美少女ソシャゲ人気キャラ憑依   作:もぬ

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ああああ(2)

 トール、オーディンの息子、というワードが頭の中に浸透していくにつれ、冷や汗が流れてきた。つまりこの青年は、ただの青年ではなく。

 神話に名高い、戦と雷の神トール。戦車の上でハンマーを振り回し、神々の敵と対決していくという、あの。

 地面に膝ついて、ははーっ、てしたほうがいいかな。

 

「ら、雷神トール様!? しっ失礼しました、無礼な態度をっ……」

 

 ルーファンがもうやってた。自分もそれにならい、膝をついて頭を低くする。気分は水戸黄門に紋所を見せられた悪人である。後から身分明かすのってずるいよね。

 というか、アインヘリアルの仕事って、神様と顔を合わせることになるのか……。やばい、マナーとか勉強してない。いやでも人間の礼儀って通用するのか? なんにもわからない。

 

「あー、そういうのいいよ。他の連中に対してもやらんでいい。そういうのはオーディンの前だけでいいから」

 

 まるで同じ人間のように、トール神は困り顔で、オレたちに頭を上げさせた。

 ……本人はそう言うけど、彼が特別気さくな気性であるだけで、ほかの神様に出会うようなことがあればやはり、礼をもって接するべきだろう。

 あと、やっぱりオーディンは別格なのか。

 

「そんじゃあ、移動しようか」

 

 トール神は、腰の帯に下げていたちっさい何かを手に取り、空高くに向けて掲げた。トンカチくらいのサイズの、おもちゃみたいなハンマー。もしや有名なミョルニル?

 瞬間、ごがん、と恐ろしい音。夜の草原が一瞬だけ、昼になった。……稲妻が目に焼き付いている。それは落雷だった。

 そして雷の落ちた地点に、何かが出現している。

 トール神は口笛を吹きながらそれに近づき、()()を開けた。

 

「ふたりとも、後ろ乗りなよ。ちなみに、助手席は年上の美女しか乗せな~い」

 

 黒塗りの高級そうな自動車を見せびらかしながら、そう言った。

 神様より年上ってとんだババアじゃない?

 

 草原、岩山の間、荒野を、スーパーカーが駆けていく。舗装された道路などないようだったが、乗り心地は非常に快適だった。

 なんで神話の雷神が戦車でもなく、こんな自動車に乗っているのか。そんなあたりまえの疑問を口に出さずにいると、トール神はうれしそうな顔をしながらこっちを向いた。前向いて!!

 

「この車、いいだろ。地球の人間に作ってもらったんだぜ、オーダーメイドで! かっこいいだろ」

「はいっ! かっこいいです、僕、こんな乗り物初めてです」

「前!! 前!!!」

 

 こいつらがのんきに会話しているうちに、フロントガラスの向こうでは、迷宮か大自然の中にしか転がっていないサイズのでかい岩が、ライトで青白く照らされていた。

 やばい死ぬ! シートベルトの金具を壊し、ルーファンに覆いかぶさるようにして抱き着く。

 

「あっ!! し、シートベルトが……」

「うわぁっ!?」

 

 そして。

 ボゴーン

 みたいなしょぼい音が、悲しそうなトール神の声と一緒に聞こえた。……しかし、なんの衝撃もない。感じるのは腕の中のルーファンの体温だけだ。

 

「あれ?」

 

 おそるおそる、身体を起こして、外を見てみる。

 岩、ない。トールはそのまま、普通に車を走らせていた。

 

「……あっ、そっか。普通の車だと壊れちまうのか。いやーごめん、怖がらせた」

 

 どうやらさっきの衝突音は、そのまま、岩が粉々に砕け散る音だったようだ。

 というわけで結局、ルーファンの顔が真っ赤になったこと以外には、何もなかったのだった。

 

「こいつはオレの戦車コレクションのひとつだ。あんなんで壊れやしないよ。まぁシートベルトは壊れたけどね……」

「も、申し訳ありません」

「いーや! むしろ気に入ったよ。咄嗟にそういうことができる人間。すこぶる印象がいい」

 

 ……たしかに、自分でも驚いたな。反射的にルーファンを庇おうとするような、道徳? 母性?がオレにあったとは。

 また一歩、内面すら完璧な美少女に近づいてしまったようだな。フフ。

 

「すみません、また、アズさんに守ってもらってしまって。本当なら、僕が……」

 

 そこまで言って、ルーファンは口をつぐんだ。

 たぶん、本当なら、自分こそがヒーローっぽく美少女を守りたかった……ってところだろうか。その気持ちわかるぞ、男の子だからね。

 

「気にしないで。……ルーファンくんのかっこいいところなら、たくさん知っていますから」

 

 と、言葉の途中から、熱く耳打ちをしてあげた。

 何度されても慣れないらしく、耳を赤くするルーファンを見て、いつも通り満足感を得る。

 

「何!? 内緒話!? ねぇ!! そういうの気になる!!」

 

 うるさい神様だった。この人(?)の前ではイチャイチャは控えめにしておくか。

 

 

「あ、そうだルーファン。お前さ、半人(ハンジン)だろ。しかも親は……」

「え? ハン……?」

「ん?」

 

 耳慣れない単語を聞いて、ルーファンが疑問の声を漏らすと、発言者であるトール神もまた、疑問顔をルーファンに向けた。前見てくださいよ。

 念が伝わってしまったのか、トールは前に向き直った。

 

「……あっ、自覚なし? あー、じゃあ、今のなしね。忘れろ」

「は、はい」

 

 ハンジン? ……どういう字で書くのだろう。ルーファンにはまだ何か、主人公的な秘密が?

 なんでもない世間話をする中で、重要そうなセリフをお漏らししたトール神は、やはりなんでもない話をするトーンで会話を続ける。

 まっすぐ前だけを向いているように思える後頭部。けれど、後部座席から見えるバックミラーには、こちらをじっと見る紅い目が映っていた。

 

「自分の魔力が、周りの人間と同じやり方では、うまく扱えない……と、感じたことは?」

「あ……はい。でも、この剣の力が使えるようになってからは」

「スケヴニングの保有魔術()()のことは、できるようになったのか?」

「いえ、それは……」

 

 たしか、ルーファンが魔法(スキル)を使うための容量(メモリ)は、すべてスケヴニングとの共同魔法に占有されていて、一般的な魔法は使えない。そういう話だったはずだ。だから彼は、基本的には戦闘をオレに任せている。

 この神様は、どうやら聖剣スケヴニングの機能のことは知っているようだ。そりゃそうだ、“神器”っていうぐらいだから、スケヴニングのような特級神器のことは、人間の手にあるものでも把握していて不思議はない。

 

「やっぱりな。……暇ができたら、オレがお前のこと鍛えてやるよ。いいだろ?」

「……えっ? と、トール様が、僕を?」

「うん」

 

 だまって耳を傾けていれば、とんでもないオファーが始まっていた。

 これマジの話? トール神がルーファンくんを指導してくれるって……? 修行編始まるの? ルーファン自身は自分を戦闘の才覚なしだと思っているが、神様視点から見たら何かあるのか。

 想像する。もし、ルーファンが迷宮で通用するほどに強くなれたのなら、オレたちは、背中合わせで、あるいは肩を並べて戦うことができる。

 …………いい。いいな。

 

「どうして、その。僕なんかを? さっき知り合ったばかりですし、才能もないのに……あ、いえ、その」

「あー」

 

 トール神は、返答を考えているらしく、ひとつ間を開けた。

 

「人が好きだから?」

 

 そして、いかにも今考えた適当な内容っぽい答えを口にした。

 

「……とかじゃあ、だめか? せっかく知り合えたのに、今日一回きりの付き合いじゃ、つまらないだろ。お前らが“神様”とか呼んでる生き物は、とっても人恋しいのさ」

「……ええと、その。光栄です、トール様」

「トールさんでいいぞ。仲良しっぽい」

 

 ルーファンは神様にさん付けをすすめられていた。オレはちょっと無理だな……。

 それにしても、この人、ルーファンにぐいぐい来るな。もしかしたら、彼に目をかけてくれるために、わざわざ我々を召喚してくれたのだろうか。

 

「いやあ、二人組(バディ)で登録してる勇士の中からくじ引きで決めたけど、いいの引き当てたなあ。オレ君らと仲良くなりたいぜ。今度うち来る?」

 

 違ったっぽい。

 

「まあでも、必然だろうさ。こうも面白いふたりを引いたんだから。ヴァルキリーもいい仕事をする。ルーファンは半……、たぶんアレだし……」

 

 バックミラーの中の瞳が、こちらを見た。

 

「あと、アズール。お前は……混ざりもの……“来訪者”だろ。ときどきいるんだよな。楽しめてるかい、こっちの世界は」

「え?」

 

 

「よし。この辺でちょっと休憩~」

「……アズールさん? あの、大丈夫ですか? 顔色が……っ、真っ青です」

「車酔いじゃね? あっ酔い止め飲む?」

 

 ……さっきの言葉。ルーファンにはわからなかっただろうが、オレには、すぐに解釈できた。

 神様ともなると、たぶん、アズールの中身が違う人間だって、わかるんだ。自分の正体を言い当てられたのは初めてのことだったから、ついビビり散らしてしまった。鳥肌が立ってる。

 でも、トール神の態度からすると、オレの正体なんてものは彼らにとって些事らしい。自分の発言が原因とはわからないのか、普通に心配してくれている。

 “ときどきいるんだよな。”

 ……ときどきいるらしい。オレみたいなのが。

 

「すみません。風にあたれば、すぐ治ると思います」

 

 ここの神様は、オレのようなよそ者をどうにかする気はない……のだろうか。気にしても仕方ないかもしれない。とりあえず、粗相は働かないように気を付けよう。今後もアズールとして生きていく気まんまんなので……。

 少し風にあたりたいのは本当だ。ドアの内側に、窓の開閉スイッチを見つけ、それを押した。

 

「あっ。今窓開けたら……」

 

 トールの不穏なセリフが耳に入ったときには、窓を開けてしまっていた。夜空の下、真っ暗な荒野から、風と一緒に――、

 

「おわっ!!??」

 

 怪物の牙が、小さな窓に押し入ってきた。

 迷宮探索でメンタルが鍛えられているとはいえ、ホラー映画以上の衝撃に、心臓が口から飛び出そうになる。

 

「アズさん! これは……『バイター』!?」

「適当に蹴っ飛ばせ!」

 

 なるべく落ち着いて状況を把握すると。今目の前にいるのは、大きな枕くらいのサイズで、口だけのついた怪物——、迷宮ではおなじみの、『バイター』という魔物だった。

 すなわち、大した脅威ではないはず。意を決し、シートにあおむけに寝っころび、がん、と両足で押し出した。すぐに窓が閉じ、車内はまた快適な空間になる。

 

「今のは……」

 

 ルーファンのひざを枕にして、息を整える。

 

「すぐそこがやつらの巣だからなー。生体反応をひろってきたんだろ」

「やつら?」

 

 ルーファンのひざ枕に髪を擦りつけながら、オレはトール神の言葉に反応した。

 

(エネミー)だよ。今日は()()頼むって言っただろ。今から連中の拠点に突っ込むから」

「はっ?」

「え……」

 

 ……は、話が違う。

 えっ、任務は『司令官の護衛隊に加われ』ですよね。司令官ってトールでしょ。

 こう、後方の作戦基地とかで、警備とかするんじゃないの? それで前線では、アインヘリアルたちの大隊と、イオナルの群れが戦っている、みたいな。

 

「久しぶりにでかい穴ぐら見つけたから、暴れたいんだよ。あ、護衛ってのは方便で、お前らはドライブ中の話相手だよ。だから定員二人」

 

 職権濫用じゃん!

 

「よっしゃ、そろそろ行くぜえ! ふたりともつかまってろ!」

 

 どこに!?

 ゴロロ、と雷鳴のようなエンジン音。どうやらこのモンスターマシンは本気の走りをまだ見せていなかったらしく、トールの宣言から瞬く間のうちに、すさまじい加速を開始した。

 シートベルトを壊してしまったので、つかまるものがない。死ぬ。思わず隣のルーファンに、腕も脚も絡めてしがみついた。

 途中、Gに加えて、ふわりと下腹のほうにくる感覚。外の景色に目を凝らすと、この車はいつの間にか地面を離れ、飛行していた。

 マジ怖い!! 見える景色や浮遊感・重圧感はジェットコースターのようなものだが、安全が保障されているそれと違って、ほんとに死ぬんじゃないかというスリルがある。

 なるんじゃなかった……! アインヘリアル……!!

 

「見えたぞ。あの岩山があいつらの巣らしい」

 

 窓から外の様子を見ようとする。街頭も月明りもなく真っ暗で何も見えなかったが、ぴしゃりと稲妻が走り、景色が見えた。眼下にはたしかに、立派な岩山があった。モンスターの住処としては上等そうだ。

 

「じゃあ、いくぞ!」

 

 ゴロロロン。空をしばし旋回したのち、トールの車は再度の加速。それこそジェットコースターのように、岩山へ落下していく。

 オレはルーファンを全身で締め付けながら叫んだ。涙すら出てきた。

 

「入り口は!? 入り口は!?」

「知らん」

 

 フロントガラスいっぱいに岩肌がひろがり、もうだめだ! と目を閉じる。

 ボゴーン

 例の音が鳴り、目を開くと。なんかもう岩窟の中に侵入していた。

 思わず息を吐きだした。が、安心……にはまだ早かったらしい。ハイビームが岩窟の壁を照らしていく。

 

「……っ」

 

 そこには話通り、多種多様な魔物――、いや。(エネミー)が、それこそ、石の下からうぞうぞと出てくる虫のように、はびこっていた。

 迷宮の試練として出現する模造品、“魔物”、ではない。よそからきた生命体が、地球を侵略するために放った生物兵器――俗称“(エネミー)”。迷宮の魔物の、オリジナルたちだ。

 

 空洞となっていた岩山の、中心。つまりは無数のエネミーに囲まれたその中心に、雷神カーは降り立った。

 エネミーの性能は、迷宮の魔物たちとはまた違う。一斉に攻撃されれば、この車といえどひとたまりもないのでは。

 ルーファンを抱く腕に力をこめる。心臓の収縮がバクバクとひどく、身体が熱い。いざとなったら……こんな状況で、どうしたらいいだろう。

 

「あ、あの、アズさん。そろそろ……離し……」

 

 力をこめる。

 

「おし。ふたりは中でゆっくりしてろ。あ、汚したりするなよ。具体的に言うと、いかがわしいことするなよ、吊り橋効果で」

 

 ばん、とドアを閉め、トール神は、この頑丈な車から出ていった。

 ルーファンとふたり、その背中と、赤い髪を見守る。

 

「ミョルニル!」

 

 岩山をぶち抜いて落ちてきた雷が、周囲を真昼間のように照らす。

 トールが高く掲げたおもちゃのようなハンマーが、形態はそのままに、サイズを変える。

 そうして。幾万もの敵を屠ってきた、伝説の雷槌がそこに現れた。見ているだけでびりびりと感じる、荘厳な威圧感。人間たちに扱える特級神器よりも、ずっと上の存在。そう思わされた。きっと、一振りするだけで、軍勢を焼き尽くすほどの。

 

「こっち置いとこ」

 

 置いた。

 トールは、バチバチとスパークを放つハンマーを地面に置いた。

 そして徒手空拳で、敵の群れに飛び込んでいった。

 

 武器使わないんかい、という心中の突っ込みと、それで本当に大丈夫なのかという心配がよぎったが。

 それはまさに、戦神の戦いぶりだった。

 肉弾戦で、エネミーの群れをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。大ボスサイズのやつをジャブみたいなパンチで吹っ飛ばしていたのには、なんか笑ってしまった。

 また、強力な雷の魔法(スキル)も行使していた。たまに車に取り付いてきたやつらが、ぱっと光が瞬いた途端に消え去るのも、おそらく雷魔法によるものだろう。

 

 戦いをじっと見ていて感じたのは、彼は長く楽しめるように、わざと小技だけで戦っていたんじゃないか、ということだ。スポーツでもやっているみたいな、ずいぶん楽しそうに笑っている表情が見えた。あと、ときどきチラッとこっちを見ては、いろんなコンボや必殺技を出していたので、絶対魅せプしてた。

 あれほどの敵を相手に、あのありさま。この世界においても、神様というのは、やはり格の違う存在なのだろう。

 ……そして、彼らをして何年かかっても殲滅しきれない“イオナル”という宇宙人たちは、いったい何者なのか……。何者っていうか、宇宙人なんだろうけど。

 なんてことを、オレは見学しながら考えていた。

 そして。

 ルーファンは。夢中になって、戦場で奔るいかづちを見つめていた。

 

 

「じゃあ、任務終了ってことで。ほんとはもちっと話したいけど、そっちもいろいろあるだろうし」

「トールさん、すごかった。あの……すごかったです!」

 

 語彙力のないルーファンの称賛を聞いたトール神は、にやにやと破願し、ルーファンの頭をわしわしとやった。彼の手はこすった下敷きみたいに静電気でも発しているのか、ルーファンの髪がジャギジャギに逆立っていた。

 やがて、オレたちの足元に光の魔法陣が現れる。呼ばれたときと一緒で、元の場所に転移させる魔法、だと思う。

 これでお別れというわけだ。何も労働してないっていうか、たぶん人間としてはすっごい貴重な体験をさせてもらったと思うんだけど、なんか疲れた……。

 そして活躍なんかできてないから、報酬等はもらえないんじゃないか。ウーン……

 もうちょっとまともな任務に呼んでほしい。

 

 光が視界を包んでいく。

 最後に、気さくな青年の声が聞こえた。

 

「楽しかったかよ、火星のドライブは。また指名するからよろしくなー、勇士たち(アインヘリアル)よ」

 

 は? 火星?

 

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