「おいおい、、、人間が、まさか私の酒を飲めないって?」
ゾワァッ、、、
ズキンッズキンッ
全身の毛が逆立つような威圧感、周りの妖怪達はざわめきだし、近くの文と妖精たちも気圧される。だが、それでも行去永は執拗に酒を嫌い、それと同時に未知の頭痛が行去永を襲う。
「、、、断るのは確かにマナー違反かもしれません。でも僕はお酒を飲めない、、、本当に申し訳ない」
しおらしくなるが、行去永は自身の意見を頑として曲げない。
「はぁ、、、お固いやつだねぇ、頭を上げなよ」
萃香は行去永に頭を上げるように言い、大人しく行去永は従って顔を上げる。そしてそれと同時に顔を掴む。
ガシッ
「自分から飲めないってんなら、飲ませてあげようじゃないか!」
「っ!! 待っ!?」
グビンッ
否応なしに瓢箪の酒を口にねじ込まれ、不意に一口飲んでしまう。
バシンッ
「おっと、どうだい? 初めての酒は、、、ん?」
思わず両手で萃香を押しのけるが、飲んだ酒は鬼が飲むような代物、当然一気にアルコールが身体に回る。それと同時に、意識の混濁、異常吐き気と全身の脱力感に見舞われ、その場に膝をつく。
さらには萃香は自身の掌を見つめるが、まるで強火に触れたかのように火傷の跡が残っていた。
最初は酔っただけかと思っていたギャラリーの様子もだんだん変化する。
「おい、、、なんか様子がおかしいぜ?」
「萃香、飲めない奴に無理矢理飲ませたら駄目よ。しかもそんな強い酒」
「行去永さん、お水飲めますか?」
「、、、、、、行去永?」
ガクンッ
行去永の腕が不自然に突如ダラリと脱力する。
「っ!!」
妖夢は謎の恐怖から後退りする。そして気付くと刀を抜いていた。
妖夢だけではなく、霊夢や力のある妖怪達が臨戦態勢に入っていた。
「ど、どうしたんだぜ霊夢? 行去永もちょっとおかしくないか?」
魔理沙は行去永に近づくが、周りの様子を見て足を止める。
(悪神の類? いや、何かがおかしい)
「魔理沙、今すぐ行去永から離れなさい」
行去永の様子は酔いというよりも拒絶、身体に異物が入るのを極端に避けている様子で、じわじわと神通力の類が漏れ出している。
ヴゥンッ
「あら、これは不味いわね」
スキマを通して見ていたのか、紫がどこかから現れて扇子をピシャリと閉じる。
「紫!」
「苦しそうね」
「待って、、、今はダメだ、近付かない方がいい」
右の掌を向けて紫に止まれと合図するが紫はそれでも、その先へ歩もうとする。しかし、そこで紫はなにかに阻まれて立ち止まる。
「、、、、、、」
「ちょっと、何してるのよ?」
「拒まれているわね、、、それがあなたの意思?」
行去永は虚勢を張りながらも、ガタガタと肩を震わせながら滝のように汗を流し始め、首を横にブンブンと振る。
「全く、一体どんな契約を結んだのかしらね」
ヴゥンッ
紫はスキマを使い、拒まれている一種の境界を強行突破する。
「お眠りなさいな、これ以上はその身体が危ないわよ」
紫がスキマを行使し、行去永の背中を叩くとその場で気絶して気配が消える。その場にしばしの間、静寂が流れる。
「さて、一件落着。皆、得物を下ろしなさいな。霊夢、この子を神社に寝かせて頂戴」
紫は倒れた行去永の様子を見ながら笑ってそう言う。
「待ちなさい紫、それで誤魔化せると思わないで」
「妖怪の賢者よ、それで我らが納得するとでも?」
霊夢とレミリアは武器を構えたままでいる。
「一体アレは何なんですか!? 答えてください!」
妖夢や一部の妖怪達も警戒を緩めずに二人を見据える。
「三日、、、いえ、二日待って。私も調べている途中なのよ、二日後に分かっていることを全て話すわ。今の所は安定しているし、彼を見限るのはやめてあげて」
珍しく紫はしおらしい反応を見せるてそうお願いする。
「、、、はぁ~、家事と家計簿作るやつがいなくなると困んのよ、別に見殺しにしたりしないわ」
「人を臆病者みたいに言わないでくれるかしら、彼はうちの居候とフランが気に入ってる人間ってだけよ、全く」
「相変わらず、食えない女ね」
幽香を皮切りに数名の妖怪は興が冷めたと言わんばかりにその場を立ち去る。
「、、、それじゃあ霊夢、早く神社に──」
直後、力が抜け落ちていた行去永の頭が不自然な挙動で持ち上がる。
「いつまで私に触れているつもりだ妖怪。病人扱いをするんじゃあない、退きたまえ」
「「「「!!!」」」」
紫は驚いて手を離すと、行去永はその場でゆっくりと身体を起こして立ち、自身の身体を確かめるように掌を動かす。
その様子を見ている者達は、直感と経験から妖精までもが理解する。神が現れたと。
「、、、聞いてもいいかしら?」
「ん、一考に値する質問なら答えてやろう」
先程までの様子とは打って変わって尊大、かつ傲慢とも言える態度で紫の質問を聞くことを承諾する。
「貴方は何者なのかしら、、、彼なの? それとも憑依や神降ろしの類?」
「無粋なことを言うな、私は八和道行去永本人だ。お前たちが見てきた者の姿だろう」
そう言うとソレは腕を広げてその場で一回転する。
「八和道は私が考案した名字よ。神に等しいか、そのものである貴方がそれを使うのは少し違うのではなくて?」
「何を言う、まさかこの名が自ら生み出したものとでも言うつもりか?」
「、、、、、、どういうこと?」
「私は道祖神、八和道行去永。契約によりそうなった。この名字も、一度神の身を捨てた時に失ったのを私の能力で拾ったに過ぎぬ。過程は貴様が関係したようだがな」
「道祖神、、、ですって、、、?」
霊夢が思わず声をあげると、それに呼応するように静観していた者たちは話に混ざっていく。
「なぁ霊夢、道祖神ってなんなんだぜ?」
「、、、道祖神っていうのは、塞の神、幸ノ神、岐の神、あらゆる名を持つ、古くから存在するかなり上位の神。ポピュラーな例で言うと、行ってきますやお帰りなさいの言霊がそれに当たるかもね」
「流石は神に仕える者よな、いつもはあんなでも知識はある訳だ」
ギィィッバタンッ
「また、道祖神は悪霊や悪鬼達から守る役目が主、そして神が現世へ行く時の通り道を管理する神でもある。数多の名を持つ絶対秘神の私とシンパシーを感じるものよな」
重たい扉が開く音と同時に、霊夢の背後に隠岐奈が現れて説明を付け足す。
「絶対秘神まで出やるとは、そこまでイレギュラーな状態なのかねぇ」
「どうしましょうっ神奈子さま、諏訪子様。なんかまずくないですかっ!?」
「落ち着きな早苗、少なくも向こうはアタシ達の親戚さ。外の世界の神なんだから」
「ただ懸念すべきなのは、神の身を捨てたって言うのがね、、、」
「さて、皆もある程度貴方について知ったわけだし、本題に入らせてもらうわ。貴方の目的は?」
紫は扇子を開き、口元を隠して問うが当の本人は聞かずに状況を把握している。
「ふーむ、私に対する敵意と疑りの目が絶えんな。そこのスキマ妖怪が呼んだ秘神に宴会の吸血鬼、戦神までいるではないか。この短時間に皆のこの警戒中々の手腕ではないか」
「誤魔化さないで答えてくださいな」
ピシャンッ
紫は扇子を音を立てて閉じながら苛立ちを表す。
「そう苛立つな、順に答えてやる。今は私が起きていられる時間は短いのでな」
道祖神はそう言ってそこに鎮座する。
「まず目的だが、お前達と普段から過ごしている私を仮にAとし、今の私をBにするならば特には無いな。侵略や制圧など私の性ではない。道祖神とは言わば絶対防御に優れた神、何かを護ることに存在の意義があるものだ」
「行去永を護ってるってこと?」
「それは違う、この男は捨てられた。それを私が拾ったに過ぎん」
「だからこうしてここにいられるってわけね」
「その通り、私は定形のない神なのでね。私が降りるための器が必要だったんだ。この男は偶然、私の像の前で果てかけていたから丁度良かった」
「でもおかしいわ。貴方、神の仕事を放棄したと言うの?」
「私はあくまで分霊だが、私の本霊がそれを一時的に放棄した。詳しい説明は面倒だが、ここにいる私は分身のようなものに過ぎぬ、そこの軍神や土着神と同じようなものだな」
「じゃあ満足したら帰るのかしら?」
「何を言っている、私はここに永住するつもりだ。いずれ本霊を連れて私と同化しよう。紫といったか? 実に美しい世界を造ったではないか、褒めてつかわそう」
「お褒めにあずかり光栄ね、、、神の力を使って騒ぎを起こさないのなら、私は構わないわ。外の神のお眼鏡に叶ったとも捉えられるし」
「でも貴方はそれでいいの? お酒を飲んだ時にしか出てこれないなんて、随分不便そうだけど」
紫は警戒を解いてそう言い、幽香は疑問を口にする。
「クハハ、安心せい。あと一月もすればこの男の人格は消え、私が表になり裏は消える」
「、、、、、は?」
「もっと簡単に言おうか。この男の魂は死に、私がこの抜け殻となった体を使うのだ。その時にはこの体も私の形に作り直される。文字通り、この男はこの世から消え去る」
道祖神はハッキリ言った、八和道行去永は一月で死ぬと。
「元々死体に近い衰弱した身体。道に落ちている猫や鳥の死体を拾った者がどう使おうと自由だろう?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。それはおかしくない?」
霊夢は珍しく慌てた様子で道祖神に異論する。
「元よりこの男が生きるのを一度放棄したのだ。何もおかしくはないだろう? 折角記憶も弄って生に固執させ、すぐには死なないように色々と弄ってやったというのに」
「弄った、、、?」
「こんな片田舎に幽閉されていた小僧にまともな記憶などあるものか。同じ年頃の別の人間の記憶を流し込んだにすぎない。性格は生来、、、というより、まともに生きたらこうなっていたのだろうな」
道祖神の衝撃の告白にある者は戦慄し、ある者は恐怖する。そして、とある者は異議を唱えた。
異議を唱えるは現人神、東風谷早苗
「そんなの間違ってます!!」
「ちょっ、早苗っ」
「ほぉ、現人神か。で、何が違うんだ? 話くらいは聞いてやろう」
「そんな、人の記憶を勝手に消しちゃったり、改造したり、、、ちょっとロマンはありますけど、最後にはこの世から消えちゃうなんて、、、」
「そんな言い分は私が間違っていることの証明にはならん。何をいうかと思えば私が言ったことを繰り返しただけ。不愉快だ、神罰でも下そうか?」
「おっと、それは私達が許さないねぇ」
「私達の娘に危害を加えるってんなら呪っちゃうよ〜」
一瞬殺す気のない殺気をわざと漏らして嘲笑うが、諏訪子と加奈子が早苗の前に出てニヤリと笑って見せる。
「ハハ、軍神に土着神か。外の神繋がり、見逃してやるとするかな。それに、もう時間も無さそうだ」
自身の震える腕を見て道祖神は一言残していく。
「ではな、一月後にまた会おうじゃないか」
ドサッ
終始一切として感情を高揚させず、その場にいる全員を嘲笑うかのようにして道祖神はいなくなり、その場に気絶した行去永が残った。
「あー、取り敢えず、行去永は神社に寝かせてくるな。よっと、、、意外と重いなコイツ」
魔理沙は半分引きずるようにして行去永を連れて行く。
「何が何だか、、、」
「妖怪の賢者様はそれでいいのかしら」
「、、、相手が悪すぎる。正直今回、私は関与する気はないわ」
「なんでよ、アンタのスキマでなんとかなんないわけ?」
「あくまでも彼と神は表裏一体、同一人物の別人格なの。そこに肉体的な境界は無いわ」
「それに加え、相手は私レベルの神。信仰者の数も信仰の深さもそこらの神の遥か上だ。関わらぬのが吉だろうな」
紫と隠岐奈は無情にもそう言い放つ。大妖怪や神たちは大体が不干渉を宣言、一部の妖怪と人間は納得出来ぬままその日の宴会は総員酔いを覚まして幕を閉じた。
因みに幽香と行去永が割りと仲よさげなのは、宴会前の書いた話を投稿し忘れたからです。