「霊夢さーん、起きれますかー?」
「無理、、、ダルい、、、」
「それは困ったなぁ、、、」
行去永は濡れタオルを霊夢の頭に乗せながら虚空に呟く。一際頑丈で病気知らずの霊夢が風邪を引いてしまい、その看病を行っているところだ。
「こういう時に限って魔理沙は来ないんだもんなぁ。チルノの氷を頭から被ってほっとくからこうなるんですよ」
「うるさいわね、悪かったわよ、、、私はもう大丈夫だから離れなさい。風邪伝染るわよ」
「いやいやいや、看病する人居なくなるのは霊夢さんが困るでしょ。ここまで弱ってる人見て見捨てるほど、僕は流石に鬼畜な人間じゃないっすよ」
「変なところでバカなのね」
「風邪引かないから儲けっすね。あ、失礼しますよ」
おでこに手を当てて体温を測りながら軽口を叩く。
「んー、八度七分ってとこですかね。食欲も無さそうですし、今は安静にして寝ててください」
「ん、、、」
霊夢は短く返事をすると素直に眠りに入り、寝息を立て始める。
「博麗の巫女ねぇ、、、こうしてみると幼い顔つきだな。、、、年下だから当たり前か」
ガラッ!
ボソッと呟くと突然居間の障子が開き、妖精達の声によって一気に騒がしくなる。
「れいむー! 今日も遊びに来たぞー!!」
「お邪魔しまーす!」
「待ってよーチルノちゃーん」
パァンッ!
行去永は少し大きく柏手を打つと、再びその空間は静けさを取り戻す。
「今日は博麗の巫女はお休みです。霊夢さんは体調が良くないので騒がしくしないで」
行去永は口元に人差し指を立てて静かにしろという意図を伝えると、しゃがんでコソコソと静かに妖精達は話し出す。
「霊夢が風邪? 明日は槍でも降るんじゃないか?」
「バカは風邪引かないっていうのにな」
「チルノが引いてないからそれは合ってるでしょ」
「天才のアタイに向かってなんだとー!!?」
チルノは立ち上がって大声を出すが行去永が睨みつけて静かになる。
「うるさいってのが分かんなかったの?」
「、、、、、、ごめんなさい」
「あ、ごめん、強く言い過ぎた。でも、病人の前では静かにしようね」
行去永は妖精達にお菓子を置いてお茶を淹れると、忙しそうに今日の雑事を終わらせていく。
「行去永さん、大変そうですね」
「ん? まぁ、ぐうたらに見えるかもしれないけど、普段あれでもあの人は博麗の巫女だからね。意外とやることあるんだよ。ほら、夏だからお盆もあるし」
「霊夢さんはいつ治りますか?」
「僕は医者じゃないからなー、それは分からないよ」
「永琳の薬はよく効くって人里で評判だぞー」
「永琳っていうと、あのーあれ、赤青の服の怪しい医者?」
「そう、その人。その人のところには行かないの?」
スターサファイアが提案するが、行去永はそれを否定するように手を振る。
「それは駄目かな。僕がいない間に霊夢さんの容態が悪化したりしたら目も当てられない。魔理沙が来てくれたら別なんだけどね」
溜息混じりにそう言うと、チルノは突飛な提案をする。
「じゃあ! アタイ達が面倒見てやればいいんじゃないか?」
「それは無理、、、でもないか、、、?」
(うん、無理じゃないな、少なくともマトモな子が一、二人いるし)
「おーい、どうしちゃったの?」
「行去永さーん?」
行去永は黙り込んで考え、突然閃いたように話し出す。
「よしチルノ、そのアイデア採用しよう」
「へ?」
「台所にはお粥を作ってあるから霊夢さんが食欲ありそうだったら食べさせてあげて、ニ時間ごとにタオルを濡らして額に乗せること。んでもって、魔理沙や他の人が来たら看病を手伝ってもらうように頼ってね」
「へ? ん? えっ?」
「ちょっちょっ待って待って」
「あぁ大丈夫、紙に書いておくから分からなくなったら見るといいよ」
妖精達の反応を気に留めずに早口で話しを無理矢理続け、そのまま立ち上がって外出の準備を始める。
「あの、行去永さん?」
「おーい、行去永ー」
「じゃ、任せた! 天才妖精達!」
行去永は神社の外へと走り出していった。
「ど、どうしようかチルノちゃん、、、?」
「ぅ、、、うおぉー! 見たか今の行去永の態度!? アタイはやっぱり天才だー! やるぞ大ちゃん!!」
「えー、、、」
「やっぱりお前ってクレイジーだなー」
チルノは行去永の一言に簡単に乗せられ、続く妖精達も霊夢の看病をすることになった。当の行去永は永琳の元へ行くために、能力を使って空中を移動していた。
ダッダッダッダッダ
(わざわざ正直に迷ってやる必要なんかないもんね)
迷いの竹林の上空に到着し、件の建物を発見すると、再び空中を駆けていく。
「ほい、とーちゃーっく」
古い日本の屋敷であることに変わりはない永遠亭。しかし、少しも古びた様子を見せないのは永遠亭の主人、永遠を操る蓬莱山輝夜の能力故だろう。
「どこから入ればいいんだこれ、、、」
正門を通らずに直に庭に着地してしまったため、本来のルートを見失い、途方に暮れていると優曇華が声をかけてくる。
「えっ!? あれ? 正門は開いてないのになんで!?」
「おっ、あの時の兎さん。どうもおはようございます」
「えっ、あぁ、おはようございます、、、」
「赤青の医者、、、永琳さんを探してるんだけども、どこにいるのか教えてくれないかな?」
「あ、患者さんでしたか。それならこちらに」
優曇華は行去永を永琳のいる診察室へと案内する。
軋む音の聞こえない古い日本の屋敷に新鮮味を覚えながらすぐに永琳の元へと到着する。
コンコンコン
「お師匠様ー、患者ですー」
「入ってちょうだい」
ノックをして合図とともに入室すると、行去永は奇異な目で見られる。
「あら、貴方はこの間の、、、」
「どうも、お久しぶりです」
「今日は病気? それとも怪我?」
「あ、申し訳ないんだけど僕じゃなくて、薬が欲しいのは霊夢さんなんですよね」
「霊夢が? 珍しいわね、風邪?」
「症状は概ね同じなんで風邪薬だけ貰えれば」
「調合するから少し待ってて」
そう言うと永琳は背後にあるすり鉢などで薬草をすり潰し、薬を調合していく。
「そういえば聞いたわよ。サグメが一緒にいても何故か嫌じゃない不思議な人間がいたって。それってあなたでしょう?」
「サグメと知り合いなんですか?」
「一応、私は月の都の出身だもの」
「つきのみやこ? それ、サグメと関係あるんです?」
「、、、あの子何も言ってないのね。あの子は月の都っていう場所の住人なのよ」
「、、、そういう名前の場所? それとも」
永琳は真上を指して断言する。
「文字通り、月よ」
「わぁ、月かぁ。スケールデカいなぁ、、、今度行ってみようかな」
「フフッ、どうやって行くつもりよ」
「んー、月までの距離は38万 kmだっけ。ロケットは放物線軌道に乗って、最短で大体マッハ22だかで動くけど、僕はその軌道とその他諸々の邪魔を無視出来るから、、、まぁ、最初だと二時間くらいで行けなくはないっすね」
永琳が冗談と受け取り鼻で笑ったにも関わらず、指でくるくると円を描きながら行去永はあっさりとそう言い放つ。
「、、、、、、本気で言ってるの?」
「まぁ、そういう能力ですし。行きは時間がかかるけど、一度行けば道は開通しますから二回目以降はもっと早いですねー」
(神の能力、、、抑えられていてもそれ程までに便利なものなの? それとも、、、いえ、よしましょうか)
カタンッ
永琳は考えを深めるのを防ぎ、調合を終えて器材を置くと行去永に問いかける。
「それじゃあ月の都まで少しお使いに行ってくれないかしら?」
「まぁ、内容次第ですけど」
「別に大した内容じゃないわ、手紙をサグメか綿月姉妹に届けて欲しいのよ」
永琳は封筒を胸から用意してピラピラ振って見せる。
「、、、健全な男の子の前で、あんまり、そういうのは、良くないかと、、、」
顔を片手で隠してぎくしゃくと行去永は言うと、からかうようにして永琳は笑う。
「ごめんなさいね。しまうところが無かったから、つい。それで、受けてくれるかしら?」
「要するに行って帰ってくるだけですよね? だったら問題ないっすよ。サグメにも会いたいし引き受けます」
「良かった、それじゃあこれ飲んで」
永琳はピンク色のいかにも怪しい液体を行去永にビーカーで渡し、手紙に文字を追加していく。
「え"なんで?」
「月の都は色々あるのよ、ほら遠慮せずグイッと」
「、、、死ななきゃいいか」
ゴクン
飲み込んでも特に体の変化は感じられず、永琳は風邪薬を渡してくる。
「届けるのは今日か明日で良いわ。あと、私や輝夜のことはサグメと綿月姉妹以外に話さないで。それじゃ、お大事に」
「結局あれなんす──」
「お大事に」
「、、、へーい」
半ば強引に帰らされ、渋々と帰路についていった。
「、、、永琳、良かったの?」
「何がですか?」
輝夜が寝間着姿で永琳のいる診察室へと入ってくる。
「彼、死ぬわよ?」
「、、、では、賭けてみましょうか」
「賭け?」
「彼が死ぬか、生きて戻ってくるか」
「、、、いいわよ、暇つぶしになりそうだし。私は勿論死ぬ方に賭けるわ」
「私は生きて帰ってくる方に賭けましょう」
二人の蓬莱人は行去永の生死についての賭けを、まるで神を嘲笑うがごとく話す。
「では負けた方は買った方の言うことをなんでも一つ聞くということで」
「うふふ、何をしてもらおうかしらね」
──ー
「じゃ、また出掛けるからよろしく。薬はさっき言った通りだし、用事が終わったらお土産持ってくるからねー」
行去永は博麗神社に戻るやいなや、妖精達にそう告げて再び博麗神社を飛び出していった。
「完全に放任ね」
「まぁ、良いんじゃない? チルノとかピースも楽しそうだし」
「いつもと違って新鮮だし楽しいしね」
光の三妖精は二人が賢明に看病する姿を見ながらお茶を飲んでいた。
「にしても、行去永さんて寝てるのかしら?」
「確かに、目の隈酷いよね」
「今度安眠出来るように周りの音を消してあげようかしら」
「じゃあ私はなにも見えなくするー!」
「それ、人間は困るんじゃないかしら、、、」
──ー
カランカランッ
「いらっしゃいませー!」
小気味良い音を立てながら、行去永は人里のとある場所に寄っていた。扉を開けると、幼いながらも書店を切り盛りしている少女、本居小鈴とその友達の稗田家当主が姿を見せる。
「あっ、行去永さん、例の本なんですけど」
「あー、やっぱ見つかんなかった? まぁ、時代が外とは違うからなー」
「いえ、香霖堂の店主さんから譲って貰いましたので、お売りできますよ」
「あー、魔理沙御用達のあの店? へー、ある所にはあるんだ。じゃ、貰おうかな」
「はーい」
小鈴は店の奥に行き、本が汚れないように梱包していく。
「外の本、手話というものですか、、、何故それを? 行去永さんは普通に話せますよね」
「友達がね、ちょっと話すのが難しい人だからさ、一緒に話せたら楽しいだろうと思って」
「なるほど、、、計画だ打算だと言う割には、意外とお節介ですね!」
「どうだろうねー、それも計画のうちかもよ?」
手をぷらぷらと振って軽く話を流すと、丁度本の梱包が終了する。
「はい、梱包終わりましたー」
「毎度ながら丁寧だねぇ。じゃ、バイバーイ」
カランカランッ
「お節介焼きよね、誰が見ても」
「あはは、阿求と似たようなものでしょ?」
「それを言うなら小鈴でしょ?」
誰もいない店内で二人の少女はいつものように笑い合う。
その場を後にした行去永は煎餅が売っている店へと出向き、お土産用と書かれた数種類の煎餅を買う。
(土産くらいはいるよな、、、酒は買えないし煎餅でいいか)
その後、行去永は誰の目も届かない森へと足を運ぶ。
「さて、、、妖怪の山は真反対、魔法の森でもないから誰もいない。初めての長距離移動、成功するといいなぁ」
行去永は周りがほんのりと薄暗くなる中、明るく妖しげに光を帯びる月を見上げ、頭の中でルートを構築し始める。
(能力のおかげで僕には重力や軌道は関係ない。ただ真っ直ぐに最短を行けばいいい)
「よし、、、」
カラカラカラ
行去永は空に向かって、文字通りに駆け出す。重力を無視し、垂直に地面を走るかのように月へ向かって上っていく。能力を使ってトンネルのような真っ暗な空間へと入っていく。
(宇宙は魔法使わないと外に出れないな)
自身の周りだけ、幻想郷の空間になるように魔法を使用し、再び宇宙空間を上っていく。
(多分宇宙に入って、今どの辺だ? 外だと計算上はあと三十分くらいだけど、、、)
真っ暗なトンネルをそんなことを考えながら走り続ける。
──ー
「そろそろ出るか」
カラカラカラ
ゾワァッ
二時間通して走り、トンネルを抜け出して外に出ると、何も見えない宇宙へと放り出される。
「やっっば、怖っ」
例えようのない恐怖感と不安感が身体に巡り、背筋を凍らせるが、月まで目前と言うことに気づき冷静に道を創る。
「ここまで来たら直でいいか」
タッタッタッ、フワッ
月面に目測より長い時間歩くと無重力を一瞬感じて着陸する。
「おー、地球はほんとに青かった、、、当たり前か。さて、月の都とやらはどこだろな」
能力を使ったり使わなかったりしながら、無重力を体験して都を探すが、いつまで歩いても都は見えてこないことに疑問を抱く。
「んー? 行けばすぐ分かると思ったけど、、、あぁ、結界か? じゃあ、、、総当たりでいいか」
その場に立ち尽くし、能力を使って総当りし、結界を発見する。
「、、、、、、、、、おっ、ぶつかった。意外と近い、お邪魔しまーす」
結界に無断で侵入するが、能力のお陰でアラーム等が鳴ることはなく、月の都の全容を観る。
「おぉー、地球を見るよりよっぽど驚くなこりゃ」
空は黒く、寒いわけでもなく適温。朱く華やかで 行去永の記憶にある中華風の建物が郡をなし、何故か息ができて重力があることに気がつく。
「結界の効果か? ま、いいや、サグメはどこかなーっと」
ザッザッザッ
大胆に都へと歩いていくと、兎の耳を生やし、手には銃剣を装備している二人組の月人を発見する。
「これはたまげた、ほんとに月には兎がいたのか」
行去永が独り言を呟くと、その人物達は慌てた様子で銃剣を向けながら行去永に近づいていく。
「な、何者だ!? どうやってここに来た!?」
「あ、怪しいけど別に何もしないです。走ってきました」
「何処から!?」
「アレから」
行去永は地球を指さして笑うと、もう片方の人物は
銃の引き金に手をかける。
「いや、だから信じられないかもしれないけど地球から友達に会いに来たんだってば」
「そんな話は信じられるか! 穢れを持つ地上の民が月の都に入るのは重罪、悪く思うな」
ダンダァンッ
二人の人物は引き金を引き、耳を劈く音をたてながら銃弾が発射されるが、弾は全て逸れていく。
「「何だと!!?」」
「こっちも約束あるんだよ、悪いけどサグメの居場所を教えてくれない?」
「まさかっ、妖怪が再び攻めてくる為の斥候!?」
「そんなんじゃないってば、、、あ、ほら煎餅でも食って落ち着けって」
行去永の話に耳を傾けることもせずに月人達はトランシーバーを使って増援を呼ぶ。
「地上の妖怪が単騎で結界内に侵入! 謎の力により迎撃失敗、増援を要請する!」
「あっこら、待てってば、、、うわっ、やば」
増援を呼んだと同時に連携の取れた動きで行去永はあっという間に囲まれて銃剣を向けられる。
「、、、、、、交渉の余地はあったりする?」
「「「無い!!」」」
「はぁ、、、マジかよ」
ダダダダダダンッ!!
声を揃えてそう言うと、一斉に銃弾を発射する。
行去永はその場で跳び上がりそれを回避し、適当に銃弾を月人の周りを飛び回らせて空中を歩き始める。
「こっちも暇じゃないんだ、自分で探すよ」
月人達は味方の弾に被弾しかけ、話を聞く状態ではなくなる。
「うわぁっ!」
「なんで銃弾がこんな動きするんだ!?」
タッタッタッ
「見た目より遠いな、、、ん?」
月の都の前には、銀と紅いの鎧を身にまとい、大きな剣を帯刀している大柄な月人、それの後ろに控える兵士のような者が数名構えている。
「たかが一人の妖怪に何を手間取っている、、、」
「玉兎達はこれだから、全く」
トンッ
「Hello、一応聞くけど話は通じる?」
「地上の妖怪の侵攻か?」
「いや全く違う。何度も言うけど僕は友達に会いに来ただけだからさ、ここにその人を呼ぶか案内してくれない?」
「断る、そもここに地上の穢れが存在しているのが問題なのだ、大人しく死ね」
「穢れってのが何かは知らんけど、こっちも頼まれごとなんだよ。約束は守るのが筋だろって」
そこまで言うと近衛兵達は剣を抜いて構える。
「殺せ、相手は地上の妖怪一匹、時間はかかるまい」
ドドドッ
カラカラカラ
先行した三人が斬りかかるが、行去永の横をスレスレに剣が通り過ぎる。
「「「!?」」」
「俺は戦ったら脆いし弱いけどさ、当たらなかったら意味ないよ? 今日はある程度準備してきたからね、少し強気で行くよ」
「ハァッ!!」
ガゴンッ
近衛達は再び剣を振るうが、次は味方に柄を振り下ろし、三人揃って自滅してしまう。
「、、、下がれ、私一人でやる」
銀と紅の鎧の近衛は剣を抜いて歴戦を思わせる足取りで行去永に向かう。
「おい、待て待て、、、アンタは絶対ヤバいだろ」
「ヌンッッ!!」
バゴォン!
行去永は能力で剣撃をズラすが、横の地面がひび割れ、その瓦礫が僅かに顔に当たる。
「ハアァァッ!!!」
ブゥオォンッ!
タンッ、トッ
行去永は再び剣撃を繰り出す近衛から一歩離れて空中を走り出す。
そのまま重力を完全に無視し、走った場所が地面かのように縦横無尽に適当に歩き始める。
「! 一体どんな力だ、、、」
「このままでいいから聞いてよ。ほんとに何もするつもりはない。俺は侵略とかそういうのは嫌いなんだよ」
「信用出来るものか!!」
ブゥオォンッ!!
剣撃を連続して繰り出すがそのいずれも当たらずに空を切る。
(ジリ貧だ。隕石でも落とすか? いやそれは信用が消えるか、元々ないけど)
「あっ、じゃあワタツキ姉妹ってのを呼んでくれよ! 多分話が通じるだろうし!」
「呼びましたか?」
ヒュッ、ザシュッ
「は?」
ほんの僅かの隙で背後に刀を構えた女性が行去永の背を斬り裂き、行去永は咄嗟に前に跳ぶ。
「依姫様っ!!」
「貴方達は下がりなさい、私が片付けます」
「はっ!」
依姫と呼ばれる月人は近衛達を下がらせると刀を行去永のいる方に突きつける。
ザッザッザッ
「ちょっと、誰か知らんけど一張羅が台無しなんだけど」
何事もなかったかのように歩いてくる行去永をしっかりと見据える。
「八雲紫の差金ですか? 穢れ、、、」
(? この男、穢れを纏っていない?)
「だから違うってば、穢れが何か知らないけどサグメに用事があるだけだってば」
「、、、サグメ殿は月の賢者だ、そのような噓を信じられるものか」
「月人って頭固ったいのね、、、荒事は苦手なんだけどなぁ」
行去永はぼやきながら、地に伏している近衛の剣を足で弾き握ると、能力を行使する。
カラカラカラ
「戦ってる間くらいは話を聞いてくれたりする?」
「それはあなた次第だっ!!」
ギィンッ! ヒュッガインッ
依姫の刀を受け、能力を織り交ぜて受け流していく。
(動きがどんどん洗練されていく、、、何故当たらない? それに、何故か神を降ろせない、、、)
(最大限ズルしてコレかよ、、、攻めは苦手なんだってば、てかなんで神がこの辺にいるんだよ仕事してろ!)
「俺は縁あってサグメと地上で出会ったんだよ、本人をここに呼んでくれ! 多分なんとかなる!」
「では何故わざわざ月に来たのです? 地上で待っていれば良かったの、にっ!」
ビュオンッ!!
「危なっ、話聞く気あるんならもう少し優しくしてよ!」
(チッ、やりたくないけど仕方ないっ)
「!!」
カラカラカラッキインッ──ゴォンッ!
行去永は近くの宇宙空間から比較的小さめの隕石を寄せて月面へと直撃させ、砂埃を起こす。
「煙幕など無駄です!」
ブォンッ!!
依姫は砂埃を払う、その視線の先には剣を捨てて頭を下げる行去永がいた。
「信用できないなら拘束してくれて構わない、その間怪しい動きをしたら殺せばいい、とにかくサグメに会わせてくれれば解決するんだって! 頼むよ!」
「、、、、、、、、、」
「依姫、それでいいんじゃない?」
「お姉様っ!」
依姫の後ろに扇子を持ってにこやかに笑う人物、豊姫がいつの間にかいた。
「ほら、交戦する気もないし、貴方なら万が一にも負けないでしょう?」
「っ! 、、、はぁ、分かりました」
「ウフフ、じゃあ拘束してくるわね」
豊姫は頭を下げている行去永に向かって歩き、話しかける。依姫はそのうちに近衛達を都へと帰還させる。
「こんにちは、地上の人間さん。私は豊姫といいます。悪いけど拘束させてもらうわよ」
「交渉成立?」
「えぇ」
「殺さない?」
「何もしなければね」
「、、、待って待って、安心感で吐きそう」
行去永は膝から崩れ落ちて喉を抑え、ボタボタと汗を流す。
「もう、生きた心地がしない、、、、、、」
「あら、さっきまでとは随分違うわね」
「あーもうやだ、、、オエッ」
ぼやきながら手を差出すと、謎の紐に拘束される。
「ん!? 痛っ!?」
「少し辛いかもしれませんが我慢してくださいね」
ポサッ
「あっ、ちょっと、それ拾っていいですか?」
「なんですかそれ?」
「サグメか綿月姉妹とやらに渡す手紙っすよ、これが元々今回の目的なんで、煎餅と本はお友達用」
「あら、じゃあ拝見しますね」
「あぁ、貴方が綿月姉妹っすか、なら良かった」
豊姫は手紙を拝見すると笑顔を見せた後に最後の文章を読んで笑顔を貼り付けたまま、行去永の拘束を解く。
「おろ?」
「姉様、どうしました?」
「依姫、これ見て」
豊姫は手紙を依姫に見せ、コソコソと話し出す。
「へっ? 八意さまの近況報告ですか?」
「そこじゃなくて最後よ最後」
「えっと、来てもらってばかりで悪いからこちらからも使者を送ります。文通がやりやすくなる為の重要な人なので乱暴はしないように、、、」
「「、、、」」
((やってしまった))
「急に拘束解いてどうしたんですか?」
「、、、いえ、なんでも無いのですよ、はい。取り敢えずサグメを呼ぶから私の家まで行きましょうか」
「? 了解っす」
「貴方たちは下がりなさい、この者はこちらで処理します。それと、他言は無用です」
「「「はっ!」」」
依姫が近衛と巡回兵たちに同様の話を通した後、
裏道のような場所を通り、人目につかないように豊姫の家の一室へと案内され、依姫と共に暫くの間待たされる。
「拘束は無くていいんすか? それにお茶まで」
「、、、一つ確認ですが、貴方は八意様と知り合いなんでよね?」
「まぁ、そうですね。あ、このお茶上手い」
「始めから八意様のことを私に言っていただければ、、、」
「急に背中斬られて殺す殺す言われたら無理くないすか?」
「う"っ、その件についてはすいませんでした」
「別にいいですけど、もう終わりましたし」
隠しきれない、小さくない怒りがピリピリと漏れ出る。依姫は超がつくほど真面目な性格なため、自分自身を先程から叱り、自己嫌悪に陥っている。その時、不意にノックが鳴る。
コンコンコン
「失礼する」
「あ、サグメ、やっほー」
その場から手を振ると、小さくサグメも手を振って返す。
「本当に知り合いなのですか、、、?」
「地上での恩人、そして友人だ」
「え、喋れんの?」
「この機械を使えば、ある程度は話せる」
「うぇえ? じゃあこの本は無駄になっちゃったか」
手話の本を取り出して見せるがサグメはそう思っているわけではなさそうで、興味津々にそれを見つめている。
「見たい?」
「是非とも」
「じゃ、どうぞ」
サグメは片翼をパタパタとさせながら本を開き、手の形を真似していく。
話においていかれている依姫はその様子を静観する。
「喜んでもらえて何より、用事も済んだし僕は帰ろうかな」
「今度はいつ来るんだ?」
ガチャ
サグメが本を閉じて問いかけるとちょうど扉が開き、団子を人数分持った豊姫が入ってくる。そして、行去永が返した答えは中々に冷徹な物言いだった。
「え? もう二度と来ないと思うけど」
「「へっ?」」
姉妹の声が重なる。
「なっ、なぜ? 交通が悪いのは知っているが、なんで?」
「いやまぁ、交通に関しては問題ないよ。それよりも、毎回来る度に殺されかけてちゃたまったもんじゃないし、何よりここでは僕は穢れ? なんでしょ。穢れとやらは月に来ちゃいけないみたいだからね。人を中身で見ずに偏見だけで見るような人が沢山いる場所はこっちから願い下げだし。あ、サグメは違うから、幻想郷に来たら声かけてね」
「まっ、待ってください!」
「まぁ急ぎじゃないし待てるけど何すか?」
「こ、今後はこういったことは無いのですから気軽に訪ねていいんですよ?」
「遠慮します、居心地悪いですし。永琳さんのお願いももう聞くつもりないから安心してください。僕はもう来ません」
「えっとー、ほら! サグメに会える機会が減りますよ?」
「それは残念だけど仕方ないね、会えたらラッキーくらいで考えときます」
姉妹はあれやこれやと意見するが、実は行去永は全て分かって言っており、心の中で復讐がてらにほくそ笑んでいる。
(少しくらいは鬱憤を晴らしても構わないよな)
「もういいですかね? そろそろ帰りたいんですけど」
「、、、あっ!!」
突然豊姫は声を上げると、さらに突拍子もないことを言い出す。
「ならば私達も一緒に地上に連れていってください!」
「一体なーにを言い出すんだこの人は」
うっかり口に出てしまったと言わんばかりに慌てて口を塞ぐが、それをお構いなしに豊姫は話し続ける。
「私達が直接八意様に経緯を話せばいいのです!」
「姉様!?」
「いや無理無理無理、あんた多分お偉いさんでしょうが」
「仕事の方は問題ありません! 貴方の力でパパっと飛べば良いのです!」
「妹の方もなんか言ってやってよ」
「確かに、それなら問題ないかもしれません、、、元々何回か行ってますし」
「マジカヨー、、、、、、サグメは?」
「私もそれでいいと思う」
「いや、そうじゃなくてね。行くのはもういいや。問題ないし、サグメも来る?」
「、、、同行しても良いだろうか」
片翼をパタパタと動かし、いつも通りに口元を隠しながら答える。
「りょーかーい」
コツン、、、カラカラカラカラカラカラ
行去永はトンネルをその場から地球に創り、道の調整を始める。
「僕の能力はどんな場所でも物でも概念でも、どんな形であれ観測出来れば好き勝手に道を創れる。一度目は物理的に行く必要があるけど、二度目以降は道が開通されるからほぼ一瞬で行ける、、、月から地球は初めてだから時間かかるのは許してください」
「ここを歩いてきたのですか? 凄い、何も見えないですね、、、」
豊姫は暗闇の空間に手を入れて不思議そうにしている。
「いかんせん座標がズレると大変なことになるから、地上のどの場所に行くか調整中です。あんま触んない方がいいっすよ、その中はこの世の"裏"なんで、閉じたら僕しか迎えに行けません」
「量子が全てを覆っている、何もないように見えてこれは特殊なワームホール? いえだとしたら、、、」
豊姫はブツブツと呟きながら中身を観測している。
「、、、依姫さんでしたっけ?」
「はい」
「彼女、調整中に落ちても知らないよ」
「多分それはないと思います、多分、、、」
カラカラカラカラカラカラ
「よし、完成。到着まで走れば一時間、歩けばニ時間程度、どうします?」
「走る? どこをですか?」
「この中をですけど?」
「足場は?」
「僕が作るんで問題ないっすね」
「もし、足場がないまま行ったら?」
「文字通り、月から地球まで真っ逆さま。隕石ならぬ隕人の完成でーす。言っとくけど中で飛べるかどうかは知らないよ、僕は飛べないし」
行去永はヘラヘラ笑いながらポケットに手を入れてトンネルに入っていく。
「僕の後ろからじゃなきゃ道は出来ないからねー、じゃあしゅっぱーつ」
「楽しみねぇ〜、行くわよ依姫!」
トンネルの暗闇に飲み込まれたのを見た豊姫は我先にと入っていく。
「あっ、姉さま!」
「行くとしよう」
サグメも入っていき、依姫も意を決して入っていく。中は文字通りの暗闇、しかしお互いははっきり見える。暗闇というよりも別な世界と言う方が正しい気さえする空間だ。
「ようこそ〜世界の裏道へ。ここは外から一切として干渉できない、代わりにこっちからも干渉できないから、時間を正確に測って歩かなきゃだから頑張りましょうー」
「は〜い!」
──ー
進み始めて約一時、その間豊姫は遠足にいく学生のようにはしゃいで行去永に質問攻めする。
「貴方の能力はどこまで及ぶの?」
「んー、やったことある中で概念に近いのは自分が怪我した時、全快への道を歩んで怪我を治したり、さっきやった、剣道の道を歩んである程度の剣技を使えるようにしたりとか」
「さっきから歩く、歩むの表現は必要なんですか?」
「勿論、あくまでも道を作って歩むまでのワンセット。弾幕みたいに自分でスピードを持ってるのは道を作れば勝手に進むけど、歩かなきゃ人は前には進めないし」
「なるほど、確かに、、、じゃあ足を切断すれば能力は無効化されるのですか?」
「七割方ね、少なくとも自分に対するバフは消える。てか怖いこと言わないでよ」
「じゃあ、先程私と斬り結んだ時はそれを使っていたのですか」
「そうそう、それに加えて依姫さんの剣撃をずらしたり、神が降りる先を適当なところに道を作って妨害したりとかしてズルしまくったけど、勝ち筋が全く見えなかったわ」
「、、、それ無敵じゃありませんか?」
「ところがどっこい、あくまでも観測するのが条件なんで、早すぎたり後ろから刺されたりしたら詰む上、僕本体は少し運動神経が良いだけの雑魚です」
「そんなにペラペラと弱点を晒してもいいのか?」
「元からここにいる誰かを相手にしたら勝てないし五十歩百歩でしょ」
「あんなに健闘したのにですか?」
「今回は凄い準備したし、あくまでも僕の能力は護りに特化したもの、分けはあれど勝ちはありません。さて、そろそろ着きますよー」
トンネルを抜けると、青々とした空を上に見据えて迷いの竹林の上空に到着する。
「永遠亭は、、、あっちか」
永遠亭まで空を歩いていく。
「あそうだ、僕の能力は口外しないでくださいよ。誰にも自分から言ってないんですから」
「心得ました」
「了解した」
「はいはーい」
三人の了承を得た後に、永遠亭の真上へと行去永は降り立った。
続