最凶の現代ホラーエロゲ世界に入り込んだらしい   作:赤雑魚

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絶望に至る

 

 

 いつかの過去にあった夢を見ている。

 生きていた頃の過去ではない、アラカ世界に迷い込んだあとの回想でもない。恐らくは、その半ばに在った記憶の再送。

 

 白昼夢のような現実感のない、けれど穏やかに時間の流れる奇妙な世界。

 絢爛な装飾が施された館の広間の中で、用意された紅茶に口を付けながら、見目麗しい使用人の話に耳を傾ける。

 

『______此処は世界のどこでもない場所、久遠を結ぶ、終わりなき館。初めまして「館」の管理を任されております、名を■■と申します』

 

『つまりはそう、お客様は新たな人生を歩む権利を手に入れました。数奇な運命にて『館』に辿り着かれた貴方様の願いを叶える、その一助になりたいと()()()()は仰っておられます』

 

『いえいえ、遠慮はなさらないでください。資格があるからこそ、貴方様はこの場所まで辿り着かれたのですから』

 

『しかし言い得て妙ですね。確かにここは『あの世』に近い場所かもしれませんね』

 

『ですが一つ訂正を、この世界は死後の世界ではありません。形式としては夢の中ですから、時が経てばいづれ目が覚めますわ。だからこそ、決断は早いことが望ましいのですが______ええ、ええ! それでは案内をさせていただきますね?』

 

『では、どのような世界がお望みでしょう。人を壁に埋め込んで快楽を機械的に管理する『墓場』の世界でしょうか、或いは魔物が人間を狩り続ける『狩場』の世界? 人から栄養を啜る寄生植物が支配する『淫花』の世界もいいかもしれませんね。 ああそれとも________神が人を道具として消耗し続ける『人柱』の世界とか?』

 

『え? ラインナップが酷い? 貴方の主人はとびきり性格の悪い神さまか悪魔だったりしますか............ですか?」

 

『いえいえ、そのような()()()()()ではございませんわ。

 ただの神ごときでは人を救えません、アレは存在する事実自体に人が救いを見出すだけですから。悪魔では人の願いに応えません、アレは本質的に悪魔の利己による契約なのですから。故に『深淵』のみが、人の願いを真に叶え得る』

 

『さて、提示はしましたが究極的には選択肢は2つだけです。すなわち「願う」か「願わない」かの簡単なものです。無論、この夢が覚めるまで寛いで頂いても問題ありませんが______心配は不要でしたね』

 

『かしこまりました。では望みのままの、然るべき世界に、素晴らしき末路をご用意いたしましょう』

 

 

 

『それではお客様、良き成就を願っております』

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 ______覚えのない記憶と共に、目を覚ました。

 

 

「がはッ!」

 

 息を吹き返すように、肺の中の空気を入れかえる。

 遠のいていた筈の意識が、全身をバラバラにされたような痛みによって、強引に繋ぎとめられる。

 

 思い出すのは天井から落下してきた巨人。

 

 神聖なはずの仏像を模した、冒涜的な妖魔だ。

 

 

 ______偽仏

 

 

 

 作中において淫界最強の妖魔として扱われたエネミーだ。

 

 その性能は極めて単純。

 

 妖魔の中でもっとも巨大で、そして妖魔の中でもっとも力が強い。

 

 わかりやすくシンプルな能力、だが同時に隙が無い。

 人を片手でつかめるほどの巨大な体躯、そしてそれを支えることを可能にするパワー、質量はそれ単体で十分な脅威に成りえる。妖魔に物理法則がどこまで働くのかは未知数だが、しかし一部の例外を除いて、純粋な力勝負は伊早瀬アラカですら不利であるという事実はけして楽観できるものではない。

 

 

 そんな奴が上から降って来たわけだ。 

 

 

 垣間見た人間一人を踏み潰せるサイズの馬鹿でかい足の裏。

 でもって避けられない自分。

 

 衝撃、そして暗転。

 

 その結果がコレだ。

 

 凄まじい重量によって圧力を掛けられ、踏み砕かれた瓦礫に半ば埋もれてしまっている。例えるなら人に踏み潰された虫けらといったところか。

 

 抵抗なんてできるはずもない。

 

 自分は無力の極まった一般人、最上位妖魔の踏みつけなんてものを喰らえば即死するに決まっている。別に最上位妖魔でなくとも、人は大質量で押し潰されれば普通に死ぬ。

 

 

 では、なぜ生きているのか。 

 

 

 視線を下に動かす。

 

 胸元が薄く輝いている。

 いや、正確には胸元にあるナニカが温もりのある光を放っている。痛む身体をどうにか動かして光を放つ何かを、懐から取り出す。

 

 出てきたのは護符だ。

 高価そうな布地に女性の髪を編み込むことで独特の紋様が刻まれた小さなお守り。一目でわかるほどに丁寧に作られたソレは、自分を守るように淡い光を放っていた。

 

 伊早瀬アラカが主人公を守るために遺した置き土産。おそらくは抱えて走っていた時に俺の懐に潜ませたのだろう。

 

「.........頭上がらねぇな」

 

 自身の生命線の一つである護符を他人に分け与えるという。自分の首を絞める行為と知りながら、それでもなお赤の他人を気遣う度を越した善性の主人公に感謝する。

 とはいえ、生きてはいるが巨人の踏みつけなんて食らったのだ、全身がどうなってるのか分からないほど痛む。ロクに動ける気がしない。

 

 だが、とにかく状況が知りたい。

 おそらく意識が飛んでいたのは一瞬だが、あの後はどうなった把握する必要がある。

 

 だから、どうにか首だけを動かして戦場______凄まじい轟音と破壊を繰り広げる場所に目を向けた。

 

 

 目に映るは一人の人間、禍々しき二匹の怪物。

 

 

 強大な巨人がげらげらと嗤いながら、その腕で乱打を繰り返す。

 隙間を縫うように魔狼が疾駆する、その爪牙をもって命を刈り取らんと猛り狂う。

 

 あの伊早瀬アラカですら、持て余しかねない凶悪な妖魔。その二重攻撃。

 

 只人では即座に肉塊と化す絶死の空間、致命的な暴力の嵐。

 

 

 だが少年は耐え続ける。

 

 

 躱す、守る、あるいは受け流す。

 その積み重なった経験と洗練された技術をもってして、あらゆる攻撃を紙一重で回避する。とはいえ、そのどれもが辛うじて成立している程度のモノ、妖魔たちが決定的な攻勢に出ていないが故に、ギリギリのところで何とか持ちこたえている状況だ。

 

 だがそれも終わりが近い、じわじわと壁際まで追い詰められている。

 

 避けようのない破綻。

 

 目前に迫る絶望。

 

「............ぁ」  

 

 ズルリと、少年が足を滑らせた。

 

 最初から、此処はぬめついた肉に覆われた領域。

 最初から足場としては最悪に近い場所で、幾つもあった致命的な綻びの一つが最悪のタイミングで表面化した形だった。

 

 

 _____ぐじゃり

 

 

 おぞましい音が聞こえた。

 

 限界まで熟れた果物を叩き潰したような水っぽい音。

 それが勢いよく振り下ろされた巨人の手の先から響いていた。

 

 悍ましい静寂が奧殿をしばらく支配した後、偽仏が手のひらを退けた。

 

「げぶっ.........! げぼ......っ!?」

 

 砕けた床の上で、潰された虫けらのように、びくびくと痙攣する少年の姿が見えた。

 口から胃液と泡を零しながら必死で立ち上がろうとするが、肉体反射による痙攣のせいか起き上がることも出来ていない。

 

 

 そして

 

 

 致命的な隙を晒し続ける少年を、妖魔たちは静かに見下ろしていた。

 

『_________』

 

 転がる主人公に偽仏が静かに手を差し伸べる。

 慎重に、丁寧に、繊細なものを扱うかのように少年を摘まみ上げ、自身の両手の中に乗せると仏らしい慈愛に満ちた表情を浮かべ_______凄まじい力で包み込み始めた。

 

「がっ.........!? ぃ.........ギっ!!」

 

 僅かに回復した主人公が辛うじて、巨人の手を支えるようにして踏ん張る。

 

 別段気にした風もなく、穏やかな表情を張り付けながらそんな少年にギリギリと負荷をかけ続ける偽仏と、それを眺める魔狼の様子を見て気付く。

 

 愉しんでいるのだ、こいつらは。

 

 もはや戦いは終えている。

 最上位個体二匹(じぶんたち)であれば問題なく勝利できる。であればどう戦うかではなく、運良く手に入れた玩具(おもちゃ)をどうやって弄ぶかのほうが重要というわけだ。

 

 もとより此処は、人の消耗こそを是とする異界。

 どのような存在であれ、人であるのならば最上の苦しみと至高の絶望をもって、潰し、解体し、改造し、変成し、淫界の一部として取り込むだけのこと。

 

 だから、どうか______

 

 

 ______壊れるまではワタシタチを愉しませてくれ。

 

 

 そんな声が妖魔から聞こえてくるようだった。

 

 詰んだかなぁ、とぼんやりと考える。

 

 ボスクラスの妖魔が2体、俺は瀕死、主人公に至っては現在進行形で弄ばれている最中だ。主人公がどうにか魔狼か偽仏のどちらか一体を倒せたとしても、残る一体が即座に少年を殺すくらいは想像がつく。

 『淫界』もそのつもりで最上位個体を二体ぶつけて来てるのだろうというのは間違いない。未だ行方不明なアラカ(本物)が乱入してくれればなんとかなるだろうが、淫界がそんなに甘い計画を立てているとは思えない。

 

 あーやべ、また意識飛びそう。

 

 なんか思考も取っ散らばって来たし。

 

 これで終わりかぁ、心残りは.........ありすぎて困るな。

 主人公君にも申し訳ないな、いろいろ助けてもらって結局これだもんな。もっと上手い方法があればよかったけど。

 

 でも追い込まれてたからって女装してるのやっぱおかしいよ。

 

 てか主人公君どうしてる? まだ生きてる?

 

 まあ妖魔のキルレート的に楽には殺して貰えないだろうなと思う。少なくとも減った妖魔は苗床にして補填させるぐらいは当たり前みたいにするのが淫界だ。

 しかも場所が()()()()()()()()()()()である『奧殿』なので、例え死んだとしても強制的に蘇生させられるだろう。更に淫界の性能を発揮しやすい女性の肉体にTS化、死ねないように不老不死化、人外の快感を与える感度3000倍化のオプションがあっても不思議じゃない。

 

 宙を眺めていた視線を戻す。

 恐ろしい妖魔たちは変わらずそこに居て、偽仏は変わらず潰そうと手に力を込め続けている。

 

 依然変わらず状況は絶望的。

 

 現状、逆転は不可能。

 

 では、少年はどうか。

 

 今にもつぶれそうな凄まじい圧力の中。

 挟み込む妖魔の掌の隙間から、ギリギリと抵抗を続ける彼の姿が垣間見えた。

 

 もしかしたら錯覚だったかも知れない。

 

 だが一瞬にも満たない時の中で。

 

 

 ______諦めるだなんて微塵も考えていない、どこまでも澄んだ瞳の少年と目があった気がした。

 

 

 

 

「______ッ!!」

 

 ほとんど反射だった。

 

 言葉にならない衝動が自分の身体を動かした。

 

 全身に力を込めて、陥没した床から身体を引き抜くように立ち上がる。

 ギシギシと体が軋みを上げて痛の悲鳴を上げる。だが立ち上がって動くことができている。どうやら手足の骨は折れていない事だけは理解できた。

 

 脳の奥に響くように痛みが走る、踏み潰された時に頭を強くぶつけたか。

 ドロリと頭部から垂れる血液を舌で舐めとる。独特のとろみ、生ぬるく鉄臭い血の味、つまり不味い。頭の出血が痛みと合わさって、まるで脳味噌が零れているかのように錯覚する。

 

 頭の傷が一番酷そうだ。だが今にも飛びそうだった意識は痛みで逆にはっきりした。

 

 なに一つとして問題はない。

 

「はは_____っ!」

 

 理由はわからない。けれど少年がまだ諦めていない、それがどうにも嬉しくて弾けるように駆けだした。目指すべきは当然、主人公がいる方向_______

 

 

 ______()()()()()()()()()()()()

 

 

 理由なんてものはない。ただの直感による行動。

 

 故にその()()()()()()()()()()

 

 思い出すのは淫界での出来事だ。

 少数で襲ってきた下級の妖魔、次いで道中を阻むように展開される妖魔複数体との戦闘、封鎖される通路、決め手は魔狼を囮にした偽仏による奇襲。

 

 散発的に現れた妖魔との戦闘で少年の戦力を引き出し、さらには最高位の妖魔を囮に得た奇襲、千載一遇の好機に主人公を差し置いて、戦力にならない一般人の自分を潰しに来るという戦術。

 

 以上の情報もって淫界は極めて計画的に妖魔の配置ないし戦闘を行なっていると確定する。

 

 単純な性能だけでなく、もはや主人公一人では精神が安定しないという点まで把握し、それに応じた計画を構築するという周到性。

 

 老獪な悪意と付け入る隙のない用心深さ。これが数十年単位で退魔士から目を欺き続けた異界の本性なのだろう。

 

 この淫界は極めて合理的かつ悪辣な知性を持っている。

 

 

 そうだ______だからこそ逆転の可能性がある。

 

 

 合理的だからこそ淫界の核を予測できる。 

 

 主人公はもはや伊早瀬アラカと同一と言っていい。その戦力は淫界の最上位妖魔すら完封しえる。たとえボス格二匹であれば圧倒できるとしても、その戦闘の余波による被害は凄まじいものになるだろう。

 

 であれば、核を配置する場所は限られてくる。

 戦場と化したホールにおいて、淫界の核は戦いの被害から最も遠い真逆の方向に配置するのが()()()なのだから。

 

「_____見えたぞ」

 

 肉植物の影に、小さな社が見えた。

 人は入れないサイズ、あくまで供え物を置く程度の、崩れかけた建築物。塗装はとうの昔に剥がれ落ち、朽木を晒しているソレは、近付くほどに大きくなる不快な気配を発していた。

 

 軋みを上げる身体を無視して、さらに踏み込み距離を詰める。

 

 淫界の核をここで破壊する。

 

 当然、俺に破壊できるものではないだろう。

 本体に攻撃力ほぼがないとはいえ、そこにあるのは淫界の真髄。不用意に触れたが最後、侵食されて死に至るのは原作でも示されているのだから、素人にどうこうできるものではないのだ。

 

「アラカ主人公バンザイ!」

 

 ______本来であれば、だが。

 

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 最強の退魔士が主人公に遺し、少年が俺に託した数少ない守護。

 原作において淫界破壊の要因にすらなった一品。偽仏からの脅威を退ける程の効果は身をもって実証済み。故にこそ_______この瞬間において最大の切り札となる。

 

 脅威に気付いたのか肉植物が蠢いて遮ろうとするが、あまりにも遅い。

 

 絡みつく触手樹を振り払い、社の扉を蹴り抜く。

 朽ちて脆い扉が容易く砕け飛び、その中から黒々とした肉塊を視線で捉える。ぎりり、と振りかぶるように護符を引き絞る。

 

 これでいいのかと疑念で一瞬だけ躊躇う。

 

 だが結局勢いづいたまま護符を、肉塊に叩きつけようとして_______

 

「ガッ.........!?」

 

 

 ______横合いからの衝撃に吹き飛ばされた。

 

  

 視界が宙で回転する。何が起こったのかもわからず、飛ばされた先の壁に叩きつけられる。

 予想外の衝撃に呻きながら立ち上がると、先ほどまで自分が立っていた場所に、巨大な黒狼が身構えていることに気が付いた。

 

「............ああ」

 

 なるほど。

 

 突撃は失敗に終わったらしい。

 一般人の決死の全力疾走は、魔狼が気付いて妨害に間に合ってしまう程度のモノだったか。

 

 そこが限界だった。

 

 鞭うって動かしていた身体から力が抜けてガクリと崩れ落ちる。

 素人ながらに死力と作戦を捻りだし、どうにか圧倒的不利な状況を逆転することのできる起死回生の一手、ソレを無様に遮られた。もはや俺にできる事はない。

 

「ゲッゲッゲっゲッゲッゲ!!」 

 

 こちらの目論見を阻んでやったと嘲るように魔狼が吠える。

 

 だから俺も笑うことにした。

 

「なに悠長に笑ってんだ。______お前ら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()」 

 

 裂くような悲鳴が響いた。

 

 見れば少年を抑えていた筈の巨人は、血やら臓物やらをまき散らしながら肉片となって崩れ落ちたところだった。地鳴りが起きるほどの大質量の崩壊が轟音を響かせる。

 

 優位だったはずの偽仏の死に、魔狼が目を剥き出して硬直する。

 

「おー」

 

 なかなかスプラッタな光景に座り込みながら声を上げる。

 

 そう、淫界撃破など為せずとも問題はない。そんなものは出来ればラッキー程度のものだ、本命は強力な駒(妖魔)が弱い俺に時間を割くことだ。

 

 一対一であれば、主人公にも十分な勝機が存在するのだから。

 

 滝のように降るどす黒い血の雨をかき消しながら、白光を纏った主人公がに現れる。

 近寄りがたいほどの清浄な光を纏った少年は、両手に三枚ずつ血で呪言を描いた符を握りしめて、静かに夜陰明神を見据えていた。

 

「■■■■■ァ!!」

 

 状況を理解した魔狼が、弾けるように疾駆を開始する。

 

 一陣の風と化した妖魔は乱反射するが如く地を、壁を、天井すらも足場として駆け抜ける。広大なホールと、伊早瀬アラカすら圧倒する速度を十分に活用した戦闘機動。

 

 依然として主人公は活動限界(タイムリミット)が存在する。ならば持久戦に持ち込めば妖魔に勝機は十分存在する_______!

 

 

 だが、少年は焦るそぶりを見せない。

 

 

 当然だ。それはあくまでも先行きの見えなかった先ほどまでの話。

 

 最上位個体の妖魔が2体に対して、この場を決戦の地と定め、温存した霊力をすべて運用し()()を出すのであれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「疑似発動______」

 

 其れは「淫界人柱アラカ」において最強の退魔術。 

 大量の霊力と引き換えに放つことを可能とする最大射程、最大範囲、最大威力を誇る伊早瀬アラカの奥義そのものだ。

 

 効力は「場の妖魔全てに大ダメージを与える」というものだったか。

 中小ダメージに留まる白焔退魔技術ですら妖魔が消し炭になる威力、現実世界の奥義の威力など想像するのも億劫だ。

 

「■■■■■ォォォォオオ!!」

 

 魔狼が咆哮と共に背後から襲い掛かる。

 アラカを再現する少年すら捕捉しきれない妖魔最速の一撃。

 

 だが、それより早く奥義は完成していた。

 

 

 

『______(とばり)切断(せつだん)

 

 

  

 少年の細い首を引き裂くその瞬間。

 

 魔狼が最後に見たのは、全方位に幾重にも折り重なるように放たれる極光の斬撃だった。

 

 

 

 刻み殺された偽仏の後を追うように、魔狼は極光に斬り裂かれて死んだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 肉に覆われたホール。

 どうにか身体を起こして、大きく息を吐く。

 

「げほっ、やりました! ナガヒサさん、僕達、勝ちましたよ.........!」

「............ああ」

 

 魔狼も、巨人も、その場にはもういなかった。

 空間内をすべてを刻み込む全方位斬撃攻撃、あの厄介な夜陰明神ですら細切れになって塵になって消えていった。最悪自分も刻まれるだろうと覚悟していたが、しっかり俺を避けて発動できたというのは有難い話だった。

 

 俺達の勝ちだ。

 

 絶望的な状況から、強力な妖魔二体を出し抜いてどうにか勝利を拾うことができた。もはやこの場で俺達を害するものは存在しない。

 

 淫界の核があった場所に目を向ける。

 

 『帳の切断』の斬撃を受け、核は真っ二つに斬り裂かれていた。

 ざらざらと塵に変えるように崩れ始め、そして宙にとけるように消えて行ってしまった。

 

「______まあ、そうだよな」

 

 崩れる雰囲気もなければ、変容する予兆もない、淫界にはなんの変化も起こってはない。

 

 核が無くなったにも関わらず、淫界は健在である。

 

 理由は一つ

 

 

 目の前にあった『核』は偽物だ。

 

 

 ありえた可能性だ。

 数十年生き延びた老獪な淫界が正直に核の気配を垂れ流すなんて都合が良すぎる考えだったのかもしれない。とはいえ、主人公の活動限界も考慮すれば、僅かな可能性にすがるしかなかったか。

 

 淫界の核は、今も安全などこかに潜み続けているのだろう。

 

 なんのことはない。淫界がこちらよりも用心深く、何枚も上手だったというだけの話だ。

 

「ああ、クソ」

 

 ピシリと足場に亀裂が入る。

 異界が脈打つ、世界がより暗く、赤く塗り替わっていく。足場がほころび、崩れた床と一緒に下へ下へと落ちていく。

 

 下へ

 

 

 下へ

 

 

 下へ堕ちていく。

 

 

 

 淫界の更なる腹の底。

 蝿と蛆の妖魔が巣食う、更なる絶望の場所。

 

 

 

 その先で、俺達は邪悪に嗤う聖母の妖魔に出会う事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新ルート「懐胎の退魔士」が解放されました。
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