──騒動から一ヶ月後──
「霊夢ー!!」
魔理沙がまたいつものように博麗神社へと降り立つ。
「おろ、おはよう、魔理沙」
「よう行去永、霊夢の奴はどこだ?」
「霊夢さんはまだ寝てるよ、朝ごはんが冷めちゃうよ全く」
大して無い落ち葉を掃除していた箒を立てかけてため息をつく。
「そうかー。ここに来てから一ヶ月経つけど、ここにはもう慣れたか?」
「まぁそれなりには、皆良くしてくれるしね」
「あれからフランに気に入られてるしな、お前」
「あはは、今日も午後からティータイムに呼ばれてるよ」
あれからフランはほぼ毎日博麗神社へと足を運んだり呼ばれたりして、その度に行去永は外の世界の遊びを教えたり、弾幕ごっこに付き合っている。
「お前、素質はあるし魔法使いになれるかもな。なんなら、この魔理沙さんが直々に教えてやってもいいぜ?」
「魔法使いかー、良いね、憧れる。霊夢さんが起きるまでお茶でも飲む? 人里で貰った饅頭があるよ」
「お、貰うぜ。飲んだら弾幕ごっこでもするか?」
「お願いするよ、いつフランが気まぐれに僕を殺すか分からないからね。最低限戦えるくらいにはなりたい」
「つっても、お前の場合はその謎能力のせいで攻撃が全然当たらないけどな」
お茶を淹れて菓子と共に魔理沙に差し出し、縁側に座る。のどかな一日の始まりに、自分が掃除した場所を眺めながらお茶をすする。
「なーんかお前、湯呑似合わねーなぁ」
「湯呑に似合うとかあるの?」
「なんていうか、格好のせいか?場違いっていうかなんつーかなぁ」
「まぁ外から来たし、ここじゃ浮くかもね」
ズズズとお茶をすすり、饅頭を食べ終わると行去永は先に立ち上がり弾幕の準備をする。
「お、もう始めるのか?」
「いや、もう一度確認しておこうかと思って。魔理沙はゆっくりしてていいよ」
行去永はそう言って、羽根のような橙色の弾幕を複数作って適当に空中に飛ばす。
「うんうん、なんでこの形かは知らないけど作れるね」
「お前の弾幕は一発一発が重い代わりに少ないからな、ちゃんと使い所は考えるんだぜ」
魔理沙も指をペロリと舐めながら箒に跨がって準備する。
「そんじゃあ、軽ーく弾幕ごっこ、スタートだぜ!!」
ブワァッ!
霧雨魔理沙は普通の魔法使い、人の身でありながら魔法を扱う稀有な人物。箒に跨がり、星をイメージした美しくも力強い弾幕を扱う。
「とりゃあ!」
ギュイーン バババッ
二本のレーザーと小さな筒からミサイルが飛んでくるが、それを横に走り飛んで回避する。
ダダダッ
「相変わらず容赦ないなぁっと」
ブゥンッ、ヒュンヒュンッ
横にふわりと飛びながら、掌から小さな蜂の形をした変則的に動く複数の弾幕を放つ。
魔理沙はそれを箒に乗って飛び回り華麗に回避していく。
ドンッドンドン
「ギア上げていくぜ!!」
倍以上のマジックミサイルを放ち、行去永の退路を塞ぐ。同じように走って避けようとするが追尾して後ろを追いかけてくるため振り切れない。
「んー、昼間から満点の星空を眺めることになろうとは」
前宙しながら行去永は指をくるくる回すと、ギリギリで弾幕は行去永を避け、何発かは魔理沙の方に向かっていく。
「うおっと! 相変わらず不思議能力だな、そろそろタネを教えてくれてもいいんじゃないか!?」
ビュンビュンッ ボボボンッ
「嫌だよ、魔理沙口軽いんだもん」
「そりゃ残念だ」
魔理沙は箒で猛スピードで近付き、ミニ八卦炉を行去永に向けて構える。
「えっちょっ」
「とっておきだ! たんと喰らえ!! 恋符、マスタースパーーク!!!」
ミニ八卦炉の中から極太の眩い光線が行去永に向けて発射される。
ゴォォォーーー!!!
光線を撃ち終わると行去永は歩きながら手を上げて降参の意を示している。
「こうさーん、殺す気かって」
「おいおい、お前のスペルカード一度も見たこと無いぜ? いい加減その秘密主義をやめたらどうなんだ?」
「僕の能力は一度バレたら早いからやだよ」
霊夢は既に起きて二人の遊びを眺めていた。
「中々やるようになったじゃないの行去永」
「どこをどう見たらそれ言えるんですかね」
「とぼけなくていいわよ。マスパがしっかり命中してるのに無傷なのは、避けたんじゃなくて防いだからでしょ? 魔理沙、アンタ手加減してもらってるわよ」
「なんだって!? おい行去永それは失礼だぞ! もう一回だ!」
「どの道攻撃手段無いんじゃ勝てないってば。正真正銘、魔理沙の勝ちだよ。そろそろ紅魔館行く時間だから、じゃーねー」
行去永はひらりと誘いをかわして階段を降りていく。
「ちぇっ、連れないなぁ」
「魔理沙、アンタ私になんか用事あるんじゃないの?」
「ん? いや、これといって特にはないぜ?」
「行去永の様子を見に来たのね」
「まーな、外の人間なんて珍しいし、慣れないこともあると思ってな」
「アンタって意外に面倒見良いわよね」
「うるせーほっとけ」
お茶を飲みながら二人はのどかな時間を過ごす。
──紅魔館──
ゴンゴンゴン
「お邪魔しますよ〜」
「あら行去永、いらっしゃい。また妹様に呼ばれたの?」
ノックをして扉を開け、中に入る。丁度トレイを持っている咲夜と目が合い、挨拶をする。
「ありがたいことに、今日も生きて帰れるといいんですがね」
「それにしても、こんなに簡単に入れるなんて、美鈴はまたサボっているのかしら」
「あ~、多分今日は真面目にしてると思いますよ。僕はあんまりそうゆうの関係ないですし」
「? また例の謎能力のことかしら?」
「まぁそうですね、あと今日はレミリア、、、さん? 様? もお茶に参加するみたいなんですよね」
「だったらきっと中庭ね、案内するわ」
カツンカツンと静かな廊下に二人の足音が響く。
中庭へ案内されると、既に姉妹とパチェリーは席についている。一つだけ丁寧に空いている席があり、そこへと促される。
「御機嫌よう、お兄様」
「こんにちはフラン、レミリア様、それとパチェリーさん」
「宴会以来ね、座りなさいな」
「、、、、、、」
挨拶を済ませて行去永はそこに座る。咲夜が慣れた仕草で紅茶を注ぎ、ミルクを淹れてかき混ぜる。
「ところで珍しいね、フランがお茶しようだなんて」
「ん~、今回はお姉さまの要望なの」
「、、、何故デショウカ?」
「そんなに固くならなくていいわ、別に取って食おうってわけじゃないのだから。まぁ、貴方の態度次第だけどね」
レミリアの提案と聞いて萎縮する行去永に、当の本人は怪しく微笑む。
「冗談キツイなぁ」
紅茶を一口飲んで落ち着くと、レミリアから口を開く。
「質問なのだけれど、貴方は今、霊夢の小間使いなのよね?」
「居候の身ですし、できることはなんでもやりますよ」
「この紅魔館には優秀なメイド長と要請メイドがいるのよ」
「みたいですねぇ」
行去永はその場で紅魔館をグルリと見渡して言う。
「でも執事っていないのよね。そこで、貴方物覚え良いみたいだし、面白そうだから私の執事になってみない? 霊夢の所よりはいい暮らしが出来るわよ?」
「ん? あ、これもしかして就職面接みたいな感じですか?」
「似たようなものね、貴方自身に興味はあるわ、けどさっき言ったのも事実よ。賃金もちゃんと出るし、どうかしら?」
あまり考えることなく、行去永はその誘いを断る。
「それはちょっと断らせてもらってもいいでしょうか?」
「あら、どうして?」
レミリアは薄く笑い、理由を問う。
「今が割と気に入ってるからですかね」
「そう、、、ね、言った通りでしょう?」
「へ?」
レミリアはフランに笑って得意げな顔をする。
「ちぇー、今回は勝てると思ったのになー」
「、、、あぁ、そういう。僕が誘いに乗るかどうかを当てるゲームですか」
全てを察した行去永は無気力にダラリと腕を下げる。
「フフ、まぁね。でも執事にしたいのは割と本気よ、いつでも言ってくれていいわ」
「流石はカリスマ、会って間もないのに絆されそうだ」
首の後ろをポリポリ掻きながら軽口を叩く。
「私の用事は済んだわ。ほらパチェ、なにかあるんでしょ?」
レミリアそう言うと、パチェリーは本を取り出し、行去永に渡す。
「これはもしかして、、、」
「あなたがいつだったか欲しがってた魔導書よ、この間の魔力検査のお礼とでも思って」
「良いんですか?」
「私もあなたの魔力に興味があったし、貴重な話も沢山聞かせてもらったからね。古いものだし、対価としては足りないくらいよ」
「それじゃあ有り難くいただきましょう」
本をパラパラめくり、確認して紅茶を飲むと、フランが疑問を口にする。
「そんなもの何に使うの?」
「僕は能力以外で戦う術を持ってないからね、あとはただの興味かな」
「そういえば、あなたは能力を一切明かさないわね?」
「うーん、、、人間はね、酷く臆病なんですよ」
そう言うと、行去永はポケットからトランプのジョーカーを取り出して二本指で掴む。
「常にジョーカー(切り札)が手元に無ければ、安心して眠ることもできない」
ピッ、パッ
トランプを右手から左手に投げるとそのトランプは姿を消す。
「あら、手品上手いのね」
トントン
レミリアを見ながら頭を軽く叩く。
「?」
レミリアはなんとなく自身の帽子をとって確認すると、トランプのジョーカーが入っている。
「っ? あら、、、いつの間に」
「これはゲームみたいなものだよ、誰が一番先に僕の能力に気付くのか、、、実はちょっと楽しみなんだよね」
コトン
行去永はカップを置き、手を合わせながらクツクツと笑う。
「、、、紫なら知ってるんじゃないの?」
「あ、賢者の方々はズルくないですか?」
パチェリーが呟くと、先程までの怪しい雰囲気が一気に解けてヘラヘラと笑いだす。
「さて、話は終わったわ、貴方はどうする?」
「どうするって、、、まぁ、晩ごはんの準備ありますし、帰りますかね」
「えー、もう帰るのー?」
「元々少しだけって約束だったしね」
「明日は? 明日も来るの!?」
「来れたら来るよ」
紅茶を飲み干し、カップを静かに置いて立ち上がると、中庭から出ていく。
「レミィ、貴方──」
「パチェまで言わないでよ。私は今、行動を操作されてしまった、、、もしかしたら私と似たような能力なのかもしれないわね」
自身の拳を握って開いてを繰り返し、感覚を確かめなが笑う。
「やっぱり面白そうね、彼。もうしばらくは様子を見ようかしら」
真紅の瞳を仄暗くなった中庭で光らせながら、吸血鬼は邪悪な笑みを浮かべた。
──ー
「ねぇ行去永、うちってオカズが三つも並ぶくらい家計に余裕あったっけ?」
博麗神社は参拝客の来ない妖怪神社、そう噂されるが故に常にお金に飢えている。それなのに一汁三菜がきちんと並んでいる光景に霊夢はふと疑問を口にする。
「ここに並んでるものの総額はだいたい三十円くらいですよ? あ、お金の価値が違うから十銭? とかそのへん? ですかね」
「外のお金の価値観はある程度知ってるわよ。で、どうやったの?」
「人里で色々してるうちに"お礼"が集まりまして」
基本的に行去永は打算と計画でのみ動く、良く言えば人心掌握の術に長けており、悪く言えば報酬無しには友人の頼み事以外では動かない八方美人。
「へぇ、、、犯罪を犯してないんなら別にいいわ、お粗末様」
カタンッ
箸を置いて食器を台所に置きにいき、行去永も続く。
「あ、そうだ。一応言っておきますね、今夜少し外出します」
「構わないけど、夜は危ないわよ?」
「僕の能力も段々使いこなせるようになってきましたし、少しだけこの辺の地理を知っておきたくて。要はただの散歩です」
「あんた酷い方向音痴だものね」
「お恥ずかしい限りで」
洗い物をしながら下らないことで笑い合い、時間が経つ。
「それじゃあ、多分一時間くらいで帰ってくるんで」
「はいはい、行ってら~」
霊夢に送り出され、適当な場所へと歩く。
人目のつかないような、森と近い殺風景な場所に着くと、行去永はおもむろに開いて読み出す。
「どんな感じかな、と」
身体強化の魔法や五大元素の基礎的な本を読み、丁寧な説明が書かれているため、それに従って実行する。
(おぉ流石は魔女。伊達に長年研究してるわけじゃないんだ、わかりやすい)
しばらくの間、魔法と能力を見て使ってを繰り返し、一時間経つ頃に戻ろうとする。
パタンッ
「そろそろ戻るか、実験も済んだし」
行去永は独り言を呟き、能力を使って博麗神社へと戻ろうとするが、視線を感じて一度立ち止まる。
「、、、、、、、、、どちらさんでしょうかね」
返事はなく、夜の闇に低い声は吸い込まれていく。
「よっと」
ボゥッ!
炎の魔法を使い、指先に火を灯して周りを燃やす。
「火遊びは危ないよー?」
行去永の真後ろに、緑がかった癖のある灰色のセミロングに鴉羽色の帽子、薄い黄色のリボンをつけた少女が現れる、、、いや、存在を認識させた。
「おうわっ!」
行去永は驚き、後ろにきゅうりを置かれた猫のように飛び跳ねる。バクバクと心臓を鳴らしながら疑問を口にする。
「ど、どちらサマ?」
「はじめましてー、お姉ちゃんの妹のこいしだよー! おにーさんは?」
「あ、えっと、行去永でっす、、、」
謎の自己紹介と態度に、いつもの調子で自己紹介ができずにたじろぐ。
「ねぇねぇ、なんで私がいるのわかったの!? お姉ちゃんでも気付けないのにー!」
「え? うーん、熱烈な視線を感じたとでもいいましょうか」
「無意識に私を認識できたの?」
「、、、まぁあれだ、ブラックホールみたいなもんだよ」
「?? 良くわからないけど凄ーい!」
実際は行去永の能力の副次効果のようなものなのだが、それを伏せて適当なことを言う。こいしは手をパタパタと上下に動かして笑う。
「で、僕に何か用?」
「ん? 特に用事はないよ、おにーさんがいたから見てただけ」
「さっきから日本語がちょいちょい分かりづらいなぁ。じゃあ特になにもないんだね?」
「うん!」
勢いよく断言するこいしに再び調子を崩され、どんどん疲労が蓄積する。こめかみに指を当てながら帰宅を促す。
「えっと、じゃあ僕帰るから君もそろそろ帰りな? ほら、家族も心配するだろうし」
「おにーさんもねー」
ニコニコと笑いながら手をブンブン降ってその場を後にする。
「何だったんだ、全く、、、」
行去永は肩をコキコキと鳴らしながら博麗神社へと戻っていった。
「ただいま、、、っす」
居候の身なため大声で帰宅の合図をするのは気が引け、つい小声になってしまう。
神社に入り、さっさと自分が与えられた寝るだけの部屋に戻って就寝する。
行去永のここに来てからの普段どおりの一日が、今日も幕を閉じた。
「霊夢さん、僕って働くべきですよね?」
「どうしたの急に」
翌朝、行去永は突拍子もないことを言い出した。
「いえ、向こうだと僕は高校生なんですけど、ここだとこの年はもうとっくに働いてるなー、と」
「神社のことやってるじゃない」
「別に神主ってわけじゃなくてバイト、、、にもならないお手伝いじゃないですか」
この一ヶ月間、行去永がやったことといえば掃除とご飯作り、それと弾幕ごっこくらいなものだ。変に考え過ぎて不安を煽られてしまうのも無理はない生活を送っていた。
「別に止めはしないわよ、家事当番さえ守ってくれれば」
「何かいいお仕事ないですかねー」
スパァァン!
霊夢の許可を得て、自分に出来る仕事がないかとぼやくと、急に障子が大きな音を立てて開く。
緑色の髪に蛙の髪留めをした霊夢の同業者、東風谷早苗が元気よく現れる。
「だったら! いいお仕事がありますよ!!」
「おはよう、東風谷さん」
「おはようございます!」
「朝っぱらからうるさいわよ早苗」
「うるさいのは健康の証ですよ霊夢さん! 守谷神社のお守りがあれば無病息災! 行去永さんも一ついかがですか!?」
早苗はそう言って、どこからか守谷と書かれたお守りを取り出して見せる。
「よくもまぁ、仮にも同業者の前でセールスできるわねアンタ」
霊夢は呆れ顔でため息をつく。
「てか、あれは? レミリアん所の執事」
「あれだと住み込みなんですよ、あと覚えること多くてダr大変そうですし」
((今ダルいって言おうとした))
「行去永さん、時々素が出ますよね」
「別に演じてるわけじゃないし、ただ言葉を選んでるだけ〜」
「嘘つきね」
「正直な嘘つきが僕のモットーなんで」
「何よその天邪鬼な答え」
霊夢がジト目で行去永を睨み、それから三人でなんとなく世間話をしていると、神社に再び来訪者が現れる。
シャッ
「相変わらず、ここはいつ来ても騒がしいな? 博麗の巫女よ」
障子を開けて現れたのは人里の守護者であり、歴史の編纂者、上白沢慧音だった。
「どうでもいいけど来るんならお賽銭くらい落としていきなさいよ」
「賽銭とは参拝者の心の表れであり求めるものではない、お前は何か賽銭を貰えるような行いをしているのか? そもそも──」
「分かった! 分かったわよ! あんたの話はいつも長いのよ!」
両手を出してもう止めろと言わんばかりに大声でかき消す。
「全く、博麗の巫女ならもう少しだな」
「慧音さん、なにか用事があったんじゃないんですか?」
長くなりそうなことを察知した行去永が話を切り替える。
「おっと、そうだったな。実は最近妖怪の悪さが目立ち始めててな、寺子屋の生徒の安全の為に本業の力を借りたい」
「要するに?」
「子供たちが襲われないように妖怪退治をしてほしい」
「、、、、、、あ、その件引き受けても良いわよ」
「そうしてもらわないと困るんだが、やけに好印象だな? 一体どうした」
「行去永が働きたいらしいからこき使ってやって」
(、、、、、、、、、は? 何考えてんだこの人?)
「、、、まぁ、腕の方は問題ないだろうが。お前はそれでいいのか?」
「良いわけないよね、僕はまだ地獄で閻魔様と面接したくないし」
「だ、そうだが?」
「働かざる者食うべからずよ、行きなさい。あんたなら例の不思議能力で死ぬことはないでしょ」
「防御に特化してるから戦うのは嫌いなんですがね、霊夢さんこそ職務怠慢では?」
楽をしたい霊夢と、楽をしたい+死にたくない行去永は一步も譲らずに話し合う。
「お二人が話していても埒が明きませんし、こんなのはどうでしょう?」
パキンッ
早苗が割り箸を小気味よい音を立てて割り、赤丸を書いたクジを用意する。
「んー、シンプル」
「良いわ、やりましょ」
(能力を使えば簡単に正解を引けるけど、、、そこまで俺は腐ってない)
「「せ──の!」」
────
「で、結局僕が行くことになると」
「博麗の巫女は幸運だからな、運勝負じゃ誰も勝てんさ」
寺子屋までの道のりを慧音と話しながら歩く。
「働きたいとは言ったけど死にたいとは言ってないんだよなぁ、、、」
「まぁそう言うな、助っ人もいるし身の危険は君が危惧するほどない」
「助っ人?」
疑問を唱えると同時に、寺子屋から聞こえてくる声によってそれは解決する。
「おーい慧音ー、遅いぞー」
「あぁ、妹紅さんか。確かに迷いの竹林から近いし適任か」
「妖怪退治できるのは霊夢だけじゃないからね」
「よう行去永、ここでの暮らしは慣れたか?」
「お陰様で。というか、妹紅さんが来るなら僕が来る必要なかったくないですか?」
「君の後で妹紅に声をかけたんだ。大は小を兼ねるともいうし、人数は多いほうが良いさ」
「それで、人里から寺子屋までの道のりの妖怪を退治すれば良いんですか」
「危害を加えるかは分からないからな、個々の判断になるがよろしく頼む」
慧音はそう言うと授業の準備があるからと寺子屋の中に入っていく。
「さて、ちゃちゃっと終わらせようか」
「まだ子供たちが来る時間には早いですよ」
「敬語はやめてくれ、なんかむず痒いんだよ」
「まぁ、分かった、、、外だと重要な要素なんだけどな、ここの人はあんまそういうの気にしないよね」
「面倒だしな、見た目と歳が違うやつなんてザラにいるし。かくいう私もその一人だけどね」
ボゥッ、ヒュォッ
妹紅は掌に炎の塊を作り、突然行去永に向けて放つ。
クルンッシュルルル
「、、、、、、なんのつもり?」
「おぉー、それがあの能力か。改めて見るとやっぱり不思議だな」
向けられた炎は行去永が人差し指を向けるとその場でクルクルと小刻みに円を描いて回転し、鎮火していく。
「あのね、僕は脆弱な人間で弾幕は当たると割と致命傷なの。せめて事前に一報してよ」
「あの程度で被弾するようじゃ今頃死んでるさ。さて、暇だし弾幕ごっこでもしないか?」
「冗談きついよ、遠慮させてもらう」
「保守的だなぁ。もっと自信を持つべきだと思うけどね」
「変に天狗になって痛い目見たくないだけだよ。そろそろ時間だし、見回りでもしよう」
「はいはい」
二人は人里から寺子屋までの道のりを子供たちを護りながら歩く。
「まとめて来てくれるから楽で助かるな」
「妖怪なんてでてきませんように」
行去永が道中祈っていると子供達が二人に話しかける。
「なんで今日はもこーがいるの?」
「最近物騒だからお前達を守れって慧音が言うもんだからさ」
「お兄さんは妹紅お姉さんより強いの?」
「まさか、僕は弱いよ。とってもすーっごく」
「男の癖にだっせー!」
「男は強くなきゃ駄目ってお父さんが言ってたよ」
「あはは、手厳しいなぁ」
「ほら、そろそろ時間だろ、行った行った」
「バイバーイ!」
「またねー! 弱いお兄ちゃんともこー!」
妹紅と行去永に手を振りながら子供達は寺子屋へと駆けていく。
「、、、、、、はぁ、子供は苦手だ」
「こりゃまたなんで? 純粋で可愛いじゃないか」
「、、、子供の頃を思い出すから」
「ふーん、、、」
特に何事もなく、寺子屋の一日は終わりを迎えようとする。しかし、事件は夜間に起きた。
──ー
「ふーっ、採点はこのくらいでいいか。今日は夜間は開いてないし早く帰るとするか」
慧音は子供達のテスト用紙をクリップで閉じて一人呟く。窓の外は夕焼けが林に隠れてうっすら見える。
「二人もご苦労だったな、なにか異常はあったか?」
「妹紅さんが戦ってくれたから問題ありませんでしたねー」
「そんなに強い妖怪は出なかったぞ」
「強くなくとも人間の子供達にとっては脅威だ、暫く頼むよ」
「はいはい」
「僕が来る意味なくね?」
三人は話し合った後に寺子屋を後にする。この時慧音は気が緩んだか、寺子屋の鍵を締め忘れてしまった。
夜中。草木も眠り、孤独な静寂が世を満たす。
夜中に人里から出た人間に、命の保証は無い。だと言うのに、考えの浅い小さな子供は忘れ物という些細な理由で簡単に自身の命を危険に晒してしまう。
──ー
(大事な御守りを忘れちゃったけど寺子屋が開いてて良かった)
子供は御守りを握り締めて寺子屋を出る。
(早く帰らなきゃ)
暗闇の中だが、歩きなれた道を間違えることなく進む。
ドンッ
しかし突然、なにかにぶつかり尻もちをついてしまう。
「いたた、、、なに?」
見上げた場所には、真っ黒な甲殻をまとった虫の妖怪が、闇夜に浮かぶ赤い双峰で子供を睨んでいた。
「ひっ、、、!!」
自我のない妖怪は位が低く大した力もない、が、子供一人喰らうことなど容易い。
(神様、、、!!)
妖怪は、大きく口を開き、それを目の当たりにした子供は目を瞑り御守りを強く握り深く祈る。
バグンッ!
妖怪の口の中に少年はいない。
「草木も眠る丑三つ時。そんな喩えがあったなぁ、そういや」
行去永が子供を雑に抱えて木の枝に座っていた。
「魔物が跳梁する時間。外だと夜は危ないから早よ帰れっていう御伽噺みたいなものだけど、、、こと幻想郷に至っては当てはまらねぇな」
ザッ
行去永は枝から降りながらボソボソと独り言を呟く。
「さて、名も無き蟻の妖怪さん。今すぐにここから去れ。そうしたら見逃してやるよ、まだ地獄に行きたくはないでしょ?」
カチカチカチカチ
顎をカチカチ鳴らしながら、言葉を介さずして意図を伝えるように行去永に威嚇する。
「、、、言葉分かってると思う?」
「えっ、いや、僕に言われても、、、」
「だよね。ちょっっとshockingな光景だから、目ぇ瞑ってた方がいいよ」
「えっ?」
キシャァァァ!! ドドドドドッ
カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ
奇声を発しながら二人に猛進していく、しかし行去永が手に握り拳を作ると、妖怪は横スレスレに走り去る。しかし、その先にはこの世とは思えない阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっている。
「言葉も理解出来ない妖怪と弾幕勝負の必要はないな、悪いけど即死ね。それじゃあ文字通り地獄への片道切符、いってらっしゃ~い」
グァゥ!?ギジャァッ!!!
妖怪は謎の空間へと猛進し、そのまま消えていった。
「これでよしっと、で、こんな時間に一体どうした?」
「えっと、あの、、、御守りを、、、」
子供はおずおずと御守りを差し出す。
「御守りぃ? そんなものの為に身を危険に晒してちゃ世話ないな」
その御守りは今朝方見覚えのある守谷神社のものだった。
「、、、、、、知ってる? 御守りって一回その効力に助けられたら燃やして供養するんだよ」
「えっ! そうなんですか!?」
「そうそう、俺は一応神事の関係者だから、代わりにクヨウシトイテアゲルヨー」
「良いんですか? ありがとうございます!!」
「イイヨイイヨー」
(妖怪にあったのが不運なのか、助けられたのが奇跡なのか、、、縁起悪いし燃やしとこ)
「ほら帰るぞ。特別に家まで送ってあげよう」
「何から何までありがとうございます、、、それと、弱いっていってごめんなさい、、、」
「なんのこと? 俺馬鹿だから忘れちゃったー」
二人は人里へと歩いていった。その一部始終を木陰から妹紅は見守っていた。
「、、、、、、やっぱり強いじゃないか、嘘つきめ」
妹紅は右手の掌に炎の玉を作って握りつぶし、そう呟いた。
──
翌朝
「ちょっ!? 行去永さん!! なんでウチの御守り燃やしてるんですか!?」
「こんな縁起の悪いものは燃やすに限るよ、何が奇跡だこの野郎」
「あー今守谷をバカにしましたね!? 許しませんよ!?」
「いつも博麗を馬鹿にする人がどの口を」
「馬鹿にしてません! 事実です!!」
「あんたをたった今ぶちのめすことにしたわ」
「霊夢さん!? 待ってください話をー」
「問答無用!!」
ドォォォンッ! バゴン!!
いつもどおりに幻想郷の日々は過ぎていく。
呪術廻戦の方もよろしくお願いします!