「んぉッ?」
間抜けな声を出して行去永は飛び起きる。
起き抜けに日の光が行去永の顔を照らし、時計を見ずとも寝坊したという事実を知らせる。
(、、、やらかしたかも)
額に手を当てて怒られる覚悟をし、霊夢のいるであろう台所へと向かう。
しかし、途中の居間で当の本人は呑気にお茶をすすっていた。
「おはよう。気分はどう?」
「まぁ、、、良くはないですね」
「そ、私はもうご飯は済ませたから。あとあんたは今日は紅魔館に行きなさい」
「え、、、何で?」
言われたことを飲み込めないまま行去永は目を点にする。
「フランが宴会に参加できなくてストレス溜まってるらしいのよ。レミリアは用事があるから紅魔館を留守にするらしいし、アンタが遊んで解決してきなさい」
「あー、納得。でも僕男なんすけど」
「なによ、あんたロリコンなわけ?」
「あれでも僕の三十倍くらい生きてる人ですけど、、、まぁ、ロリコンではないんで行きますよ」
「じゃあ、なるべく早く行ってきなさい」
フランの危険性を知っている行去永は渋々と、しかし被害を出さないためという思いを持ちながら紅魔館へと向かっていった。
「、、、、、、紫、いいわよ」
ヴゥンッ
「悪いわね、霊夢」
「まさか二日も昏睡だなんて、、、」
「神を体内に飼うなんてそんなものよ。一人の人間には出過ぎたマネだもの」
パチンッヴゥン
紫が指を鳴らすと再びスキマが開き、幻想郷の名だたる賢者たちが現れる。
絶対秘神、摩多羅隠岐奈
永遠に幼き紅い月、レミリア・スカーレット
月の頭脳、八意永琳
山坂と湖の権化、八坂神奈子
土着神の頂点、洩矢諏訪子
「ったく、神やお偉いってのはどいつもこいつも暇なわけ?」
「今回はたとえ暇でなくとも集まるべき議題よ、博麗の巫女なら今回の件を軽視しないほうがいいわ」
「それ、結局今回は暇だったってことじゃないの」
「無駄話はやめな」
「そうよ、さっさと本題に入りなさい折角この私が昼間から起きてるというんだから」
神奈子とレミリアが話を中断させ、紫が今回の本題に入る。
「堅苦しい挨拶は抜きにして、調査の結果を話すわ。まず、幻想郷に来る前の行去永の情報、これに関しては簡単だったわ。少し外に行って歴史をスキマで少し探ったら出てきた」
「確か、捨てられたんだったかしら」
「えぇ、地図に載らないような片田舎で少し他人と違ったからぞんざいに扱われ捨て子となったってところね」
「でも、それにしては外の最近の知識を多く持ちすぎじゃない?」
「それは私から話そう」
隠岐奈が割って入り、調査結果を話す。
「結論から言うと、外の世界の道祖神は健在だった」
「そりゃそうでしょ、事実を目の前で見てるんだから」
「違うぞ霊夢、彼じゃない。もう一柱だ」
「「「?」」」
「どういうこと?」
「うむ、詳しく話そう。まず、私達が二日前に見たのは八和道行去永という、人間を依り代とした神の姿だった。幻想郷にその神がいるということは当然外の世界の道祖神はいないはず、、、だが、外では彼の神は健在だった」
「どっちかが分霊じゃないのかい?」
「それにしては神気がハッキリしすぎている。あの話し方からしてその線は薄いだろう」
「彼が道祖神を騙る偽物ってことは?」
「それも残念だが無い、神奈子と諏訪子は分かるだろう?」
「ちょっと待って、、、そんなことが可能なの? だってそれは月でさえも成し得ることのできない技術よ」
「突飛な考えだと思うけど、本当にそういうことなの? パチェに聞いたことあるけど、、、にわかには信じ難いわよ」
「ちょっと、もっと分かりやすく話してくれない?」
隠岐奈の言っていることに永琳やレミリア達が察し始めるが、話が見えてこない霊夢は苛立ちながらお茶をすする。
「要するにだ、彼はこの世界の道祖神ではない、恐らくは、、、平行世界の道祖神、とでも言おうか」
「、、、、、、はぁ?」
「淑女がそんな顔をするな、ありえない話ではない、、、何故なら」
道祖神の能力は、あらゆる道を作り、歩み歩ませる程度の能力なのだから。
「道を作る、、、?」
「あぁ。だが、こちらの道祖神はそこまで大きな力は無い、だからこそおかしいと思った。あらゆる可能性を模索し辿り着いた結論。それが、平行世界にいる強大な力を持った道祖神が、何らかの理由からこの世界へと道を作り、辿り着いてしまったということだ」
「平行世界だなんだと言い出したらキリがないじゃない、そんなのは偶然でしょ?」
「そうね、偶然よ、、、約六垓七千京分の一の、ね」
永琳は計算の結果から紡がれた途方も無い数字を言葉にし、現実に二回と起きない可能性を話す。
「話を続けよう。恐らくは"向こうの行去永に当たる人物"の記憶をこちらの行去永に流し込み、あの人格を形成させ、こちらの世界に住み着いているのだろう」
、、、、、、、、、
結論が放たれたその場は、水が打ったような静けさに満たされ、同時に暗く重たい空気がそれぞれから湧き出る。
「これが本当だとすると、道祖神は絶大な力を持った神、、、それこそ、最低でも私と同じレベルの力を持つ神ということ。それを分かった上で私は結論を出したわ、私の選択は、、、何もしない」
「ちょっと、それ本気で言ってるわけ? 妖怪の賢者ともあろう者が、とんだ弱腰ね」
霊夢は怒りを微微に漏らしながら紫に煽言を吐きつけるが、その言葉を聞いた幻想郷の重鎮達は無言を貫く。
「ちょっと、あんた達も本気で言ってるわけ? 人一人殺して神を卸すっていうの? なんの罪もない一人の人間を、ただの気まぐれで!?」
「、、、悪いけどアタシ達は幻想郷に助けられてる、隠岐奈が言ってることが正しいなら、下手に手を出さないのが吉さ」
「私は悪いけど神奈子と同意見、紫に賛成だよ。元より私達は住まわせてもらってる側だしね」
「ちょっと!」
「永遠亭も、全面的に反発するつもりはないわ」
「私も異論は無いわ」
「永琳まで、、、!」
続々と賢者、神たちは一人の人間の命と引き換えの安寧に賛同する。
妖怪や神にとって、この選択は当たり前に正しいこと。しかし、彼女達と短くも濃密な時を過ごした彼は、既に幻想郷の一員として認められてしまっていた。
そんな中、一人の妖怪は異を唱える。
「私は反対」
「、、、レミリア!」
「あなた、、、本当に意味を分かって言ってるの?」
「ええ、勿論。私のかわいい妹が行去永を気に入ってるし、将来的には私の従者にする予定なんだから。あとは、そうね、、、」
紫の問いかけにレミリアは声のトーンを更に低くして怒気を漏らす。
「私以外の者が運命を決めるのは許さない」
「そう、、、なら、予め言っておくわ。もしも幻想郷にとって害を成すとわかれば、、、その時は分かるわね」
紫の金色の目が真っ直ぐとレミリアを見つめ、同じように見つめ返す。
パァンッ!
「双方、そんな殺気を漏らすな。博麗の巫女、紅魔の主、各々の考えを否定する権利は誰にも無い。ここはそういう場所だからな」
「「「、、、、、、」」」
「いい頃合いだね。考えは明言したし、私等は帰るとしよう。行くよ諏訪子」
「はいはーい」
シャッ
神奈子と諏訪子は紫のスキマを使わずに神社の障子を開けて出ていく。
「私は元よりそこまで幻想郷について深入りするつもりはないわ。ただ、もしも永遠亭にとって害となりうるならば対策するだけ。精々頑張りなさい、博麗の巫女と紅魔の主」
「霊夢、全て理解しろとは言わん。だが、時には受け入れることも重要なことだと、この機会に知るといい」
永琳と隠岐奈もそう言い残しその場から去っていく。
「霊夢、、、貴方には酷なことかもしれないけれど、これが最善なの、理解も納得もしなくてもいいから受け入れて頂戴」
「、、、、、、」
ヴゥンッ
紫はスキマを開き、不安げな表情を残したままにその場からいなくなった。
「、、、フン、妖怪の賢者というのも大したことのない臆病者ね。この幻想郷に一体どれだけの戦力があると思ってるのかしら」
「アンタが平常運転で安心したわ」
「当然、私はいずれ幻想郷の頂点に立つんですもの。で、話は戻るけど、具体的にどうするつもり?」
「どうにでもなる。て、言いたいところだけど、今回は流石にヤバいかも。取りあえず、この件に関与してない神や名のある妖怪の力でも借りようかしら」
霊夢はお祓い棒を持って立ち上がり、次に行く場所の目処をつける。
「そ、私は夜から動くから昼は任せたわ。咲夜」
「はい、お嬢様」
バサッ
レミリアはニヤリと悪童的に笑い、咲夜の名を呼ぶと、傘をさして神社から帰っていく。
帰りがけに一言、霊夢に言い放って。
「、、、霊夢、万が一が起これば、私は彼を殺せるわよ」
パタンッ
「、、、、、、そう。私にもあるわよ、その覚悟くらい」
一月半、ただその程度の付き合いの人間が神と同格になる。そして、それが幻想郷に仇なす存在であれば、楽園の巫女として、果たさなければならない使命は一つ
彼を"退治"すること。
書いてみて気づいたこと。
あぁ、今回短ぇ!