コードギアス本編とはまた異なる歴史を巡った、平和な世界にて。
島国日本で普通の学生としての生活を送るルルーシュと……そして彼の大切な人である一人の少女との、優しくて両想いな物語。


本小説はカップリングの都合上、大規模な設定改変があります。ご了承の程を
なお本作はpixivさんでも掲載してあります。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16549707

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優しい世界にて──両想いな二人

 

 

 ──見上げた空には、白い雲がゆっくりと流れているのが見えた。

 

「にしても、朝っぱらからサボりなんていいのかよ? 一応は生徒会の一員だろ……俺も人の事は言えないけどさ」

 

「授業なら問題ない。一日くらい欠席したとしても俺ならその日のうちに、内容くらい完璧にカバーしてみせるさ」

 

「ルルーシュは頭がいいのは分かるけどさ、そう言うことじゃないんだよな、もう」

 

 半分呆れたように頭を掻き、同じく木陰で寝っ転がっているお調子者と言った感じの同級生。名前はリヴァル・カルデモンド。俺との関係性は、まぁ、悪友と言うやつだ。 

 島国日本にある名門学校、アッシュフォード学園。その中庭で俺達は横になってサボりを決め込んでいた

 

「ふっ、まぁいいじゃないか。昨日はチェスに夜遅くから付き合っただろ? ナナリーの目を盗んで抜け出すのに苦労もしたし、それに深夜までチェスを続けて疲れも残っているし……眠い」

 

 俺の言葉にリヴァルはばつの悪そうな顔を見せる。

 

「悪かったって。でも、あの時はヤバかったんだってば。カジノでひどく大負けしちゃってさ、どうしても取り戻さなくちゃいけなかったんだよ。

 何せウチの親からも心配されてて、あんなに大損したってバレたら数か月は外出禁止間違いなしだからな」

 

「だから俺が利子付けて取り戻しただろ? サボりくらいなら、大目にみてくれても構わないはずだ。それにしても──」

 

 昨日俺がトウキョウの高級カジノに繰り出したあの時の事を、思い出してついにやつく。

 

「日本に在住するブリタニア貴族を相手にするのなんて、楽なものだ。貴族としてのプライドもあるのか、気前だっていいしな」

 

 チェスの腕には自信がある。貴族のボンボンは言うに及ばず大抵の人間には負けない自信がある。……それこそあの兄上くらいの相手でないかぎりは。

 

「と言う事で午前中一杯は眠らせてもらう。なぁに、誰にも迷惑をかけるわけでもない。文句を言われる事なんて──」

 

 

 

「もう! こんな所にいたんだね」

 

「ルルーシュ、授業はちゃんと受けないと駄目じゃないか。君は生徒会のメンバーなんだから、相応しい行動をとらないと」

 

 いきなり、二人の声が横から聞こえて来た。慌てて俺が起き上がると、そこにいたのは──。

 

「大体君はいつもそうだね。頭は良いのに真面目さに欠けると言うか、規律を軽視する傾向にある。そうした所は直すべきだと僕は思うよ」

 

 そう言って、俺の前で両手を腰に当てているのは癖毛のある茶髪の、学園では珍しい日本人。彼は昔からの親友でもある枢木スザク。何を隠そう日本の現首相の息子でもあり、数少ない俺の秘密を知っている一人だ。

 

「ははっ、俺と同じこと言われてら!」

 

「……むぅ」

 

 さっきリヴァルに言われたのと同じ事を言われてばつが悪くなる。それにスザク相手だと猶更……弱い。アイツの馬鹿正直さには、どうも敵わないんだ。

 そして──。

 

「──ルル!」

 

 ルル──そんな呼び名で俺を呼ぶ声。スザクと一緒に来て、ぷっくら頬を膨らませてぷんすかしている様子の、彼女。

 

「……シャーリー」

 

「ルルってば、こんな所で寝っ転がってて。真面目にしないとダメなんだから!」

 

 水泳部に入っているからかスタイルの良くて引き締まった身体の、オレンジがかった長くて綺麗な髪をした快活そうな少女──シャーリー。

 彼女からもそう言われて俺は、どぎまぎしてしまう。

 

「ううっ、君にまで言われるなんて……シャーリー、その」

 

 スザクもそうだけれど、彼女を相手にするのはどうも最近やりにくい。何しろ最近俺とシャーリーは……その。

 

「ルルーシュ、駄目じゃないかシャーリーを心配させたら。だって君の──大切な恋人だろ?」

 

 

 

「「……っ」」

 

 俺たち二人は、このスザクの言葉に思わず赤面してしまう。

 けど彼の言う通り。俺とシャーリーはただの友達ではなくて、今はそれより特別な関係──恋人として付き合っている。……しかしそれをわざわざ、声に出されて言われるとかなり照れる。シャーリーだって顔を赤くしてスザクに抗議する。

 

「スザクさんってば……もうっ」

 

「おや? もしかしてまずい事を、言ってしまっただろうか」

 

 きょとんとした態度のスザク。それにリヴァルまで、軽く口笛を吹くと。

 

「ひゅう! 二人とも顔を真っ赤にして、お熱いねぇ! さすが初々しいカップルってやつだな」

 

「……はぁ」

 

 リヴァルの奴まで、よくも茶化してくれたな。後で覚えておけよ。……けどやはり言われると、凄く恥ずかしいものだ。シャーリーだって更に顔をリンゴみたいに真っ赤にして、涙目になって。

 けれど、急に彼女は。

 

「──行こう、ルル」

 

 いきなり俺の手をとったと思うと、シャーリーはそのまま引っ張って連れて行こうとする。

 

「いきなりどこに行くのさ、シャーリー?」

 

「どこって、教室に戻るに決まってるでしょ。勉強に戻らないとだもん、それと……」

 

 と、シャーリーはリヴァルに答えて、少し意地悪そうな顔で舌を出す。

 

「リヴァルが授業をサボっていた事……後でミレイさんに言いつけちゃいますから!」

 

「うげっ!? ちょっ、マジかよ!」

 

 そう言ってギョッとするリヴァルと、少しばつの悪そうなスザク。友人二人を置いて俺はシャーリーに引っ張られて中庭を後にした。

 

 

 

 ──── 

 

「待ってくれ。……そう引っ張らなくても」

 

 相変わらず手を掴んで半ばシャーリーに引っ張られたまま、俺は学園の廊下を歩く。

 

「……」

 

「それに教室に戻るんじゃなかったのか? この道は少し、違うと思うぞ」

 

 けれど構わず、彼女は俺の方なんか見向きもしないでずんずんと歩き続ける。相変わらず授業中で辺りには人がいない。リヴァル達二人は、もう教室に戻ったんだろうか?

 そう考えているうちに、急にシャーリーは足を止めて立ち止まる。

 

「……シャーリー?」

 

 俺は声をかけると、彼女はゆっくりと振り向く。

 

「ルル……私……」

 

 そう言って見せた顔は相変わらず赤いままで、相当照れたみたいな表情だ。

 

「私達、リヴァルにカップルだって言われちゃった! どうしよう、ただそう言われただけなのにこんなにドキドキしちゃって。こんな調子じゃ、教室に戻れないよ」

 

 確かにシャーリーの凄く照れ恥ずかしがっている様子、今にも頭から湯気が立ち上りそうなくらいだ。あんな調子で教室に戻るわけにいかないのも分かる。

 

「ふっ、シャーリーがそこまでな顔をするだなんてな。でも気持ちは理解出来る。何しろ俺とシャーリー、こうして恋人になってから、君といると胸の中がこう……凄く熱くなるのだから」

 

 何しろ恋人同士になったのも割と最近だ、まだ慣れていない部分も結構ある。

 ……俺の気持ち。それを言うと凄く照れているようではあったが、けれど心底幸せそうに──笑顔を見せてくれた。

 

「ルル、ありがとう。

 ……ねぇ、このままだと教室に戻れないから、いいかな? 私のドキドキ、静めてくれる?」

 

 そしてシャーリーはくりっと大きくて、きらきら輝いた瞳で俺を見つめる。彼女が求めている事はすぐに分かった。

 

「もちろんだ、シャーリー。正直こっちもドキドキしてしまうけれど、君とこうするのも俺は好きだから」

 

 俺は言うと、優しくそっとシャーリーの身体を抱き留めて、引き寄せる。それから俺自身も彼女に寄って、その柔らかい唇に自分の唇を──重ねて。

 

「はぁ……ふぅっ」

 

 時間も時間だし、場所も場所だ。今回はほんの軽くで留めるつもりだったけれど、キスした時の彼女の唇の柔らかさに甘さ、それに口づけしながら漏らす声がその……たまらなく愛おしくもあって。だからつい幾らか長く、そして熱く互いにキスを交わした。

 

「ん……っ」

 

 キスを終えた俺達は、何だか気分がすっきりした感じになる。

 

「ありがとう。おかげで私も落ち着いたから」

 

「シャーリーがそれなら良かった。俺も君とのキスは、気持ち良かったしな」

 

 それから、今度は俺の方から彼女と手を繋いで言った。

 

「さて、キスも済ませたんだ、そろそろ授業に戻ろうか。君のおかげで、俺も真面目にしないとって…………そう思えたからな」

 

 俺からの言葉。シャーリーは可笑しそうに、同時に嬉しそうに微笑むと、こくりと頷いて応えてくれた。

 

 

 

 ────

 

 遅れて教室に戻った俺達。サボった事に関しては教師からは一言注意されたくらいで、そのまま授業へと戻れた。ちなみに授業の内容は社会学……今日は現在の世界情勢についてだ。

 

 

 現在、世界には細かく分ければ複数の国家、地域が多数存在する。が、数十年前に制定され今や国家の殆どが批准する超合衆国憲章及び、それらの国──ほぼ世界そのものとも言える連合体である『超合衆国』によって、世界の大半は平和であると言えた。

 国家による固有軍事力の放棄、全体の意思決定は各国代表によって構成される最高評議会において、投票による多数決によって決議を取って行う。つまりは話し合いと民主主義によってと言う事だな、平和が実現したのはそれらによるものだ。……最もそれより前、超合衆国憲章が制定する以前は違ったらしいが。

 

(あれから世界は大分平和に、優しくはなったと言うことだな。そうして今に至ると)

 

 現在における世界情勢が授業内容と言う事で、当然この超合衆国辺りも、現在進行形で講義中だ。

 

(ふむふむ。安全保障に対しては超合衆国の最高評議会の下にある軍隊によって委ねられている、か。……ほぼ行使される事はないが、非常時には武力もまた必要だからな)

 

 正直、わざわざ授業を受けるまでもなく、この辺りの事情に関しては俺は育ちの関係で熟知している所だ。まぁ知っている事だとしても、授業と言う形で反芻(はんすう)するのも悪くない。

 

 

 ちなみに、超合衆国憲章及び超合衆国が制定するまでには一波乱があったらしい。この事に関しては、この前の社会学の授業でやっていたな。

 当時世界を三つに分けた列強、EUに中華連邦、そしてブリタニア帝国。この三列強による争いで世の中は混乱していたと言う。……けれどそれも昔の話だ。ブリタニア帝国で第98代目の皇帝へと代替わりしてから間もなく新皇帝の下で停滞した戦局を巻き返し、EU、中華連邦の二列強を数年の後に制圧、事実上の世界制覇を成し遂げた。

 人類史上誰も成し遂げられなかった世界の統一。それだけでも当時のブリタニア皇帝の功績は歴史に残る程であったが、世界統一後に超合衆国憲章及び超合衆国が制定による新世界秩序の形成と同時に、自ら統治するブリタニア帝国の帝政と皇族の制度の廃止、皇帝の位も捨てて帝国の歴史に終止符を打ったのも彼だ。

 自らの国家さえ超合衆国の礎にしたその男は現在、旧ブリタニア帝国もとい──現ブリタニア公国の公王兼、超合衆国最高評議会の議長を務めている。

 

(ははは、改めて考えると凄い人物だよな。それに彼は……元ブリタニア帝国の皇帝だった男は俺の──)

 

 

 っとと、授業中なのに余計な事を考え過ぎたか。あまり考えが脱線するのはまずい。

 昼休みまであと少しだし、残りの時間くらいはしっかりしないとな。

 

 

 

 ────

 

 ──昼休み。

 生徒会の休憩室に集まって、俺を含めた生徒会のメンバーは休憩をとっている所だ。

 

「お疲れ様です、みなさん。また遊びに来ちゃいました」

 

「来てくれたんだね、ナナリー。……もちろん大歓迎だとも、何せ君も僕達生徒会のメンバーなのだから」

 

 丁度今、休憩室に入って来たのは俺の大切な妹であるナナリーだ。

 長くウェーブのかかった髪に、くりっとした丸い瞳。自分の妹ながら目に入れても痛くないくらいに愛らしい。

 

「じゃあルルーシュ、君の妹もこうして来てくれたんだ、僕は席を譲ることにするよ」

 

 さっきまで俺の左隣に座っていたスザクは席を立ち、ナナリーに席を譲る。彼女は一礼してから代わりに隣に座る。

 

「スザクさん、ありがとうございます。……お兄様も学校はいかがでしたか?」

 

「それは、その……ナナリー」

 

 不味い事を質問されて俺は答えに困ってしまう。なのにスザクの奴は……。

 

「朝からリヴァルと二人で中庭でサボってたんだよ、ルルーシュは。僕よりもずっと頭は良いのに、そう言う所は勿体ないと思うよ」

 

「スザク!! また余計な事を」

 

「そうなんですか? お兄さまってば」

 

 ナナリーはムッとしたようなふくれっ面を俺に向ける。

 

「待って欲しい、俺が朝寝ていたのはリヴァルのせいで……なぁ説明してくれ」

 

 俺はリヴァルに助けを求める。けれど、彼は。

 

「……zzz」

 

 机に突っ伏してリヴァルは寝ていた。小生意気にも気持ちよさそうに、口元から涎を垂らしながらぐっすりと。

 

(リヴァルの奴……こんな時に限って)

 

「お兄さま!」

 

 ナナリーは俺にさらに詰め寄る。

 

「勉強はちゃんとしないとだめですよ。でないと私……悲しくて」

 

 ふくれっ面のまま俺の妹は涙目になって、今にも泣き出しそうに。こんなに悲しい顔をされると、俺はもう限界だ。

 

「すまん! 授業をサボった俺が悪かった。次からはもうしないから……だから」

 

 妹の涙には弱いんだ。慌てて俺はそう言って謝った。するとナナリーはクスクスと、小さく笑い声をあげていた。

 

「くすくすっ、お兄さまってば」

 

「……もしかして、噓泣きだったのか」

 

「これに懲りたら学校でもちゃんとして下さいね。……私もお兄さまが心配ですから」

 

 ナナリーにしてやられてしまったな。でも、そう言う茶目っ気も、やはり可愛い妹だ。

 

「ははは、ルルーシュはナナリーに弱いな。──と言うことでカレン、隣に座って構わないかな」

 

「ん……ああ。私は全然構わないけど」

 

 あっけからんとスザクの言葉に答えたのは、炎のように赤い髪と瞳をした勝気な同級生の少女、紅月カレン。彼女もスザク同様に学園に通う日本人だ。

 ブリタニア公国はかつて帝国として三大列強の一つとして数えられる程の大国だ。それに超合衆国が成立して以降は人の国家間の移動が格段に増え、外国へと移住する事も珍しい事でもなくなっていた、ブリタニアも当然例外ではない。──恐らく日本で暮らしている外国人の割合で言うならブリタニア人は多数派だろう。

 ここアッシュフォード学園は、主に日本在住のブリタニア人が通う学校として建てられたが、日本人の生徒もそれなりに通っていたりもする。スザクも、それにカレンもそうだ。

 

「じゃあ、失礼するよ。それとカレン、この前のテニス大会は僕の負けだったけれど、次の勝負は君に勝ってみせる」

 

 ……また始まったか。彼の言葉にカレンは挑発的に笑って強気な態度をかえした。

 

「前のサッカーでの借りを返しただけだ。 これで五十戦中二十五勝、二十五敗──今の所同点だけどスポーツ学園一の座は、私がもらう!」

 

 スザクとカレン、二人の視線がぶつかり火花が飛び散る。

 別に仲が悪いと言うわけではない。同じ生徒会のメンバーでもあるし、普通に仲良くもしてもいる。……が、問題なのは二人とも常人離れした運動神経と、やや負けず嫌いな所がある部分だ。どっちとも身体を動かすものなら、それこそ球技やアスリート系の競技、それに武術なども何だって出来る。

 そのせいで、あちこちの部活から助っ人として呼ばれたりも。……とりわけサッカーや野球のような二チームに分かれるようなものだと、それぞれ別に助っ人と呼ばれて対抗するのも珍しくなかった。

 二人の対決も最初はそんな物だったと思うが、いつしか互いに対抗意識を持つようになって自分達から事あるごとに色々なスポーツで対決して勝敗を決め出すようになり出した。

 

「じゃあ次は何のスポーツで勝負するかい? 僕は何だって構わない」

 

「なら一週間後にフェンシングの試合がある、それで勝負をつけましょうよ。決着は早い方がいいわ」

 

「良いとも。こう見えても僕は剣技には自信がある、勝つのは僕さ!」

 

「口先だけなら何とでも言えるわ! 大体スザクは言葉遣いは丁寧なくせして、性格は結構──」

 

 戦意が白熱し過ぎて、今からでもこの場で勝負を始めそうな勢いだ。

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてくれよ」

 

「スザクさんもカレンさんも、喧嘩なんてしないで。みんな仲良くが一番ですから」

 

「zzz」

 

 俺もナナリーも熱くなりすぎた二人をたしなめる。そしてリヴァルは相変わらず居眠りの最中。……よく起きないものだ、ある意味尊敬する。

 

 

 

「「……ふん」」

 

 俺達のおかげでスザク、カレンは大人しくなったが、互いに顔を逸らして弁当を食べている。重ねて言うが仲が悪いわけではない。ただ、今は状況が悪かっただけだ。

 

「ねぇ、お兄さま」

 

 ナナリーは家のメイドである咲世子お手製のサンドウィッチを口にしながら、俺に聞いてきた。

 

「ナナリー、どうかしたか?」

 

「お兄さまはお昼ご飯は食べないのですか?

 咲世子さんには今日のお弁当を断ったみたいですし、食欲がないのかもしれませんけど、ちゃんと食べないと体に毒ですよ。

 良かったら、私のサンドウィッチを半分こにしましょう」

 

 俺の事を想ってそう言ってくれるナナリー。やっぱり心優しい、一番の妹だ。

 

「ありがとう。けれど、今日は大丈夫だ。実は言い忘れていたけれど……シャーリーが俺の弁当も用意するって言っていたんだ。

 だから咲世子にも弁当はいいと伝えたんだが、ナナリーにも伝えておくべきだったな」

 

「あっ、そうだったんですね。なら良かった」

 

「まあな。……けれどシャーリーも、少し来るのが遅いな」

 

 シャーリーは今、ニーナと一緒に生徒会長であるミレイの仕事を手伝っている。事務処理とか結構残っていたらしくて、それを早めに終わらせたいと言うことだ。

 ただ急ぎの業務でもない。別に後回しでいいと考えたが、これなら俺も手伝いに行けば良かったな。……と、思っていた所で。

 

 

 

「っと! 遅くなっちゃった!」

 

 休憩室の扉を開けて、勢いよくシャーリーが入って来た。

 その手には弁当箱が入った包みを二つ。自分自身の分と、それに俺の分だ。左隣にはナナリーがいるから、彼女は俺の右隣に座ってこう話す。

 

「ごめんねルル。私からお弁当を作ってあげるって言ったのに、待たせちゃって。ミレイ会長たちも放っておけなかったけど、戻った方がいいって言われちゃって。……お腹空いてるよね」

 

 心配そうに言う彼女。本当はかなり腹は減っていたが、正直に言うのもあれだと思った。

 だから俺は笑顔を見せて、こんな嘘をつく事にした。。

 

「そんな事はない。何せ朝少し食べ過ぎてしまったからな、今ぐらいの時間が丁度良い──」

 

 そう言った時、思いっきり大きな腹の音がなってしまった。

 

「あっ……」

 

 余程お腹が空いていたのか、鳴った音は周りからも注目される程の大きさだ。俺は恥ずかしくなって顔を伏せてしまう。……それに、シャーリーは少し苦笑いで

 

「もう、ルルの嘘つき。やっぱりお腹が空いていたのに、平気なフリして」

 

「いやいや、俺は本当に……」

 

 俺はどうにか次の嘘を……もとい言い訳をしようとした。けれどシャーリーは、途端にフッと幸せそうな微笑みを浮かべて続けた。

 

「けど私を想っての、嘘なんだよね。そう考えると何だか嬉しくもあるから。

 だから──『彼女』である私に嘘ついた事は大目に見てあげる!」

 

 そう言ってビシッと、シャーリーは俺の鼻先めがけて人差し指を差す。と、今度は悪戯めいた笑顔に変わる、

 

「ま、なんちゃってだけどね。そう言う時に、優しい嘘つきなのは分かっているし。──むしろそれがルルらしくて、大好きな所だから。

 ……さてと、遅くなっちゃったけれど一緒に昼ご飯にしよう。ルルのために頑張って作ったんだ、私」

 

 得意げな感じの彼女は早速俺の分の包を開いて、弁当箱を前に置いてくれる。

 

「これは……」

 

「日本風のお弁当にチャレンジしてみたんだ、ちょっとやってみたい事があったから。

 とにかく箱を開けてみて」

 

 気になる中身、俺は弁当箱のふたを開けると、その中には……。

 

「ロールキャベツ、ポテトサラダにタコさんウィンナーと言ったおかずに、それに大きな……ハートか」

 

 

 

 シャーリーが腕によりを込めて作ったんだろう、おかずはどれも美味しそうなものばかりだ。それにご飯の上にはにはピンク色の……多分鮭フレークだろうか、それで大きくハートが描かれていた。

 

「どう、かな? こう言うのもやってみたくて、だってルルの事……好きだって、色々伝えたかったから」

 

 俺の事を照れ顔で、人差し指同士を合わせながら、上目遣いで見つめる。

 朝の時にはスザクに恋人だって言われた時には顔を真っ赤にして逃げ出すくらいだったのに、こんな風な事をして来るなんて。全く、シャーリーは分からないな。

 そんな言葉に、箸を使って彼女の弁当のご飯を掴んで一口。それから他のおかずも一口ずつ味わった後、俺は彼女に笑ってこう答えた。

 

「もちろんだ。シャーリーの気持ちはよく伝わった。……君の弁当の、凄く美味しい味も」

 

 俺の言葉に彼女はぱっと満面の笑顔を見せて……そして。

 

「ルル、ありがとう! そう言ってくれると私もとても嬉しいから。──じゃあ二人で食べよう。ルルと一緒にお弁当にするのも、とても楽しみにしていたから!」

 

 まるで太陽のようなシャーリーの笑顔。俺だけに向けられた、彼女の。

 ああ、俺はそんなシャーリーの……事が。

 

 

 

 ────

 

 午後からも授業はあったが、まぁ退屈なものだった。

 けれど問題なくそれらの授業は済ませて、あっという間に放課後。

 

(さて……と、ナナリーは先に家に帰っているだろうな)

 

 先に授業を終えているらしいから多分そうだろう。その一方で、俺は。

 

「一緒に歩いて行こう、二人で」

 

 学校を出て俺たちはトウキョウの街通りを共に歩いていた。実は数日前から、今日こうして街でデートをしようと話して決めていた。だから──こうして。

 

「ルルとのデート、気兼ねなく楽しむために生徒会の仕事を早めに終わらせたかったの。

 だから昼休みに手伝いに。……でもミレイさんとニーナさんがもう済ませてくれたから、後でちゃんとお礼を言わないと」

 

 こうして、今は東京の街でシャーリーとデートをしていた。

 手を繋いで歩く街通り。さっきもいくつかの店に寄った所で、片手にはファッションショップで買った二人のペアルックが入った紙袋を、俺は持っていた。

 

「ペアルックの……セーターか。冬が近いから丁度いいな」

 

「でしょ? 寒い日には二人でこれを着てデートしよう。ルルとお揃いで一緒に、楽しみだから!

 ねぇ、次はあそことか見てみたいな」

 

 と、今度は近くの宝石店を指差す彼女。

 

「オシャレな感じで気になるんだ。行こう、ルル!」

 

「ちょっ、そう引っ張ることは──」

 

 

 

 ──── 

 

 半ば強引に、シャーリーに連れられて宝石店に。

 

「どれも綺麗だね。宝石だって、アクセサリーのデザインだって好みだから。──この指輪のダイヤも、こんなに大きいなんて!」

 

「おいおい。楽しんでいるのは構わないが、そうはしゃぐ事はないだろ」

 

「……あはは。どれもキラキラだから、つい興奮しちゃって。

 でも本当に綺麗なんだよ。ねっ、一緒に見よう」

 

 宝石店には様々な宝石は勿論、指輪に首飾り、イヤリングと言ったアクセサリーも展示ケースの中に飾られていた。

 そうした宝石やアクセサリーを二人で観ていた。男の俺にはシャーリー程に良さは分からないけれど、すぐ傍で楽しそうにしている彼女の様子は誰よりも──それこそ店に飾ってある宝石よりも、ずっと輝いていて。

 

「ルル?」

 

「……あっと」

 

「せっかく来たのに、ルルってば私ばかり見てるから。もしかして私、そんなに変だったかな?」

 

 俺の視線に気づいてか、そんな風に照れたようなシャーリー。ちょっと視線を逸らして髪を上げて、頬を赤らめている。

 ……何だろうな、この空気は。理屈では説明出来ない、不思議な気分だ。そうこう思っていると彼女は、一つのアクセサリーに見とれている感じで。

 

「わぁ、これなんか……一番気に入っちゃったかも」

 

 シャーリーが気に入ったのは、翼をモチーフにした一対の耳飾りだ。確かに翼の装飾はきめ細やかで、付け根には丸く輝くダイヤモンドも埋め込まれている。

 一般で言うならかなり高価そうな、アクセサリーだと思う。

 

「いいなー。欲しいけど……ちょっと高いかも。でも、諦めきれないかも」

 

 翼の耳飾り、シャーリーは本当に欲しそうに眺めていた。そんな彼女に、俺は。

 

「その耳飾り、良ければ俺が買うとも」

 

「ルル、いいの? でも高そうだし……」

 

「全然平気だ。俺の実家はかなり裕福と言うか、良い所だから。これぐらいのアクセサリーなら問題ない。

 ──すまない、この耳飾りを買いたい。お願い出来るか?」

 

 早速俺は店の店員に、そう声をかけて購入することにした。

 

 

 

 ────

 

 そう、俺の実家は裕福だ。何せ一国の……王家なのだから。

 シャーリーにはまだあまり話していない事だが、実は俺は──ブリタニア公国の皇子、本名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。

 

(と言っても俺は第11皇子、末席も末席で父上であり現公王であるシャルル・ジ・ブリタニアの王位も継ぐつもりもない、気楽なものだが)

 

 けれどブリタニアの皇子なのは変らない、注目されると何かと面倒だから皇子である事は隠し、周りにはルルーシュ・ランペルージだと名乗っている。……ちなみに皇子の俺がブリタニア本国を離れ、遠く日本で暮らしている理由は、恥ずかしい話だが両親が少し……過保護気味と言うか。

 確かに俺は第11皇子と、他の兄上と比べればずっと末っ子ではあるが父上と……そして俺と妹のナナリーの母上であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアに、幼い頃から過保護気味にされていた。

 ブリタニア公国の公王である父上は若い頃に世界を平定し、その上超合衆国憲章を定めて平和な世界を築き上げた立派な人だ。けれど……一方で父上はかなりの好色家である面もあり、これまで娶った妻は総人数は108人とかなり多い。俺達の母上もその内の一人ではあったが、他の妻の中でも父上は母上と──とりわけ気が合ったらしい。

 二人は互いにベタ惚れと言うやつで、その間に生まれた俺とナナリーにも幼い頃からかなりの愛情を向けられて育った。

 

(幼い時には何ともなかった、むしろ両親の愛情を嬉しく思っていた。けれど12才くらいになると少し過保護と感じ出した言うか、愛してくれるのは嬉しいけれど……他の兄妹に比べて溺愛気味だったからな。

 このまま甘やかされるのは俺にとって良くないと思ったから──)

 

 だから俺は13になると親元を離れ、この日本に移り住んだ。妹のナナリーも俺と一緒が良いと付いて来て、日本在住で王家とも多少の繋がりがある貴族、アッシュフォード家に居候する形で生活を始めた。

 親元にいた頃と比べ大分生活は変わりこそしたが、ブリタニアの皇子と言う肩書を気にしないでの暮らしは随分自由で、これまで出来なかった同じ立場の友人だって出来た。

 日本に来て間もない頃に知り合って、この国の事を色々教えてくれた初めての友人である枢木スザクに、学園に入学してからはリヴァル達生徒会のみんなだってそうだ。それに──。

 

「ありがとね。こんなに良いイヤリング、ルルに買って貰っちゃって」

 

「構わないと言ったろ? そんな事よりもシャーリーが喜んでくれた事が、何より満足だ」

 

「ふふっ、やっぱりルルは優しいよ。さすが世界で一番の──私の恋人ね」

 

 シャーリーは本当に嬉しそうに、微笑んでくれている。

 

(それにシャーリーが……誰よりも特別な人、愛する人が出来たから。

 日本に来なければきっと彼女に会えなかった。そんな意味でもこの国は母国以上に、今の俺の居場所だ)

 

 ──いつか自分の事をシャーリーにも話したい。そして、将来は彼女と……きっと。

 

「ねぇ、早速ルルから貰った耳飾りも付けてみたの。……似合うかな」

 

 そう言って彼女は長い髪をかき上げて、耳元を見せた。耳にはあのダイヤがついた翼のイヤリングが、きらりと輝いていた。俺の答えは、もちろん。

 

「ああ。最高によく似合っている。イヤリングも、それに……シャーリーの耳元や首筋も」

 

「首筋が、どうかした?」

 

 髪を上げた横顔のまま、きょとんとしている。俺はややどぎまぎしながら、それでも正直に答えた。

 

「その、だ。そうして首筋を見せているシャーリーは綺麗と言うか、セクシーと言うか。それに少し……えっちだ」

 

「ふぇっ!?」

 

 途端に彼女はどきっとした顔で俺を見た。

 

「……っと、もしかして変な事を言ってしまったか?」

 

「ルルの……バカっ」 

 

 頬を染めて、恥ずかしがって少しそっぽを向くシャーリー。ちょっと悪い事をしたとも思ったが、でもそうしている彼女も──可愛らしいと、つい考えてしまった。

 

 

 

 ────

 

 さっきは少し変な事を言ってしまった。……けれど今は。

 

「このチョコレート味、大好き。甘くてフワッとしたクリームの食感がくせになるかも!」

 

 俺の前に座っているシャーリーは上機嫌で、チョコクレープを口に頬張っていた。俺も彼女と同じ物を、一緒に屋外のテーブル席について食べていた

 ……偶然クレープ屋の屋台を見つけて良かった。おかげでシャーリーの機嫌も直りもしたから。

 

「気に入ってくれて何よりだ。シャーリーと二人で食べるクレープは、ずっと美味しい」

 

「えへへっ! 私もルルと一緒だと、とっても……良い気分で、胸の中が一杯になるの」

 

 彼女の言葉に俺も、温かい気持ちになる。

 そうしてまた他愛のない話を交わしながら過ごして、先にシャーリーがクレープを食べ終えた。

 

「ごちそうさま。とっても美味しくて、先に食べ終わっちゃった」

 

 ニコニコしている彼女の顔。けれど、その右頬には……少しだけ。

 

「シャーリー、少しじっとして貰っていいか?」

 

「えっ」

 

 テーブルから身を乗り出してシャーリーに近づく。互いにドキドキしてしまうけれど、俺は彼女の右頬を人差し指で軽く拭った。

 

「チョコクリーム、君の頬についていたから」

 

「……ルル、いきなりそんな事されちゃうと、私──」

 

 二人でクレープを食べるのも、やっぱり良い。この甘酸っぱいような空気、これも青春──と言うのだろうな。

 

 

 

 ────

 

 こうして今日も、シャーリーとの二人の時間を満喫した。

 

「──凄く楽しい。こうして、一緒に居られるのは」

 

「俺もだ、シャーリー」

 

 夜ももう遅い時間。人通りも幾らか少なくなった街通りを、また歩いていた。

 

「ふふふっ、ルル」

 

 俺の隣で腕を絡ませてぴたりと身体をくっつけて歩くシャーリーは、すぐ傍で幸せそうに頬を俺の肩に寄せていた。彼女のふっくらとした頬っぺたの柔らかさが、肩の感覚から伝わって来るのを感じて……ドキドキとしてしまう。

 

「今でも夢みたい、こうして恋人として一緒に街を歩くの。大好きな人を……ルルを感じられて、幸せ」

 

 本当に幸せそうに、傍にいるシャーリーは言う。

 

「シャーリーが幸せなら、良かった。俺だって君と過ごせて嬉しいから……だが」

 

 彼女は本当に強く身体をくっつけている。そのせいで全体的に俺に触れていて、こっちにも感覚が伝わる。

 頬もそうだけれど、腕にはそれと同じくらい柔らかくて……人並みよりふくよかなシャーリーの胸まで。服越しとは言え腕が半分くらい、沈み込んでしまう程に。

 

(本当に柔らかくて、大きな……って、俺は一体何を考えているのだ!?)

 

 つい頭に浮かんだ考えを、俺は無理矢理振り払う。これもシャーリーがこんなに近くにいるからで、戸惑わずにはいられなくなる。 

 

(元々シャーリーは俺に世話焼きな所はあったが、付き合い出してからの最近は……これだ。反応が極端で、妙に積極的と言うかラブラブと言うか)

 

 ここまでくっついて、ラブラブしている俺達の様子は……結構目を惹く感じで、こうしていると周囲からの視線を感じずにはいられなかった。

 

「あのな、その──」

 

「あはは……。でも、やっぱりちょっと、それなりに私も恥ずかしい……かも」

 

 当のシャーリー本人も、顔を真っ赤にしながら恥ずかしがっているみたいだった。──全く。俺は軽いため息をついて言った。

 

「それなら別に、ここまでピッタリくっつく事なんてないだろ」

 

「ルルは私とこうしているの、嫌?」

 

 見ると上目遣いで、瞳をうるうるさせている。そんな目で……見ないでくれよ。

 

「そんな訳ではない、けれど何だかいつも以上にシャーリーが俺にくっついている気がする。妙にドキドキして、落ち着かないと言うか」

 

「そう言う事なんだ。──ふふっ!」

 

 

 

 

 そう言った途端、シャーリーはふいに立ち止まって俺に顔を向けた。

 俺も、歩みを止めて向き合う。……すると彼女は、まるで告白の時のように切実な感じで話した。 

   

「だって、やっとこうしていられるから。好きな人を好きだって、正直に伝えられる関係になれたから。

 私ね……ルルの事が大好きだから。どんな人よりも、ずっと」

 

 まるで改まっての告白だ。俺もシャーリーの目を見て、もちろんだと答えた。 

 

「俺もシャーリーが大好きだ。明るくて優しくて、健気な所も全部含めて。

 俺にとってなくてはならない、大切な恋人だ」

 

「──恋人だって、ルルにそう言われると凄く幸せなの」

 

 そう言って彼女は、とびきりの笑顔を俺に投げかけた。

 シャーリーの俺に向けてくれる、想い。恋と言うのは正直、俺は苦手な方だ。けれど──彼女の一途な想いは、そんな俺にとっても。

 

「そうか。なら──」

 

 

 俺はシャーリーに近づくと、そのまま顔を寄せて彼女の唇に……そっとキスを交わす。

 

「──」

 

 街通りの中ではあったけれど、それは今回考慮しない事にする。シャーリーの想いはかけがえのない物で、だからこそ、それに応えたいと俺は思った。

 キスをしばらく続けた後、俺は彼女に本気の眼差しを向ける。

 

「君にこうして想われている俺は、きっと世界一幸せ者だ。

 それこそ王様なんかよりも、ずっと幸せだと思う」

 

 これが俺の告白だ。シャーリーは少し驚いた様子ではあったが──凄く喜んでくれて、最高の笑顔を見せてくれた。

 

「私だって、世界で一番幸せって思うから。ルルと同じくらい、二人で居られるのが何よりも嬉しくて……幸福なの!」

 

「ははは、シャーリーが世界一幸せなら、俺は世界で二番目になるな」

 

 そうして俺とシャーリーは互いに笑い合った。

 彼女との何気ない、普通の人としての日々と幸せ。きっと──何よりも得難い宝物だと、俺はそう思っている。


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