最凶の現代ホラーエロゲ世界に入り込んだらしい   作:赤雑魚

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選択

 

 

「______淫界をぶっ壊しましょう」

 

 

 

 暗い廃デパートを速足で進みながら今後の身の振り方を考えていると、抱えられた主人公がそんなことを口走った。 

 

「なあ大丈夫? 意識乗っ取られてない?」

「今は大丈夫です、たぶん。あとそこ直進で」

「うっス」

 

 本当ォ? なんか発想が荒くない?

 

 サイコメトリーの異能でかなり彼は不安定な状態になっている。退魔士の戦闘力をコピーできたのはいいが、自分の名前を忘れるレベルの自我の混濁なんて代償を背負ってしまっているのだ。

 混ざるのが退魔士アラカの記憶だけならギリギリセーフだと思うのだが、主人公は「淫界の犠牲者」の記憶も集積してしまっている状態だ。

 

 何が言いたいのかというと妖魔にメス堕ちした人間______まあ精神的に敗北してしまっている人格に主人公が潰されると、無抵抗で妖魔に敗北してしまう可能性がある。

 

 滅多なことでは起こらないかもしれないが、しかし完全に否定しきれない要素だ。

 原作でも『犠牲者達の残留思念が混ざり生まれた妖魔』が出て来ており、かなり破滅的な人格だった。過程が違うとはいえ主人公も似たような存在に()()する可能性もあるので気を付けたいところだ。

 

 まあできるのは会話と手袋の付け外しくらいだけども。

 

「道中で説明しましたが、僕が僕でいられる時間はもうほとんど残っていません。ナガヒサさんのケアがあって、なんとか誤魔化せてるくらいに酷い状態です______右に曲がってください」

「突き当りの通路ね。............まあ確かに苦しい状況なのはわかる」

 

 体力なんて平均以下の人間なので大した速度は出ないが、指示に従って駆け足気味に道を進む。

 正直しんどいが、しかし「年下主人公が体を張っている手前、自分だけ楽をするのも気が引ける」という辛うじて残ったプライドみたいなもので頑張る。

 

「ですから、異界攻略による短期決戦を狙います」

「ああ、なるほど」

 

 

 原作「淫界人柱アラカ」において、クリアする条件は2つ存在する。

 

 .........いや、何をもってクリアと定義するのかにもよるが______アラカを連れて廃デパートから脱出し、それ以降も生存し続けるのをクリアと呼ぶのであれば、達成しなければならない条件が存在する。

 

 

 1つ目は「異界に囚われている伊早瀬アラカの発見」だ。

 

 まあ主人公の目的なので当たり前ではある。

 だが普通に廃デパートを巡るだけでは、彼女を発見することはできない。

 

 そもそも異界というのが現世に重なる「近いようで遠い場所」だ。

 異界側からなら現世を認識できるが、現世からでは異界に取り込まれた者を見つけるのは非常に困難。たとえ同じ場所にいようとも触れることはおろか、存在を認識することすら難しい。

 「見えない世界」に呑まれている以上、見える前提で探索するのは悪手となる。

 

 では、どうするか。

 

 今回の状況では、伊早瀬アラカの持ち物を回収するのが正攻法となる。

 原作では彼女が現世に落とした思い入れのあるもの、身に付けていたものを所持することで伊早瀬アラカを認識することができるようになるのだ。

 

 

 退魔士の知識を得た少年曰く、「(えにし)を結ぶ」と言うらしい。

 

 

 由縁のある物を持っているという事実が、アラカとの繋がりを作る。関係が結ばれている以上、その繋がりの先には必ず本人がいる______といった理屈なのだとか。

 目に見えないものを捜す手がかりになるものが、同じく目に見えない繋がりだというのはなんとも(まじな)い的な発想だが、実際に原作でもアラカ発見の決め手となる以上、それなりに信頼はできる。

 

 他にも必要な条件は幾つか存在するが、「アイテムを集めて、かつ伊早瀬アラカを見つける」と考えるくらいの認識で問題はない。

 

 

 2つ目が「淫界の破壊」である。

 

 アラカ廃デパートを脱出するだけであれば別に異界を破壊する必要はない............と言いたいところなのだが、この『淫界』、どうやら領域内に入り込んだ人間に執着する傾向がある。

 原作では探索が失敗に終わった主人公は後日、異界からの妖魔に()()()()()を渡されメンタルをやられるか、あるいは殺されてしまうような底意地の悪い結末が待っている。

 

 何十人もの犠牲者を出し続けながら、それでもなお数十年間に渡り退魔士達の目を欺き続ける程の用心深さ。女性にのみ絞られるとはいえ最高位の退魔士すら捕らえる悪辣さ。更には自身の身を守るために陽動を行なうほどの計画性。

 

 明らかに()()()()()()()()()()()()()()

 

 脱出後も平穏に生きたいのであれば、淫界を構成する『核』を見つけだし、必ず破壊しなければならない。

 

 つまり原作において「主人公によるアイテム回収」→「アラカ発見」→「アラカと主人公による淫界の核を破壊」→「廃デパートから脱出」という流れが理想であり正規の攻略ルートとなる。

 

 

 しかし、もはや正規ルートを辿るのは不可能に近い。

 

 

 原因不明の廃デパートの異界化、及び無数の妖魔の出現。

 ここまで原作乖離を起こしてしまえば最善手なんて打ちようもない。正規ルート通りに進もうとしても、狙い通りに事が運ぶとは思えない。

 

 そもそも異界化の影響で、回収アイテムの配置がメチャクチャだ。

 主人公に確認はしたがアラカ発見の為のアイテムは半分も回収できていない。手袋、靴、制服が手に入っているのが奇跡と言っていいくらいだ。拾ったアイテムが無ければ、主人公は妖魔の脅威に抗うことも出来なかっただろう。

 

 他に回収できたものは宝珠が4粒程度。退魔士が使用していた呪具の一部だけあって霊力はあるみたいだが、アラカとは無関係な為に『縁』を繋ぐ要素には成りえない。

 

 更に言うのであれば、本意は主人公を廃デパートから脱出させるため、異界側から手助けをしてくれる筈の伊早瀬アラカからは、それらしきアクションが何一つとしてない。

 単純に内部構造の複雑化で助ける余裕がないだけか______それとも妖魔に敗北したか。

 

 

 どちらにせよ、相当に不味い状況になっている。

 

 

 離脱が困難な異界、潜む無数の妖魔、主人公のタイムリミット、複雑な異界内での伊早瀬アラカの遺品収集、本人の発見、そして異界の破壊。制限時間付き、戦闘回数制限付き、変化し続けるマップ内では、全てを達成するのは非常に難しい状況。

 

 だが

 

「淫界を破壊すれば何もかも解決するってことか」

 

「はい、魔に堕とされてなければ異界側にいるアラカも解放されます」

 

 元凶を取り除けば、そこから派生する問題も解消される。

 

 道理と言えば道理だ。

 

 原作では主人公がアラカを発見せずに淫界のみを破壊したルートが存在するが、「伊早瀬アラカ」は異界から自力での離脱を成功させている。状況証拠からの考察にはなるが、異界に完全に取り込まれてさえいなければ現世に帰還すること自体は可能なのだ。

 

 そういえば失踪した伊早瀬アラカの当初の目的は、仕事として異界を()()するのが目的だった。

 わりとお人好しなヒロインが「犠牲者の救出」ではなく「異界の破壊」に絞っていたのは、諸々の問題をすべて解決できる手っ取り早い手段だったからなのかもしれない。

 

「でも、問題はあるぜ。伊早瀬ちゃんが完全に取り込まれていないかってことだ」

 

 異界から帰れるのは取り込まれていない者だけだろう。

 つまり淫界に馴染んでしまっていれば、淫界と共に消滅してしまうリスクもあるという事だが______

 

「______大丈夫ですよ。アラカは凄い娘ですから」

 

 落ち着いて少年が答える。

 

 信頼しているのだろう。

 まあ確かに、原作の主人公が絡んだ伊早瀬アラカの不屈っぷりは凄まじいの一言に尽きる。余程の悪選択をしない限り、たぶん無事なはずだ。

 

「............他にも問題はある。淫界の核の場所だ」

 

 そう、未だ自分たちは複雑怪奇な異界の真っただ中。

 異界の核を壊そうにも、場所がわからないのでは意味が_________

  

「いえ、()()()()()()()()()()()()()()

「............マジ?」 

「はい、構成する異界と同質の、けどもっと濃い気配。この通路の先に『核』があります」

 

 想像もしていなかった朗報だ。

 

 生還が現実的になって来た

 

 どくり、と心臓が興奮で跳ねる。

 

 主人公が迷いなく通路を指示していた理由はこれか。

 恐れだけでなく、僅かな期待が身体に力を与える。急いた心に従うように、暗い通路をさらに進もうとして______

 

「______っ!?」 

 

 闇に潜む気配に足を止めた。

 

 ()()

 

 存在を感じた瞬間には、すでに奴らは動き出していた。

 待ち構えていたかのような初動、先ほどの交戦よりも遥かに多い物量の妖魔が溢れ出す。もはや疑いようもない。

 

 

 この先に核があり、妖魔はソレを守護している。

 

 

「______ナガヒサさん、僕の後を付いて来てください」

 

 ぐっ、と布に手を押し込む音が聞こえた。

 気が付けば少年が、俺の腕の中からするりと飛び出していた。

 

 

 白焔が走る。

 

 

 閃光、爆発、轟音。

 

 妖魔によって塞がれた通路に巨大な風穴を開ける。

 焔によって闇が洗われていく、清浄な光が道を照らす先で壊れそうな少年が薄く微笑んでいた。

 

「僕が貴方を守ります。戦いは僕に任せてください」

「............ああ、それ以外は俺に頼ってくれ」

 

 主人公は限界だ。今ですら()()()()()()()()()()()()()()

 

 主人公が壊れる前に淫界を破壊できるのかどうかは未知数だ。それでも彼は少ない残量をこの場所、この局面で切ると決めた。であれば、それに応えるしかないだろう。

 

 

 少年が通路を疾駆する。

 

 

 無駄な戦闘は極力避ける必要がある。俺を守るために進行速度を落とすのも戦力を割くのも論外だ。

 恐怖で止まるな、思考を回せ、最善の立ち回りを意識しろ。それだけが俺にできる事だと胸に刻め。 

 

 

 

 乱れた呼吸を無理に整え、俺は少年を追って走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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