今回の百喰一族の当主入れ替えは、以前翔に恥をかかされた老人達によるものだと定楽乃から聞かされた一同。
定楽乃、淑光、ミラスラーヴァ、希は各分家にそれを報告し、当主の座を狙わないと宣言した。
他の分家の代表達も困惑したものの、定楽乃の言葉である為、渋々納得した。
そして此処からは綺羅利達と百喰一族ではなく、女性として話をする……それが前回の流れである。
各分家のメンバーは1度解散、後日改めて集まり、話し合いをすることとなった。
残ったのは、綺羅利、リリカ、夢子、定楽乃、淑光、ミラスラーヴァ、希、定楽乃の世話役の等々喰ユミ、そしてヤバい女から好かれる……翔であった。
女性陣はソファや椅子に座り相対している、翔は床で正座中である。
女性陣、お互いに笑みを浮かべながら紅茶を飲んでいた。場は沈黙している。
(沈黙が痛い……せめて何か話さないと)
翔はこの沈黙を破るべく、意を決する。
「ぁ……あのですね」
翔の言葉で綺羅利、リリカ、夢子の鋭い視線が刺さる。
「ひぇ」
それにより小さい情けない悲鳴を上げる翔。
「取り敢えず、そうね……」
「定楽乃達との出会いから聞こうか」
「嘘は駄目ですよ」
翔は3人から圧で、涙目になりながら震えている。
「お前達、少し落ち着いたらどうだ?」
定楽乃が紅茶を飲みながらそう言う。
「彼に当たっても解決しないわよ」
ニコニコと笑みを浮かべながらそう言う淑光。
綺羅利、リリカ、夢子の3人は少し深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「そうね、それじゃあ個別に彼との事を話してくれるかしら」
綺羅利は4人にそう言った。
「では私から話そうかしら」
そう言って手を挙げたのは淑光だった。
「綺羅利とリリカは知っての通り、私の家は『芸能』の一族。私を含めて、家族は皆、芸能で名を上げてる。
彼との出会いは私が女優としてデビューする前の話よ。
私には演技、歌唱の才能があった。私も百喰の人間、成り上がらないといけないのは分かってた。
でもね、あの頃の……子供だった私は両親から褒めて欲しかった」
淑光は少し恥ずかしそうに言った。子供が親から褒めて欲しいと言うのは当然の感情だろう。
「けど現実は残酷だったわ、親からも、周りからも『それくらい出来て当然だ』って言われたわ。
だから努力した、それこそ血の滲む様な努力を…………それでも周りの反応は変わらなかった。そんな時、演技や歌が出来なくなった事があったの」
「貴女とはそこそこ会っていたけど、そんな風には見えなかったわよ?」
淑光の話に驚いた様子で聞く綺羅利。
「そこは和楽喰の意地で誤魔化していたわ。
今思えばあの時の私は相当、心を病んでいたわ。最も欲しかった言葉が貰えず、何のために演技を、歌をしてるのか分からなくなってた。
そんな時、彼と出会った」
頬を赤らめ、翔の方を見る。
「どうにかしようと、隠れて練習してる私の前に現れて、彼は言ってくれた。
【凄く演技上手だね! お歌も上手だし、すごいや!】
それを聞いた時、真っ暗だった私の心に光が差したの。
それから私は演技や歌がまたできる……いえ、彼と出会う前以上の演技と歌を出来る様になった。
それから1ヶ月に1度くらいのペースで彼に演技や歌を披露してたわ。それが中学に上がる前まで続いた。その頃には私もプロの女優になって、会う機会がなくなった。
かなりショックではあったけど、私は百喰の人間、彼とはいずれ会う事はできなくなると分かっていた。だから私は彼との思い出を心の奥底にしまった。
でも数ヶ月前に、今回の件が出た。驚いたわ、だって思い出の彼が綺羅利の従者をしていたんだもの。
けど私はこう思ったわ。これはきっと私と彼とが運命の赤い糸で繋がっているから、神様がその機会をくれたのだと」
顔を赤くしながらも、堂々とハッキリそう言う淑光。
「翔さん」
「はっはい」
淑光は翔に近付くと、彼をその胸に抱き寄せた。
「!?」
「あの時、私を認めてくれて、褒めてくれてありがとう。
私は貴女に救われた。あの時の言葉があったからこそ、今の私がある。
だから貴方に恩を返したい。望みがあるなら言ってね、これでもハリウッド女優してるからお金でも、何でも上げる。
この身体だって「フンッ!」」
淑光の胸に埋まっていた翔を引っ剥がす綺羅利。
翔は突然の事で何が起きたのか分からなかったが、状況を理解し「あっ、終わった」と言う表情をしていた。
「あらあら、綺羅利が此処まで本気で感情を出すなんて…………そうとう彼に惚れ込んでいるのね。
でもね、綺羅利……私も負けるつもりはないわ」
淑光は綺羅利の前に立ち、そう言い放つ。綺羅利はそれを聞いて笑みを浮かべる、それは「奪えるものなら奪ってみろ」と言う様な顔であった。