最凶の現代ホラーエロゲ世界に入り込んだらしい   作:赤雑魚

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プロローグ

 薄暗い廃デパートを歩いている。

 

 

 足元には蛞蝓や虫が這いまわり、丸々太った蝿がぶんぶんと飛び回る。

 

 数十年前に潰れ、良からぬ噂と怪奇現象で放棄され、話題に出すことさえも避けられる曰く付き物件。そんな場所を息を殺し、極力音を立てないように静かに歩く。

 

 

 ぐちゃり、と水っぽい音がする。

 

 

 肉を踏み潰す生々しい感触に眉を潜め、しかし無視して歩を進める。

 

 

 不愉快な感触だが、仕方がないことだと無理矢理納得する。

 正体不明の赤黒い肉が、通路一面に植物のように根を張っているのだ、避けたくても避けられない。.........まあ幸いなことに敵対的な存在ではないようだから、そこまで注意を割く必要はない。

 

 

 油断したところを襲われる可能性も否定できないので、完全に無視できないのが嫌なところだが。

 

 

 なんにせよ、目的はさっさと果たすに限る。

 

 

 できるだけ()()()()()()に見つかるのは避けたい。素早く視線を走らせて目当てのモノを探す。

 

「.........お、見っけ」

 

 肉植物の根に埋もれた通路の端。

 暗がりにキラキラと光るものを拾い上げ、手で転がしながら観察する。

 

 直径2センチほどの宝石。

 どこか清浄な気配を漂わせる大粒の輝石は、丸くカッティングして磨き上げられ、紐を通せるように中心に穴が開けられている。

 

 間違いなく退魔士の数珠玉として利用されていた宝珠。

 

 俺が探していたモノの一つ。

 魑魅魍魎が棲む異界の中で、魔に対抗可能な力を持つ数少ないアイテムだ。

 

 思い通りに事が運び、品物が入手できた喜びに思わず頬が緩みそうになり______何かに気付く。

 

「............?」

 

 ふとした違和感に首を傾げ、少し黙考して違和感に気が付く。

 

 

 辺りが、妙に静まりかえっている。

 

 

 先ほどまでは不快で仕方なかった蝿の羽音も、這いまわる蛞蝓と蛆の水っぽい音も、肉植物の幹から響く脈動も全てが聞こえない。 

 まるで何かから逃げたのか、或いは隠れているかのような不自然な静寂。

 

 嫌な予感がして、周囲を見回す。

 

 通路は広く薄暗く、壊れかけの商品棚や張り巡った肉植物などの障害物で視界が悪い。

 『魔』に対する心得がない自分では見逃すもの方が多いだろうし、そもそもただの勘違いかもしれないが、背筋を這いまわる悪寒が何かを探せと急かしている。

 

 神経を尖らせて視線を走らせる。

 

 

 .........()()

 

 

 先ほど通り過ぎた通路、そこに生えた肉植物の大樹の洞にソレはいた。

 

 

 ______ソレは人間ではなかった。

 

 

 人のカタチではある。だが人間を明らかに超える体躯、剥き身の筋肉のような肌、なにより捻じ曲がった角が生えたそいつは、物陰に身を潜め、赤い眼でじっとこちら見ていた。

 

 おそらくは俺がこの通路で探し物をしていた時から。

 

「______!」

 

 理解の及ばないナニカに、観察されていたという事実に皮膚が粟立つ。胸の奥底から湧き上がる怖気に思考が止まり、一瞬遅れて「逃げる」という選択肢が浮かび上がる。

 

 

 ______あまりにも遅かったが。

 

 

 異形と目を合わせるべきではなかったし、合わせたのなら即座に逃げるべきだった。それを実行できなかった時点で只人の末路は容易く確定する。

 

 弾けるように駆け寄って来た異形に、がしりと腕を捕まえられる。

 

「ひぁ.........!?」

 

 情けない声が漏れる。

 

 男の自分でも抵抗できないほどの明確な腕力差。

 振りほどくことも出来ずに無様に引き倒され、そのまま組み伏せられる。

 

 抵抗できない。

 

「■■■■■!!」

 

 獲物を捉えて異形がげたげたと嗤い声を上げる。

 

 怪物に捕まった人間の結末は明白だ。

 特に()()()()()()死か、それよりも悪い事の二択しかない。そして目の前の異形から自分は逃げられず、この状況を覆せる力もない。

 

 終わった。

 

 諦めと絶望で目の前が真っ暗に染まりかけ______

 

 

「_____シィッ!!」

 

 

 横合いからの拳が、異形の頭を吹き飛ばした。

 

 肉と骨が砕けて粉砕される快音が耳を打つ。

 真夏のスイカ割り、というよりも地面に力尽くで叩きつけられたザクロのように異形の頭がはじけ飛ぶ。

 

 頭部を失った異形の身体はふらふらと揺れた後、ざらりと塵になって消滅した。

 

 残ったのは情けなく地面に転ぶ俺と、助けてくれた者だけだ。

 

 まだ呆然としている俺に手が差し伸べられる。

 

「大丈夫ですか? ナガヒサさん」

「なんとか.........」

 

 差し伸べられた手を取り立ち上がる。

 

 命の恩人は小柄な少年だ。

 線の細い端正な顔立ちからは中性的な印象を受ける。

 

 彼はこの廃デパートで行動を共にする数少ない協力者であり、そして俺の生命線である。彼がいないと非力な俺はなにも出来ずに死ぬ。

 

「マジで人生終わったかとおもったぜ.........」

「あまり離れないで下さいね。アラカを探してくれるのは有難いですけど、離れすぎるとフォローできませんから」

「肝に銘じとくよ.........」

 

 アラカ、この廃デパートに迷い込んでもう何度も聞いた単語を聞き、眩暈のような感覚を覚える。

 

 諦観と言ってもいいかもしれない。

 嫌でも自身の状況と立場を理解させられ、同時に軽い絶望感に襲われる。

 

 これがナニカの間違いであれば、どれほどによかっただろう。

 

「ええと、探してるお嬢さんの名前はなんだったっけ?」

「アラカですよ、伊早瀬アラカ。.........僕の大事な人なんです」

「.........ああ、そうだな。早いところ見つけて帰ろうか」

 

 肉と陰気で満ちた悍ましい空間、恐ろしい異形、そして「伊早瀬アラカ」を捜す少年。

 この少年と廃デパートをうろついてしばらくになるが、やはり()()()()()()と改めて認識する。

 

 ここは「淫界人柱アラカ」の世界なのだ。

 

 JK退魔士ホラー探索RPGと銘打たれた凄まじく過酷なことで有名な18禁ゲーム。

 伊早瀬アラカは作品上のメインヒロインであり、そして失踪した彼女を探しに廃デパートに入り込んだ少年は「アラカ」の主人公で間違いない。

 

 しかし、だからこそ頭の痛い状況になっている。

 

 目の前の少年をまじまじと見る。

 

「どうしました?」

「いや.........うーん、なんというか良く似合ってるなと思ってさ」

「はあ、ありがとうございます?」

 

 少年はアラカ世界の主人公、それは間違いない。

 

 一つのミスがバッドENDに直結しかねない世界だという事も受け入れよう。

 

 だが高頻度で出現する魔物、異界化したデパート、なにより()()()()()()()()()()()()()()()()()というとんでもない事実を元に、俺の脳内で一つの結論を出す。

 

 

 

 

 ______この世界は原作乖離を起こしてる。

 

 

 

 たぶん原作知識でフォローできないレベルで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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