来年は、スケジュール管理するから許して下さい(´;ω;`)
~人生という名の列車が走る
時代という名のいくつもの街を行く
時代の風と空気を胸にたっぷりと吸い込みながら
ふぞろいの心はとにかく旅をする~
【人生という名の列車-馬場俊英:2006年】
♦ ♦ ♦ ♦
社会は平等だ。
成功の後に失敗、失敗の後に成功があるとは限らない。
それゆえ結果を出したものだけが評価される。
【メダリスト】
「感動した」、「涙を流した」等の言葉を並べても後世にまで名前が語られるのは金メダリストだけ。
「悲劇」や「悲運」と冠が付かないと銀に銅のメダリストは、時の流れと共に記憶から薄れていってしまう。
【天才】
各時代に其々の分野に突出した才能を持ち、周りから羨望の眼差しを受ける人たちがいる。
閃光のように煌びやかな活躍をして名声や富を得る。
でも、現役を辞めて名を残せるのは継続性をもって記録やタイトルを積み重ねっていった者だけ。
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WING決勝敗退
侮って軽く見ていたわけではない、また言うまでもなくやる気が無かったわけでもない。
自分とアイドル黛冬優子が追いかけていた夢は叶わなかった。
彼女と出会い、そして駆け抜けてきた数ヶ月。
確信とまではいかなくとも手応えは掴んでいたはずだった。
それは実力なのか実力か運命か、それとも神様の気まぐれなのか・・・
それからの日々はレッスン・撮影・営業・ミニライブ等でお互いに必死だったのであまり覚えていないけど、
『これだ!』という目標を決めらず心にポッカリと開いた穴を埋められずにいた。
そんなある日の午後、自主練習中の冬優子に会うためにレッスン室へ向かった。
室の前を通ると「キュッ、キュッ」とステップを踏む音が聴こえてきた。
「冬優子、お疲れ様.
調子はどうだ?」
「ん、まぁ、まずまずといったところね。
あとお疲れ様なんて別に疲れてないわよ、この程度でへばってたんじゃ勝てっこないでしょ。
ふゆはもう2度と負けない。
…絶対に負けてたまるもんですか。」
「そうか…でも無理だけはするなよ。」
「それくらい分かってるわ。
それで…ふゆに何の用?」
「んん…あぁ、この前のアパレルメーカーとのコラボが好評でな。
先方から第2弾のオファーが届いたんだ。」
立ち話でいかに先方が喜んでいたか、そして今後のコラボ展開について伝えた。
冬優子は終始、普段通りの不遜とも評するべき態度でニコリともしなかった。
手短に話を済ませてレッスン室を後にした。
その背中越しにステップを踏む音が聴こえ始めた。
♦ ♦ ♦ ♦
とある日の朝
「おはようございまーす……って、なんだあんただけ?
猫被って損したわー。」
「お疲れ様、冬優子。
相変わらず俺には当たりが強いな。」
「当然でしょ、あんたにまで気を使ってたらって…スンスン…何か臭くない?
湿布?」
「ああそれな、昨日さ運動がてらバッティングセンターに行ってきたら筋肉痛でな。
ほんの20~30分振っただけで、もう腕がパンパンだよ。」
「へ~珍しいわね、何でまたバッティングセンター何かに?」
「昔、中学高校と野球部だったんだ。
それで近くを通ったら急に懐かしくなってな。
運動不足解消をと思ったら、この様だよ。」
「ふ~ん、まぁあんたも最近デスクワーク中心だし、たまには運動をするのもいいかもしれないわね。」
「そう、それもあって…
これから定期的に通おうかなと思ってる。」
「ただ体は大事にしなさいよ、あんた変なところでムキになるから。
ふゆのプロデュースに影響出たら承知しないんだからね。」
「分かってるよ、冬優子に迷惑掛けることはしない。」
♦ ♦ ♦ ♦
またある日
「冬優子、これ次の資料。」
「ん、あんがと…って、あんた。
手、どうしたの?
そんなに絆創膏して?」
「ああ、これか。
前にバッティングセンターに行ったって話したろ?
それで昨日も行ってきたんだけど、バットに当たりはすれど前に飛んでいかなくてね。
いつのまにかムキになってやってたら、この有様でさ。」
「~~~~~~っ!?、はぁ~~~。
ちょっとここ座りなさい。」
ソファーに座った冬優子が、ため息をつきながらポンポンと自分の隣を叩く。
「???」
促されるまま冬優子の隣に座る。
「ほらっ、手。
見せなさい。」
「手がどうかしたのか?」
「もう何よ…ボロボロじゃない。
『体を大事にしなさい』って、ふゆ言ったじゃない。」
「『大事に』って…たかだかマメごときでそんな大げさに騒がなくてもいいだろ?」
「たかだかですって!? ちゃんと見なさいよこの手!」
冬優子が俺の手を両手で掴み、その顔を近づけてくる。
「こんなになるまで無茶しちゃダメでしょ、まったく……。」
「いやでも、本当に大丈夫だから……。」
「なーに言ってんのよ! あんたがそう思っててもこっちは心配なんだから、
少しは自分を労わりなさい。」
「あ、はい……」
「その様子だとちゃんと消毒もしてなさそうね?
ふゆ、お礼も兼ねてプロデューサーさんのお手て、手当してしちゃいますね。」
そう言うと、冬優子は事務所にある救急箱を持ってきて手当てを始めてくれた。
消毒液が手に染み、大人気もなく声をあげて顔をしかめるとくすくすと笑い子供をあやすような声色で「我慢しなさい」と一言。
自分ではない誰かに手当してもらうなんて、いつ以来だろうか?
自分で出来ることは自分でする。
それは別に悪いことではない、寧ろ社会人や大人になったのなら当然のことだ。
ただそれでも、たまにはこうして人に甘えることもあると思う。
『金は借りてもならず、貸してもならない。』
しかし、人生で借りも貸しもせずに生きることは不可能だ。
終わりのないギブアンドテイクの連続が人生の本質なのかもしれない。
「はい、終わりましたよ〜♪」
「ありがとうな、冬優子。助かったよ。」
「いえいえ、どういたしまして~♪
それで…何であんたは、こんなに手がボロボロになるまで熱中しているのかしら?」
♦ ♦ ♦ ♦
手当てをしてくれたお礼にと、プロデューサーは野球を始めた理由を話してくれた。
元々、高校までは野球部に所属していて、当時はどこにでもいるプロ野球選手に憧れる野球少年だったらしい。
ハイライトは、中学校3年生の夏。
仲間たちと語った夢の『県大会出場』を目前にした地区大会の決勝。
相手は地区の強豪で前評判では不利で大敗しなければ御の字だった。
しかし試合は運も味方し何とか1点差負けの展開で9回の裏1アウト1塁、逆転勝ちのチャンスが巡ってきた。
プロデューサーの打順は6番、曰くネクストバッターズサークルで『俺が決めてやる」と一人気負って素振りをしていた。
でも結果は、前の5番を打つ同級生が凡退してダブルプレーで試合終了。
儚く夢が散っていった。
「ドラマだったらカッコよく逆転サヨナラの展開なんだろうけど、現実は何も起きなくて、ただ静かに試合終了。
悔しかったなぁ。
何も出来なかった悔しさで、とにかくその日は泣いたよ。」
そりゃ悔しいわよね。
10年以上前のことを今も鮮明に覚えていて、ふゆにこうして話しているんだもの。
ふゆだって、あのWING決勝のステージ。
今も夢に出てくるくらい覚えているし。
「でも…悔しかったのは、試合に負けたからじゃないんだ。」
窓の外に向けていた視線を戻して話し始めた。
「あの日、誰もオレに一発逆転を期待していなかった…。
冗談でも、『もしかしたら…。』なんて言われなかった。
応援に来た人たちは口々にさ、『ここまでよく頑張った』、『感動して涙が出た』。
5番を打ったあいつには、オレも含めて皆で慰めた。
でも、誰もオレのことは言わない。」
…一緒だ。
調べちゃダメと分かっていても、つい調べてしまった。
ツイスタであの日のステージが、どんなことになっているのかを。
誰の、どの感想もふゆの健闘を称えるもので…。
勝負は時の運、そんなことは分かっている。
でも、それでも失望して欲しかった。
『優勝出来なくてガッカリした。』と幻滅して欲しかった。
♦ ♦ ♦ ♦
「高校は昔、甲子園に出たこともあって特待生とか受け入れてる結構強いとこを選んだ。
『高校では甲子園に出るんだ、プロ野球選手になるんだ!』って思って。
でもね…三年間ずーっとベンチにも入れずにスタンドで声出し。
どんなに練習しても上手い奴には叶わなかったなぁ。
でも、『練習していれば、いつかきっと』なんて夢見て毎日、毎日夜遅くまで。
ただがむしゃらに泥だらけになりながら練習してたよ。」
「ノスタルジアね。」
「まあ、あの頃は真っすぐだった。
『どんな夢も叶う』って疑いもせずに思い込んで。
たまに実家に帰った時、あの頃のアルバムを見返すと我ながら楽天的に笑ってんだよ。」
「それで、その時の自分と決勝で負けたふゆを重ねて同情したと。
言っておくけど、そんな安っぽい感情はいらないわ。
感傷に浸って立ち止まってる暇なんて無いんだから。」
「いや、そうじゃなくて。
何だろう、ただ何となくー-。」
♦ ♦ ♦ ♦
昔話をした日から昼休みや空き時間を見つけては、
近くの公園で2人でキャッチボールをするようになった。
冬優子は、最初まともにボールを投げられなかったが徐々に上手くなりちゃんと投げられるようになった。
「ふゆ、プロデュサーさんのカッコいいところが見たいです♡」
そうねだられて、終業後2人でバッティングセンターに入り、隣同士でベンチに座りゲージの順番待ちをしている。
秋口になっても蒸し暑さが残る。
順番がきた。
マメが出来ないようにと、この前2人で買いに行ったバッティンググローブを手にゲージへ入る。
~あのクソ暑い真夏の空
焼けついたグラウンド
陽炎のようなハピネス
遠く耳鳴りのような歓声が
今も……
一体誰があの日オレに一発逆転を想像しただろう?
でもオレは次の球をいつだって本気で狙ってる
いつかダイアモンドをグルグル回りホームイン
そして大観衆にピース!ピース!ピース!ピース!ピース!~
【ボーイズ・オン・ザ・ラン-馬場俊英:2006年】
『ホームランが打ちたい』
あの人は違い、背中に特大の声援を受ける。
そして自分も彼女にホームランの夢を見ている。
才能なんて他人が見て決めるもの。
あるのか、ないのかなんて誰にも分かりえない。
それでも、本気で待っていれば叶うと信じている。
いや、信じて続けていきたい。
ヒーローにヒロインは、いつだってそうだった。
バッティングマシーンから白球が放たれた。