ぜひ、上限解放とかいう、スマホゲームではおなじみのやつのやり方を教えておくれ。と、物言う剣に食い下がる。
彼は、こちらの意思を確認するようにひとつ間をあけてから、おもむろにその方法を口(口?)にした。
『なんでもいいから、こういうクズ魔石より、さらに濃い神秘を蓄えたアイテムを持ってきてくれればいい。例えば……、迷宮の特定層にしか咲かない花。強力な魔物を殺したとき、消滅せずこの世に残る特殊な器官。神サマ共がこれと認めた勇士にのみ授ける勲章。……そんなところか』
進化素材だな!
「……そんな強力なものを使うってことは、儀式の出力を引き上げるんだよね。アズールさんへの負担も増すんじゃないか」
『まあな。潜在能力を引き出す、って話が、能力の天井を伸ばしていく、って話になるわけだから。必要なエネルギーが違う。これまでよりデカい声でるよ』
えっ。どんどん18歳未満にはさせられないゲームになっていく。
想像して思わず顔が火照りだしたのを、考え事をするふりをして、それとなく手で覆って隠す。ルーファンは何を想像するかな……そう思って、ちらりと横を確認。
ところが、我があるじ様であるところのルーファンくんは、やや悲痛な感じの顔でこちらをうかがっている。もしかしてまだ、あの儀式のオレの反応が、苦痛からくるものだと思っているんだろうか。
かわいいなこいつ……。
これまで散々からかったが、彼は中学生の歳にしてはアッチ方面に疎いかもしれない。インターネットで『女の人 おっぱい』とかで検索してそういうコンテンツにたどり着いてしまった経験とかないのかな。なさそう。
じゃあ普段のあの反応は、本能からくるスケベってことだな。生まれながらのエロだな。
「アズさん、あなたはもう、個人としては十分すぎるほど強いですし……無理して強くなる必要は」
あっ、なんか、心の中で失礼なことを考えている間に、ルーファン少年はこちらを気遣ってくれていた。
なんか恥ずかしくなってきたな。向こうは真剣なのだろうが、あの儀式のパワーが増すなんて、こっちは大歓迎なんですけどね……。
ルーファンから目線をそらし、前髪の長いほうをそちらに向け、表情を隠す。
「いえ。その……まだ、一番下にあなたを連れていくのには、力が足りないので」
「アズールさん……。…………ありがとうございます。僕、あなたがいてくれて、良かった」
適当な理由を口にしたのだが、なんか感動している。
別にこっちは、ただ気持ちよくなりた……いや、いやいや、そう、君の力になりたいだけさ。
「今後の仕事では、スケヴニングの言うような品にも意識を向けましょう。スケヴニング、勤務中にそれらしいものを見つけたら、ぜひ教えてほしい」
『承知した』
ということで、アズールの上限突破という要件が社長の頭に記録された。新しい美少女を雇う展開は、今回は避けられそうだ。
よーし、期待に応えて、こっちも役に立つってことをアピールしていくぞ。
……まあ、いつもと何も変わらないか。
▽
やや薄暗く、じめじめと湿気った洞窟を歩く。
ここは迷宮の地下第421層。浅層とは比較にならない強さの魔物が出現しうるエリアである。どこから来てどこへ行くのかわからない水の流れが、そこらに大きな河川を形成していて、ときに陸路を分断しており、探索の障害になっている。また、水棲型の魔物がいて、水中に引きずり込まれるとかなりまずい。
以上がここの特徴だ。現在の第八迷宮の労働者にとって、ここは“深層”に分類されたりしているが、どん底が3650階だと知っている我々からすると、だいぶ浅い。
さて。今回は、この階層に自生している、強力な作用を持つ薬草を採ってきてほしい、という仕事を受けている。こんなところまで来られる迷宮潜りは一握りのようで、そして先方もそれを承知しているのか、報酬がいい。グランメイズにとっては大事にしたいクライアントである。
そしてそして。
この薬草は、レベルの上限解放に利用できないだろうか、とルーファンは考えているようだ。うまくいけば、仕事のついでに私的な用事を進められる。社長かしこい!
主に水流のほうを警戒しつつ、探索を進めていく。
じめじめとした環境、日光はなく、そして岩肌の洞窟。植物の根付いている場所なんてのは、あまり見当たらなかった。
これまでの経験からしておそらく、迷宮の魔力が濃く漂っている場所に、目的の薬草はあるのだろう。となると、迷宮の神秘の力で育っているわけだから……“上限突破”に使えることを期待してもよさそうだ。
やがて、お待ちかねの、緑の生えている陸地がひとつ見えた。川をいくつか挟んでいる向こうにある。そこだけどうも、ほかの陸地より浮いているというか、特別な雰囲気がある。ゲームの世界であれば、いかにも何かイベントがありそうな。
例えば、お宝があること。あそこに隠されているのは、はぐれのさとり……ではなく、この場合は、依頼にあった薬草。
そして、例えば……、
ボスモンスターがいる、とか。
そう。金払いが良いということはもちろん、相応の危険があるわけで……。
いくつかの回り道をして、いくらかの魔物を倒し、資源を回収し、ようやくそこにたどり着いた、その直後のことだった。
それは岩の天井から、どろりと落ちてきた。
強そうな敵と対峙したときの、心臓のおののきをごまかすように、頭の中で、自分が遊んだことのあるゲームのボス戦のBGMが流れ出す。
「社長、もう少し後ろへ」
この言葉は、ルーファンに敵の力量を簡単に伝えるときの合図のようなものだ。
見上げるほどの全高と、それ以上の横幅。それほどの大きさの、どろどろの液体の塊。
その“巨大なスライム”とでもいえる、いろんなゲームで見かけがちなモンスターの姿を見て、オレは、相手の脅威度が高いことを感じた。
自身も後ろにゆっくり下がりながら、武器を構え、魔物の様子を探る。
……地の底から響くような、おそろしい声が洞窟に轟いた。
『ファ、ファ、ファ……人間どもめ、我が領域に足を踏み入れたな。久しぶりの餌だ、じっくり喰ろうてやる』
『え……!? 魔物がしゃべった……!?』
え……?
まあボスなんだし人語を操るぐらいするだろう。さて、どうやって倒すかだが。
「!!」
ぶよぶよの液体の塊は、ありがちな攻撃……形態の一部を鞭のような形に変化させ、こちらに素早く伸ばす、ということをしかけてきた。ビュルル。
反射的にかわしたが……鞭だと形容したけれど、今のは、たたきつけるというよりは、こっちをつかまえる動きだったな。
『次はかわせまい』
それが、1本にとどまらず、2、3……数を増していく。
まるで触手みたいだな……エロ同人に出てくる……。
ふうん…………。
あれに責めら……攻められると、なるほど、こっちも苦労しそうだ。
と、それぞれの触手の動きを眺めながら、そんなことを考えていると。
予告通り、全てをかわせそうにない、激しい攻撃が始まった。
うまいこと隙間を見つけ、それらを回避していく。だが、やはり、
「っ!! うわ……!」
『とらえた』
右足をとられ、そのまま宙に持ち上げられてしまった。さかさまにブラブラ揺らされると気分が悪くなってくるな、と思っていると、他の触手が、四肢や胴体にも巻き付いてくる。武器も落としてしまい……そのままオレは、スライムに掴まってしまった。
「アズールさん!!」
『ファ、ファ、ファ。ここまで来てくれた礼だ、死ぬ前に愉しませてやる』
などというセリフと共に、ぬるりとした触手が……
「っ……あ……」
スカートの下や、服の内側に侵入してくる。
うねうねとシャツを盛り上げる何か。ふともものあたりを這われる感触。身体中が、どろどろのヌメヌメに撫でまわされている。それは、あまりにも不快な感触で……、
「っ、ひあっ!? ふぁ……んっ! なに、これ……」
『フフファ、人間にはこれがよく効く。どんなに強くともな』
不快、じゃない。むしろ……身体が、熱くなって。
弱いところ、いじられて、でも、どうしてか、普段よりもっと弱くなってて。肉を縛る締め付けすら、甘い痺れに変換されていく。脳にある危機感が、溶かされていく。
これ……何か、この液体に、作用がある……みたいだ。声が、勝手に――。
ダメだ、意識を繋ぎ止めないと。呼吸を、整えて。
「ふうっ、ふうっ、ふぅ……うあっ。あっ、あっ、待って、そこは――」
『肉をほぐすとうまいんだなこれが』
下半身のぬるぬるが這いずっていく、その行き先を理解する。
わたしは、表情をつくって、少年の方を見た。
「いや……ルー、ファンくん……」
「……!! お前ッ!!!」
ルーファンくんが、怒りの形相になるところが見えた。
遠くで少年が剣を抜き、構え。刃が輝き、次の瞬間。
「はあっ!!」
『グオ……!?』
ルーファンはすぐ目の前に
ふわりと浮遊感。縛りつけから解放され、重力によって落ちていく。
その先には、こちらを受け止めようと両手を伸ばす少年がいた。
「……っと! アズさん、大丈夫ですか!」
「……は、はい」
こちらを覗き込んでくるルーファンの必死な表情。触手の魔の手から助け出され、しまいにはお姫様だっこでキャッチされたこの状況……。
おっと。おっとおっとおっとっと。
いま、結構どきどきしている。下腹のあたりにキュンときた。さっきのぬるぬるの媚薬みたいなのが効いているのかもしれないが。しかし、こちらも乙女になりきれてきたのかもしれないぞ。
……これは、なかなかの名シーンが作れたのでは。ふへへどうしよう、このままいけるところまでいくか? この雰囲気に乗って。
でも、まずはちゃんと言っておくことが。
「――ありがとう、ルーファンくん」
そう言うと、ルーファンは、みるみるうちに顔を赤くした。
「いっ、いえ……」
「あの……重くないですか?」
「い、い、いえぇ、全然ん」
「すみません。あなたのために、日々あちこち成長しているもので」
「へっ。せ、せいちょう……う、うわッ!? ぬるぬるが……!!」
お姫様抱っこされながらぺらぺら喋っていると、ここで一気にバランスが崩れた。
とりあえず、危険な転び方をしないように意識する。
「もげっ――」
「あれ」
そして今回は、こっちが上、ルーファンが下、という倒れ方になった。例によって、胸のほうに苦しそうな息を感じる。
カッコよかったのもつかの間、結局ルーファンくんは、わたしの胸の間という、いつものポジションに収まったのだった。
『グ、グ、グ……お遊びは終わりにするか』
立ち上がる。地面をがしがしと蹴って、靴底のぬめりを落そうと試みる。シャツの上から着ていたやつも、ちょっと不快なので脱ぎ捨てる。
……べとべとテカテカ夏服女子高生になってしまった。さすがに嫌。
斬られた触手を再生したスライムは、更に形態変化しようとうねうね蠢いていた。ここからは第二形態だ、というところか。
後ろでふらふらと目を回している少年を見る。
さっきの立ち回り。スケヴニングの短距離瞬間移動を利用した戦法。そして、オレの身体を傷つけずに、正確に触手だけを切り離した剣の腕。
突然できることではない。彼も、常に努力しているんだろう。そういうの、きらいじゃない。
うーん、いい時間だったな。
「社長、お怪我はありませんか?」
「は、はい……」
「じゃ、倒しますね」
そこらへんに落ちている武器を集め、自分の脚元に置く。
制服のリボンを解き、ハーネスベルトを外し、わたしは、わざと彼に視線を送りながら、シャツのボタンを上からいくつか、ぷちぷちと外していく。
「ちょ……アズさん!? うええ!?」
両手で顔を覆い、しかし指の隙間からこちらを見ているルーファンを見て、思わずくすりと笑いが漏れ……、
背後からの攻撃の気配を感じ、
シャツの左側をひっぱり、すこしはだけさせ。そこに刻まれた文字列を、手のひらでなぞった。
「『
そして、すべてが、水中にいるみたいに、鈍重になった。ルーファンも、そして、後ろから迫る触手の群れも。
訂正、すべてが、ではない。“自分以外のすべてが”、だ。
よいしょよいしょ、と、敵の触手を光剣でばらばらにしながら、相手の身体に向かっていく。
でかいな。面倒くさいが、がんばって働こう。
巨大スライムの身体を、剣で刻んでいく。
まあ、こういう不定形タイプの敵っていうのは、このスライム部分は実はいくら斬っても仕方がなかったりする。さっきも再生していたし、周りに水も豊富だし、たぶん適当にやっつけても復活する。こいつはそういうタイプのボスだろう。
だいたいこういうやつは、体内にコア……弱点となる重要な器官がありがち。とくに迷宮の魔物っていうのは、神様のやさしさか、最深部でもない限り完全に理不尽な敵キャラはあまりおらず、きちっと攻略法が設けられている場合が多いから……、
――ほら、あった。切り刻んでいく中で、ほんの小さな、色の濃いブロックを見つけた。あれを壊せばいい。
おっと。
時間切れだ。
『……!? ばかな!? 何が――』
「な……アズさん、すごい……」
ははは、もっと褒めなさい。
今のは以前から使用していた、
ただ、これまでの
ここまでパワーアップさせたのには、からくりがある。
わたしは元々、
そして浮いた
ついでに、刻印を入れる箇所を、左の鎖骨あたりに変更しておいた。その方がエロ……かっこいいので。というか別にそこに触れなくとも発動できるのだが、一回ルーファンに見せつけたかった。
というのが、このスゴ技の秘密。
わたしの……アズールの才能を、振り分け直すこと……他人の身体を勝手に、自分の好みの性能に改造することは、なかなか楽しかった。
『ぐぐ、お、おのれ!! この程度、すぐに再生して……』
おおっとそうだ、まだ終わってなかった。コアを壊さないとな。
右手の光剣を放り捨て、代わりに霊銃ドラグーンを装備。右手も銃、左手も銃。ふたつの銃口を、先ほど捉えたあいつの核に向ける。
そして、連打。
弾丸の雨が、あいつの大事なトコロをかすめ、宙に打ち上げていく。
『ばかな!? こ、この水魔ミト=ケタがああーーー!? 触手映えする体型のメス人間に負けるーーー!?』
触手映えって何……?
ああ。いやまあ、このカラダがえっちっちブックでよく酷い目に遭うことは、よーくわかってるよ。あちこちデカいもんな!
そのまま、死ぬまで撃ちこんだ。
目的の薬草を入手。これで依頼は達成できる。
そしてなんと、スケヴニングの言うには、この葉っぱは上限突破に使えるという。やった。
そしてなんとなんと、さっき倒したボスのぬるぬるの体液も、同様に使えるという。やったやった。
「社長、お疲れさまでした」
「アズさんも……ふえっ」
ささっと近くに寄って、耳打ちする。
「……さっき助けてくれたとき。わたし、どきどきしちゃいました。かっこよかったですよ」
「っ……」
今日の耳打ちノルマを達成した。ルーファンが顔を赤くするのを見て、こっちも、なんだか身体が熱くなってくる。実際、こいつに助けられた瞬間は、まるで乙女のごとく胸が高鳴った。ぜんぜん嘘はついていない。
……しかし。しばらくして、ルーファンくんは怪訝な表情でこちらを見た。あれ、何か不満?
「アズさん」
「はい」
「あの……次は、最初から本気出してください……。僕、どうなることかと思ったんですから」
あっ、怒られてしまった。
わざとやられてたの、バレたか。
いやあだって、美少女になったなら、一回くらいは触手モンスターにめちゃくちゃにされたいですし……。
▽
素材アイテムを入手!
・嗅ぐとブッ飛ぶ葉っぱ
・塗られるとなんか敏感になる液体