が形を保てず飛散していく。それに激怒したモースは邪魔をした一匹の蝶に呪弾を放つが、文字通りひらりはらりとかわされ、なかなか攻撃が当たらない。
そして―――その行動が、判断が、目の前の存在から注意を逸らしてしまったことが、自身の敗北を決定づけた。
「フッ――何を余所見しているのかしら?」
背後に蠱惑するような声が響く。それで“眼前の脅威”をモースが思い出し振り返った時には、もう既に遅く。
――――瞬間、視界を埋め尽くさんばかりの夥しい数の赤棘がその身体を貫いた。
「―――■■■■■ッッ!!??」
「全く、少し横槍を入れられた程度で眼前の追い詰めている相手より邪魔した方を優先するなんてね。初めて見た時から大体予想はついていたけど、やはり知性があまり無いみたいね」
言いながら棘に魔力を集中させていく。モースが少女に気を取られている最中で彼女はすぐさま障壁を解除し、地面に手を添えてモースに向かって扇状に液状の魔力網を張っていたのだ。
「■■…■■■…■■、■…!!」
「…苦しそうね。しかし同情はしないし、可哀想とも思わないわ。なぜか?それはね」
ただただ害することしか出来なくなった存在はどこまでいっても見苦しさしかないからよ。
「――それではこの一撃で以てお前の生を終わらせる」
血の色をした棘が、魔力を過剰に送られている影響で赤く明滅しはじめる。
「運命とは実に残酷だ。ある日突然、無害で優しそうな少女に全身の血を吸われて殺される事だってあるのだから」
やがて熱を帯びはじめ、一本一本の内に秘められている魔力を増幅し、加速させる。
「なら、こうして
増幅・加速を続けた果てに膨張し、遂に臨界点に達する。
そして――――
「というわけで、血染めの開花をその身にどうぞ――――――【
――――――赤い、紅い、赫い、とっても綺麗な薔薇の花が、咲き誇った。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「はぁぁ~~…何とか終わったわね」
「ええ…。あ、あの怪我は無いですか…?」
「ん、大丈夫よ。魔力消費による疲労は凄まじいけれど」
ブリテン異聞帯での初めての戦闘、結果は多少苦戦を強いられたものの勝利。最後は
「まあ、周囲の神秘を吸収して魔力に変換すればすぐに回復できるから特に問題は無いけどね。…それはそれとして」
「…わかっています。私が何者なのか、それをお話します」
バーヴァン・シーの意図を、少女が察して答える。彼女からしてみれば、少女は自分を助けてくれた見知らぬ妖精。どこか理知的で、鬱屈とした感情はあれど、邪気は全くと言っていいほど感じられない…という印象だ。
――しかし、話を聞く前にまず言わなければいけないことがあるので、バーヴァンシーは少女に待ったをかけた。
「ん、ちょっと話すのを待ってもらえる?その前に貴方に言うべきことがあるわ」
「…? 何でしょうか?」
「ええ。実はあの怪物を見た時に私、ちょっと恐怖で固まっちゃったの。だからもし貴方があの時来てくれなかったら、私はあのままあっさりと殺されていたでしょう。倒せたのは貴方の協力あってのもの、言わば貴方は私の命の恩人。…故に、ここに感謝の言葉を贈るわ」
――――助けてくれて、ありがとう。
「――――――――……」
向けられたその言葉は、気持ちは。少女にとって途方も無いほど久しく、そして――名前も記憶も失ってから初めてかけられた、嘘偽り無しの心からの『善意』だった。
今までのような冷たい、気持ち悪い、醜い悪意とは違う、とても綺麗で、心地よくて、温かい感情。
あぁ…あぁあ……そうか、そうなのか。これが、これが…。
これが――――誰かに感謝される、ということなのか。
「…っぐ、うぅ、うぁぁっ…」
「え、ちょっとどうしたの!何で泣いてるの?!」
心配したバーヴァン・シーが少女に駆け寄るが、少女の方はそれどころではない。
向けられたそれを自覚した瞬間、止めどなく涙が溢れ出す。視界が滲むのを、感情の放流を抑えることなど出来ない、出来るはずがなかった。
「…なん、で…何で、ありがとう…なんて、心から、言えるん、ですか?」
「私なん、て…いつも、周りから…出来も、しない、お願い、をされて、『役立たず』、なんて…言われ、て…」
「自分じゃ、どんなに頑張っ、ても…報われ、なくて…」
「………」
「~~~~ッッ…何百年っ何百年も!!誰からも感謝なんてっ!!一度もされなかったっ!!!」
「いつもっ!!いつもいつもいつも気持ち悪い視線やっ!!謂れの無い理不尽な責任を掛けられてっ!!」
「みんなっ!!みんなが私にっ!!悪意を押しつけていたっ!!!」
これまでの人生で重なっていった積年の思いが、荒波の如く溢れ出していく。欺瞞、利用、虐待、罵倒、不信、怒り、妬み、恨み、孤独、疎外、絶望。それらの行為、感情を一切取り繕うことなく悉く吐露していく。
その独白をバーヴァン・シーは静かに、真剣に耳を傾けて聞いていた。
「…あなたに、この気持ちが、思いが、わかりますか?」
――あれ
「――いいや、わかるわけないですよっ!どうせ私なんかに感謝したのもそうして弱い心につけこんで利用する為でしょう!?」
――――いや、違う。違う、私、こんなこと言いたくなんか
「は、ははははっ!!取り繕ったって無駄ですよ!私、そういう汚くて気持ち悪い打算もいーっぱい体験してきましたからっっ!!!」
――――違う、違う、違う、違う、違う
「ほらっ何とか言ったらどうなんですっ!?生意気でしょううざったいでしょう気持ち悪いでしょうっ!?あなただって他の妖精と同じ、私のことそう思ってるんでしょうっ!!?」
――――違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
「あは、あははっ!ほらやっぱりっ!黙ってるってことは」
「――――ねえ、貴方」
「ッ――――…は、い…」
――――ああ、嫌われた。
――――さっきの感謝は、紛れもない本当の気持ちとわかっていたのに。
――――思ってもいない言葉で、自分から突き放しちゃった。
――――はは、はははは……あぁ、全く、本当に自分が嫌にな――――…?
「……え?」
「…全く、何でそうなのかしら貴方は」
気づけば少女は、彼女に包容されていた。先ほどの感謝よりも、温もりの感じられる『優しさ』があった。
「バカね。なぜそうして自分を貶めるの?なぜそうまで卑下するの?なぜ自分という存在の格をそんなにも下げるの?」
「確かに今しがた貴方の口から語られた経緯を考えればそうなっても仕方がないのだろうし、寧ろ貴方に限らず大体はそうなるのが普通でしょうね」
「でも、その上でこう言わせてもらうわ」
「――自分を下げるな、嫌いになるな、素直になれ」
「っ……!!」
「都合良く利用される?当たり前でしょう、嫌だと言いたい自分を押し殺してるんだから」
「頑張ったのにいつも叱られる?当たり前でしょう、自分に出来ないことを押しつけられているんだから」
「妖精どもからいつも虐められる?当たり前でしょう、反抗も逃げもせずにただ黙して堪え忍ぶだけに留めてるんだから」
「――もう一度言うわ、何で貴方はそうあるの?」
「嫌なら嫌と言いなさい。されたらされたで怒りなさい。虐められたらその場に留まらずに逃げなさい」
「だからそんな色褪せた傷物の体になるし、他者からの本気の感謝も疑ってしまう」
「ついさっき会ったばかりの、まだ名前も知らない妖精の少女。同じ妖精――否、
自分を下げるな、嫌いになるな、素直になれ
――――そして、大切にしろ
「……!」
「それを約束できたら…そうね。私と一緒に、共に居ることを許しましょう。貴方は一目見た時から悪い奴ではないとわかっていたし、貴方の様な信頼できそうな者に対しては――私の方も全力で信頼されるよう頑張ることを誓いましょう」
それは、自分を受け入れるという、慈しみの、許しを与える言葉だった。彼女は口先だけでなく、本気で自分を
信頼に足ると思ってそう言っている。
「…本、当に…本当に、いいの?もう、抱え込んだりせずに…自分を、殺さなくて、いいの?あなたは、私を、受け入れて…くれるの?」
「ええ、約束できたらね。だから――貴方はもう、自分を嫌いにならないでいいのよ」
――……!!!
「――あ、あああ…」
その言葉が決定打となり、少女は――声を抑えようとする意思を失った。
「ああ、うぁあぁああ…」
「あああああああああぁぁ……!!!!」
「…泣け。存分に泣きなさい。そして泣きつかれた後は――――」
晴れた笑顔でいるといいわ。
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こうして、この世界に生きる中で凍りついてしまっていた少女の心は。
一翅の吸血鬼の