時世を廻りて   作:eNueMu

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悠久の涯に輝く命

 

 「えぇ!!? これで『かがりび』って読むの!?」

 「ね! めちゃくちゃ珍しい名字じゃない!?」

 「あはは…よく言われる」

 「てか、脚長…! モデルの仕事とかやってたりする?」

 「いや、そんな……普通の高校生だよ」

 「普通って見た目じゃないけど…でもま、モデルさんとかはそっち方面の学校とか行くもんねー」

 「部活とかもう決めてるの?」

 「うん。剣道部に入るつもり」

 「へぇ〜…意外」

 「でも確かに、結構がっしりしてる。経験者なんだ」

 「親に言われて、小学生の頃から趣味程度にね。私の家、なんて言うか……古臭くてさ。家に日本刀まであるんだ」

 「日本刀」

 「マジの奴!?」

 「うーん……微妙。何か虹色だし」

 「偽物じゃんね」

 「いやいや、意外とそういうのが本物だったり────」

 「ね、ねぇ!!」

 「!?」

 

 「誰!? 虹色の日本刀、家にあるって言ったの!」

 「えっ…? わ、私だけど…」

 「────うちにも、あるよ!! 虹色の刀!!!」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「(……この辺りも…随分と様変わりした。百年前の面影はまるで無いな)」

 

 

 季節は夏。伝統ある花火大会の開催日、一世紀前と比べてずっと蒸し暑くなった夜の町を歩くのは愈史郎だ。舗装された道路は踏み出した足に確とその硬さを伝え、遠くを見れば角張った摩天楼が群れを成している。もう、()()()を思い起こさせるものは殆ど残っていなかった。

 

 

 「(………郷愁とはらしくない。…ある程度花火を観たら、とっとと帰るか。顔が割れると面倒だ)」

 

 

 今日彼がここに居るのは、ある目的のため。わざわざ足を運ぶ必要は無いと言えば無いのだが、改めて直に観た方が「描きやすい」と考えてのことだった。

 

 

 「(……それにしても人が多い…暑苦しくないのか、コイツら…! ………もう少し疎らな所へ行くか…)」

 

 

 尤も、人混みなどというのは彼にしてみれば不純物だ。己の視力を踏まえれば敢えて人の集まる場所で観ることはあるまいと、合間を縫って静かな場所へ向かおうとして……

 

 

 「あっ…」

 「! 失礼────」

 

 

 誰かと、ぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────刈、猟緋…!?」

 「……? …あの…確かに、私は刈猟緋ですが……どこかでお会いしましたか…?」

 「!! ………いえ。 …済みません、人違いでした」

 「え? 今、刈猟緋って…」

 「同じ名字の良く似た友人と間違ってしまいまして。それでは」

 「あっ…」

 

 

 愈史郎は、足早にその場を去った。

 

 何故だか、胸が熱くなって…涙が零れてしまいそうになったから。

 

 

 「……神もたまには…粋な真似をしてくれるじゃないか」

 

 

 ────花火が、打ち上がり始める。

 

 

 

 

 

 「………綺麗ですよ、珠世様。花火を背負う貴女も、さぞ美しいことでしょう」

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「………刈猟緋なんて名字……他に見たことないけどなぁ…。……あっ! 花火、始まっちゃった…!」

 「(にじ)()ーっ!! こっちだよ、こっちー!!」

 「! あ、うん! ごめん、(あや)!」

 

 

 人が密集している中、大きな身体を動かすのに四苦八苦する「虹乃」と呼ばれた少女。「彩」と呼んだ少女の方へとどうにか辿り着くと、二人は花火へと向き直った。

 

 

 「うわぁ…! 凄いね、凄く綺麗!」

 「でしょ!? おばあちゃんと何回も来て、何回も感動したからね! 私のお墨付き!!」

 「あはは、何それ」

 

 

 虹乃と彩は、出逢って数ヶ月。そうとは思えない程に仲が良く見えるのは、運命的な巡り合わせ故か。

 

 

 「でも、ホントびっくりしちゃった! 虹色の刀がもう一本あったなんて! おばあちゃんもひっくり返ってたもん!」

 「一応、うちには昔から約束ごとみたいなのがあってさ。『もう一本虹色の刀が見つかったら、それを持ってる家とは仲良くしてね』みたいな」

 「そうそう、そのことでおばあちゃんに聞いたらね! おばあちゃんのおばあちゃんが、亡くなる時に『刈猟緋さん』って言ってたって! 私たちの家系、何か凄い秘密があるのかも!?」

 「そうなのかなぁ…? ……そうだったら…『何か凄い』ね」

 「あはははっ、ねー! 『何か凄い』よね!!」

 

 

 二人が話している内にも花火は次々と上がり、華麗な大輪で夜空を照らしていく。

 

 

 「…でも、不思議。どうして、刀は虹色なのかな。どうして、彩ん家の奴の方が長いのかな」

 「うーん…わかんない。おばあちゃんのおばあちゃんはね、絶対に刀を手放さないでってずっと言ってたみたい」

 「元々持ってたのは、その人だったのかな。……いや、違うか。大正時代って、とっくに廃刀令出てたもんね」

 「もっと昔からのものってこと? むむ…ちょー気になる…! 帰ったらおばあちゃんに色々聞いてみよっと」

 「うん、私も家族に聞いてみる。もやもやしたままじゃ、眠れそうにないや」

 

 

 

 彼女たちは、それからも多くのことを語り合った。

 

 

 

 学校のこと、趣味のこと。

 

 

 

 まだまだ短い人生の軌跡。

 

 

 

 将来への展望。

 

 

 

 話したいことを話している内に、花火は全て打ち上がっていた。

 

 

 

 「…今ので、終わりか」

 「あーっ! 花火大会特有の喪失感が…!」

 「あぁ…ちょっとわかるかも。こう、心が『すんっ』て────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …虹乃の言葉が、止まる。

 

 

 

 

 

 「────あれ? 何、これ…」

 「えっ? えっ? ど、どうしたの!? 何で泣くの!? 怪我してたの!?」

 「……わかんない。………ていうか、彩も…」

 「…あぇ!? や、やばい…! 何か、止まんない…! 待って待って、めっちゃ恥ずい…!!」

 

 

 二人の少女は、訳も分からず号泣していた。止まらない涙は、彼女らの心に不可解な感情を込み上げさせる。

 

 

 「…でも、何だろ……悲しい感じじゃ、ないかも」

 「嬉し涙、ってこと? えへへ、私も多分そうだ」

 

 

 

 

 

 少しして落ち着くと、目元を赤くした彼女たちは小さな約束を交わす。

 

 

 「来年もまた来ようね! ここで一緒に観よ!」

 「…うん。約束」

 

 

 律儀に指切りし、並んで帰路に就く二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと今度こそ、約束は守られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





・「虹乃」
刈猟緋の血は、途絶えなかった。彩とは出逢って一年も経っていないが、家族以外では今まで会ったどの人間よりも心を許している。剣道は趣味…というのはさして熱を入れていないという意味であり、その実力は埒外の領域にある。家には代々虹色の日本刀が継承されている。

・「彩」
父方の曽祖母曰く、その母に良く似ているらしい。虹乃とは出逢って一年も経っていないが、家族以外では今まで会ったどの人間よりも心を許している。平凡だと思っていた自分の血筋に何やら秘密が眠っていそうで、ドキドキワクワクが止まらない。家には代々虹色の大太刀と不思議な歌が継承されている。



これにて本作は完結となります。
クロスオーバーということもあり、作風の評価については少々不安もありましたが、概ね受け入れて貰えたようで誠に恐悦至極でございます。番外編などの予定はございませんので、お気に入りに登録していてもこれ以上更新されることはありませんが……そのまま登録し続けてくだされば作者はハッピーです()

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
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